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審判番号(事件番号) データベース 権利
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無効2007800232 審決 特許
無効2010800038 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部無効 2項進歩性  B65D
管理番号 1211807
審判番号 無効2008-800283  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2010-02-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3770833号発明「抗菌性・生分解性抽出容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3770833号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯及び請求の趣旨
1.本件の主な手続は、次のとおりである。
(1)平成12年12月11日:特許出願(国際出願日)。なお、平成12 年1月6日に出願された特願2000-5784に基づく優先権を主張
している。
(2)平成18年2月17日:設定登録
(3)平成20年12月11日付け無効審判請求
(4)平成21年3月9日付け答弁書、及び同日付け訂正請求書
(5)平成21年5月18日付け弁駁書
(6)平成21年8月4日付け口頭陳述要領書(請求人提出。以下、「請求
人陳述要領書」という。)
(7)平成21年8月4日付け口頭陳述要領書(被請求人提出。以下、「被
請求人陳述要領書」という。)
(8)平成21年8月4日:口頭審理
(9)平成21年8月24日付け上申書(請求人提出。以下、「請求人第1
上申書」という。)
(10)平成21年8月24日付け上申書(被請求人提出。以下、「被請求
人第1上申書」という。)
(11)平成21年9月7日付け上申書(請求人提出。以下、「請求人第2
上申書」という。)
(12)平成21年9月7日付け上申書(被請求人提出。以下、「被請求人
第2上申書」という。)

2.請求の趣旨、及び当事者の主張の要旨
請求人は、本件特許の請求項1ないし2に係る発明を無効にするとの審決を求めており、その理由として本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない発明である、又は、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である、よって、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する旨主張し、その根拠として甲第1号証ないし13号証を提示している。
また、請求人は、平成21年3月9日付け訂正請求について、特許法第134条の2第1項又は第5項に規定する要件を満たさないから、当該訂正請求は認められるべきでないと主張すると共に、仮に、当該訂正請求が認められたとしても、訂正後の請求項1ないし2に係る発明は、依然として特許を受けることができない発明である旨主張している。
一方、被請求人は、平成21年3月9日付け訂正請求は、適法であるから認められるべきであり、訂正後の請求項1ないし2に係る発明は、無効理由がない旨主張し、本件無効審判請求は成り立たないとの審決を求めており、根拠として乙第1号証ないし9号証を提示している。

第2 訂正請求について
1.平成21年3月9日付け訂正請求の概要
平成21年3月9日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許請求の範囲について、訂正前(特許登録時)の請求項1が
「織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
前記透水性シートを形成する繊維が、主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み、かつ1?100dtexの繊度を有し
前記濾過面を形成する透水性織物シートの下記式により表されるカバーファクタ値K:
K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)
〔但し、上式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕
が、1600?6400であることを特徴とする、抗菌性・生分解性抽出容器。」
であるのを、
「織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
前記透水性シートを形成する繊維が、黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性及び生分解性を有するポリ-L-乳酸繊維であり、かつ1?100dtexの繊度を有し前記濾過面を形成する透水性シートを構成する織物の下記式により表されるカバーファクタ値K:
K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)〔但し、上式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕が、1600?6400であり、この透水性シートは、精練されたものであることを特徴とする、抗菌性・生分解性抽出容器。」
と訂正することを請求するものである。(訂正事項(1)。下線は訂正箇所であるとして、被請求人が付与したものである。なお、訂正請求書では、訂正事項の符号は丸付き数字であるが、本審決では角括弧付き数字で示す。)
本件訂正請求は、また、発明の詳細な説明について、(a)「細菌」や「細菌等」などを「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌」や「黄色ブドウ状球菌、緑膿菌」と訂正し(訂正事項[2][3]等)、(b)「織物及び編物」や「編織」を「織物」や「織」と訂正し(訂正事項[3][7][15][16]等)、(c)「(主成分として)ポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み」などを「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性及び生分解性を有するポリ-L-乳酸繊維であり」などと訂正し(訂正事項[4][6][26])、(d)透水性シートが精練されたものであることを追加記載し(訂正事項[5][7])、(e)「ポリ乳酸系重合体」などを「ポリ-L-乳酸繊維」と訂正する(訂正事項[11][13]等)ことを請求するものである。
本件訂正請求は、発明の詳細な説明について、さらに、(f)「…繊維の50重量%以上が、ポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体からなるものである…」という記載を削除し(訂正事項[9])、(g)「本発明に用いられる…ポリ乳酸系重合体は…光学異性体D体及びL体の各々のホモポリマーであってもよく、これらの共重合体であってもよく、或は、これらの混合体であってもよい」という記載を削除する(訂正事項[10])ことを請求するものである。

2.当事者の主張
(1)請求人の主張の概要
被請求人の主張を踏まえると、請求項1の訂正は、訂正前の「透水性シートを形成する繊維が、主成分としてポリ乳酸系…重合体を含み」という事項を「透水性シートを形成する繊維が、…ポリ-L-乳酸のみからなり(精練により)界面活性剤を含まない繊維であり」という技術内容に訂正することを意味するものであり、かかる訂正は、文言上特許請求の範囲の減縮といえる。しかしながら、「ポリ乳酸繊維」とは、「繰り返し単位が主に乳酸から構成されている長鎖状合成高分子から成る繊維」(甲第11号証)という意味であるところ、本件特許明細書には、訂正の根拠である実施例1、2の「ポリ-L-乳酸繊維」がポリ-L-乳酸のみからなる繊維であるとは記載されておらず、明細書全体を見てもポリ-L-乳酸のみの繊維が好ましいとも優れているとも記載されていない。さらに、「ポリ-L-乳酸繊維」が界面活性剤を含まないものであることも明細書に記載されていない。したがって、請求項1の訂正は、本件特許明細書の記載に基づく訂正とはいえないから、訂正要件を満たさない。(請求人第1上申書2?3頁など)

(2)被請求人の主張の概要
請求項1の訂正は、訂正前の繊維が、単に「透水性シートを形成する繊維が、主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み」とあったのを、「透水性シートを形成する繊維が、黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性及び生分解性を有するポリ-L-乳酸繊維であり、…精練されたものである」と訂正することにより、(a)発揮する抗菌性が特定の菌に対するものであること、(b)繊維を構成するポリマーをポリ-L-乳酸のみに限定すること、(c)繊維表面にある界面活性剤を精練によって取り除くものに減縮するものである。
本件特許明細書の「発明を実施するための最良の形態」の欄に「D体及びL体の各々のホモポリマーであってもよく」と記載されていたように、実施例1、2は、ポリ-L-乳酸ホモポリマー繊維を用いたものであり、請求項1の訂正は、その実施例1、2の記載に基づき特許請求の範囲を減縮するものである。また、実施例1、2は精練したものであるところ、「精練」とは、繊維表面に付着した不純物を除くことであり(乙第7号証)、繊維表面にある界面活性剤は精練によって取り除かれるのであるから、「ポリ-L-乳酸繊維」が界面活性剤を含まないものであることは、新たな技術要件として付け加えたものではない。
特許明細書に記載した実施例の実験結果から、ポリ-L-乳酸繊維を用いた場合に優れた結果が得られたことは明らかである。本件発明では、染色及び化学処理の工程のために精練をする必要がないにもかかわらず、敢えて精練を行い、繊維表面を清浄にしたものであり、これにより、メカニズムは不明確ながら、黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性を引き出せたものである。
したがって、請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮であり、拡張又は変更するものではなく、訂正要件を満たす。(被請求人第2上申書2?4頁など)
発明の詳細な説明の訂正は、請求項1の訂正に整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明であるから、訂正要件を満たす。(訂正請求書6頁[2]など)

3.当審の判断
(1)請求項1の訂正内容
請求項1の訂正(訂正事項[1])は、(a)透水性シートを形成する繊維について限定する事項について、訂正前に「主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み」であったものを「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性及び生分解性を有するポリ-L-乳酸繊維であり」と訂正し、(b)訂正前に「濾過面を形成する透水性織物シート」であったものを「濾過面を形成する透水性シートを構成する織物」と訂正し、(c)透水性シートについて、訂正前には特定されていなかった「精練されたものである」との限定事項を付加するものである。

(2)目的要件について
ア.請求項1の訂正について
まず、上記(1)(b)について検討すると、訂正前の請求項1の記載では、「透水性シート」という用語が2箇所あり、「透水性織物シート」という用語が1箇所あったところ、全部の用語を「透水性シート」に統一する訂正であるといえるから、明りょうでない記載の釈明に当たるといえる。
次に、上記(1)(a)について検討すると、「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性」という訂正部分は、訂正前に単に「抗菌性」であった事項について、抗菌性菌を有する菌の種類を特定するであるといえるから、この訂正は、技術的事項を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮に当たるといえる。また、「ポリ-L-乳酸繊維であり」とする訂正部分は、訂正前に「主成分としてポリ乳酸系…重合体を含み」であったところ、訂正前の「ポリ乳酸系…重合体」をその一部である「ポリ-L-乳酸繊維」に限定し、「主成分として…含み」という特定事項を「…であり」とすることによって、繊維の全部が「ポリ-L-乳酸繊維」であることに限定するものといえるから、この訂正は、技術的事項を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮に当たるといえる。
上記(1)(c)について検討すると、透水性シートについて、訂正前には限定されていなかった「精練されたものである」との事項を付加するものであるから、技術的事項を限定するものであって、特許請求の範囲の減縮に当たるといえる。
したがって、請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえるから、特許法第134条の2第1項第1号又は第3号に掲げる事項に該当し、特許法第134条の2第1項の規定を満たすものである。

イ.発明の詳細な説明の訂正(訂正事項[2]?[26])について
発明の詳細な説明の訂正は、請求項1の訂正に整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえるから、特許法第134条の2第1項第第3号に掲げる事項に該当し、特許法第134条の2第1項の規定を満たすものである。

(3)新規事項要件について
ア.請求項1の訂正について
まず、上記(1)(b)について検討すると、「透水性シート」は訂正前の請求項1に記載した事項であるから、願書に添付した明細書(訂正前に有効である明細書(特許法29条の2の規定とは異なる)。本件では特許登録時の明細書になる。以下、「訂正前明細書」という。)に記載した事項である。
次に、上記(1)(a)について検討すると、「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性」は、訂正前明細書の「抗菌性試験」の欄(本件特許公報7頁22行?8頁15行)に記載されているから、訂正前明細書に記載した事項である。
上記(1)(c)について検討すると、透水性シートが精練されたものであることは、訂正前明細書の実施例1及び2(本件特許公報5頁2?13行)に記載されているから、訂正前明細書に記載した事項である。
したがって、請求項1の訂正は、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてした訂正といえるから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たすものである。

イ.発明の詳細な説明の訂正について
発明の詳細な説明の訂正は、請求項1の訂正に整合させるための訂正であり、訂正前明細書の記載事項を、訂正前明細書に記載されていた別の事項に変更する訂正(訂正事項[2]?[8]、[11]?[26])と、訂正前明細書の記載事項を削除する訂正(訂正事項[9][10])であるから、形式的には、訂正前明細書に記載されていなかった事項を追加していない。
しかしながら、上記1(c)「(主成分として)ポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み」などを「黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性及び生分解性を有するポリ-L-乳酸繊維であり」などと訂正し(訂正事項[4][6][26])、上記1(e)「ポリ乳酸系重合体」などを「ポリ-L-乳酸繊維」と訂正し(訂正事項[11][13]等)、上記1(g)「本発明に用いられる…ポリ乳酸系重合体は…光学異性体D体及びL体の各々のホモポリマーであってもよく、これらの共重合体であってもよく、或は、これらの混合体であってもよい」という記載を削除する(訂正事項[10])ことなどにより、請求項1の訂正とあいまって、訂正後の明細書には、ポリ-L-乳酸繊維以外の、ポリ-D-乳酸繊維や、ポリ-D-乳酸とポリ-L-乳酸との共重合体繊維(以下、「ポリ-D,L-乳酸繊維」という。)などの記載がないものとなる。
すると、訂正前明細書の発明の詳細な説明には、ポリ-L-乳酸繊維のみならず、それ以外の、ポリ-D-乳酸繊維やポリ-D,L-乳酸繊維などであっても抗菌性を有するという技術的思想が記載されていたが、訂正後の発明の詳細な説明においては、ポリ乳酸繊維として、ポリ-D-乳酸繊維やポリ-D,L-乳酸繊維などではなく、ポリ-L-乳酸繊維だけに注目し、あたかもこれだけが黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性を有するという技術的思想が記載されたものになるといえる。
一方、訂正前明細書を全体としてみても、該技術的思想が訂正前明細書に記載されていたとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の訂正は、形式的には、訂正前明細書に記載されていなかった事項を追加していないものの、上記1(c) (e) (g)などの訂正が、実質的に、訂正前明細書に記載されていなかった上記技術思想を導入するものといえる。
したがって、発明の詳細な説明の訂正は、全体としてみると、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてした訂正とはいえないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に反するものである。

(4)実質上の拡張又は変更要件について
上記(2)アで指摘したように、請求項1の訂正は、形式的には、訂正前の特許請求の範囲の減縮であるといえる。しかしながら、上記(3)イで指摘したように、訂正後の発明の詳細な説明には、訂正前明細書に記載されていなかった上記技術的思想が記載されている。
そうすると、訂正後の請求項1に係る発明は、訂正後の発明の詳細な説明に記載された上記技術的思想に係る発明であるから、本件訂正請求は、請求項1に係る発明を、実質上、別の発明に変更する訂正といえる。
したがって、本件訂正請求は、全体としてみると、実質上特許請求の範囲を変更する訂正であり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に反するものである。

(5)本件訂正請求についての結論
以上のとおりであって、本件訂正請求は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項又は第4項の規定に反するから、本件訂正請求を認めることはできない。

第3 無効理由について
1.本件特許発明
上記のとおり本件訂正請求は認められないので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明2」といい、両者をまとめて示すときには「本件特許発明」いう。)は、特許登録時の明細書の請求項1ないし2に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。その請求項1ないし2の記載を分説して示せば、次のとおりである。
【請求項1】
「A.織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
B.前記透水性シートを形成する繊維が、主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み、
C.かつ1?100dtexの繊度を有し
D.前記濾過面を形成する透水性織物シートの下記式により表されるカバーファクタ値K:
K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)
〔但し、上式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕
が、1600?6400であることを特徴とする、
E.抗菌性・生分解性抽出容器。」
【請求項2】
「F.前記濾過面が、袋状体の表面の少なくとも一部をなしている、請求の範囲第1項に記載の抗菌性・生分解性抽出容器。」
(なお、分説の符号は、請求人が付した符号に従った。)

2.当事者の主張
(1)請求人の主張の概要
ア.特許法第29条1項違反(同項3号の規定に該当する)
(ア)構成要件A、E、Fについて
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平7-310236号公報)の実施例12?14(段落0027?0030)には、繊度24、36、75デニールの熱融着性ポリ乳酸繊維を織り、120℃の熱カレンダーロールを通して得られた、織り目間隔0.1mm?5mmの空隙を持つ紗のティーバッグ性能が「◎:極めて優れている」(表4)であったことが記載されている。紗で作成されたティーバッグは、抽出容器(構成要件E)であり、「織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面」(構成要件A)を有し、「濾過面が、袋状体の表面の少なくとも一部をなしている」(構成要件F)から、甲第1号証には、本件特許発明の構成要件A、E、Fが記載されている。
(イ)構成要件Bについて
甲第1号証の実施例12?14の紗に使用された熱融着性ポリ乳酸繊維は、生分解性を有し、重合体Aと重合体Bとからなる芯鞘型複合フィラメントであり、重合体A、Bは、いずれもポリ乳酸系重合体である。そして、本件明細書に「本発明に用いられるポリ乳酸系重合体とは…D体及びL体の各々のホモポリマーであってもよく、これらの共重合体であってもよく、或は、これらの混合体であってもよい。…該ポリ乳酸系重合体が優れた抗菌性を示し、抽出容器の素材として最適であることを見いだした。」(本件特許公報3頁21?27行)と記載されているから、ポリ乳酸系重合体であれば抗菌性を有し、本件特許発明でいう「ポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体」に該当する。したがって、甲第1号証には、本件特許発明の構成要件Bが記載されている。
なお、被請求人は、ポリ-L-乳酸繊維に精練することが、黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性を発揮させるために必要な独自の処理であるかのように主張しているが、本件明細書には、精練の意義について記載されておらず、精練したポリ-L-乳酸繊維以外のポリ乳酸繊維では、抗菌性が発揮されないことを示す比較例も記載されていないから、被請求人の主張は到底認められない。
(ウ)構成要件Cについて
1dtex(デシテックス)は、10/9(約1.111)デニールであるから、甲第1号証の実施例12?14の24、36、75デニールは、それぞれ約27、40、約83dtexであり、1?100dtexを充足する。したがって、甲第1号証には、本件特許発明の構成要件Cが記載されている。
(エ)構成要件Dについて
甲第1号証の実施例12?14の繊度、織り目間隔、及び甲第4号証52頁30行に記載されたポリ乳酸重合体(PLA)の比重1.25に基づいて、本件特許発明1で定義されたカバーファクタ値Kを計算すると、それぞれ、K=164?5430、K=200?6180、K= 287?7600となる。実施例12?14には経糸密度及び緯系密度が記載されていないため、上記計算では、繊度と織り目間隔から、経糸密度及び緯系密度を計算したが、実施例12?14の繊維断面形状が真円とは限らないことを考慮して、例えば、実施例12について繊維径が真円の場合より50%減の場合及び50%増の場合について、カバーファクタ値Kを計算すると、それぞれ、K=165?6530、K=163?4610となる。また、実施例12?14が紗であることを考慮して、絡み合う2本の経糸を一組みとして織り目間隔を想定した場合には、経糸密度が上記計算値の2倍になり、経糸の寄与が2倍になるので、カバーファクタ値Kは、それぞれ、K=246?8145、K=300?9270、K=431?11400となる。いずれの場合であっても、カバーファクタ値Kは、1600?6400を充足する値を含んでいる。
被請求人は、密度は結晶化温度により変化するから、密度を1.25として計算したことは妥当でない旨主張するが、乙第5号証の記載からみてその変動幅はわずか1%であるので、この変動を考慮しても、甲第1号証の実施例12?14のカバーファクタ値Kは、1600?6400を充足する値を含んでいる。したがって、甲第1号証には、本件特許発明の構成要件Dが記載されている。

イ.特許法第29条2項違反
(ア)甲第2号証について
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平9-308578号公報)には、お茶類の抽出に使用される、ポリエステルフィラメントの織物からなる嗜好性飲料抽出用バッグが記載されているから、本件特許発明の構成要件A、Fが記載されている。また、「抗菌性・生分解性」はないが、本件特許発明の構成要件Eの一部である「抽出容器」に該当する。また、段落0015?0016に繊度を20?30デニールとすることが記載されているから、本件特許発明の構成要件Cが記載されている。さらに、段落0017に経糸及び緯糸の打込密度はそれぞれ1インチ当たり100?120本及び 80?100本程度が適当であることが記載されており、前記繊度及びポリエステルの一般的比重1.38(甲第5号証の2)を用いて、本件特許発明1で定義されたカバーファクタ値Kを計算すると、K=2420?3620となるので、甲第2号証には、本件特許発明の構成要件Dが記載されている。
(イ)甲第3号証について
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平11-76065号公報)には、ナイロンモノフィラメント20dを経糸に、同じく30dを緯糸に構成した110メッシュの織物からなるティーバッグが記載されているから、本件特許発明の構成要件A、C、Fが記載されている。また、「抗菌性・生分解性」はないが、本件特許発明の構成要件Eの一部である「抽出容器」に該当する。さらに、110メッシュの織物とは、経糸、緯糸がそれぞれ1インチ当たり110本の織密度であることを意味する(甲第7号証)から、前記繊度(20d、30d)とナイロンの一般的比重1.14(甲第5号証の2)を用いて、本件特許発明1で定義されたカバーファクタ値Kを計算すると、K=3980となるので、甲第3号証には、本件特許発明の構成要件Dが記載されている。
(ウ)甲第4号証について
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(日本繊維機械学会(第5回)春季セミナー講演要旨集)には、高純度ポリ乳酸を繊維、不織布又はフィルムとしたテラマックについて記載されており、テラマックをポリ-L-乳酸で構成できること、テラマックは生分解性プラスチックであるが、初期分解過程の段階までは静菌活性、抗菌活性、防カビ性を備えていること、具体的には黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有すること、不織布としての用途展開の具体例としてであるが、ティーバッグに用いることが記載されている。したがって、甲第4号証には、本件特許発明の構成要件B、E、Fが記載されている。また、繊維が記載されており、製糸性を確保する上で有利な特性を有していることなどが記載されているから、テラマックの長繊維や、テラマックの短繊維を紡績して得られる紡績糸を織物の繊維として利用することは、技術常識である。
(エ)甲第1?4号証から容易に発明できたことについて
上記(ウ)のとおり、甲第4号証には、ポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体からなる繊維が記載されているから、甲第1号証記載の発明において、熱融着性ポリ乳酸繊維に代えて、甲第4号証記載の繊維を使用することにより、本件特許発明1又は本件特許発明2を発明することは、当業者が容易になし得たことである。同様に、甲第2号証記載の発明のポリエステルフィラメント又は甲第3号証記載の発明のナイロンモノフィラメントに代えて、甲第4号証記載の繊維を使用することにより、本件特許発明1又は本件特許発明2を発明することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)被請求人の主張の概要
被請求人は、本件訂正請求による訂正後の請求項に係る発明には無効理由がない旨主張しており、本件訂正請求による訂正前の本件特許発明には無効理由がない旨の主張はしていない。しかしながら、以下の本件特許発明の構成要件については、実質的に請求人の主張に反論しているといえる。
ア.構成要件B(特に抗菌性)について
本件特許明細書の「発明を実施するための最良の形態」の欄に「D体及びL体の各々のホモポリマーであってもよく」と記載されていたように、実施例1、2は、ポリ-L-乳酸ホモポリマー繊維を用いたものであり、かつ、精練によって繊維表面を清浄にし、すなわち、界面活性剤を取り除いたものであるところ、実施例1、2は、メカニズムは不明確ながら、黄色ブドウ状球菌及び緑膿菌に対する抗菌性を引き出せたものである。
甲第1号証のポリ乳酸繊維については、ポリ-L-乳酸単独成分からなる繊維が記載されていないこと、親水性界面活性剤が付与されているかどうか記載されていないこと、精練されているかどうか記載されていないことから、黄色ブドウ状球菌や緑膿菌に対する抗菌性を有しているかどうかは不明である。
甲第4号証のポリ乳酸繊維「テラマック」は、乙第2号証(藤丸祥子の陳述書)と乙第3号証(特開2000-239969号公報)に記載されているように、親水性界面活性剤で繊維表面を処理したものであり、これにより黄色ブドウ状球菌に対する抗菌性を示すが、緑膿菌に対する抗菌性があるかどうかは不明である。

イ.構成要件Dについて
(ア)甲第1号証の実施例12?14は、紗であるところ、紗は2種の経糸a,bがあり、aは普通の織物のように直線状に位置して緯糸と直角に交錯するが、bは規則的にaの左右に転じながら緯糸と交錯するものである(乙第1号証)。経糸密度N(本/10cm)=10cm/(織り目間隔Xcm+繊維径Ycm)であるので、紗の経糸a,bを一組として考えると、経糸密度N(2)(本/10cm)=10cm/(織り目間隔Xcm+繊維径2Ycm)となる。NとN(2)の比は、N(2)/N=(Xcm+Ycm)/(Xcm+2Ycm)となる。すなわち、経糸密度が何倍になるかは、織り目間隔と繊維径とによって異なるのであり、請求人が主張するように、経糸密度が当初計算値の2倍になるのではない。
(イ)また、紗では、経糸が交錯する箇所には、平織物の矩形状の隙間とは違う小さな隙間が生じる。紗では、矩形状の隙間と小さな隙間の総和をカバーファクタ値として評価すべきであるから、本件特許発明1で定義されたカバーファクタ値Kの計算式を用いて、紗のカバーファクタ値を算出できるものではない。よって、甲第1号証の実施例12?14のカバーファクタ値が、本件特許発明が特定するカバーファクタ値の範囲内にあることは明らかでない。さらに、甲第1号証の実施例12?14の繊維の断面形状が真円とは限らないから、繊維の径は特定できない。また、ポリ乳酸の密度は結晶化温度により変化する(乙5号証の2、38頁)から、請求人が、密度を1.25として計算したことは妥当でない。
(ウ)本件特許発明1が特定するカバーファクタ値の計算式は、乙第8号証(特開平5-339840号公報)に記載されたカバーファクタ値の計算式を変形したものであるところ、乙第8号証の段落【0012】には、布の組織として、平織のほか、「綾織、格子織、バスケット織、袋織、あるいは多軸織など、他の組織を採用しても良い」と記載されているが、紗織物は記載されていない。また、乙第9号証(繊維学会編「第3版繊維便覧」315?316頁)に「F.T.Pierce は,図2・170,2・171 のように…織物(平・綾)の幾何学的構造モデルを考え,クリンプ理論(糸の縮度とカバーファクターの関係)を導き,その条件で織物のジャム構造モデル(目詰まり状態)を求めた」と記載されているとおり、平織物や綾織物と幾何学的構造が異なる紗織物について、カバーファクタ値の計算式を適用できるものではない。
(エ)甲第2号証、甲第3号証記載の発明のカバーファクタ値が、本件特許発明が特定するカバーファクタ値の範囲内にあることは、争わない。

3.当審の判断
(1)特許法第29条1項違反について
ア.甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開平7-310236号公報)には、次の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、生分解性を有し不織布等の繊維構造物を製造するのに好適なポリ乳酸繊維に関するものである。」
「【0004】【課題を解決するための手段】本発明の熱融着性ポリ乳酸繊維は、融点Taを有するポリ乳酸系重合体Aと、ポリ乳酸系重合体Bとからなる複合繊維であって、前記ポリ乳酸系重合体Bはその融点Tbが前記融点Taより10℃以上低いか又は融点を有しないものであることを特徴とするものである。」
「【0006】本発明に用いる上記重合体Aは、L-乳酸単位又はD-乳酸単位を80モル%以上含有するポリ乳酸系重合体が好適である。ポリ乳酸には、光学異性体である、D体とL体とのあることが知られているが、両者を共重合すると融点は低下し、光学純度が十分に低くなると最早融点を示さない非晶性ポリ乳酸となる。重合体Aにおける乳酸単位の光学純度(D体又はL体の比率)は好ましくは80モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上である。」
「【0008】一般には乳酸を発酵法で生産するとL体が産生されるので、工業的にはL-乳酸の方が大量且つ安価に入手し易く、本発明に係るポリ乳酸系重合体は、通常L-乳酸を主体とするものである。しかしながら、D-乳酸を主体とする重合体であっても、L-乳酸の場合と同様の物性のものを得ることができる。」
「【0009】本発明に用いる重合体A及び/又は重合体Bとしては、乳酸に分子量300以上のポリエチレングリコ-ルを共重合したポリ乳酸系重合体を使用することもできる。この場合ポリエチレングリコ-ルは、好ましくは0.1?15重量%程度共重合される。」
「【0018】【実施例】実施例1?3 L-乳酸より合成されたL-ラクチドを原料として溶融重合して得たポリL-乳酸と、L-乳酸にD-乳酸を所定比率で共重合して得たポリD/L共重合乳酸とを準備した。得られたポリL-乳酸及び各種ポリD/L共重合乳酸から、表1に示す如き融点のポリ乳酸を重合体A及び重合体Bとして適宜選択し、これを構成成分として、並列型(サイド・バイ・サイド型)の複合繊維を紡糸し、延伸したのち、熱処理して熱融着性ポリ乳酸複合繊維を製造した。」
「【0021】【表1】


「【0022】実施例4?6 重合体A及び重合体Bとして実施例1?3で用いたものと同様のポリ乳酸系重合体を用い、横断面構造を並列型に代えて、融点の高い方の重合体Aを芯とし且つ融点が低い方の重合体Bを鞘とする芯鞘型の熱融着性複合繊維を製造した。引き続き、実施例1と同様にして不織布を作成した。…」
「【0025】実施例7?11 ポリL-乳酸又はポリD/L-乳酸を多官能基を有する化合物と、グリセリン又はポリエチレングリコ-ルとを表3に示す如き割合で共重合し、融点の異なる各種のポリ乳酸系重合体を調製した。得られたポリ乳酸系重合体から、表3に示す如き融点のポリ乳酸を重合体A及び重合体Bとして適宜選択し、芯鞘型または並列型の横断面構造の複合繊維を溶融紡糸した。得られた複合繊維は熱融着性ポリ乳酸繊維であった。引き続き、実施例1と同様にして不織布を作成した。その結果は表3に示す通りであった。」
「【0026】【表3】


「【0027】実施例12?15 表4に示す如き融点を有する重合体Aと重合体Bとからなる、芯鞘型複合フィラメント糸を製造した。得られた芯鞘型複合フィラメント糸は表4に示す如き性状の熱融着性ポリ乳酸繊維であった。得られた熱融着性ポリ乳酸繊維を低密度の紗に織り、120℃の熱カレンダ-ロ-ルを通し、織り目間隔0.1mm?5mmの各種の空隙を持ち且つ目留めの効いた固い組織の紗を得た。その結果は、表4に示す通りであり、紅茶ティ-バッグ等の食品用包装材として極めて好適であった。」
「【0030】【表4】


以上の記載からみて、甲第1号証の実施例12?14には、次の発明が記載されている。(以下、「甲1号発明」という。)
「a.紗により形成された濾過面を有し、
b.前記紗を形成する繊維が、ポリ乳酸系重合体Aとポリ乳酸系重合体Bとからなる芯鞘型複合フィラメントであり、
c.かつ24、36又は75デニールの繊度を有し
d’.織り目間隔0.1mm?5mmの各種の空隙を持つ
e’.生分解性紅茶ティ-バッグ。」

イ.本件特許発明と甲1号発明との対比
本件特許発明1と甲1号発明とを対比すると、甲1号発明の「紗」は、本件特許発明1の「織物」及び「織物から選ばれた透水性シート」に相当し、以下同様に、「ポリ乳酸系重合体Aとポリ乳酸系重合体Bとからなる芯鞘型複合フィラメント」は「主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体を含み」に、「24、36又は75デニールの繊度」は「1?100dtex の繊度」に、「紅茶ティ-バッグ」は「抽出容器」に相当する。
すると、本件特許発明1と甲1号発明とは、
「A.織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
B.前記透水性シートを形成する繊維が、主成分としてポリ乳酸系生分解性重合体を含み、
C.かつ1?100dtexの繊度を有する
E.生分解性抽出容器。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。
[相違点1]
本件特許発明1は、K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)
〔式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕で計算される値をカバーファクタ値と定義したとき、濾過面を形成する透水性織物シートのカバーファクタ値Kが、K=1600?6400であるのに対し、甲1号発明では、カバーファクタ値Kの値が明確でない点。
[相違点2]
本件特許発明1の抽出容器は、抗菌性を有するのに対し、甲1号発明の紅茶ティ-バッグは、抗菌性を有するか否か不明である点。

ウ.相違点の検討
(ア)相違点1について検討すると、甲1号発明の紗は、繊維(糸)の繊度が24、36又は75デニールであり、織り目間隔0.1mm?5mmの各種の空隙を持つものである。甲第4号証に記載されたポリ乳酸重合体(PLA)の比重1.25を用いて、カバーファクタ値Kを計算すると、緯糸による寄与分K_(B)=(M×(B)^(1/2)/S)は、審判請求書(4-2-1-4)に記載された計算式により、次のようになる。なお、緯糸による寄与分の計算式については、被請求人は反論していない。
繊度24デニールのとき、K_(B)= 81.8?2716
繊度36デニールのとき、K_(B)= 99.9?3088
繊度75デニールのとき、K_(B)=143.4?3801
経糸による寄与分については、紗は2種の経糸a,bが左右に転じながら緯糸と交錯することにより、経糸a,bが近接して配置されることを考慮すると、(織り目間隔Xcm+繊維径2Ycm)毎に2本の経糸a,bが存在しているとするべきである(上記2(2)イ(ア)、及び被請求人陳述要領書6頁c参照)。よって、審判請求書(4-2-1-4)に記載された計算式をこのように修正して、経糸密度Nと、経糸によるカバーファクタ値の寄与分K_(A)=(N×(A)^(1/2)/T)を計算すると、次のようになる。
繊度24デニールのとき、N = 19.6? 489.6
K_(A)= 80.9?2023
繊度36デニールのとき、N = 19.5? 439.2
K_(A)= 98.7?2222
繊度75デニールのとき、N = 19.3? 351.8
K_(A)=140.9?2569
カバーファクタ値Kは、K_(A)とK_(B)の和K=K_(A)+K_(B)であるから、甲1号発明の紗のカバーファクタ値Kは、次のようになる。(なお、四捨五入の関係で、上記K_(A)とK_(B)との単純な和とは異なる数値表記となっている場合がある。)
繊度24デニールのとき、K=162.7?4739
繊度36デニールのとき、K=198.6?5311
繊度75デニールのとき、K=284.3?6370
これらカバーファクタ値Kの範囲は、いずれも、本件特許発明1が特定する範囲1600?6400に重複する。そうすると、相違点1は、表現上の相違であって、実質上の相違ではない。

(イ)被請求人は、甲1号発明の紗のカバーファクタ値Kに関し、(a)経糸が交錯する箇所には、平織物の矩形状の隙間とは違う小さな隙間が生じるから、矩形状の隙間と小さな隙間の総和をカバーファクタ値として評価すべきである、(b)繊維の断面形状が真円とは限らない、(c)ポリ乳酸の密度は結晶化温度により変化する旨主張しているので(上記2(2)イ(イ)、答弁書9頁3?9行(c)、被請求人陳述要領書6?8頁d、同書8?10頁iv及びv参照)、これらの点について検討する。
(a)について検討すると、経糸aとbが交錯する箇所に生じる小さな隙間は、交錯する部分の2本の経糸が、布面を覆う役割としては経糸1本分の役割しか果たさないことによって生じるものであるから、この小隙間の面積は、経糸が交錯する部分の投影面積(乙9号証315頁右欄参照。以下、「交錯面積」という。)と等しい。経糸の径をYとすると、経糸aとbとが直角に交わる場合、交錯する部分の形状は正方形となり、交錯面積sは、s=Y^(2)であるが、直角以外の角度θで交わる場合には、交錯部分の形状が平行四辺形となり、交錯面積s=Y^(2)/sinθ となって、θが小さいほど交錯面積sは大きくなる。紗では緯糸毎に経糸が交錯するため、緯糸間隔と経糸の径とに応じたθの下限値があるが、議論を簡潔にするために(実際には起こり得ないが)、θ=0、すなわち、2本の経糸が完全に重なる極限状態を想定すると、小隙間の面積がこの極限状態より大きくなることはあり得ない。上記(ア)は、小隙間を考慮しないで、すなわち、小隙間の面積が零であるとしてカバーファクタ値を計算しており、一方、この極限状態では、小隙間の面積がその上限値(最大値)となる。実際の紗では、小隙間の面積は、上記(ア)より大きく、この極限状態より小さいことは明らかである。上記のとおり、(ア)のカバーファクタ値は、本件特許発明1が特定する範囲を満たすから、この極限状態のカバーファクタ値も本件特許発明1が特定する範囲を満たすのであれば、実際の紗のカバーファクタ値は、当然、本件特許発明1が特定する範囲を満たす。そして、この極限状態では、2本の経糸が存在するものの布面を覆う効果としては、経糸1本分の効果しか生じないので、経糸によるカバーファクタ値の寄与分K_(A)は、上記(ア)で求めた値の半分になるといえる。
(b)について検討すると、経糸が異形断面の糸である場合があり得、その場合は、実質的な糸径が、断面形状が真円とした場合とは異なる径になり得るが、通常の糸であれば、実質的な糸径は、標準的な、すなわち、断面形状が真円とした場合の糸径の2倍を超えることも、半分以下になることもないといえる。したがって、(b)については、糸径が標準の2倍になった場合及び半分になった場合のカバーファクタ値について検討すれば十分といえる。
(c)について検討すると、被請求人が根拠として挙げている乙第5号証の2の38頁の表2-3には、PLA(ポリ乳酸重合体)の比体積ν(cm^(3)/g)が、0.7786?0.7862 であることが示されており、比重に直せば、1.284?1.272 である。甲第4号証に示された比重 1.25と最も異なる値は、1.284 であるから、(c)については、比重 1.25 の場合と、比重 1.284 の場合について検討すれば十分といえる。
これら各場合について、カバーファクタ値Kを計算すると、下記表1のとおりであり、いずれの場合であっても、本件特許発明1が特定する範囲1600?6400に重複する。そして、甲1号発明のカバーファクタ値Kを評価するに当たり、上記(a)?(c)以外に考慮すべき格別な事情はないから、相違点1は、表現上の相違であって、実質上の相違ではないことが明らかといえる。

<表1> 甲1号発明のカバーファクタ値 K 計算結果
┌────────────────────┐
┌──┬───┬───┤カバーファクタK(織り目間隔0.1?5.0mm)│
│糸径│小隙間│比 重│繊度24denier│繊度36denier│繊度75denier│
├──┼───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│標 │考慮 │ 1.25 │ 162.7?4739│ 198.6?5311│ 284.3?6370│
│ ∧│ せず│ 1.284│ 158.4?4638│ 193.3?5201│ 276.8?6246│
│準円├───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│ 形│極限 │ 1.25 │ 122.2?3727│ 149.2?4200│ 213.9?5086│
│ ∨│ 考慮│ 1.284│ 119.0?3647│ 145.3?4111│ 208.2?4985│
├──┼───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│糸 │考慮 │ 1.25 │ 160.3?3362│ 195.0?3646│ 276.9?4128│
│径 │ せず│ 1.284│ 156.0?3298│ 189.8?3579│ 269.7?4056│
│2 ├───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│倍 │極限 │ 1.25 │ 120.6?2692│ 146.8?2934│ 208.9?3348│
│ │ 考慮│ 1.284│ 117.4?2640│ 142.9?2879│ 203.4?3289│
├──┼───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│糸 │考慮 │ 1.25 │ 164.0?5993│ 200.5?6924│ 288.1?8801│
│径 │ せず│ 1.284│ 159.6?5854│ 195.1?6767│ 280.5?8610│
│半 ├───┼───┼──────┼──────┼──────┤
│分 │極限 │ 1.25 │ 123.1?4635│ 150.5?5380│ 216.4?6900│
│ │ 考慮│ 1.284│ 119.8?4526│ 146.5?5256│ 210.7?6748│
└──┴───┴───┴──────┴──────┴──────┘

(ウ)相違点2について検討すると、本件特許明細書の記載(特許公報3頁14?27行の記載など)からみて、特定の種類のポリ乳酸重合体や、特定の処理をしたポリ乳酸重合体でなければ、抗菌性を有しないのではなく、通常のポリ乳酸重合体であれば抗菌性を奏するものと認められるところ、甲1号発明の紅茶ティ-バッグは、ポリ乳酸系重合体からなるので、抗菌性を有すると認められる。したがって、相違点2は、抗菌性を有することを記載したか否かの単なる表現上の相違であって、実質的な相違ではないといえる。
なお、被請求人は、精練したポリ-L-乳酸ホモポリマー繊維のみが抗菌性を有するかのような主張もしているが、それ以外のポリ乳酸系重合体が抗菌性を有さないとの主張はしていない。さらに、精練したポリ-L-乳酸ホモポリマー繊維のみが抗菌性を有するという技術思想は、上記第2 3(3) イで指摘したように、本件特許明細書に記載された事項ではないから、上記のとおり、相違点2は、単なる表現上の相違であるといえる。

(エ)被請求人は、本件特許発明1が特定するカバーファクタ値の計算式は、乙第8号証に記載された計算式を変形したものであるところ、乙第8号証には、紗織物は記載されていないから、件特許発明1のカバーファクタ値の計算式は、紗織物に適用できない、また、乙第9号証に「F.T.Pierce は…織物(平・綾)の幾何学的構造モデルを考え…その条件で織物のジャム構造モデル(目詰まり状態)を求めた」と記載されているから、平織物や綾織物と幾何学的構造が異なる紗織物について、カバーファクタ値の計算式を適用できるものではないと主張している(上記2(2)イ(ウ))。
しかしながら、本件特許発明1のカバーファクタ値の計算式が、乙第8号証の計算式を変形したものであることについて、十分な根拠が示されていないし、乙第8号証の段落0012には「他の組織を採用しても良い」と記載されているのであるから、乙第8号証の計算式が紗織物を排除しているということもできない。また、乙第9号証は、ジャム構造モデル(目詰まり状態)を求める際に、織物(平・綾)の幾何学的構造モデルを使ったものであって、カバーファクタ値の計算式が織物(平・綾)の幾何学的構造モデルに基づくというものではないし、紗織物についてカバーファクタ値の計算式が適用できないとの根拠を示すものでもない。
そうすると、本件特許発明1のカバーファクタ値の計算式が、紗織物について適用できないという客観的かつ妥当な理由は存在しないというべきであるから、被請求人の上記主張は採用することができない。

エ.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1が特定する事項に加えて、「F.濾過面が、袋状体の表面の少なくとも一部をなしている」との特定事項を備える発明であるところ、この特定事項Fは、甲1号発明も備えている。したがって、上記イ、ウに記載したのと同様な理由で、本件特許発明2も、甲1号発明との実質的相違がない。

オ.特許法第29条1項違反についての結論
以上のとおりであって、本件特許発明1又は2と、甲1号発明との相違点は、いずれも表現上の相違であり、実質的な相違でないから、本件特許発明1又は2と、甲1号発明とは同一である。よって、本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)特許法第29条2項違反について
ア.甲第2号証の記載事項
甲第2号証(特開平9-308578号公報)には、次の記載がある。
「【請求項1】ポリエステルフィラメントの織物からなり、経糸または緯糸のいずれか一方がモノフィラメント、他方が絹様光沢を有するマルチフィラメント糸で構成された織物からなる絹様光沢を呈する嗜好性飲料抽出用バッグ。」
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は嗜好性飲料抽出用バッグに関するもので、更に詳しく述べると主として緑茶、紅茶…健康茶等お茶類の抽出用に使用され…濾過性及び形状保持性に優れた特徴がある。」
「【0008】…ポリエステルには繊維形成能がある多くの化合物が知られているが、特に限定せず広範囲のポリマーの繊維が使用可能である。また、結晶構造により広範囲な物性を有する繊維が知られているがいずれでもよい。…」
「【0015】【発明の実施の形態】本発明の嗜好性飲料抽出用バッグに使用するポリエステルフィラメントの織物の、経糸または緯糸のいずれか一方がモノフィラメントであり…一般には機械的性質が優れたモノフィラメントを経糸とすることが好ましい。また、モノフィラメントの太さは15デニール以上が好ましいが、バッグの濾過性及び抽出時の形状保持性更には経済性の観点より20?30デニール程度の太さが適当である。」
「【0016】マルチフィラメントも経糸または緯糸のいずれにも使用可能であるが…一般には緯糸に使用され、その太さは個々の繊維の太さの合計が15デニール以上であることが好ましい。…マルチフィラメント全体の太さは20?30デニール程度が適当である。」
「【0017】また、織物組織の密度はバッグに封入したお茶の粉末の保管時及びお茶の調製時の形状保持性及び微粉末の漏洩性を考慮すれば、経糸及び緯糸の打込密度はそれぞれ 100?120 本及び 80?100本程度が適当である。」
「【0025】(実施例1)嗜好性飲料抽出用バッグの素材として使用したポリエステルフィラメント織物は平織で…」
「【0026】その織物の打込密度は経糸 114本×緯糸87本/インチである。…」
ここで、上記「嗜好性飲料抽出用バッグ」がポリエステルフィラメント織物からなる濾過面を有することは明らかである。すると、以上の記載からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されている。(以下、「甲2号発明」という。)
「a.平織の織物により形成された濾過面を有し、
b’.前記織物を形成する繊維が、ポリエステルフィラメントであり、
c.かつ20?30デニールの繊度を有し
d’.前記織物の打込密度が経糸 100?120 本/インチ、緯糸 80?100本/インチである
e’.嗜好性飲料抽出用バッグ。」

イ.甲第3号証の記載事項
甲第3号証(特開平11-76065号公報)には、次の記載がある。
「【0015】緑茶、紅茶、健康茶等お茶類の抽出用シートには、抽出性が優れた素材として、通常ナイロン紗、ポリエステル紗等と呼ばれる合繊フィラメントの微細メッシュ平織地が最も適している。…その他、合成繊維を含む織物、編物、不織布、紙等が広く本発明のバッグ及びテトラバッグに使用できる。」
「【0018】<実施例1>ナイロンモノフィラメント20dを経糸に、同じく30dを緯糸に構成した110メッシュの織物を幅120mmにスリットしたものをフィルターに、テトラ型超音波充填包装機にて、ティーバッグを製造した。」
ここで、上記「抽出用シート」が濾過面となることは明らかである。すると、以上の記載からみて、甲第3号証には、次の発明が記載されている。(以下、「甲3号発明」という。)
「a.織物からなる抽出用シートより形成された濾過面を有し、
b’.前記抽出用シートを形成する繊維が、ナイロンモノフィラメントであり、
c.かつ経糸20デニール、緯糸30デニールの繊度を有し
d’.110メッシュの織物である
e’.ティーバッグ。」

ウ.甲第4号証の記載事項
甲第4号証(日本繊維機械学会(第5回)春季セミナー講演要旨集、50?61頁)には、次の記載がある。
(ア)「『テラマック』は…高純度ポリ乳酸を…繊維・不織布・フィルムとしたものである。」(51頁34?37行)
(イ)「『テラマック』の主原料であるポリ乳酸は…乳酸…の重合体からなる…。乳酸にはL-体とD-体の二つの光学異性体が存在するが、『テラマック』はL-体から成るポリ(L-乳酸)(PLLA)のほかに、適当量のD-体を共重合したポリ(D,L-乳酸)(PDLLA)を、用途分野によって使い分けている…。…自然界に広く存在するのはL-乳酸であるが…D-乳酸も有用である。」(52頁13?18行)
(ウ)「1)熱接着性とヒートシール性の向上 PLLAにD-乳酸をランダム共重合することにより結晶化度が低下すると共にTm が降下することが知られている。たとえばD-乳酸を約10%共重合したPDLLA のTm は約 130℃に降下すると共にほとんど非晶性ポリマーとなる。しかし、Tg はほとんど低下しないために、一定の製糸性を確保する上で極めて有利である。これまでのポリ乳酸繊維はほとんどがPLLAに近いものであるが、『テラマック』はこれ以外にもPDLLA を駆使し、たとえば芯鞘複合糸の低融点(130-140℃)の鞘成分として採用することにより、ポリ乳酸系バインダー繊維の開発に世界ではじめて成功した…」(53頁6?13行)
(エ)「2)静菌性と防カビ性の発現 …ポリ乳酸樹脂自体が他の生分解性プラスチックよりも優れた防カビ性を有することは、すでに…確認されている。繊維製品新機能評価協議会の抗菌防臭性に関する黄色ぶどう菌を用いた統一試験結果を表2に示す。…『テラマック』では洗濯回数10洗試料でも顕著な生菌数の減少が認められ、静菌活性の基準値2.2をはるかに上回る高い抗菌活性が得られている。」(53頁17?29行)
(オ)「…『テラマック』の静菌・防カビ作用が後期の微生物分解におけるポリ乳酸分解菌に影響を及ぼすものでないことは、コンポスト試験などにおける良好な結果が証明している。」(54頁6?8行)
(カ)「7.『テラマック』不織布の用途展開 … 7-2.インテリア・生活・雑貨・衛生・メディカル用資材 … ティーバッグ…」(59頁本文1行目?60頁行。特に、59頁本文1行目、60頁21行、及び60頁33行)
以上の記載からみて、甲第4号証には、次の発明が記載されている。(以下、「甲4号発明」という。)
「ポリ乳酸系抗菌性・生分解性繊維を、ティーバッグ用途に用いること。」

エ.甲1号発明と甲4号発明との組合せ
上記(1)で述べたように、甲1号発明と本件特許発明とは同一であるが、甲1号発明の「ポリ乳酸系重合体Aとポリ乳酸系重合体Bとからなる芯鞘型複合フィラメント」に代えて、甲4号発明のポリ乳酸系抗菌性・生分解性繊維を採用することにより、本件特許発明1又は2を発明することも、当業者が容易になし得たことである。

オ.甲2号発明と甲4号発明との組合せ
(ア)本件特許発明1と甲2号発明とを対比すると、甲2号発明の「平織りの織物」は、本件特許発明1の「織物」及び「織物から選ばれた透水性シート」に相当し、以下同様に、「20?30デニールの繊度」は「1?100dtex の繊度」に、「嗜好性飲料抽出用バッグ」は「抽出容器」に相当する。また、甲2号発明の繊維がポリエステルフィラメントであり、20?30デニールの繊度を有し、織物の打込密度が経糸 100?120 本/インチ、緯糸 80?100本/インチであることは、本件特許発明1の構成要件Dに該当する(上記2(1)イ(ア)及び2(2)イ(エ)を参照)。
すると、本件特許発明1と甲2号発明とは、
「A.織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
C.前記透水性シートを形成する繊維が1?100dtexの繊度を有し
D.前記濾過面を形成する透水性織物シートの下記式により表されるカバーファクタ値K:
K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)
〔但し、上式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕
が、1600?6400である
E'.抽出容器。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1の繊維は、「主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体」を含むのに対し、甲2号発明の繊維は、ポリエステルフィラメントである点。
(イ)相違点について検討すると、甲2号発明のポリエステルフィラメントに代えて、甲4号発明のポリ乳酸系抗菌性・生分解性繊維を採用することにより、相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。
(ウ)また、本件特許発明2は、本件特許発明1が特定する事項に加えて、「F.濾過面が、袋状体の表面の少なくとも一部をなしている」との特定事項を備える発明であるところ、この特定事項Fは、甲2号発明も備えている事項である。
(エ)そして、本件特許発明1又は2を全体としてみても、その作用効果は、当業者の予測の範囲内のものであって格別顕著なものとは認められない。したがって、本件特許発明1又は2は、甲2号発明及び甲4号発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

カ.甲3号発明と甲4号発明との組合せ
(ア)本件特許発明1と甲3号発明とを対比すると、甲3号発明の「織物からなる抽出用シート」は、本件特許発明1の「織物から選ばれた透水性シート」に相当し、以下同様に、「経糸20デニール、緯糸30デニールの繊度」は「1?100dtex の繊度」に、「ティーバッグ」は「抽出容器」に相当する。また、甲3号発明の繊維がナイロンモノフィラメントであり、経糸20デニール、緯糸30デニールの繊度を有し、110メッシュの織物であることは、本件特許発明1の構成要件Dに該当する(上記2(1)イ(イ)及び2(2)イ(エ)を参照)。
すると、本件特許発明1と甲3号発明とは、
「A.織物から選ばれた透水性シートにより形成された濾過面を有し、
C.前記透水性シートを形成する繊維が1?100dtexの繊度を有し
D.前記濾過面を形成する透水性織物シートの下記式により表されるカバーファクタ値K:
K=(N×(A)^(1/2)/T)+(M×(B)^(1/2)/S)
〔但し、上式中、Nは経糸密度(本/10cm)を表し、Mは緯系密度(本/10cm)を表し、Aは経糸の繊度(dtex)を表し、Bは緯糸の繊度(dtex)を表し、Tは経糸の比重を表し、Sは緯糸の比重を表す。〕
が、1600?6400である
E'.抽出容器。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1の繊維は、「主成分としてポリ乳酸系抗菌性・生分解性重合体」を含むのに対し、甲3号発明の繊維は、ナイロンモノフィラメントである点。
(イ)相違点について検討すると、甲3号発明のナイロンモノフィラメントに代えて、甲4号発明のポリ乳酸系抗菌性・生分解性繊維を採用することにより、相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。
(ウ)また、本件特許発明2は、本件特許発明1が特定する事項に加えて、「F.濾過面が、袋状体の表面の少なくとも一部をなしている」との特定事項を備える発明であるところ、この特定事項Fは、甲3号発明も備えている事項である。
(エ)そして、本件特許発明1又は2を全体としてみても、その作用効果は、当業者の予測の範囲内のものであって格別顕著なものとは認められない。したがって、本件特許発明1又は2は、甲3号発明及び甲4号発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

キ.付言
(ア)本件の実施例1、2記載の発明について
本件特許明細書の実施例1、2は、本件特許発明の構成要件をさらに限定する「ポリ-L-乳酸繊維」を用いた「平組織織物」であって「精練」した抽出バッグである。しかし、「ポリ-L-乳酸繊維」を用いることは、甲第4号証に記載されており(上記ウ(イ)参照)、ティーバッグの濾過面として「平組織織物」を用いることは周知である(例えば、甲第2号証の段落0025参照)。また、ティーバッグは、湯又は水に直接浸漬して茶等を抽出し、そのまま飲用にするものであるから、ティーバッグ表面から不純物が溶出又は分離して、飲用する液体(茶等)内に含まれることがないように、ティーバッグを清浄にすることは、当業者が当然考慮すべき事項といえる。そうすると、ティーバッグを清浄にするため、ティーバッグを構成する織物を精練することは、当業者が容易に推考し得たことである。
したがって、本件特許明細書に実施例1又は2として記載された発明は、甲1号発明と甲第4号証に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
また、上記と同様の理由で、甲2号発明と甲第4号証に記載された事項とに基づいて、又は、甲3号発明と甲第4号証に記載された事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
(イ)緑膿菌に対する抗菌性について
甲第4号証には、黄色ぶどう菌に対する抗菌性についての記載はあるが、緑膿菌に対する抗菌性についての記載はない。しかしながら、ある菌に対する抗菌性がある場合、他の菌に対してもある程度の抗菌性を有することが普通といえるから、甲第4号証に記載されたテラマックが、緑膿菌に対する抗菌性も有する可能性があると予測することは、当業者が普通になす予測といえる。そして、この予測が正しいか否かは、実験(抗菌試験)により容易に確認し得ることであるから、緑膿菌に対する抗菌性が確認されたならば、それは、当業者の予測の範囲内の事項といえるものである。
抗菌性についての被請求人の主張を全体としてみると、緑膿菌に対する抗菌性は、精練したポリ-L-乳酸繊維によってはじめて奏される作用効果であると主張しているかのようである。しかしながら、緑膿菌に対する抗菌性が、精練したポリ-L-乳酸繊維によってはじめて奏されることは、本件特許明細書に記載された範囲内の事項とはいえないし、被請求人は、そのような条件のときにはじめて緑膿菌に対する抗菌性を奏することを示してもいない。仮に、被請求人が、本件特許発明は、精練したポリ-L-乳酸繊維によってはじめて(黄色ぶどう菌と)緑膿菌に対する抗菌性を有することを特徴とするものである旨主張するのであれば、それが事実であること、すなわち、ポリ-L-乳酸繊維以外のポリ乳酸系重合体(例えばポリ-D,L-乳酸繊維)では緑膿菌に対する抗菌性を有さないことや、ポリ-L-乳酸繊維であっても精練しなければ緑膿菌に対する抗菌性を有さないことを自ら立証すべきである。けだし、特許法第29条の規定などからみて、産業上利用できる発明をしたことは、特許出願人が立証すべき事項といえるからである。

第4 むすび
以上のとおりであって、本件特許発明1及び2は、いずれも、特許法第29条第1項の規定、又は同条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-08 
結審通知日 2009-10-13 
審決日 2009-12-24 
出願番号 特願2001-550128(P2001-550128)
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (B65D)
P 1 113・ 113- ZB (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 直  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 鈴木 由紀夫
佐野 健治
登録日 2006-02-17 
登録番号 特許第3770833号(P3770833)
発明の名称 抗菌性・生分解性抽出容器  
代理人 平野 和宏  
代理人 特許業務法人田治米国際特許事務所  
代理人 平野 和宏  

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