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審決分類 審判 査定不服 判示事項別分類コード:なし 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1210833
審判番号 不服2008-17520  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-09 
確定日 2010-01-25 
事件の表示 特願2003-296127「電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法及び該塗工液を用いた電子写真感光体、プロセスカートリッジ、および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月10日出願公開、特開2005- 62734〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

・本願は、平成15年8月20日の出願であって、平成20年5月29日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年8月7日付で手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正

・本件補正は、平成19年7月27日付手続補正により補正された特許請求の範囲の
「【請求項1】
少なくとも溶媒と微粒子からなる電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法であって、高圧液衝突分散により該溶媒中の該微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させた後、分散液に超音波を照射するものであり、前記塗工液は微粒子分散時の固形分濃度と塗工時の固形分濃度が異なる塗工液であり、塗工時の固形分濃度に希釈した後、超音波を照射することを特徴とする電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子が少なくとも1種類以上の微粒子から構成され、かつ1種類以上のフッ素原子含有樹脂微粒子から構成されることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項3】
前記高圧液衝突分散時に前記微粒子と前記分散媒の混合物に加えられる圧力が50MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項4】
前記分散液に照射する超音波が周波数15kHz以上60kHz以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒中の前記微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させた後、バインダー樹脂が分散液に添加され、さらにその後、分散液に超音波を照射することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。」
とあったものを
「【請求項1】
少なくとも溶媒と微粒子からなる電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法であって、高圧液衝突分散により該溶媒中の該微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させた後、分散液に超音波を照射するものであり、前記塗工液は微粒子分散時の固形分濃度と塗工時の固形分濃度が異なる塗工液であり、塗工時の固形分濃度に希釈した後、超音波を照射するものであり、前記微粒子が少なくとも1種類以上の微粒子から構成され、かつ1種類以上のフッ素原子含有樹脂微粒子から構成されることを特徴とする電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項2】
前記高圧液衝突分散時に前記微粒子と前記分散媒の混合物に加えられる圧力が50MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項3】
前記分散液に照射する超音波が周波数15kHz以上60kHz以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒中の前記微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させた後、バインダー樹脂が分散液に添加され、さらにその後、分散液に超音波を照射することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。」
と補正するものである。

・上記したとおり、本件補正は、平成19年7月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1を削除して、請求項2を請求項1に繰り上げるとともに独立形式の記載に改め、続く請求項3?請求項5を順次繰り上げて新たな請求項2?請求項4とし、引用する請求項をそれらに併せて変更するものであるから、請求項を削除する補正といえる。
すなわち、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当するので適法である。

3.本願発明の認定
・本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年8月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1は以下のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも溶媒と微粒子からなる電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法であって、高圧液衝突分散により該溶媒中の該微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させた後、分散液に超音波を照射するものであり、
前記塗工液は微粒子分散時の固形分濃度と塗工時の固形分濃度が異なる塗工液であり、塗工時の固形分濃度に希釈した後、超音波を照射するものであり、前記微粒子が少なくとも1種類以上の微粒子から構成され、かつ1種類以上のフッ素原子含有樹脂微粒子から構成されることを特徴とする電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。」
(以下、「本願発明」という。)

4.引用刊行物記載の発明

・原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-332219号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

[1a]「【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光体の表面層がフッ素樹脂粉体を含有し、該フッ素樹脂粉体が溶剤と共に高圧状態に昇圧され、該高圧の液衝突により粉砕及び分散されたものであることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 前記昇圧、粉砕及び分散が、前記フッ素樹脂粉体及び溶剤を微細な流路に圧送し、該微細な流路での高圧の液衝突により行なわれる請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】 前記昇圧、粉砕及び分散が、前記フッ素樹脂粉体及び溶剤を微細な流路に圧送し、該流路の吐出口直後の障害壁への液衝突により行なわれる請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項4】 前記感光体の表面層が電荷輸送層である請求項1記載の電子写真感光体。」

[1b]
「【0004】
【従来の技術】
・・・
【0005】・・・潤滑剤としては、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、六フッ化エチレンプロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、及びこれらの共重合樹脂などのフッ素含有樹脂が好適である。
従来、これらの潤滑剤を適当なバインダー樹脂及び感光材料と共にサンドミルやボールミルで分散した後に感光体の表面に塗布し、成膜する。これらの方法で得られる表面層を付与した電子写真感光体の欠点としては、感光体表面に求められる滑り性及び耐摩耗性を満足させる必要性から多量の潤滑剤を分散させると、これにより感度低下や残留電位上昇、また分散凝集物により塗膜欠陥を生じ著しく、画像品位を落とすなどと言った問題を生じた。逆に潤滑材の添加量を減少させると摩擦抵抗の上昇からブレードめくれの発生や耐摩耗性の優位性を保てなくなるなど滑り性、耐摩耗性、そして電子写真特性の三要素を優れた性能で成立させることが困難であることが挙げられる。」

[1c]
「【0007】
【発明の目的】本発明の目的は、表面滑り性、耐摩耗性、及び画像品位を含めた電子写真特性の各々を高い次元で満足し、繰り返し使用後も高品位な画像を保つ電子写真感光体を提供することであり、潤滑剤を含有した表面層を有す電子写真感光体に関する。」

[1d]
「【0017】本発明における微細な流路に流体を圧送し、該微細な流路での高圧の液衝突により被分散物を粉砕及び分散させる手段としては、高圧ポンプとこれに配管により接続された複数の小径のオリフィスを有す治具と該オリフィスより液が吐出される際に液同志が衝突すべく加工された治具により構成され、本発明で言うところの高圧とは、前記高圧ポンプの吐出量、吐出圧とオリフィス系及び長さ、更には被分散物の粘度よりおおむね決定され、単位面積あたりの荷重で表せば50?1400kg/cm^(2)を好適とする。このような装置の模式的な例を図3に示す。図3を用いて装置の簡単な説明をすれば、非分散物投入容器31より投入された被分散物は、高圧ポンプ32の吸入?吐出工程中に配管に充填される。高圧ポンプは、油圧シリンダーを用いたものやプランジャーポンプなどが利用される。被分散物は、ポンプの圧縮工程で液衝突治具34に圧送され1個?数個のオリフィス37(直径50μm?2mm、長さ2?10mm)を有する治具中の移動により高圧状態での液衝突が行われる。試料受け容器35に受けられた試料は、必要であれば更に非分散物投入容器31に投入され所望の物性まで繰り返し工程を採ることも可能である。更に、熱交換システムにより配管中の液温コントロールをすることも可能である。なお、図中33は高圧配管、36は圧力計、38は3方バルブである。・・・
【0022】本発明においてフッ素樹脂粉体は、感光体の層中にムラ無く均一に分散されていることが好ましく、フッ素樹脂粉体はその量に応じて効果も増大するものであるが感光層中にフッ素樹脂粉体を均一に分散させることは容易ではない。この均一に分散させる目的のためにフッ素系グラフトポリマーを添加している・・・」

[1e]
「【0027】このようにして得られた加熱後再沈精製されたフッ素系クシ型グラフトポリマーを用いて前述のフッ素含有樹脂の粉体を感光層中に分散させる。
【0028】分散の方法としては通常のサンドミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ホモジナイザーなどを用いることができるが、次の方法を用いることがより好ましい。即ち、前述のフッ素樹脂粉体と加熱処理した後再沈精製されたフッ素系クシ型グラフトポリマーを溶剤と共に高圧状態に昇圧させ、該高圧の液衝突により粉砕及び分散させる前述の方法である。」

[1f]
「【00120】以下、第3の本発明の実施例を挙げる。
【0121】(実施例7)テトラフルオロエチレン樹脂(以下「PTFE樹脂」と略記)粉体(商品名:ルブロンL-2、ダイキン工業製)10重量部と実施例4で用いたクシ型フッ素グラフトポリマー型界面活性剤固形分として0.4重量部をモノクロロベンゼン60重量部に混合、撹拌した後、図3に示した装置で分散処理を実施した。分散時の処理圧力は、600kg/cm^(2)となるようポンプストロークで調整した。【00122】吐出口より得られた液を再度投入し合計5回までの高圧処理がされた被分散物をそれぞれ得た。高圧処理回数に対するPTFE樹脂粉体の粒度分布を堀場製作所製粒度分布計(商品名:CAPA500)で測定した結果を表5に示す。
【00123】(比較例6)
実施例7において使用した高圧処理に代わって通常のガラスビーズを用いたサンドミル装置を用いた以外は、実施例7と全く同様な処理を実施した。なおサンドミル装置のディスク回転数は1000及び2000rpmとし、処理時間はそれぞれの回転数において60、120及び180分とした。これらの条件で得られた分散液に実施例7と同様な粒度分布測定を実施し、結果を表5に示す。

[1g]
・転記を省略した【00124】【表5】には、実施例7に関して、
高圧分散処理1回の分散液のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.24μm、
高圧分散処理2回の分散液のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.20μm、高圧分散処理3回の分散液のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.20μm、
高圧分散処理4回の分散液のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.22μm、
高圧分散処理5回の分散液のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.24μm、
比較例6に関して、
1000rpmのサンドミル分散処理60分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.60μm、
1000rpmのサンドミル分散処理120分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.40μm、
1000rpmのサンドミル分散処理180分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.27μm、
2000rpmのサンドミル分散処理60分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.50μm、
2000rpmのサンドミル分散処理120分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.32μm、
2000rpmのサンドミル分散処理180分後のPTFE樹脂粉体の平均粒径:0.28μm、
などの測定結果が示されている。

[1h]
「【0125】(実施例8)・・・φ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して導電層塗料を調製した。アルミシリンダー(φ80×360)上に上記塗料をディッピング塗工し、140℃で30分間乾燥させ膜厚20μmの導電層を形成した。
【0126】次に、メトキシメチル化ナイロン樹脂(数平均分子量32000)30重量部及びアルコール可溶性共重合ナイロン樹脂(数平均分子量29000)10重量部をメタノール260重量部及びブタノール40重量部の混合溶媒中に溶解した液を上記導電層上にディッピング塗工機で塗布し、乾燥後の膜厚が1μmの下引層を設けた。
【0127】次に、下記構造式のジスアゾ顔料
・・・
【0129】4重量部、ベンザール樹脂2重量部及びテトラヒドロフラン40重量部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で60時間分散した後、シクロヘキサン/テトラヒドロフラン混合溶媒で希釈し、電荷発生層用塗料を得た。この塗料を上記下引層上にディッピング塗工し、乾燥後の膜厚が0.1μmの電荷発生層を設けた。
【0130】次に、下記構造式・・・の電荷輸送材料10重量部及びポリカーボネート樹脂(数平均分子量25000)10重量部をジクロルメタン20重量部及びモノクロルベンゼン40重量部の混合溶媒中に溶解し、この液を前記電荷発生層上にディッピング塗工し、120℃で60分間乾燥させ膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。
【0133】次に、実施例7で得られたPTFE樹脂粉体分散液(高圧処理2回品)14重量部、電荷輸送層で用いた電荷輸送材料4重量部、ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールZ型:数平均分子量40000)4重量部、モノクロベンゼン250重量部及びジクロルメタン250重量部を混合、溶解し表面保護層塗料とした。この塗料を霧化塗布し、120℃で60分間乾燥して5.0μmの保護層を形成した。
【0134】(比較例7)
実施例8においてPTFE樹脂粉体分散液を比較例6で示した1000rpm×180minの分散液を用いた以外は実施例8と同様な感光体を作成した。
【0135】このようにして得られた感光体をデジタルカラー複写機(キヤノン製、CLC-500)に搭載してマクベス濃度0.25のハーフトーン画像を出した。明視距離(肉眼より30cm)で画像を実施例8と比較すると、比較例7ではハーフトーンが不均一でなめらかさがなくざらついた印象を受けた。
【0136】更に、ドラム上でのトナー画像を観察したところ、実施例8においてドットに対してトナー像が忠実に再現されているが、比較例7においてはトナーの付着が不十分なドット像が見うけられた。」

[1i]
「【0139】
【発明の効果】以上、実施例が示すように第1の本発明及び第3の本発明によれば、感光体に求められる電子写真特性を満足した上で従来得がたかった表面滑り性や耐摩耗性に関し著しい改善がなされ、高耐久でかつ耐久後も高品位な画像特性を有する電子写真感光体の提供が可能となった。」

・上記[1a]?[1i]の記載によれば、引用例1には、
「溶媒(60部)、PTFE樹脂粉体(10部)、クシ型フッ素グラフトポリマー型界面活性剤(0.4部)からなる混合液を高圧液衝突分散(2回処理)により該溶媒中の該PTFE樹脂粉体の平均粒径:0.20μmに分散させた分散液(固形分濃度:10.4/70.4≒0.15)を14重量部 分取し、
電荷輸送材料 4重量部、Z型ポリカーボネート樹脂 4重量部、モノクロベンゼン 250重量部、ジクロルメタン 250重量部からなる希釈液を混合、溶解し、電子写真感光体の表面保護層用塗料(固形分濃度:〔14×0.15+4+4〕/〔14+4+4+250+250〕≒0.02)を製造する方法。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

・原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-40699号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

[2a]「【請求項1】導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、最表面層が結着樹脂、フッ素含有樹脂微粒子および結着樹脂より摩擦係数の大きな樹脂からなる微粒子を含み、結着樹脂より摩擦係数の大きな樹脂からなる微粒子の粒径がフッ素含有樹脂微粒子の粒径より大きいことを特徴とする電子写真感光体。」

[2b]「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、長期にわたって優れた離型性、耐摩耗性およびクリーニング性を維持する電子写真感光体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、最表面層が結着樹脂、フッ素含有樹脂微粒子および結着樹脂より摩擦係数の大きな樹脂からなる微粒子を含み、結着樹脂より摩擦係数の大きな樹脂からなる微粒子の粒径がフッ素含有樹脂微粒子の粒径より大きいことを特徴とする電子写真感光体に関する。」

[2c]「【0009】以下、感光層が電荷発生層、第1電荷輸送層および第2電荷輸送層を順次積層した構成を有するときの本発明の感光体について説明するが、感光層が上記他の構成を有するときの本発明の感光体についての説明としては、各層の形成順序、および/または各層を構成する材料の組み合わせ等が異なることを考慮して、以下の説明を準用することができる。
【0010】まず、導電性支持体上に電荷発生層が形成される。
・・・
【0017】電荷発生層を形成するための塗布液の調製に際しては、サンドミル、ボールミル、ホモジナイザー、ペイントシェイカー、ナノマイザー等の公知の混合機を使用することができる。塗布液の塗布は公知の塗布方法を採用することができ、例えば、ロール塗布法、浸漬塗布法、噴霧塗布法、リング塗布法等を採用することができる。
【0018】次いで、第1電荷輸送層が形成される。
・・・
【0024】第1電荷輸送層を形成するための塗布液の調製に際しては、電荷発生層を形成するための塗布液を調製するときと同様の公知の混合機を使用することができる。塗布液の塗布もまた、電荷発生層用塗布液を塗布するときと同様に公知の塗布方法を採用することができる。
【0025】次いで、第2電荷輸送層が形成される。第2電荷輸送層はフッ素含有樹脂微粒子、摩擦係数向上樹脂微粒子、電荷輸送材料、結着樹脂および有機溶剤を含む塗布液を、上記第1電荷輸送層上に塗布し、乾燥させることにより形成される。
・・・
【0032】そのような好ましいフッ素含有樹脂微粒子の具体例としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロクロロエチレンからなる群から選択される1またはそれ以上のモノマーを重合してなる単独重合体または共重合体等が挙げられる。耐摩耗性および離型性のさらなる向上の観点から、フッ素含有樹脂微粒子はPTFE、ポリビニリデンフルオライド、ポリヘキサフルオロプロピレンであることがより好ましく、さらに好ましくはPTFEである。
【0033】フッ素含有樹脂微粒子の数平均分子量は、耐摩耗性および離型性のさらなる向上、ならびに当該微粒子の分散性および塗布液の保存性の向上の観点から、10万から100万であることが望ましい。
・・・
【0050】第2電荷輸送層を形成するための有機溶剤は、使用される結着樹脂を溶解でき、かつフッ素含有樹脂微粒子および摩擦係数向上樹脂微粒子を溶解しない有機溶剤であれば特に制限されず、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジオキサン、モノクロルベンゼン、ジクロルエタン、塩化メチレン、シクロヘキサノン等が挙げられる。詳しくは、結着樹脂、フッ素含有樹脂微粒子および摩擦係数向上樹脂微粒子の種類に応じて上記有機溶剤の中から適宜選択され、例えば、結着樹脂としてポリカーボネート樹脂、
フッ素含有樹脂微粒子としてPTFE微粒子、摩擦係数向上樹脂微粒子としてシリコーン樹脂微粒子を用いる場合、テトラヒドロフラン、トルエン、塩化メチレン、ジオキサン等が使用され得る。
【0051】第2電荷輸送層を形成するための塗布液の調製に際しては、上記した公知の混合機を使用することができる。塗布液の塗布は、第1電荷輸送層と同様に公知の塗布方法を採用することができる。
【0052】本発明においては、上記のようなフッ素含有樹脂微粒子および摩擦係数向上樹脂微粒子を最表面層に含有させることで、表面層に含まれるフッ素含有樹脂微粒子の作用による感光体表面の離型性を保ちながら、トナーのクリーニングおよび感光体表面の研摩、再生に必要な摩擦係数を確保することができ、結果として優れた離型性、耐摩耗性およびクリーニング性を長期にわたって維持できると考えられる。」

[2d]「【0055】実施例1
JIS5657円筒状のアルミニウム合金(外径100mm,長さ350mm,厚さ2mm)の表面を切り刃に天然ダイヤモンドを用いたバイトで切削加工した。・・・このように封孔処理した感光体基体上に、以下のようにして感光層を形成した。
【0056】テトラヒドロフラン100部に対して、ブチラール樹脂(積水化学工業社製:エスレックBX-1)1部、m型チタニルフタロシアニン(東洋インキ製造社製:am-TiOPc)1部加え、これらをサンドミルで5時間分散させて電荷発生層用塗液を調製し、この電荷発生層用塗液を上記の支持体上に浸漬塗布して膜厚が0.2μmになった電荷発生層を形成した。
【0057】そして、テトラヒドロフラン1000部に対して、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製:パンライトTS-2020)100部、下記一般式で示されるスチリル化合物70部、フェノール化合物ブチルヒドロキシトルエン(特級:東京化成社製)8部を溶解して第1電荷輸送層用塗液を調製し、この電荷輸送層用塗液を上記の電荷発生層上に浸漬塗布し、これを送風乾燥させて膜厚が20μmになった第1電荷輸送層を形成した。
・・・
【0059】次にフッ素含有樹脂微粒子としてPTFE(喜多村社製:KTL-500F、粒径0.3μm)90部をテトラヒドロフラン1000部に懸濁させ、サンドグラインダーで5時間分散し、フッ素微粒子の分散液を調製した。そしてテトラヒドロフラン4000部に対して、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製:パンライトTS-2020、摩擦係数0.35)100部、上記一般式で示されるスチリル化合物100部、フェノール化合物ブチルヒドロキシトルエン(特級:東京化成社製)8部、シリコーン樹脂微粒子(東芝シリコーン製:トスパール130、粒径3μm)10部を溶解させた後、上記のフッ素微粒子の分散液1090部を加え、超音波で30分分散させて第2電荷輸送層用塗液を調製し、この電荷輸送層用塗液をリング塗布装置で塗布し、これを100℃で40分間乾燥させて膜厚が5μmになった第2電荷輸送層を形成し、本発明の電子写真感光体を得た。」

[2e]「【0076】
【発明の効果】本発明の感光体は優れた離型性、耐摩耗性およびクリーニング性を長期にわたって維持でき、中抜けやフィルミングのない高画質画像を長期にわたって提供できる。」

上記[2a]?[2e]の記載によれば、引用例2には、
「溶媒(1000部)、PTFE樹脂粉体(粒径:0.3μm、90部)からなる混合液をサンドグラインダーで5時間かけて分散処理して該樹脂粉体微粒子を該溶媒中に微細分散させた分散液(固形分濃度:90/1090≒0.08)とし、次いで、スチリル化合物系電荷輸送材料 100部、ポリカーボネート樹脂 100部、シリコーン樹脂微粒子(粒径3μm)10部、フェノール化合物 8部、溶媒 4000部からなる希釈液を加えて、超音波で30分分散させて、混合、溶解し、電子写真感光体の表面保護層を兼ねる第2電荷輸送層用の塗工液(固形分濃度:〔90+100+10〕/〔1090+4000+100+8+10〕≒0.04)を製造する方法。」の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比
・本願発明と引用例1発明とを対比する。
・引用例1発明の「電子写真感光体の表面保護層用塗料」は、本願発明の「電子写真感光体の最表層形成用塗工液」に相当する。
・引用例1発明の「PTFE樹脂粉体」は、本願発明の「フッ素原子含有樹脂微粒子」に相当する。
・引用例1発明の「高圧液衝突分散により溶媒中の樹脂粉体の平均粒径:0.20μmに分散させ」は、本願発明の「高圧液衝突分散により該溶媒中の該微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させ」に相当する。
・引用例1発明の「樹脂粉体微粒子の分散液(固形分濃度:0.15)に希釈液を混合、溶解し表面保護層用塗料(固形分濃度:0.02)を製造」は、本願発明の「微粒子分散時の固形分濃度と塗工時の固形分濃度が異なる塗工液であり、塗工時の固形分濃度に希釈し、最表層形成用塗工液を製造」に相当する。
・したがって、両者は、
「少なくとも溶媒と微粒子からなる電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法であって、高圧液衝突分散により該溶媒中の該微粒子の体積平均粒径を10μm以下に分散させるものであり、前記塗工液は微粒子分散時の固形分濃度と塗工時の固形分濃度が異なる塗工液であり、塗工時の固形分濃度に希釈するものであり、前記微粒子が少なくとも1種類以上の微粒子から構成され、かつ1種類以上のフッ素原子含有樹脂微粒子から構成される電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
フッ素原子含有樹脂微粒子の分散液に希釈液を加え、塗工時の固形分濃度に希釈して、最表層形成用塗工液とするにあたり、本願発明では「超音波を照射する」のに対し、引用例1発明では「希釈液を混合、溶解」というのみで「希釈後の超音波照射」を規定しない点。

6.判断
・[相違点]について検討する。
フッ素原子含有樹脂微粒子の分散液に希釈液を加え、塗工時の固形分濃度に希釈して、電子写真感光体の最表層形成用塗工液とするにあたり、「超音波を照射する」構成は、引用例2に記載されているように公知である。
・引用例2発明では、「超音波照射」の作用効果について直接の記載は無い。しかし、引用例2発明では、電子写真感光体の最表層の離型性向上に寄与するフッ素含有樹脂微粒子には、分散性に難があるとの認識から該分散液の調製に「サンドグラインダーで5時間分散処理」の手間をかけているし、続いて、該分散液に、バインダー樹脂を含む希釈液を加え、塗工時の固形分濃度に希釈して、電子写真感光体の最表層形成用塗工液とするにあたり、30分の超音波照射処理で塗工液を調製しているから、該「超音波処理」が、フッ素含有樹脂微粒子分散液に希釈液、バインダー樹脂を混合、溶解して全体を希釈・分散し安定した塗工液を調製するに好適な技術であって、そのような作用効果があることは、示唆されているといえる。(例えば、前掲[2c]33段落、[2d]59段落参照。)
・したがって、引用例1発明において、フッ素原子含有樹脂微粒子の分散液に希釈液を加え、塗工時の固形分濃度に希釈した後に、「超音波を照射する」こととして、本願発明の製造方法を構成することは、当業者が適宜なし得ることである。
・なお、審判請求人は、フッ素原子含有樹脂微粒子の分散液に希釈液を加え塗工時の固形分濃度に希釈した後に「超音波照射」することは、フッ素原子含有樹脂微粒子の再凝集の懸念が有り、組合せ適用に阻害要因があるから、当業者が適宜なし得ることでは無い旨主張する。
しかし、塗工液の最終調製段階では、希釈溶媒のみならずバインダー樹脂という固形成分も加えているのであるから、いずれにせよ、分散・撹拌に係る処理が必要不可欠であることは明白であり、組合せ適用を試みることに阻害要因有りとは認められない。
・そして、上述の検討から明らかなように、本願発明の効果は、引用例1?2に記載された発明から当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。

7.むすび
・以上のとおり、本願発明は引用例1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-24 
結審通知日 2009-11-25 
審決日 2009-12-09 
出願番号 特願2003-296127(P2003-296127)
審決分類 P 1 8・ - Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
柏崎 康司
発明の名称 電子写真感光体の最表層形成用塗工液の製造方法及び該塗工液を用いた電子写真感光体、プロセスカートリッジ、および画像形成装置  
代理人 武井 秀彦  

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