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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1211685
審判番号 不服2007-31555  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-22 
確定日 2010-02-12 
事件の表示 特願2006- 86516「ディーゼルエンジンの排気浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日出願公開、特開2007-262933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成18年3月27日に出願されたものであり、平成19年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年8月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月12日付けで拒絶査定がなされた。
そして、平成19年11月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月14日付けの手続補正書により特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正がされ、平成21年5月11日付けで当審において書面による審尋がなされたものである。



第2.平成19年12月14日付けの手続補正書による特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年12月14日付けの手続補正書による特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成19年8月27日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(b)に示す請求項1ないし8を下記の(a)に示す請求項1ないし5と補正することを含むものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるパティキュレートマターを捕集して処理する円柱形状の小型の第一のDPFと、第一のDPFの外周に設けられた筐体と、内部に第一のDPFが設けられる円筒形状のケーシングと、第一のDPFとケーシングとの間に形成されたバイパス通路と、第一のDPFをケーシングに設けてバイパス通路を第一のDPFの周囲を囲むように配置する取付部材とを有したDPFユニットを備え、
前記第一のDPFは、4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有し、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有し、
DPFユニットの下流側に大型の第二のDPFが設けられているディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFはケーシングの排気ガス入口の流路中心軸線上に配置されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFとディーゼルエンジンとを接続する排気管が断熱材によって被覆されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFがディーゼルエンジンよりも第二のDPFに近い位置に設けられていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、DPFユニットの排気ガス出口の中心軸が第二のDPFの流路中心軸と同一線上となるように前記DPFユニットが配置されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。」

(b)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるパティキュレートマターを捕集して処理する円柱形状の第一のDPFと、第一のDPFの外周に設けられた筐体と、内部に第一のDPFが設けられる円筒形状のケーシングと、第一のDPFとケーシングとの間に形成されたバイパス通路と、第一のDPFをケーシングに設けてバイパス通路を第一のDPFの周囲を囲むように配置する取付部材とを有し、
前記第一のDPFは、エンジンの低負荷時には排気ガスの多くを前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガスの多くを前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有するディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFは、エンジンの低負荷時には排気ガス全流量の55?75vol%を前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガス全流量の65?85vol%を前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記第一のDPFはケーシングの内部に設けられDPFユニットを構成し、前記ケーシングと前記第一のDPFとの間の空間にバイパス通路が形成されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
請求項3記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFはケーシングの排気ガス入口の流路中心軸線上に配置されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFとディーゼルエンジンとを接続する排気管が断熱材によって被覆されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFより下流側に第二のDPFが設けられたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
請求項6記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、第一のDPFがディーゼルエンジンよりも第二のDPFに近い位置に設けられていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、DPFユ二ットの排気ガス出口の中心軸が第二のDPFの流路中心軸と同一線上となるように前記DPFユ二ットが配置されたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。」


2.本件補正の適否の検討

2-1.特許請求の範囲の補正の目的要件の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1ないし3を削除して、本件補正前の(請求項1及び請求項2を引用する)請求項3を引用する請求項6を新たな請求項1にするとともに、本件補正前の請求項6における「第一のDPF」を「小型の第一のDPF」と限定し、「第二のDPF」を「大型の第二のDPF」と限定し、更に、「第一のDPF」は「エンジンの低負荷時には排気ガス全流量の55?75vol%を前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガス全流量の65?85vol%を前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有する」とあるのを「4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有し、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有」するものであると限定する補正を含んでいる。
上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


2-2.本件出願の明細書の記載不備による本願補正発明の独立特許要件について
本願補正発明における「4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有し、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有」する「第一のDPF」に対して、発明の詳細な説明では段落【0029】に、
「【0029】
第一のDPF36は、主にディーゼルエンジンの中低速低負荷時又は中負荷時に排出される少量の排気中に含まれるPMを捕集して連続再生処理する小型のCR-DPFである。第一のDPF36には併せてCO、HC及びNOを酸化させてCO2、H2O及びNO2に転化させる酸化触媒を設けてもよい。第一のDPF36の外周には、第一のDPF36を保護する筐体38が設けられている。筐体38の材質としては、金属、樹脂等の種々のものを用いることができるが、通常は耐熱性の高い金属が用いられる。」
と記載されるように、「第一のDPF」の備える構成としては「筐体38」が開示されている。
(1)しかしながら、上述の「4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失」は上記「エア」の温度がどのような条件に設定されたときの圧力損失であるのかが発明の詳細な説明には記載されておらず、また、上記「圧力損失」を有するために「第一のDPF」が備えるべき具体的な構造、材質等の技術事項については発明の詳細な説明に何ら記載されていない。
(2)また、上述の「4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失」を有するような「第一のDPF」をエンジン排気系に設けて「エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失」を有するものとするための、「第一のDPF」が備えるべき具体的な構造、材質及びエンジン排気系における「第一のDPF」の配置箇所については発明の詳細な説明に何ら記載されてはいない。

よって、本件出願の明細書における発明の詳細な説明は、本願補正発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本件出願は特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3.本願補正発明の進歩性に関する独立特許要件について
2-3-1.引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された特開平5-163930号公報(以下、「引用刊行物」という。)に記載された事項
引用刊行物には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0012】
【実施例】以下添付図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例の内燃機関の排気浄化装置20の全体構成図であり、図5に示した従来の内燃機関の排気浄化装置10と同じ構成部材には同じ符号が付されている。従って、図1において、1はディーゼル機関、2は排気ガス通路、3は排気ガス通路2の一部に設けられたフィルタ収納用のケーシング、4はシール材、5A,5Bは排気ガス中のパティキュレートを捕集するためにケーシング3に直列に配置された2つのパティキュレートフィルタ、6は2次空気供給通路、7は燃焼ガス排出通路、8はパティキュレートフィルタ5をバイパスする排気バイパス通路、9は2次空気を供給するエアポンプ、11はバッテリ、100は制御装置、Hはパティキュレートフィルタ5Bにのみ取り付けられた電気ヒータ、Sはパティキュレートフィルタ5Bに設けられた電気ヒータHに通電するためのスイッチ、V1は排気通路2と排気バイパス通路8とを切り換える切換弁、V2は排気バイパス通路8の出口に設けられた出口切換弁、V3は燃焼ガス排出通路7の開閉弁、V4は2次空気供給通路6の開閉弁を示している。そして、エアポンプ9、スイッチS、および弁V1?V4の制御は制御回路100によって行われる。
【0013】図2は図1の内燃機関の排気浄化装置20における、パティキュレート捕集時の下流側に使用するパティキュレートフィルタ5Bの外観を示すものである。このフィルタ5Bは、多孔性物質からなるハニカム状の隔壁を備えたハニカム状フィルタであって一般に円筒状をしており、内部に隔壁で囲まれた多数の直方体状の通路51がある。そして、この通路51の隣接するものは、排気ガスの流入側と排気ガスの流出側で交互にセラミック製の閉塞材52によって栓詰めされて閉通路となっている。」(段落【0012】及び【0013】)

イ.「【0014】パティキュレートフィルタ5Bの排気ガスの流れる方向の下流側端面に設けられる電気ヒータHは、図2には示していないが、閉塞材52の中に埋め込まれるタイプのものが使用される。図3は図1の内燃機関の排気浄化装置20における、パティキュレート捕集時の上流側に使用するパティキュレートフィルタ5Aの外観を示すものである。このフィルタ5Aも、多孔性物質からなるハニカム状の隔壁を備えた円筒状のハニカム状フィルタであるが、隔壁で囲まれた多数の直方体状の通路51のうち、中央部分の通路51に隣接するものだけを、排気ガスの流入側と排気ガスの流出側で交互にセラミック製の閉塞材52によって栓詰めして閉通路化し、外周部分の通路51は栓詰めせずに貫通路53としたものである。すなわち、上流側のパティキュレートフィルタ5Aは、パティキュレートフィルタの捕集部分(通路51と閉塞材52)が中央部のみに設けられており、フィルタ5Aの外周部は排気ガス中のパティキュレートが捕集されない貫通部53になっている。」(段落【0014】)

ウ.「【0015】なお、このような外周部に貫通路53を備えたパティキュレートフィルタ5Aの他の具体的な構成例としては、図4に示すように、図2のパティキュレートフィルタ5A,5Bと同じ長さの外径を持ち、内側に複数本の支持体62が突出する円筒状のケース61を用意し、この支持体62に、図2と同じ形状で直径の小さなパティキュレートフィルタ60を支持させて作ることもできる。」(段落【0015】)

エ.「【0018】このとき、外周部に貫通空間を有する上流側の小径フィルタ5Aの存在により、ケーシング3の中央部を流れる排気ガス中のパティキュレートはフィルタ5Aによって除去され、外周部を流れる排気ガス中のパティキュレートはフィルタ5Aの貫通部53を通るのでパティキュレートが除去されずに下流側のパティキュレートフィルタ5Bに至る。従って、下流側のフィルタ5Bの外周側のパティキュレート捕集量が増大する。・・(後略)・・・」(【0018】)

(2)上記(1)及び図4から認定することができる事項
a.上記(1)ウ.に「パティキュレートフィルタ5Aの他の具体的な構成例としては、図4に示すように、図2のパティキュレートフィルタ5A,5Bと同じ長さの外径を持ち、」「図2と同じ形状で直径の小さなパティキュレートフィルタ60」とあること及び図4より、円柱形状の「パティキュレートフィルタ60」は小型のパティキュレートフィルタであり、「パティキュレートフィルタ5B」は大型のパティキュレートフィルタであることがわかる。

b.上記(1)ウ.に「内側に複数本の支持体62が突出する円筒状のケース61を用意し、この支持体62に、図2と同じ形状で直径の小さなパティキュレートフィルタ60を支持させ」るとあること及び図4より、内部に「パティキュレートフィルタ60」が設けられる円筒形状の「ケース61」と、「パティキュレートフィルタ60」と「ケース61」との間に形成された「貫通路53」と、「パティキュレートフィルタ60」を「ケース61」に設けて「貫通路53」を「パティキュレートフィルタ60」の周囲を囲むように配置する「支持体62」は、1つのユニットを構成していることがわかる。

c.上記(1)イ.に「このフィルタ5Aも、多孔性物質からなるハニカム状の隔壁を備えた円筒状のハニカム状フィルタであるが、隔壁で囲まれた多数の直方体状の通路51のうち、中央部分の通路51に隣接するものだけを、排気ガスの流入側と排気ガスの流出側で交互にセラミック製の閉塞材52によって栓詰めして閉通路化し、外周部分の通路51は栓詰めせずに貫通路53としたものである。」とあること及び上記(1)ウ.に「このような外周部に貫通路53を備えたパティキュレートフィルタ5Aの他の具体的な構成例としては、」「パティキュレートフィルタ60を」「作ることもできる。」とあること並びに図4より、「パティキュレートフィルタ60」は、多数の直方体状の「通路51」を有し、該「通路51」は「排気ガスの流入側と排気ガスの流出側で交互にセラミック製の閉塞材52によって栓詰めして閉通路化し」ていることから、「通路51」の流路抵抗による圧力損失を有していることがわかる。また、図4より、「貫通路53」の圧力損失は「パティキュレートフィルタ60」の圧力損失よりも小さいことは、上記「貫通路53」の流路断面積が「通路51」の流路断面積よりも大きいという構造からみて明らかである。

(3)引用刊行物に記載された発明
上記(1)、(2)及び図面の記載を総合すると、引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。
「ディーゼル機関1の排気ガスに含まれるパティキュレートを捕集して処理する円柱形状の小型のパティキュレートフィルタ60と、内部にパティキュレートフィルタ60が設けられる円筒形状のケース61と、パティキュレートフィルタ60とケース61との間に形成された貫通路53と、パティキュレートフィルタ60をケース61に設けて貫通路53をパティキュレートフィルタ60の周囲を囲むように配置する支持体62とを有したユニットを備え、
前記パティキュレートフィルタ60は圧力損失を有し、
ユニットの下流側に大型のパティキュレートフィルタ5Bが設けられているディーゼル機関1の排気浄化装置20。」(以下、「引用発明」という。)


2-3-2.対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、両者の対応関係は次のとおりである。
引用発明における「ディーゼル機関1」は、その機能からみて、本願補正発明における「ディーゼルエンジン」に相当し、以下同様に、「パティキュレート」は「パティキュレートマター」に、「パティキュレートフィルタ60」は「第一のDPF」に、「ケース61」は「ケーシング」に、「貫通路53」は「バイパス通路」に、「支持体62」は「取付部材」に、「ユニット」は「DPFユニット」に、「パティキュレートフィルタ5B」は「第二のDPF」に、「排気浄化装置20」は「排気浄化装置」に、それぞれ相当する。
よって、本願補正発明と引用発明とは、
「ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるパティキュレートマターを捕集して処理する円柱形状の小型の第一のDPFと、内部に第一のDPFが設けられる円筒形状のケーシングと、第一のDPFとケーシングとの間に形成されたバイパス通路と、第一のDPFをケーシングに設けてバイパス通路を第一のDPFの周囲を囲むように配置する取付部材とを有したDPFユニットを備え、
前記第一のDPFは圧力損失を有し、
DPFユニットの下流側に大型の第二のDPFが設けられているディーゼルエンジンの排気浄化装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(1)本願補正発明においては「第一のDPFの外周に」「筐体」が設けられているのに対して、引用発明においては「パティキュレートフィルタ60」の外周に筐体が設けられているかどうか明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願補正発明においては「第一のDPF」が有する圧力損失は「4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失」であり「エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失」であるのに対して、引用発明においては「パティキュレートフィルタ60」は「圧力損失」を有するが、該「圧力損失」が4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失であり、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を「パティキュレートフィルタ60」に流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%を「貫通路53」に流通させる圧力損失であるかどうか明らかではない点(以下、「相違点2」という。)。


2-3-3.判断
(1)相違点1について
排気浄化装置の技術分野において、ハニカム構造を有するフィルタや触媒の外周に筐体を設けることは周知技術(必要があれば、例えば、特開平8-266905号公報の「外筒6」、特開2003-155926号公報の段落【0027】に記載の「第1外筒34」、特開2005-296820号公報の図1の「外筒2」を参照されたい。)である。
そして、引用発明の備える、「支持体62」が周囲を囲むように配置されている「パティキュレートフィルタ60」に上記周知技術を適用して上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を想到することは当業者が容易になし得たものであると認められる。
また、上記2-3-1.(1)イ.ないしエ.より、引用発明においては「パティキュレートフィルタ60」を流れてパティキュレートが捕集される排気ガスと「貫通路53」を流れてパティキュレートが捕集されない排気ガスとを分流しているといえる。そのような「パティキュレートフィルタ60」に上記周知技術の適用により外周に筐体を設けるようにすれば、上記「パティキュレートフィルタ60」を流れる排気ガスと「貫通路53」を流れる排気ガスとの分流が確実になることは、上記周知技術における筐体の構造からみて当業者にとって予測できる程度の作用効果であると認められる。

(2)相違点2について
引用発明の備える「ディーゼル機関1」のようなディーゼルエンジンにおいて、低負荷・低回転時に排出される排気ガスの流量が少なく、高負荷・高回転時に排出される排気ガスの流量が多いことは技術常識である。また、上記2-3-1.(2)c.において述べたように、引用発明において「貫通路53」の圧力損失は「パティキュレートフィルタ60」の圧力損失よりも小さいことは構造上明らかであると認められ、「ディーゼル機関1」から排出される排気ガスの流量が多いときには、圧力損失が大きい「パティキュレートフィルタ60」と比べて圧力損失が小さい「貫通路53」を多くの排気ガスが通過することも明らかである。
よって、本願補正発明の備える「第一のDPF」と同様に、引用発明が備える「パティキュレートフィルタ60」は、「ディーゼル機関1」の低負荷・低回転時には排気ガスの多くを前記「パティキュレートフィルタ60」に流通させるとともに、「ディーゼル機関1」の高負荷・高回転時には排気ガスの多くを前記「貫通路53」に流通させる圧力損失を実質的に有するものといえる。
そして、引用発明が備える「パティキュレートフィルタ60」が有する「圧力損失」において、前記「圧力損失」の特性を設定して、低負荷・低回転時としての具体的な回転数及び高負荷・高回転時としての具体的な回転数並びに低負荷・低回転時において「パティキュレートフィルタ60」を流通させる排気ガスの具体的な割合及び高負荷・高回転時において「貫通路53」に流通させる排気ガスの具体的な割合を定めることは排気浄化性能を考慮して当業者が適宜なし得る設計的事項である。

さらに、本件出願の明細書には段落【0031】、段落【0036】ないし【0038】には第一のDPFが、4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有し、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有する場合の第一のDPFと第二のDPFのそれぞれにどのように排気ガスが流れるという技術事項については記載されているものの、上記技術事項における数値限定は上記低負荷・低回転時には排気ガスの多くを第一のDPFに流通させるとともに、高負荷・高回転時には排気ガスの多くを第二のDPFに流通させる点についての具体例を示しているにすぎず、上記数値限定を採用することによる臨界的意義及び格別顕著な効果を見いだすことはできない。
したがって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明において、排気浄化性能を考慮して当業者が適宜なし得る設計的事項であると認められる。

また、本願補正発明は全体としてみても引用発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


2-3-4.進歩性に関する独立特許要件ついての結論
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当該技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。


3.むすび
本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。



第3.本願発明について
1.本願発明の認定
平成19年12月14日付けの手続補正書による特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年8月27日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるパティキュレートマターを捕集して処理する円柱形状の第一のDPFと、第一のDPFの外周に設けられた筐体と、内部に第一のDPFが設けられる円筒形状のケーシングと、第一のDPFとケーシングとの間に形成されたバイパス通路と、第一のDPFをケーシングに設けてバイパス通路を第一のDPFの周囲を囲むように配置する取付部材とを有し、
前記第一のDPFは、エンジンの低負荷時には排気ガスの多くを前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガスの多くを前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有するディーゼルエンジンの排気浄化装置。」


2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願日前に頒布された引用刊行物の記載事項及び引用発明は、前記第2.[理 由]2-3-1.(1)及び(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、実質的に、上記第2.[理 由]2-1.で検討した本願補正発明における発明特定事項である「第一のDPFは、4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有し、エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有」するとあるのを「前記第一のDPFは、エンジンの低負荷時には排気ガスの多くを前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガスの多くを前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有する」へと変更(以下、「変更点」という。)し、本願補正発明における発明特定事項である「円柱形状の小型の第一のDPF」を上位概念である「円柱形状の第一のDPF」へと変更し、また、本願補正発明における発明特定事項である「DPFユニットの下流側に大型の第二のDPFが設けられている」点及び「第一のDPFの外周に設けられた筐体」を省いたものに相当する。

ここで、本件出願の明細書の段落【0031】に、
「【0031】
また、エンジンの低負荷時には排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPF36に流通させ、エンジンの高負荷時には排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路37に流通させる圧力損失を有する第一のDPF36としては、具体的には、4.15m^(3)/minの流量でエアを流した際に2.5kPa?5kPaの圧力損失を有するものであり、好ましくは3kPa?4kPaの圧力損失を有するものである。また、エンジンの低負荷時とは一般的にエンジン回転数が500rpm?1100rpmであることを表し、エンジンの高負荷時とは一般的にエンジン回転数が2400rpm?2900rpmであることを表す。」
と記載されているように、上記変更点は、本願補正発明における発明特定事項である「前記第一のDPFは、」「エンジンの低負荷時であるエンジンの回転数が500rpm?1100rpmであるときに排気ガス全流量の55?75vol%を第一のDPFに流通させ、エンジンの高負荷時であるエンジンの回転数が2400rpm?2900rpmであるときに排気ガス全流量の65?85vol%をバイパス通路に流通させる圧力損失を有」するとあるのを上位概念である「前記第一のDPFは、エンジンの低負荷時には排気ガスの多くを前記第一のDPFに流通させるとともに、エンジンの高負荷時には排気ガスの多くを前記バイパス通路に流通させる圧力損失を有する」へと変更するものであると認められる。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2.[理 由]2-3-3.で検討したとおり、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上から、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当該技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-09 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2009-12-28 
出願番号 特願2006-86516(P2006-86516)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 536- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前崎 渉亀田 貴志  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 大谷 謙仁
中川 隆司
発明の名称 ディーゼルエンジンの排気浄化装置  
代理人 吉田 芳春  

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