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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1210373
審判番号 不服2007-26663  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2010-01-15 
事件の表示 特願2003-513089号「コンタクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年1月23日国際公開、WO03/07435号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成14年7月12日(優先権主張2001年7月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月23日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年8月28日)、これに対し、同年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、さらに、同年10月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年10月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前に
「脚部と胴部と密着巻きされた首部とを有する単体のコンタクトばねと、
前記脚部と首部との突出を許容し胴部の抜けだしをその両端で防止した収容孔を有するホルダと、
前記首部に嵌着するガイド孔を有するフロート式のガイドプレートと、
前記ホルダとガイドプレートとの間に介設され、前記ガイドプレートを前記コンタクトばねのばね荷重が掛からないように支持する支持ばねと
を備え、
前記ホルダが前記コンタクトばねのばね荷重を負担し、前記ホルダと前記ガイドプレートとが前記支持ばねのばね荷重を負担して、前記支持ばねが前記ガイドプレートを付勢することにより、試験時、試験対象に前記ガイドプレートから掛かる荷重を前記コンタクトばねにより掛けられる荷重とは異なる荷重に設定していることを特徴とするコンタクタ。」
とあったものを、
「脚部と、胴部と、密着巻きされた比較的長寸の首部とを有し、試験時、前記首部が試験対象の電気接点に直接接触して通電する単体のコンタクトばねと、
前記コンタクトばねの脚部と首部との突出を許容し胴部の抜けだしをその両端で防止した収容孔を有するホルダと、
前記コンタクトばねの首部が片方から摺動自在に挿入され前記試験対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔を有するフロート式のガイドプレートと、
前記ホルダとガイドプレートとの間に介設され、前記ガイドプレートを前記コンタクトばねのばね荷重が掛からないように支持する支持ばねと
を備え、
前記ホルダが前記コンタクトばねのばね荷重を負担し、前記ホルダと前記ガイドプレートとが前記支持ばねのばね荷重を負担して、前記支持ばねが前記ガイドプレートを付勢することにより、試験時、前記ガイドプレートに当接する試験対象に前記ガイドプレートから掛かる荷重を、前記コンタクトばねの首部が前記試験対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重とは異なる荷重に設定していることを特徴とするコンタクタ。」
と補正しようとするものである。

上記補正は、首部について「比較的長寸の首部」と限定し、単体のコンタクトばねについて「試験時、前記首部が試験対象の電気接点に直接接触して通電する単体のコンタクトばね」と限定し、脚部および首部について「コンタクトばねの脚部」および「コンタクトばねの首部」と限定し、ガイド孔について「首部に嵌着するガイド孔」とあったところを「コンタクトばねの首部が片方から摺動自在に挿入され前記試験対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔」と限定し、試験対象について「ガイドプレートに当接する試験対象」と限定し、「コンタクトばねにより掛けられる荷重」とあったところを「コンタクトばねの首部が前記試験対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重」と限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載される発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(2)刊行物に記載された発明
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平8-213088号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【産業上の利用分野】この発明はコンタクトピンの下部ピン端子を配線回路基板の表面に配された接点部材に突き当てて加圧接触すると共に、同上部ピン端子にICの表面に配された接点部材を突き当てて加圧接触を図るようにした表面接触形接続器に関する。」(段落【0001】)
b)「【発明が解決しようとする問題点】而して、上記コイルバネ方式のコンタクトピンは上下ピン端子を軸線上において伸長、収縮させる上で有効であるが、上記従来例はコンタクトピンがスリーブと上下ピン端子とコイルスプリングの四部品から成る上、絶縁基板への圧入精度のバラツキにより接触圧が不均一となる欠点を有している。殊に、接続器の下部ピン端子を配線基板に突き当てて実装する場合に、コイルバネによる大きな負荷(弾発力)に抗しつつ接続器を配線基板へ強固にビス止めせねばならない煩雑な実装作業を伴ない、又ビス止め後(実装後)は上部ピン端子への上部対象部品の加圧接触の有無に拘らず、全コイルバネによる大きな弾発力が配線基板へ常時加わり、薄型化している配線基板に反りを発生したり、該反りにより下部ピン端子の加圧接触力を低下したり、又ビス止め部において割れを発生する等の問題を有している。
又上記従来例はコンタクトピン個々を絶縁基板へ圧入せねばならない高度で煩雑なアッセンブリー作業を要するばかりか、圧入時におけるコンタクトピンの変形、孔壁の割れ、圧入不良等の問題を内在し、コンタクトピンは交換が不能であるから、1ピンでも不良の出たソケットは全体を廃棄せねばならず極めて不経済である。」(段落【0003】および【0004】、下線は当審にて付与、以下同様。)
c)「【問題点を解決するための手段】この発明は上記問題点を解決する表面接触形接続器を提供するものである。この接続器は上記従来例の如く上部ピン端子と下部ピン端子間にバネを介在して両端子を弾力的に上下動できるようにしたコンタクトピンを用い、この上下ピン端子を有するコンタクトピン全体をバネによる弾力結合下において絶縁基板に対し所定ストロークだけ自由上下動可に保有させている。
換言するとコンタクトピンは上下ピン端子個々の弾力的上下動とは別に全体が絶縁基板に対し所定ストロークだけ上下自由動可能に孔内に保有させる。そしてこのコンタクトピンと孔壁間に上記上下動ストロークを設定する上昇止めと下降止めを形成し、該下降止めにより上記コンタクトピンの下降位置を保ち、上記下部ピン端子が下部接続対象たる配線基板に突き当てられた時上記コンタクトピン全体が孔内において自由に上昇して上昇止めに係合すると共に、該上昇止めへの係合後下部ピン端子のみを上記バネを圧縮しつつ上昇せしめ、更に上部ピン端子に上記上部接続対象が突き当てられた時上部ピン端子のみを上記バネを圧縮しつつ下降せしめ、上記各加圧接触を図る構成としたものである。
【作用】上記接続器は下部ピン端子を配線基板表面の接点部材に突き当てて実装する場合に、コンタクトピン全体を無負荷で上昇させ、上昇終端における僅かなストロ-ク量において小さな予備弾力を蓄えるのみであるから、接続器を配線基板に単に載せて容易にビス止めでき実装作業を簡便にする。
加えてIC等の上部接続対象を上部ピン端子に加圧接触していない時には、従来の如きバネによる大きな弾発力が負荷として下部接続対象たる配線基板にのみ加わることがなく、配線基板の反り、これによる下部ピン端子の接圧低下、基板の割れ等の問題を有効に解消できる。
加えて上記接続器はコンタクトピン個々を絶縁基板の孔に圧入する煩雑なアッセンブリー工程を省約でき、圧入に伴なうコンタクトピンの変形、孔壁の割れ等の問題を一掃でき、絶縁基板へのコンタクトピンのアッセンブリーを著しく単純化でき、又圧入によってコンタクトピンを交換不能にする問題を解決し、コストダウンに寄与する。」(段落【0005】ないし【0009】)
d)「【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基いて説明する。
第1実施例(図1乃至図5,図8)
コンタクトピン1は絶縁基板2の孔3内に保有され、その一端と他端に接続対象による互いに反対方向の加圧接触力が加わる円柱形の上部ピン端子4と下部ピン端子5を有する。
該上部ピン端子4と下部ピン端子5とはバネ7に抗してこれを圧縮しつつ収縮方向へ移動し、バネ7の反力で伸長方向へ移動可能であると共に、コンタクトピン全体が絶縁基板2に対し孔3内において所定ストロークだけ上下自由動可能な構成にする。
詳述すると、上記コンタクトピン1は上部ピン端子4と下部ピン端子5とを有し、上部ピン端子4は小径のピン端子部4aの基部(下端)に一体に連設した大径の円形スリーブ4bを有し、換言すると大径スリーブ4bの上端に一体に連設した小径のピン端子部4aを有し、上記スリーブ4bの下端開口部内に別部品にて形成した下部ピン端子5を上下動可能に嵌合し、この下部ピン端子5上部ピン端子4とをスリーブ4bに内装したバネ7により弾発し、上下ピン端子4,5を弾力結合する。即ち上下ピン端子4,5間にバネ7を介在して両端子4,5を弾発した状態で弾力結合する。
上記上下ピン端子4,5は相互に同芯円に配置する。下部ピン端子5は基端(上端)に大径円柱形の嵌合部5bと、この嵌合部5bの下端に連設した小径円柱形のピン端子部5aを有し、上記嵌合部5bをスリーブ4b内に上下動可に嵌合し、上記ピン端子部5aをスリーブ4bの下端開口部より下方へ突出している。
上記スリーブ4b内にコイル形のバネ7を弾力を蓄えた状態で内装して上下ピン端子4,5間に介在し、その反力で上部ピン端子4を上方向、下部ピン端子5を下方向へ夫々弾発し弾力結合する。
この時下部ピン端子5はスリーブ4bの下端を縮径等して形成した段部8の内面に嵌合部5bの下端段部9が係合するようにして下部ピン端子5の抜け止めを形成し、上記バネ7による弾力結合を保持する。
上記弾力結合されたコンタクトピン1を絶縁基板2の孔3内に所定ストロークだけ加圧接触方向(上下方向)へ自由動可に保有せしめる。
上記孔3は上端と下端に円芯に連成した小径の孔部3a,3bを有し、図1に示すように、上部小径孔部3aに上部ピン端子4のピン端子部4aを挿入し、下部小径孔部3bに上記下部ピン端子5のピン端子部5を挿入し下方へ突出している。
上記上下ピン端子4,5が弾力結合されたコンタクトピン1は上記孔3の内壁とコンタクトピン1間に形成された上昇止めと下降止めとにより上下自由動ストロークが設定される。」(段落【0010】ないし【0019】)
e)「更に図3に示すように、この上昇止めにコンタクトピン1が当接した後、引続き下部ピン端子5は配線基板14に押圧され、バネ7を圧縮しつつ若干量上昇し、このバネ7の反力で下部ピン端子5の下端、即ちピン端子部5aの下端を配線基板14の回路パターンに予備加圧接触した状態を形成し、バネ7による限定された小さな弾力とこれに抗する小さな突合せストロークを以って接続器を形成する絶縁基板2を配線基板14にねじ止め等により固定し、上記下部ピン端子5の予備加圧接触状態を保持する。
斯る状態において、図4に示すように、絶縁基板2の上面にIC15又は配線基板等の上部接続対象を搭載する。IC15は下面に多数の接点部材、例えば球状のバンプ16を有し、このバンプ16は図4に示す搭載初期において、上部ピン端子4の上端に自重により載せられた状態に置かれる。」(段落【0024】および【0025】)
f)「図6に示すように、IC15はこのIC搭載板18に搭載され、IC15の下面を搭載板18の上面に支持すると共に、搭載板18にICの下面に配したバンプ16を受容する孔19を設け、この孔19の下端開口部から前記上部ピン端子4のピン端子部4aの上端を挿入してバンプ16と対向した状態にし、図7に示すようにこの状態からIC15を搭載板18と一緒に下降することにより、相対的に上部ピン端子4のピン端子部4aを突き上げてバンプ16に加圧接触せしめる。
即ちIC15及び搭載板18を共に下降することにより、バンプ16が上部ピン端子4をバネ7に抗し押し下げ、このバネ7の反力で上部ピン端子4をバンプ16に加圧接触せしめる。
上記IC搭載板18はバネ20により接続器の上面より上位に浮上(離間)した状態に支持され、このバネ20に抗して搭載板18及びIC15が下降される。」(段落【0036】ないし【0038】)
g)「【発明の効果】上記接続器は下部ピン端子を配線基板表面の接点部材に突き当てて実装する場合に、コンタクトピン全体を無負荷で上昇させ、上昇終端における僅かなストロ-ク量において小さな予備弾力を蓄えるのみであるから、接続器を配線基板に単に載せて容易にビス止めでき実装作業を簡便にする。
加えてIC等の上部接続対象を上部ピン端子に加圧接触していない時には従来の如きバネによる大きな弾発力が負荷として下部接続対象たる配線基板にのみ加わることがなく、配線基板の反り、これによる下部ピン端子の接圧低下、基板の割れ等の問題を有効に解消できる。
この発明によれば、下部対象部品たる配線基板により下部ピン端子を押し上げる時に上記端子に限定された予備接触圧を付与できると同時に、上部ピン端子の上昇位置(接触待機位置を適正に設定でき、下部ピン端子を押上げて孔下部に間隙を形成することにより、この間隙の許容範囲で上部ピン端子を適正に押し下げ上下弾発力を増大し上下接続対象部品との健全な接触圧が確保できる。
又上部ピン端子と下部ピン端子とは弾力を蓄えたコイルバネの弾発力の影響下において弾力結合され、孔内においては実質一部品として最大伸長状態を健全に保ちつつ所定ストロークだけ自由動させることができ、これにより対象部品との加圧接触が均一に開始され且つ均一接圧が確保できる。
又コンタクトピンを所定ストロークだけ上下自由動可にしつつ、上下ピン端子個々をコイルバネを圧縮しつつ夫々単独で上下動可能に弾持することによって、上下ピン端子による加圧接触力を上記コンタクトピン全体の上下自由動ストロークの設定により適宜調整する接触法を採ることができる。
加えてコンタクトピンを絶縁基板に圧入した場合の如き、取り外し難い状態を形成せず、コンタクトピンを容易に交換可能とする利点も享受できる。」(段落【0039】ないし【0044】)
h)前記摘記事項d)、f)の記載、【図1】、【図6】および【図7】の記載によると、上部ピン端子4のピン端子部4aが、IC搭載板18を用いる(【図6】、【図7】)ものはIC搭載板18を用いない(【図1】)のものに比して比較的長寸であること、コンタクトピン1の中間部が、上部ピン端子4の大径の円形スリーブ4b、下部ピン端子5の大径円柱形の嵌合部5b、バネ7から構成されること、絶縁基板2の孔3がピン端子部5aの下方への突出とピン端子部4aの上方への突出を許容し、中間部の抜け出しを上昇止めと下降止めとで防止したこと、バネ20が、絶縁基板2とIC搭載板18との間に介設されていることが示されている。
i)前記摘記事項f)および【図6】の記載によると、IC搭載板18の孔19が、上部接続対象のバンプ16を上端側から受容すること、バネ20が絶縁基板2とIC搭載板18との間に介設され、IC搭載板18を接続器の上面より上位に浮上した状態に支持すること、バネ20がIC搭載板18を支持することが示されているといえる。
j)前記摘記事項g)の記載、【図6】の記載によると、下部ピン端子5を配線基板14に実装する場合に、絶縁基板2に形成した上昇止めによりバネ7の予備弾力を貯えることが示されているといえる。
k)前記摘記事項f)および【図7】の記載によると、接続時に、加圧接触時、IC搭載板18に搭載される上部接続対象であるIC15にIC搭載板18からバネ20の弾発力を加え、ピン端子部4aが上部接続対象のバンプ16に加圧接触することが示されているといえる。

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、第2実施例を中心として、次の発明が記載されている。
「下部ピン端子5の小径円柱形のピン端子部5aと、上部ピン端子4の大径の円形スリーブ4b、下部ピン端子5の大径円柱形の嵌合部5b、バネ7からなる中間部と、比較的長寸のピン端子部4aとを有し、接続時、ピン端子部4aが上部接続対象のバンプ16に加圧接触する、バネ7を介在して両端子4、5を弾発した状態で弾力結合したコンタクトピン1と、
ピン端子部5aの下方への突出とピン端子部4aの上方への突出を許容し、中間部の抜け出しを上昇止めと下降止めで防止した孔3を有する絶縁基板2と、
下端開口部からピン端子部4aの上端が挿入され、上部接続対象のバンプ16を上端側から受容する孔19を有し、接続器の上面より上位に浮上した状態に支持されるIC搭載板18と、
絶縁基板2とIC搭載板18との間に介設され、IC搭載板18を接続器の上面より上位に浮上した状態に支持するバネ20とを備え、
下部ピン端子5を配線基板14に実装する場合に、絶縁基板2に形成した上昇止めによりバネ7の予備弾力を貯え、絶縁基板2とIC搭載板18とでバネ20の弾力を受け、バネ20がIC搭載板18を支持し、バネ20に抗してIC搭載板18が下降されることにより、接続時、IC搭載板18に搭載される上部接続対象であるIC15にIC搭載板18からバネ20の弾発力を加え、ピン端子部4aを上部接続対象のバンプ16に加圧接触させる接続器。」

(2-2)同じく、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-214649号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「一端が閉塞され他端が開口された導電性筒状部材の外径を前記閉塞側を前記開口側よりも細く形成して中間に段差部を設け、前記導電性筒状部材の開口端部に狭搾部を設けて導電性可動端子を前記開口端から突出部を外方に突出させて外方に抜け出ないようにするとともに前記導電性筒状部材の内周面に摺接させて軸方向に摺動自在に嵌装し、前記導電性筒状部材内に前記導電性可動端子を外方に向けて弾性付勢するコイルスプリングを縮設し、前記導電性筒状部材の閉塞側端部を一方の当接部とし前記導電性可動端子の突出部の先端部を他方の当接部として構成したことを特徴とするスプリングコネクタ。」(【請求項1】)
b)「第1の絶縁保持板に、請求項1または2記載のスプリングコネクタの前記導電性筒状部材の閉塞側先端が外方に突出できるが段差部が外方に抜け出さない孔を穿設し、また第2の絶縁保持板に、請求項1または2記載のスプリングコネクタの前記導電性可動端子の突出部が外方に突出できるが前記導電性筒状部材の狭搾部が外方に抜け出さない孔を穿設し、前記第1と第2の絶縁保持板を両側から重ねて配設して前記導電性筒状部材の閉塞側先端と突出部を外方に突出させて前記スプリングコネクタを軸方向に抜け出ないように保持し、前記重ねて配設した第1と第2の絶縁保持板の両面側に当接配置される基板または電子機器または回路素子の端子間を導通接続するように構成したことを特徴とする接続装置。」(【請求項11】)
c)「【発明が解決しようとする課題】上述の従来のスプリングコネクタにあっては、導電性チューブ10を絶縁保持板18の孔18aに圧入等により挿入しなければならず、その作業が煩雑であるとともに、圧入するために導電性チューブ10とその膨大部10aおよび孔18aの寸法精度が高くなければならず、加工に手間がかかりその改善が望まれていた。さらに、膨大部10aの弾力により固定するため、絶縁保持板18の孔18aの軸方向長さが短かいと、導電性チューブ10の固定姿勢のバラツキが大きくなり、精度高く多数のスプリングコネクタを密に配設するためには絶縁保持板18を厚くせざるを得ない。したがって、背丈の低いスプリングコネクタを実現することができなかった。
本発明は、かかる従来のスプリングコネクタの事情に鑑みてなされたもので、背丈が低くできるとともに取り付けが容易なスプリングコネクタを提供することを目的とする。また、かかるスプリングコネクタを用いた各種の装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】、【0004】)
d)「本発明のスプリングコネクタの第4実施例を図5を参照して説明する。図5は、本発明のスプリングコネクタの第4実施例の縦断面図であり、(a)は自由な状態を示し、(b)は押圧状態である。
第4実施例にあっては、導電性バネ材により両端側の巻径を小さく密着巻きで細径34a,34aと中央部の巻径を大きくスペース巻きで太径部34bとしてコイルスプリング34が形成される。このコイルスプリング34単体でスプリングコネクタとして機能する。そして、第1と第2の絶縁保持板26,28には、巻径の小さな両端部の細径部34a,34aは外方に突出させるが巻径の大きな中央部の太径部34bは外方に抜け出さないような孔26a,28aが連通させて穿設される。両端部の先端は、それ自体で当接部とされる。
かかる構成において、図5(b)に示す押圧状態では、中央部の太径部34bも密着巻き状態となる。したがって、密着巻きされた一方の端部の細径部34aから密着巻き状態となった中央部の太径部34bを介して他方の密着巻きされた細径部34aの端部へと、電流が流れる。したがって、コイルスプリング34のみで構成される極めて簡単な構造でありながら、押圧状態では確実で小さな抵抗の導電経路が確保される。巻径が相違する細径部34a,34aと太径部34bの連結部分にスプリング作用を奏することは勿論である。」(段落【0026】ないし【0028】)

上記記載事項及び図5の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。
「取付けが容易なスプリングコネクタを提供することを目的とし、
下端側の密着巻で細径34aと、中央部の太径部34bと、上端側の密着巻で細径34aとして導電性バネ材により形成されるコイルスプリング34と、
細径部34a,34aは外方に突出させるが巻径の大きな中央部の太径部34bは外方に抜け出さないような孔26a,28aが連通させて穿設される第1の絶縁保持板26と第2の絶縁保持板28と
を備え、
両面側に当接配置される基板または電子機器または回路素子の端子間を導通接続するスプリングコネクタ。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明の「下部ピン端子5の小径円柱形のピン端子部5a」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「脚部」に相当し、以下同様に、
「上部ピン端子4の大径の円形スリーブ4b、下部ピン端子5の大径円柱形の嵌合部5b、バネ7からなる中間部」は「胴部」に、
「ピン端子部4a」は「首部」に、
「中間部の抜け出しを上昇止めと下降止めで防止した」「孔3」は「胴部の抜けだしをその両端で防止した」「収容孔」に、
「絶縁基板2」は「ホルダ」に、
「接続器の上面より上位に浮上した状態に支持されるIC搭載板18」は「フロート式のガイドプレート」に、
「絶縁基板2とIC搭載板18とでバネ20の弾力を受け」は、「ホルダとガイドプレートとが支持ばねのばね荷重を負担し」に、
「バネ20がIC搭載板18を支持し」は「支持ばねがガイドプレートを付勢する」に、
「バネ20に抗してIC搭載板18が下降される」は、IC搭載板18がバネ20に付勢されることにより生じる現象であることから、「支持ばねがガイドプレートを付勢する」に、
「接続器」は、IC15のバンプ16と配線基板14とを電気的に接続するものであることから、「コンタクタ」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された発明の「接続時、ピン端子部4aが上部接続対象のバンプ16に加圧接触する」と本件補正発明の「試験時、首部が試験対象の電気接点に直接接触して通電する」とは、前者が、ピン端子部4aと接続対象の電気接点であるバンプ16とが直接加圧接触する接続時に、両者が電気的に通電されることを示すこと、および、「試験時」は「接続時」一態様であり、「試験対象」は「接続対象」の一態様であることから、両者は、「接続時、首部が接続対象の電気接点に直接接触して通電する」である点で共通し、以下同様に、
「バネ7を介在して両端子4、5を弾発した状態で弾力結合したコンタクトピン1」と「単体のコンタクトばね」とは、「一体のコンタクト部材」である点で、
「ピン端子部5aの下方への突出とピン端子部4aの上方への突出を許容」することと「コンタクトばねの脚部と首部との突出を許容」することとは、「コンタクト部材の脚部と首部との突出を許容」する点で、
「下端開口部からピン端子部4aの上端が挿入され」ることと「コンタクトばねの首部が片方から摺動自在に挿入され」ることとは、「コンタクト部材の首部が片方から摺動自在に挿入され」る点で、
「上部接続対象のバンプ16を受容する孔19」と「試験対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔」とは、「接続対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔」である点で、
「絶縁基板2とIC搭載板18との間に介設され、IC搭載板18を接続器の上面より上位に浮上した状態に支持するバネ20」と「ホルダとガイドプレートとの間に介設され、ガイドプレートをコンタクトばねのばね荷重が掛からないように支持する支持ばね」とは、前者が、絶縁基板2に、バネ20によりIC搭載板18を支持するものであり、コンタクトピン1によりIC搭載板18を支持するものでないことから、両者は、「ホルダとガイドプレートとの間に介設され、ガイドプレートをコンタクト部材のばね荷重が掛からないように支持する支持ばね」である点で、
「下部ピン端子5を配線基板14に実装する場合に、絶縁基板2に形成した上昇止めによりバネ7の予備弾力を貯え」ることと「ホルダがコンタクトばねのばね荷重を負担」することとは、前者の上昇止めを有する絶縁基板2が、バネ7の弾力である負荷を負担するものあることから、両者は、「ホルダがコンタクト部材のばね荷重を負担」する点で、
それぞれ共通する。
また、刊行物1に記載された発明において、バネ20によりIC搭載板18さらにはIC15に掛ける荷重と、ピン端子部4aを上部接続対象に加圧接触するために、バネ7により掛ける荷重とは、独立したものであり、それぞれ別々の荷重に設定されていることは明らかである。したがって、刊行物1に記載された発明の「接続時、IC搭載板18に搭載される上部接続対象であるIC15にIC搭載板18からバネ20の弾発力を加え、ピン端子部4aを上部接続対象のバンプ16に加圧接触させる」と、本件補正発明の「試験時、ガイドプレートに当接する試験対象に前記ガイドプレートから掛かる荷重を、前記コンタクトばねの首部が前記試験対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重とは異なる荷重に設定している」とは、「接続時、ガイドプレートに当接する接続対象にガイドプレートから掛かる荷重を、コンタクト部材の首部が接続対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重とは異なる荷重に設定している」点で共通する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点]
「脚部と、胴部と、比較的長寸の首部とを有し、接続時、前記首部が接続対象の電気接点に直接接触して通電する一体のコンタクト部材と、
前記コンタクト部材の脚部と首部との突出を許容し胴部の抜けだしをその両端で防止した収容孔を有するホルダと、
前記コンタクト部材の首部が片方から摺動自在に挿入され前記接続対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔を有するフロート式のガイドプレートと、
前記ホルダとガイドプレートとの間に介設され、前記ガイドプレートを前記コンタクト部材のばね荷重が掛からないように支持する支持ばねと
を備え、
前記ホルダが前記コンタクト部材のばね荷重を負担し、前記ホルダと前記ガイドプレートとが前記支持ばねのばね荷重を負担して、前記支持ばねが前記ガイドプレートを付勢することにより、接続時、前記ガイドプレートに当接する接続対象に前記ガイドプレートから掛かる荷重を、前記コンタクト部材の首部が前記接続対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重とは異なる荷重に設定しているコンタクタ。」

[相違点1]
一体のコンタクト部材について、本件補正発明では、コンタクトばねが首部が密着巻きされ、単体のばねから構成されるのに対して、刊行物1に記載された発明では、コンタクトピン1がバネ7を介在して両端子4、5を弾発した状態で弾力結合して構成される点。

[相違点2]
コンタクト部材の通電対象が、本件補正発明では、試験時における試験対象であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、接続時における接続対象である点。

(4)当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
(4-1)相違点1について
本件補正発明と刊行物2に記載された発明を対比する。
刊行物2に記載された発明の「スプリングコネクタ」は、本件補正発明の「コンタクトばね」に相当し、以下同様に、
「下端側の密着巻で細径34a」は「脚部」に、
「中央部の太径部34b」は「胴部」に、
「上端側の密着巻で細径34a」は「密着巻きされた首部」に、
「導電性バネ材により形成されるコイルスプリング34」は、単体の導電性バネ材により構成されるものであることから、「単体のコンタクトばね」に、
「細径部34a,34aは外方に突出させた」は「コンタクトばねの脚部と首部との突出を許容し」に、
「中央部の太径部34bは外方に抜け出さない」は「胴部の抜けだしをその両端で防止した」に、
「孔26a,28aが連通させて穿設される」は「収容孔を有する」に、
「第1の絶縁保持板26と第2の絶縁保持板28」は「ホルダ」に、
「スプリングコネクタ」は、基板または電子機器または回路素子の端子間を導通接続するコネクタであることから「コンタクタ」に、
それぞれ対応する。

したがって、刊行物2に記載された発明は、
「取付けが容易なコンタクタを提供することを目的とし、
脚部と、胴部と、密着巻きされた首部とを有する単体のコンタクトばねと、
コンタクトばねの脚部と首部との突出を許容し胴部の抜けだしをその両端で防止した収容孔を有するホルダと
を備え、
両面側に当接配置される基板または電子機器または回路素子の端子間を導通接続するコンタクタ。」
と言い換えることができる。
そして、刊行物1に記載された発明および刊行物2に記載された発明は、ともに、コンタクト部材がホルダの収容孔に抜け出しを防止して収容されるコンタクタという同一の技術分野に属する発明である。
また、刊行物1に記載された発明は「高度で煩雑なアッセンブリー作業を要する」(前記2.[理由](2)(2-1))という問題を解決するものであり、刊行物2に記載された発明は、取付けが容易なコンタクタを提供することを目的とするものであることから、両者は組み立て作業の容易化を図るという共通の課題を解決するものといえる。
したがって、刊行物1に記載された発明に、組み立て作業の容易化を図るという課題を解決するために、刊行物2に記載された発明を適用して、上記相違点1における本件補正発明が具備する構成に到達することは、当業者が容易になし得たものである。

(4-2)相違点2について
コンタクト部材がホルダの収容孔に抜け出しを防止して収容されるコンタクタを、試験時における試験対象の検査等に用いることは、本願の優先権主張の日前に周知の技術事項である(例えば、原審において提示した特開平9-121007号公報の段落【0001】や同じく特開2000-329790号公報の段落【0001】や国際公開第2000/03251号パンフレット参照。)。
したがって、刊行物1に記載された発明の接続器の接続時における接続対象を上記周知の技術事項に倣って、試験時における試験対象に限定することは当業者が容易になし得たものである。

(4-3)まとめ
本件補正発明が奏する効果についてみても、刊行物1および刊行物2に記載された発明および周知の技術事項が奏する効果から当業者が予測できる範囲内のものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物1および2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年10月26日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年7月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、前記「2.[理由](1)」の補正前の請求項1に記載されたとおりのものである。

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1および2、刊行物1および2の記載事項、および、刊行物1および2に記載された発明は、前記「2.[理由](2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

(3)対比および判断
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
本願発明は、前記「2.[理由]」で検討した本件補正発明において、首部について、「比較的長寸の首部」とあったところをその限定を省き、単体のコンタクトばねについて「試験時、前記首部が試験対象の電気接点に直接接触して通電する単体のコンタクトばね」とあったところをその限定を省き、脚部および首部について「コンタクトばねの脚部」および「コンタクトばねの首部」とあったところをその限定を省き、ガイド孔について「コンタクトばねの首部が片方から摺動自在に挿入され前記試験対象の電気接点が他方から嵌入するガイド孔」とあったところを「首部に嵌着するガイド孔」とその限定を省き、試験対象について、「ガイドプレートに当接する試験対象」とあったところをその限定を省き、「コンタクトばねの首部が前記試験対象の電気接点に直接接触して掛ける荷重」とあったところを「コンタクトばねにより掛けられる荷重」とその限定を省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「2.[理由](3)対比および(4)当審の判断」に記載したとおり、刊行物1および2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物1および2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1および2に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-04 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願2003-513089(P2003-513089)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
P 1 8・ 575- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男久保 克彦山下 寿信  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 渋谷 知子
長崎 洋一
発明の名称 コンタクタ  
復代理人 高松 俊雄  
代理人 三好 秀和  

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