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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1210447
審判番号 不服2008-5222  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-03 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2002-348820号「高膨張比サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 2日出願公開、特開2004-183512号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成14年11月29日の特許出願であって、平成20年 1月28日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、同年 3月 3日付けで本件審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正(前置補正)がなされた。
一方、当審においても平成21年 8月 6日付けで拒絶理由を通知し、これに対して、応答期間内である同年 9月29日に意見書が提出されたところである。
そして、この出願の請求項1?5に係る発明は、上記平成20年 3月 3日に提出された手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、
エンジンの加速過渡時を判定する加速過渡時判定手段と、
該エンジンの実吸気量が目標値以下であるか否かを検出する吸気量不足検出手段と、
該エンジンの吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、
該可変バルブタイミング機構の作動を制御する制御手段とをそなえ、
該加速過渡時判定手段により該エンジンの加速過渡時が判定され、且つ該吸気量不足判定手段により該実吸気量が該目標値以下であると判定されると、該制御手段により吸気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御されることを特徴とする、高膨張比サイクルエンジン。」

2.引用例とその記載事項
平成21年 8月 6日付け拒絶理由で引用した本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭58-167225号(実開昭60-73838号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、「過給機付エンジンの吸入空気量制御装置」に関し、図面と共に以下の事項(ア)?(カ)が記載されている。

(ア)「この考案は過給機付のミラーサイクルエンジンにおける吸入空気量制御装置に関するものである。」(第1ページ第15行?第16行)

(イ)「ガソリンエンジンやデイーゼルエンジンの出力を向上させる手段として、いわゆるミラーサイクルがある。これは、吸気通路をピストンの下死点手前の時点で閉じることにより、この時点から下死点までは断熱膨張させるものである。したがつて、このミラーサイクルを既存の通常サイクルのエンジンに適用すると、上死点での圧縮圧力が低下する一方で、膨張比は同一に保たれるので、機械負荷(燃焼室の最大圧力)および熱負荷(燃焼温度)が低減しながら、出力は同一になる。・・・
そこで、エンジンの機械負荷や熱負荷が小さい中速の所定回転数以下では通常のサイクルとする一方、機械負荷や熱負荷が大きい上記所定回転数以上の高速領域でミラーサイクルとして、吸気通路を下死点手前の時点で閉じるようにし、かつ、この吸気通路を閉じる時点を、回転数の上昇に伴なつて早くする調整装置を設けて、空気供給量と燃料供給量を減少させるようにしたものが知られている(特開昭55-148932号公報参照)。
このようにすると、過給による機械負荷や熱負荷が所定レベルで抑えられ、信頼性の低下は抑制できるが、加速を行なう場合でも充填効率が下がつて大きなトルクを得ることができなくなり、加速性能の向上を図ることができない欠点がある。」(第1ページ第18行?第3ページ第7行)

(ウ)「上記目的を達成するために、この考案は、エンジン回転数の増大に伴なつて吸気通路の開閉弁の閉弁時期を早める調整装置に対して、加速時にはこの調整装置の作動速度を遅くする開閉時期遅延装置を付加する構成として、加速時に大きなトルクが得られるようにしている。」(第3ページ第15行?第20行)

(エ)「上記構成において、エンジンの回転数が上昇すると、排ガス15の流量が増加して過給機14の回転数も上昇し、過給圧、すなわち、吸気通路12における過給機14の下流側の圧力が増大する。この圧力の増大により、シリンダ装置36の作動ロッド35が左方向43に移動し、アーム34を時計方向に回動させて連結管31を右方向33aに移動させ、これによつて弁軸29、すなわち開閉弁17を角変位させて、開閉弁17の開弁および閉弁の時期を早める。このとき、シリンダ装置36におけるピストン49を押圧する調整ばね50のばね力の大きさを適宜設定することにより、エンジンの中速の所定回転数までは、第2図に示すように、開閉弁17の閉弁時期が進まないで、吸気弁の開閉時期と開閉弁17の開閉時期とがほぼ同一となるように設定して、ミラーサイクルではない通常サイクルとし、上記所定回転数以上では、第3図に示すように、開閉弁17の閉弁時期を吸気弁よりも進ませて、吸気弁が閉じる下死点付近よりも早く開閉弁17を閉じることにより、ミラーサイクルとすることができる。」(第6ページ第18行?第7ページ第18行)

(オ)「つぎに、加速時にエンジン回転数が急上昇すると、第1図のタイミングプ-リ23の回転数も急上昇し、閉弁時期遅延装置22の回転軸44は左から見て右回り52に急激に増速しようとするので、中間軸30が上記増速に追従できなくなり、回転軸44に対して左回り53に回転する。つまり、中間軸30に角度の遅れが発生する。このとき、中間軸30の螺旋溝Sが回転軸44の突起46に係合しているから、中間軸30はばね部材45のばね力に抗して左方向33bへ移動する。一方、調整装置21のシリンダ装置36には、急加速により昇圧された吸気圧力が導入管37を介して作用しているから、アーム34は連結管31を右方向33aへ移動させて弁軸29の角度を進ませ、開閉弁17の閉弁時期を早めるように作動しており、この調整装置21の作動速度を、上記閉弁時期遅延装置22の中間軸30の角度遅れにより遅くしているのである。こうして急加速時のみ調整装置21の作動速度が遅くなり、吸入空気量および燃料噴射量の抑制が遅れる結果、充填効率が高められ、燃焼圧力が増し、トルクが増大するので、加速性能が向上する。一時遅延された調整装置21の作動は、急加速が終ると回復し、燃焼圧力は下がる。ここで、燃焼圧力の増大は短時間内のものであるから、エンジンの機械負荷および熱負荷は一時的に増大するだけなので、全体的に見てエンジンの信頼性は低下しない。」(第8ページ第18行?第10ページ第4行)

(カ)「上記各実施例では、開閉弁17としてロータリバルブを用いたが、これとは異なり新たなカム軸ときのこ弁を用いてもよいし、あるいは、吸気弁または吸気通路の絞り弁そのものを開閉弁として利用し、その閉弁時期を制御するようにしてもよい。
また、閉弁時期遅延装置22の他の例として、回転センサで検知したエンジン回転数の変動を演算して加速状態を検出し、その検出信号により、第4図のアーム34の近傍に2点鎖線で示すピン66を突出させて、アーム34の回動を阻止するものや、加速時のみ作動しない不感帯を作動ロッド35もしくはアーム34に設けるものなどがある。」(第12ページ第8行?第13ページ第1行)

これらの記載からみて、上記引用例1には、
「過給機を備えたミラーサイクルエンジンにおいて、
エンジンの加速状態を検出する加速状態検出手段と、
該エンジンの吸気弁の閉弁時期を制御する制御手段を備え、
該加速検出手段により該エンジンの加速状態が検出されると該制御手段により、吸入空気量の抑制を遅延させるように制御されたミラーサイクルエンジン」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

また、同じく拒絶理由で引用した本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-1593401号公報(以下「引用例2」という。)には、「エンジンの吸入空気量制御手段」に関し、図面と共に以下の事項(キ)?(コ)が記載されている。

(キ)「【0025】尚、前記閉時期IVCが吸気下死点前に制御されることで、所謂早閉じミラーサイクル運転が行われることになる。上記のように、吸気バルブ3の閉時期IVCを早閉じ制御して吸入空気量を目標吸入空気量に制御するが、図3に示すように、前記早閉じ制御のみでは、低負荷・高回転領域(図3斜線示の領域)が目標吸入空気量(目標トルク)に制御できない領域となる。」

(ク)「【0027】そこで、本実施の形態では、前記早閉じ制御によって吸入空気量を目標吸入空気量に制御できる領域(図3に示すバルブタイミング制御領域)では、スロットルバルブ16を略全開に保持し、目標吸入空気量に応じて吸気バルブ3の閉時期IVCを可変に制御する一方、吸気バルブ3を最小作動角にしても目標吸入空気量に制御することができない領域(図3に示すスロットル制御領域)では、吸気バルブ3を略最小作動角で開駆動する状態に保持する一方、スロットルバルブ16の開度を目標吸入空気量に応じて可変に制御するようにしてある。」

(ケ)「【0039】吸気バルブ3のバルブタイミングによって吸入空気量を制御する場合には、図7に示すように、インテークマニホールドなどが介在しない分だけアクセル開度(目標吸入空気量)の変化に対して実際の吸入空気量が高い応答で変化することになるが、・・・」

(コ)「【0041】図8のフローチャートは、バルブタイミング制御の様子(目標吸入空気量演算部101 ,目標バルブタイミング演算部103 ,応答性補正部104 の作用)を示すフローチャートである。
【0042】S1でアクセル開度を読み込み、S2でエンジン回転速度を読み込むと、S3では、前記アクセル開度及びエンジン回転速度に基づいて目標吸入空気量を演算する。
【0043】S4では、エンジン回転速度を読み込み、S5では、前記目標吸入空気量及びエンジン回転速度に基づいて目標バルブタイミング(目標閉時期)を演算する。上記目標バルブタイミング(目標閉時期)の演算には、バルブタイミング制御領域,スロットル制御領域の判別、該判別結果に応じた目標バルブタイミング(目標閉時期)の演算が含まれる。
【0044】S6では、前記演算された目標バルブタイミング(目標閉時期)に対して、インテークマニホールドによる遅れ時定数に相当する遅れ補正を施して、S7では、前記遅れ補正が施された目標バルブタイミング(目標閉時期)を出力する。
【0045】尚、上記実施形態では、バルブタイミング制御領域とスロットル制御領域とに分けられる構成としたが、全領域をバルブタイミング制御領域とし、全ての運転領域でバルブタイミングの制御のみによって目標吸入空気量を制御する構成であっても良く、この場合も、目標バルブタイミングに遅れ補正を施すことで、急激なアクセル操作時における運転性,音振の悪化を防止できる。」

3.発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ミラーサイクルエンジン」は、一般的に「膨張比を圧縮比よりも大きく設定する」ものであり、本願発明の「高膨張比サイクルエンジン」に相当する。
また、引用発明の「エンジンの加速状態を検出する加速検出手段」は、本願発明の「エンジンの加速過渡時を判定する加速過渡時判定手段」に相当し、引用発明の「該エンジンの吸気弁の閉弁時期を制御する制御手段を備え」は、本願発明の「該エンジンの吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、該可変バルブタイミング機構の作動を制御する制御手段とをそなえ」に相当する。
また、「吸入空気量の抑制を遅延させる」ことは、結果的に「吸気量を増大させる」ことを意味するから、引用発明の「該加速検出手段によりエンジンの加速状態が検出されると該制御手段により、吸入空気量の抑制を遅延させるように制御された」ことは、「該加速過渡時判定手段により該エンジンの加速過渡時が判定されると、該制御手段により吸気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御されること」に相当する。
そうすると、両者は、
「膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、
エンジンの加速過渡時を判定する加速過渡時判定手段と、
該エンジンの吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、該可変バルブタイミング機構の作動を制御する制御手段とをそなえ、
該加速過渡時判定手段により該エンジンの加速過渡時が判定されると、該制御手段により吸気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御される、
高膨張比サイクルエンジン 」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点>
本願発明は、「エンジンの実吸気量が目標値以下であるか否かを検出する吸気量不足検出手段」を備えており、制御手段により吸気量が増大するように行われる可変バルブタイミング機構の制御が、本願発明では、「加速過渡時判定手段により該エンジンの加速過渡時が判定され、且つ吸気量不足判定手段により実吸気量が目標値以下であると判定された場合」に行われるのに対して、引用発明では、加速過渡時判定手段によりエンジンの加速過渡時が判定される場合に行われるものの、吸気量不足検出手段を備えていないため、それ以上の条件がない点。

4.相違点の検討
上記相違点について検討する。
引用発明においても、摘記事項(イ)によれば、エンジンの加速時に充填効率が下がること、つまり、吸気量が不足することを課題としている。
また、上記引用例2には、摘記事項(キ)?(コ)からみて、ミラーサイクル運転を行った場合において、目標吸入空気量(吸気量)に基づいて目標バルブタイミング(目標閉時期)を制御するものが記載されている。
してみれば、吸気量の不足を課題とした場合に、目標吸気量が実吸気量よりも大きいことを確認して制御を行う程度のことは、当業者が適宜なし得る程度の設計的事項に過ぎないものである。
よって、本願発明と同様な課題を有する引用発明に、引用発明と同じ技術分野であるミラーサイクルエンジンに関する上記引用例2に記載された事項を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の奏する作用効果についても、引用発明、上記引用例2に記載された事項から予期される程度のものであって格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び上記引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-28 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-30 
出願番号 特願2002-348820(P2002-348820)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久島 弘太郎松下 聡  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 金丸 治之
藤井 昇
発明の名称 高膨張比サイクルエンジン  
代理人 真田 有  

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