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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1214339
審判番号 不服2008-7089  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-21 
確定日 2010-04-01 
事件の表示 特願2005- 27056「半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月17日出願公開、特開2006-216720〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年2月2日に特許出願したものであって、平成19年11月15日付けの拒絶理由通知に対して、平成20年1月21日付けで手続補正がされたが、同年2月14日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年3月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月9日付けの手続補正書により特許請求の範囲が補正されたものである。

2.平成20年4月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年4月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(2-1)補正の概略
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、補正前に、
「【請求項1】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填されていると共に、上記半導体素子の少なくとも長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡の樹脂幅が0.1?1.0mmであり、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みは10μm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填され、上記半導体素子の一つの長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填することにより描画塗布跡及び半導体素子周辺充填部が形成されており、上記描画塗布跡の樹脂幅は、0.1?1.0mmであり、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みは10μm以下であり、上記半導体素子周辺充填部の幅は、上記半導体素子の一つの長辺側のノズル塗布側では半導体素子から1.0mm以下である一方、上記半導体素子の一つの長辺側に対向する長辺側では半導体素子から0.8mm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】前記封止樹脂は、充填時の粘度が25℃において50?600mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置。
【請求項4】前記封止樹脂は、充填時の温度が60?120℃であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の半導体装置。
【請求項5】前記半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.10?0.30重量%の着色料が添加されていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】前記描画塗布跡は、前記半導体素子の一つの長辺側にのみ存在することを特徴とする請求項1、3?5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】前記フレキシブル配線基板は、フイルムキャリアテープに連続的に複数形成されていると共に、前記半導体素子は、上記フレキシブル配線基板にそれぞれ搭載されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】前記フレキシブル配線基板には、液晶表示素子及び周辺部品が搭載された液晶モジュールが接続されることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置の製造方法において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂を充填すると共に、上記半導体素子の少なくとも長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡の樹脂幅を0.1?1.0mmとし、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みを10μm以下とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置の製造方法において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂を充填すると共に、上記半導体素子の一つの長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡及び半導体素子周辺充填部のうち描画塗布跡の樹脂幅を0.1?1.0mmとし、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みを10μm以下とし、上記半導体素子周辺充填部の幅を、上記半導体素子の一つの長辺側のノズル塗布側では半導体素子から1.0mm以下とする一方、上記半導体素子の一つの長辺側に対向する長辺側では半導体素子から0.8mm以下とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】前記封止樹脂を充填するときに、樹脂粘度を25℃において50?600mPa・sとすることを特徴とする請求項9又は10記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】前記封止樹脂の充填時における樹脂温度を60?120℃とすることを特徴とする請求項9、10又は11記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】前記封止樹脂の充填時における樹脂温度を上げるときに、半導体素子を加熱することを特徴とする請求項12記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】前記封止樹脂に、0.10?0.30重量%の着色料を添加することを特徴とする請求項9?13のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】前記封止樹脂を、前記半導体素子の一つの長辺側からのみノズルで描画して充填することを特徴とする請求項9?14のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】前記フレキシブル配線基板を、フイルムキャリアテープに連続的に複数形成すると共に、前記半導体素子を、上記フレキシブル配線基板にそれぞれ搭載することを特徴とする請求項9?15のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】前記フレキシブル配線基板に、液晶表示素子及び周辺部品が搭載された液晶モジュールが接続されることを特徴とする請求項9?15のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。」
とあったものを、
「【請求項1】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填されていると共に、上記半導体素子の少なくとも長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡の樹脂幅が0.1?1.0mmであり、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みは10μm以下であり、上記半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填され、上記半導体素子の一つの長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填することにより描画塗布跡及び半導体素子周辺充填部が形成されており、上記描画塗布跡の樹脂幅は、0.1?1.0mmであり、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みは10μm以下であり、上記半導体素子周辺充填部の幅は、上記半導体素子の一つの長辺側のノズル塗布側では半導体素子から1.0mm以下である一方、上記半導体素子の一つの長辺側に対向する長辺側では半導体素子から0.8mm以下であり、上記半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】前記封止樹脂は、充填時の粘度が25℃において50?600mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置。
【請求項4】前記封止樹脂は、充填時の温度が60?120℃であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の半導体装置。
【請求項5】前記描画塗布跡は、前記半導体素子の一つの長辺側にのみ存在することを特徴とする請求項1、3又は4記載の半導体装置。
【請求項6】前記フレキシブル配線基板は、フイルムキャリアテープに連続的に複数形成されていると共に、前記半導体素子は、上記フレキシブル配線基板にそれぞれ搭載されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】前記フレキシブル配線基板には、液晶表示素子及び周辺部品が搭載された液晶モジュールが接続されることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置の製造方法において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂を充填すると共に、上記半導体素子の少なくとも長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡の樹脂幅を0.1?1.0mmとし、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みを10μm以下とし、上記封止樹脂に、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料を添加することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置の製造方法において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂を充填すると共に、上記半導体素子の一つの長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填するときにできる描画塗布跡及び半導体素子周辺充填部のうち描画塗布跡の樹脂幅を0.1?1.0mmとし、かつ該描画塗布跡の樹脂厚みを10μm以下とし、上記半導体素子周辺充填部の幅を、上記半導体素子の一つの長辺側のノズル塗布側では半導体素子から1.0mm以下とする一方、上記半導体素子の一つの長辺側に対向する長辺側では半導体素子から0.8mm以下とし、上記封止樹脂に、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料を添加することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】前記封止樹脂を充填するときに、樹脂粘度を25℃において50?600mPa・sとすることを特徴とする請求項8又は9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】前記封止樹脂の充填時における樹脂温度を60?120℃とすることを特徴とする請求項8、9又は10記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】前記封止樹脂の充填時における樹脂温度を上げるときに、半導体素子を加熱することを特徴とする請求項11記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】前記封止樹脂を、前記半導体素子の一つの長辺側からのみノズルで描画して充填することを特徴とする請求項8、10?12のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】前記フレキシブル配線基板を、フイルムキャリアテープに連続的に複数形成すると共に、前記半導体素子を、上記フレキシブル配線基板にそれぞれ搭載することを特徴とする請求項8?13のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】前記フレキシブル配線基板に、液晶表示素子及び周辺部品が搭載された液晶モジュールが接続されることを特徴とする請求項8?14のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。」
と補正するものである。

そうすると、本件補正は、補正前の請求項1?4を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項5において「半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.10?0.30重量%の着色料が添加されている」とあったものを、「半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されている」と限定するとともに、これを補正後の請求項1とする補正事項を含むものである。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討する。

(2-2)引用例
(2-2-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2004-221319号公報(以下、「引用例1」という。)には、図3及び図4、図6、図8とともに、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項3】矩形状の表面に配列された複数の電極上にバンプが形成されかつ前記複数の電極のうち前記矩形状の表面の少なくとも一辺に沿った電極が千鳥配列された半導体チップの前記表面と、配線電極が形成されたフィルム基板の表面とを対向させて前記バンプと前記配線電極とを接続する工程と、前記フィルム基板を第1の温度に加熱しながら前記半導体チップと前記フィルム基板との間に封止樹脂を注入する工程と、前記封止樹脂を硬化させる工程とを含む半導体装置の製造方法であって、前記バンプと前記配線電極とを接続した後、前記封止樹脂を注入する直前に、前記フィルム基板を前記第1の温度よりも低い第2の温度で加熱する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】第2の温度は、30?60[℃]であることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「【請求項9】封止樹脂を注入する工程は、前記半導体チップの千鳥配列された電極に沿った辺とフィルム基板との隙間から前記封止樹脂を注入することを特徴とする請求項1?8のうちいずれかに記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1c)「【発明の属する技術分野】
本発明は、フィルム基材を用いたチップオンフィルム(COF)工法に関する半導体装置の製造方法に関するものである。」(【0001】)

(1d)「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の半導体装置では、半導体チップの電極パッドが狭ピッチ化されかつ千鳥配列されているため、樹脂封止時に電極パッド近辺にボイドが発生するという問題があった。
この問題について図8を参照して説明する。図8は、樹脂封止時に半導体チップの電極パッド間にボイドが発生する様子を示したものであり、図8(a)はその平面図であり、図8(b)は図8(a)のY-Y’断面図である。図8(a)に示す、矢印の樹脂注入方向から、接続された半導体チップ1の側面に沿ってノズル8(図7)によって液状の樹脂7を塗布、半導体チップ1とフィルム基材5の間へ注入する。そのときフィルム基材5の配線6と接続されたAuバンプ4の間より樹脂7が進入する。このときバンプ4近傍で空気の巻き込みを起こし、ボイド19(空隙)が発生する。ここで半導体チップ1とフィルム基材5の間はわずか10?30μmしかなく、導体配線6間の隙間も10?25μmである。
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、COF工法を用いた半導体装置において、半導体チップの電極(電極パッド)の狭ピッチ化による樹脂封止時の電極周辺のボイドの発生を防止することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」(【0014】-【0016】)

(1e)「(第2の実施の形態)
・・・
以上のように本実施の形態によれば、樹脂封止時の樹脂塗布ステージ11に角度14をもたせ樹脂7の流れを改善することにより、半導体チップ1の電極パッド2の狭ピッチ化による樹脂封止時の電極パッド2周辺のボイドの発生を防止できる。また、さらに樹脂塗布ステージ11にひねり角度をつけて、樹脂注入始めの半導体チップ1の角部箇所が一番高い位置にすることでより高い効果を得られる。これは液体が狭い部分に浸透する毛細管現象と重力の2つを利用したものである。ここで更に樹脂塗布ステージ11に角度14を付けて樹脂封止する効果として、樹脂7を滴下した直後は樹脂7が重力に従って半導体チップ1が置かれた下方に向かおうとするため、樹脂7が上方に広がりにくくなり、その結果、封止樹脂の領域を小さく成形できる利点もある。」(【0039】-【0041】)

(1f)「(第3の実施の形態)
図3は本発明の第3の実施の形態である、半導体装置の製造工程の一部を示す断面図であり、図3(a)は図3(b)の樹脂塗布ステージ11上の拡大図である。
図3は、半導体装置の製造工程の内、樹脂封止工程を示している。半導体チップ1とフィルム基材5の間に樹脂7を注入し、Auバンプ4を含む半導体チップ1の表面となる電気回路側の全面を樹脂7で覆う樹脂封止工程において、封止樹脂7の流動性を良好にするため、樹脂封止7塗布前に、フィルム基材5直下に事前加熱ヒーター10を設置する。そして封止樹脂7塗布時の温度よりも10℃から40℃低い温度(ただし、30?60℃の範囲内)でプリヒートする。例えば本実施の形態の場合、ヒーター10の温度は50℃に設定されている。そして次に樹脂封止塗布時は封止樹脂7の粘度が低粘度で濡れ性が向上するような温度に設定する。例えば本実施の形態の場合、樹脂塗布ステージ11の温度は80℃に設定されている。また他の方法として、温度雰囲気にさらす方法や、赤外線で部分的に温度を上げる方法を用いてもよい。樹脂封止塗布直後は封止樹脂7がある程度固化し、他の部分へ流れ出さないようにするために必要な温度、例えば本実施の形態の場合、仮硬化炉または本硬化炉12内の温度は120℃の熱を負荷する。更に、封止樹脂7のシリンジ24を電熱コイル13で熱し、塗布直前の封止樹脂7を30℃から60℃の温度で保持する。例えば本実施の形態の場合では40℃で熱している。
以上のように本実施の形態によれば、樹脂7を塗布する直前にヒーター10で加熱することにより、フィルム基材5の樹脂7との濡れ性を向上させ樹脂7の流れを改善でき、半導体チップ1とフィルム基材5の間を速やかに樹脂7が浸透し、半導体チップ1の電極パッド2の狭ピッチ化による樹脂封止時の電極パッド2周辺のボイドの発生を防止できる。
更に、樹脂7のシリンジ24にもヒーター(電熱コイル13)を取付け、樹脂粘度を低下させることにより、樹脂7の流れがより改善されて、半導体チップ1とフィルム基材5の間をより速やかに樹脂7が浸透し、ボイドの発生をより防止できる。」(【0042】-【0045】)

(1g)「図4は本実施の形態に使用した、液状エポキシ樹脂である封止樹脂7の温度と粘度特性の相関を示すグラフの一例であり、横軸に温度、縦軸に粘度を示している。
図4に示すように、液状エポキシ樹脂の温度と粘度の相関は常温である20℃では粘度は約1Pa・Sであるが、40℃で0.20Pa・S、60℃で0.03Pa・Sとなる。しかしながら、温度が80℃を越えると樹脂の硬化反応が始まることから、実際には樹脂7塗布前の温度負荷は60℃以下に抑える必要がある。」(【0046】-【0047】)

(1h)図3は、引用例1の第3の実施の形態である半導体装置の製造工程の一部を示す断面図および拡大図であって、同図から、封止樹脂7が、シリンジ24に連接するノズル8を用いて供給されること、及び、フィルム基板と半導体チップとの隙間に封止樹脂が充填されていることを読み取ることができる。
図4は、引用例1の第3の実施の形態における封止樹脂の温度と粘度特性の相関を示す図であって、同図から、封止樹脂の40℃での粘度が0.20Pa・Sであることを読み取ることができる。
図6は、従来の半導体装置に使用する半導体チップの一例を示す平面図およびその拡大図であって、半導体チップ1の長辺側の側辺に沿う方向に、Auバンプ4を有する電極パッド2が千鳥配列で並んでいることを読み取ることができる。
図8は、従来の課題を示す、半導体装置の一部の平面図および断面図であって、同図から、半導体チップの一辺に沿って千鳥配列された電極の、前記千鳥配列が並ぶ方向と直交する方向に、樹脂が注入されることを読み取ることができる。

(2-2-2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平8-153830号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「図4は、上記提案に係る特願平6-50757号に開示されている片面樹脂封止型パッケージ構造の一例を示している。このパッケージ構造は、一主面に被接続部(例えば接続パッド1b)を含む配線1aを有する配線基板1と、上記基板の一主面にフェースダウン型に実装された半導体チップ2と、上記チップと配線基板との間に充填された樹脂層5と、前記基板の他の主面側に導出・露出され、前記チップに電気的に接続された外部接続用端子4とを具備する。なお、図4中、2aはバンプ電極、3はスルーホール配線である。
図5は、前記提案に係る特願平6-60493号に開示されている片面樹脂封止型パッケージ構造の一例を示している。このパッケージ構造は、図4のパッケージ構造の改良例であり、前記基板1の一主面に対してほぼ同一平面(平面性が±10μm程度)を成すように前記配線1aを埋め込み形成している。なお、図5において、図4中と同一部分には同一符号を付している。」(【0006】-【0007】)

(2b)「ところで、図4、図5中の樹脂層5の形成に際しては、図6に示すように、樹脂供給装置(ディスペンサ)のノズル(ニードル)71から樹脂5aを基板1上の一辺部に供給し、いわゆる毛細管現象を利用してチップ・基板間に樹脂を流し込んで充填した後に硬化させる。なお、チップ2の露出している上面は、緻密、堅牢な素材(例えばシリコン)からなり、樹脂封止を行わなくても信頼性上の問題は少ない。」(【0009】)

(2c)「ところで、前記したような樹脂充填方法では、図6に示すように、基板上の樹脂供給側とは反対側の一辺部にはみ出した樹脂(その表面形状をフィレットと称する。)のはみ出し量(約0.25mm)S1よりも、基板上の樹脂供給側の一辺部における樹脂のはみ出し量S2の方がはるかに大きい。因みに、樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量は、チップ・基板間の容積を基準にして樹脂供給量が2倍の場合に最大0.83mm、3倍の場合に最大1.15mm、4倍の場合に最大2.12mmであった。」(【0011】)

(2d)「一方、上記したような片面樹脂封止型パッケージ構造の一層の小型化が要求され、チップとチップサイズに近い基板とをフリップチップボンディングした後の状態で基板の各辺部においてチップ外縁・基板外縁間の距離S3を例えば1mm以下にすることが要求されてきている。」(【0018】)

(2e)図4、図5には、引用例2の先願に係る片面樹脂封止型パッケージ構造の一例を示す断面図が示されており、図6には、図4および図5中の樹脂層の形成工程を示す図が示されている。そして、図6から、樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量S2は、半導体チップ2の端部から、樹脂供給装置(ディスペンサ)のノズル(ニードル)71によって供給された樹脂5aの端部までの寸法であることを読み取ることができる。

(2-2-3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2005-26447号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】基板と、
前記基板の少なくとも一方側に設けられる半導体素子と、
前記基板と、前記半導体素子との間を封止する第1の硬化性樹脂と第1の硬化剤とを含む第1の樹脂組成物で構成される第1の封止樹脂と、
前記半導体素子の少なくとも側部全周を包囲する第2の硬化性樹脂と第2の硬化剤とを含む第2の樹脂組成物で構成される第2の封止樹脂とを有し、前記第1の封止樹脂で封止した後、前記第2の封止樹脂で前記半導体素子の少なくとも側部全周を包囲する半導体装置であって、
前記第1の硬化剤と第2の硬化剤とは、同種の硬化剤であることを特徴とする半導体装置。」(特許請求の範囲)

(3b)「前記第1の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で硬化促進剤、カップリング剤、低応力剤、顔料、染料、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を混合することができる。」(【0032】)

(2-2-4)引用例1の上記摘記事項(1a)?(1d)、(1f)?(1h)、及び、図3、図4、図6、図8の記載を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「配線電極が形成されたフィルム基板の表面と、矩形状の表面に配列された複数の電極上にバンプが形成されかつ前記複数の電極のうち前記矩形状の表面の少なくとも一辺に沿った電極が千鳥配列された半導体チップの前記表面とを対向させて、前記バンプと前記配線電極とを接続する工程と、
封止樹脂の塗布前に、前記フィルム基板を、直下に設置した、温度を50℃に設定した事前加熱ヒーター10でプリヒートする工程と、
封止樹脂7のシリンジ24を電熱コイル13で熱することで、40℃の温度に保持されている、粘度が0.20Pa・Sである塗布直前の液状エポキシ樹脂である封止樹脂7を、ノズル8を用いて、80℃に設定された樹脂塗布ステージ11上の前記フィルム基板に塗布し、前記半導体チップの千鳥配列された電極に沿った辺とフィルム基板との隙間から、前記半導体チップと前記フィルム基板との間に前記封止樹脂を浸透させて、前記フィルム基板と前記半導体チップとの隙間に前記封止樹脂を充填させる工程と、
120℃の熱を負荷する仮硬化炉または本硬化炉12内において、前記封止樹脂を硬化させる工程とを含む、
フィルム基材5の樹脂7との濡れ性を向上させ、樹脂粘度を低下させることにより樹脂7の流れを改善し、半導体チップ1とフィルム基材5の間を速やかに樹脂7を浸透させることにより、半導体チップ1の電極パッド2の狭ピッチ化による樹脂封止時の電極パッド2周辺のボイドの発生を防止した、チップオンフィルム(COF)工法に係る製造方法によって製造された半導体装置。」

(2-3)対比・判断
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)引用例1発明における「配線電極」、「フィルム基板」、「半導体チップ」は、それぞれ、本願補正発明における「配線パターン」、「フイルム状のフレキシブル配線基板」、「半導体素子」に相当する。
(イ)引用例1発明における「封止樹脂」が、引用例1発明の「半導体チップ」を保護する機能を有することは当業者にとって自明な事項である。
(ウ)引用例1の図6に記載されている「半導体チップ1の長辺側の側辺に沿う方向に、Auバンプ4を有する電極パッド2が千鳥配列で並んでいる」という、半導体チップにおける電極の配列構造に照らして、引用例1発明における、ノズルを用いた封止樹脂の塗布が、前記半導体チップの長辺側をノズルで描画するものであると理解することができる。

してみると、本願補正発明と引用例1発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「配線パターンが形成されたフイルム状のフレキシブル配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記フレキシブル配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填されていると共に、上記半導体素子の少なくとも長辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填したものであることを特徴とする半導体装置。」

一方、本願補正発明と引用例1発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明においては、描画塗布跡の樹脂幅が0.1?1.0mmであるのに対して、引用例1発明では明らかでない点。

<相違点2>
本願補正発明においては、描画塗布跡の樹脂厚みが10μm以下であるのに対して、引用例1発明では明らかでない点。

<相違点3>
本願補正発明の封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されているのに対して、引用例1には、着色料が添加されているか明らかでない点。

そこで、上記相違点1、2、3について、以下検討する。

<相違点1について>
(あ)引用例1の上記摘記(1e)には「樹脂7が上方に広がりにくくなり、その結果、封止樹脂の領域を小さく成形できる利点もある。」と記載されている。
してみれば、引用例1には、封止樹脂の領域が、できるだけ小さくなるように成形することが望ましいことであるという課題が示唆されているものと認められる。

(い)一方、引用例2の上記摘記事項(2a)?(2e)の記載を総合勘案すると、引用例2には、「一主面に被接続部(例えば接続パッド1b)を含む配線1aを有する配線基板1と、上記基板の一主面にフェースダウン型に実装された半導体チップ2と、上記チップと配線基板との間に充填された樹脂層5とを具備する片面樹脂封止型パッケージ構造において、前記樹脂層5は、樹脂供給装置(ディスペンサ)のノズル(ニードル)71から樹脂5aを基板1上の一辺部に供給し、いわゆる毛細管現象を利用してチップ・基板間に樹脂を流し込んで充填した後に硬化させて形成させると共に、樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量S2は、チップ・基板間の容積を基準にして樹脂供給量が2倍の場合に最大0.83mmである片面樹脂封止型パッケージ構造。」の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認められる。

ここで、引用例2発明の「被接続部(例えば接続パッド1b)を含む配線1a」、「半導体チップ2」は、それぞれ本願補正発明の「配線パターン」、「半導体素子」に相当するといえる。また、引用例2発明における「樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量S2」の大きさは、本願明細書において「描画塗布跡」と呼ばれている領域の幅に「フィレット部6a」と呼ばれている領域の幅を足し併せた幅に相当するものであると理解することができるから、「樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量S2が最大0.83mm」である引用例2発明に係る片面樹脂封止型パッケージ構造の「描画塗布跡の樹脂幅」に相当する領域の幅は、「描画塗布跡」と「フィレット部6a」を足し併せた幅である「はみ出し量S2」の「最大0.83mm」という値よりも小さい値である「最大0.83mm以下の値」であると認められる。

してみれば、引用例2には「配線パターンが形成された配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填されていると共に、上記半導体素子の少なくとも一辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填した半導体装置」において、半導体素子の少なくとも一辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填したときにできる描画塗布跡の樹脂幅が最大0.83mm以下の値を有する構造が記載されているものといえる。

(う)そうすると、引用例1と引用例2に接した当業者であれば、引用例1に示唆されている、封止樹脂の領域が、できるだけ小さくなるように成形することが望ましいことであるという課題を認識して、引用例1発明と「配線パターンが形成された配線基板に半導体素子が搭載された半導体装置において、上記配線基板と半導体素子との隙間に該半導体素子の保護用の封止樹脂が充填されていると共に、上記半導体素子の少なくとも一辺側をノズルで描画して上記封止樹脂を充填した半導体装置」である点で共通する引用例2に記載された発明において採用されている、描画塗布跡の樹脂幅が最大0.83mm以下の値を有するという構造を、引用例1発明において採用することは当業者が容易になし得たことといえる。
してみれば、引用例1発明において、相違点1について、本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。また、このような構成を採用したことによる効果も格別のものとは認められない。

<相違点2について>
(あ)上記<相違点1について>で検討したように、引用例1発明において、封止樹脂の領域は、できるだけ小さく成形することが望ましいと理解できるところ、引用例2の上記摘記(2c)には「樹脂供給側の一辺部におけるはみ出し量は、チップ・基板間の容積を基準にして樹脂供給量が2倍の場合に最大0.83mm、3倍の場合に最大1.15mm、4倍の場合に最大2.12mmであった。」と記載されており、樹脂供給量が少ないほど、はみ出し量、すなわち、封止樹脂の領域が小さいことが示されているから、当業者であれば、引用例1発明において、封止樹脂の領域を小さくするために、塗布領域に塗布する樹脂供給量を、半導体素子と配線基板との間を充填して該半導体素子を保護するという目的を果たすことができる範囲内において、できるだけ少なくしようとするものと解される。

(い)一方、描画塗布跡の樹脂厚は、塗布領域に塗布された樹脂供給量から、半導体素子と配線基板との間に浸透して前記半導体素子と前記配線基板との間を充填することによって消費される樹脂の量と、半導体素子周辺充填部としてフィレットを形成することによって消費される樹脂の量とを差し引いた、樹脂の残量の大小に対応するといえる。

(う)ここで、「半導体素子と配線基板との間に浸透して前記半導体素子と前記配線基板との間を充填することによって消費される樹脂の量」は、半導体素子と配線基板との間を隔てる寸法と半導体素子の面積によって定まる一定量であるといえるから、上記(あ)の理由によって、封止樹脂の領域を小さくするために、塗布領域に塗布する樹脂供給量をできるだけ少なくすることは、上記(い)において、描画塗布跡に残る樹脂の残量を少なくして、描画塗布跡の樹脂厚を薄くすることに対応するといえる。

(え)してみれば、引用例1発明において、描画塗布跡の樹脂厚みをできるだけ薄くすることは、格別のことではなく、当業者が容易に想到し得たことである。

(お)一方、樹脂の種類、添加剤の種類、及び、添加量等の条件によって、樹脂の柔軟性、耐クラック性が異なることは当業者にとって周知の事項であり、また、折り曲げ条件の違いによって折り曲げ時の樹脂クラックの発生の態様が異なることは自明な事項である。
これに対して、本願明細書の表2に示された「描画塗布跡の樹脂厚みと折り曲げ時の樹脂クラックの発生との関係」は、その測定条件の前提となる、樹脂の種類、添加剤の有無、及び、その含有量、折り曲げ条件、描画塗布跡の樹脂の幅等の条件が一切不明なものである。
してみれば、本願明細書の【0076】、表2において、描画塗布跡の樹脂厚みが10μm以下の場合に、折り曲げ時の樹脂クラックの発生が無く、20μm以上の場合に、しわ、クラックが発生することが示されていたとしても、当該効果が、本件補正書の請求項1に記載された事項によって特定される、樹脂の種類等を何ら規定していない本件補正発明が奏する効果であると認めることはできない。
したがって、描画塗布跡の樹脂厚みの「10μm以下」という値に、臨界的な意義を認めることはできない。

(か)さらに、引用例1発明の「樹脂粘度を低下させることにより樹脂7の流れを改善し、半導体チップ1とフィルム基材5の間を速やかに樹脂7を浸透させる」との記載からも明らかなように、樹脂粘度が低くなることによって、樹脂7の流れは改善され、半導体チップ1とフィルム基材5の間を速やかに樹脂7が浸透することから、描画塗布跡に残る樹脂の残量は少なくなり、描画塗布跡の樹脂厚みが薄くなるものと解されるところ、引用例1発明は、40℃の温度に保持されている、粘度が0.20Pa・Sである塗布直前の液状エポキシ樹脂である封止樹脂7を、ノズル8を用いて、80℃に設定された樹脂塗布ステージ11上の前記フィルム基板に塗布し、前記半導体チップの千鳥配列された電極に沿った辺とフィルム基板との隙間から、前記半導体チップと前記フィルム基板との間に前記封止樹脂を浸透させて、前記フィルム基板と前記半導体チップとの隙間に前記封止樹脂を充填させるものであり、また、引用例1の上記摘記(1d)の「ここで半導体チップ1とフィルム基材5の間はわずか10?30μmしかなく、」との記載に照らして、引用例1発明の半導体チップ1とフィルム基材5の間隔も10?30μm程度と解されることから、前記描画塗布跡の樹脂厚みを、樹脂封止すべき半導体チップ1とフィルム基材5の間隔である10?30μm程度よりも薄い10μm以下となるようにすることは適宜なし得た事項であるといえる。

(き)上記の事情を総合勘案すれば、引用例1発明において、相違点2について、本願補正発明のものとすることは、当業者が容易になし得たことと認められ、また、このような構成を採用したことによる効果も格別のものとはいえない。

<相違点3について>
封止樹脂に染料を添加することは周知の事項(要すれば、引用例5の上記摘記(3b)等を参照されたい。)である。また、染料の添加量は当該染料の種類、性質等に応じて適宜決定すべき設計事項であるから、0.15?0.2重量%という配合比も格別のものとは認められない。したがって、引用例1発明において、相違点3について本願補正発明のようにすることは当業者が適宜なし得たことであり、また、このような構成を採用したことによる効果も格別のこととは認められない。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由において「本願発明では、着色料として染料からなるものを採用しています。このように、本願発明は、「封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されている」という構成を有することにより、フィレット部と描画塗布跡とを目視にて明確に分からせることができ(当初明細書の段落〔0036〕)、かつフィルム基板の折り曲げ時に折り曲げ可能領域をはっきりさせるという効果を奏します。」と主張する。
そして、本願明細書の表4には「着色料の添加量と視認性との関係」に係る実験結果が示されている。
しかしながら、本願明細書及び図面には、前記実験に用いた染料の種類、色、樹脂の種類、染料以外の添加剤の添加の有無及び種類等が示されてはおらず、また、描画塗布跡とフィレットの境界の視認性を確認した際の、描画塗布跡、及び、フィレットの、それぞれの厚さも示されていない。
一方、染料の種類が異なることによって、同一配合比であったとしても、該染料が呈する色の濃さ等が異なることは自明な事項であり、また、染料を添加しない状態での樹脂の色、透明度、及び、該樹脂を塗布する基板の色等の種々の条件によって、当該染料を添加した樹脂の視認性が異なることも明らかである。更に、描画塗布跡の厚さによって呈する色の濃さが異なる場合があることは明らかであり、描画塗布跡の厚さが、例えば1μmの場合と、10μmの場合では、良好な視認性が得られる染料の配合比の下限と上限が、0.15重量%、及び、0.20重量%とは異なる値となるであろうことは容易に理解できるところである。
してみれば、「0.15?0.20重量%」という配合比に臨界的な意義を認めることはできないから、審判請求人が主張する前記効果を是認することはできない。

そうすると、引用例1発明において、相違点1ないし3について本願補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことといえる。また、相違点1ないし3を組み合わせたことによる格別の効果を認めることもできないし、これらの各構成を組み合わせることを妨げる格別の事情も見出すこともできない。したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2、引用例5の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(2-4)本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本願補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年4月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-17に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明17」という。)は、平成20年1月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

(3-1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、引用例2の記載事項は、前記(2-2)に記載したとおりである。

(3-2)対比・判断
本願発明1は、(2-3)で検討した本願補正発明から、「半導体素子の保護用の封止樹脂には、0.15?0.20重量%の染料からなる着色料が添加されている」との特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明1の特定事項のすべてを含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記(2-3)に記載したとおり、引用例1、引用例2、引用例5に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由により、引用例1、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-01 
結審通知日 2010-02-02 
審決日 2010-02-15 
出願番号 特願2005-27056(P2005-27056)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 加藤 浩一
國方 康伸
発明の名称 半導体装置及びその製造方法  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  

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