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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1210408
審判番号 不服2007-5479  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 平成11年特許願第43177号「新規なトリスフェノールエーテル類」拒絶査定不服審判事件〔平成12年3月28日出願公開、特開2000-86584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は、平成11年2月22日(優先権主張平成10年7月15日)の出願であって、平成18年8月16日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年1月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年2月22日に拒絶査定に対する審判が請求され、同年5月21日に審判請求書についての手続補正書が提出されるとともに手続補足書が提出されたものである。

2.本願発明
この出願の発明は、平成18年10月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
「一般式(I)


(式中、R_(1)はt-ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基を示し、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基を示し、R_(3)は炭素数5又は6のシクロアルキル基を示し、R_(4)は炭素数1?4のアルキル基又はアルコキシル基を示し、mは0?3の整数を示し、nは1又は2の整数を示し、kは0又は1を示し、0≦m+n≦3である。)
で表わされるトリスフェノールエーテル類。」

3.原査定の理由
原査定は、「平成18年8月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、その理由は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、その「下記の請求項」とは出願当初の請求項1であり、その「下記の刊行物」とは以下のとおりのものである。
1.特開平6-51519号公報(以下、「刊行物B」という。)
2.特開平6-157421号公報(以下、「刊行物A」という。)

4.刊行物の記載事項
(1)刊行物Aの記載事項
刊行物Aには、以下の事項が記載されている。
(A-1)「【請求項1】一般式(I)


(式中、Xは


よりなる群から選ばれる3価の基を示し、各芳香環上のR^(i)(i=1?5、6?10及び11?15)の中の少なくとも1つのR^(i)はt-ブトキシカルボニルエステル基又は水酸基を示し、上記R_(i)の残余は水素、低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はハロゲン原子を示す。)
で表わされるトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの混合物からなり、これらトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの1分子当りの平均のt-ブトキシカルボニルエステル基の数が1?3の範囲にある混合物からなることを特徴とする組成物。
…略…
【請求項6】主成分が1,1-ジ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネートである混合物からなることを特徴とする請求項1記載の組成物。」(【特許請求の範囲】)

(A-2)「【産業上の利用分野】本発明は、塩基性条件下で高度な耐溶剤性溶解性を示し、例えば、種々の組成物において、溶解性制御剤としての成分等として有用である新規なトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの混合物からなる組成物に関する。」(【0001】)

(A-3)「【従来の技術】t-ブトキシカルボニル基を有する化合物は、塩基性条件下で安定であるが、酸性条件下又は中性乃至酸性条件下で加熱することによって、t-ブトキシカルボニル基を容易に脱離する性質を有する。」(【0002】)

(A-4)「【発明の効果】本発明によれば、新規なトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの混合物からなる組成物が提供され、特に、好ましい態様によれば、単一のトリスフェノールのt-ブトキシカーボネートを純度90%以上にて含む組成物が提供される。本発明によるこのような組成物は、溶解性制御剤等として、有利に用いることができる。」(【0021】)

(A-5)「実施例5(1,1-ジ(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネートを主成分とする混合物からなる組成物の製造)
温度計、コンデンサー、窒素ガス導入管及び攪拌機を備えた500ml容量のフラスコに1,1-ジ(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタン14.4g、トリエチルアミン10.1g及びジオキサン30gを仕込み、攪拌して溶液とした後、これにジ-t-ブチルジカーボネート21.5gを加え、温度を60℃に保持した水浴中で2時間反応させた。
反応終了後、得られた反応混合物から減圧下に溶剤を蒸留にて回収し、得られた残留物にメタノール119.2gを加え、攪拌しながら、一夜放置して、結晶を析出させた。この結晶を濾過し、真空乾燥して、目的とする組成物20.6gを得た。
1,1-ジ(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネートとしての収率は95%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度は95.6%であった。」(【0038】?【0039】)

(2)刊行物Bの記載事項
刊行物Bには、以下の事項が記載されている。
(B-1)「【請求項1】 (a)水不溶でアルカリ水溶液に可溶な樹脂、(b)活性光線または放射線の照射により酸を発生する化合物、及び(c)酸により分解し得る基を有し、アルカリ現像液中での溶解度が酸の作用により増大する、分子量3,000以下の低分子酸分解性溶解阻止化合物、を含有するポジ型感光性組成物において、該化合物(c)が、(i)酸で分解し得る基を少なくとも2個有し、該酸分解性基間の距離が、最も離れた位置において、酸分解性基を除く結合原子を10個以上経由する化合物、及び、(ii)酸で分解し得る基を少なくとも3個有し、該酸分解性基間の距離が最も離れた位置において、酸分解性基を除く結合原子を9個以上経由する化合物、から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするポジ型感光性組成物。」(【特許請求の範囲】)

(B-2)「本発明の3成分系ポジ型感光性組成物は、基本的には、酸分解性溶解抑制剤、アルカリ可溶性樹脂及び光酸発生剤から成る。酸分解性溶解抑制剤は、アルカリ可溶性樹脂のアルカリへの溶解性を抑制し、露光を受けると発生する酸により酸分解性基が脱保護され、逆に樹脂のアルカリへの溶解性を促進する作用を有する。」(【0010】)

(B-3)「好ましい化合物骨格の具体例を以下に示す。
…略…

…略…

化合物(1)?(63)中のRは、水素原子、


を表す。但し、少なくとも2個、もしくは構造により3個は水素原子以外の基であり、各置換基Rは同一の基でなくても良い。」(【0035】?【0057】)

(B-4)「実施例1?22
上記合成例で示した本発明の化合物を用いレジストを調製した。そのときの処方を表1に示す。」(【0119】)

(B-5)「【表1】


表1において使用した略号は下記の内容を表す。
…略…
<溶解阻止剤中酸分解性基>

」(【0122】?【0127】)

5.当審の判断
(1)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「一般式(I)


(式中、Xは


よりなる群から選ばれる3価の基を示し、各芳香環上のR^(i)(i=1?5、6?10及び11?15)の中の少なくとも1つのR^(i)はt-ブトキシカルボニルエステル基又は水酸基を示し、上記R_(i)の残余は水素、低級アルキル基、低級シクロアルキル基又はハロゲン原子を示す。)で表わされるトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの混合物からなり、これらトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートの1分子当りの平均のt-ブトキシカルボニルエステル基の数が1?3の範囲にある混合物からなることを特徴とする組成物」が記載され(摘記(A-1)の【請求項1】)、該組成物の主成分として具体的には、「1,1-ジ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネート」(摘記(A-1)の【請求項6】)、及び、「1,1-ジ(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネート」(摘記(A-5))が記載されている。
ここで、上記「1,1-ジ(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネート」は、一般式(I)において、「X=-CH、R^(1)=R^(8)=R^(13)=t-ブトキシカルボニルエステル基、R^(9)=R^(12)=シクロヘキシル基、R^(6)=R^(15)=メチル基、R^(i)の残余は水素」であるトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートに相当し、上記「1,1-ジ(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)-1-(2'-ヒドロキシフェニル)メタンのトリ-t-ブトキシカーボネート」は、一般式(I)において、「X=-CH、R^(1)=R^(8)=R^(13)=t-ブトキシカルボニルエステル基、R^(9)=R^(12)=シクロヘキシル基、R^(7)=R^(14)=メチル基、R^(i)の残余は水素」であるトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートに相当するから、刊行物Aには、
「 一般式(I)


(式中、X=-CH、各芳香環上のR^(i)(i=1?5、6?10及び11?15)は、R^(1)=R^(8)=R^(13)=t-ブトキシカルボニルエステル基、R^(9)=R^(12)=シクロヘキシル基であって、R^(6)=R^(15)=メチル基またはR^(7)=R^(14)=メチル基であり、R^(i)の残余は水素を示す。)で表されるトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネート」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明におけるX=-CH及び該-CH上に置換した3つのベンゼン環からなる部分構造は、本願発明にも共通する部分構造である。
そして、上記部分構造上の置換基である、引用発明の「R^(6)=R^(15)=メチル基またはR^(7)=R^(14)=メチル基」は、本願発明の「R_(2)は炭素数1?4のアルキル基」及びR_(2)の置換基数である「mは0?3の整数」に相当し、引用発明の「R^(9)=R^(12)=シクロヘキシル基」は、本願発明の「R_(3)は炭素数5又は6のシクロアルキル基」及びR_(3)の置換基数である「nは1又は2の整数」に相当する。さらに、引用発明においてメチル基とシクロヘキシル基は1つのベンゼン環上に合計2つ置換しているから、本願発明におけるm+n=2、すなわち、「0≦m+n≦3」に相当する。
また、引用発明における「t-ブトキシカルボニルエステル基」、すなわち、-O-t-ブトキシカルボニル基の-O部分は、本願発明における-OR_(1)の-O部分に相当する。そうすると、引用発明における2位置換であるR^(1)=t-ブトキシカルボニルエステル基の-O部分は、本願発明における2位に置換位置が特定された-OR_(1)の-O部分に相当し、引用発明におけるR^(8)=R^(13)=t-ブトキシカルボニルエステル基の-O部分は、本願発明における置換位置の特定されない2つの-OR_(1)の-O部分に相当する。
さらに、引用発明における「R^(i)の残余は水素を示す」は、本願発明における「R_(4)は炭素数1?4のアルキル基又はアルコキシル基」の置換基数がk=0の場合、すなわち、「kは0又は1」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「一般式(I)


(式中、R_(2)は炭素数1?4のアルキル基を示し、R_(3)は炭素数5又は6のシクロアルキル基を示し、R_(4)は炭素数1?4のアルキル基又はアルコキシル基を示し、mは0?3の整数を示し、nは1又は2の整数を示し、kは0又は1を示し、0≦m+n≦3である。)
で表わされるトリスフェノール類」
である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。
本願発明は、R_(1)が「t-ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基」を示すトリスフェノールエーテル類であるのに対して、引用発明は、R_(1)が「t-ブトキシカルボニル基」を示すトリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートである点

(3)相違点についての判断
刊行物Aには、引用発明は、「溶解性制御剤」として有用な化合物であると記載されている(摘記(A-2)、(A-4))。
また、刊行物Aには、「t-ブトキシカルボニル基を有する化合物は、酸性条件下又は中性乃至酸性条件下で加熱することによって、t-ブトキシカルボニル基を容易に脱離する性質を有する」と記載されているから(摘記(A-3))、引用発明において、t-ブトキシカルボニル基は、酸性条件等によって脱離する脱離基であるということができる。
一方、刊行物Bには、酸により分解し得る基を有する、酸分解性溶解阻止化合物(c)が記載され(摘記(B-1))、該酸分解性溶解阻止化合物(c)は、酸により酸分解性基が脱保護され樹脂のアルカリへの溶解性を促進する作用を有することが記載されている(摘記(B-2))。
ここで、酸によって酸分解性基が脱保護する、すなわち脱離して樹脂の溶解性を促進する溶解阻止化合物とは、酸によって脱離する基を有し、溶解性を制御する化合物であるということができるから、刊行物B記載の酸分解性溶解阻止化合物(c)は、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用な化合物」という点で、引用発明と作用・機能が同一のものである。
そして、刊行物Bには、上記酸分解性溶解阻止化合物(c)の具体例として、「酸分解性基がTHP:テトラヒドロピラニルエーテル基である化合物(10)」、「酸分解性基がTBE:-O-CH_(2)-COO-C_(4)H_(9)^(t)である化合物(10)」が記載されているところ(摘記(B-5)の【表1】実施例3、4、及び、<溶解阻止剤中酸分解性基>の略号中THP、TBE)、上記化合物(10)は、その化学構造からみてトリスフェノール類であるから(摘記(B-3))、上記具体例として記載された化合物は、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」という点で、引用発明と作用・機能が同一のものである。
さらに、上記具体例として記載された化合物における酸分解性基は、酸によって-O-部分で分解して、-O-に結合した置換基が脱離するものであるから、上記テトラヒドロピラニルエーテル基においてはテトラヒドロピラニル基が脱離基に相当し、同様に、-O-CH_(2)-COO-C_(4)H_(9)^(t)においては-CH_(2)-COO-C_(4)H_(9)^(t)、すなわち、t-ブトキシカルボニルメチル基が脱離基に相当する。
そうすると、刊行物Bには、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」における脱離基として、テトラヒドロピラニル基またはt-ブトキシカルボニルメチル基が記載されているといえる。
さらに、刊行物Bには、酸分解性基としてTBOC:-O-COO-C_(4)H_(9)^(t)も有用であること(摘記(B-5)の【表1】実施例1、2、8、9、11、17、19、21、及び、<溶解阻止剤中酸分解性基>の略号中TBOC)、すなわち、脱離基として-COO-C_(4)H_(9)^(t)(t-ブトキシカルボニル基)も有用であることが記載されている。
以上によれば、刊行物Bには、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」における脱離基として、テトラヒドロピラニル基またはt-ブトキシカルボニルメチル基が記載され、さらに、脱離基としてt-ブトキシカルボニル基も有用であることが記載されているといえるから、同じ「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」である引用発明において、脱離基であるR_(1)のt-ブトキシカルボニル基に代えて、テトラヒドロピラニル基又はt-ブトキシカルボニルメチル基を採用したトリスフェノールエーテル類を想到することに、格別の困難性は見出せない。
そして、この出願の出願当初の明細書および図面を検討しても、脱離基R_(1)を「t-ブトキシカルボニル基」に代えて「t-ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基」とすることにより、予測し得ないような優れた効果を奏するものとは認められない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成18年10月5日の意見書及び平成19年5月21日に補正された審判請求書の請求の理由において、「引用例1(審決注:刊行物B)にt-ブトキシカルボニル基を有する化合物とt-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物が同等の化学増幅型レジスト用溶解抑制として用いられることが記載されているとしても、このような引用例1の記載のみをもって、t-ブトキシカルボニルメチル基又はt-ブトキシカルボニル基を酸分解性基として有する化学増幅型レジスト用溶解抑制剤がすべて同等であると一般化することは、余りに単純すぎるようにみえるし、化学の常識に反するようにもみえて、適切とはいえない。即ち、t-ブトキシカルボニル基を有する化合物とt-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物が同等の化学増幅型レジスト用溶解抑制として用いられるということは、引用例1において、いわれているにすぎず、化学増幅型レジスト用溶解抑制剤の分野において一般的に認められている事項では決してない。
…略…
例えば、引用例2(審決注:刊行物A)に記載のt-ブトキシカルボニル基を有する化合物は、酸によって分解して、フェノール性化合物を生成し、同時にイソブテンと炭酸ガスを生成するが、ここに、参考資料として提出する「半導体集積回路レジスト材料ハンドブック」(山岡亜夫監修、1996年7月31日株式会社リアライズ社発行、第149?153頁)によれば、上記の点に関連して、「t-BOC基(t-ブトキシカルボニル基)は分解することによりイソブテンと炭酸ガスになり蒸発するため、パターンは体積収縮により、寸法変化を起こす問題がある」(第151頁左欄下から4?2行)ことが記載されている。
これに対して、本願発明によるt-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物は、酸によって分解して、カルボン酸とイソブテンを生成する。即ち、引用例2に記載のt-ブトキシカルボニルオキシ基を有する化合物と相違して、本願発明によるt-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物は、フェノール性水酸基を与えず、カルボン酸を生成し、他方、イソブテンを生成するとしても、炭酸ガスを発生しない。更に、前記参考資料によれば、(t-ブトキシカルボニル基)より酸性度の高いカルボン酸エステル誘導体(例えば、本願発明におけるように、t-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物)を利用したレジスト…の場合、より酸性度の高い官能基が分解生成されるため、アルカリ現像液に対する溶解性が向上する」(第151頁右欄下から5?1行)ことも記載されている。 このように、t-ブトキシカルボニルメチル基を有する化合物とt-ブトキシカルボニル基を有する化合物とは、相互に化学構造が相違し、従って、化学的性質や作用も大幅に相違している。
…略…
引用例2に記載されている化合物は、上述したように、酸分解性フェノール性水酸基にt-ブトキシカルボニル基が置換されている化合物、即ち、トリスフェノール類のt-ブトキシカーボネートであって、化学増幅型レジスト用溶解抑制剤の1種であるとしても、酸発生剤が酸を発生したとき、フェノール性化合物を生成する。
他方、本願発明による化合物は、置換基としてt-ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基を有するものであり、置換基がt-ブトキシカルボニルメチル基である化合物は、酸にて分解すれば、カルボン酸を生成し、置換基がテトラヒドロピラニル基である化合物は、酸にて分解すれば、フェノール性化合物を生成する。
…略…
また、本願発明による化合物のうち、置換基としてテトラヒドロピラニル基を有するものは、酸にて分解すれば、置換基としてt-ブトキシカルボニルメチル基を有するものと同じく、フェノール性化合物を生成するが、しかし、イソブテンも炭酸ガスも発生しない。即ち、本願発明による化合物のうち、置換基としてテトラヒドロピラニル基を有するものは、引用例2に記載のt-ブトキシカルボニル基を有する化合物とは、本来、その性質や作用が全く相違する化合物であるから、引用例1と2をどのように組み合わせてみても、当業者といえども、到底、容易に想到し得るものではない。」と主張している。

しかしながら、t-ブトキシカルボニルメチル基及びテトラヒドロピラニル基が、t-ブトキシカルボニル基とは、相互に化学構造が相違し、したがって、化学的性質や作用も大幅に相違するものであり、さらに、分解後に生成する化合物がカルボン酸とフェノール性化合物という異なるものであったとしても、刊行物Bに、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」における脱離基として、テトラヒドロピラニル基またはt-ブトキシカルボニルメチル基が記載され、さらに、脱離基としてt-ブトキシカルボニル基も有用であることが記載されていれば、これらが全く同等ではないとしても、いずれも、「酸性条件によって脱離する脱離基」という作用・機能を有する基である点では共通するから、同じく、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」である引用発明において、「酸性条件によって脱離する脱離基」であるR_(1)のt-ブトキシカルボニル基に代えて、テトラヒドロピラニル基又はt-ブトキシカルボニルメチル基を採用したトリスフェノールエーテル類を想到することに、格別の困難性は見出せない。
そして、その際、「酸性条件によって脱離する脱離基」としてこれらの基が有用であることが、刊行物Bに記載されているのみならず、一般的に広く知られている周知事項ではなかったとしても、当業者であれば、刊行物Bに、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」における脱離基として、テトラヒドロピラニル基またはt-ブトキシカルボニルメチル基が記載され、さらに、脱離基としてt-ブトキシカルボニル基も有用であることが記載されていることに基づいて、同じく、「酸性条件によって脱離する脱離基を有する溶解性制御剤として有用なトリスフェノール類」である引用発明における脱離基であるR_(1)のt-ブトキシカルボニル基をテトラヒドロピラニル基又はt-ブトキシカルボニルメチル基に代えたトリスフェノールエーテル類を想到することに、格別の困難性は見出せない。
なお、審判請求人が提出した参考文献に、t-ブトキシカルボニル基を有する化合物は、分解することによってイソブテンと炭酸ガスを発生して好ましくないと記載されていれば、むしろ、引用発明におけるt-ブトキシカルボニル基を、イソブテンや炭酸ガスを発生しない脱離基、例えば参考文献に例示されているテトラヒドロピラニル基などに代えてみようとする積極的な動機付けとなるというべきである。
したがって、引用発明における脱離基を、t-ブトキシカルボニル基に代えて、t-ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基とすることが、当業者に容易でないということはできない。

よって、審判請求人の主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-16 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願平11-43177
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
井上 千弥子
発明の名称 新規なトリスフェノールエーテル類  
代理人 牧野 逸郎  

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