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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1212032
審判番号 不服2007-14838  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-24 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 平成9年特許願第193704号「湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年2月9日出願公開、特開平11-35819〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年7月18日の出願であって、平成18年5月2日付けで拒絶理由が通知され、同年7月7日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成19年4月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月24日に審判請求がなされ、同年6月25日に手続補正書とともに審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年7月24日付けで前置報告がなされ、当審において平成21年3月11日付けで審尋がなされ、同年5月18日に回答書が提出されたものである。



2.本願発明
本願請求項1?9に係る発明は、平成19年6月25日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
1) 末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
2) オキサゾリジン化合物と、
3) 式(1)で示されるシリルエステル基を有する化合物を、前記ウレタンプレポリマー100重量部に対し、0.1?20重量部と、
4) 式(2)で示されるシリルエステル基を有する化合物を、前記ウレタンプレポリマー100重量部に対し、0.01?10重量部と
を含有する湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物。
【化1】


(式(1)中、R^(1)は炭素数10?20の炭化水素基を、mは1?3の整数を表す。式(2)中、R^(2)は水素原子、または、炭素数1?9の炭化水素基を、nは1?3の整数を表す。)」



3.原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成18年5月2日付けで通知された拒絶理由は、以下の理由1である。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
≪理由1について≫
○請求項1,2
○引用文献1?3

○請求項3
○引用文献1?3
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平7-138336号公報
2.特開平8-169929号公報
3.特開平7-216045号公報」
なお、この拒絶理由は、願書に最初に添付した明細書における特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明に対して通知されたものである。



4.刊行物記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された、
引用文献1(特開平7-138336号公報;以下、「刊行物A」という。)
引用文献3(特開平7-216045号公報;以下、「刊行物B」という。)
には、それぞれ、次の事項が記載されている。

[刊行物A]
[A1] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、下記一般式[1]で表されるオキサゾリジン系化合物と、下記一般式[2]または[3]で表されるシリルエステル化合物と、下記一般式[4]で表されるモノイソシアナート化合物とを含むウレタン湿気硬化型組成物。
【化1】 (一般式[1]の化学構造式及びその定義は省略)
CH_(3)

R^(7)─(Si─O)_(m)─R^(8)

OCOR^(6) ・・・・一般式[2]
ここで、R^(6)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R^(7)は炭素数1?5のアルコキシ基であり、R^(8)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、mは整数である。
R^(9)_(4-n)Si(OCOR^(10))_(n) ・・・・一般式[3]
ここで、R^(9)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基、R^(10)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、nは1?20の整数である。
R^(11)─N=C=O ・・・・一般式[4]
ここで、R^(11)は炭素数1?10のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基またはアラルキル基であって、アクリロイル基、スルホニル基を有していてもよい。
【請求項2】下記一般式[5]で表されるカルボジイミド化合物を含む請求項1に記載のウレタン湿気硬化型組成物。
R^(12)─N=C=N─R^(13) ・・・・一般式[5]
ここで、R^(12)及びR^(13)は、それぞれ独立に、炭素数1?10のアルキル基、アルキル基で置換されていてもよいアリール基、アラルキル基、アルキル基で置換されていてもよい脂環式アルキル基、または複素環を含むアルキレン基である。
……
【請求項4】前記シリルエステル化合物の配合量が、前記末端イソシアナート型ポリウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部である請求項1?3のいずれかに記載のウレタン湿気硬化型組成物。
……
【請求項6】前記カルボジイミド化合物の配合量が、前記末端イソシアナート型ポリウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部である請求項2?5のいずれかに記載のウレタン湿気硬化型組成物。」〔特許請求の範囲〕
※なお、上記請求項1中の一般式[3]の定義には「nは1?20の
整数」とあるが、Si(ケイ素原子)は一般的に四価の原子である
こと、刊行物Aの段落【0021】中の一般式[3]の定義には「
nは1?4の整数」とあることからみて、これは、「nは1?4
の整数」の誤記と認められる。
[A2] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、硬化時間が短く、貯蔵安定性に優れ、発泡せずに硬化するウレタン湿気硬化型組成物に関する。」〔段落【0001】〕
[A3] 「【0007】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明は、上述の従来技術における問題点を解決し、オキサゾリジン系化合物、シリルエステル化合物、モノイソシアナート化合物、及び必要によりカルボジイミド化合物をウレタンプレポリマーに配合して、硬化時間が比較的短く、貯蔵安定性に優れ、発泡せずに硬化する湿気硬化型一液型ポリウレタン組成物を提供することを目的とする。」〔段落【0007】〕
[A4] 「【0019】シリルエステル化合物は、下記一般式[2]または[3]のいずれかの構造を有し、カルボン酸とシラノールから製造される。すなわち、本発明で使用されるシリルエステル化合物は、シロキサン結合Si─O─Siを有する重合エステルと、この構造を有しない単量体エステルとに分けられ、いずれのエステルであってもよい。シリルエステル化合物は、水の存在下において遊離酸の供給源として作用する。ここで遊離された酸は、オキサゾリジン系化合物の開環を促進させ、オキサゾリジン系化合物とウレタンプレポリマーとの重合を促す架橋促進剤となる。」〔段落【0019】〕
[A5] 「【0020】
CH_(3)

R^(7)─(Si─O)_(m)─R^(8)

OCOR^(6) ・・・・一般式[2]
ここで、R^(6)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、水の存在によって、エステル結合が切れて酸が遊離される。遊離される酸としては、酢酸、プロピオン酸が好ましい。R^(7)は、炭素数1?5のアルコキシ基であり、炭素数1?3であることが好ましい。R^(8)は、炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基である。mは整数である。」〔段落【0020】〕
[A6] 「【0021】
R^(9)_(4-n)Si(OCOR^(10))_(n) ・・・・一般式[3]
ここで、R^(9)は炭素数1?5のアルキル基、アリル基またはアラルキル基、R^(10)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、炭素数2または3であることが好ましい。nは1?4の整数である。シリルエステル化合物の配合量は、ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1?10重量部であることが好ましい。配合量をこの範囲内としたのは、0.1重量部未満では所蔵安定性が悪く、10重量部を超えて添加しても効果が上昇せず、コストが上昇するだけであるからである。」〔段落【0021】〕
[A7] 「【0026】本発明では、カルボジイミド化合物のこうした性質を利用して、貯蔵安定化剤として組成物に配合しているが、以下の二つの作用を通して組成物の貯蔵安定性に寄与している。第一は、系中に配合されている化合物に結晶水等の形で含まれている水分を捕捉する作用である。これらの水分は、イソシアネート基間の架橋、およびオキサゾリジン環の開環とそれに伴う架橋形成を促進するため、カルボジイミド化合物で捕捉して系から除去することが必要である。第二は、系中の遊離カルボン酸を捕捉する作用である。遊離酸は、オキサゾリジン環の開環を促進しこれに伴って架橋形成が進行するため、カルボジイミド化合物で捕捉して除去する必要がある。カルボジイミド化合物の配合量は、ウレタンプレポリマー100重量部に対し0.1?10重量部であることが好ましいが、1?4重量部とすると効果が著しい。配合量をこの範囲内としたのは、0.1重量部未満では貯蔵安定性が低下し、10重量部超では硬化性が低下するからである。」〔段落【0026】〕
[A8] 「【0055】
【発明の効果】
……
本発明のウレタン湿気硬化型組成物は、タックフリータイムが1?3時間程で硬化時間が短く、シーリング剤等として打設後の硬化が速いので、その上に速やかに塗料等を塗布することが可能である。また、貯蔵安定性が良く、経時的な粘度の上昇が小さいので、長期貯蔵後であっても、製造直後の組成物を使用した場合と比較して遜色のない作業性が保たれている。さらに、貯蔵時及び硬化時に発泡がないことから、硬化後の組成物の強度、品質の低下を招くことがない。」〔段落【0055】〕


[刊行物B]
[B1] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、下記式[I]または[II]で表される加水分解性物質と、脂肪酸エステルで表面処理してなる沈降炭酸カルシウムと、ヒュームドシリカを含む湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】


ここで、R^(1)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、nは整数である。
【化2】


ここで、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基である。
【請求項2】前記加水分解性物質の配合量が、前記末端イソシアナート型ポリウレタンプレポリマー100重量部に対して、0.5?10重量部である請求項1に記載の湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物。
…… 」〔特許請求の範囲〕
[B2] 「【0018】本発明で用いる加水分解性物質は、下記式[I]または[II]で表される化合物で、具体的にはシリルエステル化合物であり、後述するヒュームドシリカと共にウレタンプレポリマーに添加することによって、貯蔵安定性の向上を図っている。シリルエステル化合物は、シロキサン結合(Si─O─Si)を有する下記式[I]で表される重合体と、シロキサン結合を有しない下記式[II]で表される単量体エステルとに分けられるが、いずれのものを使用してもよい。」〔段落【0018】〕
[B3] 「【0019】
【化5】


ここで、R^(1)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、炭素数は5?20であることが好ましく、10?20であることが特に好ましい。nは整数であり、1?200であることが好ましく、1?100であることが特に好ましい。」〔段落【0019】〕
[B4] 「【0020】
【化6】


ここで、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、炭素数は1?2であることが好ましい。R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、炭素数は5?20であることが好ましく、10?20であることが特に好ましい。」〔段落【0020】〕
[B5] 「【0021】これらの化合物は、信越化学(株)よりKF-910として市販されているもの(上記式[I]の構造式を有し、R^(1)=C_(17)H_(35)、n=20の化合物である)、または横浜ゴム(株)で合成したもの(上記式[II]の構造式を有し、R^(2)、R^(4)=CH_(3)、R^(5)=CH_(3)(CH_(2))_(17) の化合物)を使用することが好ましい。」〔段落【0021】〕
[B6] 「【0022】これら加水分解性物質の添加量は、上記末端イソシアネート型ウレタンプレポリマー100重量部に対して、0.5?10重量部の範囲であることが好ましい。添加量をこの範囲としたのは、0.5重量部未満では本発明の湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物の貯蔵安定性が低下し、10重量部を超えて添加しても効果は変わらないためである。1?5重量部の範囲が特に好ましい。」〔段落【0022】〕
[B7] 「【0051】
【発明の効果】本発明により、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム、親水性ヒュームドシリカまたは疎水性ヒュームドシリカのうちのいずれか一方、シリルエステル化合物を含有する湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物であって、貯蔵安定性が良く、しかも引張強度、剪断接着力に優れ、伸びの良い組成物を得ることができた。また、本発明の湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物は、このような弾性接着剤として優れた特性を有するため、耐衝撃性や、熱膨張率の異なる異種材料の接着時に耐久性を要求される部分に使用することができる。具体的には、下水浄化槽用アッセンブリなど、運搬中の衝撃に耐える必要があり、水圧に耐える必要のある部材の接着に適している。さらに、水密や風防等、接着信頼性を要しないものにはシーラントとしても使用することが可能である。」



5.引用発明
刊行物Aには、摘示事項[A1]における請求項1及び2の記載のとおり、次の五つの成分(各一般式は省略)、
・末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー
・一般式[1]で表されるオキサゾリジン系化合物
・一般式[2]または[3]で表されるシリルエステル化合物
・一般式[4]で表されるモノイソシアナート化合物
・一般式[5]で表されるカルボジイミド化合物
を含む「ウレタン湿気硬化型組成物」が記載されている。
この「ウレタン湿気硬化型組成物」において、「カルボジイミド化合物」の組成割合、及び「シリルエステル化合物」の組成割合は、摘示事項[A1]における請求項4,6の記載のとおり、何れも、「ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部」である。
また、この「ウレタン湿気硬化型組成物」における「シリルエステル化合物」は、摘示事項[A1]における請求項1の記載のとおり、次の一般式[2]または[3]
「 CH_(3)

R^(7)─(Si─O)_(m)─R^(8)

OCOR^(6) ・・・・一般式[2]
ここで、R^(6)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R^(7)は炭素数1?5のアルコキシ基であり、R^(8)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、mは整数である。
R^(9)_(4-n)Si(OCOR^(10))_(n) ・・・・一般式[3]
ここで、R^(9)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基、R^(10)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、nは1?4の整数である。」
で表されるものであるところ、上記の一般式[3]中の基R^(10)に関しては、摘示事項[A6]のとおり「炭素数2または3であることが好ましい」とされており、また、上記の一般式[2]中の基R^(6)に関しては、摘示事項[A5]のとおり「R^(6)は……水の存在によって、エステル結合が切れて酸が遊離される。遊離される酸としては、酢酸、プロピオン酸が好ましい。」とされている。ここで、一般式[2]の「シリルエステル化合物」からエステル結合が切れて遊離される酸とは「HOCOR^(6)」であって、これが「酢酸、プロピオン酸が好ましい」ということは、言い換えれば、基R^(6)がメチル基、エチル基であることが好ましい、ということである。
そして、この「ウレタン湿気硬化型組成物」は、摘示事項[A3]のとおり「湿気硬化型一液型」であり、また、摘示事項[A8]のとおり「シーリング剤等として」使用するものである。
そうすると、刊行物Aには、
「 ・末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー
・一般式[1](省略)で表されるオキサゾリジン系化合物
・一般式[2]または[3]で表されるシリルエステル化合物
ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部
CH_(3)

R^(7)─(Si─O)_(m)─R^(8)

OCOR^(6) ・・・・一般式[2]
ここで、
R^(6)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基または
アラルキル基であって好ましくはメチル基、エチル基であり、
R^(7)は炭素数1?5のアルコキシ基であり、
R^(8)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基または
アラルキル基であり、mは整数である。
R^(9)_(4-n)Si(OCOR^(10))_(n) ・・・・一般式[3]
ここで、
R^(9)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基または
アラルキル基であり、
R^(10)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基または
アラルキル基であって好ましくは炭素数2または3であり、
nは1?4の整数である。
・一般式[4](省略)で表されるモノイソシアナート化合物
・一般式[5](省略)で表されるカルボジイミド化合物
ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部
を含む、シーリング剤等として使用するウレタン湿気硬化型一液型組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。



6.対比・判断
まず、引用発明の「シーリング剤等として使用するウレタン湿気硬化型一液型組成物」と、本願発明の「湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物」とは、ともに、組成物の用途がシーリング材である点、組成物の種別(タイプ)が湿気硬化型かつ一液型である点において、同じであると言える。
次に、組成物中の各成分ごとに対比すると、引用発明における「末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー」は、本願発明における「1) 末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー」に相当する。
また、本願発明における「2) オキサゾリジン化合物」は、その化学構造が限定されないものであるから、引用発明における、特定の化学構造(一般式[1])を有する「オキサゾリジン系化合物」を包含することは言うまでもない。
そして、引用発明における「シリルエステル化合物」は、摘示事項[A4]に「水の存在下において遊離酸の供給源として作用する。ここで遊離された酸は、オキサゾリジン系化合物の開環を促進させ、オキサゾリジン系化合物とウレタンプレポリマーとの重合を促す架橋促進剤となる。」という記載があるとおり、「架橋促進剤」としての機能を有するものであるところ、本願発明における、二種類の「シリルエステル基を有する化合物」のうち、このような機能を有するのは、本願明細書の段落【0008】,【0025】,【0026】,【0033】における説明内容から判断して、「4)」の「シリルエステル基を有する化合物」である。しかも、引用発明における「シリルエステル化合物」中に存在するシリルエステル基(一般式[2]中の「Si─OCOR^(6)」;一般式[3]中の「SiOCOR^(10)」)の、好ましいとされる態様は、本願発明における「4)」の「シリルエステル基を有する化合物」中の「シリルエステル基」に関する定義(すなわち式(2)の要件)に合致している。よって、引用発明における、好ましいとされる態様のシリルエステル基を有する「シリルエステル化合物」は、本願発明における「4)」の「シリルエステル基を有する化合物」に相当し、両者の、ウレタンプレポリマー100重量部を基準とする組成量は、「0.1?10重量部」の範囲において重複する。
以上の点を踏まえた上で、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、次の一致点及び相違点ア?ウを有するものである。

[一致点]
「1) 末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
2) オキサゾリジン化合物と、
4) 式(2)で示されるシリルエステル基を有する化合物を、前記ウレタンプレポリマー100重量部に対し、0.1?10重量部と、


(式(2)中、R^(2)は水素原子、または、炭素数1?9の炭化水素基を、
nは1?3の整数を表す。)
を含有する湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物」の点。
[相違点ア]
本願発明では規定されていない「一般式[4](省略)で表されるモノイソシアナート化合物」を、引用発明の組成物は含む点。
[相違点イ]
本願発明では規定されていない「一般式[5](省略)で表されるカルボジイミド化合物」を、引用発明の組成物は「ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.1から10重量部」の組成量で含む点。
[相違点ウ]
引用発明では規定されていない「3) 式(1)で示されるシリルエステル基を有する化合物


(式(1)中、R^(1)は炭素数10?20の炭化水素基を、
mは1?3の整数を表す。)」を、本願発明の組成物は「ウレタンプレポリマー100重量部に対し、0.1?20重量部」の組成量で含む点。

そこで、上記相違点ア?ウについて検討する。

[相違点ア]についての検討
本願明細書の段落【0027】,【0029】での説明内容によれば、「モノイソシアネート化合物」は、本願発明の組成物において、さらに配合しても良いとされる任意成分である。
そうすると、本願発明は、「1)」,「2)」,「3)」,「4)」の四成分に加えてさらに「モノイソシアネート化合物」を含む組成物の態様も包含しているものと解され、したがって、相違点アは、実質的な相違とは言えない。

[相違点イ]及び[相違点ウ]についての検討
刊行物Bには、摘示事項[B1]における請求項1の記載のとおり、次の四つの成分(式は省略)、
・末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー
・式[I]または[II]で表される加水分解性物質
・脂肪酸エステルで表面処理してなる沈降炭酸カルシウム
・ヒュームドシリカ
を含む「湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物」が記載されている。
この「湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物」において、「加水分解性物質」の組成割合は、摘示事項[B1]における請求項2の記載のとおり、「末端イソシアナート型ポリウレタンプレポリマー100重量部に対して、0.5?10重量部」である。
また、この「湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物」における「加水分解性物質」は、摘示事項[B1]における請求項1の記載のとおり、次の式[I]または[II]



ここで、R^(1)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、nは整数である。


ここで、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基またはアラルキル基である。」
で表されるものであるところ、摘示事項[B5]のとおり、このような「加水分解性物質」の中でも、
・「上記式[I]の構造式を有し、R^(1)=C_(17)H_(35)、n=20の化合物」
・「上記式[II]の構造式を有し、R^(2)、R^(4)=CH_(3)、R^(5)=CH_(3)(CH_(2))_(17) の化合物」
という二つの化合物が「加水分解性物質」として使用するのに好ましい化合物(以下、「好適化合物」という。)とされている。
そして、この「湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物」は、摘示事項[B7]のとおり、「シーラントとしても使用することが可能」なものである。
そうすると、刊行物Bには、
「 ・末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー
・式[I]または[II]で表され、その好適化合物は下記(a),(b)である
加水分解性物質
ウレタンプレポリマー100重量部に対して0.5?10重量部


ここで、
R^(1)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基または
アラルキル基であり、nは整数である。


ここで、
R^(2)、R^(3)及びR^(4)は炭素数1?5のアルキル基、アリール基
またはアラルキル基であり、
R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基または
アラルキル基である。
(a)式[I]の構造式を有し、R^(1)=C_(17)H_(35)、n=20の化合物
(b)式[II]の構造式を有し、R^(2)、R^(4)=CH_(3)、R^(5)=CH_(3)(CH_(2))_(17) の化合物
・脂肪酸エステルで表面処理してなる沈降炭酸カルシウム
・ヒュームドシリカ
を含む、シーラントとしても使用することが可能な湿気硬化型ポリウレタン樹脂組成物」
が記載されているものと認められる。
さて、相違点イにかかわる、引用発明の組成物における「カルボジイミド化合物」は、摘示事項[A7]に「本発明では、カルボジイミド化合物のこうした性質を利用して、貯蔵安定化剤として組成物に配合している」との記載があるとおり、「貯蔵安定性」に関する機能を有する成分であるところ、上記の刊行物Bに記載の組成物における「加水分解性物質」の好適化合物(a),(b)もまた、摘示事項[B2]に「本発明で用いる加水分解性物質は、……、貯蔵安定性の向上を図っている」との記載があるとおり、「貯蔵安定性」に関する機能を有する成分である。
ここで、刊行物Bに記載の組成物における「加水分解性物質」の好適化合物(a),(b)中に存在するシリルエステル基が、何れも、相違点ウにかかわる、本願発明の組成物における「3)」の「シリルエステル基を有する化合物」中の「シリルエステル基」に関する定義(すなわち式(1)の要件)に合致していることは明らかである。しかも、本願発明の組成物において、「3)」の「シリルエステル基を有する化合物」は、本願明細書の段落【0008】,【0025】,【0026】,【0033】における説明内容から判断して、「貯蔵安定性」に関する機能を有する成分であることを踏まえると、成分の機能という観点からみても、刊行物Bに記載の組成物における「加水分解性物質」の好適化合物(a),(b)は、相違点ウにかかわる、本願発明の組成物における「3)」の「シリルエステル基を有する化合物」と同じである。
そうすると、本願発明の組成物は、引用発明の組成物における、「貯蔵安定性」に関する機能を有する成分としての「カルボジイミド化合物」に代えて、引用発明と同様の組成物の分野において、同じく「貯蔵安定性」に関する機能を有する成分として知られている、刊行物Bに記載の組成物に含まれている好適化合物(a),(b)を使用して完成されたものに過ぎない。このような置き換えによって完成される発明は、当業者が容易に想到することができたものと解される。
しかも、このような判断に際して、上記の置き換えを妨げる特別な事情は存在しないし、また、上記の置き換えによって何らかの特異な効果を奏していると認めるべき事由も存在しない。

そして、本願発明の効果について検討すると、本願明細書の【実施例】欄の[表1]から、「シリルエステル化合物A」の有無(比較例3と実施例1との比較)によって「貯蔵安定性」の結果に違いが認められ、また、「シリルエステル化合物B,C」の有無(比較例2と実施例2,3との比較)によって「速硬化性」の結果に違いが認められるものの、上記で述べたとおり、「シリルエステル化合物A」が「貯蔵安定性」に機能することは刊行物Bによって、また、「シリルエステル化合物B,C」が「速硬化性」すなわち「架橋促進」に機能することは刊行物Aによって、それぞれ既に明らかとなっていることを踏まえると、実施例として記載されている結果は、「シリルエステル化合物A」と「シリルエステル化合物B,C」とを併用したことで、それぞれの化合物が各々有する「貯蔵安定性」と「速硬化性」とが同時に機能してもたらされる結果に過ぎないし、当該[表1]を見る限り、併用による特異な結果は認められない。結局、このような併用による実施例での結果は、刊行物A?Bから予測される範囲を超えるものではない。

なお、請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)の[5],(2─2)において、参考文献1(「化学大辞典2」昭和37年6月15日 初版第2刷発行,第581頁)中の「カルボジイミド試薬」の項目における「このものはきわめて容易に各種の酸に付加するが,この付加物は更に容易に尿素誘導体を放ってアルコール類,アミン類,酸などと縮合する.この反応は室温で容易に進行し,水の影響を受けないので水溶液中で行なうことができ,収量がきわめて高いなどの特長がある.」という記載を引用した上で、引用発明における「カルボジイミド化合物」の「貯蔵安定性」に関する機能について記載された、刊行物A中の段落【0026】〔摘示事項[A7]〕における「水分を捕捉する作用」という説明が誤りである旨主張している。
しかし、上記の参考文献1における当該箇所の記載は、「カルボジイミド試薬」という物が関与する「この反応」(酸との付加、及びそれに続く縮合)が「水の影響を受けない」という内容に過ぎない。
この一方で、例えば、「岩田敬治 著『ポリウレタン樹脂ハンドブック』(1992年8月25日 初版4刷)日刊工業新聞社 発行」の第94頁第1行には「カルボジイミドは水と反応して,ウレアを形成する.」という記載が存在する。
このように、上記の参考文献1は、「カルボジイミド試薬」という物が関与する特定の反応についての記載であって、刊行物A中の段落【0026】〔摘示事項[A7]〕における「水分を捕捉する作用」という説明が誤りであるとする根拠になり得ない。そもそも、請求人は、引用発明の「シーリング剤等として使用するウレタン湿気硬化型一液型組成物」に含まれる「カルボジイミド化合物」について、これが「水分を捕捉する作用」を有しないことを実験等によって直接的に否定している訳ではない。よって、請求人の主張は妥当なものではない。
しかも、「カルボジイミド化合物」が、引用発明の「シーリング剤等として使用するウレタン湿気硬化型一液型組成物」と同様に、本願発明の「湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物」に含まれるときに「水分を捕捉する作用」を有することについては、本願明細書の段落【0028】にその説明が何ら補正されること無く存在していることからみて、請求人(出願人)も認めているところであると言わざるを得ない。



7.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物A?Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-15 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願平9-193704
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 新司  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 小野寺 務
前田 孝泰
発明の名称 湿気硬化型1液ポリウレタン樹脂シーリング材組成物およびその製造方法  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  

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