• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1214877
審判番号 不服2008-28469  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-06 
確定日 2010-04-08 
事件の表示 特願2005-215736「インバータ一体型回転電機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日出願公開、特開2007- 37262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年7月26日の出願であって、平成20年10月3日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年11月20日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年11月20日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由1]
(1-1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「回転軸に固定された冷却ファンを有してハウジングの一端壁から冷却空気流を吸入する回転電機と、前記ハウジングの前記一端壁の軸方向外側に位置して前記ハウジングに固定されるインバータ装置を有し、
前記インバータ装置は、少なくとも、入力直流電力を交流電力に変換して前記回転電機のステータコイルに給電するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、前記スイッチング素子及び制御回路を囲覆して収容するとともに前記スイッチング素子及び制御回路を接続する配線を収容するヒートシンクケースと、前記ヒートシンクケースを一体に固定、収容するインバータケースとを備え、
前記ヒートシンクケースは、略径方向に延設される輪板状の底板部と、前記底板部から前記回転軸を囲繞するカバーに対して所定スペースを確保しつつ前記ハウジングの一端壁に向けて一体に延設され、その外側表面から略径方向中心に向けて突出する内周冷却フィンを有する小径筒状の内周側板部と、前記底板部から前記ハウジングの前記一端壁に向けて一体に延設され、その外側表面から略径方向外側に向けて突出する外周冷却フィンを有する大径筒状の外周側板部と、前記ハウジングの前記一端壁に向けて開口するリング状の開口部とを有し、これら前記底板部と前記内周側板部と前記外周側板部は冷却用ヒートシンクとしての良熱伝導金属材から成るとともに、前記外周側板部と前記インバータケースとの間の外周冷却空気流通路と、前記カバーと前記内周側板部との間の内周冷却空気流通路とを構成し、
前記インバータケースの端壁に形成された冷却空気流吸入孔から導入された冷却空気流は、前記外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、前記内周冷却フィン及び外周冷却フィンを冷却しつつ軸方向へ流れた後、前記ハウジング内へ流入することを特徴とするインバータ一体型回転電機。」
と補正された。

(1-2)補正事項の検討
本件補正は、少なくとも補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「冷却空気流は、直接、前記外周冷却空気流通路及び内周冷却空気流通路のそれぞれに沿って軸方向へ流れた後」との構成から、「直接」軸方向へ流れる構成を削除するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前特許法」という。」)第17条の2第4項各号に掲げるいずれの目的にも該当しない。

(1-3)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない

[理由2]
(2-1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、上記「(1-1)補正後の本願の発明」のとおり補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ヒートシンクケース」を「その外側表面から略径方向中心に向けて突出する内周冷却フィンを有する」小径筒状の内周側板部と、「その外側表面から略径方向外側に向けて突出する外周冷却フィンを有する」大径筒状の外周側板部と」を有するヒートシンクに限定すると共に、「冷却空気流」を「外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、前記内周冷却フィン及び外周冷却フィンを冷却しつつ」軸方向へ流れる冷却空気流に限定する補正を含むものであるから、改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、以下検討を進める。

本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2-2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-274992号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項1】
回転軸に固定された冷却ファンを有してモータハウジングの一端壁から冷却空気流を吸入する交流モータと、前記モータハウジングの前記一端壁の軸方向外側に位置して前記モータハウジングに固定される制御装置と、前記制御装置を囲覆するカバーとを有し、前記制御装置は、入力直流電力を交流電力に変換して前記交流モータのステータコイルに給電するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、前記スイッチング素子及び制御回路を囲覆して収容するとともに前記スイッチング素子及び制御回路を接続する配線を収容するインバータケースとを備え、
前記インバータケースは、略径方向に延設されるとともに前記各スイッチング素子及び前記制御回路が固定される輪板状の底板部と、前記底板部から前記回転軸に対して所定スペースを確保しつつ前記モータハウジングの端壁に向けて突出する小径筒状の内周壁部と、前記底板部から前記モータハウジングの前記一端壁に向けて突出する大径筒状の外周壁部と、前記モータハウジングの前記一端壁に向けて開口するリング状の開口部とを有するとともに、樹脂部とこの樹脂部に固定されて前記底板部と前記カバーとの間の冷却空気流通路に露出する素子冷却用のヒートシンクとしての金属板部とを有し、
前記金属板部は、前記カバーの端壁の空気吸入孔から前記インバータケースと前記カバーの端壁との間の冷却空気流通路に導入された冷却空気流を径方向へ偏向させ、
前記冷却空気流は、前記径方向への偏向の後、前記外周壁部又は内周壁部の外表面に沿って軸方向へ流れた後、前記モータハウジングへ流入することを特徴とするインバータ一体型交流モータ。」

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ一体型車両用交流モータに関する。」

・「【0013】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、インバータのスイッチング素子等を良好に電気的、機械的に保護しつつ、スイッチング素子の冷却性を確保しながら、その小型化を実現可能なインバータ一体型車両用交流モータを提供することをその目的としている。」

・「【0091】
本発明のインバータ一体型交流モータの好適な実施態様を図面を参照して以下に説明する。
(実施例1)
本発明を具現化した好適態様を以下に説明する。
【0092】
(全体構成)
図1において、1は車両用界磁コイル型同期モータであって、2はステータ、3はロータ、4はモータハウジング、5はプーリ、6はブラシ、7は制御装置(制御部)、8は樹脂カバーである。
【0093】
モータハウジング4の周壁内周面には、ステータコイル21が巻装されたステータコア22からなるステータ2が固定されている。23はステータコイル21を覆う絶縁カバーである。ステータ2の径方向内側にはロータ3が収容され、ロータ3は、モータハウジング4の両端壁に回転自在に支持されてプーリ5が一端側に固定された回転軸31と、回転軸31に嵌着、固定されたランデル型のロータコア32、その端面に固定された遠心ファン33、それに巻装された界磁コイル34からなる。
【0094】
モータハウジング4の周壁両側には冷却空気流吹き出し孔41が、その両端壁には冷却空気流吸入孔42が形成されている。冷却空気流吸入孔42から吸入された冷却空気流(風)は、両遠心ファン33により付勢されてステータコイル21のコイルエンドを冷却して冷却空気流吹き出し孔41から外部に吹き出される。
【0095】
モータハウジング4の後端壁から突出する回転軸31の他端側には一対のスリップリングが設けられ、これらスリップリングに接して一対のブラシ6が樹脂製のブラシホルダ60(図4参照)に収容されている。
【0096】
上記したランデル型回転電機自体の構造と動作は既に周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0097】
(制御装置7)
次に、この実施例の特徴をなす制御装置7について説明する。
【0098】
制御装置7は、バスバーを樹脂インサート成形して構成された成形体(バスバーアセンブリ)からなるドーナツ形状のインバータケース70を有している。71はその輪盤状の底板部、72aは底板部71の外周縁からモータハウジング4側に突出するリング状の外周壁部、72bは底板部71の内周縁からモータハウジング4側に突出するリング状の内周壁部であり、インバータケース70は、これら底板部71、外周壁部72a、内周壁部72bからなる。
【0099】
73はインバータ回路のスイッチング素子であり、図1では図示しない制御用ICや界磁電流制御トランジスタとともにインバータケース70の底板部71に固定されている。
【0100】
74は、これらインバータ装置7の回路素子をインバータケース70の底板部71に固定し、電気接続をなした後で、回路素子や接続部分を埋設するためにインバータケース70内に充填される樹脂である。
【0101】
75aは、インバータケース70の外周壁部72aの頂部を構成するリング状の-バスバーであり、75bは、インバータケース70の内周壁部72bに埋設されたリング状の+バスバーであり、これらのバスバーは、他のバスバーとともにインバータケース70の樹脂インサート成形により一体形成されている。
【0102】
この実施例では、底板部71はアルミダイキャストにより形成された輪板であり、外周壁部72aと内周壁部72bとはこの底板部71と一体化されている。底板部71の一体化は、インサート樹脂成型されていても良く、また接着剤やネジで固定されていても良い。」

・「【0113】
図1に示すように、樹脂カバー8の端壁に形成された冷却空気流吸入孔80から内部に導入された冷却空気流は、底板部71の外側底面及び冷却フィン711を冷却しつつ、径方向内側又は径方向外側に流れ、外周壁部72aの外側のギャップ及び内周壁部72bの内側のギャップを通じてインバータ装置7を軸方向に貫通し、モータハウジング4の冷却空気流吸入孔42からモータハウジング4内に導かれている。」

・「【0159】
内周壁部72bは、円筒状の金属筒部71aと、この金属筒部71aの外周に嵌着固定された樹脂筒部720bとからなる。金属筒部71aは、金属製でヒートシンクをなす底板部71と一体に成形されて、全体として略フランジ形状に形成されている。」

・「【0161】・・・
(実施例6)
本発明を具現化した好適態様を図15を参照して以下に説明する。この実施例は実施例1を示す図1を一部変形したものであり、この変形部分を図15に拡大して示す。
【0162】
この実施例では、インバータケース70の底板部71及び内周壁部72bの他、外周壁部72aもほぼ金属製とされている。更に詳しく説明すれば、外周壁部72aは、モータ
ハウジング4のリヤ端壁40に接する樹脂筒部721aと、この樹脂筒部721aから後方に突出する金属筒部722aとにより構成され、金属筒部722aは、底板部71と一体に成型されている。樹脂カバー8はこれら金属筒部722a、底板部71を囲んで椀状に形成されており、冷却空気流は樹脂カバー8と外周壁部72aとの間の隙間を通じて導入される。このようにすれば、冷却空気流の流れを阻害することなく、冷却空気流に接触する金属板部の露出面積を増大することができるので、スイッチング素子の冷却効果を一層向上することができる。なお、外周壁部72aの内面や内周壁部72bの内面に樹脂筒又は樹脂フィルムを設けてもよい。
【0163】
また、これら金属筒部722aや底板部71や内周壁部72bから外側に冷却フィンを突出させてもよい。」

・また、図1には、インバータケースを覆う樹脂カバーと、回転軸を囲繞するカバーに対して所定スペースを確保しつつ底板部から突出する内周壁部とを備え、外周壁部と前記樹脂カバーとの間に外側のギャップを構成し、前記カバーと前記内周壁部との間に内側のギャップを構成しているインバータ一体型交流モータの、軸方向断面図が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、実施例1に係る次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「回転軸に固定された冷却ファンを有してモータハウジングの一端壁から冷却空気流を吸入する交流モータと、前記モータハウジングの前記一端壁の軸方向外側に位置して前記モータハウジングに固定される制御装置とを有し、
前記制御装置は、入力直流電力を交流電力に変換して前記交流モータのステータコイルに給電するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、前記スイッチング素子及び制御回路を囲覆して収容するとともに前記スイッチング素子及び制御回路を接続する配線を収容するインバータケースと、インバータケースを覆う樹脂カバーとを備え、
前記インバータケースは、略径方向に延設される輪板状の底板部と、前記底板部から前記回転軸を囲繞するカバーに対して所定スペースを確保しつつ前記モータハウジングの前記一端壁に向けて突出する小径筒状の内周壁部と、前記底板部から前記モータハウジングの前記一端壁に向けて突出する大径筒状の外周壁部と、前記モータハウジングの前記一端壁に向けて開口するリング状の開口部とを有し、これら前記底板部と前記内周壁部と前記外周壁部は、前記底板部がアルミダイキャストにより形成されるとともに、前記外周壁部と前記樹脂カバーとの間の外側のギャップと、前記カバーと前記内周壁部との間の内側のギャップとを構成し、
前記樹脂カバーの端壁の空気吸入孔から導入された冷却空気流は、前記外周壁部又は前記内周壁部の外表面に沿って軸方向へ流れた後、前記モータハウジングへ流入するインバータ一体型交流モータ。」

(2-3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
後者における「モータハウジング」が前者における「ハウジング」に相当し、以下同様に、
「交流モータ」が「回転電機」に、
「制御装置」が「インバータ装置」に、
「インバータケース」が「ヒートシンクケース」に、
「インバータケースを覆う樹脂カバー」が、「ヒートシンクケースを一体に固定、収容するインバータケース」に、それぞれ相当する。

そして、後者の「モータハウジングの一端壁に向けて突出する」態様と前者の「ハウジングの一端壁に向けて一体に延設され」る態様とは、「ハウジングの一端壁に向けて延設され」との概念で共通する。

次に、後者の「内周壁部」が前者の「内周側板部」に、
後者の「外周壁部」が前者の「外周側板部」に、それぞれ相当する。

また、アルミが良熱伝導金属材料であることは技術常識であるから、後者の「底板部がアルミダイキャストにより形成される」態様と前者の「冷却用ヒートシンクとしての良熱伝導金属材から成る」態様とは、「少なくとも底板部が冷却用ヒートシンクとしての良熱伝導金属材から成る」との概念で共通する。

さらに、後者の「外側のギャップ」が前者の「外周冷却空気流通路」に相当し、以下同様に、
「内側のギャップ」が「内周冷却空気流通路」に、
「樹脂カバーの端壁の空気吸入孔」が「インバータケースの端壁に形成された冷却空気流吸入孔」に、それぞれ相当する。

そして、後者の「外周壁部又は内周壁部の外表面に沿って軸方向へ流れ」る態様と前者の「外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、内周冷却フィン及び冷却フィンを冷却しつつ軸方向へ流れ」る態様とは、「外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、軸方向へ流れ」との概念で共通する。

加えて、後者の「モータハウジングへ流入する」態様が前者の「ハウジング内へ流入する」態様に相当する。
したがって、両者は、
「回転軸に固定された冷却ファンを有してハウジングの一端壁から冷却空気流を吸入する回転電機と、前記ハウジングの前記一端壁の軸方向外側に位置して前記ハウジングに固定されるインバータ装置を有し、
前記インバータ装置は、少なくとも、入力直流電力を交流電力に変換して前記回転電機のステータコイルに給電するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、前記スイッチング素子及び制御回路を囲覆して収容するとともに前記スイッチング素子及び制御回路を接続する配線を収容するヒートシンクケースと、前記ヒートシンクケースを一体に固定、収容するインバータケースとを備え、
前記ヒートシンクケースは、略径方向に延設される輪板状の底板部と、前記底板部から前記回転軸を囲繞するカバーに対して所定スペースを確保しつつ前記ハウジングの一端壁に向けて延設される小径筒状の内周側板部と、前記底板部から前記ハウジングの前記一端壁に向けて延設される大径筒状の外周側板部と、前記ハウジングの前記一端壁に向けて開口するリング状の開口部とを有し、これら前記底板部と前記内周側板部と前記外周側板部は、少なくとも底板部が冷却用ヒートシンクとしての良熱伝導金属材から成るとともに、前記外周側板部と前記インバータケースとの間の外周冷却空気流通路と、前記カバーと前記内周側板部との間の内周冷却空気流通路とを構成し、
前記インバータケースの端壁に形成された冷却空気流吸入孔から導入された冷却空気流は、前記外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、軸方向へ流れた後、前記ハウジング内へ流入するインバータ一体型回転電機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
内周側板部が、本願補正発明ではハウジングの一端壁に向けて「一体に」延設され、「その外側表面から略径方向中心に向けて突出する内周冷却フィンを有する」ものであるのに対し、引用発明では「一体に」延設されておらず、冷却フィンを有していない点。
[相違点2]
外周側板部が、本願補正発明ではハウジングの一端壁に向けて「一体に」延設され、「その外側表面から略径方向外側に向けて突出する外周冷却フィンを有する」ものであるのに対し、引用発明では「一体に」延設されておらず、冷却フィンを有していない点。
[相違点3]
良熱伝導金属材からなる部分が、本願補正発明では、底板部「と内周側板部と外周側板部」であるのに対し、引用発明では「底板部」のみである点。
[相違点4]
冷却空気流が外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを軸方向へ流れる態様に関し、本願補正発明では、「内周冷却フィン及び外周冷却フィンを冷却しつつ」流れるのに対し、引用発明では内周冷却フィン及び外周冷却フィンが設けられていないため、冷却空気流が軸方向へ流れる際にこれらを冷却していない点。

(2-4)判断
上記相違点1?4について以下検討する。
複数の部材を一体に成形することや、冷却性能を向上させるために冷却フィンを設けることは技術的常套手段であり、例えば引用例にも、実施例1を一部変形した実施例6として、底板部から一体に延設され(引用例の「一体に成形され」る態様が相当、以下同様。)、その外側表面から略径方向中心に向けて突出する内周冷却フィンを有する(「内周壁部72bから外側に冷却フィンを突出させ」た)内周側板部(「内周壁部72b」)と、底板部から一体に延設され、その外側表面から略径方向外側に向けて突出する外周冷却フィンを有する(「金属筒部722aから外側に冷却フィンを突出させ」た)外周側板部(「金属筒部722aにより構成され」る「外周壁部72a」)とを有し、前記底板部と前記内周側板部と前記外周側板部は良熱伝導金属材から成る(金属製とされている)、ヒートシンクケース(「インバータケース」が開示されている。

そこで、インバータのスイッチング素子等を良好に電気的、機械的に保護しつつ、スイッチング素子の冷却性を確保しながら、その小型化を実現可能なインバータ一体型車両用交流モータを提供するという課題の下に、引用発明のインバータケースに、上記技術的常套手段を適用して、上記相違点1?3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
この時、内周冷却ファン及び外周冷却ファンは、それぞれ引用発明における内側のギャップ及び外側のギャップに突出させることとなるから、内側のギャップ及び外側のギャップを流れる冷却空気流(外周壁部又は内周壁部の外表面に沿って軸方向へ流れる空気流)は、自ずから、上記相違点4に係る本願補正発明のように、内周冷却フィン及び外周冷却フィンを冷却しつつ軸方向へ流れることとなる。

以上のことから、引用発明に上記技術的常套手段を適用して相違点1?4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明及び上記技術的常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記技術的常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年8月4日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「回転軸に固定された冷却ファンを有してハウジングの一端壁から冷却空気流を吸入する回転電機と、前記ハウジングの前記一端壁の軸方向外側に位置して前記ハウジングに固定されるインバータ装置を有し、
前記インバータ装置は、少なくとも、入力直流電力を交流電力に変換して前記回転電機のステータコイルに給電するインバータ回路を構成する複数のスイッチング素子と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、前記スイッチング素子及び制御回路を囲覆して収容するとともに前記スイッチング素子及び制御回路を接続する配線を収容するヒートシンクケースと、前記ヒートシンクケースを一体に固定、収容するインバータケースとを備え、
前記ヒートシンクケースは、略径方向に延設される輪板状の底板部と、前記底板部から前記回転軸を囲繞するカバーに対して所定スペースを確保しつつ前記ハウジングの一端壁に向けて一体に延設する小径筒状の内周側板部と、前記底板部から前記ハウジングの前記一端壁に向けて一体に延設する大径筒状の外周側板部と、前記ハウジングの前記一端壁に向けて開口するリング状の開口部とを有し、これら前記底板部と前記内周側板部と前記外周側板部は冷却用ヒートシンクとしての良熱伝導金属材から成るとともに、前記外周側板部と前記インバータケースとの間の外周冷却空気流通路と、前記カバーと前記内周側板部との間の内周冷却空気流通路とを構成し、
前記インバータケースの端壁に形成された冷却空気流吸入孔から導入された冷却空気流は、直接、前記外周冷却空気流通路及び内周冷却空気流通路のそれぞれに沿って軸方向へ流れた後、前記ハウジング内へ流入することを特徴とするインバータ一体型回転電機。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「2.(2-2)引用例」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.(2-1)補正後の本願の発明」で検討した本願補正発明の、「ヒートシンクケース」について「その外側表面から略径方向中心に向けて突出する内周冷却フィンを有する」小径筒状の内周側板部と、「その外側表面から略径方向外側に向けて突出する外周冷却フィンを有する」大径筒状の外周側板部とを有するとの限定を省き、「冷却空気流」について「外周冷却空気流通路と内周冷却空気流通路とを並行して、前記内周冷却フィン及び外周冷却フィンを冷却しつつ」軸方向へ流れるとの限定を省く一方で、冷却空気流は「直接、」前記外周冷却空気流通路及び内周冷却空気流通路「のそれぞれに沿って」軸方向へ流れるとの限定を付加したものである。

そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は、上記相違点3と、次の相違点5になる。
[相違点5]
冷却空気流が、本願発明では、「直接、」前記外周冷却空気流通路及び内周冷却空気流通路「のそれぞれに沿って」軸方向へ流れているのに対し、引用発明では、そのような流れとはなっていない点。

相違点5について検討する。
冷却ファンによる冷却空気流が、直接、冷却空気流通路のそれぞれに沿って軸方向へ流れるようにすることは、回転電機の冷却に関する技術分野において周知技術であり、例えば拒絶査定時に周知例として挙げられている特開平7-274440号公報(特に、図2参照)や、特開2001-298907号公報(特に、図5参照)等にも開示されている。
そして、回転電機の冷却性を確保するという一般的な課題の下に、引用発明に上記周知技術を適用して、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

また、相違点3については、上記「2.(2-4)判断」に記載したとおりであるから、本願発明は、引用発明、上記技術的常套手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明、上記技術的常套手段及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-08 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-02-23 
出願番号 特願2005-215736(P2005-215736)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫻田 正紀  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 小川 恭司
仁木 浩
発明の名称 インバータ一体型回転電機  
代理人 児玉 俊英  
代理人 村上 啓吾  
代理人 大岩 増雄  
代理人 竹中 岑生  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ