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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1212359
審判番号 不服2006-28972  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-28 
確定日 2010-02-24 
事件の表示 平成 8年特許願第507053号「インフルエンザウィルスの調製方法と,それによって得られる抗原と,抗原の利用」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 2月22日国際公開,WO96/05294,平成10年 4月14日国内公表,特表平10-504033〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成7年6月6日(パリ条約による優先権主張1994年8月16日 仏国)を国際出願日とする出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成18年7月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって,そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】濃縮,精製,断片化の各段階からなる,インフルエンザウィルスを含む液体からインフルエンザ抗原の純粋な混合物を調製する方法において,
上記の断片化段階を生きたウィルスに対して両親媒性の非イオン性洗剤の存在下で行い,その後に濾過して非ウィルス物質を除去し,ウィルス構成成分の全てを回収することを特徴とする方法。」

2.引用刊行物及びその記載事項
これに対して,原査定の理由に引用された,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物A及びBには,それぞれ以下のことが記載されている。

刊行物A:米国特許第4327182号明細書
刊行物B:Proceedings of the National Academy of Sciences, 1985, Vol.82, p.1785-1789

(2-1)刊行物Aの記載事項(原審で引用された文献2;英文のため訳文で記載する。)
(A-1)
「実施例
ステップ I-容積の減縮とウィルスより小さな多くの粒子状物質および溶解物質の除去
A-インフルエンザウイルスを含む1,000mlの尿嚢液が,0.006Mのインフルエンザ リン酸塩緩衝液125mlと0.05wt.%Triton X-100洗剤と混合され,混合液が速度1.8 l/min,350ミリバール,0.3m/secで蠕動ポンプを用いて送液され,40cm^(2),孔径0.1mmのミリポア社製VM膜を透過された。…。
濃縮精製操作は尿嚢液-塩類-洗剤混合液体積が500mlに減縮されるまで続けられ,塩溶液によって尿嚢液の不純物を取り除くために,そして洗剤によって卵タンパク質の凝集を減少させるために,さらに塩溶液1,000mlと0.05wt.%の洗剤が濃縮精製速度と同じ割合で加えられた。溶液と塩溶液の体積が濃縮物100mlまで減縮された時点でこのステップを終了した。
ステップ II-ウィルスより大きな粒子状物質の除去と適した全ウィルスの回収
100mlのステップ Iからの濃縮尿嚢液が速度1.8 l/min,350ミリバール,0.3m/secで蠕動ポンプを用いて送液され,40cm^(2),孔径0.45μmのミリポア社製HA膜を透過された。濾過濃縮精製全ウィルス含有溶液を供給するために1.6ml/minの濃縮液が膜を透過した。
250mlの塩溶液と0.05wt.%洗剤を透過速度と同じ割合で加えられた。この追加塩溶液と洗剤を加える目的は,さらなるウィルスを塩溶液によって洗浄膜透過し,洗剤によって卵タンパク質の凝集を減らすことである。300mlの濾過精製全ウィルス溶液が膜を透過したとき,ステップ IIは終了された。
ステップ III-容積の減縮と残存する全ウィルスより小さな粒子状物質および溶解物質の除去
300mlのステップ IIからの濾過精製全ウィルス溶液が速度1.8 l/min,350ミリバール,0.3m/secで蠕動ポンプを用いて送液され,40cm^(2),孔径0.1μmのミリポア社製VM膜を透過された。濃縮精製操作は全ウィルス溶液容積が150mlに減縮されるまで継続され,その時点で全ウィルス溶液の不純物を取り除くために200mlの塩溶液が濃縮精製速度と同じ割合で加えられた。全ウィルス溶液の容積が125mlに減縮された時点でステップ IIIは終了された。
ステップ IV-全ウィルスからのHA,NAユニットの分離
ステップ IIIからの125mlの精製された全ウィルス溶液は1.25mlのTriton X-100と磁気スターラーを用いて45分間,泡立たないように激しく混合された。撹拌の後,分離ウィルス溶液は15分間静置された。
ステップ V-全ウィルスと同等のサイズをもつ粒子の除去と最適なHA,NAの回収
ステップ IVからの分離ウィルス溶液が速度1.8 l/min,350ミリバール,0.3m/secで蠕動ポンプを用いて送液され,40cm^(2),孔径0.1μmのミリポア社製VM膜を透過された。HAユニット,NAユニット,洗剤,塩および全ウィルス体からの不要なタンパク質を含む濾過分離ウィルス溶液を供給するために2.3ml/minの分離ウィルス溶液が透過した。
さらにHAおよびNAユニットを洗浄膜透過するため250mlの塩溶液が透過速度と同じ割合で加えられた。透過物は,孔径0.2nmのミリポア社製FG膜エアーベント無菌容器に集められた。350mlの濾過分離ウィルス溶液が膜を透過したとき,ステップ Vは終了された。
ステップ VI-体積の減縮と,洗剤と全ウィルスに由来する望ましくないタンパクの除去
350mlの濾過分離ウィルス溶液が速度1.8 l/min,350ミリバール,0.3m/secで蠕動ポンプを用いて送液され,40cm^(2),ミリポア社製100,000NMWL孔径PTHK膜を透過された。
濃縮精製操作は濾過分離ウィルス溶液容積が50mlに減縮されるまで継続され,その時点で150mlの塩溶液が加えられた。濃縮および塩溶液透過手順は6回繰り返され,洗剤濃縮液は50mlに減縮された。
ステップ VII-保存料の添加と要求されるHA,NA濃度へのウィルス溶液の希釈
ステップ VIの50mlの精製分離ウィルス溶液は50mlの塩溶液と混合された。ホルマリンが0.01wt.%となるよう加えられ,チオメルサール10wt.%溶液が1:20,000の濃度となるよう加えられた。最終産物は100mlのA-インフルエンザサブユニットワクチンである。」(第4欄第49行?第6欄第17行)

(2-2)刊行物Bの記載事項
(B-1)
「A型インフルエンザ特異的細胞障害性T細胞(CTL)はA型インフルエンザウィルスに感染した細胞を溶解でき,インフルエンザへの宿主の細胞障害性反応の主要な部分を構成する。ウィルスの核タンパク質(NP)はウィルスの主要な内部構造タンパク質であり,CTLの標的抗原になり得る。CTLのNPに対する認識を直接的に解析するためにA型インフルエンザウィルスのNPを持つ牛痘ウィルスを作成した。我々はA型インフルエンザウィルス種により免疫済みのCTL細胞群により,このウィルスに感染させたマウスの細胞が効率的に溶解されることを発見した。さらにPR8 NP(インフルエンザウィルスのNP)遺伝子を持つ組み換えワクチンウィルスはCTL反応を促進した。PR8 NP遺伝子を持つ組み換えワクチンウィルスを接種したマウスの脾細胞はヒトの主要な三種のA型インフルエンザウィルスにより刺激された。比較群(非標識)との競合試験により,NPは主要な,しかし唯一ではない,CTLの標的抗原であることが示唆された。」(1785頁,左欄第1?21行,「ABSTRACT」)

3.対比
刊行物Aの実施例(A-1)には,以下の(1)?(4)を含む,インフルエンザ抗原となるHA及びNA成分の回収方法(以下「引用発明」という。)が記載されている。
(1)A-インフルエンザウィルスを含む尿嚢液を濃縮し(ステップI),
(2)次いで,ウィルス粒子より大きい粒子状物質及び小さな粒子状物質を除去し(ステップII及びIII),
(3)ウィルス粒子をTriton X-100で分解して(ステップIV),
(4)その後,複数回の限外濾過により精製したHA(*1)及びNA(*2)を回収する(ステップV及びステップVI)。
審決注*1:ウィルス表面に存在するヘマグルチニン
*2:ウィルス表面に存在するノイラミニダーゼ
ここで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の(1),(2)及び(3)は,それぞれ本願発明の「濃縮」,「精製」及び「断片化」の各段階に相当し,本願発明の「断片化」段階に相当する引用発明の(3)の段階では,生きたウィルスに対して,両親媒性の非イオン性界面活性剤(本願発明の「非イオン性洗剤」に相当する。)であるTriton X-100の存在下処理している。そして,引用発明の(4)では,非ウィルス物質の除去も行われているものと解釈できる。
したがって,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致している。
「濃縮,精製,断片化の各段階からなる,インフルエンザウィルスを含む液体からインフルエンザ抗原の純粋な混合物を調製する方法であって,
上記の断片化段階を生きたウィルスに対して両親媒性の非イオン性洗剤の存在下で行い,その後に濾過して非ウィルス物質を除去し,ウィルス構成成分を回収する方法である点」
そして,相違点は以下の点である。
[相違点]
引用発明がHA及びNAといった表面抗原のみを回収するのに対して,本願発明は表面抗原のみならず,ウィルス構成成分の全てを回収する点。

4.検討・判断
上記相違点について検討する。
従来,インフルエンザウィルスに対するワクチンとして使用される抗原としては,主として,引用発明にも記載されたHA及びNAといった表面抗原であったが,一方,ウィルスの内部構造タンパク質である核タンパク質(NP)についても,刊行物Bに記載されているように,細胞傷害性T細胞の標的抗原となり得るものである((B-1))ことから,かかる核タンパク質についてもインフルエンザウィルスに対するワクチンの抗原として使用されるものであることは当業者が容易に理解するところであった。
また,ウィルス内部に存在する核タンパク質の取得方法については,一般にウィルスを,非イオン性界面活性剤を含む界面活性剤(本願発明における「洗剤」)で処理することにより,エンベロープ等の外殻タンパク質を溶解して内部成分を抽出可能な状態とすることは,本願優先権主張の日前から当業者にとって周知の事項であった(例えば,特開平1-125329号公報の第5頁右上欄?左下欄,特表昭62-502985号公報第4頁右上欄,特開平2-304032号公報第3頁左下欄?第4頁左下欄(特に第4頁左下欄)参照。)ので,基本的には,このような非イオン性界面活性剤を用いたウィルス粒子の溶解に引き続く抽出・分離操作によりウィルスの内部成分が回収され得ることは,当業者にとって容易に理解されるところである。
そうしてみると,まず,刊行物Bにおける「核タンパク質について抗原となる得るものである」旨の記載を参考にして,引用発明における抗原であるHA及びNAに加えて核タンパク質についても併せてワクチンの抗原にしようとすることは,当業者が容易に想到し得ることであり,そして,該核タンパク質を抽出する手段として,既に広く知られていた「Triton X-100とった非イオン性界面活性剤を使用したウィルス粒子の溶解に引き続く抽出・分離」という基本的操作を採用することは,当業者がごく自然に着想し得るものである。また,その際に引用発明において,断片化処理条件や膜分離の際に使用する孔径などの,一部条件を変更することにより,HA及びNAとともに内部抗原である核タンパク質をも単一の回収工程で回収し,これらをインフルエンザワクチンの抗原とすることも当業者が容易になし得ることであったものとせざるを得ない。
また,インフルエンザウィルスの構成成分の回収に際して,特段排除する必要がない成分を,HA,NA及び核タンパク質(NP)とともに併せて回収することは,当業者が適宜なし得る程度のことであり,マトリクスタンパク質(M)やウィルスRNAのポリメラーゼ(PA)といった他の内部タンパク質が有害成分であるといったものではないので,ウィルスの全構成成分を回収することも当業者が容易になし得ることである。

一方,本願明細書においては,HA及びNAに加えて,核タンパク質(NP)をも含むワクチンだけでなく,マトリクスタンパク質(M)やウィルスRNAのポリメラーゼ(PA)といった他の内部タンパク質をも含むウィルスの全構成成分を用いたワクチンについても,その効果について具体的データ等に基づいて示されているものではないので,このような本願明細書の記載から格別予想外の効果が奏されたものとすることができない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,上記刊行物A及びBに記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2009-09-16 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願平8-507053
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
伊藤 幸司
発明の名称 インフルエンザウィルスの調製方法と、それによって得られる抗原と、抗原の利用  
代理人 越場 隆  

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