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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03C |
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管理番号 | 1211884 |
審判番号 | 不服2008-27666 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-30 |
確定日 | 2010-02-12 |
事件の表示 | 特願2000- 16661「画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月 3日出願公開、特開2001-209145〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成12年1月26日の出願であって、平成20年6月3日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年8月4日付けで手続補正がなされたが、同年9月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月20日付けで手続補正がなされたものである。 なお、その後、当審にて前置報告書に基づく審尋がなされたのに対し、平成21年7月8日付けで回答書が提出された。 第2.平成20年11月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年11月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の概要 平成20年11月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりとする補正事項を含むものである。 「【請求項1】 支持体の一方面上に、非感光性有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、銀イオンのための還元剤およびバインダーを含有する熱現像感光材料を100℃?140℃の範囲で熱現像する画像形成方法において、 前記熱現像感光材料が還元剤として下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有し、下記一般式(II)で表されるポリハロゲン化合物を少なくとも一種含有し、熱現像の加熱手段として、プレートヒータ方式であって、プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押さえローラが対向配置され、前記押さえローラと前記プレートヒータとの間に熱現像感光材料を通過させる装置を用いて1?20秒で熱現像を行うことを特徴とする画像形成方法。 一般式(I): 【化1】 (式中、R^(1)およびR^(1')はそれぞれ独立に2級または3級のアルキル基である。R^(2)およびR^(2')はそれぞれ独立にエチル基またはプロピル基を表す。Lは-CH_(2)-基を表す。XおよびX’はそれぞれ独立に水素原子またはベンゼン環に置換可能な基を表す。) 一般式(II): Q-(Y)n-CZ^(1)Z^(2)X (式中、Qはアリール基またはヘテロ環基を表し、Yは-SO_(2)-基を表し、nは1を表し、Z^(1)およびZ^(2)は臭素原子を表し、Xは水素原子または電子吸引性基を表す。)」 2.補正の適否の判断 上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明に対して、発明を特定するために必要な事項である、一般式(I)における、R^(1)およびR^(1')、R^(2)およびR^(2')、L、ならびに、一般式(II)における、Q、Y、n、Z^(1)およびZ^(2)の選択肢を限定したものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。 3.引用刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日に頒布されたことが明らかな特開昭53-46020公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。) a.「2.特許請求の範囲 還元性銀源、該銀源に触媒接近して写真用ハロゲン化銀、銀イオンの還元剤及び結合剤より成る フオトサーモグラフイー用画像形成層において、該画像形成層が更に、式: CRBr_(2)CR^(1)R^(2)R^(3) 〔式中RはBr又はClを表わし、 R^(1)は独立して水素、アルキル基、フエニル基又はナフチル基を表わし、 R^(2)は独立して水素、アルキル基又はフエニル基を表わし、 R^(3)は水酸基、アルコキシ基、トリヒドロカルビルシロキシ基、カルバメート基、スルホネート基、カーボネート基、ホスフエート基又はカルボキシレート基を表わす〕から選択された化合物の少なくとも1種を安定化量で含むことを特徴とするフオトサーモグラフイー用画像形成層。」 b.「 本発明はサーモグラフイー用画像形成層に関する。 フオトサーモグラフイー用シート構造体は、通常、写真用ハロゲン化銀に触媒的に接近した非感光性銀源(例えば、ベヘン酸銀又は銀ベンズイミダゾール、又は銀錯塩のような有機銀塩)を含む。該構造体にはまた、サーモグラフイー用現像剤、即ち、銀イオンの還元剤も存在する。露光すると、ハロゲン化銀材料上に潜像が生ずる。この潜像は通常の写真法での潜像と本質的に同じであり、画像形成光の作用によりハロゲン化銀上に形成された、安定な銀金属原子群よりなる。金属銀の存在が、金属銀に電子接近(電子を移動させるのに充分接近)している銀イオンを還元する自触媒作用をすることは周知である。こうしてハロゲン化銀上に潜像が形成すると、触媒銀部位が生じ、該部位はサーモグラフイーにより現像しうる銀源に触媒的に接近しており、サーモグラフイー反応に対し触媒作用をする。それらの触媒銀部位が存在するシートを加熱すると、サーモグラフイーによる現像(熱の刺激下に銀イオンに対する還元剤による銀源の還元)は、触媒部位のまわりで極めて急速に起り、銀源が触媒により活性化されない場所では、起るとしても、極めてゆつくり起る。光が当つた部分で発生した光学密度で、ネガ画像が生ずる。 この技術に伴う重大な問題は、光の当らない部分におけるハロゲン化銀、銀源及び還元剤が、サーモグラフイーによる現像後もシート中でなお活性であるという事実である。最終的フオトサーモグラフイー画像を長時間露光した後には、ハロゲン化銀はほとんど完全に金属銀に変化し、触媒部位はシート全体に存在することになる。触媒部位が存在すると、室温でも、充分に画像のない背景部分に徐々に偽像が生ずる。この偽像は、触媒作用を受けた銀源上に周囲温度で作用して還元剤の緩徐な作用により形成される。理論的には、シート全体が結局完全に暗くなり、元の画像を破壊する。事実、フオトサーモグラフイー用シートは、最低濃度(Dmin)の許容されない程の上昇を示し、かつ長時間、強力な暴光が何年か続いた後には一般的変色を示す。 従来、最終的銀画像を安定化する試みがなされてきたが、これらの試みは種々に成功している。例えば、米国特許第3707377号明細書は、乾式銀安定剤としてハロゲン含有有機化合物の使用を開示している。有用なハロゲン含有化合物を無益な物質と区別する試験が提示された。この試験法は、かなりの数の有用なハロゲン含有有機化合物がその試験によつて除外され、多数の無益な物質がその試験の定義によつて含まれてしまうので、悪いことが判つた。該特許において試験された現実の化合物は、その試験により適当に作用するが、それらの化合物を越える推定は誤りであることが判つた。それらの化合物によつて与えられる安定度も望む程大きくない。 米国特許第3874946号明細書は、乾式銀シート用安定剤としてトリブロムメタンスルホニルベンズチアゾールの使用を示している。この化合物は、一般に、フオトサーモグラフイー構造体に安定剤として良好に作用する(ベンズチアゾール基は写真用安定剤として周知である)。 本発明の目的は、フオトサーモグラフイー構造体用の新規安定剤を提供することである。 本発明のもう一つの目的は、フオトサーモグラフイー用シート中に配合されるフオトサーモグラフイー構造体用の安定剤を提供することである。」 (第1頁右上欄第3行?第2頁左下欄第12行) c.「 本発明の安定剤は、長鎖脂肪酸銀塩源(例えばベヘン酸銀)、サーモグラフイーにより現像しうる銀塩(例えば銀ベンズイミダゾール)及び銀錯塩(例えば1976年2月20日出願された米国特許出願第659839号)と共に、またその場でのハロゲン化により(米国特許第3457075号)又は予め生成したハロゲン化銀(米国特許第3839049号)と共に、被覆紙又は透明フイルム上で、すべての種類のフオトサーモグラフイー構造体において、良好に作用することが判つた。」(第3頁左下欄第2?12行) d.「実施例 本発明の安定剤を評価するのに適当な環境を作るため、対照フオトサーモグラフイー乳剤を作つた。対照は、下記のようにして作つた。 ・・・の溶剤溶液(68:25:7)172.4g中のベヘン酸銀27.6g、N-メチル-2-ピロリドン(増感剤)及びポリビニルブチラール3.0gの均質混合物を、メチルエチルケトン及びメタノール(容量で1:1)12ml中のテトラクロルフタル酸無水物0.48gと共に20分間混合した。次に、これをポリビニルブチラール33g及び次に臭化水銀溶液3.3ml(HgBr_(2)10g/メタノール100ml)と混合した。これに更に、メタノール中の下記の増感染料溶液2.6mlを添加した。・・・。 この最終的混合物を、ポリエステルフイルムベース上にウエツト塗布厚0.1016mm(4ミル)にナイフコーチングし、次に81℃(180゜F)で4分間強制空気乾燥した。 対照の第二トリツプコーチングは、メチルエチルケトン200ml、酢酸セルロース13.0g、フタラジン(トナー)0.6g、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフエノール)2.0g、ビス〔2,2′-ジヒドロキシ-3,3′,5,5′-テトラメチルジフエニル〕-〔2,4,4-トリメトキシベンチル〕メタン2.0g、メタノール18.0ml、アセトン18.0ml及び4-メチルフタル酸0.5gを含む。 既に塗布ずみのポリエステルベース上にこの第二の最終混合物を塗布することによつて、対照フオトサーモグラフイー構造体を形成した。第二被覆も0.1016mm(4ミル)のウエツト塗膜にナイフコーチングし、81℃(180゜F)で3分間乾燥した。タングステン光源に露光し、不活性フツ化炭化水素浴中で127℃(260゜F)で20秒熱処理することにより画像を形成させた。画像を有するフイルム片を螢光ランプの下で24時間1000フイートカンデラに露光した。各試料の最低密度(Dmin)を螢光ランプに露光する前及び後に測定した。 比較されるフオトサーモグラフイー構造体には、種々の量の安定剤を第二のコーチングに、既に被覆したポリエステルシートに適用する前に添加した。結果を下記の表にまとめる。 濃度 Dmin Dmin 化 合 物 モル (重量%) (初め) (終) な し - - 0.07 0.20 2,2,2,-トリブロムエタ 0.0011 0.3 0.06 0.08 ノール 0.00007 0.02 0.06 0.16 2,2,2,-トリブロムエチル 0.0015 0.6 0.07 0.10 ジシクロヘキサンカルバメート ・・・・・・ 同様の構造を有するが、パーブロム基の代りにバークロル基を有する物質を調べたが、安定性に対して顕著な効果を示さないことが判つた。 ・・・・・・ 上記の例は、2,2-ジブロム-2-クロルエタノールの誘導体及び2,2,2-トリブロムエタノール誘導体に関する一般的安定効果を示す。種々の対照の感光性における変化は、小規模のバツチ処理により起る不規則さの結果である。しかし、すべての場合に、本発明の化合物は、測定しうる安定化作用を示した。」(第4頁左上欄第1行?第5頁左下欄下から第5行) ここで、「ベヘン酸銀」、「2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフエノール)」ならびに、「ポリビニルブチラール」及び「酢酸セルロース」は、上記a.記載の「還元性銀源」、「銀イオンの還元剤」、「結合剤」であることは明白である。 また、従来技術を鑑みて、「ベヘン酸銀」を含む混合物に「臭化水銀溶液」を混合したこと等により、「その場でのハロゲン化により・・・生成したハロゲン化銀」(上記c.)を生じたものと認められ、「銀源に触媒接近した写真用ハロゲン化銀」を包含する「画像形成層」が記載されている。 これら記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「還元性銀源、該銀源に触媒接近した写真用ハロゲン化銀、銀イオンの還元剤及び結合剤より成るフオトサーモグラフイー用画像形成層において、該画像形成層が更に、式: CRBr_(2)CR^(1)R^(2)R^(3) 〔式中RはBr又はClを表わし、 R^(1)は独立して水素、アルキル基、フエニル基又はナフチル基を表わし、 R^(2)は独立して水素、アルキル基又はフエニル基を表わし、 R^(3)は水酸基、アルコキシ基、トリヒドロカルビルシロキシ基、カルバメート基、スルホネート基、カーボネート基、ホスフエート基又はカルボキシレート基を表わす〕から選択された化合物の少なくとも1種を安定化量で含むフオトサーモグラフイー用画像形成層に関して、具体例として、ポリエステルベース上に、還元性銀源としてへベン酸銀、還元剤として、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフエノール)を含む該フォトサーモグラフィー用画像形成層を塗布することによって、フオトサーモグラフイー構造体を形成し、フオトサーモグラフイー構造体を不活性過フッ化炭化水素浴中で127℃20秒熱処理することにより画像を形成させる方法。」 4.対比、判断 本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明の、「ポリエステルベース上に」、「該銀源に触媒接近した写真用ハロゲン化銀」、「銀イオン還元剤」、「2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-t-ブチルフエノール)」、「フオトサーモグラフイー構造体」および「画像を形成させる方法」は、それぞれ、本願補正発明の「支持体の一方面上に」、「非感光性有機銀塩」、「銀イオン還元剤」、「一般式(I)で表される化合物」(「一般式(I)」は省略)、「熱現像感光材料」および「画像形成方法」に相当し、刊行物1発明の、「還元性銀源」および「還元性銀源としてベヘン酸銀」は、本願補正発明の、「非感光性有機銀塩」に相当する。 また、刊行物1発明は、「127℃20秒熱処理すること」から、本願補正発明の「100℃?140℃の範囲で熱現像すること」、「1?20秒で熱現像を行うこと」に該当する。 そして、刊行物1発明の「式:CRBr_(2)CR^(1)R^(2)R^(3) 〔式中RはBr又はClを表わし、 R^(1)は独立して水素、アルキル基、フエニル基又はナフチル基を表わし、 R^(2)は独立して水素、アルキル基又はフエニル基を表わし、 R^(3)は水酸基、アルコキシ基、トリヒドロカルビルシロキシ基、カルバメート基、スルホネート基、カーボネート基、ホスフエート基又はカルボキシレート基を表わす〕から選択された化合物の少なくとも1種」と、本願補正発明の「一般式(II)で表される化合物」とは、「ポリブロムメチル基を有する化合物」である点で共通する。 こうしたことから、本願補正発明と刊行物1発明との一致点、相違点は次のとおりと認められる。 [一致点] 「支持体の一方面上に、非感光性有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、銀イオンのための還元剤およびバインダーを含有する熱現像感光材料を100℃?140℃の範囲で熱現像する画像形成方法において、 前記熱現像感光材料が還元剤として下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有し、ポリブロムメチル基を有する化合物を少なくとも一種含有し、1?20秒で熱現像を行う画像形成方法。」(但し、「下記一般式(I)」は、ここでは省略。) [相違点1] 本願補正発明は、「熱現像の加熱手段として、プレートヒータ方式であって、プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押さえローラが対向配置され、前記押さえローラと前記プレートヒータとの間に熱現像感光材料を通過させる装置を用いて」いるのに対し、 刊行物1発明は、「不活性過フッ化炭化水素浴中で」「熱処理」することが記載され、「加熱手段」の規定はない点。 [相違点2]「ポリブロムメチル基を有する化合物」に関し、 本願補正発明は、「一般式(II)で表される化合物」であるのに対し、 刊行物1発明では、異なる構造の化合物である点。 以下、相違点1、2について検討する。 (相違点1について) 「熱現像の加熱手段として」、「プレートヒータ方式であって、プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押さえローラが対向配置され、前記押さえローラと前記プレートヒータとの間に熱現像感光材料を通過させる装置」は周知である。 (例えば、原査定にて周知文献として挙げられた特開平11-133572号公報(請求項及び図面)、特開平11-352659号公報(請求項及び図面)、特開平11-338098号公報(【0145】及び図面)参照。本願明細書においても、既に当該装置が商品として存在することが示されている。) 熱現像感光材料の加熱手段としてこのような装置を採用することは適宜なし得ることであり、これに伴い「不活性過フッ化炭化水素浴中で」との構成を削除することも当業者が容易になし得ることである。 また、その加熱手段を採用することによる格別顕著な作用効果は認められない。 (相違点2について) 本願補正発明の、「一般式(II)で表される化合物」は、熱現像感光材料において、周知のカブリ防止剤(安定剤)である。 例えば、原査定にて引用文献8として引用された特開平9-258367号公報(【0003】、【0008】、【0034】)には、「感度低下や色調を悪化させることなく、感材保存性、及び画像保存性を向上させる」課題の下に「一般式(II)で表される化合物」が用いられ、従来の技術水準としても、「一般式(II)で表される化合物」が記載されている。 さらに、原査定にて引用文献5、6、9及び10として引用された、それぞれ、特開平9-292669号公報(【0118】)、特表平10-512061号公報(第46頁かぶり防止剤A)、特開平10-186568号(【0101】)、特開平11-65020号公報(【0156】)にも、記載されていたものである。 また、刊行物1(上記b.)においても、従来技術として、「乾式銀シート用安定剤としてトリブロムメタンスルホニルベンズチアゾールの使用」を認識しており、「この化合物は、一般に、フオトサーモグラフイー構造体に安定剤として良好に作用する」としている。(なお、安定剤としての作用が有効な限りにおいて、後述するような、この化合物への置換を妨げるものではなく、従来技術として認識していることは阻害要因とはならないことを付け加えておく。) そして、刊行物1発明における「ポリブロムメチル基を有する化合物」は特に保存後のカブリ等を防止する安定剤として含有されているものであって、構造も類似するものであるから、熱現像材料に求められる性能を勘案し、刊行物1発明において、使用されている「ポリブロムメチル基を有する化合物」に替えて、周知の安定剤を使用することは当業者が容易に想到し得る程度のことである。 その作用効果も、熱現像感光材料に求められる性能を調整した程度であって、本願出願当初の明細書の記載からみても、格別顕著な選択的作用効果が示されていたとは認められない。 なお、刊行物1には、特に色調に関する作用効果は記載されていないが、目視される画像の形成において、好ましい色調であることは当然の課題であり、上記のように特開平9-258367号公報にも、「感度低下や色調を悪化させることなく、感材保存性、及び画像保存性を向上させる」課題が記載されている。(他にも、特開平10-197989号公報の【0034】?【0035】、実施例1にて、「一般式(II)で表される化合物」を使用することと色調変化の評価が記載されているように、特に「医療用」の画像について「色調」は、従来より要求されている性質である。) さらに、刊行物1発明において、熱現像感光材料の加熱手段として上記のような周知の装置と周知の安定剤とを、併せて採用することにも、困難性はない。 (請求人の主張について) 請求の理由に述べられた請求人の主張を検討しても、本願補正発明の還元剤、安定剤ともに周知であるから、上記で判断したように、その組み合わせに格段の進歩性は認められない。 次に、平成21年7月8日に提出された回答書において、請求人は、さらに、熱現像感光材料が「医療用」であること、熱現像装置において、「バック面から加熱されるように」との限定を行う用意があることを述べ、その限定に基づき進歩性を主張する。 そして、「バック面から加熱されるように」との限定については、発明の詳細な説明に何らの記載もないところ、実施例で使用されている装置がそのような仕様であることと説明している。 しかしながら、発明の詳細な説明では、「バック面から加熱されるように」との思想に基づき、その装置を採用したものではなく、一般にこのような補正は、新たな技術事項を導入するものであって、認められない。 仮に、新規事項でないとしても、上記周知文献のうち、特開平11-133572号公報(請求項及び図面)には、バック面から加熱されるような装置が記載されており、請求人が手続補足で提出され、明細書にも記載されている、「富士メディカルドライレーザーイメージャーFM-DP L」に関しての記載のある、「Fuji Medical Review No.8, page 39~55」も出願時に公知の文献であるように、バック面から加熱されるようにすることも、周知である。「医療用」とすることも周知である。 また、回答書にて、追加実験として、「本願実施例1の試料1、実施例2の試料46?49を作成し、拒絶査定でご指摘の特開平11-352659号公報に開示された図1の画像形成装置を用いて露光および熱現像を行」った例を追加したが、このような後から提出されたデータは本件の場合には、もともと明細書に記載されていた構成の補足から逸脱しているから、採用できない。一応検討してみても、バック面から加熱することを意図して、支持体、バック層、乳剤層、保護層各層をはじめ熱現像感光材料が設計されていると考えられ、それらを、そのまま、”表面から加熱する装置”に用いて比較することは、当然温度設定も異なり無意味である。 よって、仮に補正を限定的減縮であると認めたとしても、上記の補正案による発明は、進歩性を有さず、該補正は独立特許要件により却下されるものと判断されると考えられる。 最後に、請求人は、回答書の末尾に、「本意見書によっても依然として拒絶理由が解消しない場合には、拒絶審決の前に再度弁明の機会」を要求している。 しかしながら、すでに回答書の提出の機会が「弁明の機会」であり、原審で示された拒絶の理由のない請求項に補正する意志もないものと認められるので、これ以上の弁明の機会を与える必要はないと判断し、このまま審決を行うものとする。 5.まとめ したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6.むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願の請求項に係る発明 平成20年11月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年8月4日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。 「支持体の一方面上に、非感光性有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、銀イオンのための還元剤およびバインダーを含有する熱現像感光材料を100℃?140℃の範囲で熱現像する画像形成方法において、 前記熱現像感光材料が還元剤として下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有し、下記一般式(II)で表されるポリハロゲン化合物を少なくとも一種含有し、熱現像の加熱手段として、プレートヒータ方式であって、プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押さえローラが対向配置され、前記押さえローラと前記プレートヒータとの間に熱現像感光材料を通過させる装置を用いて1?20秒で熱現像を行うことを特徴とする画像形成方法。 一般式(I): 【化1】 (式中、R^(1)およびR^(1')はそれぞれ独立にアルキル基を表し、少なくとも一方が2級または3級のアルキル基である。R^(2)およびR^(2')はそれぞれ独立に水素原子またはベンゼン環に置換可能な基を表す。Lは-S-基または-CH_(2)-基を表す。は水素原子またはアルキル基を表す。XおよびX’はそれぞれ独立に水素原子またはベンゼン環に置換可能な基を表す。) 一般式(II): Q-(Y)n-CZ^(1)Z^(2)X (式中、Qはアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表し、Yは2価の連結基を表し、nは0または1を表し、Z^(1)およびZ^(2)はそれぞれ独立にハロゲン原子を表し、Xは水素原子または電子吸引性基を表す。)」 2.引用刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日に頒布されたことが明らかな特開昭53-46020公報(以下、「刊行物1」という。)には、上記「第2. 3」欄に示したとおりの事項が記載されている。 3.判断 本願の請求項1に係る発明は、上記「第2. 1.」欄に示した本願補正発明における、一般式(I)における、R^(1)およびR^(1')、R^(2)およびR^(2')、L、ならびに、一般式(II)における、Q、Y、n、Z^(1)およびZ^(2)の選択肢がより限定されていないものである。 そうすると、本願の請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2. 3.」欄?「第2. 5.」に記載したとおり、刊行物1に記載の発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願の請求項1に係る発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-10 |
結審通知日 | 2009-12-15 |
審決日 | 2009-12-28 |
出願番号 | 特願2000-16661(P2000-16661) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03C)
P 1 8・ 121- Z (G03C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大瀧 真理 |
特許庁審判長 |
木村 史郎 |
特許庁審判官 |
柏崎 康司 伊藤 裕美 |
発明の名称 | 画像形成方法 |
代理人 | 特許業務法人特許事務所サイクス |