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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1210716 |
審判番号 | 不服2008-19909 |
総通号数 | 123 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-05 |
確定日 | 2010-01-18 |
事件の表示 | 平成11年特許願第361564号「永久磁石形回転子とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月29日出願公開、特開2001-178041〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成11年12月20日の出願であって、平成20年7月11日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月11日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「外周面上に接着剤を塗布した円筒状の回転子ヨークの前記外周面上に、リング状の永久磁石を軸方向から嵌合し、前記回転子ヨークと永久磁石との間を接着剤で接着固定した永久磁石形回転子において、 反永久磁石嵌合側の外周面上に接着剤が塗布され、かつ永久磁石嵌合側の軸方向端部側の外周面上に周方向に適宜長さ延びる接着剤挿入用の溝が形成されるとともに、前記溝に前記接着剤が入れ込まれた回転子ヨークの外周面上に、前記リング状の永久磁石を嵌合固着したことを特徴とする永久磁石形回転子」 なお、平成20年4月11日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には、「前記反永久磁石嵌合側の外周面上に接着剤が塗布され、かつ前記永久磁石嵌合側の軸方向端部側の外周面上に」と記載されているが、この記載より前に「反永久磁石嵌合側」及び「永久磁石嵌合側」という用語は使用されていないことから、「反永久磁石嵌合側の外周面上に接着剤が塗布され、かつ永久磁石嵌合側の軸方向端部側の外周面上に」の誤記と認められるため、請求項1に係る補正の内容を上記のように認定した。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された実願平2-11806号(実開平3-104051号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。 ・「従来、マグネットロータとしては第6図に示す如く、アルミニウム製の円筒状カラーaに、リング状マグネットbを接着剤を介在させて外嵌したものが知られている。 〔考案が解決しようとする課題〕 マグネットロータの組立は、円筒状カラーa外周面に点状若しくは線状に接着剤を塗布した上で、リンク状マグネットbを円筒状カラーaの一端から挿入し、その後リング状マグネットを軸心方向にスライドさせて、所定位置まで移動させることで行っている。」(明細書2頁15行目?3頁5行目) ・「しかしながら従来の円筒状カラーaは接着剤cの被着面が単なる平滑面であることから、リング状マグネットbを挿入する際に第6図(ロ),(ハ)に示す如く、接着剤が押し流されてしまい、この結果、充分な接着力が発揮できないという課題があった。 本考案はかかる現況に鑑みて成されたものであり、円筒状カラーaとリング状マグネットb間の間隙寸法を増やすことなく、円筒状カラーaとリング状マグネットb間に充分な量の接着剤を介在させることが可能で、円筒状カラーaとリング状マグネットbとを強固に接着できるマグネットロータを提供せんとするものである。」(明細書3頁18行目?4頁10行目) ・「〔作用〕 このような構成のマグネットロータを組立てるには、例えば溜り溝内に接着剤を充填[審決注:公報では「填」の旧字体が使用されているが、システム上使用できない字体のため、新字体を使用した。以下同様。]した上で、リング状マグネットを円筒状カラーに挿入外嵌する。リング状マグネットの内径は円筒状カラーの外径に略一致している為、円筒状カラー上を移動するリング状マグネットは溜り溝に充填された接着剤のうち、過剰に盛り上がった部分の接着剤は押し流そうとするものの、溜り溝内に存在する接着剤を押し流すことはない。しがたって、組立後は溜り溝内には充分な量の接着剤が存在し、この接着剤が円筒状カラーとリング状マグネットを完全に固着するので、マグネットロータの機械的強度は極めて強固なものとすることができ、しかもリング状マグネットの内周面は円筒状カラーの外周面と密着しているから回転振れが発生することもない。 〔実施例〕 次に本考案の詳細を図示した実施例に基づき説明する。第1図及び第2図(イ)、(ロ)は本考案のマグネットロータの一実施例であり、第1図は組立て前の状態、第2図(イ)、(ロ)は組立後の状態を示している。マグネットロータAは円筒状カラー1と該円筒状カラー1の外径と略一致した内径を有するリング状マグネット2,2から構成されている。円筒状カラー1はアルミニウムや合成樹脂等の非磁性体製素材から形成され、他方、リング状マグネット2はNdFeBr合金粉等の磁性粉をフェノール系熱硬化性樹脂等の合成樹脂に分散配合してなるプラスチックマグネットを素材としている。 円筒状カラー1の外周面におけるリング状マグネット2の嵌合位置には、それぞれリング形状となした溜り溝3,3が刻設され、この溜り溝3内に接着剤4を充填した上で、リング状マグネット2を円筒状カラー1に嵌合することでマグネットロータは構成される。 溜り溝3の形成位置は、第2図(ロ)に示す如く、嵌合面の中央部とすることが一般的であるが、リング状マグネット2を挿入する入口側に寄せてもよい。」(明細書4頁19行目?6頁19行目) ・「そして、リング状マグネット2の嵌入過程では、溜り溝内に充填された接着剤4のうち、円筒状カラー1の外周面を越えて盛り上がった部分は、リング状マグネット2の移動に伴って押し流されるが、溜り溝3の溝内部に存在する接着剤は流出することはなく、組立後は溜り溝3内に存在する接着剤がリング状マグネット2と円筒状カラー1とを確実に固着するのである。」(明細書8頁19行目?9頁6行目) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「非磁性体製素材の円筒状カラーの外周面上に、リング状マグネットを前記円筒状カラーの一端から挿入し軸心方向にスライドさせて嵌合し、前記円筒状カラーと前記リング状マグネットとの間を接着剤で固着したマグネットロータにおいて、 嵌合面の前記リング状マグネットを挿入する入口側に寄せた位置にリング形状となした溜り溝が形成されるとともに、前記溜り溝内に接着剤を充填した上で、前記リング状マグネットを前記円筒状カラーに嵌合し固着したマグネットロータ。」 3.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「非磁性体製素材の円筒状カラー」と前者の「円筒状の回転子ヨーク」とは、「円筒状の永久磁石支持体」との概念で共通する。 また、後者における「リング状マグネット」が前者における「リング状の永久磁石」に相当し、以下同様に、 「円筒状カラーの一端から挿入し軸心方向にスライドさせて嵌合」する態様が「軸方向から嵌合」する態様に、 「固着した」態様が「接着固定した」態様に、 「マグネットロータ」が「永久磁石形回転子」に、 「嵌合面のリング状マグネットを挿入する入口側に寄せた位置」が「永久磁石嵌合側の軸方向端部側の外周面上」に、 「リング形状となした溜り溝」が「周方向に適宜長さ延びる接着剤挿入用の溝」に、 「溜り溝内に接着剤を充填した上で、リング状マグネットを円筒状カラーに嵌合し固着した」態様が「溝に接着剤が入れ込まれた回転子ヨークの外周面上に、リング状の永久磁石を嵌合固着した」態様に、それぞれ相当する。 したがって、両者は、 「円筒状の永久磁石支持体の外周面上に、リング状の永久磁石を軸方向から嵌合し、前記回転子ヨークと永久磁石との間を接着剤で接着固定した永久磁石形回転子において、 永久磁石嵌合側の軸方向端部側の外周面上に周方向に適宜長さ延びる接着剤挿入用の溝が形成されるとともに、前記溝に前記接着剤が入れ込まれた回転子ヨークの外周面上に、前記リング状の永久磁石を嵌合固着した永久磁石形回転子。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 円筒状の永久磁石支持体が、本願発明では「回転子ヨーク」であるのに対し、引用発明では「非磁性体製素材の円筒状カラー」である点。 [相違点2] 接着剤を塗布する場所に関し、本願発明は回転子ヨークの「外周面上に接着剤を塗布した」ものであって「反永久磁石嵌合側の外周面上に接着剤が塗布され」ているのに対し、引用発明では溜り溝内に接着剤を充填しているものの、その他の部分へ接着剤を塗布するか否か明確にされていない点。 4.判断 上記相違点について以下検討する。 ・相違点1について 永久磁石形回転子において、永久磁石支持体を磁性材料で形成し、ヨークとすることは、例示するまでもなく周知慣用技術といえる。そして、永久磁石支持体を磁性材料と非磁性体の何れとするかは、当業者が任意に選択可能な設計的事項と認められるから、引用発明における永久磁石支持体に上記周知慣用技術を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 ・相違点2について 永久磁石形回転子において、接着剤を溜めておく溝が形成されている回転子ヨークに永久磁石を嵌合固定する際に、回転子ヨークの外周面上の全体に接着剤を塗布すること、すなわち、「外周面上に接着剤を塗布した」ものであって「反永久磁石嵌合側の外周面上に接着剤が塗布され」ることは周知技術であって、例えば拒絶査定時に周知例として挙げた特開平4-172936号公報(公報2頁右上欄8行目?12行目の「この回転軸12には・・・磁石挿入部全体に接着剤3を塗布した後複数の磁石1が順次矢印方向に許容偏心範囲の小さいすきまではめ込まれる。」なる記載参照。)や、特開平8-251850号公報(【0009】の「この図1の構成において、軸1に円筒形永久磁石を接着する場合、軸1の円筒形永久磁石3の接着面に接着剤2を塗布した後、円筒形永久磁石3を嵌合させて接着する。この場合、軸1と円筒形永久磁石3との間隙に接着剤2を完全に充填して接着するには、前記間隙空間の体積と同じか、それ以上の体積の接着剤2を塗布し接着する必要がある。」なる記載参照。)等にも開示されている。 そして、回転子ヨークに永久磁石を固着する際に、より強固に固着するという課題は、永久磁石形回転子において一般的な課題といえるから、当該課題の下に、引用発明に上記周知技術を適用して相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明、周知慣用技術及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 5.むすび したがって、本願発明は、引用発明、周知慣用技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-25 |
結審通知日 | 2009-11-26 |
審決日 | 2009-12-08 |
出願番号 | 特願平11-361564 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安食 泰秀 |
特許庁審判長 |
田良島 潔 |
特許庁審判官 |
槙原 進 小川 恭司 |
発明の名称 | 永久磁石形回転子とその製造方法 |