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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1213319
審判番号 不服2008-3002  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-07 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 特願2002-305937「ゴルフクラブ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日出願公開、特開2004-136030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本件出願発明の認定
本件出願は平成14年10月21日の出願であって、平成19年2月9日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月24日付けで拒絶理由(いわゆる「最後の拒絶理由通知」である。)が通知され、同年9月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月26日付けの手続補正が同年12月28日付けの補正の却下の決定により却下されるとともに、同年7月24日付けの拒絶理由通知書に記載した理由により同年12月28日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として平成20年2月7日に本件審判請求がなされ、同年3月10日付けで明細書についての手続補正がなされるとともに、同日付けで平成20年2月7日付けの審判請求書の請求の理由について手続補正がなされたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成21年10月29日付けの補正の却下の決定により平成20年3月10日付けの明細書についての手続補正を却下するとともに、平成21年10月29日付けで拒絶理由を通知したところ、同年12月21日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで明細書について手続補正がされたものである。
したがって、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成21年12月21日付けの手続補正により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「クラブヘッドの外殻構造を形成する金属材料製のヘッド本体を備えるゴルフクラブであって、前記ヘッド本体のソール部の少なくとも一部の表面に、前記金属材料よりも高硬質でかつ表面が点状の微細な凹凸又は筋目状の凹凸で粗面化された硬質層と、この硬質層の外面の凹凸状態に沿って形成され、この硬質層の外面と同様な凹凸状態の表面を形成しかつ入射した光を乱反射するセラミック被膜層とを備え、前記硬質層の凹凸を形成する突部が、先端を含む外面を湾曲面状に形成され、前記硬質層の厚さaと、硬質層の外面の凹凸深さbと、セラミック被膜層の厚さcとが、a>b>cの関係であることを特徴とするゴルフクラブ。」

第2 当審の判断
1 引用刊行物の記載事項
当審による平成21年10月29日付けの拒絶理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である特開平10-295858号公報(以下「引用例」という。)には、以下のa?fの記載が図面とともにある。

a 「【請求項1】 ゴルフクラブにおけるメタル製ヘッドにおいて、該ヘッドの少なくとも打球面に、粗面化処理が施されると共に硬質皮膜が形成されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項2】 少なくとも打球面の中心線平均粗さが0.3?6.4μmである請求項1記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】 硬質皮膜が、金属の窒化物、炭化物、炭・窒化物もしくは硼化物である請求項1または2記載のゴルフクラブヘッド。」

b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、改良されたゴルフクラブヘッドとその製法に関し、特に表面が艶消し状で光の反射が少なく且つ高級感を有する他、ゴルフボールに対する反発係数が高くて飛距離を増大することができ、しかもボールの食付きが良くて方向性の高められたゴルフクラブヘッド、およびその製法に関するものである。」

c 「【0002】
【従来の技術】最近におけるゴルフ人口の増大はめざましいものがあり、それに伴ってゴルフクラブの機能性向上についての研究も盛んに進められている。こうした研究の中で注目されるものの1つとして、ウッドヘッドクラブからメタルヘッドクラブへの移行があり、メタルヘッドについても、ステンレス鋼や高張力鋼などの鉄基合金から、最近では軽量化や反発係数増大による飛距離の向上を期して、Ti合金あるいはジュラルミン等のアルミニウム合金の如き様々の非鉄合金をヘッド素材として用いたクラブも多数提案されている。
【0003】又それらメタルヘッドクラブについては、素材金属そのものの改良だけでなく、表面に炭化処理や窒化処理等を施したり物理蒸着(PVD)処理やCVD処理等を施すことにより、表面固さを高めて反発係数の増大により飛距離を増大させたり、耐錆性や耐傷付性を高める方法も提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の様な動向の下で、本発明者らもかねてよりゴルフクラブにおけるメタル製ヘッドの改良研究を進めているが、今回メタル製ヘッドの一層の改善を期して研究を行なった。従って本発明の目的は、性能、品質の一層高められたメタル製のクラブヘッドとその製法を提供することにある。」

d 「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成することのできた本発明は、ゴルフクラブにおけるメタル製ヘッドにおいて、該ヘッドの少なくとも打球面に、粗面化処理が施されると共に硬質皮膜が形成されているところに要旨が存在する。本発明において、粗面化処理の施されたメタル製ヘッドの打球面は、粗面化による後述する効果をより効果的に発揮させるため、中心線平均粗さで0.3?6.4μm、より好ましくは0.5?3.2μmの範囲にするのがよく、また梨地肌による美観向上効果を有効に発揮させる上では、該ヘッドの上側表面にも粗面化処理を施すことが望ましい。また硬質皮膜の好ましい具体例としては、例えばTiやAlの如き金属の窒化物、炭化物、炭・窒化物もしくは硼化物が挙げられる。」

e 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の様にヘッドの少なくとも打球面に、粗面化処理が施されると共に硬質皮膜が形成されたものであり、打球面に粗面化処理の施された本発明のクラブヘッドは、梨地状で金属光沢がなく艶消し状態の高級感を有しており、しかも太陽光線等の反射が少なくギラギラした反射光を生じることがないので、プレイヤー自身の集中力を害したり同伴プレーヤー等に迷惑をかけることもない。更に本発明者らが確認したところによると、打球面を粗面化したゴルフヘッドはゴルフボールに対する食付きが良好で方向性がよく、且つ球離れも良好となって飛距離アップにも寄与する。また打球面に硬質皮膜を形成することにより反発係数が高められ、粗面化による上記球離れ向上効果とも相まって飛距離の一層の向上が図れるばかりでなく、耐錆性や耐傷付性も良好となり、メタルヘッドクラブの性能を全ゆる面で著しく高めることができる。
【0008】本発明にかかるクラブヘッドの基材金属としては、ステンレス鋼や高張力鋼などの鉄基合金の他、Ti-Al,Ti-Al-V,Ti-Al-Mn,Ti-Al-Sn,Ti-Al-Mo,Ti-Al-Cr,Ti-Mn等のTi基合金;Al-Cu-Si,Al-Mg,Al-Mn,Al-Cu-Mg-Ni,Al-Zn等のAl基合金;Cu-Zn,Cu-Zn-Sn,Cu-Zn-Al-Mn-Fe,Cu-Ni-Zn等のCu基合金など、公知の様々の金属基材を用いることができる。これらの中でも特に好ましいのはTi合金である。
【0009】本発明のクラブヘッドは、上記の様な金属をヘッド状に成形した素材の少なくとも打球面(好ましくは打球面を含めた上側表面もしくは全面)に粗面加工が施されると共に、その表面に硬質皮膜を形成してなるものであり、こうした粗面加工と硬質皮膜の形成による相加的乃至相乗的作用効果によって、前述の如く、艶消し状態の高級感を有し、しかもゴルフボールに対する食付きがよく方向性が良好で、球離れがよく且つ反発係数も高くて飛距離アップ効果を有し、更には耐錆性や耐傷付性の良好なクラブヘッドとなる。
【0010】ちなみに、例えばTi合金からなるクラブヘッドの表面に窒化処理や炭化処理を施し、TiNやTiC等の硬質皮膜を形成することによって耐傷付性等を高めると共に、反発係数を高めて飛距離アップ効果を得る技術はすでに公知であるが、本発明では単に硬質皮膜を形成するだけでなく、該硬質皮膜が形成される下地に粗面加工を施すことによって、単に艶消し効果による美観の向上のみならず、ボールの食付き性を高めて方向性を高めると共に球離れを良くして一層の飛距離増大を可能にしたものであって、メタルヘッドクラブとしての性能を格段に高めることができる。
【0011】粗面化の程度は特に制限されないが、上記の様な効果を有効に発揮させるには、中心線平均粗さで0.3?6.4μm程度、より好ましくは0.5?3.4μm程度とするのがよく、該平均粗さが小さ過ぎる場合は上記の効果が有効に発揮され難くなり、逆に大きくなり過ぎるとコーティング膜が密着不良を起こしたり美観を低下させる恐れがでてくる。
【0012】本発明のクラブヘッドを製造する際は、上記の様な金属素材を用いて鋳造や鍛造等によってヘッド形状に成形されたヘッド基材の少なくとも打球面に、まず粗面化処理を施す。粗面化処理法は特に制限されず、ホーニング、ショットブラスト、ショットピーニングなど様々の方法を採用できるが、均一で安定した中心線平均粗さを得る上で特に好ましいのは、ホーニングやショットブラストである。またショットピーニングによって粗面化を行なうと、微細粒子の衝突エネルギーによって被処理面が加工硬化を起こし表面高度(審決注:「表面硬度」の誤記と認める。)が高められるので、要求性能によっては更に効果を高めることができる。
【0013】この粗面化処理は、ヘッド基材の全面に施して全面を表面改質するのがよいが、必要であれば、打球面以外を適当な手段でマスキングしてから上記の様な表面処理を施すことにより、打球面のみを粗面化することも可能である。
【0014】こうして粗面化処理を行なった後、該処理面に表面硬質化処理を行なう。この表面硬質化処理は、通常の浸炭、浸窒、浸炭・浸窒、あるいは硼素などのイオン注入により基材表面の金属をそのまま活用して硬質皮膜を形成する方法、更には金属基材表面にTiやAl等とC,N,B等をイオン状態で衝突させてTiC,TiN,Ti(C,N),TiAlN等の硬質皮膜を形成するイオンプレーティングや真空蒸着、スパッタリングなどの物理蒸着法(PVD法)あるいはプラズマCVD法を採用することができる。
【0015】金属基材がTiやTi合金の様な場合は、上記浸炭、浸窒、浸炭・浸窒、あるいは硼素などのイオン注入を採用することによって強固な硬質皮膜を形成することができるが、炭化物や窒化物等としての固さが不十分である金属基材に適用する場合は、金属基材の種類に関わりなく安定して強固な硬質皮膜を形成することのできるPVD法を採用するのがよく、中でもイオンの衝突エネルギーを活用するイオンプレーティング法を採用すると、基材表面に硬質皮膜を強固に接合一体化させることができるので好ましい。
【0016】上記硬質化処理によって形成される硬質化皮膜の厚さは特に制限されないが、十分な表面保護効果と硬質化による反発係数増大効果を有効に発揮させるには、皮膜厚さを0.5μm程度以上、より好ましくは2?3μm程度以上とするのがよい。皮膜厚さの上限は特に制限されないが、過度に厚くすることは不経済であるばかりでなく、前工程で形成した粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺される恐れがでてくるので、粗面化の程度にもよるが、好ましくは5μm程度以下に抑えることが望まれる。
【0017】ところで、上記の様に、本発明で粗面化後に行なわれる表面硬質化処理法として最も好ましいのはPVD法、とりわけイオンプレーティング法であるが、この方法を採用するには処理雰囲気を高度の真空状態にしなければならず、処理雰囲気に僅かでも不純ガス成分が混入すると硬質皮膜形成効率が極端に悪くなるばかりでなく、処理炉が損傷を受ける。一方、ゴルフヘッドの成形は、通常本体部分を鋳造や鍛造などによって成形した後、シャフト部との接続部等を溶接することによって行なわれるが、この様なヘッド基材をそのまま高真空状態のPVD処理炉に装入して処理を行なうと、ヘッド基材の特に溶接時に混入する不純物に起因するアウトガスが発生して処理炉を損傷させるばかりでなく、硬質皮膜の成形性や物性にも顕著な悪影響を及ぼす。
【0018】従ってこの様な硬質皮膜の形成にPVD法を採用する場合は、高真空状態の加熱条件下においてもアウトガスの放出が起こらない様、前記表面粗面化の前または後で且つ表面硬質化処理前の任意の時期に、ヘッド基材を例えば電気炉等の加熱炉を用いて350?400℃程度で1?2時間程度の加熱処理を施し、溶接時等に混入した不純物由来のアウトガスを予め荒抜きし、更にこれを真空炉に移して、480?500℃程度で1?2時間程度の加熱処理を行なうことにより、PVD処理時にアウトガスの発生が起こらない様にすることが望まれ、この様な予備処理を行なっておけば、PVD処理工程で不純ガスに起因する前述の様な問題を未然に回避することができる。
【0019】なお、本発明が適用されるクラブヘッドの種類には一切制限がなく、ドライバー、スプーン、バフィー、クリーク等の所謂メタルウッドおよびアイアンクラブの全てに適用することができ、中実、中空の如何も問わない。」

f 「【0027】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、このゴルフクラブヘッドは、その少なくとも打球面に、好ましくは中心線平均粗さが0.3?6.4μm程度の粗面化処理が施される共に、PVD皮膜等の硬質皮膜が形成されたものであり、これら粗面化処理と硬質皮膜の相加的乃至相乗的作用効果によって、外観が艶消し状で高級感を有し、しかもゴルフボールに対する食付きがよく方向性が良好であり、球離れがよく且つ反発係数も高くて飛距離アップ効果を有し、更には耐錆性や耐傷付性においても優れた性能を発揮する。また本発明の製法によれば、上記の様な性能を備えたゴルフヘッドを容易且つ確実に製造することができる。」

2 引用例に記載された発明の認定
引用例の上記記載事項a?fから、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。

「ゴルフクラブにおける中空のメタル製ヘッドにおいて、該ヘッドの表面全域にショットピーニングによって粗面化処理が施されると共に、粗面化処理面に硬質TiN皮膜が形成されているゴルフクラブヘッドであって、
前記ショットピーニングによって粗面化を行うと、被処理面が加工硬化を起こし表面硬度が高められ、
前記粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように前記硬質TiN皮膜が形成され、
前記粗面化処理と前記硬質皮膜の相加的乃至相乗的作用効果によって、外観が艶消し状態の高級感を有しており、太陽光線等の反射が少なくギラギラした反射光を生じることがなく、しかもゴルフボールに対する食付きがよく方向性が良好で、球離れがよく且つ反発係数も高くて飛距離アップ効果を有し、更には耐錆性や耐傷付性においても優れた性能を発揮する、
ゴルフクラブヘッド。」(以下「引用発明」という。)

3 本件発明と引用発明の対比
(1)引用発明の「ゴルフクラブにおける中空のメタル製ヘッド」、「ゴルフクラブ」は、それぞれ、本件発明の「クラブヘッドの外殻構造を形成する金属材料製のヘッド本体」、「ゴルフクラブ」に相当する。

(2)引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッドの表面全域」の「被処理面」は、本件発明の「前記ヘッド本体のソール部の少なくとも一部の表面に、前記金属材料よりも高硬質でかつ表面が点状の微細な凹凸」「で粗面化された硬質層」に相当する。

(3)本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】には「セラミック材料」の例として「TiN」が記載されているから、引用発明の「硬質TiN皮膜」は、本件発明の「セラミック被膜層」に相当する。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】?【0003】等の記載に照らすと、本件発明の「この硬質層の外面の凹凸状態に沿って形成され、この硬質層の外面と同様な凹凸状態の表面を形成」する「セラミック被膜層」により「入射した光を乱反射する」ことによって、「光輝性が抑制され」ていると認めることができる。そして、引用発明の「粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように」「粗面化処理面に」「形成されている」「硬質TiN皮膜」は、「外観が艶消し状態の高級感を有しており、太陽光線等の反射が少なくギラギラした反射光を生じることがな」いから、引用発明の「粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように」「粗面化処理面に」「形成されている」「硬質TiN皮膜」も入射した光を乱反射するものであると認めることができる。
したがって、引用発明の「粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように」「粗面化処理面に」「形成され」、「外観が艶消し状態の高級感を有しており、太陽光線等の反射が少なくギラギラした反射光を生じることがな」い「硬質TiN皮膜」は、本件発明の「この硬質層の外面の凹凸状態に沿って形成され、この硬質層の外面と同様な凹凸状態の表面を形成しかつ入射した光を乱反射するセラミック被膜層」に相当する。

(4)すると、本件発明と引用発明とは、

「クラブヘッドの外殻構造を形成する金属材料製のヘッド本体を備えるゴルフクラブであって、前記ヘッド本体のソール部の少なくとも一部の表面に、前記金属材料よりも高硬質でかつ表面が点状の微細な凹凸で粗面化された硬質層と、この硬質層の外面の凹凸状態に沿って形成され、この硬質層の外面と同様な凹凸状態の表面を形成しかつ入射した光を乱反射するセラミック被膜層とを備えるゴルフクラブ。」

である点で一致し、以下の点で一応相違する。

〈相違点1〉
本件発明の「硬質層の凹凸を形成する突部」は「先端を含む外面を湾曲面状に形成され」ているのに対し、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッドの表面全域」の「被処理面」の「粗面」にはそのような限定がない点。

〈相違点2〉
本件発明の「硬質層の厚さaと、硬質層の外面の凹凸深さbと、セラミック被膜層の厚さcとが、a>b>cの関係である」のに対し、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッドの表面全域」の「被処理面」及び「硬質TiN皮膜」にはそのような限定がない点。

4 相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明の「ヘッドの表面全域」の「被処理面」は、「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」ている。そして、ショットピーニングによって表面を粗面化すると、前記粗面の突部の先端を含む外面が湾曲面状に形成されることは、本件出願時における技術常識である(例えば、特開2001-327636号公報(特に、段落【0015】、図3を参照。図3から、粗面の突部の先端を含む外面が湾曲面状に形成されていると認めることができる。)、特開2000-325510号公報(段落【0004】、【0006】)を参照。)。かかる上記技術常識に照らすと、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の突部の先端を含む外面も湾曲面状に形成されていると認めることができる。
また、仮に、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の突部の先端を含む外面は湾曲面状に形成されていると認めることができないとしても、上記技術常識に基づいて、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の突部の先端を含む外面を湾曲面状に形成することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点1は実質的に相違点ではない、または、仮に、上記相違点1が実質的に相違点であるとしても、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
ア 引用発明の「硬質TiN皮膜」は「粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように」前記「粗面化処理面に」「形成され」るから、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さは、引用発明の「硬質TiN皮膜」の厚さよりも大きいと認めることができる。
また、仮に、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さは、引用発明の「硬質TiN皮膜」の厚さよりも大きいと認めることができないとしても、引用発明の「粗面化処理面の凹凸が埋められて粗面化の効果が減殺されないように」前記「粗面化処理面に」「硬質TiN皮膜」を「形成」するに当たり、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さを、引用発明の「硬質TiN皮膜」の厚さよりも大きくすることは、当業者にとって容易に想到し得る。

イ 引用発明では「ヘッドの表面全域にショットピーニングによって粗面化処理が施され」、「被処理面が加工硬化を起こし表面硬度が高められ」ているから、引用発明の「ショットピーニングによって」「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッド」の「被処理面」の厚さは、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さよりも大きいと認めることができる。
また、仮に、引用発明の「ショットピーニングによって」「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッド」の「被処理面」の厚さは、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さよりも大きいと認めることができないとしても、「更に効果を高める」べく(引用例の上記記載事項eの段落【0012】を参照。)、「ヘッドの表面全域に」「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た層を形成するために、引用発明の「ショットピーニングによって」「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「該ヘッド」の「被処理面」の厚さを、引用発明の「ショットピーニングによって」「粗面化処理が施され」て「加工硬化を起こし表面硬度が高められ」た「ヘッド」の「被処理面」の「粗面」の凹凸の深さよりも大きくすることは、当業者にとって容易に想到し得る。

ウ したがって、上記相違点2は実質的に相違点ではない、または、仮に、上記相違点2が実質的に相違点であるとしても、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(3)仮に、上記相違点1,2が実質的に相違点であるとしても、本件発明の効果は、引用例に記載された発明及び技術常識から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、特許を受けることができない、または、本件発明は、引用例に記載された発明及び技術常識から当業者が容易に想到し得る発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-06 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願2002-305937(P2002-305937)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 113- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 村田 尚英
日夏 貴史
発明の名称 ゴルフクラブ  
代理人 白根 俊郎  
代理人 野河 信久  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 山下 元  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 竹内 将訓  
代理人 風間 鉄也  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 市原 卓三  
代理人 河野 直樹  
代理人 勝村 紘  
代理人 峰 隆司  
代理人 橋本 良郎  
代理人 河井 将次  

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