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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1210442
審判番号 不服2007-34072  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-18 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2004-558433「ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/052472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月8日(優先権主張2002年12月6日、日本国)を国際出願日とする特願2004-558433号であって、平成19年8月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで手続補正がなされ、同年11月15日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成20年1月16日付けで手続補正がされた。
その後、平成21年4月7日付けで審尋がなされ、同年6月15日付けで回答書が提出されたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成20年1月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成20年1月16日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前である平成19年10月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】
ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備えた外殻構成部分と、前記クラウン部に用いるクラウン部材と前記外殻構成部分に用いる他の部材とを接着した接合部とを有するゴルフクラブヘッドであって、
前記クラウン部材は繊維強化材料で形成され、前記他の部材は金属材料で形成され、
前記外殻構成部分に用いる部材の厚さと、この部材における、前記フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率との積をこの部材における換算剛性として定義するとき、前記ソール部に用いるソール部材の0.8倍以下の換算剛性を備えた部材が前記クラウン部材に用いられることを特徴とするゴルフクラブヘッド。」

とあったものを、

「【請求項1】
ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備え、前記ソール部、前記サイド部および前記ホーゼル部で構成されたゴルフクラブヘッド本体に前記クラウン部が接合されて構成された外殻構成部分と、前記クラウン部に用いるクラウン部材と前記外殻構成部分に用いる他の部材とを接着した接合部とを有するゴルフクラブヘッドであって、
前記クラウン部材は繊維強化材料で形成され、前記他の部材は金属材料で形成され、
前記外殻構成部分に用いる部材の厚さと、この部材における、前記フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率との積をこの部材における換算剛性として定義するとき、前記ソール部に用いるソール部材の0.8倍以下の換算剛性を備えた部材が前記クラウン部材に用いられ、前記ソール部材は、一枚の板材で形成され、
前記接合部は、前記フェース部の部材および前記サイド部の部材から前記クラウン部に延在したのりしろ部に接着剤層を介して上から前記クラウン部材が接合されて形成されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。」

と補正するものである。(当審注:下線部は補正箇所を示す。)
そして、その補正事項は、次のとおりである。
ア.ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備えた外殻構成部分に対し、「前記ソール部、前記サイド部および前記ホーゼル部で構成されたゴルフクラブヘッド本体に前記クラウン部が接合されて構成された」ものであるとの発明特定事項を付加する補正。

イ.ソール部材に対し、「前記ソール部材は、一枚の板材で形成され」ているとの発明特定事項を付加する補正。

ウ.接合部に対し、「前記接合部は、前記フェース部の部材および前記サイド部の部材から前記クラウン部に延在したのりしろ部に接着剤層を介して上から前記クラウン部材が接合されて形成されている」との発明特定事項を付加する補正。


2 補正の要件について
(1)目的要件
補正事項アについて、ゴルフクラブヘッド本体が、ソール部、サイド部及びホーゼル部で構成されていること、並びに、外殻構造部分のうち、前記ゴルフクラブヘッド本体とクラウン部が接合されて構成されていることは、いずれも願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の第4ページ第3?7行、及び図面に記載されている。
そして、補正事項イにおいて付加された発明特定事項は当初明細書の第7ページ第40?44行及び図面に、補正事項ウにおいて付加された発明特定事項は当初明細書の第6ページ下から7行目?下から2行目及び図面に、それぞれ記載されている。
よって、上記補正事項ア?ウは、いずれも、当初明細書または図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

そして、上記補正事項ア?ウは、それぞれ外殻構造部分、ソール部材及び接合部に対して限定を付すものであるから、いずれも平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、いわゆる限定的減縮を目的とする補正に該当する。

よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合する。


(2)独立特許要件
上記したとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるので、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)を、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)について、以下に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明の記載は、上記「1 本件補正の内容」に記したとおりのものである。


イ 刊行物
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-89071号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a 「(1)少なくともヘッド本体のフェース面、バック面及びソール面の主体部が高剛性のFRPからなる外殻構造を有し、かつそのクラウン面を低剛性のFRPで形成したことを特徴とするゴルフ用ウッドクラブヘッド。」(特許請求の範囲)

b 「[発明の構成]
以下、この発明の構成を図面に基づいて説明する。
第3図に示すように、図中1はこの発明に係るゴルフ用ウッドクラブのヘッド本体である。
このヘッド本体1は、フェース面2、バック面3、ソール面4、クラウン面5、トウ側面6、ヒール側面7及びシャフトSが取付けられるホーゼル部8からなり、前記フェース面2及びソール面4を除く他の面3、5、6、7は、曲率の大きな曲面形態を有し、かつ、前記ホーゼル部8はほぼ円筒状を呈している。
そして、第1図及び第2図に示すように、前記ヘッド本体1は、クラウン面5を除く他のフェース面2、バック面3、ソール面4、トウ側面6、ヒール側面7及びホーゼル部8の主体部が、高剛性のFRP11で形成された芯部に発泡合成樹脂等の充填材12を充填してなる外殻構造からなる一方、前記クラウン面5は、低剛性のFRP13で構成されている。」(公報第2ページ左下欄第1行?最終行)

c 「すなわち、前記ヘッド本体1の主体部を構成する高剛性のFRP11は、・・・(中略)・・・、その弾性率は100?250GPa、好ましくは150?250GPaの範囲、その厚さは各面において異なるが、4?12mmの範囲に設定されているものである。
一方、前記ヘッド本体1のクラウン面5を構成する低剛性のFRP13は、・・・(中略)・・・、その弾性率は2?10GPa、好ましくは3?5GPaの範囲に設定されているものである。」(公報第2ページ右下欄第4行?第3ページ左上欄第11行)

d 「第8図はインパクト時の挙動を示すもので、フェース面2でボールBを打つと、第8図に2点破線で示すように、クラウン面(斜線で示す部分)5が上方に向け彎曲して弾性的に変形し、フェース面2が、その底点aを回動軸として後方に向けて角度θだけ傾斜するように回動し、元の固定されたロフト角θ_(0)に加算されて大きくなる(θ_(0)+θ)。そして、この打球時のフェース面2の角度変化に応じて、フェース面2に接しているボールBは、ギア効果によりフェース面2の下方に向かって転がるような方向の回転力を受ける。これにより、ボールBのバックスピンは減少する。」(公報第4ページ右上欄第11行?左下欄第2行)

e 「[実 施 例]
この発明において、ヘッド本体1の芯部に発泡合成樹脂等の充填材12を充填したが、中空構造にしても良い。
また、このようなヘッド本体1を成形するにあたっては、上記したFRP成形用生材の段階的な射出成形手段の他に、予め成形型内に中子と共に補強繊維を選択的に配置した後にマトリックス用樹脂を充填するレジンインジェクション方式、またはヘッド本体のクラウン面5を除く他のフェース面2、バック面3、ソール面4、トウ側面6、ヒール側面7及びホーゼル部8のヘッド外殻主体部と、クラウン面外殻部とを別体に成形して、このクラウン面外殻部をヘッド外殻主体部に嵌合させるか、あるいはFRP成形用生材の手積みによるハンドレイアップ方式が考えられる。
[発明の効果]
以上の説明から明らかなように、この発明は、高剛性のFRP外殻構造を主体とするヘッド本体のクラウン面を低剛性のFRPで形成し、打球時の衝撃によりフェース面を後方に回動するようにしたことから、クラウン部位に弾性エネルギを蓄積させることができるとともに、リリース時にフェース面のロフト角が大きくなり、その結果、初期飛び出し角が大きくなってギア効果でバックスピン量が減り、ボールの舞い上がりの少ない理想的な大きな弾道の軌跡を得ることができ、ボールの飛距離を大幅に延ばすことができる。
また、これによってボールのバックスピンが小さくなることから、地上に落下した後は、大きなランを得ることができるなど、すぐれた効果を有するゴルフ用ウッドクラブヘッドを提供することができるものである。」(公報第4ページ左下欄第4行?右下欄第17行)

f 第1?2図から、ソール面4が一枚の板材で形成されていることが見て取れる。(上記記載事項cが、この点を裏付けている。)


(イ)上記記載事項a?fからすると、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「少なくともヘッド本体のフェース面、バック面及びソール面の主体部が高剛性のFRPからなる外殻構造を有し、かつそのクラウン面を低剛性のFRPで形成したことを特徴とするゴルフ用ウッドクラブヘッドであって、ヘッド本体1を成形するにあたっては、ヘッド本体のクラウン面5を除く他のフェース面2、バック面3、ソール面4、トウ側面6、ヒール側面7及びホーゼル部8のヘッド外殻主体部と、クラウン面外殻部とを別体に成形して、このクラウン面外殻部をヘッド外殻主体部に嵌合させた、ソール面4は一枚の板材で形成されている中空構造のゴルフ用ウッドクラブヘッド。」


(ウ)原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-112041号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
g 「【0010】図1に示す実施例において、内部に中空部1を有しソール部2とクラウン部3とその他の部分を構成する本体部4とを夫々別材料から形成してある。中空部1には軽量発泡樹脂等の充填材を充填しても良い。また、図示していないが、フェース面は本体部4と別材料であっても良い。少なくともソール部2,クラウン部3,本体部4は夫々別材料から形成してあり、本体部4を形成する材料を最も比重の大きな材料から形成してある。本体部4はヘッドの側周面を含んでいる。この側周面の肉厚を厚くして周辺に重量を配分することもできる。本体部4を形成する材料としてはステンレスやチタン合金あるいは銅合金,マグネシウム合金等が使用できる。クラウン部3としては合成樹脂材料が好適である。また、ソール部2としては本体部4を形成する材料よりも比重の小さなアルミニウムやその合金等が好適である。クラウン部3は最も比重の小さい材料を使用することが望ましい。クラウン部3として繊維強化樹脂を用いた場合、本体部4に対して接着させる。またソール部2は、この例では、本体部4に対しビス止めを行ったが、溶接あるいは嵌合等の手段により本体部4に取付けることができる。」

h 図1から、クラウン部3は、本体部4に含まれるヘッドの側周面から上面に延在した部分に設けられた開口に、嵌合して接合されているゴルフクラブヘッドであることが、見て取れる。


(エ)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-151329号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
i 「【請求項1】 ヘッド本体のフェース部に形成した凹所内にフェースプレートを接着して、前記凹所の周面とフェースプレートの間隙に接着剤を保持し、前記凹所の周縁に、前記凹所とフェースプレートとの間隙の開口を閉塞する鍔部を有していることを特徴とするゴルフクラブヘッド。」

j 「【0017】また、アイアンクラブ以外にも、例えば、図5に示すようなウッドクラブ(前記実施の形態と同一な構成要素については、同一の参照符号を付してある)にも適用することができる。なお、この図5に示すクラブヘッドは、中空部20を有する中空状のヘッドを示してあるが、中実状のクラブヘッドでも良いし、上記したようなアイアンタイプ、ウッドタイプのゴルフクラブ以外にも、パターに適用しても良い。」

k 図3?図5から、フェースプレート5は、 ヘッド本体のフェース部に形成した凹所内に接着剤を介してゴルフクラブヘッドの外側から接合される点が見て取れる。


(オ)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-165902号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
m 「【0014】前記クラウン周縁部3eは、図2、図4?6に示すように、前記フェース板7(当審注:「クラウン板7」の誤記と認める。)をこのクラウン部周縁部と略面一に保持して下方から支える受け部12が形成されている。本実施形態の受け部12は、前記クラウン板7の全周縁に亘って形成されたものが示されている。またこの受け部12の巾A(図5に示す。)は、特に限定はされないが、例えば2?7mm、より好ましくは3?5mmとすることが望ましい。このような受け部12は、クラウン板7のヘッド本体部9への取り付けに際して、クラウン板7の位置決めを容易として精度良く取り付けし得るほか、後述するロウ付けの接合強度を高めるのに役立つ。」

n 「【0032】本実施形態では、図2に示したようなクラウン板7とヘッド本体部9とを準備し、クラウン板7を前記クラウン周縁部3eの受け部12上に位置決め載置する。この際、必要であれば、クラウン板7とヘッド本体部9とを治具等により加圧し仮固定する。このときの加圧力が低すぎると、ロウ材料の充填が充分でなく隙間等の外観不良が生じ易く、逆に高すぎると、ヘッド本体そのものを傷付けたり、変形させてしまうおそれがある。このような観点より、前記加圧力は好ましくは0.1?1.0MPa、より好ましくは0.3?0.7MPaとするのが望ましい。
【0033】そして、図3及び図5に一点鎖線で示すように、該クラウン板7とヘッド本体部9のクラウン周縁部3eとの境界部の隙間を中心として本例ではペースト状のロウ13を塗布する。そして、このヘッド1を例えば真空中の雰囲気の炉内で加熱することにより、溶けたロウ13が前記接合部の隙間に毛細管現象で浸入する。しかる後、ヘッド1を炉から取り出して接合部の研磨、塗装等を行ってヘッド1が製造される。」

p 図2?6から、ヘッド本体部9からクラウン板7に延在したクラウン周縁部3eの受け部12に、ロウ13を介して上からクラウン板7が接合される点が見て取れる。


(カ)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-176372号公報(以下、「周知例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
q 「第1図から第3図は、この発明に係るゴルフ用クラブ、例えばアイアンクラブの第1実施例を示すもので、図中1はステンレススチール等の金属材料からなるヘッドフレーム本体である。該ヘッドフレーム本体1は、打球面相当部2の外周端縁部2aを除いてバック面3側まで刳貫き開放してなる断面矩形または楕円形の開放孔4を貫通させることにより形成され、該開放孔4の打球面側開放面4aを閉塞するようにCFRPからなる打球面板5が打球面端面全面に亘って、または打球面端面にCFRP打球面板の厚さに相当する段とフレーム本体の開放面の内周部に全長または上部を除く部分に形成し、該段差部分に打球面板を嵌合し、打球面板を外周端縁部2aと面一になるように添設され接着剤等により固定されているとともに、該打球面板5の表面には金属薄膜6がメッキ、蒸着または金属溶射等によって形成されている。」(公報第2ページ左下欄第4行?最終行)

r 「なお、この発明の実施例においては、アイアンクラブのヘッドを例にして説明したが、必ずしもそれに限られるものではなくウッドクラブにも応用することも可能であり(第6図参照)、その際打球面板の形状は、平坦状板を使用する代りに、球周面状板又は円筒周面形状板を使用することが適しており、その曲率半径はいずれも200?500mmにするのが適する。」(公報第3ページ左下欄第6?13行)

s 図2?3及び図6から、打球面板5は、ヘッドフレーム本体1の外周端縁部2aの段差部分に、ヘッドフレーム本体1の外側から接合される点が見て取れる。


ウ 対比・判断
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「トウ側面6、ヒール側面7」は、本件補正発明の「サイド部」に相当する。
よって、引用発明の、「ヘッド本体のクラウン面5を除く他のフェース面2、バック面3、ソール面4、トウ側面6、ヒール側面7及びホーゼル部8のヘッド外殻主体部と、クラウン面外殻部とを別体に成形して、このクラウン面外殻部をヘッド外殻主体部に嵌合させた」「中空構造のゴルフ用ウッドクラブヘッド」である点と、本件補正発明の「ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備え、前記ソール部、前記サイド部および前記ホーゼル部で構成されたゴルフクラブヘッド本体に前記クラウン部が接合されて構成された外殻構成部分と、前記クラウン部に用いるクラウン部材と前記外殻構成部分に用いる他の部材とを接着した接合部とを有するゴルフクラブヘッド」とは、「ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備え、前記ソール部、前記サイド部および前記ホーゼル部で構成されたゴルフクラブヘッド本体に前記クラウン部が接合されて構成された外殻構成部分と、前記クラウン部に用いるクラウン部材と前記外殻構成部分に用いる他の部材とを接合した接合部とを有するゴルフクラブヘッド」である点で一致する。

b 引用発明の「クラウン面を低剛性のFRPで形成した」点は、本件補正発明の「前記クラウン部材は繊維強化材料で形成され」に相当する。

c 引用発明では「ソール面」が「高剛性のFRPからな」り、かつ「クラウン面を低剛性のFRPで形成し」ているのであるから、ヘッド本体のソール面に用いるソール部材の剛性より小さい剛性を備えた部材がクラウン面に用いられていることは明らかである。
よって、引用発明の前記「少なくともヘッド本体のフェース面、バック面及びソール面の主体部が高剛性のFRPからなる外殻構造を有し、かつそのクラウン面を低剛性のFRPで形成し」ている点と、本件補正発明の「前記外殻構成部分に用いる部材の厚さと、この部材における、前記フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率との積をこの部材における換算剛性として定義するとき、前記ソール部に用いるソール部材の0.8倍以下の換算剛性を備えた部材が前記クラウン部材に用いられ」る点とは、「ソール部に用いるソール部材の剛性より小さい剛性を備えた部材がクラウン面に用いられ」る点で一致する。

d 引用発明の「ソール面4は一枚の板材で形成されている」点は、本件補正発明の「前記ソール部材は、一枚の板材で形成され」る点に相当する。


(イ)一致点
本件補正発明と引用発明とは、以下の発明である点で一致する。
「ホーゼル部、フェース部、ソール部、クラウン部、およびサイド部を備え、前記ソール部、前記サイド部および前記ホーゼル部で構成されたゴルフクラブヘッド本体に前記クラウン部が接合されて構成された外殻構成部分と、前記クラウン部に用いるクラウン部材と前記外殻構成部分に用いる他の部材とを接合した接合部とを有するゴルフクラブヘッドであって、
前記クラウン部材は繊維強化材料で形成され、
ソール部に用いるソール部材の剛性より小さい剛性を備えた部材がクラウン面に用いられ、前記ソール部材は、一枚の板材で形成されているゴルフクラブヘッド。」

(ウ)相違点
してみれば、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1]
クラウン部材と外殻構成部分に用いる他の部材との接合について、本件補正発明では、「接着」を用い、「前記フェース部の部材および前記サイド部の部材から前記クラウン部に延在したのりしろ部に接着剤層を介して上から前記クラウン部材が接合されて形成されている」のに対し、引用発明では、単に嵌合されているだけである点。

[相違点2]
外殻構成部分に用いる(クラウン部材以外の)他の部材を、本件補正発明では「金属材料で形成」しているのに対し、引用発明では高剛性のFRPを用いている点。

[相違点3]
本件補正発明では、「前記外殻構成部分に用いる部材の厚さと、この部材における、前記フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率との積をこの部材における換算剛性として定義するとき、前記ソール部に用いるソール部材の0.8倍以下の換算剛性を備えた部材が前記クラウン部材に用いられ」ているのに対し、引用発明には、このような発明特定事項を有していない点。


エ 当審の判断
a 相違点1?2について
上記記載事項g?hからすると、引用例2には、
「内部に中空部1を有しソール部2とクラウン部3とその他の部分を構成する本体部4とを夫々別材料から形成してあるゴルフクラブヘッドであって、ソール部2及び本体部4は金属材料で形成され、クラウン部3として繊維強化樹脂を用いた場合、クラウン部3は、本体部4に含まれるヘッドの側周面から上面に延在した部分に設けられた開口に、嵌合して、接着により接合されているゴルフクラブヘッド。」の発明が記載されている。ここで、二つの部材を接着により接合する際に、二つの部材間に接着剤層が介在する「のりしろ部」が形成されていることは、一般的に自明な事項である。
また、周知例1?3に記載されているように、ゴルフクラブヘッドの外殻を構成する面部材を取り付けるに際し、面部材を接着剤やロウ材を介してゴルフクラブヘッドの「外側」から接合する技術は、当業者にとって周知の技術である。
そして、引用発明も、クラウン面外殻部とヘッド外殻主体部とをそれぞれ別材料から形成し、且つクラウン面外殻部をヘッド外殻主体部に嵌合して接合しているのであるから、ここに上記引用例2に記載された発明の部材材料及び接着技術を適用して、クラウン面外殻部に繊維強化樹脂を、ヘッド外殻主体部に金属材料をそれぞれ用い、且つヘッド外殻主体部に含まれるトウ側面6及びヒール側面7(本件補正発明の「サイド部」に相当。)の部材から上面(本件補正発明の「クラウン部」に相当。)に延在した部分に、嵌合して、のりしろ部に接着剤層を介して接着により接合させることは、当業者が容易になし得たことである。
クラウン面外殻部材を嵌合して、接着により接合させるに際し、上記周知の技術を勘案すれば、ヘッド外殻主体部の「外側から」、すなわち「上から」接合させるようにすることも、当業者が適宜変更し得る設計的事項である。
してみれば、引用発明に引用例2に記載された発明及び周知の技術を適用して上記相違点1?2に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

b 相違点3について
引用例1の上記記載事項cを参照すると、引用発明における、ヘッド外殻主体部を形成する高剛性のFRP11は、「その弾性率は100?250GPa、好ましくは150?250GPaの範囲」に、「その厚さは各面において異なるが、4?12mmの範囲」にそれぞれ設定されており、クラウン面外殻部を形成する低剛性のFRP13は、「その弾性率は2?10GPa、好ましくは3?5GPaの範囲に設定されて」いるから、クラウン面外殻部を形成する低剛性のFRP13の剛性は、最大値でもソール面の弾性率の10%にすぎない。

また、本件補正発明は、上記相違点3に係る発明特定事項により、
「【0025】
このようにして定まるソール換算剛性に対するクラウン換算剛性の比率(換算剛性比)、ソール換算剛性/クラウン換算剛性の値は、後述するように、ゴルフボールの初期弾道特性を効果的に変化させるには0.8以下であればよい。このようにクラウン換算剛性をソール換算剛性の0.8倍以下とすることによって、打撃面にてゴルフボールを打撃した時のゴルフボールのバックスピン量を減らし、打ち出し角度を大きくすることができる。
【0026】
第5図AおよびBは、ゴルフクラブでゴルフボールを打撃した時の様子を分かり易く説明した説明図である。第5図Aに示すようにゴルフボールBを打撃したとき、フェース部41のフェース面にゴルフボールのインパクト力が加わり、このインパクト力はクラウン部およびソール部に伝わるが、インパクト力によって生じるクラウン部およびソール部の剪断変形について考えると、クラウン換算剛性がソール換算剛性の0.8倍以下となっているので、クラウン部の剪断変形はソール部の剪断変形に比べて大きくなる。このため、フェース部41のフェース面は僅かにロフト角度が大きくなる方向に変形する。このゴルフボールのインパクト時のフェース面の変形は、ゴルフボールのバックスピン量および打ち出し角度に影響を与える。」
という作用効果を得るものであるところ、引用発明も、高剛性のFRP外殻構造を主体とするヘッド本体のクラウン面を低剛性のFRPで形成することによって、
「フェース面2でボールBを打つと、・・・クラウン面(斜線で示す部分)5が上方に向け彎曲して弾性的に変形し、フェース面2が、その底点aを回動軸として後方に向けて角度θだけ傾斜するように回動し、元の固定されたロフト角θ_(0)に加算されて大きくなる(θ_(0)+θ)。そして、この打球時のフェース面2の角度変化に応じて、フェース面2に接しているボールBは、ギア効果によりフェース面2の下方に向かって転がるような方向の回転力を受ける。これにより、ボールBのバックスピンは減少する。」(上記記載事項d、eを参照。)
という作用効果を得るものである。すなわち、ゴルフボールのインパクト時の、ロフト角度の増大及びバックスピン量の減少という、本件補正発明と同様の作用・効果を得ているから、引用発明のクラウン面外殻部は、「フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率」においても、ソール面より上記作用効果を得られる程度の低剛性であることは明らかであり、その剛性の低さの程度は、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
本願の明細書を参照しても、本件補正発明の「前記外殻構成部分に用いる部材の厚さと、この部材における、前記フェース部のゴルフボールを打撃するフェース面の向く方向に沿った弾性率との積」と定義される「換算剛性」というパラメータを求めたこと、その上で、クラウン部材を「前記ソール部に用いるソール部材の0.8倍以下の換算剛性」を備えた部材であると数値限定したこと、によって奏される有利な効果も臨界的意義も認められず、本件補正発明の上記換算剛性のパラメータ及び数値限定に、進歩性を認めることはできない。

よって、引用発明から上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。


c 本件補正発明の効果
本件補正発明が奏する作用効果も、引用発明、引用例2に記載された発明及び当業者に周知の技術から、当業者が想定できる範囲のものにすぎない。

d 判断
よって、本件補正発明は、引用例1?2に記載された発明及び当業者に周知の技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(3)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年1月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、当審が審理すべき発明は、平成19年10月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」の「1 本件補正の内容」に記したとおりである。

2 刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1?2、及びその記載事項は、上記「第2」の「2(2)独立特許要件」の「イ 刊行物」に記したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の「2(2)独立特許要件」で検討した本件補正発明から、外殻構造部分、ソール部材及び接合部に対して付加された発明特定事項を省いたものである。(上記「第2」の「1 本件補正の内容」を参照。)

そうすると、本願発明と引用発明とは、上記「第2」の「2(2)ウ(ウ)相違点」に記した相違点2?3とともに、以下の点を加えた3点で相違する。
[相違点1’]
クラウン部と外殻構成部分に用いる他の部材との接合について、本件補正発明では、「接着」を用いているのに対し、引用発明では、単に嵌合されているだけである点。

そこで、上記相違点について検討すると、
上記相違点1’は、上記「第2」の「2(2)ウ(ウ)相違点」に記した相違点1の一部分にすぎない。
よって、上記相違点1’及び相違点2については、上記「第2」の「2(2)エa 相違点1?2について」に記したと同様の理由により、引用発明に引用例2に記載された発明を適用して上記相違点1’及び相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
相違点3についても、上記「第2」の「2(2)エb 相違点3について」に記したと同様の理由により、引用発明から相違点3に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

本願発明が奏する作用効果も、引用発明、及び引用例2に記載された発明から、当業者が想定できる範囲のものにすぎない。

4 まとめ
よって、本願発明は、引用例1?2に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-11 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願2004-558433(P2004-558433)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
今関 雅子
発明の名称 ゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブ  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  

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