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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200421574 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200518508 審決 特許
不服200513073 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1214341
審判番号 不服2008-7873  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-02 
確定日 2010-04-01 
事件の表示 平成 9年特許願第 27957号「悪液質の予防・治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月16日出願公開、特開平 9-323930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年2月12日(優先権主張 1996年4月4日)の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成20年2月7日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成20年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年4月2日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年5月1日付けで手続補正書と請求理由の補正書(方式)が提出されたが、その後審尋がなされ、それに対する回答書が平成21年3月12日付けで提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、平成20年5月1日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】5-[4-[2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン若しくは5-[4-[2-ヒドロキシ-2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン、またはそれらの塩を含有してなる、悪液質の予防・治療剤。」

3.原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願は明細書の記載が特許法第36条第4項、第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの理由であり、次の点を、概略指摘している。

本願明細書で具体的に化合物名が示され、実際に悪液質に対する予防、治療効果が確認できる化合物は、化合物(2)のみと認められる(注:化合物(2)は、本願明細書段落【0023】で説明されている5-[4-[2-ヒドロキシ-2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオンを指す。)。
一方、悪液質の発症にはTNF(腫瘍壊死因子)が関与することが一般に知られており(例えば、特開平7-285864号公報の【0006】、「Endocrinology,1995年,136,4,1474-1481」の要約参照。)、そのTNFに与える作用は同じチアゾリジンジオン化合物であっても化学構造の相違によって顕著に変動すると考えられる(例えば、「Endocrinology,1995年,136,4,1474-1481」の1475頁の図1、1477頁の図3、1479頁の右欄5行?10行を参照。)から、化合物(2)という一化合物の実験結果から直ちに請求項1が対象とする化合物の全てが化学構造の相違に関わらず悪液質に対して予防、治療作用を有すると推認することができない。また、出願人が提示した実験結果は明細書に記載のものと評価系が異なるものであるから、かかる実験結果から直ちにピリジル基を有する化合物と化合物(2)が同等の効果を有すると解することはできない。

なお、以下、前記指摘の特開平7-285864号公報を「文献1」といい、同「Endocrinology,1995年,136,4,1474-1481」を「文献2」ということとする。

4.当審の判断
医薬についての用途発明においては、一般に有効成分の物質名、化学構造だけからはその有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、発明の詳細な説明に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載によってその用途の有用性が裏付けられていない場合には、発明の詳細な説明は、当該医薬を当業者が容易に実施し得る程度に明確かつ十分に記載されいるとはいえないし、また、当該医薬は、発明の詳細な説明に実質的に開示されているとは当業者がいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

原査定の理由は、これを本願明細書についてみたものであり、本願発明が、5-[4-[2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン(以下、「化合物1」という。)若しくは5-[4-[2-ヒドロキシ-2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)エトキシ]ベンジル]-2,4-チアゾリジンジオン(以下、「化合物2」という。)、またはそれらの塩を含有してなる、悪液質の予防・治療剤であるところ、一方の選択肢である「化合物2」については悪液質に対する予防・治療作用が確認できるものの、他方の選択肢である「化合物1」については悪液質に対する予防・治療作用が確認できないことを指摘したものといえる。
そうすると、本願発明は、「化合物1」について悪液質の予防・治療作用を見いだし、この発見に基づいてなされた医薬用途発明に関するものを選択肢として含んでいるものと認められるところ、本願発明において「化合物1」を選択した場合について、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものであるというためには、「化合物1」がその物質名、化学構造だけから悪液質の予防・治療作用を有していることが当業者に予測できないことは明らかであるから、発明の詳細な説明において、「化合物1」の悪液質の予防・治療作用を裏付ける薬理データ又はそれと同視できる程度の記載をすることにより、その用途の有用性が裏付けられている必要がある。

そこで、本願明細書の記載を検討すると、「化合物1」の悪液質に対する予防、治療効果を裏付ける薬理データといえるものは、本願明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されていない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に、薬理データと同視すべき程度の記載がなされているか否かが問題となる。

本願明細書には、「化合物1」の用途に関連して、以下の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。)。
(i)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、悪性腫瘍,結核,糖尿病,血液疾患,内分泌疾患,感染症および後天性免疫不全症候群などの慢性病において発現する悪液質の予防・治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】悪液質は、悪性腫瘍,結核,糖尿病,血液疾患,内分泌疾患,感染症および後天性免疫不全症候群などの慢性病において、進行性の体重減少,貧血,浮腫,食欲不振などを主な症状とする全身性の症候群である(例えば・・・中略・・・)。従来、悪液質に対しては、栄養補給、内分泌療法などが試みられているが満足のいく治療法は確立していない。特に悪性腫瘍に起因する悪液質においては、悪液質が進行すると既存の抗癌薬治療を行うことができず、治療に重大な支障をきたしている。また、悪液質の症状改善のために栄養補給を行うと、かえって悪性腫瘍の増悪をきたし、患者の生存期間を短縮する場合がある。悪液質は、しばしば悪性腫瘍によって引き起こされるが、この場合抗腫瘍剤を投与すると抗腫瘍効果が得られても、通常はむしろ抗腫瘍剤による副作用が加わり、悪液質は改善しない(・・・中略・・・)。」(段落【0001】,【0002】参照)
(ii)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】このような状況下において、悪液質による体重減少などの症状の進行を抑制あるいは改善することができるような悪液質の予防・治療剤を提供することが求められている。」(段落【0003】参照)
(iii)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、一般式
【化3】

〔式中、Rはそれぞれ置換されていてもよい炭化水素または複素環基;Yは-CO-、-CH(OH)-または-NR^(3)-(ただしR^(3)は置換されていてもよいアルキル基を示す。)で示される基;mは0または1;nは0、1または2;XはCHまたはN;Aは結合手または炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基;Qは酸素原子または硫黄原子;R^(1)は水素原子またはアルキル基をそれぞれ示す。環Eはさらに1?4個の置換基を有していてもよく、該置換基はR^(1)と結合して環を形成していてもよい。LおよびMはそれぞれ水素原子を示すかあるいは互いに結合して結合手を形成していてもよい。ただし、mおよびnが0;XがCH;Aが結合手;Qが硫黄原子;R^(1)、LおよびMが水素原子;かつ環Eがさらに置換基を有しないとき、Rはジヒドロベンゾピラニル基でない〕で表される化合物またはその塩を含有してなる悪液質の予防・治療剤に関する。
・・・中略・・・
【0007】一般式(I)中、Rで示される置換されていてもよい複素環基における複素環基としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1ないし4個含有する5?7員の単環式複素環基または縮合複素環基が挙げられる。縮合複素環としては、例えばこのような5?7員の単環式複素環と、1ないし2個の窒素原子を含む6員環、ベンゼン環または1個の硫黄原子を含む5員環との縮合環が挙げられる。複素環基の具体例としては、・・・中略・・・が挙げられる。複素環基は、好ましくはピリジル、オキサゾリルまたはチアゾリル基である。」(段落【0004】?【0007】参照)
(iv)「【0023】一般式(I)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば以下に示す化合物(1)?(7)が挙げられる。
(1)5-〔4-〔2-(5-エチル-2-ピリジル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオン,(2)5-〔4-〔2-ヒドロキシ-2-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリル)エトキシ〕ベンジル〕-2,4-チアゾリジンジオン,(3)(R)-(+)-5-〔3-〔4-〔2-(2-フリル)-5-メチル-4-オキサゾリルメトキシ〕-3-メトキシフェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオン,(4)(S)-(-)-5-〔3-〔4-〔2-(2-フリル)-5-メチル-4-オキサゾリルメトキシ〕-3-メトキシフェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオン,(5)5-〔3-〔3-フルオロ-4-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリルメトキシ)フェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオン,(6)5-〔5-〔3-メトキシ-4-(5-メチル-2-フェニル-4-オキサゾリルメトキシ)フェニル〕ペンチル〕-2,4-オキサゾリジンジオン,(7)5-〔3-〔3,5-ジメトキシ-4-〔2-〔(E)-スチリル〕-4-オキサゾリルメトキシ〕フェニル〕プロピル〕-2,4-オキサゾリジンジオンなどが挙げられる(これらの化合物を、以下、単に化合物(1)、化合物(2)などと略記することがある)。これらのうち、化合物(1)?(3),(5)および(6)が好ましく、特に化合物(1)?(3)が好ましい。」(段落【0023】参照)
(v)「【0026】本発明の化合物(I)またはその塩(以下、単に本発明化合物と略記する)は、悪液質の改善作用、すなわち悪性腫瘍,結核,糖尿病,血液疾患,内分泌疾患,感染症および後天性免疫不全症候群などの慢性病において発現する進行性の体重減少(脂肪組織分解による体重減少および筋肉組織分解による体重減少を含む)、貧血、浮腫、食欲不振などを主な症状とする全身性の症候群を改善する作用を有する。また、本発明化合物の毒性は低い。本発明の予防・治療剤は、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)における悪液質の予防・治療剤あるいは栄養失調の治療剤などとして用いられる。ここにおいて、悪液質としては、例えば癌性悪液質、結核性悪液質、糖尿病性悪液質、血液疾患性悪液質、内分泌疾患性悪液質、感染症性悪液質または後天性免疫不全症候群による悪液質が挙げられる。本発明の予防・治療剤は悪液質の中でも、悪性腫瘍、特に固形癌に起因するものに好ましく用いられる。
【0027】本発明の予防・治療剤は、本発明化合物をそのまま用いてもよいが、通常本発明化合物と自体公知の薬理学的に許容される担体などとを混合して得られる医薬組成物として用いられる。ここにおいて、薬理学的に許容される担体としては、・・・(後略)。
【0028】・・・中略・・・
【0029】上記医薬組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。また、医薬組成物の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤;および注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤等の非経口剤が挙げられ、これらはそれぞれ経口的あるいは非経口的に安全に投与できる。本発明の予防・治療剤の投与量は、投与対象、投与ルート、症状などによっても異なるが、例えば成人の悪液質患者に対して経口投与する場合、有効成分である本発明化合物を通常1回量として約0.1mg/kg?約30mg/kg、好ましくは約2mg/kg?約20mg/kg投与することが好ましく、この量を1日1?3回投与するのが望ましい。
【0030】本発明の予防・治療剤は、他の化学療法剤または免疫療法剤などの薬剤と同時に同一対象に投与することができ、また時間差をおいて同一対象に投与することもできる。これらの薬剤の投与量は、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明の予防・治療剤と他の薬剤との配合比は、投与対象、投与対象の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等により、適宜選択することができる。化学療法剤としては、例えばアルキル化剤(例えば、サイクロフォスファミド、イフォスファミド)、代謝拮抗剤(例えば、メソトレキセート、5-フルオロウラシル)、抗癌性抗生物質(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン)、植物由来抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポキシドなどが挙げられる。なかでも5-フルオロウラシル誘導体であるフルツロンあるいはネオフルツロンなどが好ましい。免疫療法剤としては、例えば微生物または細菌成分(例えば、ムラミルジペプチド誘導体、ピシバニール)、免疫増強活性のある多糖類(例えば、レンチナン、シゾフィラン、クレスチン)、遺伝子工学的手法で得られるサイトカイン(例えば、インターフェロン、インターロイキン(IL))、コロニー刺激因子(例えば、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポエチン)などが挙げられ、中でもIL-1、IL-2、IL-12などが好ましい。
【0031】さらに、動物モデルや臨床で悪液質改善作用が認められている薬剤、すなわち、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、インドメタシン)〔キャンサー・リサーチ(Cancer Reseach)、第49巻、5935?5939頁、1989年〕、プロゲステロン誘導体(例えば、メゲステロールアセテート)〔ジャーナル・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)、第12巻、213?225頁、1994年〕、糖質ステロイド(例えば、デキサメサゾン)、メトクロプラミド系薬剤、テトラヒドロカンナビノール系薬剤(文献はいずれも上記と同様)、脂肪代謝改善剤(例えば、エイコサペンタエン酸)〔ブリティシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(British Journal of Cancer)、第68巻、314?318頁、1993年〕、成長ホルモン、IGF-1、あるいは悪液質を誘導する因子であるTNF-α、LIF、IL-6、オンコスタチンMに対する抗体なども本発明の予防・治療剤と併用することができる。」(段落【0026】?【0031】参照)
(vi)「【0033】本発明化合物中、とりわけ一般式(I)においてAが炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基である化合物またはその塩は、アテローム性動脈硬化症の予防・治療作用、食低下に伴う障害(例、神経性食欲不振)および過食に伴う障害(例、肥満、病的飢餓)を患っている対象における食欲および食物摂取の調整作用も有する。したがって、このような化合物またはその塩は、そのまま、あるいは前記と同様の医薬組成物とすることにより、アテローム性動脈硬化症の予防・治療剤、または食欲および食物摂取を調整するための医薬として用いることができる。なお、該予防・治療剤および医薬の投与対象、剤形、投与量等については、前記した本発明の予防・治療剤に準じればよい。
【0034】また、本発明化合物中、一般式(I)においてAが炭素数1?7の2価の脂肪族炭化水素基である化合物またはその塩は、耐糖障害の治療作用、すなわち、絶食時のインスリン値を低下させ、インスリン感受性を改善し、耐糖能を正常化する作用も有する。該化合物またはその塩は、このような作用に基づいて、耐糖障害の治療作用非インスリン依存性糖尿病の発症を防止または遅延させることができる。このような化合物またはその塩は、そのまま、あるいは前記と同様の医薬組成物とすることにより、耐糖障害の治療剤として用いることができる。なお、該治療剤の投与対象、剤形、投与量等については、前記した本発明の予防・治療剤に準じればよい。」(段落【0033】?【0034】参照)
(vii)「【0035】
【発明の実施の形態】
【実施例】以下、実施例及び試験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(カプセルの製造)
1)化合物(2) 100mg
2)微粉末セルロース 30mg
3)ラクトース 37mg
4)ステアリン酸マグネシウム 3mg
計170mg
1),2),3)および4)を混合してゼラチンカプセルに充填した。
実施例2(軟カプセルの製造)
1)化合物(2) 50mg
2)トウモロコシ油 100mg
計150mg
常法により、1)と2)を混合してソフトカプセルに充填した。
実施例3(錠剤の製造)
1)化合物(2) 100 mg
2)ラクトース 34 mg
3)トウモロコシ澱粉 10.6mg
4)トウモロコシ澱粉(のり状) 5 mg
5)ステアリン酸マグネシウム 0.4mg
6)カルボキシメチルセルロースカルシウム 20 mg
計170 mg
常法にしたがって、1)?6)を混合して錠剤機により打錠した。」(段落【0035】】参照)
(viii)「【0036】試験例1(脂肪分解抑制作用)
グリーンら〔エンドクリノロジー(Endocrinology),134巻,2581?2588頁(1994年)〕の方法に従い、ラット副睾丸脂肪組織を用いて、脂肪細胞からのグリセロール遊離量を測定し、本発明化合物の脂肪分解抑制作用を評価した。すなわち、ラット副睾丸脂肪組織を取り出し、ハサミで細切し、コラゲナーゼを含むリン酸緩衝液中で1時間振盪して脂肪細胞に解離した。ついで脂肪細胞の培養液にIL-1β(ファーミンゲン(Pharmingen)社製、PM-19101V)10ng/mlを加え、処理群には、ジメチルホルムアミドに溶解した化合物(2)を濃度を変えて加えた。24時間後に培養上清を採取し、グリセロール量を測定キット(シグマ社製、337-A)を用いて測定した。対照群のグリセロール遊離量に対する化合物(2)添加群のグリセロール遊離量の比を抑制率として求め、50%抑制の得られる化合物濃度IC50値を計算した。化合物(2)の脂肪分解抑制濃度IC50値は4nMであった。
」(段落【0036】参照)
(ix)「【0037】試験例2(担癌マウスの体重減少の抑制作用)
癌性悪液質の症状をよく再現できる系として知られているマウス結腸癌colon26(田中ら、キャンサー・リサーチ(Cancer Research),50巻,4528?4532頁(1990年))を用い、脂肪組織分解および体重減少に対する本発明化合物の抑制作用を評価した。すなわち、4週齢のマウスCDF1の皮下に1×10^(6)個のcolon26細胞を移植した。移植後14日目に腫瘍サイズに基づきマウスを群分けし、一群には、投与量が1.0mg/kgになるように、化合物(2)の5%(w/v)アラビアゴム懸濁液を、他の一群には対照として5%(w/v)アラビアゴム懸濁液を、それぞれ一日一回7日間、経口投与した。また、一群にはcolon26細胞を移植せず、これを正常群とした。移植後14日後、18日後および21日後にマウスの体重を測定し、移植後22日後にマウスを解剖し、副睾丸脂肪組織を取り出してその重量を測定した。マウスの体重変化および脂肪組織重量を、それぞれ〔表1〕および〔表2〕に示す。
【表1】 担癌マウスの体重変化(g)
───────────────────────────────
移植14日後 移植18日後 移植21日後
───────────────────────────────
正常群 28.3 29.4 29.4
対照群 25.4 23.3 21.3
化合物投与群 26.3 26.3 25.6
───────────────────────────────
【表2】 担癌マウスの脂肪組織重量(mg)
───────────────────
移植21日後
───────────────────
正常群 769
対照群 74
化合物投与群 271
───────────────────
〔表1〕および〔表2〕から明らかなように、本発明化合物は、マウス結腸癌colon26の移植による癌悪液質の症状である脂肪組織分解および体重減少を抑制し、悪液質の治療剤として有用であることが示された。」(段落【0037】参照)
(x)「【0039】
【発明の効果】本発明の予防・治療剤は、悪性腫瘍,結核,糖尿病,血液疾患,内分泌疾患,感染症および後天性免疫不全症候群などの慢性病において発現する悪液質の予防・治療剤として用いられる。本発明の予防・治療剤により、前記した慢性病における進行性の体重減少(脂肪組織分解による体重減少および筋肉組織分解による体重減少を含む)、貧血、浮腫、食欲不振などを主な症状とする全身性の症候群が改善される。」(段落【0039】参照)

そこで、これらの記載について、本願発明において「化合物1」を選択した場合についてその医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載といえるかどうか検討する。

(i)は従来技術の記載であり、(ii)は解決しようとする課題についての記載であり、(iii)は一般式(I)の式自体の説明と本発明が一般式(I)の化合物またはその塩を含有して成る悪液質の予防・治療剤に関するというものであり、いずれも「化合物1」についての悪液質の予防・治療を裏付ける薬理データと同視できる程度の記載といえないことは明らかである。
(iv)には、一般式(I)で示される化合物の好ましい例が記載され、特に、化合物(1)(注:「化合物1」のこと)?(3)が好ましいと記載され、(v)には、化合物(I)(注:一般式(I)の化合物のこと)またはその塩は、悪液質改善作用を有する、毒性が低いとの記載がなされている。さらに、化合物(I)をそのまま用いてもよいが、通常公知の薬理学的に許容される担体などと混合して得られる医薬組成物として用いられること、製剤化のための事項、投与量、投与方法等に関する説明が記載されている。しかし、上記の化合物(I)またはその塩は悪液質改善作用を有するとの記載は、いわゆる一行記載であり、(v)には、製剤化のための事項、投与量、投与方法等に関する説明が記載されているだけであり、「化合物1」が悪液質改善作用を有するということを理解できるような、具体的な試験データや理論的な説明が一切なされていない。さらに、(vi)の記載は、基Aが結合手でない化合物についての説明であり、基Aが結合手である「化合物1」についての説明ではない。(x)は、本発明の予防・治療剤は悪液質改善作用を有すると記載するだけであり、「化合物1」が悪液質改善作用を有するということを理解できるような、具体的な試験データや理論的な説明が一切なされていない。
したがって、上記(i)?(vi),(x)の記載は、「化合物1」の悪液質の予防・治療剤としの有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載とはいえない。

次に、(vii)?(ix)の記載は、「化合物2」についての薬理データを示すものであり、「化合物1」についての薬理データを示すものではない。
そこで、「化合物2」についての薬理データが「化合物1」の悪液質の予防・治療剤としての有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載といえるかどうかについて検討する。
本願発明において特定された「化合物1」と「化合物2」は、一般式(I)で表され、「エトキシベンジル-2,4-チアゾリジンジオン」の化学構造を有する点では共通するが、エトキシ基に置換する複素環構造がピリジルであるかオキサゾリル基であるかの点及びエトキシ基にヒドロキシル基を有するか否かの点で化学構造が相違し、「化合物2」についての薬理データによって「化合物1」について同等の結果が得られることは、本願明細書に担保する説明が示されていないし、技術常識であるとも認められない。
そして、本願優先権主張日当時の技術水準を検討するに、文献1には、「悪液質の成因については様々な報告がある。例えば、TNF(腫瘍壊死因子)/カケクチンを含むサイトカイン類が癌悪液質と関連した窒素の消費関与することが指摘されている」ことや、「悪液質状態下で見られるTNFの産生を抑制すること、TNFの応答反応を抑制すること、および蛋白質異化の亢進を抑制することは、悪液質の改善につながり、・・」ことが記載(第3頁段落【0006】参照)され、一般式

を有するチアゾリジン誘導体を成分とする悪液質改善剤が示されている(請求項1参照)。そして、文献2には、「腫瘍壊死因子-α(TNFα)が、敗血症や悪液質や他の病理学的状態の進展に関与するサイトカインである。」こと、Fig1に構造式が示された新しいクラスのインビボでの抗糖尿病活性を持つインシュリン感受性チアゾリジンジオンについて検討し、脂肪酸結合タンパク質メッセンジャーRNA(FABP)で評価したTNFに与える作用がFig3に示されている(第1474頁のABSTRACT、第1475頁右下のFig1,第1477頁左上のFig3を参照)。該Fig1とFig3を次に示す。

これらの記載からみて、同じチアゾリジンジオンの誘導体であっても、化学構造の相違によってTNFに与える作用が著しく異なっているものと認められる状況を勘案すると、「化合物2」についての薬理データをもって、エトキシ基に置換する複素環構造がピリジルであるかオキサゾリル基であるかの点及びエトキシ基にヒドロキシル基を有するか否かの点で化学構造が大きく相違する「化合物1」について悪液質の改善に関し同等の作用効果が得られると当業者において理解できるとはいえない。

これに対し、請求人は、審尋に対する回答書(平成21年3月12日付け)において、「文献2の実験(図3)によれば、被験化合物間でTNFに与える作用にはバラツキが見られるものの、コントロールと比較すれば、いずれもFABPmRNA発現量の増加という明らかに有意な結果を与えております。当該作用は、特にTNF非存在下で顕著に見られますが、TNF存在下でのFABPmRNA発現量もTNF非存在下での発現量と相関しており、作用効果が相対的に弱かったCiglitazone及びEnglitazoneを含む全ての被験化合物で、コントロールと比較してFABPmRNA発現量の増加傾向を示していることから、共通の主要骨格を有する化合物は共通の作用効果を有することがわかります。 すなわち、文献2の実験結果は、「アルコキシベンゼンの置換したアルキル鎖が5位に置換したチアゾリジンジオン環を主要骨格とする化合物」であれば、化合物毎に若干の差異はあるものの、いずれも、3T3-L1細胞分化時のFABPmRNA発現量を上昇させる機能を共通して有することを示しているものといえます。」と主張している。
しかし、本願発明に使用される化合物2に相当する「AD-5075」は1μMでのデータであるのに対し、「PIOGLITAZONE」,「CS-045」,「CIGLITAZONE」,「ENGLITAZONE」は10μMのデータであって、Fig3における後者の化合物を用いたグラフは10倍に誇張されたものであり、見かけの差より更に10倍程度の差があることも考慮すべきであり、前者と後者とでは著しい差異があるというべきであるから、前記請求人の主張は失当である。

以上のとおり、(vii)?(ix)の記載は、「化合物1」について、その医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき記載とはいえない。

ところで、請求人は、平成20年2月7日付けの意見書において、「3T3-L1脂肪細胞からの非エステル型脂肪酸(NEFA)のTNF-α誘導性放出を決定することによって、化合物(I)(注:化合物(1)の誤記)塩酸塩の抗脂肪分解効果を評価した。」実験を提示し、「化合物1」が悪疫質(注:悪液質の誤記)の予防・治療に有効であることが確認されている旨を主張している。
しかし、そもそも明細書において裏付けられていない医薬(予防・治療剤)の作用効果について、本願出願後において薬理試験データに対応する研究結果を提出し、医薬についての用途発明の裏付けを充足させようとすることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないものであり、請求人の上記主張は採用することができないし、該追加実験を検討しても、該実験は、本願明細書に記載された悪液質の治療効果についての試験である試験例2とは全く異なるものであり、本願優先権主張日の技術常識に照らしても悪液質の治療、予防効果を評価する一般的なものであるとは認められない。
また、請求人は、審尋に対する回答書(平成21年3月12日付け)において、参考文献1,2を提示し、「参考文献1では、癌細胞がlipolitic factor(脂肪細胞から脂肪酸を遊離させる因子)を産生してこれが悪液質と関連している可能性が指摘されております(Abstract第2段落等)。また、参考文献2には、インビトロでlipolysisを抑制するEPA(図1A等)は、インビボで癌細胞の増殖と体重減少を抑制し(図4及び図5等)、それらの結果からlipolitic activityの抑制とEPAの抗悪液質活性(anticachetic activity)との関連が示唆されると記載されています(106頁、左欄、下から10?7行)。」と指摘し、「これらの記載によれば、優先権主張日当時、細胞レベルにおける脂肪分解抑制作用と、インビボにおける悪液質抑制作用はよく相関する関係にあること、すなわち、細胞レベルにおける脂肪分解抑制作用を実証することによって、インビボにおける悪液質抑制作用を実質的に裏付けることとなり得ることが、当業者に広く知られていたことがわかります。」と主張しているが、脂肪分解抑制作用に係る細胞レベルの実験結果が、インビボにおける悪液質の抑制作用の実験に代替できることを明らかにするものであるとまでは言えない。

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明において「化合物1」を選択し含有した場合について、医薬用途の有用性を裏付ける薬理データの記載も薬理データと同視すべき程度の記載もなされていない。

そうすると、当業者が、本願発明において「化合物1」を選択し含有した場合の医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明において「化合物1」を選択し含有した場合に本医薬を当業者が容易に実施し得る程度に明確かつ十分に記載されいるとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明において「化合物1」を選択し含有した場合の医薬は、本願明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されていると当業者が言えないのであるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
したがって、本願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-20 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-17 
出願番号 特願平9-27957
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 塚中 哲雄
穴吹 智子
発明の名称 悪液質の予防・治療剤  
代理人 高島 一  
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