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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 A47K 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A47K |
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管理番号 | 1211894 |
審判番号 | 無効2009-800148 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-07-08 |
確定日 | 2010-02-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3357323号発明「浴室構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3357323号(請求項の数[5]、以下、「本件特許」という。)は、平成11年10月12日に特許出願された特願平11-290180号に係るものであって、その請求項1ないし請求項5に係る発明について、平成14年10月4日に特許の設定登録がなされた。 これに対して、平成21年7月8日に、本件特許の請求項1に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2009-800148号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の同年9月27日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。 また、平成21年11月13日及び同年12月1日に請求人より、平成21年11月16日及び同年12月1日に被請求人より、それぞれ、口頭審理陳述要領書が提出されたもので、同年12月1日に口頭審理が行われたものである。 第2.本件特許発明 本件特許発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?5のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものであり、そのうちの、本件審判事件の対象となる請求項1に係る発明は次のとおりである。 「【請求項1】各々平面形状が略長方形状となされた浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンと、 前記浴槽配置用床の長辺よりも所定長さ短く形成されて、前記浴槽配置用床上の略中央または端部に置き換え自在に配置される浴槽と、 前記浴槽配置用床の前記浴槽を配置したところ以外の非配置部に配置される少なくとも二つのバスボードとを備え、 前記浴槽が前記浴槽配置用床の略中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置することができることを特徴とする浴室構造。」(以下「本件特許発明1」という。) 第3.当事者の主張 1.請求人が提出した証拠、及びその主張の概要 請求人は、平成21年7月8日付けの審判請求書において、甲第1号証ないし甲第14号証を提示し、また、同年12月1日付けの口頭審理陳述要領書において、甲第15号証ないし甲第24号証を提示し、次の無効理由1ないし6を主張した。 無効理由1:本件特許発明1は、産業上利用できないので、本件特許は、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反する。 無効理由2:本件特許発明1に関して、発明の詳細な説明には、移乗台として使用する高位置に支持する支持手段が記載されておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 無効理由3:本件特許発明1に関して、請求項1には、特許を受けようとする発明を特定するたに必要な事項のすべてを記載しておらず本件特許は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。 無効理由4:本件特許発明1に関して、請求項1は、バスボードがどのようにして高位置と低位置に選択的に配置させるのか明確でなく、バスボードの意味も不明瞭であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 無効理由5:本件特許発明1は甲第3?6号証記載のいずれの発明とも同一であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反する。 無効理由6:本件特許発明1は甲1?10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反する。 甲第1号証:特開平8-4331号公報 甲第2号証:特開平9-131272号公報 甲第3号証:「バリア・フリー・デザイン」1997年(平成9年)8月20日 株式会社三輪書店発行 甲第4号証:「老人保健施設・ケアハウス」1998年5月1日 株式会社建築資料研究社発行 甲第5号証:「地域福祉施設」1996年6月1日 株式会社建築資料研究社発行 甲第6号証:「特別養護老人ホーム」1999年6月10日 株式会社建築資料研究社発行 甲第7号証:「栄光の大ナポレオン展」2005年11月3日 東京富士美術館発行 甲第8号証:インターネットのヤフー上で、「ナポレオン」+「風呂」をキーワードに検索した画面をプリントアウトしたもの 甲第9号証:「風呂のはなし」昭和61年3月5日 鹿島出版会発行 甲第10号証:岩波国語辞典 甲第11号証:特開平11-332772号公報 甲第12号証:広辞苑 第四版 甲第13号証:広辞苑 第六版 甲第14号証:平成14年7月17日付け意見書の写し 甲第15、17、19、21及び23号証:それぞれ前特許権者から本件請求人への書面写し 甲第16、18、20、22及び24号証:それぞれ本請求人から前特許権者への書面写し 2.被請求人の主張 これに対して、被請求人は、平成21年9月27日付けの審判事件答弁書及び同年12月1日付けの口頭審理陳述要領書において、以下のとおり主張している。 無効理由1に対して、本件特許発明1では、バスボードは浴槽配置床の浴槽が配置されていないところに配置できればよいのであり、その方法は任意のものを採用できる(明細書にも開示がある)。したがって、本件特許発明1は産業上利用でき、本件特許は、特許法第29条第1項柱書きの規定に違反しない。 無効理由2に対して、当業者であれば公知の支持方法から任意に方法を選択して採用することができる(明細書にも開示がある。)から、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 無効理由3に対して、同条項違反は無効理由となっていない。 無効理由4に対して、バスボードとは、浴槽を跨ぐのが困難な人が浴槽へ入るための乗り移り板、腰を掛ける板として当業者間で認識されており、本件特許発明1は明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。 無効理由5に関して、甲第3?6号証には、本件特許発明1に係るいずれの構成も記載されていないから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反しない。 無効理由6に関して、本件特許発明1は甲1?10証から容易になし得たものではないから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反しない。 3.口頭審理における請求人、被請求人の陳述 請求人及び被請求人は、上記口頭審理において、それぞれ以下のとおり陳述した。 (1)請求人 (a)平成21年11月13日差し出しの口頭審理陳述要領書は撤回する。 (b)審判請求書中の無効理由1(特許法第29条第1項柱書違反)、無効理由3(同法第36条第5項違反)及び無効理由4(同法第36条第6項第1号、第2号違反)については、その主張を撤回する。 (c)無効理由2(同法第36条4項第1号違反)については、次の2点のみを争い、その余の主張については撤回する。 イ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件発明の目的及び効果が不明である。 ロ)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、図1から3に記載の実施形態に関して、バスボードを浴槽への出入りのための移乗台として使用する高位置に支持する支持手段が記載されていない。 (2)被請求人 (a)平成21年11月16日差し出しの口頭審理陳述要領書は撤回する。 (b)本件発明における「バスボード」とは、浴槽を跨ぐのが困難な人が浴槽へ入るための乗り移り板、腰を掛ける板のことであって、床に置いて使用することもできる。その場合には、床板を兼ねることとなる。 (3)請求人・被請求人双方 (a)甲第7号証及び甲第8号証が本件特許出願後の作成であることは争わない。 第4 無効理由についての当審の判断 1.無効理由1、3及び4について 無効理由1、3及び4については、上記「第3の3.(1)(b)」のとおり、請求人はその主張を撤回した。 したがって、上記無効理由1、3及び4については、無効理由についての判断を行わない。 2.無効理由2について 無効理由2について、請求人は、 (イ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、本件発明の目的及び効果が不明である。 (ロ)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、図1から3に記載の実施形態に関して、バスボードを浴槽への出入りのための移乗台として使用する高位置に支持する支持手段が記載されていない。 以上の理由から、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、旨の主張をしている。 (1)無効理由2の(イ)について 本件特許明細書には、以下の記載がある。 (a)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、身体機能が低下(又は麻痺)した場合、軽度の機能低下者が入浴者の場合には移乗台の幅は狭くてもよいが、一方、重度の機能低下者が入浴者である場合には、その移乗台の幅は広い方がよい。すなわち、機能低下の程度に応じて移乗台の幅を変更できることが望まれる。 【0006】この点、特開平8-4331号公報のものでは、カウンターは、一方のみに設けられているので、移乗台の幅を変更することはできない。 【0007】また、身体機能の低下は、左側の機能の低下が激しい人、右側の機能の低下が激しい人など、左右にアンバランスがある。それ故、身体障害者用のユニットバスとしては、あらゆる階層の機能低下者に対しても使用勝手がよいことが望まれる。 【0008】また、集合住宅や、増設・仮設ルームにおいて使用者が変わったりするときにおいて、新たな使用者が高齢のために身体が不自由であったりする場合もある。このような場合、高齢者や身体障害者のための配慮を浴室においてもする事が望ましく、また、身体障害の機能が回復したときには、元の位置に戻すことができるのが望ましい。」 (b)「【0009】・・・この発明の目的は、上記の問題点を解消し、入浴者に応じて簡単に配置を変更することのできる浴室構造を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、各々平面形状が略長方形状となされた浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンと、前記浴槽配置用床の長辺よりも所定長さ短く形成されて、前記浴槽配置用床上の略中央または端部に置き換え自在に配置される浴槽と、前記浴槽配置用床の前記浴槽を配置したところ以外の非配置部に配置される少なくとも二つのバスボードとを備え、前記浴槽が前記浴槽配置用床の略中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置することができることを特徴とする浴室構造。 【0011】このように構成すれば、浴槽は浴槽配置用床の所定の位置に配置することができるので、入浴者に応じてその配置を選択することができる。また、浴槽の両端側または一端側の非載置部には、バスボードを配置することができるので、入浴者に応じてその配置または大きさを選択することができる。」 (c)「【0060】 【発明の効果】 以上説明してきたように、請求項1の発明によれば、浴槽は浴槽配置用床の所定の位置に配置することができるので、入浴者に応じてその配置を選択することができる。また、浴槽の両端側または一端側の非載置部には、バスボードを配置することができるので、入浴者に応じてその配置または大きさを選択することができる。」 これらの記載に基づけば、本件特許発明1は、少なくとも、浴槽や移乗台の配置、及び移乗台の幅を変更することができないことによる、身体機能の個人差や使用状況への変化に対応できない従来の浴室構造を、入浴者に応じて簡単に浴槽の配置を変更可能であり、あわせて移乗台の配置や大きさを選択可能にすることを、その目的とすることがわかる。(上記摘記事項(a)、(b)参照。) そして、そのために、請求項1に記載された、本件特許発明1の構成を採用することにより、所期の目的に対応する効果を奏することも理解できる。(上記摘記事項(b)、(c)参照。) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明1の目的及び効果が明確に理解できる。 なお、請求人はこの点に関して、「被請求人が本件特許の審査段階で提出した意見書(甲第14号証参照)に記載されている発明の目的や効果は、本件特許明細書の記載を参照しても判らないから、本件特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反する」(審判請求書第8頁第15?18行参照。)旨主張しているが、上記意見書は、本件特許発明1を、(例えば、バスボードを高位置と低位置とに選択的に配置できるようにする等)特定の態様として実施したものについてもその目的及び効果を主張したものであって、そのすべてを本件特許発明1が備えている必要がないことは明らかであるから、請求人の上記主張には理由がない。 (2)無効理由2の(ロ) 請求人は、当該理由(ロ)において、「バスボードを浴槽への出入りのための移乗台として使用する高位置に支持する支持手段が記載されていない。」と主張している。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、【0035】?【0049】及び図8?図13にわたり、バスボードを高位置に支持する手段が詳細に記載されている。また、これに限らず、当業者であれば、周知の方法を任意に選択して採用することができるものと認められる。してみると、請求人の上記主張は、採用できない。 なお、本件特許発明1を特定するための事項には、バスボードの使用位置を特定する事項は含まれておらず、本件特許発明1は、バスボードを床に置いて、床板を兼ねる態様を含むものである(本件特許明細書【0026】、【0055】及び、上記「第3の3.(2)(b)」参照)から、必ずしもバスボードを高位置に支持する必要はない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 したがって、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。 3.無効理由5について (1)甲第3?6号証の記載事項 (a)甲第3号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (イ)第52頁に、「浴槽」に関する記載として「浴槽の縁に腰かける場合は、浴槽の高さにあわせて、腰かけ台や乗り移り板(バスボード)を設ける。」と記載されているとともに、浴槽上に載置されたバスボード上に人が腰をかけているようすが描かれている。 (ロ)第55頁には、「障害別の入浴法」が図解的に記載されており、「片マヒ」、「対マヒ」及び「四肢マヒ」のそれぞれに対する、浴槽や移乗台、腰かけ等の配置が描かれている。とくに、左下には、片マヒ用の配置として、浴槽が床幅の中央部分に配置され、その両脇に腰かけが配置されたようすが描かれている。また、下段の右から2番目には、浴槽が右側に配置され、その左に移乗台を配置したようすが描かれている。 上記甲第3号証の摘記事項及び添付図面に図示された事項を総合すると、甲第3号証には、次の発明の記載が認められる。 「マヒの態様に対応させて浴槽や移乗台、腰かけ等を配置し、浴槽の高さにあわせて、腰かけ台や乗り移り板を設ける障害別の入浴方法に用いるそれぞれの浴室構造であって、その一つとして、浴槽が床幅の中央部分に配置され、その両脇に腰かけを配置する構造を含む浴室構造。」(以下、これを「甲3発明」という。) (b)甲第4号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の写真が掲載されている。 (b-1)第84頁右下には、タイル張りの床と思われる浴室の一角に、可搬型と思われる浴槽が配置されており、その両脇に、同じく可搬型と思われる、浴槽と同じ高さのベッド様の台が配置された写真が掲載されている。 (b-2)第114頁下段には、タイル張りの浴室の中央付近に浴槽が配置されており、その左及び手前側に、それぞれ可搬型と思われる、浴槽と同じ高さの載置台が配置された写真が掲載されている。 (b-3)第170頁上段には、タイル張りの浴室に2つの浴槽が間隔を開けて配置され、2つの浴槽の間及び浴槽を挟んだ反対側には、浴槽と同じ高さの載置台が複数配置された写真が掲載されている。 (b-4)第187頁には、タイル張りの床と思われる浴室の複数箇所に浴槽が配置されており、それぞれの浴槽の周りに、浴槽と同じ高さの載置台が複数配置された写真が掲載されている。 上記甲第4号証の摘記事項を総合すると、甲第4号証には、次の発明の記載が認められる。 「タイル張りの床の浴室の適宜の箇所に可搬型または固定の浴槽を配置し、浴槽の周りに、浴槽と同じ高さの可搬型または固定の載置台を複数配置した浴室構造。」(以下、これを「甲4発明」という。) (c)甲第5号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の写真が掲載されている。 (c-1)第89頁右下、第118頁右下及び第174?175頁中央下には、それぞれ、タイル張りの床と思われる部屋の一角に、可搬型と思われる浴槽が配置されており、その両脇に、同じく可搬型と思われる、浴槽と同じ高さのベッド様の台が配置された写真が掲載されている。 上記甲第5号証の摘記事項を総合すると、甲第5号証には、次の発明の記載が認められる。 「タイル張りの床を有する部屋の一角に可搬型の浴槽を配置し、浴槽の周りに、浴槽と同じ高さの可搬型のベッド様の台を複数配置した浴室構造。」(以下、これを「甲5発明」という。) (d)甲第6号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の写真が掲載されている。 (d-1)第44頁中段には、タイル張りの浴室の一壁面に接して浴槽が配置され、浴槽の両側には、一壁面に接して浴槽と同じ高さの載置台が配置された写真が掲載されている。 (d-2)第56頁上段には、タイル張りの浴室の複数の壁面に、それぞれの壁面に接して浴槽が配置され、浴槽の脇には、それぞれの壁面に接して浴槽と同じ高さの載置台が配置された写真が掲載されている。 (d-3)同頁下段には、タイル張りの浴室の一角に、可搬型と思われる浴槽が配置されており、他の一角に、浴槽の高さより低い載置台が配置された写真が掲載されている。 (d-4)第61頁右下には、タイル張りの浴室の一壁面に接して2つの浴槽が間隔を開けて配置されるとともにその1つは浴室の角部に配置され、2つの浴槽の間及び浴槽の両側には、壁面に接して浴槽と同じ高さの載置台が複数配置された写真が掲載されている。 (d-5)第79頁右下には、タイル張りの浴室の一壁面に接して浴槽が配置され、浴槽の脇には、浴槽と同じ高さの載置台が配置された写真が掲載されている。 (d-6)第94頁上段には、タイル張りの床と思われる部屋の複数箇所に浴槽が配置されており、それぞれの浴槽の周りに、浴槽と同じ高さの載置台が複数配置された写真が掲載されている。 (d-7)第181頁中段右には、部屋の一角に、可搬型と思われる浴槽が配置されており、その両脇に、同じく可搬型と思われる、浴槽と同じ高さのベッド様の台が配置された写真が掲載されている。 上記甲第6号証の摘記事項を総合すると、甲第6号証には、次の発明の記載が認められる。 「タイル張り等の床を有する部屋の適宜の箇所に可搬型または固定の浴槽を配置し、浴槽の周りに、浴槽と同じ高さまたは浴槽より低い高さの可搬型または固定の台を複数配置した浴室構造。」(以下、これを「甲6発明」という。) (2)甲各発明と本件特許発明1との対比 (a)甲3発明との対比 本件特許発明1と、甲3発明とを対比すると、甲3発明の「移乗台、腰かけ等」が本件特許発明1の「バスボード」に相当する。また、甲3発明の「浴槽が床幅の中央部分に配置され、その両脇に腰かけを配置する構造」と本件特許発明1の「浴槽が前記浴槽配置用床の略中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置することができること」とは、「浴槽が床幅の中央部分に配置され、その両脇に腰かけを配置する構造」の点で一致する。また、甲3発明が洗い場床を有することは明らかである。 してみれば、両者は、「洗い場を含む床が設けられ、床の幅よりも所定長さ短く形成されて、床幅の中央に配置される浴槽と、少なくとも二つのバスボードとを備え、前記浴槽が前記床幅の中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置する浴室構造。」である点で一致し、次の各点で相違する。 相違点1:床が、本件特許発明1は、各々平面形状が略長方形状となされた浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンからなるのに対して、甲3発明は、浴槽配置用と洗い場とに分かれておらず、防水パンかどうか不明な点。 相違点2:本件特許発明1の浴槽が置き換え自在であるのに対して、甲3発明の浴槽は、置き換え自在ではない点。 上記各相違点について検討する。 相違点1について 本件特許発明1において、床を、浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンから構成したのは、床に浴槽配置用のスペースを確保し、浴槽を置き換え自在とするためである。防水パンで床を構成した浴室が自明であるとしても、浴槽が置き換え自在ではない甲3発明のものにおいては、床全体を防水パンとするか、浴槽配置部分のみを防水パンに置き換えることはあり得ても、甲3発明の床が、当然には浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンからなるとすることはできない。 してみると、甲3発明は、相違点1に係る構成を有していない。 相違点2について 甲3発明には、入浴者や介護者等の使用者が使い勝手がよいように、浴槽やバスボードを適宜に配置する浴槽構造の態様が含まれるものの、それらは、それぞれに対して適する浴槽構造を示唆するにとどまる。 すなわち、甲3発明は、同一の防水パンを有する浴室において、浴槽やバスボードを置き換え自在に構成することによって、使用者や使用状況の変化に対応しようとするものではない。この点において、甲3発明は、相違点1に係る構成と相まって浴槽及びバスボードを置き換え自在とする本件特許発明1とは、異なるものである。 してみると、甲3発明は、相違点2に係る構成を有していない。 以上のとおりであるから、本件特許発明1と甲3発明とは同一ではない。 (b)甲4?6発明との対比 本件特許発明1と、甲4?6発明とを対比すると、甲4?6発明の「可搬型」が本件特許発明1の「置き換え自在」に相当する。同じく「台」が「バスボード」に相当する。 また、甲4?6発明の「浴槽の周りに、台を複数配置した」と本件特許発明1の「浴槽配置用床の浴槽を配置したところ以外の非配置部に配置される少なくとも二つのバスボードとを備え」とは、「浴槽を配置したところ以外の床に配置される少なくとも二つのバスボードを備え」る点で一致する。 また、甲4?6発明が「浴槽を床の長辺よりも所定長さ短く形成し、浴槽が浴槽を床の略中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置することができること」及び洗い場床を有することは明らかである。 してみれば、両者は、「洗い場床を含む床と、前記床の長辺よりも所定長さ短く形成されて、前記床上の略中央または端部に置き換え自在に配置される浴槽と、前記浴槽を配置したところ以外の床に配置される少なくとも二つのバスボードとを備え、前記浴槽が前記床の略中央に配置されたとき、前記浴槽の両端側にバスボードを配置することができる浴室構造。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点3:床が、本件特許発明1では、浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンからなるのに対して、甲4?6発明では、浴槽配置用と洗い場とに分かれておらず、防水パンではない点。 相違点3について検討する。 上記相違点1について検討したとおり、本件特許発明1において、床を、浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンから構成したのは、浴槽を置き換え自在とする特定の場所を確保するためである。これに対して、甲4?6発明の浴槽が置き換え自在なのは、浴槽自体を可搬型としたからにほかならない。すなわち、甲4?6発明は、可搬型浴槽を浴室全体の任意の位置に置き換え自在とするものであるから、防水パンで床を構成した浴室が自明であるとしても、床を、浴槽配置用床と洗い場床とに分ける必然性はない。 したがって、甲4?6発明は、相違点3に係る構成を有しない。 以上のとおりであるから、本件特許発明1と甲4?6発明とは同一ではない。 (c)まとめ そうすると、本件特許発明1は、甲第3?6号証に記載のいずれの発明とも同一であるとは認められない。 したがって、請求人の主張する無効理由5によっては、本件特許を無効とすることはできない。 4.無効理由6について (1)甲1?10号証の記載事項 (a)甲第1号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a-1)「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、健常者用と要介護者用とに使用者等が容易に仕様変更できる2方向介護ユニットバスに関する。」 (a-2)「【0009】 【実施例】この発明の一実施例を図1ないし図3に基づいて説明する。・・・防水パン1は、各々平面形状が略矩形となった浴槽配置用床2および洗い場床3を、これらが互いに長辺で隣接して並ぶように一体に形成したものである。洗い場床3の出入り口側の縁部には、これに沿って浴室外との段差を吸収する傾斜帯材4が設けられている。 【0010】 浴槽配置用床2に配置する浴槽5は、その長辺L1 が浴槽配置用床2の長辺Lよりも所定長さW2 だけ短く形成され、浴槽配置用床2上の任意の端部に寄せて置き換え自在に配置される。・・・」 (a-3)「【0011】この浴槽端部カバー10上の浴槽5と壁面間の隙間空間には、浴槽隣接カウンタ11と洗い場床カウンタ12とに2分割されたカウンタのうちの浴槽隣接カウンタ11が配置される。これらカウンタ11,12は自立可能な箱状態であり、浴槽隣接カウンタ11は、洗い場床3上に置き換え自在である。洗い場床カウンタ12は洗い場床3上に固定設置される。浴槽隣接カウンタ11の長辺は浴槽5の短辺W1 と同じに、高さは洗い場床3から浴槽5の上面までの高さHに等しくしてある。また、浴槽隣接カウンタ11の短辺幅W2 は、浴槽配置用床2の端部の隙間部分に丁度収まる寸法に設定される。なお、この短辺幅W2 は、洗い場床3側において浴槽5に隣接させて浴槽隣接カウンタ11を配置したときに、入浴者が移乗台として使用できる寸法、例えば200?400ミリの幅とすることが好ましく、この実施例では300ミリとしてある。」 (a-4)「【0014】高齢者などの要介護者ができた場合は、図3に示すように配置替えする。この場合、浴槽5は洗い場カウンタ12のある端部側へ寄せ、他端に浴槽端部カバー10を配置してその上を介護空間として開けておく。浴槽隣接カウンタ11は、例えば浴槽5の長辺に隣接させて洗い場床3上に配置する。これにより、入浴者を浴槽5の長辺側と短辺側の2方向から介護でき、介護が楽に行える。浴槽隣接カウンタ11は、浴槽5への出入りの移乗台として利用でき、足腰の弱った高齢者等でも楽に浴槽5に出入りできる。・・・」 上記甲第1号証の摘記事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明の記載が認められる。 「各々平面形状が略長方形状となされた浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンと、 前記浴槽配置用床の長辺よりも所定長さ短く形成されて、前記浴槽配置用床上の両端部に置き換え自在に配置される浴槽と、 前記浴槽配置用床の前記浴槽を配置したところ以外の非配置部または洗い場床に配置される浴槽隣接カウンタとを備え、 前記浴槽が前記浴槽配置用床の一端部に配置されたとき、前記浴槽の他端部側に浴槽隣接カウンタを配置することができる浴室構造。」(以下、これを「甲1発明」という。) (b)甲第2号証の記載事項 本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。 (b-1)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、浴槽の風呂蓋収納構造及び風呂蓋に関するものである。」 (b-2)「【0005】本発明は、・・・浴槽の風呂蓋が、特に脚腰が弱っている高齢者等の利用者の歩行の障害にならない風呂蓋を収納する収納構造を提供することを目的とする。又、本発明は、脚腰が弱っている高齢者等の利用者が、入浴の際風呂蓋を収納した収納凹部を身体を預ける腰掛台として利用できるようにすることを目的とする。」 (b-3)「【0010】請求項3は、請求項1、又は請求項2において浴槽のリムを浴槽両側の対向する壁側に夫々延出して、リムの上面と略面一の延出面を設け、各延出面に夫々収納凹部を設けた。 【0011】従って高齢者は、浴槽の両側の収納凹部の内自分が利用し易い方の収納凹部を利用して腰掛けられる。」 (b-4)「【0018】・・・ 図1は本発明の浴槽の第1実施例の浴槽の風呂蓋収納構造を適用した浴室の斜視図であり、浴室1は、図示せぬ建物躯体内に床パン2を設置し、床パン2の周縁部に形成された段差状の壁パネル載置部3上に、複数の壁パネル4を建て並べ、壁パネル4上に図示せぬ廻し縁を介して天井パネルを張設した、いわゆるプレハブ式のものである。」 (b-5)「【0023】延出面19に、リム15の上面よりも高さの低い収納凹部35を設ける。収納凹部35は、浴槽8のリム15と、新たに延出面19の三方に設けられたリム36、37、38によって囲繞される。そして脚腰が弱っている高齢者等の利用者が入浴する前に、介護者が浴槽8から風呂蓋20を外して、この収納凹部35に収納しておく。」 (b-6)「【0027】収納凹部35は、上記4枚の風呂蓋20を収納した状態でリム15、及び36?38と上面が面一と成る深さに設ける。そして収納凹部35に4枚の風呂蓋20を収納した状態で、風呂蓋20の上面が腰掛台を兼ねる。 【0028】これにより収納凹部35に収納された複数枚の風呂蓋20は、壁部25に四方を囲まれ、リム15と面一に収納されて動かないから、安定した腰掛台が構成される。そして脚腰が弱っている高齢者等の利用者は、入浴の際腰掛台となった風呂蓋20の上に一度腰掛け、手を浴槽8のリム15等に付いて支えながら、身体を回して脚を上げ、上げた脚を浴槽8内に入れ、すこしずつ重心を移動させて浴槽8内に身体を沈めることができるから、安心して楽に利用することができる。」 上記甲第2号証の摘記事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明の記載が認められる。 「各々平面形状が略長方形状となされた浴槽設置部(本件特許発明1の「浴槽配置用床」に相当)と洗い場(同「洗い場床」に相当)とが設けられた床パン(同「防水パン」に相当)と、 前記浴槽設置部の長辺方向に延出された延出面を設けたリムを両脇に有し、浴槽設置部と同じ長さに形成された浴槽と、 前記延出面に設けた収納凹部にリムと面一に配置される少なくとも二つの風呂蓋(同「バスボード」に相当)とを備え、 前記風呂蓋が利用者の入浴の際腰掛台となる浴室構造。」(以下、これを「甲2発明」という。) (c)甲第3?6号証の記載事項 甲第3?6号証の記載事項及び記載された発明は、上記「第4の3.(1)」に記載したとおりである。 (d)甲第7号証の記載事項 甲第7号証には、皇帝ナポレオンの浴槽の写真が掲載されている。 なお、甲第7号証が本件特許出願後の作成であることは、請求人と被請求人との間に争いがない。(上記第3の3.(3)(a)参照。) (e)甲第8号証の記載事項 甲第8号証には、皇帝ナポレオンの浴室の写真が掲載されている。 なお、甲第8号証が本件特許出願後の作成であることは、請求人と被請求人との間に争いがない。(同上) (f)甲第9号証の記載事項 甲第9号証には、「廻立殿御湯槽」、「へそ風呂」及び「ウォータークロゼット」に関する事項が記載されている。 (g)甲第10号証 甲第10号証には、岩波国語辞典の「たらい」及び「おけ」に関する事項が記載されている。 (c)対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「浴槽隣接カウンタ」は、本件特許発明1の「バスボード」に相当する。 してみれば、両者は、「各々平面形状が略長方形状となされた浴槽配置用床と洗い場床とが設けられた防水パンと、 前記浴槽配置用床の長辺よりも所定長さ短く形成されて、前記浴槽配置用床上の両端部に置き換え自在に配置される浴槽と、 前記浴槽配置用床の前記浴槽を配置したところ以外の非配置部に配置されるバスボードとを備えた浴室構造。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点4:本件特許発明1においては、浴槽の両端側にバスボードを配置することができるように浴槽を浴槽配置用床の略中央に配置可能なのに対して、甲1発明では、浴槽は両端部のどちらかにしか配置されず、したがって浴槽の両端側にバスボードを配置することができない点。 相違点4について検討する。 本件特許発明1は、バスボードと浴槽を置き換えることによって、バスボードの配置や大きさを選択可能にするものであり、その具体的手段が、浴槽の両端側にバスボードを配置することができるように浴槽を浴槽配置用床の略中央に配置可能に構成したことである。 甲2発明は、浴槽の両端側のリムに延出面を設け、そこにバスボードを配置する構成を有する。しかしながら、甲2発明は、そもそも浴槽を置き換え自在に配置することを想定したものではない。すなわち、甲2発明は、単に浴槽とバスボードの上記のような配置例を示唆するにとどまる。そうであるから、甲2発明が浴槽の両端側にバスボードを配置したものであるとしても、バスボードと浴槽を置き換えることによって、その配置や大きさを選択可能にすることは想到し得ない。 甲1発明においても、バスボードと浴槽とは置き換え可能であっても、浴槽を浴槽配置用床の略中央に配置することができないため、バスボードの大きさを選択可能にすることはできない。 してみると、結局、置き換え自在な浴槽の両端側にバスボードを配置することができるように浴槽を浴槽配置用床の略中央に配置可能とする相違点4に係る構成は、甲1、甲2いずれの発明にも記載されていないから、本件特許発明1は、甲1及び甲2発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたのもとはいえない。 また、甲第3?6号証に、置き換え自在な浴槽とバスボードが記載されているとしても、上記「第4の3.(2)(b)」の相違点3について検討したとおり、甲第3?6号証に記載のものは、置き換え自在な浴槽とバスボードを実現するために可搬型のものを採用したものであるから、防水パンに浴槽配置用床を設ける甲1発明に、これら甲第3?6号証に記載のものを適用することはできない。 さらに、甲第7?10号証にも、相違点4に係る構成が記載若しくは示唆されているとは認められない。 (d)まとめ そうすると、本件特許発明1は、甲第1?10号証に記載のものに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、請求人の主張する無効理由6によっては、本件特許を無効とすることはできない。 なお、甲第11?24号証は、上記判断に影響を与えるものではない。 第5 むすび 以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を、特許法第29条第1項第3号、または特許法第29条第2項の規定に違反するとすることができないから、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当せず、また、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることができないから、同法第123条第1項第4号の規定に該当せず、無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-09 |
結審通知日 | 2009-12-11 |
審決日 | 2009-12-24 |
出願番号 | 特願平11-290180 |
審決分類 |
P
1
123・
536-
Y
(A47K)
P 1 123・ 121- Y (A47K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 横井 巨人 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
山本 忠博 山口 由木 |
登録日 | 2002-10-04 |
登録番号 | 特許第3357323号(P3357323) |
発明の名称 | 浴室構造 |
代理人 | ▲高▼野 俊彦 |
代理人 | 高松 利行 |
代理人 | 志波 邦男 |