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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1214216
審判番号 不服2006-22976  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-11 
確定日 2010-03-29 
事件の表示 平成7年特許願第30044号「光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドの製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年1月9日出願公開、特開平8-3145〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年1月25日(国内優先権主張、平成6年4月22日)の出願であって、平成18年5月19日付け拒絶理由通知に対応して同年7月28日付けで意見書の提出とともに明細書の特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたが、同年9月6日付けで拒絶査定がなされ(謄本の送達は同年9月12日)、これに対し、同年10月11日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、上記平成18年7月28日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「分割剤を用いて(RS)-N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドを光学分割して光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドを製造するにあたり、(RS)-N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド1モルに対して0.5?1.5モルの光学活性乳酸を分割剤として用いることを特徴とする光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドの製造法。」

3.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、特開平1-117869号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平3-279375号公報(以下、「引用例2」という。)、特開昭49-110830号公報(以下、「引用例3」という。)、及び、新実験化学講座1 基本操作I 第326?327頁 昭和53年3月20日発行 丸善株式会社(以下、「引用例4」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付した。)

3.1.引用例1の記載事項
<摘記事項1A>
「本発明は、医薬品の合成中間体として有用な次の一般式(I)

(式中、R_(1)及びR_(2)は同-又は異なって水素原子、低級アルキル基を表わすか、もしくはR_(1)とR_(2)が一緒になってその置換する窒素原子と共に1-ピロリジニル基を表わす。)
で示される新規な2-アミノメチルピペラジン誘導体、及びその酸付加塩に関する。」(第1頁左下欄下第3行?同頁右下欄第6行)

<摘記事項1B>
「ピペラジンを部分構造に持つ医薬品は数多く知られており、その有用性はすでに広く知られている。本発明は新しいピペラジン誘導体を提供し、従来のピペラジンを部分構造として持つ医薬品の新しい誘導体を提供するという目的をベースとする。」(第1頁右下欄第11?16行)

<摘記事項1C>
「本発明の前記一般式(I)で示される新規な2-アミノメチルピペラジン誘導体は、以下の様にして製造することができる。
即ち、前記一般式(I)で示される化合物は次の一般式(II)

(式中、R_(1)及びR_(2)は前述と同意義を表わす。)で示される2-ピペラジンカルボキサミド誘導体を溶媒中水素化リチウムアルミニウムにて還元することより製造することができる。」(第2頁左上欄第14行?同頁右上欄第4行)

<摘記事項1D>
「本発明の製造方法において出発原料となった前記一般式(II)で示される2-ピペラジンカルボキサミド誘導体は、一部を除き新規な化合物であり、以下の図に示す様にして製造される。

(式中、R_(1)及びR_(2)は前述と同意義を表わす。)」(第2頁右上欄第10行?同下第4行)

<摘記事項1E>
「参考例1
N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド
N-tert-ブチル-2-ピラジンカルボキサミド5.00gをエタノール600ml中、酸化白金0.20gを触媒として50°、100気圧にて6時間水素添加する。冷機触媒をろ去し、ろ液を濃縮する。残渣をエタノールより再結晶して融点151?152°の淡黄色プリズム晶2.18gを得る。
(物性値は省略)」(第2頁左下欄下第7行?同頁右下欄第11行)

<摘記事項1F>
「実施例4
2-(tert-ブチルアミノメチル)ピペラジン
水素化リチウムアルミニウム3.08gの無水1.4-ジオキサン250m1の懸濁液中に、N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド7.50gを加え21時間加熱還流する。冷後水12.5mlを4滴下し、不溶物をろ去する。ろ液を濃縮し残渣を減圧蒸留して沸点105?107°(13mmHg)の淡黄色液体5.02gを得る。
(物性値は省略)」(第4頁左上欄第6?20行)

3.2.引用例2の記載事項
<摘記事項2A>
「(±)-2-メチルピペラジンと光学活性な有機酸とを水だけを溶媒として反応させて、2種のジアステレオマー塩を形成させ、この2種のジアステレオマー塩の水に対する溶解度差を利用して相互に分割し、中和後有機溶媒で抽出することを特徴とする光学活性2-メチルピペラジンの分割方法。」(特許請求の範囲)

<摘記事項2B>
「本発明で使用される光学活性な有機酸は特に限定されないが、例えば、光学活性な酒石酸を用いる場合、工業的にはL-酒石酸が容易に入手可能であり、安価な光学分割剤として好ましい。」(第2頁左下欄第4?8行)

<摘記事項2C>
「(±)-2-メチルピペラジンに対し光学活性な有機酸1?10倍モル、好ましくは2倍モル使用するのがよい。」(第2頁左下欄第13?15行)

<摘記事項2D>
「実施例
水1.6lにL-酒石酸([α]_(D)^(20)=+14?+15°)600g(4.0mol)と(±)-2-メチルピペラジン200g(2.0mol)を室温下撹拌溶解し、さらに24時間撹拌した。析出した結晶を濾取し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。分離してくる油状物をベンゼン抽出し、ベンゼン層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち溶媒を留去し、(+)-2-メチルピペラジン57g(収率57%)を得た。
この比旋光度は、[α]_(D)^(20)=+6.2°(c=1.00、EtOH)であった。
さらに、上記の濾液を1/2量まで濃縮し、析出した結晶を濾別し、この濾液を濃縮乾固した。得られた残渣を水酸化ナトリウム水溶液で中和して、分離してくる油状物をベンゼン抽出し、ベンゼン層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち溶媒を留去し、(-)-2-メチルピペラジン53g(収率53%)を得た。
この比旋光度は、[α]_(D)^(20)=-4.8°(c=1.00、EtOH)であった。」(第3頁右上欄第2行?同頁左下欄第3行)

<摘記事項2E>
「本発明の方法によって得られる光学活性2-メチルピペラジンは、医薬品あるいは農薬の合成原料として有用な化合物である。」(第3頁頁左下欄第5?7行)

3.3.引用例3の記載事項
<摘記事項3A>
「さて、本発明においては光学的に純粋乃至は豊富な状態の左旋性トリホリンの製造方法も記述される。前述のように、左旋性トリホリンは特に強力な殺菌作用で知られている。」(第4頁右上欄第15?18行)

<摘記事項3B>
「次の合成図式は(-),(+)-トリホリンの製造を具体的に説明するものである。

d)・・・・・
e)・・・・・
最初に、ピペラジンをその一方の窒素位でのみ(+),(-)-1,2,2,2-テトラクロロエチルホルムアミドと反応し、(+),(-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチルピペラジン(以下モノ-トリホリンと呼ぶ)にする。この化合物はただ1個の不斉炭素を有し、ピペラジンの未置換第二アミノ基のために、光学活性補助酸類とジアステレオマー塩を形成するになお十分な塩基性を示す。原則として、モノ-トリホリンのジアステレオマー塩の製造に、好適な光学活性酸類としては、例えばL(+)-乳酸、D(+)-樟脳酸、・・・・・、L(-)-リンゴ酸、・・・・・が使用される。しかしながら特に好適な補助酸はL(+)-酒石酸である。実際には、モノ-トリホリンの2個のジアステレオマー酸性酒石酸塩が大きな精製損失もなく、優秀な収率で-溶媒化合物生成の異なる傾向および溶媒化合物の著しく異なる溶解度により-分離されることを発見した。
ジアステレオマーヒドロ酒石酸塩の混合物を水に溶解すると、(-)-モノ-トリホリン-ヒドロ酒石酸塩が五水和物として98%の光学純度で90%以上の収率で結晶化する。水から再結晶すれば、光学純度は99.5%以上に増加することができる。
(+)-モノ-トリホリン-ヒドロ酒石酸塩を含む水性濾液は水に非常に容易に溶ける。水を除去したのち、95%エタノールで処理すると、(+)-モノ-トリホリン-ヒドロ酒石酸塩が結晶性エタノール溶媒化合物として80%以上の収率で99%以上の光学純度で得られる。
分離したジアステレオマーのモノ-トリホリン-ヒドロ酒石酸塩はアルカリと-水溶液中で-処理すると比旋光度-63.0°乃至+62.5°の光学的に純粋な塩基に変換される。ここでは最早やこれ以上の精製は必要ではない。」(第4頁右上欄第19行?第5頁右下欄第19行)

<摘記事項3C>
「a)・・・・・
b)(-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチル) -ピペラジン-L(+)-ヒドロ酒石酸塩-五水和物
(+),(-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチル)-ピペラジン156g(0.6モル)およびL(+)-酒石酸93g(0.62モル)を脱イオン水800mlに30?40℃で溶解する。この溶液を5℃で約24時間保温する。表面に浮んだ液体を注意しながら注ぎ出し、大きな透明結晶および微結晶をできる限り少量の氷水で2回洗う。この残渣を室温で風乾する。
(-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチル)ピペラジン-L(+)-ヒドロ酒石酸-五水和物138.9g(92.5%/th)が得られる。〔α〕_(D)^(25):-21.7°(水:c=6)(光学的純度98.1%)
水5部から最高50℃でさらに1回再結晶すれば、この化合物は光学純度100%として得られる。〔α〕_(D)^(25):-24.8°(水:c=6)
・・・・・
c)(-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチル) -ピペラジン (-)-N-(1-ホルムアミド-2,2,2-トリクロロエチル)-ピペラジン-L(+)-ヒドロ酒石酸塩-五水和物250g(0.5モル)を水1500mlに懸濁する。冷却攪拌しながら、2N水酸化ナトリウム水溶液490ml(0.98モル)を内温約5℃で滴加する。ついで食塩700gを添加し、5?10℃に1時間攪拌し、微細な、結晶性の、無色沈殿を圧濾過し、氷水各150mlで2回洗う。生成物を室温で乾燥する。
・・・・・
〔α〕_(D)^(25):-63.0°(エタノール:c=6)(光学純度99.5%)」(第9頁右下欄第6行?第10頁左下欄第15行)

3.4.引用例4の記載事項
<摘記事項4A>
「4・3・5 光学分割
・・・・・
b.ジアステレオマーの挙動の差を利用する方法
ラセミ混合物を光学活性な分割試薬と反応させてジアステレオマーとし、その溶解度の差を利用して融点および旋光度が一定になるまで分別結晶を行う。・・・・・。分離した結晶を分割試薬ともとの化合物に分解すればラセミ混合物の光学分割ができたことになる。この方法は成功する可能性の最も高い方法であるから、光学分割を試みるときはまずこの方法を選ぶのがよい。分割剤は光学活性なもので、ジアステレオマーの形成および分解が容易なもので、分解したのちもとの化合物を回収できるものであれば、原理的には何でもかまわない。どの分割剤が最も効率的であるかは、現在の化学では予測できないから、根気づよく広くいろいろな化合物をあたる他はない。代表的な分割試薬の例を表4・22に掲げる。これらの多くは光学活性なものが市販されている。
表4・22 代表的な分割試薬
──────────────────────────────────
被分割化合物 │ジアステレオマー │ 分割試薬の例
──────────────────────────────────
酸 │アンモニウム塩 │ブルシン,キニーネ,
│ │α-メチルベンジルアミン
│ │
アミン │アンモニウム塩 │酒石酸,マンデル酸,
│ │10-カンファースルホン酸
│ │
アルコールおよび │エステル │光学活性アルコールのフタル酸
フェノール │ │モノエステル
│ │
カルボニル化合物 │インモニウム塩 │10-カンファースルホン酸
│ │
アミノ酸 │アミノ基またはカルボキシル基を保護して分割

適当な官能基の │付加化合物、分子化合物として分割
ない化合物 │
──────────────────────────────────
」(第326頁第3行、同頁第24行?第327頁表4・22)

4.引用例1に記載された発明
引用例1には、一般式(II)で示される化合物の一つである「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」(一般式(II)において、R_(1)及びR_(2)のうち、一方が水素原子であり、他方がtert-ブチル基である化合物)を製造したことが「参考例1」に記載されている(摘記事項1C?1E)。
したがって、引用例1には、
「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明と引用発明とは、
「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」に関する発明である点で一致しており、次の点で相違している。

<相違点>
本願発明は、「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」について、「(RS)-」のものを出発原料として、当該化合物の「1モルに対して0.5?1.5モルの光学活性乳酸を分割剤として用いて光学分割する光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドの製造法」であるのに対し、引用発明は、そのように光学分割するものとはされていない点。

6.判断
上記相違点について、以下検討する。

6.1.光学分割について
医薬品においては、医薬化合物の光学異性体間で、薬理作用に違いがあることがあり、作用・副作用の面からみて、有利な光学異性体を医薬品の有効成分とすることが好ましく、合成医薬品の開発においては、合成中間体の段階で光学分割を行って、光学活性な医薬化合物を製造し、医薬品の開発を進めることは、周知の技術的事項である(例えば、山添康, 永田清 「合成医薬品にみる光学異性体とその作用」 ファルマシア Vol.25, No.4 (1989) p.333-336、特開平2-218664号公報、特開平5-148237号公報、特開平5-229986号公報、及び特開平6-48992号公報を参照)。
一方、引用例1には、医薬品の合成中間体として有用な一般式(I)で示される化合物を製造するための出発原料として、一般式(II)で示される化合物が記載されており(摘記事項1A?1C)、該一般式(II)で示される化合物の一つとして、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」を製造したことが「参考例1」に記載され(摘記事項1D?1E)、該化合物を出発原料として、上記一般式(I)で示される化合物の一つである「2-(tert-ブチルアミノメチル)ピペラジン」を製造したことが記載されているから(摘記事項1F)、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」は、医薬品の合成中間体である。
そして、引用例1には、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」がR体とS体を含むことは明示的に記載されていないが、その化学構造からみて、当該化合物のピペラジン環の2位の炭素原子が不斉炭素原子であることは明らかであり、引用例1の「参考例1」に記載されている条件・工程からみても、当該化合物は、ピラジン環部分を不斉水素化触媒ではない酸化白金を触媒として水素添加して製造されたものであるから、R体とS体を含むものであることは自明である。
そうすると、引用例1には、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」を、更に光学分割することについては記載されていないが、当業者にとって、より有利な医薬品の開発のために、R体とS体を含む医薬品の合成中間体である引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」を光学分割することは、当然に検討すべき技術的課題であったといえる。
そこで、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」の1モルに対して0.5?1.5モルの光学活性乳酸を分割剤として用いて光学分割することの容易想到性について、以下検討する。

6.2.分割剤としての光学活性乳酸について
引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」は、ピペラジン環上に非置換の塩基性の環窒素原子(-NH-)が存在する塩基性化合物(アミン)である。
引用例4に記載されているように、アミン化合物を光学分割する場合、酸性の光学活性な分割剤を用いたジアステレオマー塩法は、成功する可能性が高く、当業者がまず選択する周知慣用の方法であり(摘記事項4A)、引用例2?3に記載されているように、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」と同様、ピペラジン環に非置換の塩基性の環窒素原子(-NH-)が存在する、医薬や農薬の中間体であるアミンの光学分割において、光学活性有機酸を分割剤として用いたジアステレオマー塩法は、既に利用されている(摘記事項2A?2E、3A?3D)。
そして、光学活性乳酸は、酸性の光学活性な分割剤として当業者に周知のものであり、医薬化合物等を光学分割する際に分割剤として用いられるものであることも、本願の優先権主張日前に当業者に広く知られていたことである(例えば、引用例3の摘記事項3B、特開平4-120021号公報の第6頁左下欄第6?16行、特開平4-308589号公報の第6頁【0040】、特開平5-155886号公報の第3?4頁【0014】を参照)。
そうすると、アミン化合物である引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」を光学分割する際に、光学活性乳酸を分割剤として用いることは、当業者ならば容易に選択し得ることである。

6.3.光学活性乳酸の量比について
ジアステレオマー塩法は、形成されたジアステレオマー塩の溶媒に対する溶解度の違い等を利用して、光学活性な化合物を分離することを原理とするものであるから、被光学分割化合物1モルに対して1モル程度の光学活性な分割剤を用いることは、ごく自然な選択であるし、実際に被光学分割化合物に対して約等モル量の光学活性な分割剤を用いて光学分割を行った例も多数知られている(例えば、引用例3の摘記事項3C、特開平3-95138号公報の第2頁右下欄第13?17行、特開昭63-14777号公報の第6頁左上欄第14?17行、特開平2-218664号公報の第6頁左上欄8行?第9頁左下欄第5行〔参考例2、実施例1?4〕を参照)。
そうすると、引用発明の「N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミド」を、光学活性乳酸を分割剤として用いて光学分割する場合においても、当該化合物1モルに対して、「0.5?1.5モル」の範囲内である約1モルの光学活性乳酸を用いることは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。

6.4.本願発明の効果について
本願明細書には、「本発明によれば、(RS)-N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドから光学純度の高い光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドを容易に製造することができる。」と記載されている(段落【0020】)。
しかしながら、本願発明の製造法の具体例に該当する本願明細書に記載の「実施例5」((RS)-N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドに対し約等モル量のL-乳酸を使用している。)によれば、本願発明によって得られた光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドの光学純度は98.5%eeに過ぎず、収率も66.7%に留まり、この程度の光学純度・収率は、本願の優先権主張日前の技術水準から予測し得ない程の優れたものとは認められない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-21 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-08 
出願番号 特願平7-30044
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 井上 典之
弘實 謙二
発明の名称 光学活性N-tert-ブチル-2-ピペラジンカルボキサミドの製造法  

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