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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800249 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効200335239 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効2009800029 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1213133
審判番号 無効2008-800290  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2010-02-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3740090号発明「油中水型外用剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3740090号の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3740090号に係る出願は、平成14年5月20日に特許出願され、平成17年11月11日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対して、請求人は平成20年12月25日に本件特許無効審判の請求をして、本件特許の請求項1?3に記載された発明についての特許を無効とするとの審決を求め、被請求人は、その答弁書提出期間内である平成21年3月19日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成21年3月19日に提出された訂正請求は、本件特許の設定登録時の特許明細書を前記訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、上記訂正請求は、特許請求の範囲の記載を
「【請求項1】
抗菌成分として、次の成分(A)?(D);
(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.01?5質量%、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を1?10質量%、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%、
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項2】
グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項1に記載の油中水型外用剤。
【請求項3】
成分(B)が、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール及びペンチレングリコールから選ばれる一種又は二種以上である請求項1又は2に記載の油中水型外用剤。」から
「【請求項1】
抗菌成分として、次の成分(A) ?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0 . 0 5 ? 1 質量% 、
(B) プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる二種以上を1 ? 1 0 質量% 、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分( D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項2】
グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項1に記載の油中水型外用剤。
【請求項3】
抗菌成分として、次の成分(A)?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.05?1質量%、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール及びペンチレングリコールから選ばれる一種又は二種以上を1?10質量% 、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項4】
グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項3 に記載の油中水型外用剤。」と訂正し、段落【0017】に、「上記(A)?(D)成分」とあるのを、「上記(A)?(D)成分」(但し、(A)成分は、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を意味し、(B)成分は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を意味するものとする)」と訂正することを求め、加えて、特許請求の範囲の訂正に伴い、段落【0030】及び【0041】に記載された実施例の一部を参考例とすることを求めるものである。
そして、上記訂正は、以下の訂正事項に区分される。
ア 訂正事項1
特許明細書の請求項1の成分(A)に「酸化亜鉛」とあるのを「酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)」とする訂正。
イ 訂正事項2
特許明細書の請求項1の成分Aから「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」を削除する訂正。
ウ 訂正事項3
特許明細書の請求項1の成分(A)について「0.01?5質量%」とあるのを「0.05?1質量%」とする訂正。
エ 訂正事項4
特許明細書の請求項1の成分(B)について「一種又は二種以上」とあるのを「二種以上」とする訂正。
オ 訂正事項5
特許明細書の請求項3に記載された発明のうち請求項1を引用する形式で記載されていたものを、訂正事項1?3を含む請求項1の発明特定事項をすべて含む独立項とする訂正。
カ 訂正事項6
訂正事項5に伴い、特許明細書の請求項3のうち請求項2を引用する形式で記載されていたものを、別項とする訂正。
キ 訂正事項7
特許明細書の請求項1及び3に「抗菌成分として、次の成分( A ) ? ( D ) 」とあるのを、「抗菌成分として、次の成分( A ) ? (C )」とする訂正。
ク 訂正事項8
特許明細書の段落【0017】に「上記(A)?(D)成分」とあるのを、「上記(A)?(D)成分」(但し、(A)成分は、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を意味し、(B)成分は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を意味するものとする)」とする訂正。
ケ 訂正事項9
特許明細書の段落【0030】の【表2】の「実施例4」「実施例6」及び段落【0041】の「実施例15」を、それぞれ「参考例4」「参考例6」及び「参考例15」とする訂正。

(2)訂正の可否
ア 訂正事項1?3について
訂正事項1及び2は、請求項1の成分(A)として選択される化合物の範囲を減縮するものであり、訂正事項3は、成分(A)の含有量の範囲を減縮するものであって、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1及び2による化合物の範囲の減縮により、訂正の前後において新たな技術的事項が追加されたとは認められず、また、訂正事項3の訂正後の数値の根拠は、特許明細書の段落【0011】に存在するから、いずれの訂正事項も特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。
請求人は、訂正事項2に対して、この訂正は、当初明細書に記載されていなかった事項を記載するものであるから、当初明細書に記載された事項の範囲内の訂正ではなく、さらに、特許請求の範囲を実質的に変更するものであるから、訂正は認められないと主張する。
しかし、請求人の主張は、訂正によって、成分(A)から「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」が削除されたことをもって、訂正後の請求項1?4に係る油中水型外用剤には、「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛」を任意添加成分として、含有量の制限なく配合し得るから、訂正後の請求項1?4に記載の発明には、当初明細書には本件発明の範囲内のものとして認識されていなかった組成の油中水型外用剤が包含されることとなったということを前提とするものであり、そして、その前提は誤りであるから、請求人の主張は失当である。
すなわち、組成物発明において、任意添加成分として、どのような化合物が、どのような配合量で添加されることが許容されるかは、明細書の記載全体から(さらには、技術常識等を勘案して)把握されるものであり、配合し得る化合物の種類や量についての限定が請求項にないからといって、いかなる種類の化合物をいかなる量で配合し得ることを意味するものではない。

イ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項1の成分(B)に関して、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、該訂正は特許明細書に記載した事項の範囲内のものである。

ウ 訂正事項5、6について
訂正事項5は、特許明細書の請求項3に記載されていた「請求項1又は2に記載の油中水型外用剤」のうちの「請求項1に記載の油中水型外用剤」について、訂正事項1?3と同様の減縮をするものである。
また、訂正事項6は、特許明細書の請求項3に記載されていた「請求項1又は2に記載の油中水型外用剤」のうちの「請求項2に記載の油中水型外用剤」について、訂正事項1?3と同様の減縮をするものである。
そうすると、訂正事項6は、形式的には請求項を新たに追加するものではあるが、内容的には、訂正事項5及び6は両方合わせて、特許明細書の請求項3に対して、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

エ 訂正事項7について
訂正事項7は、請求項1及び3において、抗菌成分から、成分(D)、すなわち「水」を除外するものであるが、特許明細書の段落【0006】に、「抗菌成分として、次の成分(A)?(C)」と記載されていることや、水を抗菌成分として取り扱うこと自体、技術常識からみて不自然であることから、訂正事項7は、誤記の訂正に該当するものと認められる。

オ 訂正事項8について
訂正事項8は、「上記(A)?(D)成分(但し、(A)成分は、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を意味し、(B)成分は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を意味するものとする)」と記載することによって、本発明の油中水型外用剤に適宜加えることができる添加成分(任意添加成分)の範囲を明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。

カ 訂正事項9について
訂正事項9は、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記各訂正に伴って、本件特許発明の範囲外となった実施例を参考例に変更するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(3)むすび
したがって、上記訂正請求は、特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
請求人は、「特許第3740090号の請求項1?3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1?19号証を提出し、本件特許は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(無効理由1?15)、また、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものでであるから、無効とすべきであると主張し、さらに、平成21年5月25日付け弁駁書において、訂正請求による訂正後の請求項1?4に係る発明についての特許が、依然として無効とすべきものであると主張した。また、口頭審理に先立ち、請求人は、平成21年7月15日付け口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として甲第20?27号証を提出した。

請求人の主張、及び証拠方法は以下のとおりである。
なお、請求人は、訂正請求が認められる場合には、無効理由14及び16のみ維持し、無効理由1?13,15を撤回することを表明しており、上記のとおり、訂正請求は認められるから、無効理由1?13,15は撤回されたものとみなす。

以下、上記訂正後の明細書を「本件特許明細書」、上記訂正後の明細書の請求項1?4に係る発明を、各々「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。

<無効理由>
(1)無効理由14
本件特許発明1?4は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第14号証、甲第17号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由16
平成17年9月12日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に記載する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

<請求人が提出した証拠方法> (無効理由14及び16に関するもの)
甲第14号証:特表平10-503516号公報
甲第17号証:池田鉄作編「化粧品学」昭和32年4月10日発行、南山 堂、6頁
甲第20号証:特開2002-20260号公報
甲第21号証:特開平6-233928号公報
甲第22号証:特開2001-2520号公報
甲第23号証:特開2001-2925号公報
甲第24号証:特開2002-68941号公報
甲第25号証:フレグランスジャーナル、1989年2月号、46?51 頁
甲第26号証:日本防菌防黴学会編「防菌防黴ハンドブック」1986年 5月25日発行、技報堂出版、215?212頁
甲第27号証:特開2000-256108号公報

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として乙第1?5号証を提出し、上記請求人の主張する無効理由は理由がない旨主張した。また、被請求人は、口頭審理に先立ち、平成21年7月15日付け口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として乙第6?14号証を提出した。

被請求人の主張(無効理由14,16に対するもの)、及び証拠方法は以下のとおりである。

<被請求人の主張>
(1)無効理由14に対して
請求人は、甲第14号証と甲第17号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明に想到することは容易であると主張するが、甲第17号証に、0.1?0.2%程度というパラオキシ安息香酸エステル等の配合量が、W/O型コールドクリームにも適用される旨が記載されているとする、請求人の主張は誤りであり、引用発明14が含有する、パラオキシ安息香酸エステル0.37重量%を、0.1?0.2%に置き換えるための動機付けは全くない。また、本件特許発明の抗菌性の改善という課題を解決するために、抗菌成分として用いられる成分(C)の量を増加させることに当業者が動機付けられることはあっても、その量を減少させることに動機付けられるものではない。さらに、甲第20?27号証から導かれる当業者の通常の知識を加味したとしても、本件特許発明1?4は、容易に発明することができたものではない。
また、本件特許発明の効果が、甲第14号証の記載から予測可能であるとする請求人の主張は誤りである。

(2)無効理由16に対して
本件の請求項3に記載された事項は、出願当初明細書に記載された事項であり、さらにいえば、本件の請求項1に記載された事項も、出願当初明細書に記載された事項であるから、請求人が主張する無効理由16は理由がない。

<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:池田鉄作編「化粧品学」昭和32年4月10日発行、南山堂 、16頁
乙第2号証:池田鉄作編「化粧品学」昭和32年4月10日発行、南山堂 、25頁
乙第3号証:池田鉄作編「化粧品学」昭和32年4月10日発行、南山堂 、6頁
乙第4号証:蔵多淑子ら編「化粧品ハンドブック」平成8年11月1日発 行、日光ケミカルズ株式会社、227?228頁
乙第5号証:蔵多淑子ら編「化粧品原料辞典」平成3年11月29日発行 、日光ケミカルズ株式会社、241頁
乙第6号証:特願2002-144425号の平成17年9月12日付け 意見書
乙第7号証:「特許・実用新案審査基準」(「第III部 明細書、特許請 求の範囲又は図面の補正 第1節 新規事項」の項)、1?4頁
乙第8号証:「審判便覧」(54-10 訂正の可否決定上の判断及び事 例)、6?9頁
乙第9号証:特開平9-309814号公報
乙第10号証:特開平3-112904号公報
乙第11号証:特開平3-118305号公報
乙第12号証:特開平5-221849号公報
乙第13号証:「日本エマルジョン株式会社」のパンフレット、
47-48頁
乙第14号証:光井武夫編「新化粧品学」2001年1月18日発行、南 山堂、191?193頁

5.本件特許発明に対する判断
(1)無効理由14について
無効理由14は、本件特許発明1?4は、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。

ア.本件特許発明
本件特許発明1?4は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
抗菌成分として、次の成分(A) ?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.05?1質量% 、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる二種以上を1?10質量% 、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量% 、及び/ 又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D) 水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項2】
グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項1 に記載の油中水型外用剤。
【請求項3】
抗菌成分として、次の成分(A)?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.05?1質量% 、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール及びペンチレングリコールから選ばれる一種又は二種以上を1?10質量% 、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/ 又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05? 0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項4】
グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項3に記載の油中水型外用剤。」

イ.甲第14号証及び甲第17号証の記載事項(下線は、審判合議体で付した。)。

甲第14号証
(A-1)「本発明は化粧メーキャップ組成物、更に詳しくは優れたうるおい効能、適用性、皮膚感及び外観と一緒に改善された被覆性(coverage)を有する着色(pigmented)ファンデーションメーキャップ組成物に関する。」(4頁4?6行)
(A-2)「ファンデーション組成物でもう1つの任意だが、好ましい成分は、1種以上の保存剤である。ファンデーション組成物中の保存剤濃度は、組成物の全重量に基づき、約0.2?約0.8重量%、好ましくは約0.4?約0.6重量%の範囲内である。本発明で使用に適した保存剤にはジアゾリジニル尿素、メチルパラベン、エチルパラベン及びそれらの混合物がある。」(21頁27行?22頁3行)
(A-3)「表1:油中水型エマルジョン
例 IV
wt%
A.
セチルオクタノエート 2.0
シクロメチコン 15.0
シクロメチコン/ジメチコン 5.0
プロピルパラベン 0.25
ラウレス-7 0.5
ジメチコン 3.0
プロピレングリコール 5.0
ジカプリレート/ジカプレート
B.
チタン化マイカ 0.25
タルク 0.7
C.
シクロメチコン/ジメチコン 5.0
コポリオール(90:10)
D.
黄色酸化鉄 0.4
赤色酸化鉄 0.49
黒色酸化鉄 0.1
群青 0.1
E.
合成ワックス 0.1
アラキジルベヘネート 0.3
F.
トリヒドロキシステアリン 1.5
Al Mgヒドロキシステアレート/ 1.5
シクロメチコン(20:80)
G.
エチレンブラシレート 0.05
BHT 0.05
H.
脱イオン水 全量100まで
メチルパラベン 0.12
塩化ナトリウム 0.5
ジヒドロ酢酸ナトリウム 0.8
グリセリン 5.0
二酸化チタン 6.0
ポリマー顔料1 0.8
ポリマー顔料2 0.3
ポリマー顔料3 0.4
超微細酸化亜鉛 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
J.
プロピレングリコール 2.0
キサンタンガム 0.08
ポリマー顔料1,2及び3は水分散性ポリマー処理赤色、黄色及び黒色酸化鉄あり、ポリマーはジグリコールシクロヘキサンジメタノールイソフタレートスルホイソフタレートコポリマーである。
K.
精油 0.20
香油 0.20

表1に掲載された様々な成分を各グループに分けて、各グループの諸成分を一緒にミックスしてから、下記操作に従い残りのグループのメンバーに加える。
第一ステップにおいて、相Aの成分の混合物を均一になるまで剪断ミキシング下で約5分間攪拌する。高速剪断ミキシング下で、相Bの物質をAに徐々に加え、バッチを分散するまで35分間ミックスする。
相C、その後相Dの成分を分散するまで高速剪断ミキシング下で相A及びBの混合物にゆっくり加える。シリカをこの時点で加え、混合物中に分散させる。
相Eの成分を得られたバッチ中に加え、その後84℃に加熱し、分散するまでミックスする。容器を45℃に冷却し、プレミックスされた相Fを加える。バッチを均一になるまでミックスする。混合液を30℃に冷却し、相Gを加える。
相Hのプレミックスはすべての成分を完全に分散するまでミックスすることにより作る。30℃で相Hのプレミックスを高剪断下でバッチ混合物にそっと加え、表面に過剰の水が確かに存在しないようにする。次いで混合物を15分間ミックスする。最後に相I,J,K及びLを加える。
得られたメーキャップ組成物は直ちにパッケージ化できる。」(23頁1行?27頁10行)

甲第17号証
(B-1)「防腐防ばい剤として最も広く用いられるものにパラオキシ安息香酸の種々のエステル及びそのソーダ塩がある。すなわちメチル、エチル、プロピルなどのエステルである。これらはいずれも0.1?0.2%程度用いると効果がある。しかしこれらは単独で用いるよりも二種以上併用した方が一層効果的である。たとえばエチルエステル0.15%、プロピルエステル0.05% ブチルエステル0.02%を一緒に用いることができる。」(6頁20?25行)

ウ.引用発明
甲第14号証の表1に例IVとして記載された油中水型エマルジョンからなるメーキャップ組成物を「引用発明」とする。
例IVの組成(上記(A-3))から、本件特許発明の発明特定事項に着目して、成分(A)?(D)に該当する化合物(下線を付した化合物とその含有量を抜き出して記載すると以下のようになる。
なお、上記組成における脱イオン水以外の成分を合計すると、57.99重量%となるから、脱イオン水の「全量100まで」とは、42.01重量%である。

本件特許発明1,2と対比する場合(プロピレングリコールとグリセリンはいずれも、成分(B)に該当する。)
化合物 含有量(重量%)
成分(A) 超微細酸化亜鉛 0.2
成分(B) プロピレングリコール 2.0
グリセリン 5.0
成分(C) メチルパラベン 0.12
プロピルパラベン 0.25
成分(D) 脱イオン水 42.01
(B)/(D)は、0.17、(A)/[(B)+(C)]は、0.027となる。

本件特許発明3,4と対比する場合(グリセリンは成分(B)には該当しない。)
化合物 含有量(重量%)
成分(A) 超微細酸化亜鉛 0.2
成分(B) プロピレングリコール 2.0
成分(C) メチルパラベン 0.12
プロピルパラベン 0.25
成分(D) 脱イオン水 42.01
(B)/(D)は、0.05、(A)/[(B)+(C)]は、0.084となる。

エ.本件特許発明1について
エ-1.対比
本件特許発明1と、引用発明を対比する。
メーキャップ組成物は、外用剤の一種であり、また、パラベンとパラオキシ安息香酸エステルとは同義であって、メチルパラベンとプロピルパラベンはいずれも、パラオキシ安息香酸エステルの一種であるから、両者は、
「成分(A)として、酸化亜鉛を0.2質量%、成分(B)として、プロピレングリコール及びグリセリンを7.0質量%、成分(C)として、パラオキシ安息香酸エステル、及び、成分(D)として、水を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.17であり、成分[(B)+(C)] に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)] (質量比)が0.027である油中水型外用剤」である点で一致し、以下の点で一応相違するものと認める。

相違点1:本件特許発明1では、成分(A)?(C)を「抗菌成分として」含有するものであるのに対し、引用発明では、これらの成分を抗菌成分として配合するという特定はない点、
相違点2:成分(C)の含有量が、本件特許発明1では、「0.05?0.3質量%」と規定されているのに対し、引用発明では、0.37重量%である点。

エ-2.相違点の判断
そこで、上記相違点について以下検討する。
(i) 相違点1について
被請求人は、口頭審理陳述要領書において、甲第14号証においては、グリセリンは、保湿剤として使用され、酸化亜鉛は、UV吸収剤として使用されることが明記されており、「抗菌成分として」配合するものではないと主張する。しかし、例えば、抗菌成分としてグリセリンを5重量%配合した外用剤と、保湿剤としてグリセリンを5重量%配合した外用剤とを比較した場合、抗菌成分として配合されたグリセリンと、保湿剤として配合されたグリセリンとを、外用剤中で区別することはできないように、「抗菌成分として」配合したか否かによって組成が変化するわけではない。また、「成分(A)?(C)を『抗菌成分として』含有する」との規定によって、本件特許発明1の外用剤に用途の限定が付されたものとなるものとも認められない。
したがって、本件特許発明1における「成分(A)?(C)を『抗菌成分として』含有する」という規定は、組成物の構成に影響を及ぼすものではないから、相違点1は実質的な相違点ではない。

なお、メチルパラベン及びプロピルパラベン(成分(C))については、甲第14号証には、メチルパラベン及びプロピルパラベンを保存剤として配合することが記載されており(上記(A-2))、パラオキシ安息香酸エステル(パラベン)類を用いた「保存」が、防腐、すなわち、菌の繁殖に抗する保存を意味することは自明であるから、引用発明におけるメチルパラベン及びプロピルパラベン(成分(C))については、「抗菌成分として」含有されているものと認められる。
また、仮に、酸化亜鉛(成分(A))と、プロピレングリコール及びグリセリン(成分(B))を「抗菌成分として」配合する点を、本件特許発明1と引用発明との相違点であるとしたとしても、1,3-ブチレングリコール,プロピレングリコール等の多価アルコールや酸化亜鉛が、外用剤の抗菌剤として用いられていたことは、本件出願時において周知であったものと認められる(多価アルコールについては、例えば、甲第26号証217頁、甲第27号証【0009】、酸化亜鉛については、特開200-169338号公報、特開2000-178168号公報、特開平8-217616号公報、特開2000-159632号公報、特開平8-40830号公報参照。また、本件明細書の段落【0002】には、「1,3-ブチレングリコール等が抗菌の主剤又は助剤として用いられてきた。」と記載されている。)から、引用発明のメーキャップ組成物に配合された、プロピレングリコール及びグリセリン(成分(B))並びに酸化亜鉛(成分(A))について、「抗菌成分として」という配合目的を見出すことは、当業者が容易になし得るものである。

(ii) 相違点2について
パラオキシ安息香酸エステル類に限らず、化粧料に配合する防腐剤の量は必要最低限とすることが望ましいことは当然であり、防腐剤の配合量を減らすことは、本件出願当時における自明の課題であったものと認められる(例えば、甲第27号証【0006】参照)。また、特に、パラオキシ安息香酸エステル類については、乙第9?11号証に記載されるように、肌刺激性を有することが、本件出願当時において周知であったものと認められることから、パラオキシ安息香酸エステルが配合された化粧料において、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量を必要最小量として、肌刺激性を減少させようとすることは、当業者が当然考えるものと認められる。
また、甲第14号証には、「ファンデーション組成物中の保存剤濃度は、組成物の全重量に基づき、約0.2?約0.8重量%、好ましくは約0.4?約0.6重量%の範囲内である。本発明で使用に適した保存剤にはジアゾリジニル尿素、メチルパラベン、エチルパラベン及びそれらの混合物がある。」(上記(A-2))と記載されており、上記保存剤濃度の「約0.2?約0.8重量%」は、本件特許発明1で規定する、パラオキシ安息香酸エステルの濃度範囲の「0.01?0.3質量%」と重複している。
さらに、甲第17号証には、パラオキシ安息香酸エステル類の有効な配合量が、0.1?0.2%程度であることが記載されている(上記(B-1))。なお、この配合量に関する記載は、バニシングクリームの項における記載であるが、甲第14号証の図書のコールドクリームの項には、「クリームの安定化のために、外見のためにも防腐剤の配合は絶対行わねばならない事である(バニシングクリーム参照)。」(乙第1号証、16頁13?14行)と記載されており、バニシングクリームにおける記載を参照するものとなっていることから、上記の配合量に関する記載は、水中油型のバニシングクリームだけでなく、コールドクリームのような油中水型の化粧品にも適用し得るものとして記載されているものと認められる。
そうすると、引用発明において、肌刺激性等の観点から、保存剤であるメチルパラベン及びプロピルパラベンの配合量を、0.37重量%よりも少なくしようとすることは、本件出願当時の当業者が容易に想到したものと認められ、その配合量の検討に際して、甲第14号証に、保存剤の濃度範囲として、本件特許発明1で規定する濃度範囲と重複する「約0.2?約0.8重量%」が記載されていることや、甲第17号証に、パラオキシ安息香酸エステル類の有効な配合量として「0.1?0.2%程度」と記載されていることから、本件特許発明1で規定する配合量について検討を行うことは、当業者が容易になし得たものと認められる。したがって、引用発明において、メチルパラベン及びプロピルパラベンの濃度を、本件特許発明1で規定された範囲内として、本件特許発明1の構成に至ることは、当業者にとって困難性はない。

この点に関し、被請求人は、(a)甲第14号証には、引用発明の油中水型乳化化粧料において、保存剤であるパラオキシ安息香酸エステル類の量を0.37%以外であって、0.2?0.8%の範囲にすることの具体的な記載も示唆もないこと(口頭審理陳述要領書16?17頁)、(b)甲第17号証の記載は、水中油型のバニシングクリームに関するものであり、油中水型コールドクリームについて適用される旨記載されているとする、請求人の主張は誤りであること(答弁書17頁、口頭審理陳述要領書17?18頁)、及び、(c)仮に、外用剤や化粧料について、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量を、「0.1?0.2%程度」を基準に決定することが、本件出願時の当業者の通常の知識であったとしても、引用発明における0.37%は、請求人が主張する「化粧料にパラベンを適量加える場合は、その量は、0.1?0.2%程度」の「適量」を超えた量であるから、引用発明の組成に接した場合、当業者は、引用発明が、パラオキシ安息香酸エステルを、基準値を超える0.37%を含有していることを理解するはずであり、本件出願時において、パラオキシ安息香酸エステルは、肌刺激性の点からなるべく低減したいという考えが当業者にあったことに鑑みれば、引用発明は、基準値を超える量のパラオキシ安息香酸エステルを添加しなくては抗菌性を確保できない組成であることを理解するから、引用発明の組成を改変して、パラオキシ安息香酸エステルの配合量を0.1?0.2%に低減する動機付けはないこと(口頭審理陳述要領書19?20頁)を主張する。

しかし、被請求人の主張の(a)の点については、甲第14号証の保存剤の配合量に関する記載(上記(B-1))は、甲第14号証に記載されたメーキャップ組成物に共通した事項を記載したものであって、その実施例である例IVの組成物(引用発明)において、保存剤の量を調整し得ること及びその際の配合量の示唆となるものというべきである。

また、被請求人の主張の(b)の点については、甲第17号証におけるパラオキシ安息香酸エステル類の配合量に関する記載は、水中油型のバニシングクリームだけでなく、コールドクリームのような油中水型の化粧品にも適用し得るものとして記載されているものと認められることは上述のとおりである。
さらに、提出された各証拠を検討しても、水中油型の場合と、油中水型の場合とで、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量が異なるものと当業者に認識されていたとの事実は認められない。
すなわち、甲第20号証では、水中油型組成物の実施例(実施例1,2,5,6等)も、油中水型組成物の実施例(実施例4,7等)も、パラオキシ安息香酸エステルの配合量は0.1重量%と共通している。また、甲第25号証には、「パラオキシ安息香酸類の有効性と安全性について」と題する論文であって、「3.使用実態 3-1.化粧品 日本では、化粧品用の防腐剤としてパラオキシ安息香酸エステル類がほとんど専用されており、化粧品には1%までの使用が認められている。使用料(審決注:「使用量」の誤記と認められる。)は0.1?0.2%程度で十分であるが、エステル類を2種以上併用すると一層有効である。」(46頁右欄、下から8行?下から2行)と記載されているが、水中油型と油中水型とで、配合量を変えることは記載されていない。さらに、甲第21?24号証に記載された、油中水型化粧料の各組成における、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量も、水中油型の場合と、油中水型の場合とで、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量が異なることを示すものではなく、甲第25?27号証におけるパラオキシ安息香酸エステル類の配合量の記載も、水中油型であるか油中水型であるかを区別して記載したものではない。さらに、乙第1?3号証も、乙第2号証には、「バニシングクリームはO/W型である。コールドクリームはW/O型とO/W型のどちらかの型である」と記載され、バニシングクリームとコールドクリームの分散型を説明するのみであり、乙第1号証には、コールドクリームの安定のために、防腐剤の配合が必須であることが記載されているが、油中水型と水中油型とを区別した記載はない。さらに、乙第3号証には、「バニシングクリームは普通の状態では防腐防ばい剤、酸化防止剤などを用いなくとも微生物などによる変質というようなことはまず少ないが、グリセリンモノステアレート、ジグリコールステアレート、ソルビット溶液等を使用した場合、又他の油脂類を添加した場合などでは時にある条件のもとで微生物の発生をみたり、酸敗したりしてクリームの変質をもたらす事がある。この場合それらの発生を妨げたり遅らせるために防腐防ばい剤とか酸化防止剤が必要となってくる。」と記載されており、水中油型のバニシングクリームであっても、組成によっては防腐防ばい剤の添加が必要となることを述べるにとどまる。また、甲第14号証においても、水中油型エマルジョンの例を記載した表2に記載された組成I,II,IIIはいずれもパラオキシ安息香酸エステル類の配合量が0.37重量%となっており、油中水型エマルジョンである引用発明と、保存剤の配合量において差異はない。

そして、被請求人の主張の(c)の点については、外用剤や化粧料においては、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量は、「0.1?0.2%程度」が基準量であり、引用発明の「0.37重量%」は、基準量を超えるものであることを前提とするものであるが、そもそも、請求人は「外用剤や化粧料について、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量を、『0.1?0.2%程度』を基準に決定することが、本件出願時の当業者の通常の知識であった」とは述べておらず、また、提出された各証拠の記載を検討しても、「外用剤や化粧料について、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量を、『0.1?0.2%程度』を基準に決定することが、本件出願時の当業者の通常の知識であった」とは認められない。むしろ、甲第25号証に、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量に関し、「化粧品には1%までの使用が認められている。」(46頁右欄、下から4行)と記載され、また、甲第27号証に、「本発明の防腐剤を組成物に使用する場合、通常組成物全体に対して上記安息香酸系化合物が好ましくは0.001?1%(重量%、以下同様)、より好ましくは0.05?0.4%、更に好ましくは0.1?0.3%となるように配合することが好ましい。」(【0020】)との記載によれば、0.37%という配合量も、通常使用される配合量の範囲に含まれるものと認められるから、被請求人の主張は採用することができない。

また、効果についても、本件特許発明1が、引用発明に比べて,格別顕著な効果を奏したものとは認められない。
なお、この点につき、被請求人は口頭審理陳述要領書において、引用発明は、パラオキシ安息香酸エステル類を0.37%含有しているのであるから、本件特許発明1の発明特定事項を満足しないことで、本件特許発明1と比較して、皮膚刺激性が劣っていることは明らかであり、また、皮膚刺激性を改善するために、パラオキシ安息香酸エステル類の量を基準値程度に減少させると、本件出願時の当業者は、抗菌性が犠牲になると予想したことから、本件特許発明1の効果が、予測できない顕著なものであるとの主張をしている。
しかし、被請求人の主張は、比較試験データ等が示されていないので、本件特許発明1と引用発明との間の皮膚刺激性の差異の有無及び差異の程度を確認することができないが、仮に、引用発明が本件特許発明1に比べて、皮膚刺激性の点で劣っているとしても、パラオキシ安息香酸エステル類の配合量が多ければ、皮膚刺激性があり、少なければ、抗菌性が劣るという、一般的な傾向に基づくものにすぎず、本件特許発明1が予想外の効果を奏したものとはいえない。
なお、被請求人は、成分(A)?(C)を併用することにより油中水型外用剤において抗菌性の相乗効果を発見したことを、本件特許発明1の効果の顕著性の根拠とする主張も行っているが、そのような相乗効果が仮にあったとしても、引用発明も、成分(A)?(C)を併用するものであるから、抗菌性の相乗効果を奏しているはずであり、引用発明に比べて本件特許発明1の効果の顕著性の根拠とはならない。

エ-3.むすび
したがって、本件特許発明1は、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項に、請求項1に記載の油中水型外用剤が「グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する」ことが付加されたものである。
このため、本件特許発明2と引用発明を対比した場合、上記ウ-1.に記載した本件特許発明1と引用発明との相違点に加えて、本件特許発明2では、油中水型外用剤が「グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する」ことが規定されているのに対し、引用発明には、そのような規定がない点が一応の相違点となる。
しかし、「グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する」ことは、請求項1に記載された各要件を備える油中水型外用剤が有する性質を表示したにすぎないものと認められるから、「グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する」という規定の有無は、進歩性の判断には影響を及ぼさないものであるため、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2も、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ.本件特許発明3について
引用発明の組成に含まれる、本件特許発明3における成分(A)?(D)に該当する化合物とその含有量は、上記イ.の項に記載したとおりであるので、本件特許発明3と引用発明を対比すると、両者は、「成分(A)として、酸化亜鉛を0.2質量%、成分(B)として、プロピレングリコールを2.0質量%、成分(C)として、パラオキシ安息香酸エステル、及び、成分(D)として、水を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05であり、成分[(B)+(C)] に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)] (質量比)が0.084である油中水型外用剤」である点で一致し、相違点に関しては、本件特許発明1と引用発明とを対比した場合の相違点1,2に加えて、本件においては、段落【0017】の記載からみて、グリセリンは任意添加成分としても含まれないものであることから、本件特許発明3では、グリセリンを含まないのに対し、引用発明では、グリセリンが含まれる点(以下、「相違点3」という。)でも相違するものと認められる。
このうち、相違点1,2については、上記エ-2.で検討済みである。
また、相違点3については、引用発明において、グリセリンは、保湿剤として配合されているが、甲第14号証の14頁22行?15頁26行には、甲第14号証に記載された組成物に配合される保湿剤が列挙記載されており、この中で、グリセリンは、選択可能な保湿剤の一つとして記載されている。そして、この列挙記載された保湿剤は、グリセリンを除いて、本件特許発明3の組成物に配合し得るものと認められる。そうすると、引用発明の組成物において、グリセリンに代えて、甲第14号証に記載された保湿剤を配合することにより、グリセリンを配合しない組成とすることは、当業者が容易になし得るものと認められる。
したがって、本件特許発明3も、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ.本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3の発明特定事項に、請求項3に記載の油中水型外用剤が「グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する」ことが付加されたものであるから、本件特許発明3と同様に、本件特許発明4も、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク.「無効理由14について」むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1?4は、甲第14号証及び甲第17号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効理由14は理由がある。

6.むすび
以上のとおり、本件特許1?4は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するものであるから、無効理由16を検討するまでもなく、本件特許の請求項1?4に記載された発明に係る特許は、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
油中水型外用剤
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗菌成分として、(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上、(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上、(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステル及び/又は(C2)フェノキシエタノール、を含有することにより、抗菌性に優れ、安定で使用感の良好な皮膚刺激のない油中水型外用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、医薬品、医薬部外品、化粧品等の外用剤には、微生物汚染に対する品質の保持、保存性の向上のために各種の抗菌成分が加えられている。一般的な乳化剤型においては、パラオキシ安息香酸エステル類、デヒドロ酢酸及びその塩類、フェノキシエタノール、1,3-ブチレングリコール等が抗菌の主剤又は助剤として用いられてきた。
【0003】
しかしながら、これらの抗菌剤は主として水系でその効果を有効に発現するものであるので、乳化物の外相が油相である油中水型の剤型の外用剤においてはその効果を発現し難いものであった。抗菌効果を得るためには、油中水型の剤型に抗菌剤を多量に配合することとなり、その結果、抗菌効果は得られても系の安定性や使用感に悪影響を及ぼしたり、又、皮膚刺激を生じる場合があり、その改善が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、従来の抗菌剤を用いながらもその使用量を適度な範囲に抑えることができ、充分な抗菌効果が得られると共に、系の安定性や使用感に悪影響を及ぼしたり、皮膚刺激を生じることのない油中水型の外用剤が求められており、本発明の課題はこのような技術を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコールとパラオキシ安息香酸エステル及び/又はフェノキシエタノールからなる抗菌成分に、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を加えることにより、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコールとパラオキシ安息香酸エステル及び/又はフェノキシエタノールからなる抗菌成分の使用量を抑えても充分な抗菌効果が得られ、使用感を損なわず、皮膚刺激のない油中水型の外用剤が得られることを見出し本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)抗菌成分として、次の成分(A)?(C)、
(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステル及び/又は(C2)フェノキシエタノール
を含有することを特徴とする油中水型外用剤であり、更に、
(2)成分(A)?(C1)が、
(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上 0.01?5質量%(以下、単に「%」で示す)
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上 1?10%
(C1)パラオキシ安息香酸エステル 0.01?0.3%
であることを特徴とする前記の油中水型外用剤であり、更に、
(3)成分(A)?(C2)が、
(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上 0.01?5%
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上 1?10%
(C2)フェノキシエタノール 0.05?0.5%
であることを特徴とする前記の油中水型外用剤であり、更に、
(4)油中水型外用剤に処方された水(成分(D))に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であることを特徴とする前記の油中水型外用剤であり、更に、
(5)成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合、(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1であることを特徴とする前記の油中水型外用剤であり、更に、
(6)グラム陽性球菌に対して特に抗菌性を有する前記の油中水型外用剤、を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の抗菌成分(A)である、酸化亜鉛、塩化亜鉛及び硫酸亜鉛は、外用医薬品、化粧品等の原料として、主に収斂剤として用いられているものである。また、酸化亜鉛は、粉体原料として増量剤等の用途の他、紫外線防御効果を有するので日焼け止め料に紫外線防御剤としても用いられている。ラウリン酸亜鉛及びステアリン酸亜鉛は、高級脂肪酸の金属石けんであり、油系のゲル化剤や感触の改良剤として用いられている。又、グルコン酸亜鉛は、亜鉛強化の為の食品添加物として用いられているものである。
【0008】
これら亜鉛化合物は亜鉛イオンによる緩和な抗菌効果が期待されるが、前記のような用途が主目的であるので外用剤への配合量は一般に多く、従来の水系の抗菌剤では充分な効果が得られない油中水型外用剤にこれら亜鉛化合物が抗菌成分として少量用いられるようなことはなかった。これら亜鉛化合物の粒径や形状等は特に限定されず、一種又は二種以上を用いることができる。
【0009】
本発明の抗菌成分(B)であるプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンは、外用剤の基剤、保湿剤、抗菌の助剤等として用いられるものである。ブチレングリコールとしては、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール等が、ペンチレングリコールとしては、1,2-ペンチレングリコール、1,3-ペンチレングリコール、1,4-ペンチレングリコール等が挙げられる。外用医薬品、化粧品等の原料としての汎用性から、本発明の油中水型外用剤には、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール及びグリセリンの一種又は二種以上が用いることが好ましい。
【0010】
本発明の抗菌成分(C)である、(C1)パラオキシ安息香酸エステル及び(C2)フェノキシエタノールは、外用医薬品、化粧品等の抗菌剤として一般に用いられているものである。パラオキシ安息香酸エステルとしては、メチル、エチル、ブチル及びプロピルエステル体が好ましく用いられる。これらの抗菌成分(C)は、一種又は二種以上を用いることができる。
【0011】
本発明の油中水型外用剤における抗菌成分(A)、(B)及び(C)の各成分の含有量は、夫々、成分(A)は0.01?5%、好ましくは0.05?1%、成分(B)は1?10%、好ましくは3?6%、成分(C1)は0.01?0.3%、好ましくは0.05?0.2%、成分(C2)は0.05?0.5%、好ましくは0.1?0.3%である。
【0012】
本発明では、抗菌成分(B)、(C1)及び(C2)の含有量を、成分(A)を含まない通常の油中水型外用剤で充分な抗菌効果を得る為に使用しなければならない量に比べ著しく減らすことができるので、充分な抗菌力を有しながら、且つ、使用感が良く安定で、皮膚刺激のない油中水型外用剤を得ることができる。
【0013】
又、本発明の油中水型外用剤における、処方された水(成分(D))に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であると、より優れた抗菌効果が得られ、その結果、更に安定性や使用性が良好で、皮膚刺激のない油中水型外用剤を得ることができる。
【0014】
更に、本発明の成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合、(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1であると、本発明の効果がより優れたものとなる。
【0015】
本発明の油中水型外用剤は、グラム陽性球菌に対して高い抗菌性を有するものである。
【0016】
本発明の油中水型外用剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等のいずれの外用剤にも有効に用いられ、例えば化粧品においては、油中水型の乳液、クリーム、美容液等のスキンケア製品や、ヘアクリーム等の頭髪製品、リキッドファンデーション、油中水型固形ファンデーション等のメイク製品に用いることができる。
【0017】
本発明の油中水型外用剤には、上記(A)?(D)成分(但し、(A)成分は、酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を意味し、(B)成分は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を意味するものとする)以外に、通常医薬品や化粧品等の油中水型外用剤に用いられる各種油剤、界面活性剤、保湿剤、pH調整剤、粉体、アルコール類、動植物や微生物由来の抽出物やビタミン類等の薬効剤、紫外線防止剤、着色剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えることができる。
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何等制約されるものではない。
【0019】
【実施例】
試験例1:抗菌力の評価
表1に示す処方の油中水型クリームを下記製法により調製し、各種微生物に対する抗菌力(防腐力)を第14改正日本薬局方・参考情報記載の保存効力試験法に準じて評価した。これらの評価結果を表1にあわせて示した。
【0020】
(試験方法)
抗菌力評価のための被験菌としては、下記(a)?(c)の3菌株を使用した。
(a)Staphylococcus aureus IFO 13726
(b)Escherichia coli IFO 3972
(c)Pseudomonas aeruginosa IFO 13275
(a)の菌株はグラム陽性球菌、(b)及び(c)の菌株はグラム陰性桿菌として知られているものである。
上記菌株を培養したものを、各々、10^(5)cells/gとなるように実施例1?4及び比較例1?2のクリームに接種し、接種後1日後、3日後、及び1週間後の生菌数を調べて、以下の3段階の基準で評価した。
【0021】
(評価基準)
◎:1日後の生菌数が、10^(2)cells/g以下まで減少したもの
○:3日?1週間後の生菌数が、10^(2)cells/g以下まで減少したもの
×:1週間後の生菌数が、定常、又は増殖したもの
【0022】
【表1】

【0023】
(油中水型クリームの製法)
室温で均一に分散した成分(1)?(5)に、同様に室温で均一に溶解した成分(6)?(8)を攪拌しながら加え、油中水型クリームを得た。
【0024】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1?4は優れた抗菌力を有しており、特にグラム陽性球菌に対して高い抗菌力が得られることが明らかとなった。比較例2は、1,3-ブチレングリコールを多量に含有することにより高い抗菌力が得られているが、後述するように、皮膚への刺激があり、べたつき感が強くて使用感に劣るものであった。
【0025】
なお、表1及び後述の表2、3中において、各成分の配合(質量)比を示す(B)/(D)は、小数点以下3桁目を四捨五入した値であり、同じく、(A)/[(B)+(C)]は、小数点以下4桁目を四捨五入した値を示すものである。
【0026】
試験例2:抗菌力、刺激感、使用感の評価
表2及び表3に示す処方の油中水型クリームを下記製法により調製し、その抗菌力(防腐力)、刺激感(皮膚に塗布した時の違和感、痛み)及び使用感(皮膚に塗布した時のべたつき感等)について詳細に評価した。評価結果を表2及び表3にあわせて示した。なお、表2の実施例1?4及び表3の比較例1?2は、試験例1と同じものである。
抗菌力の評価方法及び評価基準は、試験例1に準じ、(a)の菌株を使用した。
【0027】
刺激感及び使用感の評価は以下の方法と評価基準で行った。
(刺激感)
女性パネル20名を使用し、表2及び表3の油中水型クリームを頬部に塗布して5段階評価を行い、評価したパネルの平均点により、下記判断基準から刺激感を評価して示した。
(評価基準)
<5段階評価>
5点:違和感や痛みを全く感じない
4点:わずかに違和感を感じるが痛みはない
3点:極わずかに痛みを感じる
2点:やや痛みを感じる
1点:痛みを感じる
<判断基準>
◎:4.5点以上
○:3.5点以上4.5点未満
△:2.5点以上3.5点未満
×:2.5点以下
【0028】
(使用感)
化粧歴10年以上の女性20名をパネルとして、伸びの良さ、べたつきのなさの使用感について、良いと感じた人数により、以下の基準に従い評価した。
【0029】
<評価基準>
◎:16名以上
○:12名以上16名未満
△:8名以上12名未満
×:8名未満
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
(油中水型クリームの製法)
室温で均一に分散した成分(1)?(7)に、同様に室温で均一に溶解した成分(8)?(11)を攪拌しながら加え、油中水型クリームを得た。
【0033】
表2及び表3の結果から明らかなように、本発明の抗菌成分(A)を含有しない比較例においては、抗菌成分(B)及び(C)の含有量を増すと良い抗菌力は得られるが、一方で刺激感や使用感の問題があり、(B)及び(C)の含有量を減らすとその逆の問題を生じる。又、成分(A)を含有しても、成分(B)もしくは(C)の一方を欠くと抗菌力と刺激感や使用感の問題を解決できない。本発明の抗菌成分(A)、(B)及び(C)を含有する実施例ではこれらの問題が解決され、優れた抗菌力を保持しつつ、皮膚刺激がなく、使用感が良好な油中水型外用剤を提供できることが明らかとなった。
【0034】
以下に、種々の形態の本発明の油中水型外用剤を例示するが、いずれの実施例も優れた抗菌力を保持しつつ、皮膚刺激がなく、使用感も良好なものであった。なお、これらの実施例における油中水型外用剤の製造方法は、各々の油中水型外用剤の製造方法として一般的に用いられている方法に従った。
【0035】
実施例12:美白エッセンス

【0036】
(製法)
成分(1)?(5)を室温にて均一に混合したものに、成分(6)?(10)を同様に室温にて均一に混合したもの及び成分(11)を撹拌しながら加えて美白エッセンスを得た。
【0037】
実施例13:アイクリーム

【0038】
(製法)
成分(1)?(7)を70℃で加熱混合し、成分(8)?(10)を同様に70℃に加熱溶解したものを撹拌しながら加えて乳化後、室温まで冷却し、成分(11)を加えてアイクリームを得た。
【0039】
実施例14:リキッドファンデーション

【0040】
(製法)
予備分散した成分(3)?(13)を成分(1)及び(2)に分散する。これに、成分(17)に成分(14)?(16)を溶解したものを撹拌しながら加えて乳化した後、成分(18)を加えて、リキッドファンデーションを得た。
【0041】
参考例15:固形ファンデーション

【0042】
(製法)
予備分散した成分(3)?(15)を成分(1)及び(2)に分散し、60℃に加熱する。これに、成分(19)に成分(16)?(18)を溶解したものを撹拌しながら加えて乳化し、室温に冷却した後、成分(20)を加えて固形ファンデーションを得た。
【0043】
実施例16:クレンジングマッサージ

【0044】
(製法)
成分(1)?(5)を70℃で加熱溶解し、これに成分(6)?(11)を同様に70℃で加熱溶解したものを撹拌しながら加えて乳化し、室温に冷却後、成分(12)を加えてクレンジングマッサージを得た。
【0045】
【発明の効果】
成分(A)?(C);(A)酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上、(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる一種又は二種以上、(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステル及び/又は(C2)フェノキシエタノール、を抗菌成分として含有することを特徴とする本発明の油中水型外用剤は、成分(B)及び(C)の含有量を皮膚に塗布した時の刺激感やべたつき等の使用感の悪さを生じることがない適度な範囲に抑え、かつ、優れた抗菌力を有する。従って、本発明の油中水型外用剤は、優れた抗菌力を有し、かつ、皮膚刺激がなく使用感の良い各種剤型の油中水型外用剤として有効に用いることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】抗菌成分として、次の成分(A)?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.05?1質量%、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール及びグリセリンから選ばれる二種以上を1?10質量%、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項2】グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項1に記載の油中水型外用剤。
【請求項3】抗菌成分として、次の成分(A)?(C);
(A)酸化亜鉛(但し、疎水化処理されたもの及びアルミナで表面コーティング処理され且つ鉄ドープされたものを除く)、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及びグルコン酸亜鉛から選ばれる一種又は二種以上を0.05?1質量%、
(B)プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール及びペンチレングリコールから選ばれる一種又は二種以上を1?10質量%、
(C)(C1)パラオキシ安息香酸エステルを0.01?0.3質量%、及び/又は(C2)フェノキシエタノールを0.05?0.5質量%;及び
(D)水、
を含有する油中水型外用剤であって、油中水型外用剤に処方された成分(D)に対する成分(B)の割合(B)/(D)(質量比)が、0.05?0.3であり、成分[(B)+(C)]に対する成分(A)の割合(A)/[(B)+(C)](質量比)が、0.001?1である油中水型外用剤。
【請求項4】グラム陽性球菌に対して抗菌性を有する、請求項3に記載の油中水型外用剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-12-16 
結審通知日 2009-12-18 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2002-144425(P2002-144425)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 塚中 哲雄
弘實 謙二
登録日 2005-11-11 
登録番号 特許第3740090号(P3740090)
発明の名称 油中水型外用剤  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 今村 正純  
代理人 津国 肇  
代理人 岡崎 祐一  
代理人 鈴木 音哉  
復代理人 新谷 紀子  
代理人 新谷 紀子  
復代理人 今村 正純  

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