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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部無効 発明同一  C07C
審判 全部無効 2項進歩性  C07C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1214780
審判番号 無効2009-800028  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-17 
確定日 2010-03-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4025136号発明「アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4025136号発明の出願は、平成14年7月31日の出願であって、平成19年10月12日にその特許権の設定の登録がされたところ、平成21年2月17日に請求人池内雅美より無効審判請求がされ、同年5月15日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出されると同時に訂正請求がされ、同年7月24日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、同年11月24日付けで請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同年12月8日に特許庁第2審判廷において第1回口頭審理がなされ、同日付けで請求人より上申書及び上申書(2)が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
被請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を、平成21年5月15日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正すること、すなわち、以下の訂正事項(a)?(h)のとおりである。

訂正事項(a)
特許請求の範囲の請求項1の、
「下記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体。
【化1】

(式中、Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を表し、Xのうち少なくとも1つは、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基である。
Arは下記の一般式
【化2】

(Ar_(1)は、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’は置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。
a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)」を
「下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体。
【化1】

(式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。
Arは下記の一般式
【化2】

(Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。
a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)」と訂正する。

訂正事項(b)
特許請求の範囲の請求項2の「請求項1に記載のアントラセン誘導体」を、「前記一般式(1)中、a及びbの一方が1であり他方が0である請求項1に記載のアントラセン誘導体」と訂正する。

訂正事項(c)
特許請求の範囲の請求項3の「該有機薄膜層の少なくとも1層が、請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を」を、「発光層が、請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を」と訂正する。

訂正事項(d)
発明の詳細な説明の段落【0006】の「すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体、該アントラセン誘導体からなる有機EL素子用発光材料を提供するものである。」を、「すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体、該アントラセン誘導体からなる有機EL素子用発光材料を提供するものである。
」と訂正する。

訂正事項(e)
発明の詳細な説明の段落【0006】の「式中、Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を表し、Xのうち少なくとも1つは、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基である。」を、「式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。」と訂正する。

訂正事項(f)
発明の詳細な説明の段落【0006】の「(Ar_(1)は、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’は置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」を、「(Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」と訂正する。

訂正事項(g)
発明の詳細な説明の段落【0006】の「a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、」を、「a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、」と訂正する。

訂正事項(h)
発明の詳細な説明の段落【0007】の「該有機薄膜層の少なくとも1層が、前記有機EL素子用発光材料を」を、「発光層が、前記アントラセン誘導体からなる有機EL素子用発光材料を」と訂正する。

2 判断
(1)訂正事項(a)について
訂正事項(a)について判断するにあたり、被請求人の示したとおりに、(a-1)?(a-5)に分けて検討する。

訂正事項(a-1)
「下記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体」を「下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体」とする訂正
訂正事項(a-2)
「式中、Xは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を表し、Xのうち少なくとも1つは、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基である。」を「式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。」とする訂正
訂正事項(a-3)
「Ar_(1)は、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」を「Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」とする訂正
訂正事項(a-4)
「Ar’は置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」を「Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。」とする訂正
訂正事項(a-5)
「a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、」を「a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、」とする訂正

訂正事項(a-1)は、特許明細書の段落【0037】、【0042】の記載に基づくものであるから特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、アントラセン誘導体が、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用であることを明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項(a-2)?(a-4)は、特許明細書の段落【0011】、【0018】の記載に基づくものであるから特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、式中の基X、Ar_(1)、Ar’について、訂正前に意味するものよりも狭い範囲とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項(a-5)は、aとbの取り得る数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
すなわち、特許明細書には、段落【0009】に、「一般式(1)において、a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、a+b=1?2であると好ましい。aとbが同時に0になることはなく、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。」と説明されているから、この好ましい場合の「a、b」の組み合わせは、「0、1」、「1、1」、「1、0」、「0、2」、「2、0」の5つの場合となる。
これに対して訂正後の「a、b」の組み合わせをみるに、同時に0になることはないのであるから、「0、1」、「1、1」、「1、0」の場合のみとなり、訂正前における好ましい場合の組み合わせをさらに特定のものにするものといえる。
したがって、この訂正は、特許明細書の段落【0009】の記載に基づくものであって、特許明細書に記載した事項の範囲内のものといえ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項(a)は、全体として特許請求の範囲の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項(b)について
訂正前の請求項2は、「請求項1に記載のアントラセン誘導体・・・」であったところ、特許明細書の段落【0009】に記載されるように、好ましい場合の「a、b」の組み合わせは、「0、1」、「1、1」、「1、0」、「0、2」、「2、0」の5つの場合となる。
これに対し、訂正後は、「a、b」の組み合わせは、「0、1」と「1、0」の場合のみであるから、「訂正事項(a-5)」に示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項(c)について
この訂正は、(c-1)「該有機薄膜層の少なくとも1層が」を、「発光層が」と訂正し、(c-2)「請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を」を、「請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を」とするものである。
(c-1)は、特許明細書の段落【0037】、段落【0042】に基づくものであるから特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(c-2)について、訂正前の「請求項2」は「請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料。」であるから、訂正前の「請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料」とは、「請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料」の意味であるといえ、文言上、訂正前後において変わるところはないが、訂正後の請求項1は上記「(1)訂正事項(a)について」に示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、この(c-2)の訂正も同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項(c)は、全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項(d)?(h)について
これらの訂正事項は、いずれも、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載との整合性を図るためになされたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであって、訂正事項(a)?(h)は、いずれも特許法第134条の2第1項及び同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
以上のとおりであるから、本件請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。)は訂正明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。

【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体。
【化1】

(式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。
Arは下記の一般式
【化2】

(Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。
a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、a及びbの一方が1であり他方が0である請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料。
【請求項3】
陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層が、請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を単独もしくは混合物の成分として含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層が、さらにアリールアミン化合物を含有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層が、さらにスチリルアミン化合物を含有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

第4 請求人の主張の概要
請求人は、証拠として審判請求書に添付して甲第1号証?甲第7号証の2を提出し、無効理由1?4により本件発明1?5についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものである。
また、審判事件弁駁書に添付して参考資料1?3を、口頭審理陳述要領書に添付して参考資料4を提出している。

無効理由1:
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2:
本件発明1?5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由3:
本件発明1?2は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件の特許出願後に出願公開されたされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第3号証、甲第3号証の2、甲第4号証、甲第4号証の2、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第7号証の2参照)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が本件出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法同条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由4:
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、また、特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないので、本件特許は特許法第36条第4項又は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2000-182776号公報
甲第2号証:特開2001-335516号公報
甲第3号証:特表2005-515233号公報
甲第3号証の2:甲第3号証に係る出願の優先権書類及びその訳文
甲第4号証:特表2005-531552号公報
甲第4号証の2:甲第4号証に係る出願の優先権書類及びその訳文
甲第5号証:特開2003-261472号公報
甲第6号証:特開2003-282268号公報
甲第7号証:特開2003-146951号公報
甲第7号証の2:甲第7号証に係る出願の優先権書類

参考資料1:平成7年(行ケ)第27号判決
参考資料2:平成10年(行ケ)第307号判決
参考資料3:平成10年(行ケ)第308号判決
参考資料4:パワー・ポイント資料「甲第1号証に具体的にどのような化合物が記載されているかについて」

第5 被請求人の答弁の概要
無効理由1に対して
本件発明1である有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセンは発光層に用いられる化合物であり、甲第1号証に記載される正孔輸送材料は本件発明における発光層に用いられる発光材料ではないのであるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明とは異なる。
また、本件発明2、3は請求項1に記載の要件をすべて満たすものであるから、甲第1号証に記載された発明と異なるものであることは明らかである。

無効理由2に対して
本件発明1である有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセンは発光層に用いられる化合物であり、甲第1号証に記載されているのは正孔輸送材料に係る発明であるから、これと甲第2号証に記載された発明とを組み合わせても本件発明1が容易であるとは到底いえない。
また、本件発明2?5についても同様である。

無効理由3について
答弁書と同日付けで提出した訂正請求書において、本件の一般式(1)の置換基Xについてその範囲の限定を行ったから、甲第3?6号証に具体的に記載された化合物は、本件発明1、2に包含されなくなった。
また、同訂正請求書において、本件発明1は発光材料用のアントラセン誘導体であることが明確にされ、甲第7号証の一般式(I)で表されるアントラセン化合物は、実施例の内容から正孔輸送材料であるから、本件発明1、2は甲第7号証に記載された発明と同一ではない。

無効理由4について
本件発明1は、アントラセン構造の所定位置に置換される置換基Xをフェニル基等のアリール基又は特定のシクロアルキル基とすることで、当該置換基Xの立体障害基としての効果により分子間の会合が抑制され、高発光輝度及び効率でありながら駆動電圧を低電圧化することができる上、素子寿命も長くなるものである。このことは、本件明細書の実施例により立証されているから、明細書の記載に、請求人の主張するような不備はない。

第6 甲各号証に記載された事項
以下の甲各号証には、以下の事項が記載されている。

1 甲第1号証:
(1-1)「【請求項1】 アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化1】

(上式中、置換基R^(1) 、R^(2) 、R^(3) 及びR^(4) は、各々独立に、水素、炭素原子数1?24のアルキル基、炭素原子数5?20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5?24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)」(特許請求の範囲の請求項1)

(1-2)「【請求項4】 アノードとカソードを含み、さらにそれらの間に正孔輸送層及び前記正孔輸送層と共働関係にあるように配置された電子輸送層を含んで成る有機系多層型エレクトロルミネセンス素子であって、前記正孔輸送層が下式の有機化合物を含むことを特徴とするエレクトロルミネセンス素子。
【化4】

(上式中、置換基R^(1) 、R^(2) 、R^(3) 及びR^(4) は、各々独立に、水素、炭素原子数1?24のアルキル基、炭素原子数5?20のアリール基もしくは置換アリール基、炭素原子数5?24のヘテロアリール基もしくは置換ヘテロアリール基、フッ素、塩素、臭素、又はシアノ基を表す。)」(特許請求の範囲の請求項4)

(1-3)「【発明が解決しようとする課題】芳香族アミン類の正孔輸送特性が周知であるとの前提に立てば、有機系EL素子の正孔輸送層に芳香族アミン類以外の有機化合物を使用することは一般的ではない。しかしながら、二層型EL素子の正孔輸送層として芳香族アミン類を使用することには大きな欠点がある。すなわち、一般にアミン類は強い電子供与体であるため、電子輸送層に用いられる発光材料と相互作用して、蛍光消光中心を形成せしめ、ひいてはEL発光効率を低下させることになる場合がある。本発明の目的は、有機系EL素子の正孔輸送層として芳香族アミン類以外の有機化合物であってEL性能の向上をもたらすものを提供することにある。」(段落【0008】)

(1-4)「【発明の実施の形態】図1は、本発明の有機EL素子の構成に採用される基本構造を示すものである。この二層型構造は有機正孔輸送層30と有機電子輸送層40とを含んで成る。当該電子輸送層は、エレクトロルミネセンスが生じる発光層でもある。両者を合わせて有機EL媒体50を形成する。」(段落【0020】)

(1-5)「

」(段落【0037】)

(1-6)「

」(段落【0043】)

(1-7)「

」(段落【0046】)

(1-8)「

」(段落【0047】)

(1-9)「

」(段落【0049】)

(1-10)「

」(段落【0055】)

(1-11)「

」(段落【0057】)

(1-12)「これらの芳香族炭化水素系正孔輸送材料の一部のイオン化ポテンシャルを測定し、その値をアリールアミン系正孔輸送材料の場合と比較して以下に示す。一般に芳香族炭化水素系正孔輸送材料はアリールアミン系よりも高いイオン化ポテンシャルを有することに留意されたい。
アリールアミン類又は芳香族炭化水素類 IP(eV)
化合物1 5.2
化合物2 5.3
化合物3 5.4
化合物4 5.1
化合物20 5.9
化合物21 5.9
化合物26 5.8
化合物43 5.8」(段落【0070】?【0074】。審決注:化合物の構造式は略。また、化合物1?4は従来例である。)

(1-13)「【実施例】本発明とその利点を以下の具体例でさらに説明する。
例1:3,5-(ジフェニル)ブロモベンゼンの合成
・・・
例2:9,10-ジ-(3,5-ジフェニル)フェニルアントラセン(化合物14)の合成
・・・
例3:3,5-ジ-(m-トリル)ブロモベンゼンの合成
・・・
例4:9,10-ジ-(3’,5’-m-トリル)フェニルアントラセン(化合物20)の合成
・・・
例5:3,5-(1-ナフチル)ブロモベンゼンの合成
・・・
例6:9,10-ジ-〔3,5-(1-ナフチル)フェニル〕アントラセン(化合物21)の合成
・・・
例7:2-ナフチレンボロン酸の合成
・・・
例8:9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン(化合物26)の合成
・・・
例9:9,10-ジ-〔2-(6-メトキシナフチル)〕アントラセン(化合物43)の合成
・・・」(段落【0088】?【0096】)

(1-14)「 【表1】

」(段落【0100】)

(1-15)「 【表2】

」(段落【0104】)

2 甲第2号証:
(2-1)「【請求項1】 下記一般式〔A〕で示される新規化合物。
一般式〔A〕
【化1】

〔式中、R^(1) ?R^(8) は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルコキシ基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリールオキシ基、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルキルチオ基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリールチオ基、置換もしくは未置換の炭素原子数7?30のアリールアルキル基、未置換の炭素原子数5?30の単環基、置換もしくは未置換の炭素原子数10?30の縮合多環基又は置換もしくは未置換の炭素原子数5?30の複素環基である。Ar^(3) 及びAr^(4) は、それぞれ独立に、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリール基であり、置換基としては、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルコキシ基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリールオキシ基、置換もしくは未置換の炭素原子数1?20のアルキルチオ基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリールチオ基、置換もしくは未置換の炭素原子数6?30のアリールアルキル基、未置換の炭素原子数5?30の単環基、置換もしくは未置換の炭素原子数10?30の縮合多環基、置換もしくは未置換の炭素原子数5?30の複素環基又は置換もしくは未置換の炭素原子数4?40のアルケニル基である。ただし、Ar^(3) 及びAr^(4) が未置換のフェニル基である場合を除く。〕」(特許請求の範囲の請求項1)

(2-2)「【発明の属する技術分野】本発明は壁掛テレビの平面発光体やディスプレイのバックライト等の光源として使用され、発光効率が高く、耐熱性に優れ、寿命が長く、色純度が良い青色系に発光する新規化合物及びそれを利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。」(段落【0001】)

(2-3)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、発光効率が高く、耐熱性に優れ、寿命が長く、色純度が良い青色系に発光する新規化合物及びそれを利用した有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。」(段落【0003】)

(2-4)「

」(段落【0031】)

(2-5)「正孔注入材料としては、正孔を輸送する能力を持ち、陽極からの正孔注入効果、発光層または発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、発光層で生成した励起子の電子注入層または電子注入材料への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、・・・が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」(段落【0036】)

(2-6)「本発明の有機EL素子において使用できる正孔注入材料の中で、さらに効果的な正孔注入材料は、芳香族三級アミン誘導体もしくはフタロシアニン誘導体である。・・・これらに限定されるものではない。」(段落【0037】)

(2-7)「合成例11(化合物33)
(1)2-t-ブチル-9,10-ビス(4-(2,2-ジフェニルビニル) フェニル)-9,10-ジヒドロキシ-9,10-ジヒドロアントラセンの合成
・・・
(2)3-t-ブチル-9,10-ビス(4-(2,2-ジフェニルビニル) フェニル)アントラセン(化合物33)の合成
・・・を得た。」(段落【0078】?【0079】)

(2-8)「合成例12(化合物34)
(1)2-フェニルアントラキノンの合成
・・・
(2)2-フェニル-9,10-ビス(4-(2,2-ジフェニルビニル) フェニル)-9,10-ジヒドロキシ-9,10-ジヒドロアントラセンの合成
・・・
(3)3-フェニル-9,10-ビス((4-(2,2-ジフェニルビニル) フェニル)アントラセン(化合物34)の合成
・・・を得た。」(段落【0080】?【0082】)

(2-9)「以上、詳細に説明したように、上記〔A〕、〔1〕?〔5〕及び〔3’〕で示されるいずれかの新規化合物を利用した本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光効率が高く、耐熱性に優れ、寿命が長く、色純度が良い青色系に発光する。このため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、壁掛テレビの平面発光体やディスプレイのバックライト等の光源として有用である。」(段落【0096】)

3 甲第3号証:
(3-1)「【請求項1】
下記の化学式1:
【化1】

[・・・]
に示される化合物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(3-2)「【請求項6】
下記の化学式1に示される化合物、化学式2に示される化合物、化学式3に示される化合物、化学式4に示される化合物、及び化学式5に示される化合物からなる群より1種以上選択される有機化合物:
【化6】

[・・・]
を含有する少なくとも一つの有機化合物層を含む有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項6)

(3-3)「【請求項10】
少なくとも一つの前記有機化合物層が発光機能を有する発光層である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項10)

(3-4)「【請求項15】
前記化学式1に示される化合物が、下記の化学式1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8、1-9、及び1-10の化合物からなる群より選択される化合物:
【化8A】

【化8B】

【化8C】

【化8D】

である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項15)

(3-5)「【請求項16】
前記化学式2に示される化合物が、下記の化学式2-1、2-2、2-3、2-4、及び2-5の化合物からなる群より選択される化合物:
【化9A】

【化9B】

【化9C】

である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項16)

(3-6)「【請求項17】
前記化学式3に示される化合物が、下記の化学式3-1、3-2、3-3、3-4、及び3-5の化合物からなる群より選択される化合物:
【化10A】

【化10B】

である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項17)

(3-7)「【請求項18】
前記化学式4に示される化合物が、下記の化学式4-1、4-2、4-3、4-4、及び4-5の化合物からなる群より選択される化合物:
【化11A】

【化11B】

である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項18)

(3-8)「【請求項19】
前記化学式5に示される化合物が、下記の化学式5-1、5-2、5-3、5-4、及び5-5の化合物からなる群より選択される化合物:
【化12A】

【化12B】

である、請求項6に記載の有機発光素子。」(特許請求の範囲の請求項19)

(3-9)「実施例3:
(化学式1-4に示される化合物の製造)
・・・化学式1-4に示される化合物(1.3g、収率49.7%)を得た。」(段落【0056】?【0058】)

(3-10)「実施例4:
(化学式2-4に示される化合物の製造)
・・・化学式2-4に示される化合物(1.52g、収率36%)を得た。」(段落【0059】?【0062】)

4 甲第4号証:
(4-1)「【請求項1】
一般式I:
【化1】

[ここで、R_(1)乃至R_(4)のうちの少なくとも一つは一般式II:
【化2】

(・・・)で示される]
の化合物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(4-2)「【請求項22】
前記化合物が、選択肢を構成する下記一般式1乃至96:
【化5A】

【化5B】

【化5C】

【化5D】

【化5E】

【化5F】

【化5G】

【化5H】

【化5I】

【化5J】

【化5K】

【化5L】

【化5M】

【化5N】

【化5O】

から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。」(特許請求の範囲の請求項22)

(4-3)「【請求項35】
請求項22に定義されたような化合物を一つ以上含む発光物質。」(特許請求の範囲の請求項35)

(4-4)「【請求項38】
請求項1に記載の一般式Iで示される化合物を一つ以上含む固体フィルム。」(特許請求の範囲の請求項38)

(4-5)「【請求項59】
陽極;
陰極;及び
前記陽極と陰極の間に配置された請求項38の固体フィルムを含むことを特徴とする有機電界発光(EL)素子。」(特許請求の範囲の請求項59)

(4-6)「本発明は一般に有機電界発光に関する。特に、本発明は電界発光(以下、“EL”と言う)特性を有する新規有機化合物及びその有機EL化合物を用いる有機EL素子に関する。」(段落【0001】)

(4-7)「実施例27:化合物12の合成
・・・よって精製して収得したものが化合物12(0.83g、63%): mp 304.49 ℃; MS [M+H] 671。」(段落【0158】)

5 甲第5号証:
(5-1)「【請求項1】 一対の電極間に、一般式(1)で表される化合物を少なくとも一種含有する層を、少なくとも一層挟持してなる有機電界発光素子。
【化1】

(式中、Arは置換または未置換のアントリル基を表し、Z_(1)、Z_(2)およびZ_(3)は水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状のアルキル基、直鎖、分岐または環状のアルコキシ基、置換または未置換のアリール基、あるいは置換または未置換のアラルキル基を表す。)」(特許請求の範囲の請求項1)

(5-2)「【請求項4】 一般式(1)で表される化合物を含有する層が、発光層である請求項1?3に記載の有機電界発光素子。」(特許請求の範囲の請求項4)

(5-3)「
【化12】

」(段落【0040】)

(5-4)「

」(段落【0048】)

(5-5)「

」(段落【0056】)

6 甲第6号証:
(6-1)「【請求項1】 一対の電極間に、一般式(1)で表される化合物を少なくとも一種含有する層を、少なくとも一層挟持してなる有機電界発光素子。
【化1】

(式中、Arは置換または未置換のアントリル基を表し、・・・)」(特許請求の範囲の請求項1)

(6-2)「【請求項4】 一般式(1)で表される化合物を含有する層が、発光層である請求項1?3に記載の有機電界発光素子。
」(特許請求の範囲の請求項4)

(6-3)「

」(段落【0021】)

(6-4)「

」(段落【0029】)

(6-5)「

」(段落【0037】)

7 甲第7号証の2:
(7の2-1)「【請求項1】 下記一般式(I)で表されるアントラセン系化合物
【化1】

(式中、Ar^(1)およびAr^(2)は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい5または6員環の、芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基又は2?5の縮合環基を示し、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、3級アミノ基、5または6員環の芳香族炭化水素環または芳香族複素環の単環基又は2?5の縮合環基を示す。なお、R^(1)および/またはR^(2)が3級アミノ基、芳香族炭化水素環基または芳香族複素環基を示す場合、これらは更に置換されていてもよい。)」(特許請求の範囲の請求項1。甲第7号証の特許請求の範囲の請求項1に該当。)

(7の2-2)「【請求項10】 少なくとも、請求項1ないし9のいずれかに記載のアントラセン系化合物を含有する層を有することを特徴とする、有機電界発光素子。」(特許請求の範囲の請求項10。甲第7号証の特許請求の範囲の請求項6に該当。)

(7の2-3)「【請求項11】 有機電界発光素子が、対向する陽極と陰極との間に発光層を有し、請求項1ないし9のいずれかに記載のアントラセン系化合物を含有する層を、該発光層と陽極との間に有することを特徴とする、請求項10に記載の有機電界発光素子。」(特許請求の範囲の請求項11。甲第7号証の特許請求の範囲の請求項8に該当。)

(7の2-4)「本発明の化合物は、例えば下記に従って製造することができる。・・・反応させることにより、前記一般式(VIII)で表されるアントラセン系化合物を得る。」(段落【0023】?【0034】。甲第7号証の段落【0024】?【0037】に該当。)

(7の2-5)「【表37】

」(段落【0072】。甲第7号証の段落【0038】に該当。)

(7の2-6)「 実施例1(化合物H-1の合成)
・・・

実施例2(化合物H-21の合成)
・・・

」(段落【0147】?【0151】。甲第7号証の段落【0119】?【0123】に該当。)

(7の2-7)「 実施例3(化合物A-1の合成)
・・・

・・・
実施例4(化合物A-21の合成)
・・・

化合物(A-1)と同様の方法で化合物(A-21)をセラミックるつぼに入れ、膜厚53nmの一様で透明な膜を得た。この薄膜試料のイオン化ポテンシャルを測定したところ5.06eVの値を示した。」(段落【0152】?【0157】。甲第7号証に該当箇所なし。)

(7の2-8)「 実施例5(化合物C-61の合成)
・・・

化合物(A-1)と同様の方法で化合物(C-61)をセラミックるつぼに入れ、膜厚100nmの一様で透明な膜を得た。この薄膜試料のイオン化ポテンシャルを測定したところ5.60eVの値を示した。」(段落【0157】?【0159】。甲第7号証の段落【0044】の「表-1(つづき)」中の「C-61」と同じ構造である。)

(7の2-9)「 実施例6(化合物A-21を有する有機電界発光素子の作製)
図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
・・・
化合物(A-21)の導入により、駆動電圧の低下が達成された。
実施例7
下記に示す構造のルブレン(D-1)を発光層5中に化合物(E-1)に対して2.5重量%の濃度で膜厚方向で均一にドープした以外は実施例6と同様に素子を作製した。・・・ルブレンのドープにより発光効率の向上が達成された。
実施例8
実施例7で作製した有機電界発光素子を85℃の環境下で250mA/cm^(2)の定電流で連続駆動したところ、168時間後での輝度は初期輝度の91%で良好な発光特性を示した。
実施例9
正孔輸送層4に化合物(A-1)を用いる以外は、実施例6と同様にして有機電界発光素子を作製した。・・・化合物(A-1)の導入により、駆動電圧の低下が達成された。」(段落【0159】?【0175】。甲第7号証に該当箇所なし。)

(7の2-10)「本発明のアントラセン系化合物は耐熱性が高く、極めて有用である。また、種々の置換基を有することが出来るため、要望される種種の特性を発揮できる。
また本発明にて得られる有機電界発光素子は、特定のアントラセン系化合物を含有することにより、発光開始電圧や素子の耐熱性など、いずれの点についても従来公知のアントラセン系化合物を含む素子より優れた性能を有する。」(段落【0176】。甲第7号証の段落【0162】に該当。)

第7 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、摘記(1-1)、(1-2)にあるように、エレクトロルミネセンス素子について記載され、そこに含まれる有機化合物として、摘記(1-1)には【化1】で表される化合物が、摘記(1-2)には【化4】で表される化合物が記載されている。
ところで、化学物質の発明は、新規で、有用、すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから、その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とするものである。
そこで、甲第1号証の上記した一般式等で表される化合物のうち、具体的な構造が記載されているものについてみると、「化合物5」?「化合物59」が構造式とともに記載されている(その一部を(1-5)?(1-11)に摘記。)。
これらの化学構造が示された化合物のうち、具体的に製造されているのは、(1-13)に摘記した化合物14、20、21、26、43のみであり、何らかの物性データが示されているのは、(1-12)、(1-14)、(1-15)に摘記した化合物9、20、21、26、39、43のみであるから、化学物質として確認され、製造でき、又は具体的に有用性が開示されているもの、と、若干広く解釈したとしても、甲第1号証に具体的に記載されているといえるのは、化合物9、14、20、21、26、39、43のみであるといえる。
そして、甲第1号証には、化合物のみならず、(1-3)、(1-4)に摘記したように正孔輸送材料及びエレクトロルミネッセンス素子についても記載されているから、甲第1号証には、
「化合物9、14、20、21、26、39、43の有機化合物、該化合物を含む正孔輸送材料、該化合物を含むエレクトロルミネセンス素子」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比するにあたり、本件発明1のアントラセン誘導体は、アントラセン環の1位及び/又は2位に必ず「X基」が結合し、アントラセン環の9位及び/又は10位に必ず「Ar基」が結合しているものあるところ、甲1発明のうち、アントラセン環の9位及び/又は10位に必ず「Ar基」が結合し、また、「X基」ではないものの、アントラセン環の1位及び/又は2位に必ず置換基が結合しているものは化合物39だけであるので、甲1発明のうちの化合物39に関する発明である、
「化合物39の有機化合物、該化合物を含む正孔輸送材料、該化合物を含む有機エレクトロルミネセンス素子」
を引用発明として、本件発明1と引用発明とを対比すれば十分である。
そこで両者を対比すると、引用発明における「化合物39の有機化合物」とは、「有機エレクトロルミネセンス素子に用いるのに有用な化合物39の有機化合物」といえ、また、化合物発明においては、本件発明1にあるような「発光材料用」などという用途については、これにより特定されていることにはならないから、これらのことからすると、両者は、
「有機エレクトロルミネッセンス素子に用いるのに有用なアントラセン誘導体」
である点で一致し、
(a)アントラセン誘導体が、本件発明1においては「式(1)」で表されるものであるのに対し、引用発明においては、「化合物39」である点、より詳細にいうなら、アントラセン誘導体の2位の置換基が、本件発明1においては「X基」であるのに対し、引用発明においては「t-ブチル基」である点、
で相違する。
そして、「X基」と「t-ブチル基」とは明らかに異なる基であるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

イ 本件発明2、3
上記の「ア」と同様に、引用発明は、
「化合物39の有機化合物、該化合物を含む正孔輸送材料、該化合物を含む有機エレクトロルミネセンス素子」
であるところ、本件発明2と引用発明とを対比すると、両者は、
「有機エレクトロルミネッセンス素子に用いるのに有用なアントラセン誘導体を用いた材料」である点で一致し、
(b)アントラセン誘導体が、本件発明2においては「式(1)」で表されるものであるのに対し、引用発明においては、「化合物39」である点、
(c)材料が、本件発明2においては「発光材料」であるのに対し、引用発明においては「正孔輸送材料」である点、
で、相違する。

また、本件発明3と引用発明とを対比すると、引用発明においても、「陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子」といえるから、両者は、
「陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子における、有機エレクトロルミネッセンス素子」である点で一致し、
(d)有機エレクトロルミネッセンス素子が、本件発明3においては、「発光層が、請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる」ものであるのに対し、引用発明においては、「化合物39の有機化合物を含む」ものである点、
で相違する。

これを検討するに、相違点(b)も、相違点(d)も、実質的には上記相違点(a)と変わりがなく、上記「ア」に示したとおり明らかに相違しており、さらに、相違点(c)についても、「発光材料」と「正孔輸送材料」とが実質的に相違しないとか、材料として重複する場合がある、などという証拠は提出されていないから、相違点(c)も明らかに相違するといえる。
そうしてみると、本件発明2、3は甲第1号証に記載された発明ではない。

(3)まとめ
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないので、無効理由1には理由がない。

2 無効理由2について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「1 (1)」に示した「甲1発明」が記載されている。

(2)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比するには、上記「1 (2)ア」に示した「引用発明」と本件発明1と対比すれば十分であるところ、両者は、上記「1 (2)ア」に示した点で一致し、相違点(a)で相違する。

請求人は、甲第2号証の摘記(2-4)に、アントラセン環の2位にt-ブチル基を有する「(33)」の化合物と、同位置にフェニル基を有する「(34)」の化合物、あるいは、アントラセン環の2位と6位にフェニル基を有する「(35)」の化合物が同等に記載されているから、引用発明の39の化合物において、2位のt-ブチル基をフェニル基に代えることは容易であると主張する。
しかしながら、(2-4)に摘記した(33)?(35)の化合物と、引用発明の化合物39との共通点はアントラセン環を有するというところのみともいえ、引用発明の化合物39と摘記(2-4)の(33)?(35)の化合物の間に、それぞれの、アントラセン環の9位、10位に結合した置換基が同等であるとも、また、9位、10位の置換基は、何であっても同等である、というような技術常識はないし、また、それを示唆する証拠は何ら提出されていない。
そうしてみると、引用発明において、2位のt-ブチル基をフェニル基に代えることを当業者にとって容易であるとすることはできない。
そして、本件発明1においては、アントラセン構造の2位及び/又は6位に置換される置換基Xをフェニル基等のアリール基又は特定のシクロアルキル基とすることで、当該置換基Xの立体障害基としての効果により分子間の会合が抑制され、高発光輝度及び効率でありながら駆動電圧を低電圧化することができる上、素子寿命も長くなるという本件明細書の段落【0005】に記載される効果を奏するものといえ、これは当業者の予測しうるものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?5
本件発明2?5は、いずれも、本件発明1に特定するアントラセン誘導体又はこれを更に限定した誘導体を、その発明特定事項として包含するものであるから、本件発明1について、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない以上、本件発明2?5についても、同様に、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(3)まとめ
本件発明1?5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないから、無効理由2には理由がない。

3 無効理由3について
(I)無効理由3における「本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件の特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明」についてまず検討する。

甲第3?6号証に基づく特許法第29条の2については、「本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件の特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面」は、それぞれ「甲第3?6号証」(以下、「先願明細書」という。)であり、「に記載された発明」は、それぞれ、少なくとも、「甲第3?6号証に記載されている」、といえる。

一方、甲第7号証に基づく特許法第29条の2については、「本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件の特許出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明」とは「本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件の特許出願後に特許法第41条第3項の規定により出願公開されたものとみなされた出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明」であるところ、「本件特許出願の日前の他の特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面」とは「甲第7号証の2」(「先願明細書」である。)であり、「本件の特許出願後に特許法第41条第3項の規定により出願公開されたもの」とは「甲第7号証」であるから、「に記載された発明」とは「甲第7号証の2に記載され、かつ、甲第7号証に記載された発明」(以下、「先願発明」という。)である。

したがって、無効理由3を判断するにあたり、甲第3?6号証に関しては、本件発明1?2が甲第3?6号証に記載されているかについて判断し、甲第7号証に関しては、本件発明1?2を甲第7号証の2に記載され、かつ、甲第7号証に記載された発明と対比・判断する。

(II)対比・判断
(1)甲第3号証に記載されているかについての判断
甲第3号証には、(3-1)?(3-10)に摘記した事項が記載されているところ、甲第3号証に記載された化合物は、ベンゾイミダゾール環を有する特定の置換基が、アントラセン環に結合するものである。
しかしながら、本件発明1?2におけるアントラセン誘導体又は有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料においては、このような化合物は包含されない。
したがって、本件発明1?2は、甲第3号証に記載されていない。

(2)甲第4号証に記載されているかについての判断
甲第4号証には、(4-1)?(4-7)に摘記した事項が記載されているところ、甲第4号証に記載された化合物は、チオフェン環基が、アントラセン環に結合するものである。
しかしながら、本件発明1?2におけるアントラセン誘導体又は有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料においては、このような化合物は包含されない。
したがって、本件発明1?2は、甲第4号証に記載されていない。

(3)甲第5号証に記載されているかについての判断
甲第5号証には、(5-1)?(5-5)に摘記した事項が記載されているところ、甲第5号証に記載された化合物は、甲第5号証の【化1】で表されるように、特定の置換基が、アントラセン環に結合するものである。
しかしながら、本件発明1?2におけるアントラセン誘導体又は有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料においては、このような化合物は包含されない。
したがって、本件発明1?2は、甲第5号証に記載されていない。

(4)甲第6号証に記載されているかについての判断
甲第6号証には、(6-1)?(6-5)に摘記した事項が記載されているところ、甲第6号証に記載された化合物は、チオフェン環を有する特定の置換基が、アントラセン環に結合するものである。
しかしながら、本件発明1?2におけるアントラセン誘導体又は有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料におては、このような化合物は包含されない。
したがって、本件発明1?2は、甲第6号証に記載されていない。

(5)「甲第7号証の2に記載され、かつ、甲第7号証に記載された発明」との対比・判断
ア 化学物質発明に関する特許法第29条の2の判断に関し、「先願発明」が先願明細書等に記載されていたか否かについて、判決は次のように判示する。
「いわゆる化学物質の発明は,新規で,有用,すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから,その成立性が肯定されるためには,化学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。
そして,化学物質の発明の成立のために必要な有用性があるというためには,用途発明で必要とされるような用途についての厳密な有用性が証明されることまでは必要としないが,一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。」(平成20年(行ケ)第10483号判決)。
そこで、この判示にしたがい検討する。

イ 摘記(7の2-1)には、一般式(I)で表されるアントラセン系化合物について記載され、摘記(7の2-2)、(7の2-3)には、該アントラセン系化合物が有機電界発光素子となることが記載され、摘記(7の2-4)には、一般式(I)で表されるアントラセン系化合物の一般的な製造方法が記載され、摘記(7の2-5)には、一般式(I)が(C-3)なる構造を有することが記載され、摘記(7の2-10)にはその効果について記載されている。
ここで、一般式(I)において、置換基Ar^(1)およびAr^(2)が、「それぞれ独立して置換基を有していてもよい6員環の、芳香族炭化水素環の単環基又は2?5の縮合環基を示す」とき、本件発明における「ArおよびAr’」の定義を包含するものとなり、また、置換基R^(1)およびR^(2)が、「6員環の芳香族炭化水素環の単環基又は2?5の縮合環基を示す」とき、本件発明における「X」の定義を包含し、これが(C-3)の構造をとる場合、本件明細書の段落【0019】に示される「AN3」の化合物と同じ構造である。
そうすると、本件明細書における「AN3」の化合物は、その化学構造、製造する道筋、及びその効果について、先願明細書に記載されていたといえる。
なお、摘記していないが、先願明細書には、本件発明1のアントラセン誘導体の定義に合う化合物が、同様の表の中に多数記載されている。

ウ しかしながら、先願明細書には、本件発明1に係る化合物について、「実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できる」程度の有用性は、何ら具体的に開示されていない。
すなわち、先願明細書には、その実施例1?5として5個の化合物の合成について記載され(摘記(7の2-6)?(7の2-8))、実施例6?9として、実施例3、4で合成された化合物を用いて有機電界発光素子を作製したこと(摘記(7の2-9))が記載されているものの、これらの5個の化合物は、いずれも、本件発明1で特定される構造のアントラセン誘導体ではないうえに、実施例3、4、6?9の記載に関しては、甲第7号証に該当箇所がないため、出願公開がされたものとみなすことはできず、先願発明とはなり得ない。
そうしてみると、先願明細書には、本件発明1に係る一般式(1)で表されるアントラセン誘導体に関し、「実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できる」有用性については、記載されているとはいえない。

エ 以上のことから、先願明細書には、本件発明1である「一般式(1)で表されるアントラセン誘導体」について記載されておらず、また、本件発明2である「一般式(1)中、・・・である請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる・・・発光材料」についても、同様に記載されていない。
したがって、本件発明1?2は、先願明細書に記載された先願発明と同一とはいえない。

(6)まとめ
本件発明1?2は、甲第3?6号証に記載されていないからこれらの甲各号証に係る先願発明と同一であるとはいえず、また、特許法第41条第3項の規定により出願公開されたものとみなされた特願2001-238013号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第7号証の2)に記載された先願発明と同一であるともいえないので、無効理由3には理由がない。

4 無効理由4について
(1)無効理由4の詳細
無効理由4を詳述すると、次のとおりである。
本件明細書中の実施例には、AN1?AN4の4つの化合物に対する合成例及びこれを用いた有機EL素子の特性評価結果のみが記載されている。
これらの化合物は、本件発明1の一般式(1)においてArが2-ナフチルである場合およびAr’が2-ナフチルまたはビフェニルである場合に相当し、また、アントラセンの2位または2位と6位に関しては、シクロヘキシル基、アダマンチル基及びフェニル基の例のみである。
これ以外の化合物については、上記の実施例に基づき当業者が容易に製造することができず、かつ、そのような化合物が発光材料として本件明細書中の実施例に記載の4つの化合物と類似する特性を示すことは類推可能ではない。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合せず、また、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、同法同条第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 本件明細書の特許請求の範囲の記載について
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1?5には、上記「第3」に示したとおりの記載がされている。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がされている。
(a)「本発明は、アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、さらに詳しくは、低電圧でも発光輝度及び発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、それを実現するアントラセン誘導体及び有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料に関するものである。」(段落【0001】)

(b)「発光材料としてフェニルアントラセン誘導体を用いた素子が特開平8-012600号公報に開示されている。このようなアントラセン誘導体は青色発光材料として用いられるが、素子寿命を伸ばすように薄膜の安定性が求められていた。しかしながら、従来のモノアントラセン誘導体は結晶化し薄膜が破壊される場合が多く改善が求められていた。例えば、米国特許05935721号明細書にはジナフチルアントラセン化合物が開示されている。しかし、この化合物は、電荷注入がしにくく駆動電圧が高電圧であり、消費電力を低減する観点から駆動電圧を小さくすることが求められていた。さらに結晶化を抑制する必要があった。」(段落【0003】)

(c)「下記一般式(I)で表される特定のアントラセン構造を有する化合物を有機EL素子の発光材料として用いると、置換基Xの立体障害基としての効果により分子間の会合が抑制され、高発光輝度及び効率でありながら、駆動電圧を低電圧化することができる上、素子寿命も長いことを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0005】)

(d)「実施例1(化合物(AN1)の合成)
(1)2-シクロヘキシル-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と・・・。
得られた固体について、この化合物のFD-MS を測定したところ、C_(40)H_(34)=514に対し、m/z =514 が得られたことから、この化合物をAN1と同定した(収率67%)。」(段落【0045】?【0046】)

(e)「実施例2(化合物(AN2)の合成)
(1)2-(アダマンチル-1- イル)-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と・・・。
得られた固体について、この化合物のFD-MS を測定したところ、C_(44)H_(36)=564に対し、m/z =564 が得られたことから、この化合物をAN2と同定した(収率63%)。」(段落【0047】?【0048】)

(f)「実施例3(化合物(AN3)の合成)
(1)2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と・・・。
得られた固体について、この化合物のFD-MS はC_(46)H_(30)=582 に対し、m/z =582 が得られたことから、この化合物をAN3と同定した(収率61%)。」(段落【0049】?【0050】)

(g)「実施例4(化合物(AN4)の合成)
Ar雰囲気下、4-ブロモビフェニル1.6gを無水THF8ミリリットル、無水トルエン8 ミリリットルの混合溶媒に溶解し、ドライアイス/ メタノール浴で‐20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ ヘキサン溶液5 ミリリットル(1.6mol/ リットル、広島和光社製)を加え、-20 ℃で1 時間攪拌した。実施例3の(1)で得られた2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノン2.4gを加え、室温で4時間攪拌して室温で12時間放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で失活させ、生じた固体を濾別し、メタノールで洗浄した。
次に9-ブロモフェナンスレン2.1gを無水THF8ミリリットル、無水トルエン8 ミリリットルの混合溶媒に溶解し、ドライアイス/メタノール浴で‐20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液5 ミリリットル(1.6mol/ リットル、広島和光社製)を加え、-20 ℃で1時間攪拌した。これに上述のメタノール洗浄後、乾燥させた固体を加え、室温で4時間攪拌して室温で12時間放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で失活させ、生じた固体を濾別し、メタノールで洗浄した。この化合物をカラムクロマトグラフィーにて精製し、0.8gの淡黄色固体を得た。
得られた固体について、この化合物のFD-MS はC_(52)H_(34)=658 に対し、m/z =658 が得られたことから、この化合物をAN4と同定した(収率18%)。」(段落【0051】)

(h)「実施例5(有機EL素子の製造)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)を・・・このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し有機EL素子を製造した。
得られた有機EL素子について、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。」(段落【0052】

(i)「実施例6(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN2を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
実施例7(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN3を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
実施例8(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN4を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。」(段落【0054】)

(j)「比較例1(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりに米国特許第05935721号明細書に記載のアリールアントラセン化合物である下記化合物C1を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。」(段落【0055】)

(k)「比較例2(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりに特開平8-012600号公報に記載のアリールアントラセン化合物である下記化合物C2を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。」(段落【0056】)

(l)「

表1に示したように、実施例5?8の有機EL素子は、比較例1及び2に対して、約1Vも低電圧でありながら発光輝度及び効率が高い。
以上、詳細に説明したように、本発明のアントラセン誘導体及びそれからなる有機EL素子用発光材料を用いた有機EL素子は、低電圧でありながら高い発光輝度及び効率が得られ、有機EL素子の消費電力の低減が可能である。」(段落【0057】?【0059】)

ウ 発明の詳細な説明に記載された発明
発明の詳細な説明には、(a)に摘記したように、「低電圧でも発光輝度及び発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、それを実現するアントラセン誘導体及び有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料に関するもの」が記載されるところ、「従来のモノアントラセン誘導体は結晶化し薄膜が破壊される場合が多く改善が求められて」おり、「駆動電圧を小さくすること」や「結晶化を抑制する必要があった」(摘記(b))ことが記載されている。
そして、「特定のアントラセン構造を有する化合物を有機EL素子の発光材料として用いると、置換基Xの立体障害基としての効果により分子間の会合が抑制され」ることにより、「高発光輝度及び効率でありながら、駆動電圧を低電圧化することができる上、素子寿命も長い」(摘記(c))というのが本件発明の課題及びその解決方法といえ、より具体的には、化合物AN1?化合物AN4を合成し(摘記(d)?(g))、それを用いた有機EL素子を製造し(摘記(h)、(i))、比較例(摘記(j)、(k))とともに、輝度が1000nit 付近の電圧、及び発光効率(摘記(l))について記載されている。
そして、「置換基Xの立体障害基としての効果」なる記載からすると、アントラセン環の1位と2位、5位と6位はそれぞれ同等のものと考えられるから、発明の詳細な説明には、「アントラセン構造を有する化合物で、1位もしくは2位及び/又は5位もしくは6位に、シクロヘキシルやフェニル等の置換基Xを持った化合物を発光層に用いた有機EL素子は、1位もしくは2位及び/又は5位もしくは6位に置換基を持たないアントラセン構造を有する化合物を発光層に用いた有機EL素子に比べて、低電圧でありながら高い発光輝度及び効率が得られ、有機EL素子の消費電力の低減が可能となる」という発明が記載されているといえる。
なお、(g)に摘記した実施例4におけるAN4の合成方法では、明細書の段落【0019】に示されるAN4の構造のものは得られず、アントラセン構造の9位(又は10位)に、段落【0019】に示されるナフタレン環ではなくフェナンスレン環が結合していると考えられるが、いずれにしても、アントラセン構造の2位及び6位にフェニル基が結合しているのであり、本件発明の課題の解決には、アントラセン環の1位もしくは2位及び/又は5位もしくは6位の置換基が重要な役割を果たしているといえるから、摘記(g)とAN4の構造式との一部の不一致はここでは問わない。

エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
これらを対比すると、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明のうち、その代表的な化合物については発明の詳細な説明に記載され、請求項1に含まれる他の化合物についても、摘記(d)?(g)に示された方法で原料化合物を選択することにより製造することができ、いずれも、アントラセン環の1位もしくは2位及び/又は5位もしくは6位に、実施例で示された立体障害基と同等かそれ以上に立体障害のあるものといえるから、特許請求の範囲の請求項1に記載された程度の置換基の範囲であれば、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

オ まとめ
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合する。

(3)特許法第36条第4項について
明細書の発明の詳細な説明には、上記「(2)イ」に示したように、本件発明の課題、解決方法、具体的製造例、その効果について記載されており、具体的な製造例で挙げられた化合物以外の化合物についても、摘記(d)?(g)の方法で原料化合物を選択することにより製造することができるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえ、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものである。

(4)まとめ
以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、無効理由4には理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?4は、いずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?5の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体。
【化1】

(式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。
Arは下記の一般式
【化2】

(Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。
a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、a及びbの一方が1であり他方が0である請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料。
【請求項3】
陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層が、請求項1に記載のアントラセン誘導体からなる有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料を単独もしくは混合物の成分として含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層が、さらにアリールアミン化合物を含有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層が、さらにスチリルアミン化合物を含有する請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、さらに詳しくは、低電圧でも発光輝度及び発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子、それを実現するアントラセン誘導体及び有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下エレクトロルミネッセンスをELと略記することがある)は、電界を印加することより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。イーストマン・コダック社のC.W.Tangらによる積層型素子による低電圧駆動有機EL素子の報告(C.W.Tang,S.A.Vanslyke,アプライドフィジックスレターズ(Applied Physics Letters),51巻、913頁、1987年等)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。Tangらは、トリス(8-ヒドロキシキノリノールアルミニウム)を発光層に、トリフェニルジアミン誘導体を正孔輸送層に用いている。積層構造の利点としては、発光層への正孔の注入効率を高めること、陰極より注入された電子をブロックして再結合により生成する励起子の生成効率を高めること、発光層内で生成した励起子を閉じ込めること等が挙げられる。この例のように有機EL素子の素子構造としては、正孔輸送(注入)層、電子輸送発光層の2層型、または正孔輸送(注入)層、発光層、電子輸送(注入)層の3層型等がよく知られている。こうした積層型構造素子では注入された正孔と電子の再結合効率を高めるため、素子構造や形成方法の工夫がなされている。
【0003】
また、発光材料としてはトリス(8-キノリノラート)アルミニウム錯体等のキレート錯体、クマリン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ビススチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の発光材料が知られており、それらからは青色から赤色までの可視領域の発光が得られることが報告されており、カラー表示素子の実現が期待されている(例えば、特開平8-239655号公報、特開平7-138561号公報、特開平3-200289号公報等)。
また、発光材料としてフェニルアントラセン誘導体を用いた素子が特開平8-012600号公報に開示されている。このようなアントラセン誘導体は青色発光材料として用いられるが、素子寿命を伸ばすように薄膜の安定性が求められていた。しかしながら、従来のモノアントラセン誘導体は結晶化し薄膜が破壊される場合が多く改善が求められていた。例えば、米国特許05935721号明細書にはジナフチルアントラセン化合物が開示されている。しかし、この化合物は、電荷注入がしにくく駆動電圧が高電圧であり、消費電力を低減する観点から駆動電圧を小さくすることが求められていた。さらに結晶化を抑制する必要があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の課題を解決するためなされたもので、低電圧でありながら高い発光輝度及び効率が得られ、有機EL素子の消費電力の低減が可能な有機EL素子、それを実現するアントラセン誘導体及び有機EL素子用発光材料を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(I)で表される特定のアントラセン構造を有する化合物を有機EL素子の発光材料として用いると、置換基Xの立体障害基としての効果により分子間の会合が抑制され、高発光輝度及び効率でありながら、駆動電圧を低電圧化することができる上、素子寿命も長いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料用アントラセン誘導体、該アントラセン誘導体からなる有機EL素子を提供するものである。
【化3】

(式中、Xは、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、又はアルキル基、アリール基もしくはシクロアルキル基で置換のもしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基である。
Arは下記の一般式
【化4】

(Ar_(1)は、アリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar’はアリール基で置換のもしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。
a及びbは、それぞれ0?1の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【0007】
また、本発明は、陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、発光層が、前記アントラセン誘導体からなる有機EL素子用発光材料を単独もしくは混合物の成分として含有する有機EL素子を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のアントラセン誘導体は、上記一般式(1)で表される化合物からなるものである。
一般式(1)において、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシ基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基を表し、Xのうち少なくとも1つは、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基、置換もしくは無置換の炭素数5?50のシクロアルキル基、置換もしくは無置換の核原子数5?50の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の炭素数1?50のアラルキル基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリールチオ基である。
【0009】
一般式(1)において、a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、a+b=1?2であると好ましい。aとbが同時に0になることはなく、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0010】
Xにおけるハロゲン原子の例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。Xにおける置換もしくは無置換のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシイソブチル基、1,2-ジヒドロキシエチル基、1,3-ジヒドロキシイソプロピル基、2,3-ジヒドロキシ-t-ブチル基、1,2,3-トリヒドロキシプロピル基、クロロメチル基、1-クロロエチル基、2-クロロエチル基、2-クロロイソブチル基、1,2-ジクロロエチル基、1,3-ジクロロイソプロピル基、2,3-ジクロロ-t-ブチル基、1,2,3-トリクロロプロピル基、ブロモメチル基、1-ブロモエチル基、2-ブロモエチル基、2-ブロモイソブチル基、1,2-ジブロモエチル基、1,3-ジブロモイソプロピル基、2,3-ジブロモ-t-ブチル基、1,2,3-トリブロモプロピル基、ヨードメチル基、1-ヨードエチル基、2-ヨードエチル基、2-ヨードイソブチル基、1,2-ジヨードエチル基、1,3-ジヨードイソプロピル基、2,3-ジヨード-t-ブチル基、1,2,3-トリヨードプロピル基、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、2-アミノイソブチル基、1,2-ジアミノエチル基、1,3-ジアミノイソプロピル基、2,3-ジアミノ-t-ブチル基、1,2,3-トリアミノプロピル基、シアノメチル基、1-シアノエチル基、2-シアノエチル基、2-シアノイソブチル基、1,2-ジシアノエチル基、1,3-ジシアノイソプロピル基、2,3-ジシアノ-t-ブチル基、1,2,3-トリシアノプロピル基、ニトロメチル基、1-ニトロエチル基、2-ニトロエチル基、2-ニトロイソブチル基、1,2-ジニトロエチル基、1,3-ジニトロイソプロピル基、2,3-ジニトロ-t-ブチル基、1,2,3-トリニトロプロピル基等が挙げられる。
【0011】
Xにおける置換もしくは無置換のアリール基の例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基等が挙げられる。
Xにおける置換もしくは無置換のシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル、アダマンチル基、ノルボルニル基等が挙げられる。
【0012】
Xにおける置換もしくは無置換のアルコキシ基は、-OYで表される基であり、Yの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシイソブチル基、1,2-ジヒドロキシエチル基、1,3-ジヒドロキシイソプロピル基、2,3-ジヒドロキシ-t-ブチル基、1,2,3-トリヒドロキシプロピル基、クロロメチル基、1-クロロエチル基、2-クロロエチル基、2-クロロイソブチル基、1,2-ジクロロエチル基、1,3-ジクロロイソプロピル基、2,3-ジクロロ-t-ブチル基、1,2,3-トリクロロプロピル基、ブロモメチル基、1-ブロモエチル基、2-ブロモエチル基、2-ブロモイソブチル基、1,2-ジブロモエチル基、1,3-ジブロモイソプロピル基、2,3-ジブロモ-t-ブチル基、1,2,3-トリブロモプロピル基、ヨードメチル基、1-ヨードエチル基、2-ヨードエチル基、2-ヨードイソブチル基、1,2-ジヨードエチル基、1,3-ジヨードイソプロピル基、2,3-ジヨード-t-ブチル基、1,2,3-トリヨードプロピル基、アミノメチル基、1-アミノエチル基、2-アミノエチル基、2-アミノイソブチル基、1,2-ジアミノエチル基、1,3-ジアミノイソプロピル基、2,3-ジアミノ-t-ブチル基、1,2,3-トリアミノプロピル基、シアノメチル基、1-シアノエチル基、2-シアノエチル基、2-シアノイソブチル基、1,2-ジシアノエチル基、1,3-ジシアノイソプロピル基、2,3-ジシアノ-t-ブチル基、1,2,3-トリシアノプロピル基、ニトロメチル基、1-ニトロエチル基、2-ニトロエチル基、2-ニトロイソブチル基、1,2-ジニトロエチル基、1,3-ジニトロイソプロピル基、2,3-ジニトロ-t-ブチル基、1,2,3-トリニトロプロピル基等が挙げられる。
【0013】
Xにおける置換もしくは無置換の芳香族複素環基の例としては、1-ピロリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、ピラジニル基、2-ピリジニル基、3-ピリジニル基、4-ピリジニル基、1-インドリル基、2-インドリル基、3-インドリル基、4-インドリル基、5-インドリル基、6-インドリル基、7-インドリル基、1-イソインドリル基、2-イソインドリル基、3-イソインドリル基、4-イソインドリル基、5-イソインドリル基、6-イソインドリル基、7-イソインドリル基、2-フリル基、3-フリル基、2-ベンゾフラニル基、3-ベンゾフラニル基、4-ベンゾフラニル基、5-ベンゾフラニル基、6-ベンゾフラニル基、7-ベンゾフラニル基、1-イソベンゾフラニル基、3-イソベンゾフラニル基、4-イソベンゾフラニル基、5-イソベンゾフラニル基、6-イソベンゾフラニル基、7-イソベンゾフラニル基、キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、4-イソキノリル基、5-イソキノリル基、6-イソキノリル基、7-イソキノリル基、8-イソキノリル基、2-キノキサリニル基、5-キノキサリニル基、6-キノキサリニル基、1-カルバゾリル基、2-カルバゾリル基、3-カルバゾリル基、4-カルバゾリル基、9-カルバゾリル基、1-フェナンスリジニル基、2-フェナンスリジニル基、3-フェナンスリジニル基、4-フェナンスリジニル基、6-フェナンスリジニル基、7-フェナンスリジニル基、8-フェナンスリジニル基、9-フェナンスリジニル基、10-フェナンスリジニル基、1-アクリジニル基、2-アクリジニル基、3-アクリジニル基、4-アクリジニル基、9-アクリジニル基、1,7-フェナンスロリン-2-イル基、1,7-フェナンスロリン-3-イル基、1,7-フェナンスロリン-4-イル基、1,7-フェナンスロリン-5-イル基、1,7-フェナンスロリン-6-イル基、1,7-フェナンスロリン-8-イル基、1,7-フェナンスロリン-9-イル基、1,7-フェナンスロリン-10-イル基、1,8-フェナンスロリン-2-イル基、1,8-フェナンスロリン-3-イル基、1,8-フェナンスロリン-4-イル基、1,8-フェナンスロリン-5-イル基、1,8-フェナンスロリン-6-イル基、1,8-フェナンスロリン-7-イル基、1,8-フェナンスロリン-9-イル基、1,8-フェナンスロリン-10-イル基、1,9-フェナンスロリン-2-イル基、1,9-フェナンスロリン-3-イル基、1,9-フェナンスロリン-4-イル基、1,9-フェナンスロリン-5-イル基、1,9-フェナンスロリン-6-イル基、1,9-フェナンスロリン-7-イル基、1,9-フェナンスロリン-8-イル基、1,9-フェナンスロリン-10-イル基、1,10-フェナンスロリン-2-イル基、1,10-フェナンスロリン-3-イル基、1,10-フェナンスロリン-4-イル基、1,10-フェナンスロリン-5-イル基、2,9-フェナンスロリン-1-イル基、2,9-フェナンスロリン-3-イル基、2,9-フェナンスロリン-4-イル基、2,9-フェナンスロリン-5-イル基、2,9-フェナンスロリン-6-イル基、2,9-フェナンスロリン-7-イル基、2,9-フェナンスロリン-8-イル基、2,9-フェナンスロリン-10-イル基、2,8-フェナンスロリン-1-イル基、2,8-フェナンスロリン-3-イル基、2,8-フェナンスロリン-4-イル基、2,8-フェナンスロリン-5-イル基、2,8-フェナンスロリン-6-イル基、2,8-フェナンスロリン-7-イル基、2,8-フェナンスロリン-9-イル基、2,8-フェナンスロリン-10-イル基、2,7-フェナンスロリン-1-イル基、2,7-フェナンスロリン-3-イル基、2,7-フェナンスロリン-4-イル基、2,7-フェナンスロリン-5-イル基、2,7-フェナンスロリン-6-イル基、2,7-フェナンスロリン-8-イル基、2,7-フェナンスロリン-9-イル基、2,7-フェナンスロリン-10-イル基、1-フェナジニル基、2-フェナジニル基、1-フェノチアジニル基、2-フェノチアジニル基、3-フェノチアジニル基、4-フェノチアジニル基、10-フェノチアジニル基、1-フェノキサジニル基、2-フェノキサジニル基、3-フェノキサジニル基、4-フェノキサジニル基、10-フェノキサジニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、2-オキサジアゾリル基、5-オキサジアゾリル基、3-フラザニル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-メチルピロール-1-イル基、2-メチルピロール-3-イル基、2-メチルピロール-4-イル基、2-メチルピロール-5-イル基、3-メチルピロール-1-イル基、3-メチルピロール-2-イル基、3-メチルピロール-4-イル基、3-メチルピロール-5-イル基、2-t-ブチルピロール-4-イル基、3-(2-フェニルプロピル)ピロール-1-イル基、2-メチル-1-インドリル基、4-メチル-1-インドリル基、2-メチル-3-インドリル基、4-メチル-3-インドリル基、2-t-ブチル1-インドリル基、4-t-ブチル1-インドリル基、2-t-ブチル3-インドリル基、4-t-ブチル3-インドリル基等が挙げられる。
【0014】
Xにおける置換もしくは無置換のアラルキル基の例としては、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルイソプロピル基、2-フェニルイソプロピル基、フェニル-t-ブチル基、α-ナフチルメチル基、1-α-ナフチルエチル基、2-α-ナフチルエチル基、1-α-ナフチルイソプロピル基、2-α-ナフチルイソプロピル基、β-ナフチルメチル基、1-β-ナフチルエチル基、2-β-ナフチルエチル基、1-β-ナフチルイソプロピル基、2-β-ナフチルイソプロピル基、1-ピロリルメチル基、2-(1-ピロリル)エチル基、p-メチルベンジル基、m-メチルベンジル基、o-メチルベンジル基、p-クロロベンジル基、m-クロロベンジル基、o-クロロベンジル基、p-ブロモベンジル基、m-ブロモベンジル基、o-ブロモベンジル基、p-ヨードベンジル基、m-ヨードベンジル基、o-ヨードベンジル基、p-ヒドロキシベンジル基、m-ヒドロキシベンジル基、o-ヒドロキシベンジル基、p-アミノベンジル基、m-アミノベンジル基、o-アミノベンジル基、p-ニトロベンジル基、m-ニトロベンジル基、o-ニトロベンジル基、p-シアノベンジル基、m-シアノベンジル基、o-シアノベンジル基、1-ヒドロキシ-2-フェニルイソプロピル基、1-クロロ-2-フェニルイソプロピル基、トリチル基等が挙げられる。
【0015】
Xにおける置換もしくは無置換のアリールオキシ基は、-OZと表され、Zの例としてはフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-ナフタセニル基、2-ナフタセニル基、9-ナフタセニル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、2-ビフェニルイル基、3-ビフェニルイル基、4-ビフェニルイル基、p-ターフェニル-4-イル基、p-ターフェニル-3-イル基、p-ターフェニル-2-イル基、m-ターフェニル-4-イル基、m-ターフェニル-3-イル基、m-ターフェニル-2-イル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、p-t-ブチルフェニル基、p-(2-フェニルプロピル)フェニル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-1-ナフチル基、4-メチル-1-アントリル基、4’-メチルビフェニルイル基、4”-t-ブチル-p-ターフェニル-4-イル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、ピラジニル基、2-ピリジニル基、3-ピリジニル基、4-ピリジニル基、2-インドリル基、3-インドリル基、4-インドリル基、5-インドリル基、6-インドリル基、7-インドリル基、1-イソインドリル基、3-イソインドリル基、4-イソインドリル基、5-イソインドリル基、6-イソインドリル基、7-イソインドリル基、2-フリル基、3-フリル基、2-ベンゾフラニル基、3-ベンゾフラニル基、4-ベンゾフラニル基、5-ベンゾフラニル基、6-ベンゾフラニル基、7-ベンゾフラニル基、1-イソベンゾフラニル基、3-イソベンゾフラニル基、4-イソベンゾフラニル基、5-イソベンゾフラニル基、6-イソベンゾフラニル基、7-イソベンゾフラニル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、4-イソキノリル基、5-イソキノリル基、6-イソキノリル基、7-イソキノリル基、8-イソキノリル基、2-キノキサリニル基、5-キノキサリニル基、6-キノキサリニル基、1-カルバゾリル基、2-カルバゾリル基、3-カルバゾリル基、4-カルバゾリル基、1-フェナンスリジニル基、2-フェナンスリジニル基、3-フェナンスリジニル基、4-フェナンスリジニル基、6-フェナンスリジニル基、7-フェナンスリジニル基、8-フェナンスリジニル基、9-フェナンスリジニル基、10-フェナンスリジニル基、1-アクリジニル基、2-アクリジニル基、3-アクリジニル基、4-アクリジニル基、9-アクリジニル基、1,7-フェナンスロリン-2-イル基、1,7-フェナンスロリン-3-イル基、1,7-フェナンスロリン-4-イル基、1,7-フェナンスロリン-5-イル基、1,7-フェナンスロリン-6-イル基、1,7-フェナンスロリン-8-イル基、1,7-フェナンスロリン-9-イル基、1,7-フェナンスロリン-10-イル基、1,8-フェナンスロリン-2-イル基、1,8-フェナンスロリン-3-イル基、1,8-フェナンスロリン-4-イル基、1,8-フェナンスロリン-5-イル基、1,8-フェナンスロリン-6-イル基、1,8-フェナンスロリン-7-イル基、1,8-フェナンスロリン-9-イル基、1,8-フェナンスロリン-10-イル基、1,9-フェナンスロリン-2-イル基、1,9-フェナンスロリン-3-イル基、1,9-フェナンスロリン-4-イル基、1,9-フェナンスロリン-5-イル基、1,9-フェナンスロリン-6-イル基、1,9-フェナンスロリン-7-イル基、1,9-フェナンスロリン-8-イル基、1,9-フェナンスロリン-10-イル基、1,10-フェナンスロリン-2-イル基、1,10-フェナンスロリン-3-イル基、1,10-フェナンスロリン-4-イル基、1,10-フェナンスロリン-5-イル基、2,9-フェナンスロリン-1-イル基、2,9-フェナンスロリン-3-イル基、2,9-フェナンスロリン-4-イル基、2,9-フェナンスロリン-5-イル基、2,9-フェナンスロリン-6-イル基、2,9-フェナンスロリン-7-イル基、2,9-フェナンスロリン-8-イル基、2,9-フェナンスロリン-10-イル基、2,8-フェナンスロリン-1-イル基、2,8-フェナンスロリン-3-イル基、2,8-フェナンスロリン-4-イル基、2,8-フェナンスロリン-5-イル基、2,8-フェナンスロリン-6-イル基、2,8-フェナンスロリン-7-イル基、2,8-フェナンスロリン-9-イル基、2,8-フェナンスロリン-10-イル基、2,7-フェナンスロリン-1-イル基、2,7-フェナンスロリン-3-イル基、2,7-フェナンスロリン-4-イル基、2,7-フェナンスロリン-5-イル基、2,7-フェナンスロリン-6-イル基、2,7-フェナンスロリン-8-イル基、2,7-フェナンスロリン-9-イル基、2,7-フェナンスロリン-10-イル基、1-フェナジニル基、2-フェナジニル基、1-フェノチアジニル基、2-フェノチアジニル基、3-フェノチアジニル基、4-フェノチアジニル基、1-フェノキサジニル基、2-フェノキサジニル基、3-フェノキサジニル基、4-フェノキサジニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、2-オキサジアゾリル基、5-オキサジアゾリル基、3-フラザニル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-メチルピロール-1-イル基、2-メチルピロール-3-イル基、2-メチルピロール-4-イル基、2-メチルピロール-5-イル基、3-メチルピロール-1-イル基、3-メチルピロール-2-イル基、3-メチルピロール-4-イル基、3-メチルピロール-5-イル基、2-t-ブチルピロール-4-イル基、3-(2-フェニルプロピル)ピロール-1-イル基、2-メチル-1-インドリル基、4-メチル-1-インドリル基、2-メチル-3-インドリル基、4-メチル-3-インドリル基、2-t-ブチル1-インドリル基、4-t-ブチル1-インドリル基、2-t-ブチル3-インドリル基、4-t-ブチル3-インドリル基等が挙げられる。
【0016】
Xにおける置換もしくは無置換のアリールチオ基は、-SZと表され、Zの例としては前記アリールオキシ基のZと同様のものが挙げられる。
Xにおける置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基は-COOYと表され、Yの例としては、前記アルコキシ基におけるYと同様のものが挙げられる。
【0017】
一般式(1)において、Arは下記の一般式
【化5】

(Ar_(1)は、置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。)
から選ばれる基であり、アルコキシ基、アルキル基、フェニル基、アルキルフェニル基で置換されていてもよい。Ar_(1)のアリール基としては、前述したXにおけるアリール基と同様のものが挙げられる。
一般式(1)において、Ar’は置換もしくは無置換の核炭素数6?50のアリール基である。Ar’のアリール基の具体例としては、前述したXにおけるアリール基と同様のものが挙げられる。
一般式(1)において、a及びbは、それぞれ0?4の整数であり、aとbが同時に0になることはない。また、Xが複数ある場合は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0018】
前記X、Ar及びAr’が示す基における置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、芳香族複素環基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシル基などが挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(1)で表される有機EL素子用発光材料の具体例を以下に示すが、これら例示化合物に限定されるものではない。なお、Meはメチル基を示す。
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
本発明の有機EL素子用発光材料は、前記一般式(1)で表されるアントラセン誘導体からなる。
本発明の有機EL素子は、陰極と陽極間に少なくとも発光層を含む一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、前記有機EL素子用発光材料を単独もしくは混合物の成分として含有する。
【0026】
また、本発明の有機EL素子は、前記発光層が、さらにアリールアミン化合物及び/又はスチリルアミン化合物を含有すると好ましい。
スチリルアミン化合物としては、下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【化12】

【0027】
(式中、Ar_(2)は、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、スチルベン基、ジスチリルアリール基から選ばれる基であり、Ar_(3)及びAr_(4)は、それぞれ水素原子又は炭素数が6?20の芳香族基であり、Ar_(2)、Ar_(3)及びAr_(4)は置換されいてもよい。mは1?4の整数である。さらに好ましくはAr_(3)又はAr_(4)の少なくとも一方はスチリル基で置換されている。)
ここで、炭素数が6?20の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ターフェニル基等が挙げられる。
【0028】
アリールアミン化合物としては、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
【化13】

(式中、Ar_(5)?Ar_(7)は、置換もしくは無置換の核炭素数5?40のアリール基である。pは1?4の整数である。)
【0029】
ここで、核炭素数が5?40のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ピレニル基、コロニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ピローリル基、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、オキサジアゾリル基、ジフェニルアントラニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピリジル基、ベンゾキノリル基、フルオランテニル基、アセナフトフルオランテニル基、スチルベン基等が挙げられる。なお、このアリール基の好ましい置換基としては、炭素数1?6のアルキル基(エチル基、メチル基、i-プロピル基、n-プロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、炭素数1?6のアルコキシ基(エトキシ基、メトキシ基、i-プロポキシ基、n-プロポキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、核原子数5?40のアリール基、核原子数5?40のアリール基で置換されたアミノ基、核原子数5?40のアリール基を有するエステル基、炭素数1?6のアルキル基を有するエステル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0030】
以下、本発明の有機EL素子の素子構成について説明する。
本発明の有機EL素子の代表的な素子構成としては、
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(3)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/有機半導体層/発光層/陰極
(6)陽極/有機半導体層/電子障壁層/発光層/陰極
(7)陽極/有機半導体層/発光層/付着改善層/陰極
(8)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(9)陽極/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(10)陽極/無機半導体層/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(11)陽極/有機半導体層/絶縁層/発光層/絶縁層/陰極
(12)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/絶縁層/陰極
(13)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
などの構造を挙げることができる。
これらの中で通常(8)の構成が好ましく用いられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
この有機EL素子は、通常透光性の基板上に作製する。この透光性基板は有機EL素子を支持する基板であり、その透光性については、400?700nmの可視領域の光の透過率が50%以上であるものが望ましく、さらに平滑な基板を用いるのが好ましい。
【0031】
このような透光性基板としては、例えば、ガラス板、合成樹脂板などが好適に用いられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英などで成形された板が挙げられる。また、合成樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂などの板か挙げられる。
次に、上記の陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Auなどの金属,CuI,ITO(インジウムチンオキシド),SnO_(2),ZnO,In-Zn-Oなどの導電性材料が挙げられる。この陽極を形成するには、これらの電極物質を、蒸着法やスパッタリング法等の方法で薄膜を形成させることができる。この陽極は、上記発光層からの発光を陽極から取り出す場合、陽極の発光に対する透過率が10%より大きくなるような特性を有していることが望ましい。また、陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下のものが好ましい。さらに、陽極の膜厚は、材料にもよるが通常10nm?1μm、好ましくは10?200nmの範囲で選択される。
【0032】
次に、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム,ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム,リチウム,マグネシウム・銀合金,アルミニウム/酸化アルミニウム,Al/Li_(2)O,Al/LiO_(2),Al/LiF,アルミニウム・リチウム合金,インジウム,希土類金属などが挙げられる。
この陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
ここで、発光層からの発光を陰極から取り出す場合、陰極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、さらに、膜厚は通常10nm?1μm、好ましくは50?200nmである。
【0033】
本発明の有機EL素子においては、このようにして作製された一対の電極の少なくとも一方の表面に、カルコゲナイド層,ハロゲン化金属層又は金属酸化物層(以下、これらを表面層ということがある。)を配置するのが好ましい。具体的には、発光層側の陽極表面にケイ素やアルミニウムなどの金属のカルコゲナイド(酸化物を含む)層を、また、発光層側の陰極表面にハロゲン化金属層又は金属酸化物層を配置するのがよい。これにより、駆動の安定化を図ることができる。
【0034】
上記カルコゲナイドとしては、例えばSiOx(1≦X≦2),AlOx(1≦X≦1.5),SiON,SiAlONなどが好ましく挙げられ、ハロゲン化金属としては、例えばLiF,MgF_(2),CaF_(2),フッ化希土類金属などが好ましく挙げられ、金属酸化物としては、例えばCs_(2)O,Li_(2)O,MgO,SrO,BaO,CaOなどが好ましく挙げられる。
【0035】
さらに、本発明の有機EL素子においては、このようにして作製された一対の電極の少なくとも一方の表面に電子伝達化合物と還元性ドーパントの混合領域又は正孔伝達化合物と酸化性ドーパントの混合領域を配置するのも好ましい。このようにすると、電子伝達化合物が還元され、アニオンとなり混合領域がより発光層に電子を注入、伝達しやすくなる。また、正孔伝達化合物は酸化され、カチオンとなり混合領域がより発光層に正孔を注入、伝達しやすくなる。好ましい酸化性ドーパントとしては、各種ルイス酸やアクセプター化合物がある。好ましい還元性ドーパントとしては、アルカリ金属,アルカリ金属化合物,アルカリ土類金属,希土類金属及びこれらの化合物がある。
本発明の有機EL素子においては、発光層は、
(a)注入機能;電界印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能
(b)輸送機能;注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能
(c)発光機能;電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能
を有する。
【0036】
この発光層を形成する方法としては、例えば蒸着法、スピンコート法、LB法等の公知の方法を適用することができる。発光層は、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで分子堆積膜とは、気相状態の材料化合物から沈着され形成された薄膜や、溶液状態または液相状態の材料化合物から固体化され形成された膜のことであり、通常この分子堆積膜は、LB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区分することができる。
また特開昭57-51781号公報に開示されているように、樹脂等の結着剤と材料化合物とを溶剤に溶かして溶液とした後、これをスピンコート法等により薄膜化することによっても、発光層を形成することができる。
【0037】
本発明においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、発光層に、本発明の発光材料以外の他の公知の発光材料を含有させてもよく、また、本発明の発光材料を含む発光層に、他の公知の発光材料を含む発光層を積層してもよい。
次に、正孔注入・輸送層は、発光層への正孔注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい。このような正孔注入・輸送層としてはより低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、さらに正孔の移動度が、例えば10^(4)?10^(6)V/cmの電界印加時に、少なくとも10^(-6)cm^(2)/V・秒であるものが好ましい。このような材料としては、従来、光導伝材料において正孔の電荷輸送材料として慣用されているものや、有機EL素子の正孔注入層に使用されている公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
そして、この正孔注入・輸送層を形成するには、正孔注入・輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の公知の方法により薄膜化すればよい。この場合、正孔注入・輸送層としての膜厚は、特に制限はないが、通常は5nm?5μmである。
【0038】
次に、電子注入層・輸送層は、発光層への電子の注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、電子移動度が大きく、また付着改善層は、この電子注入層の中で特に陰極との付着が良い材料からなる層である。電子注入層に用いられる材料としては、8-ヒドロキシキノリンまたはその誘導体の金属錯体が好適である。上記8-ヒドロキシキノリンまたはその誘導体の金属錯体の具体例としては、オキシン(一般に8-キノリノール又は8-ヒドロキシキノリン)のキレートを含む金属キレートオキシノイド化合物、例えばトリス(8-キノリノール)アルミニウムを電子注入材料として用いることができる。
【0039】
また、一般に、超薄膜に電界を印可するために、リークやショートによる画素欠陥が生じやすい。これを防止するために、一対の電極間に絶縁性の薄膜層を挿入しても良い。
絶縁層に用いられる材料としては、例えば、酸化アルミニウム、弗化リチウム、酸化リチウム、弗化セシウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、弗化マグネシウム、酸化カルシウム、弗化カルシウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの混合物や積層物を用いてもよい。
【0040】
次に、本発明の有機EL素子を作製する方法については、例えば上記の材料及び方法により陽極、発光層、必要に応じて正孔注入層、及び必要に応じて電子注入層を形成し、最後に陰極を形成すればよい。また、陰極から陽極へ、前記と逆の順序で有機EL素子を作製することもできる。
【0041】
以下、透光性基板上に、陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極が順次設けられた構成の有機EL素子の作製例について説明する。
まず、適当な透光性基板上に、陽極材料からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10?200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着法あるいはスパッタリング法により形成し、陽極とする。次に、この陽極上に正孔注入層を設ける。正孔注入層の形成は、前述したように真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の方法により行うことができるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法により正孔注入層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物(正孔注入層の材料)、目的とする正孔注入層の結晶構造や再結合構造等により異なるが、一般に蒸着源温度50?450℃、真空度10^(-7)?10^(-3)torr、蒸着速度0.01?50nm/秒、基板温度-50?300℃、膜厚5nm?5μmの範囲で適宜選択することが好ましい。
【0042】
次に、この正孔注入層上に発光層を設ける。この発光層の形成も、本発明に係る発光材料を用いて真空蒸着法、スパッタリング、スピンコート法、キャスト法等の方法により、発光材料を薄膜化することにより形成できるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法により発光層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物により異なるが、一般的に正孔注入層の形成と同様な条件範囲の中から選択することができる。膜厚は10?40nmの範囲が好ましい。
【0043】
次に、この発光層上に電子注入層を設ける。この場合にも正孔注入層、発光層と同様、均質な膜を得る必要から真空蒸着法により形成することが好ましい。蒸着条件は正孔注入層、発光層と同様の条件範囲から選択することができる。
そして、最後に陰極を積層して有機EL素子を得ることができる。陰極は金属から構成されるもので、蒸着法、スパッタリングを用いることができる。しかし、下地の有機物層を製膜時の損傷から守るためには真空蒸着法が好ましい。
以上の有機EL素子の作製は、一回の真空引きで、一貫して陽極から陰極まで作製することが好ましい。
【0044】
この有機EL素子に直流電圧を印加する場合、陽極を+、陰極を-の極性にして、3?40Vの電圧を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れず、発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加した場合には、陽極が+、陰極が-の極性になった時のみ均一な発光が観測される。この場合、印加する交流の波形は任意でよい。
【0045】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1(化合物(AN1)の合成)
(1)2-シクロヘキシル-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と炭酸ナトリウム243gと水1.3リットルを3リットルのフラスコに入れ、60℃まで加熱し溶解した。溶解後室温まで冷却し、シクロヘキシルボロン酸90gと酢酸パラジウム3.9g(東京化成社製)を加え攪拌した。その後室温にて12時間反応した。
反応後水を追加、加熱し、析出晶を溶解し、触媒を濾別し、濃塩酸にて酸出させ、析出晶を濾取、水洗した。これを酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮乾燥させた。
これを無水酢酸500ミリリットル(広島和光社製)に入れ、80℃にて3時間反応させ、その後減圧下で無水酢酸を留去し、乾固させ酸無水物を得た。
次にベンゼン50ミリリットル(広島和光社製)を1,2-ジクロロエタン670ミリリットルに溶解し、無水塩化アルミニウム162.7gを加え若干冷却した。
これに前記酸無水物を発熱に注意しながら添加し、40℃にて2時間反応後、氷水に注加し、クロロホルムで抽出し、水洗した。これを無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、ヘキサンを加え、析出物を濾取した。
次にポリりん酸2リットルを150℃に加熱し、攪拌下、上述の析出物を少量ずつ添加し、同温で3時間攪拌した。
反応液を氷中に注加し、析出晶を濾取、水洗後、クロロホルムに溶解し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、カラム精製した。
目的留分を濃縮し、ヘキサンを加え、析出した結晶73gを濾取した。
得られた結晶について、この化合物のFD-MS(フィールドディソープションマス分析)を測定したところ、C_(20)H_(20)O_(2)=292に対し、m/z=292が得られたことから、2-シクロヘキシル-9,10-アントラキノンと同定した(収率44%)。
【0046】
(2)化合物(AN1)の合成
Ar雰囲気下、2-ブロモナフタレン8g(アルドリッチ社製)を無水THF50ミリリットル、無水トルエン50ミリリットルの混合溶媒に溶かし、ドライアイス/メタノール浴で-20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液24ミリリットル(1.6mol/リットル)を加え、-20℃で1時間攪拌した。これに(1)で得られた2-シクロヘキシル-9,10-アントラキノン4.0gを加え、室温で7時間攪拌して一晩放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液50ミリリットルで失活させ、有機層を分取し、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒留去して淡黄色オイルを得た。これをカラムクロマトグラフィで精製して淡褐色アモルファス固体を得た。
Ar雰囲気下、これを酢酸70ミリリットルに溶かし、沃化カリウム8.5g(広島和光社製)を加えて3時間還流した。反応混合物を50%ホスフィン酸水溶液50ミリリットルで失活させ、生じた固体を濾別、水、メタノール、アセトンで洗浄して淡黄色固体を得た。これを沸騰トルエン50ミリリットルに懸濁させ、放冷後、濾別、乾燥して淡黄色固体4.7gを得た。
得られた固体について、この化合物のFD-MSを測定したところ、C_(40)H_(34)=514に対し、m/z=514が得られたことから、この化合物をAN1と同定した(収率67%)。
【0047】
実施例2(化合物(AN2)の合成)
(1)2-(アダマンチル-1-イル)-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と炭酸ナトリウム243gと水1.3リットルを3リットルのフラスコに入れ、60℃まで加熱し溶解した。溶解後室温まで冷却し、1-アダマンチルボロン酸126gと酢酸パラジウム3.9g(東京化成社製)を加え攪拌した。その後室温にて12時間反応した。
反応後水を追加、加熱し、析出晶を溶解し、触媒を濾別し、濃塩酸にて酸出させ、析出晶を濾取、水洗した。これを酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮乾燥させた。
これを無水酢酸500ミリリットル(広島和光社製)に入れ、80℃にて3時間反応させ、その後減圧下で無水酢酸を留去し、乾固させ酸無水物を得た。
次にベンゼン50ミリリットル(広島和光社製)を1,2-ジクロロエタン670ミリリットルに溶解し、無水塩化アルミニウム162.7gを加え若干冷却した。
これに前記酸無水物を発熱に注意しながら添加し、40℃にて2時間反応後、氷水に注加し、クロロホルムで抽出し、水洗した。これを無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、ヘキサンを加え、析出物を濾取した。
次にポリりん酸2リットルを150℃に加熱し、攪拌下、上述の析出物を少量ずつ添加し、同温で3時間攪拌した。
反応液を氷中に注加し、析出晶を濾取、水洗後、クロロホルムに溶解し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、カラム精製した。
目的留分を濃縮し、ヘキサンを加え、析出した結晶90gを濾取した。
得られた結晶について、この化合物のFD-MSを測定したところ、C_(24)H_(22)O_(2)=342に対し、m/z=342が得られたことから、2-(アダマンチル-1-イル)-9,10-アントラキノンと同定した(収率46%)。
【0048】
(2)化合物(AN2)の合成
Ar雰囲気下、2-ブロモナフタレン8g(アルドリッチ社製)を無水THF50ミリリットル、無水トルエン50ミリリットルの混合溶媒に溶かし、ドライアイス/メタノール浴で-20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液24ミリリットル(1.6mol/リットル)を加え、-20℃で1時間攪拌した。これに(1)で得られた2-(アダマンチル-1-イル)-9,10-アントラキノン4.8gを加え、室温で7時間攪拌して一晩放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液50ミリリットルで失活させ、有機層を分取し、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒留去して淡黄色オイルを得た。これをカラムクロマトグラフィで精製して淡褐色アモルファス固体を得た。
Ar雰囲気下、これを酢酸70ミリリットルに溶かし、沃化カリウム8.5g(広島和光社製)を加えて3時間還流した。反応混合物を50%ホスフィン酸水溶液50ミリリットルで失活させ、生じた固体を濾別、水、メタノール、アセトンで洗浄して淡黄色固体を得た。
これを沸騰トルエン50ミリリットルに懸濁させ、放冷後、濾別、乾燥して淡黄色固体5.0gを得た。
得られた固体について、この化合物のFD-MSを測定したところ、C_(44)H_(36)=564に対し、m/z=564が得られたことから、この化合物をAN2と同定した(収率63%)。
【0049】
実施例3(化合物(AN3)の合成)
(1)2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノンの合成
4-ブロモフタル酸無水物130g(東京化成社製)と炭酸ナトリウム243gと水1.3リットルを3リットルのフラスコに入れ、60℃まで加熱し溶解した。溶解後室温まで冷却し、フェニルボロン酸84.5g(東京化成社製)と酢酸パラジウム3.9g(東京化成社製)を加え攪拌した。その後室温にて12時間反応した。
反応後水を追加、加熱し、析出晶を溶解し、触媒を濾別し、濃塩酸にて酸出させ、析出晶を濾取、水洗した。これを酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮乾燥させ、145gの固体を得た。
これを無水酢酸500ミリリットル(広島和光社製)に入れ、80℃にて3時間反応させ、その後減圧下で無水酢酸を留去し、乾固させ135gの酸無水物を得た。
次にビフェニル85.3g(広島和光社製)を1,2-ジクロロエタン670ミリリットルに溶解し、無水塩化アルミニウム162.7gを加え若干冷却した。
これに前記酸無水物124gを発熱に注意しながら添加し、40℃にて2時間反応後、氷水に注加し、クロロホルムで抽出し、水洗した。これを無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮し、ヘキサンを加え、析出物を濾取した。
次にポリりん酸2リットルを150℃に加熱し、攪拌下、上述の析出物を少量ずつ添加し、同温で3時間攪拌した。
反応液を氷中に注加し、析出晶を濾取、水洗後、クロロホルムに溶解し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、カラム精製した。
目的留分を濃縮し、ヘキサンを加え、析出した結晶98.7gを濾取した。
得られた結晶について、この化合物のFD-MSはC_(26)H_(16)O_(2)=360に対し、m/z=360が得られたことから、この化合物を2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノンと同定した(収率48%)。
【0050】
(2)化合物(AN3)の合成
Ar雰囲気下、2-ブロモナフタレン8g(アルドリッチ社製)を無水THF50ミリリットル、無水トルエン50ミリリットルの混合溶媒に溶かし、ドライアイス/メタノール浴で-20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液24ミリリットル(1.6mol/リットル)を加え、-20℃で1時間攪拌した。これに(1)で得られた2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノン5.0gを加え、室温で7時間攪拌して一晩放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液50ミリリットルで失活させ、有機層を分取し、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒留去して淡黄色オイルを得た。
これをカラムクロマトグラフィで精製して淡褐色アモルファス固体を得た。
Ar雰囲気下、これを酢酸70ミリリットルに溶かし、沃化カリウム8.5g(広島和光社製)を加えて3時間還流した。反応混合物を50%ホスフィン酸水溶液50ミリリットルで失活させ、生じた固体を濾別、水、メタノール、アセトンで洗浄して淡黄色固体を得た。
これを沸騰トルエン50ミリリットルに懸濁させ、放冷後、濾別、乾燥して淡黄色固体4.9gを得た。
得られた固体について、この化合物のFD-MSはC_(46)H_(30)=582に対し、m/z=582が得られたことから、この化合物をAN3と同定した(収率61%)。
【0051】
実施例4(化合物(AN4)の合成)
Ar雰囲気下、4-ブロモビフェニル1.6gを無水THF8ミリリットル、無水トルエン8ミリリットルの混合溶媒に溶解し、ドライアイス/メタノール浴で-20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液5ミリリットル(1.6mol/リットル、広島和光社製)を加え、-20℃で1時間攪拌した。実施例3の(1)で得られた2,6-ジフェニル-9,10-アントラキノン2.4gを加え、室温で4時間攪拌して室温で12時間放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で失活させ、生じた固体を濾別し、メタノールで洗浄した。
次に9-ブロモフェナンスレン2.1gを無水THF8ミリリットル、無水トルエン8ミリリットルの混合溶媒に溶解し、ドライアイス/メタノール浴で-20℃に冷却した。これにn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液5ミリリットル(1.6mol/リットル、広島和光社製)を加え、-20℃で1時間攪拌した。これに上述のメタノール洗浄後、乾燥させた固体を加え、室温で4時間攪拌して室温で12時間放置した。
反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液で失活させ、生じた固体を濾別し、メタノールで洗浄した。この化合物をカラムクロマトグラフィーにて精製し、0.8gの淡黄色固体を得た。
得られた固体について、この化合物のFD-MSはC_(52)H_(34)=658に対し、m/z=658が得られたことから、この化合物をAN4と同定した(収率18%)。
【0052】
実施例5(有機EL素子の製造)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に前記透明電極を覆うようにして膜厚60nmの下記N,N’-ビス(N,N’-ジフェニル-4-アミノフェニル)-N,N-ジフェニル-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル膜(以下、TPD232膜)を成膜した。このTPD232膜は、正孔注入層として機能する。続いて、このTPD232膜上に膜厚20nmの下記N,N,N’,N’-テトラ(4-ビフェニル)-ジアミノビフェニレン膜(以下、TBDB膜)を成膜した。この膜は正孔輸送層として機能する。さらにTBDB膜上に、発光材料として膜厚40nmの化合物(AN1)を蒸着し成膜した。同時に発光分子として、下記のスチリル基を有する下記アミン化合物D1をAN1に対し、重量比でAN1:D1=40:2で蒸着した。この膜は、発光層として機能する。この膜上に膜厚10nmのAlq膜を成膜した。これは、電子注入層として機能する。この後、還元性ドーパントであるLi(Li源:サエスゲッター社製)とAlqを二元蒸着させ、電子注入層(陰極)としてAlq:Li膜(膜厚10nm)を形成した。このAlq:Li膜上に金属Alを蒸着させ金属陰極を形成し有機EL素子を製造した。
得られた有機EL素子について、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
【化14】

【0054】
実施例6(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN2を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
実施例7(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN3を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
実施例8(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりにAN4を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
比較例1(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりに米国特許第05935721号明細書に記載のアリールアントラセン化合物である下記化合物C1を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
【化15】

【0056】
比較例2(有機EL素子の製造)
実施例5において、発光材料として、AN1の代わりに特開平8-012600号公報に記載のアリールアントラセン化合物である下記化合物C2を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を製造し、輝度が1000nit付近の電圧、及び発光効率を測定した。その結果を表1に示す。
【化16】

【0057】
【表1】

【0058】
表1に示したように、実施例5?8の有機EL素子は、比較例1及び2に対して、約1Vも低電圧でありながら発光輝度及び効率が高い。
【0059】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明のアントラセン誘導体及びそれからなる有機EL素子用発光材料を用いた有機EL素子は、低電圧でありながら高い発光輝度及び効率が得られ、有機EL素子の消費電力の低減が可能である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-12-25 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-18 
出願番号 特願2002-222990(P2002-222990)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (C07C)
P 1 113・ 536- YA (C07C)
P 1 113・ 121- YA (C07C)
P 1 113・ 161- YA (C07C)
P 1 113・ 113- YA (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
松本 直子
登録日 2007-10-12 
登録番号 特許第4025136号(P4025136)
発明の名称 アントラセン誘導体、有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料及び有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 大谷 保  
代理人 土田 美隆  
代理人 東平 正道  
代理人 土田 美隆  
代理人 原 茂樹  
代理人 原 茂樹  
代理人 大谷 保  
代理人 東平 正道  
代理人 伊藤 高志  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 伊藤 高志  

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