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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1212778
審判番号 不服2007-14553  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-21 
確定日 2010-03-04 
事件の表示 特願2001-522202号「加熱対象物の高周波識別を用いた磁気誘導加熱装置」拒絶査定不服審判事件〔2001年3月15日国際公開、WO01/19141、平成15年9月30日国内公表、特表2003-529184号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年9月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年9月7日、2000年9月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成19年6月20日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2 平成19年6月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「対象物を加熱するために磁場を発生するインバータと、前記磁場を発生する該インバータを選択的に動作させるために該インバータに動作可能に接続された調節回路と、前記対象物に取り付けられたRFIDタグから、該RFIDタグに記憶されている、前記対象物に関する情報を受け取る装置と、を含む誘導加熱デバイスであって、
前記調節回路は、前記RFIDタグから受け取った前記情報を記憶するための電子メモリを有するマイクロプロセッサを含み、
前記情報を受け取る装置は、前記RFIDタグに前記情報を送信させるRFIDリーダ、及び、前記情報を受ける、接地面を持たないタイプのRFIDアンテナを含み、このRFIDアンテナは、前記RFIDタグとの通信が確保されるように前記RFIDタグの近傍に配置され、 前記誘導加熱デバイスの加熱の動作は、前記RFIDタグから受け取った前記情報に少なくとも一部対応して行われることを特徴とする誘導加熱デバイス。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、磁場を発生する「構成部品」を磁場を発生する「インバータ」と限定し、「情報を受け取る装置」について「前記情報を受ける、接地面を持たないタイプのRFIDアンテナを含み、このRFIDアンテナは、前記RFIDタグとの通信が確保されるように前記RFIDタグの近傍に配置され」るとの限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
ア.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平11-67439号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、調理品を収容する可搬形の収容容器と、この収容容器を載置する載置部を有する調理器とからなる加熱調理装置であって、前記収容容器は複数の収容部と各々の収容部に収容された調理品のための調理情報を記憶する情報記憶部とを有し、前記調理器は前記収容容器の収容部配置に対応して前記載置部に配置された複数の加熱調理部と、前記情報記憶部に記憶されている調理情報を受け取る情報受取部と、該調理情報に基づき各々の加熱調理部の作動を制御する制御部とを有することを特徴とするものである。
上記の構成によれば、可搬形の収容容器の複数の収容部にそれぞれ調理品を収容したまま該収容容器を調理器の載置部に載せ、収容容器の情報記憶部に記憶されている調理情報を調理器の情報受取部で受け取ることにより、収容容器の情報記憶部に記憶されている調理情報に基づいて収容容器内の調理品を各々最適な加熱方法で同時に加熱調理する事ができる。したがって、複数の調理品を容易に最適な調理方法で調理することができる。また、調理品は収容容器内に収容したまま運搬し調理することができるので、調理器を予めユーザー宅に設置し、所望の調理品を収容した収容容器をそのユーザー宅に宅配する方式の調理品宅配システムに適用すれば、調理品質の良好な調理食材をユーザーに提供できることとなる。」(段落【0006】?【0007】)
(イ)「下容器3には、食器5に入れて加熱調理する調理品の加熱温度、時間、保温時の温度などの調理情報を情報記憶部としてのメモリチップ(RAM)7aに記憶するための情報記憶装置7が組み込まれている。図3に示す情報記憶装置7はデータ入力部7bと、データ出力部7cと、電子データ記憶部7aに対する情報の読み書きや、データ入力部7bおよびデータ出力部7cに対するデータの入出力を指令するコントローラ7dと、バッテリー7eとからなっている。データ入力部7bおよびデータ出力部7cにおける入出力信号としては光、電波又は磁気等のいずれを用いてもよい。」(段落【0014】)
(ウ)「図2を参照すると、調理器9は、上面に前記収容容器1を載置する容器載置部10を有し、この容器載置部10には例として3つの加熱調理部11が設けてある。さらに調理器9には収容容器1の情報記憶部7aに記憶されている調理情報を情報記憶装置7のデータ出力部7cから受け取る情報受取り部12と、この情報受取り部12から受け取った調理情報に基づき加熱調理部11を個別に作動制御する制御部13とが設けられている。なお、収容容器1のデータ出力部7cが光、電波の信号を送信する送信部を有するときは、調理器9の情報受取り部12はその信号を受け取る受信部を設ける。
この実施例では、各加熱調理部11には誘導加熱コイル11aとその上部を覆う非磁性体からなるトッププレート11bとが設けられており、さらにトッププレート11b上には収容容器1の発熱体6の表面温度を感知する温度センサー14が設けられている。なお、図2は加熱調理部を3つ設けた例を図示しているが、必要に応じてこの数は増減できる。
なお、調理器9の加熱調理部11に電熱ヒータを備えたものであっても本発明の所期の目的を達成し得るが、特に上記実施例においては各加熱調理部11に設けた誘導加熱コイル11aによって収容容器1の調理品収容部2の底部の発熱体6を発熱するので、安全性の高い調理器9を提供することができる。」(段落【0017】?【0019】)
(エ)図1には、左方側辺が円弧状で右方側辺が方形で、その右側端辺の中央部分に情報記憶装置7を組み込まれた収容容器1が図示されており、また、図2には、収容容器1とほぼ同形状の容器載置部10とその右側に壁部分を有する調理器9であって、その容器載置部10の右側端辺の中央部分に対向する、壁部分の中央部分に情報受取り部12が設けられることが図示される。
(オ)上記記載事項(ウ)の「調理器9には収容容器1の情報記憶部7aに記憶されている調理情報を情報記憶装置7のデータ出力部7cから受け取る情報受取り部12」「が設けられている」こと及び「収容容器1のデータ出力部7cが光、電波の信号を送信する送信部を有するときは、調理器9の情報受取り部12はその信号を受け取る受信部を設ける」ことからみて、調理器9の情報受取り部12は、収容容器1の情報記憶装置7のデータ出力部7cの送信部からの電波の信号を受け取る受信部を有するものといえ、このことと、上記図示事項(エ)の図示内容を合わせみると、調理器9の壁部分の中央部分に設けられた受信部を有する情報受取り部12は、収容容器1の右側端辺の中央部分に組み込まれたデータ出力部7cの送信部を有する情報記憶装置7から電波を受信できる、対面する位置に設けられるものと認められる。
これら記載事項(ア)?(ウ)、図示事項(エ)及び検討した事項(オ)を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「調理品を収容する収容容器1の底部の発熱体6を発熱させる誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11と、
誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11の作動制御する制御部13と、
調理品を収容する収容容器1に組み込まれた情報記憶装置7から、情報記憶装置7の情報記憶部7aに記憶されている、加熱調理する調理品の加熱温度、時間、保温時の温度などの調理情報を、電波の信号として受け取る受信部を有する情報受取り部12と、
を含む誘導加熱コイル11aを有する調理器9であって、
情報受取り部12は調理情報を、電波の信号として受け取る受信部を含み、
この受信部を有する情報受取り部12は、データ出力部7cの送信部を有する情報記憶装置7から電波を受信できる、対面する位置に設けられ、
制御部13は情報受取り部12から受け取った調理情報に基づき加熱調理部11を作動制御する
誘導加熱コイル11aを有する調理器9。」

イ.引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、特開平10-222763号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【課題を解決するための手段】本発明は、固有番号を有し、電磁結合により電力を受けて特定の周波数でデータを出力するIDタグを張り付け又は埋設した食器を食堂用トレイに載せた状態で前記IDタグからIDを読出しオーダの精算を行う食堂の料金精算システムに関するものであり、本発明の上記目的は、前記トレイを上部に載せて滑らせて移動するとともに前記IDの読出しに際して利用者に対するガイドを行うことができるトレイ滑らし台を設けると共に、前記トレイ滑らし台の下方に設置された前記IDタグの読出装置の読出アンテナ部に並列してICカードリーダ又はICカードリーダライタを設けた自動精算装置を備えることによって達成される。」(段落【0006】)
(イ)「以下、図面に基づいて本発明の好適な実施例について詳細に説明する。始めに、本発明に用いるIDタグと非接触IDカードについて説明する。先ず、本発明に用いるIDタグについて説明すると、本発明のIDタグはそれぞれが固有の番号(ID番号)を有し、非接触的なアンテナの電磁結合により電力を受けた際には自らが特定の周波数でIDデータをシリアル出力する。図1はIDタグ10の構造例を示しており、同図(A)は平面断面図、同図(B)は側面断面図である。円盤状の樹脂ホルダ11の中央部には円形の凹部が設けられ、凹部内の底部には電子素子を内蔵したICチップ12及びアンテナコイル13が配設され、その上部は平面となるように樹脂モールド14でカバーされている。尚、ここではICチップ12が矩形であり、ICチップ12の外周に円形のアンテナコイル13が配設されているが、ICチップ12、アンテナコイル13の形状や配置は適宜変更可能である。」(段落【0016】)
(ウ)「図8はオートレジリーダ200の構成例をブロック図で示しており、端末機内の各機器の制御やサーバとの通信制御をPC(パーソナルコンピュータ)230で行なう場合の例を示している。図8において、IDタグを読出すためのIDタグリーダ(電波の発射装置及び読出装置)は、タグリードアンテナ(アンテナモジュール)210及び制御ユニット220から構成される。制御ユニット220は、IDタグの読取りを制御するCPU220aとIDタグ読出回路220bとから成り、IDタグ読出回路220bは、増幅器、前段増幅器、FSK(Frequency Shift Keying)復調器、及び励振ドライブから構成される。IDタグ読出回路220bの前段増幅器とFSK復調器は、アンテナモジュール210のセンスアンテナと一対になっており、並列的な同時復調を行なうようになっている。
図9はアンテナモジュール210の一例を示しており、矩形状の基板211の周縁部には励振アンテナ212が巻回されており、この励振アンテナ212内の空間に複数のリング状センスアンテナ213(本例では2列の15個)が整列して配置されている。即ち、センスアンテナ213は、トレイ202の搬送幅を全てカバーするように交互に段違いに配設され、励振アンテナ213も搬送幅をカバーしているので、トレイ202上のどこに食器201と非接触IDタグカード30が載せられていてもIDタグ10の励振、タグのIDデータの読出が可能である。又、基板211の端部には、回路系と電気的に接続するためのコネクタ214が設けられている。なお、IDタグ10の読出しに関する処理は周知の技術であるので説明は省略する。」(段落【0028】?【0029】)
(エ)上記記載事項(ウ)によると、IDタグを読出すためのIDタグリーダ(電波の発射装置及び読出装置)は、タグリードアンテナ(アンテナモジュール)210及び制御ユニット220から構成され、アンテナモジュール210は、矩形状の基板211の周縁部に巻回された励振アンテナ212内の空間に複数のリング状センスアンテナ213が整列して配置され構成されている旨記載されているといえる。
そうすると、上記IDタグリーダは電波により読み出すものであるから、IDタグ、IDタグリーダ及びリング状センスアンテナ213は、それぞれRFIDタグ、RFIDタグリーダ及びRFIDアンテナであるといえる。
これら記載事項(ア)?(ウ)、図面の図示内容及び検討した事項(エ)を総合すると、引用例2には、固有番号を有し、非接触的なアンテナの電磁結合により電力を受けて特定の周波数でデータを出力するICチップによるRFIDタグを埋設した食器から読み出すため、RFIDタグの近傍に配置される、RFIDタグを励振してIDデータを送信させる励振アンテナと、RFIDタグからIDデータを受信するリング状センスアンテナとからなるRFIDアンテナとを備えたRFIDタグリーダが記載されている。

(2)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「調理品を収容する収容容器1」は、その底部の発熱体6を発熱させることから、前者の「対象物」に相当し、後者の「誘導加熱コイル11aを有する調理器9」は、その機能からみて前者の「誘導加熱デバイス」に相当する。
後者の「調理品を収容する収容容器1の底部の発熱体6を発熱させる誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11」は、誘導加熱コイル11aが磁場を発生させて加熱するものであるから、前者の「対象物を加熱するために磁場を発生するインバータ」とは、「対象物を加熱するために磁場を発生する手段」である点で共通し、後者の「誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11の作動制御する制御部13」と、前者の「磁場を発生する該インバータを選択的に動作させるために該インバータに動作可能に接続された調節回路」とは、上記「対象物を加熱するために磁場を発生する手段」を制御動作させる調節回路である点で共通する。
後者の「調理品を収容する収容容器1に組み込まれた情報記憶装置7」は、「情報記憶装置7の情報記憶部7aに記憶されている、・・・調理情報を」「情報受取り部12」に受け取らせるものであって、前者の「対象物に取り付けられたRFIDタグ」も、「対象物に関する情報を受け取る装置」に記憶されている「対象物に関する情報を受け取」らせるから、両者は対象物に取り付けられた情報記憶手段である点で共通し、後者の「情報記憶装置7の情報記憶部7aに記憶されている、加熱調理する調理品の加熱温度、時間、保温時の温度などの調理情報を、電波又は磁気の信号として受け取る受信部を有する情報受取り部12」と、前者の「該RFIDタグに記憶されている、前記対象物に関する情報を受け取る装置」とは、情報記憶手段に記憶されている対象物に関する情報を受け取る装置である点で共通する。
後者の「情報受取り部12は調理情報を、電波の信号として受け取る受信部を含」む態様と、前者の「情報を受け取る装置は、前記RFIDタグに前記情報を送信させるRFIDリーダ、及び、前記情報を受ける、接地面を持たないタイプのRFIDアンテナを含」む態様とは、情報を受け取る装置は、情報を受ける、電波の受信手段を含む態様である点で共通し、後者の「この受信部を有する情報受取り部12は、データ出力部7cの送信部を有する情報記憶装置7から電波を受信できる、対面する位置に設けられ」る態様と前者の「このRFIDアンテナは、前記RFIDタグとの通信が確保されるように前記RFIDタグの近傍に配置され」る態様とは、電波の受信手段は、情報記憶手段との通信が確保されるように情報記憶手段の近傍に配置される態様である点で共通する。
後者の「制御部13は情報受取り部12から受け取った調理情報に基づき加熱調理部11を作動制御する」について、「制御部13は」「加熱調理部11を作動制御する」とは、加熱調理部11が調理器9の誘導加熱コイル11aを有するから前者の「誘導加熱デバイスの加熱の動作」について制御動作させることに対応し、後者の「制御部13」が「情報受取り部12から受け取った調理情報」は「情報記憶装置7の情報記憶部7aに記憶されている」ものであるから、前者の「誘導加熱デバイスの加熱の動作は、前記RFIDタグから受け取った前記情報に少なくとも一部対応して行われる」とは、誘導加熱デバイスの加熱の動作は、情報記憶手段から受け取った前記情報に少なくとも一部対応して行われる点で共通する。
したがって、両者は以下の点で一致する。
(一致点)
「対象物を加熱するために磁場を発生する手段と、
前記磁場を発生する手段を制御動作させる調節回路と、
前記対象物に取り付けられた情報記憶手段から、該情報記憶手段に記憶されている、前記対象物に関する情報を受け取る装置と、
を含む誘導加熱デバイスであって、
前記情報を受け取る装置は、前記情報を受ける電波の受信手段を含み、
この電波の受信手段は、前記情報記憶手段との通信が確保されるように前記情報記憶手段の近傍に配置され、
前記誘導加熱デバイスの加熱の動作は、前記情報記憶手段から受け取った前記情報に少なくとも一部対応して行われる
誘導加熱デバイス。」
そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
対象物を加熱するために磁場を発生する手段について、本願補正発明が「インバータ」であるのに対し、引用発明は、誘導加熱コイル11aを有するものの、インバータであるか否か不明である点。
(相違点2)
磁場を発生する手段を制御動作させる調節回路について、本願補正発明が「インバータを選択的に動作させるために該インバータに動作可能に接続された」ものであって、「RFIDタグ(情報記憶手段)から受け取った情報を記憶するための電子メモリを有するマイクロプロセッサを含」んでいるのに対し、引用発明は上記のようなものではない点。
(相違点3)
情報記憶手段について、本願補正発明が「RFIDタグ」であるのに対し、引用発明は「情報記憶部7a」を有し、電波の信号として情報受取り部12の受信部に受け取らさせる「情報記憶装置7」である点。
(相違点4)
情報を受け取る装置について、本願補正発明が「前記RFIDタグに前記情報を送信させるRFIDリーダ、及び、前記情報を受ける、接地面を持たないタイプのRFIDアンテナを含」むのに対し、引用発明は「調理情報を、電波の信号として受け取る受信部を含」むものの、電波の受信手段を含め、上記のようなものか否か明確でない点。

上記相違点について検討する。
ア.(相違点3)及び(相違点4)について
引用例2に記載されたものは、ICチップによるRFIDタグが食器に埋設され、その食器から電波によりIDデータを受け取るものであって、引用発明とは情報記憶手段を有し電波によりデータを送信する食品容器である点で同様であるから、引用発明における「調理品を収容する収容容器1に組み込まれた情報記憶装置7」やこれ「から、情報記憶装置7の情報記憶部7aに記憶されている、加熱調理する調理品の加熱温度、時間、保温時の温度などの調理情報を、電波の信号として受け取る受信部を有する情報受取り部12」の具体的装置として、引用例2に記載のものを用いることは当業者が容易になし得たことといえる。
そうすると、情報記憶手段について、引用発明の情報記憶装置7はRFIDタグとなるとともに、情報を受け取る装置について、引用発明の情報受取り部12はRFIDタグを励振してIDデータを送信させる励振アンテナと、RFIDタグからIDデータを受信するリング状センスアンテナとからなるRFIDアンテナとを備えたRFIDタグリーダとなる。そして引用発明の情報受取り部12の受信部はリング状センスアンテナとなっており、当該リング状センスアンテナは接地面を持たないタイプである。
なお、一般にリーダからの電波に応じて動作、返信するIDタグは、いわゆるパッシブタグとして、周知のものであり、RFIDタグのアンテナとしてリング状センスアンテナ213のようなコイルアンテナあるいはループアンテナも常用されるものである。さらに、特開平4-350791号公報には、食器に、外部よりデータが入力されたときにデータを特定周波数による誘導電磁界として送信するデータキャリアを装着することが示され、特開平6-203271号公報にも、食器にモールドされたデータキャリアは、送受信コイルの信号を受けてデータをコイルに返信することが示されるように、引用例2に限らず、食器に用いるIDタグ等のデータキャリアにおいても、リーダからの電波を受けて情報を送信するもの及びそのアンテナとしてコイル状のものを用いることは周知でもあって、このことからも本願補正発明のように構成することが格別であるとはいえない。
したがって、相違点3及び4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の困難性を要することなく想到したものといえる。
なお、本願補正発明は、RFIDアンテナの位置関係を特定しておらず、RFIDアンテナがワークコイルの磁界の影響を受けない位置に設けられているものも含むことから、接地面を有するタイプのいわゆるグランドプレーンアンテナを用いることによる格別の効果があるとはいえない。さらにいえば、段落【0021】にサイズが小型の接地面を持たないGemplusのModel1アンテナが好適と記載されるものの、段落【0028】の記載は、ワークコイル30の中央開口部分では、平面らせん状アンテナであっても、有害電流が誘導されないと解されるのであって、請求の理由で主張するような、接地面を有するアンテナの接地面に渦電流が流れて加熱することを防ぐことは記載されていない。
また、接地面を有するタイプ、いわゆるグランドプレーンアンテナとして、例えば、1/4波長の垂直エレメントの基部に複数の線状のラジアルを設け、ラジアルによってグランドプレーンを構成するものが通常良く用いられるが、このようなものも含むといえ、このものでは磁界により渦電流を生じるとはいえず、接地面を持たないタイプのアンテナとすることと、請求の理由で主張する効果は対応しない。
さらに、接地面を持たないタイプのアンテナであっても、その素子の大きさや表面積によっては発熱するといえるとともに、磁界が強ければそのアンテナには有害な電流が流れ得るものであり、ループ状のものでも電流が流れれば有害な電流となるから、接地面を持たないタイプのアンテナとしても必ずしも有害な電流がないとはいえない。

イ.(相違点1)及び(相違点2)について
誘導加熱コイルを駆動する手段としてインバータを用いることは、例えば、特開平6-20766号公報、特開平5-184471号公報、特公平7-32068号公報等に示されるように従来周知の事項にすぎない。
また、上記特公平7-32068号公報にも示されるように、誘導加熱コイルを駆動する手段としてのインバータを制御することで、出力を変更することも従来周知である。
そうすると、引用発明における誘導加熱コイルの駆動をインバータによりなすとともに、引用発明の「誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11の作動制御する制御部13」の作動制御として、上記周知の事項に倣って、誘導加熱コイルを駆動するインバータを制御するようになすべく、該インバータに動作可能に接続することは当業者が適宜なし得たことといえる。
また、変更する出力を、複数の出力に対応するようにインバータを選択的に動作させることも、当業者が必要に応じて適宜なし得たことといわざるを得ない。
一方、上記特公平7-32068号公報には、誘導加熱コイルを駆動する手段としてのインバータの制御のために、加熱出力データを格納するRAMを有するワンチップマイコンを用いることも示されているように、制御データを記憶するメモリマイコンを用いて制御することは、機器の制御方法として常套手段であるといえる。
そして上記ア.で検討したように情報記憶手段をRFIDタグとすることが容易であるから、引用発明の「誘導加熱コイル11aを有する加熱調理部11の作動制御する制御部13」の「調理情報に基づき加熱調理部11を作動制御する」構成として、上記周知の事項に倣って、上記調理情報、つまり情報記憶手段であるRFIDタグ「から受け取った情報」を記憶するための電子メモリを有するマイクロプロセッサを用いて制御するようになすことも、当業者が容易になし得たことといえる。
以上のようであるから、相違点1及び2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が格別の困難性を要することなく想到したものといえる。そしてそのことによる格別の効果もない。

そして、上記相違点1?4を合わせみても、本願補正発明による効果が格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年10月25日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「対象物を加熱するために磁場を発生する構成部品と、前記磁場を発生する構成部品を選択的に動作させるために該構成部品に動作可能に接続される調節回路と、前記対象物に取り付けられたRFIDタグから、該RFIDタグに記憶されている、前記対象物に関する情報を受け取る装置と、を含む誘導加熱デバイスであって、
前記調節回路は、前記RFIDタグから受け取った前記情報を記憶するための電子メモリを有するマイクロプロセッサを含み、
前記情報を受け取る装置は、前記RFIDタグに前記情報を送信させる機能を有するRFIDリーダを含み、
前記誘導加熱デバイスの動作は、前記タグから受け取った前記情報に少なくとも一部対応することを特徴とする誘導加熱デバイス。」

1.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記第2の3.(1)に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記第2の1.の本願補正発明から、「構成部品」を「インバータ」とする限定と、「情報を受け取る装置」が「前記情報を受ける、接地面を持たないタイプのRFIDアンテナを含み、このRFIDアンテナは、前記RFIDタグとの通信が確保されるように前記RFIDタグの近傍に配置され」るとの限定事項を省いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の3.(2)に記載したとおり、引用発明及び引用例2に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び引用例2に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載されたもの並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2001-522202(P2001-522202)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 結城 健太郎  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 豊島 唯
佐野 遵
発明の名称 加熱対象物の高周波識別を用いた磁気誘導加熱装置  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  

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