• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41M
管理番号 1214996
審判番号 不服2008-7607  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-27 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 特願2004- 47898「無機微粒子分散液及びその製造方法、並びに画像記録材料」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-238480〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本願は、平成16年2月24日の出願であって、平成20年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月22日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされた後、審査官により作成された前置報告書について、平成21年8月13日付けで審尋がなされたところ、審判請求人から同年10月19日付けで回答書が提出されたものである。
さらに、当審において、平成21年11月26日付けで、平成20年4月22日付けの手続補正についての補正却下の決定とともに、拒絶理由通知がなされ、それに対して、平成22年2月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.記載要件に関して(特許法第36条第6項第1号)

1.当審の拒絶理由の内容
当審の記載不備に関する拒絶の理由(理由1)は次のとおりである。


4.特許法第36条第6項第1号に関して (理由1)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1の記載において、「水性媒体に、分散剤の添加量Dtと無機微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)が前記分散剤の最終添加量Dと前記無機微粒子の最終添加量Iとの比率(D/I)より小さくなる添加条件で前記無機微粒子及び前記分散剤を添加する過程を有して無機微粒子分散液を作製する」とあるとおり、請求項1に係る発明は、無機微粒子分散液を作製する過程において、特定の添加条件を満たす過程が存在することを発明の特定事項とするものである。
そして、本願明細書の実施例及び図面を参照すると明らかなとおり、図1において斜線部分が存在するような、「水性媒体に、分散剤の添加量Dtと無機微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)が前記分散剤の最終添加量Dと前記無機微粒子の最終添加量Iとの比率(D/I)より小さくなる添加条件」には無限の添加パターンがあるにもかかわらず、本願の実施例においてその効果が確認されているのは、その一部にすぎない。
例えば、分散剤を、総量の1/20程度を添加し、次に無機微粒子を、総量の1/10程度を数分間かけて均等添加し、分散剤の残りを添加した後、無機微粒子の残りを均等添加すれば、上記の添加条件を満たすものとなるが、この添加過程では、最初の分散過程では、無機微粒子の少量しか分散されておらず、後の分散過程で大半の無機微粒子の分散が行われることとなり、後の分散過程は、比較例2のような添加条件と異ならないから、このような場合においても、粘度の低減と、泡立ちの発生を抑えることができるとは考えられない。

さらに、本願明細書の実施例のものは、特定の「添加条件」に加えて、特定の「無機微粒子」(気相法シリカ微粒子)と、特定の「分散剤」(アクリル系カチオンポリマー)と、特定の硬膜剤を用いることを前提としたものであるから、これ以外の「無機微粒子」と、「分散剤」と、硬膜剤が含まれないか、硼酸以外の硬膜剤を用いた場合において、本願明細書に記載の効果を奏するかどうかは不明である。

したがって、請求項1に記載された発明は、本願の実施例で開示された範囲を超えるものであって、本願の出願時の技術常識を勘案しても、本願の発明の詳細な説明に記載された内容を、請求項1に記載の範囲にまで一般化ないし拡張することはできない。

以上のとおりであるから、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。
また、請求項2?8の記載も、請求項1と同様に特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。


2.請求人の主張(平成22年2月1日付け意見書)
上記拒絶理由(第36条第6項第1号違反)に対して、請求人は意見書において、以下のとおり主張している。

(3.1)理由1について
審判官殿は、請求項1の記載について、「水性媒体に、分散剤の添加量Dtと無機微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)が・・・比率(D/I)より小さくなる添加条件」には無限の添加パターンがあるにもかかわらず、本願の実施例においてその効果が確認されているのはその一部にすぎず、また、本願明細書の実施例のものは特定の「添加条件」に加えて特定の無機微粒子、分散剤、硬膜剤を用いることを前提としたものであり、したがって本願の発明の詳細な説明に記載された内容を、請求項1に記載の範囲にまで一般化ないし拡張することはできないから、請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない、とご指摘されております。

かかる審判官殿のご指摘に対しましては、上記の通り手続補正書により、添加条件を「0.4(D/I)≦Dt/It<D/I」を満たす範囲とし、さらに無機微粒子は「気相法シリカ」と、分散剤は「カチオン性高分子分散剤」として、無機微粒子の分散に関係して、本発明の効果、具体的には、分散時における増粘を抑え、分散性を向上しつつ低い消費エネルギーでの均一分散を可能にするとの本願特有の効果を奏するように、補正を加えたことによりまして、新請求項1に係る発明は本願明細書に記載の効果を奏するものであることについて不明ではなくなり、「本願の発明の詳細な説明に記載された内容を、請求項1に記載の範囲にまで一般化ないし拡張することはできない」との審判官殿のご認定は解消されたものと思料致します。


3.請求項の記載
平成22年2月1日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
水性媒体に、カチオン性高分子分散剤の添加量Dtと気相法シリカの添加量Itとの比率(Dt/It)が前記カチオン性高分子分散剤の最終添加量Dと前記気相法シリカの最終添加量Iとの比率(D/I)に対し0.4(D/I)≦Dt/It<D/Iを満たす添加条件で、前記気相法シリカ及び前記カチオン性高分子分散剤を添加する過程を有してシリカ分散液を作製することを特徴とする無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
カチオン性高分子分散剤が、アクリル系カチオンポリマーである請求項1に記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ分散液が硬膜剤を更に含有する請求項1又は2に記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ分散液が水溶性金属塩を更に含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の無機微粒子分散液の製造方法。 」

4.当審の判断
上記2.のとおり、請求人は、『添加条件を「0.4(D/I)≦Dt/It<D/I」を満たす範囲とし、さらに無機微粒子は「気相法シリカ」と、分散剤は「カチオン性高分子分散剤」として、無機微粒子の分散に関係して、本発明の効果、具体的には、分散時における増粘を抑え、分散性を向上しつつ低い消費エネルギーでの均一分散を可能にするとの本願特有の効果を奏するように、補正を加えた』と主張している。
しかしながら、まず、添加条件については、当審の拒絶理由で、『例えば、分散剤を、総量の1/20程度を添加し、次に無機微粒子を、総量の1/10程度を数分間かけて均等添加し、分散剤の残りを添加した後、無機微粒子の残りを均等添加すれば、上記の添加条件を満たすものとなるが、この添加過程では、最初の分散過程では、無機微粒子の少量しか分散されておらず、後の分散過程で大半の無機微粒子の分散が行われることとなり、後の分散過程は、比較例2のような添加条件と異ならないから、このような場合においても、粘度の低減と、泡立ちの発生を抑えることができるとは考えられない。』と指摘したとおり、請求項1に記載の「カチオン性高分子分散剤の添加量Dtと気相法シリカの添加量Itとの比率(Dt/It)が前記カチオン性高分子分散剤の最終添加量Dと前記気相法シリカの最終添加量Iとの比率(D/I)に対し0.4(D/I)≦Dt/It<D/Iを満たす添加条件」には無限の添加パターンがあるにもかかわらず、本願の実施例においてその効果が確認されているのはその一部にすぎないから、請求項1に記載された発明は、本願の実施例で開示された範囲を超えるものである。
また、本願の実施例に記載のものは、アクリル系カチオンポリマーを「カチオン性高分子分散剤」とし、特定の硬膜剤(硼酸)を用いることを前提としたものであるから、アクリル系カチオンポリマー以外の「カチオン性高分子分散剤」を用いた場合や、硬膜剤が含まれないか、または、硼酸以外の硬膜剤を用いた場合においても、本願明細書に記載の効果を奏するかどうかは不明である。
したがって、本願の出願時の技術常識を勘案しても、本願の発明の詳細な説明に記載された内容を、請求項1に記載の範囲にまで一般化ないし拡張することはできないとの判断に誤りはない。


第3.特許法第29条の2違反に関して
上記第2.で検討したとおり、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないが、予備的に特許法第29条の2違反についても検討しておく。

1.本願発明
本願の請求項1の記載には不備があるものの、請求項1に係る発明は、上記平成22年2月1日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

2.先願明細書に記載された発明
本願の出願日前の平成15年3月14日に出願され、本願の出願日後に出願公開された特願2003-69587号の願書に最初に添附した明細書(特開2004-276363号公報参照、以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)

(1-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録用紙の製造方法及びその製造方法で製造されたインクジェット記録用紙に関し、詳しくは、生産性が高く、高い光沢性を有し、インク吸収容量が大きく、塗布面にひびわれや塗布すじ等の故障がないインクジェット記録用紙の製造方法及びその製造方法で製造されたインクジェット記録用紙に関する。」

(1-b)「【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録用紙の製造方法は、顔料粒子を粉砕分散した微粒子とバインダーと分散剤を含有する塗布液を塗布・乾燥することによりインク受容層を形成するものであり、本発明のインクジェット記録用紙は、支持体上に顔料粒子を粉砕分散した微粒子とバインダーと分散剤を含有する塗布液を塗布・乾燥することにより得られるインク受容層を有するものである。
【0020】
本発明で使用する顔料粒子としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、クレー等の他、各種の天然又は合成の無機微粒子を使用することが出来るが、中でもシリカは低い屈折率を有するため、透明性が要求されるインクジェット記録用紙のインク受容層を形成するのに好ましく用いられる。
【0021】
シリカとしては、通常の湿式法で合成されたシリカ(湿式法シリカ)、コロイダルシリカ、気相法で合成されたシリカ(気相法シリカ)が好ましく用いられるが、中でも湿式法シリカは、微粒子分散物の固形分濃度を高くすることが可能となることから、高い生産性を実現できる。塗布液中の含水量も少なくできることから、乾燥時の膜の収縮率も少なく、クラック(ひび割れ)等の塗布故障も低減できる。本発明で好ましく用いられる湿式法シリカは、例えば(株)トクヤマ、日本シリカ工業(株)等より市販されており、特にBET式比表面積が150?350m^(2)/g、コールターカウンター法により測定した粉砕分散前の平均凝集粒子径が1.0?2.8μmである湿式法シリカを用いることで、より高い光沢性、発色性、インク吸収性が実現できる。」

(1-c)「【0023】
本発明の分散剤とは、微粒子表面に吸着して分散物を安定化させる働きをするものなら何でも良いが、微粒子が本発明で好ましく用いられるシリカの場合、シリカ表面をカチオン処理するカチオン変性剤を分散剤として用いることが好ましい。
【0024】
前記カチオン変性剤としては、無機金属塩やカチオン性ポリマー等が挙げられる。無機金属塩の具体例としては、酸化アルミニウム水和物、酸化ジルコニウム水和物、酸化スズ水和物等の無機金属酸化物水和物や、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化スズ等の水溶性無機金属塩が挙げられる。前記カチオン性ポリマーとしては、好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであり、特に好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの単独重合体または他の共重合し得る1または2以上のモノマーとの共重合体である。」

(1-d)「【0032】
以下に本発明に用いることができるカチオン性ポリマーの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化4】(省略)
【0034】
【化5】




(1-e)「【0052】
例えば、硬膜剤、ノニオン性またはカチオン性の各種の界面活性剤(但し、アニオン性界面活性剤は凝集物を形成するために好ましくない)、消泡剤、ノニオン性の親水性ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、各種の糖類、ゼラチン、プルラン等)、ノニオン性またはカチオン性のラテックス分散液、水混和性有機溶媒(例えば、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、アセトンなど)、無機塩類、pH調整剤など、必要に応じて適宜使用することが出来る。」

(1-f)「【0061】
本発明に係るインクジェット記録用紙において、高光沢性で高い空隙率を皮膜の脆弱性を劣化させずに得るために、前記水溶性ポリマーが硬膜剤により硬膜されていることが好ましい。
【0062】
硬膜剤は、一般的には前記水溶性ポリマーと反応し得る基を有する化合物あるいは水溶性ポリマーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、水溶性ポリマーの種類に応じて適宜選択して用いられる。
【0063】
硬膜剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬膜剤(例えば、ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ジグリシジルシクロヘキサン、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(例えば、ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤(例えば、2,4-ジクロロ-4-ヒドロキシ-1,3,5-s-トリアジン等)、活性ビニル系化合物(例えば、1,3,5-トリスアクリロイル-ヘキサヒドロ-s-トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ほう酸、その塩、ほう砂、アルミ明礬等が挙げられる。
【0064】
水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールまたはカチオン変成ポリビニルアルコールを使用する場合には、ほう酸、その塩またはエポキシ系硬膜剤から選ばれる硬膜剤を使用するのが好ましい。
【0065】
最も好ましいのはほう酸またはその塩から選ばれる硬膜剤である。ほう酸またはその塩としては、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことを指し、具体的にはオルトほう酸、二ほう酸、メタほう酸、四ほう酸、五ほう酸、八ほう酸またはそれらの塩が挙げられる。
【0066】
上記硬膜剤の使用量は水溶性ポリマーの種類、硬膜剤の種類、シリカ粒子の種類、水溶性ポリマーに対する比率等により変化するが、通常水溶性ポリマー1g当たり5?500mg、好ましくは10?300mgである。
【0067】
上記硬膜剤は、インク受容層としての空隙層を形成する塗布液を塗布する際に、空隙層を形成する塗布液中及び/または空隙層に隣接するその他の層を形成する塗布液中に添加してもよく、あるいは予め硬膜剤を含有する塗布液を塗布してある支持体上に、該空隙層を形成する塗布液を塗布する。さらには空隙層を形成する硬膜剤非含有の塗布液を塗布乾燥後に硬膜剤溶液をオーバーコートするなどして空隙層に硬膜剤を供給することもできる。好ましくは製造上の効率の観点から、空隙層を形成する塗布液またはこれに隣接する層を形成する塗布液中に硬膜剤を添加して、空隙層を形成するのと同時に硬膜剤を供給するのが好ましい。
【0068】
本発明で特に好ましいのは顔料としてシリカを使用し、親水性バインダーとしてポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを用いる場合である。この場合、シリカ表面のシラノール基とビニルアルコールの水酸基が弱い水素結合を行い、軟凝集体が形成されて空隙率が高く成りやすい。」

(1-g)「【0078】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の「%」は、特に断りのない限り「質量%」を示す。
【0079】
実施例1
(分散液1-1の調製)
市販湿式法シリカ(トクヤマ(株)製、商品名:K-41、比表面積330m^(2)/g、平均凝集粒子径1.8μm、沈降法シリカ)を水性媒体と一緒に連続式ピンミキサー(粉研パウテック社製、フロージェットミキサー300型、以下FJMと称す)で連続的に分散した。その後、高速回転式連続分散機(太平洋機工社製、フローファインミルFM25、以下FMと称す)で分散して予備分散液を連続的に得た。FJM、FMの周速は30m/secで行った。上記水性媒体とは、水にホウ酸とP-9を含有させたものをいう。ホウ酸はシリカ質量に対して2.7%、P-9(分散剤)はシリカ質量に対して8%になるようにした。予備分散液中のシリカ濃度は25%にした。
【0080】
上記の方法で得られた予備分散液をサンドミル分散機(アシザワ社製、RL-125)で分散した。サンドミルの分散条件は0.5mmジルコニアビーズ、充填率80%、周速7m/secで滞留時間4minで2パスで処理し分散した。このときのシリカ微粒子の平均粒子径は370nmであった。
【0081】
(分散液1-2の調製)
水性媒体中のP-9の量をシリカ質量に対して4%になるようにした以外は、分散液1-1と同じ条件で予備分散液を得た。得られた予備分散液にP-9を添加し、P-9の量がシリカ質量に対して8%になるようにして均一に攪拌混合してから、サンドミル分散機で分散液1-1と同じ条件で2パスで処理し分散した。このときのシリカ微粒子の平均粒子径は290nmであった。
【0082】
(分散液1-3の調製)
分散液1-2と同じ条件で予備分散液を得た後、得られた予備分散液にP-9を添加し、P-9の量がシリカ質量に対して6%になるようにして均一に攪拌混合してから、サンドミル分散機で分散液1-1と同じ条件で1パスで処理し分散した。得られた分散液にさらにP-9を添加し、P-9の量がシリカ質量に対して8%になるようにして均一に攪拌混合してから、サンドミル分散機で1パス目と同じ条件でさらに1パスで処理し分散した。最終的に得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は240nmであった。
【0083】
(記録用紙1-1?3の作製)
分散液1-1?3のそれぞれにポリビニルアルコール溶液(10%、クラレ社製:PVA235)を、シリカ/ポリビニルアルコールの固形分の質量比が6になるように混合して、塗布液1-1?3を作製した。両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚みが220μmでインク受容層面のポリエチレン中にはポリエチレンに対して13質量%のアナターゼ型酸化チタンを含有)に、塗布液1-1?3をそれぞれ40℃でスライドホッパーを用いて塗布し、塗布直後に0℃に保たれた冷却ゾーンで20秒間冷却した後、25℃の風(相対湿度RHが15%)で60秒間、45℃の風(RH25%)で60秒間、50℃の風(RH25%)で60秒間、順次乾燥し、20?25℃・40?60%RHの雰囲気下で2分間調湿して、それぞれの塗布液1-1?1-3に対応する記録用紙1-1?1-3を得た。」

上記の事項を総合すると、先願明細書には次の発明が記載されていると認められる。(以下、「先願明細書に記載された発明」という。)
「水にホウ酸と分散剤としてのカチオン性ポリマーを含有させた水性媒体と、湿式法シリカとを分散して、分散剤はシリカ質量に対して4%になるようにした予備分散液を調製した後、
得られた予備分散液に分散剤を添加し、分散剤の量がシリカ質量に対して8%になるようにして均一に攪拌混合してから、分散処理して、シリカ微粒子の分散液を得る、シリカ微粒子分散液の調製方法。」

3.対比
本願発明と先願明細書に記載された発明を対比する。
まず、先願明細書に記載された発明における
「水」又は「水にホウ酸(と分散剤としてのカチオン性ポリマー)を含有させた水性媒体」、
「分散剤としてのカチオン性ポリマー」、
「シリカ微粒子分散液の調製方法」は、それぞれ、
本願発明における
「水性媒体」、
「カチオン性高分子分散剤」、
「無機微粒子分散液の製造方法」に相当する。
また、先願明細書に記載された発明における「湿式法シリカ」及び「シリカ微粒子」と、本願発明における「気相法シリカ」とは、「シリカ微粒子」で共通する。
なお、本願発明において、「硬膜剤(ホウ酸)」は、発明特定事項とはなっていないが、本願明細書の実施例には「硬膜剤」が記載されているように、本願発明は、「硬膜剤」を用いることを排除するものではない。
そして、先願明細書に記載された発明における「分散剤はシリカ質量に対して4%になるようにした予備分散液を調製した後、得られた予備分散液に分散剤を添加し、分散剤の量がシリカ質量に対して8%になるようにして・・・シリカ微粒子の分散液を得る」構成において、「分散剤の量がシリカ質量に対して8%」は、「カチオン性分散剤の最終添加量Dとシリカ微粒子の最終添加量Iとの比率(D/I)」が「8%」であり、「分散剤はシリカ質量に対して4%」は、「カチオン性分散剤の添加量Dtとシリカ微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)」が「4%」ということになるから、
該構成は、すなわち、「カチオン性高分子分散剤の添加量Dtとシリカ微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)が前記カチオン性高分子分散剤の最終添加量Dと前記シリカ微粒子の最終添加量Iとの比率(D/I)に対し0.4(D/I)≦Dt/It<D/Iを満たす添加条件で、前記シリカ微粒子及び前記カチオン性高分子分散剤を添加する過程を有してシリカ分散液を作製する」構成に相当する。

したがって、両者は、
「水性媒体に、カチオン性高分子分散剤の添加量Dtとシリカ微粒子の添加量Itとの比率(Dt/It)が前記カチオン性高分子分散剤の最終添加量Dと前記シリカ微粒子の最終添加量Iとの比率(D/I)に対し0.4(D/I)≦Dt/It<D/Iを満たす添加条件で前記シリカ微粒子及び前記カチオン性高分子分散剤を添加する過程を有してシリカ微粒子分散液を作製する、無機微粒子分散液の製造方法。」である点で一致し、下記の点で一応相違する。

相違点:「シリカ微粒子」に関して、
本願発明は、「気相法シリカ」であるのに対して、
先願明細書に記載された発明は、「湿式法シリカ」である点。

4.判断
上記の一応の相違点について検討する。
先願明細書には、「シリカとしては、通常の湿式法で合成されたシリカ(湿式法シリカ)、コロイダルシリカ、気相法で合成されたシリカ(気相法シリカ)が好ましく用いられるが、中でも湿式法シリカは、微粒子分散物の固形分濃度を高くすることが可能となることから、高い生産性を実現できる。」(上記摘記事項(1-b)段落【0021】)と記載されており、「高い生産性」の点で、「湿式法シリカ」を好ましいとするものであって、「好ましく用いられるシリカ」として、「湿式法シリカ」と「気相法シリカ」とが例示されている。
そして、「湿式法シリカ」と「気相法シリカ」とが、ともに、シリカ微粒子として周知のものであるから、「湿式法シリカ」に代えて、「気相法シリカ」を用いることは、先願明細書に記載されているに等しい事項である。


5.請求人の主張について
請求人は、平成22年2月1日付け意見書において、以下のとおり主張している。(下線は、当審にて付与した。)

一方、先願1には、湿式シリカを用いた分散液の調製に関する実施例が具体的に記載されているに留まり、気相法シリカを用いた場合については具体的な記載はなされておりません。先願1には、気相法シリカよりはむしろ、湿式シリカが好ましいことが記載されております(先願明細書の段落0021等参照)。

本願発明は、上記構成のように、分散剤と無機微粒子とを水性媒体に添加する場合の両者の添加時の添加量バランスに着目したうえで、特に「0.4(D/I)≦Dt/It<D/Iを満たす添加条件」を気相法シリカ及びカチオン性高分子分散剤の添加過程中に設けるようにすることが、エネルギー消費の低減に繋がる、分散液調製過程での増粘抑制が可能であるとの技術思想に基づくものであります。
つまり、「無機微粒子分散の過程」において分散剤及び気相法シリカ粒子を、特定条件を満たしながら分割添加する操作によりまして、「気相法シリカ」の分散液の調製に際し、著しく発現される分散時の増粘現象を回避して、低い消費エネルギーで均一分散が可能になるとの新たな効果が得られます。

この点について、以下に気相法シリカと湿式シリカとを対比して示す実験データを参照してより具体的に説明致します。
(中略)
前記表Aにおいて、まず、気相法シリカと湿式シリカの分散時の増粘の度合いの違いを、分割添加による影響を外すために一括添加による混合分散過程にて比較したところ、テスト3及びテスト4の対比からみてとれますように、湿式シリカでは、気相法シリカに比べて粘度が1桁小さい値となっております。つまり、そもそも湿式シリカを用いる分散系においては、分散時の増粘はそれほど問題にならない現象であります。
(中略)
以上説明致しました通り、新請求項1に係る発明はその構成上、先願1に記載の発明と構成が異なっており、この構成上の相違によって、特に著しく粘度上昇を引き起こす「気相法シリカ」の分散時における増粘幅を効果的に抑え、分散性を向上しつつも低い消費エネルギーで、気相法シリカの均一分散が可能になる、との新たな効果を奏し得ることから、単に課題解決のための具体化手段における微差(実質同一)ということもできないものと思料致します。


上記主張について検討する。
まず、『「気相法シリカ」の分散液の調製に際し、著しく発現される分散時の増粘現象を回避して、低い消費エネルギーで均一分散が可能になるとの新たな効果』が得られるとの主張については、本願明細書には、「無機微粒子としては、・・・中でも、シリカ微粒子が特に好ましい。」(段落【0019】)、「本発明におけるシリカ微粒子としては、特に気相法シリカ微粒子が好ましい。」(段落【0024】)とあるとおり、当初明細書の記載では「気相法シリカ」には限定されない「無機微粒子分散液の製造方法」であって、「気相法シリカは、含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があり、異なった性質を示すが、空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカの場合には微粒子表面におけるシラノール基の密度が5?8個/nm^(2)と多く、シリカ微粒子が密に凝集(アグリゲート)し易い一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2?3個/nm^(2)と少ないことから、疎な軟凝集(フロキュレート)となる結果、空隙率の高い構造が得られるものと推定される。」(段落【0025】)と記載されているとおり、「気相法シリカ」が好ましい理由は、「空隙率が高い三次元構造を形成するのに適している」からであって、『気相法シリカの分散液の調製に際し、著しく発現される分散時の増粘現象』については、何ら記載も示唆もない。
したがって、新たな効果であるとの主張は、当初明細書の記載に基づかない主張であって、採用できない。
また、上記4.で検討したとおり、先願明細書には、「好ましく用いられるシリカ」として、「湿式法シリカ」と「気相法シリカ」とが例示されており、かつ、「湿式法シリカ」と「気相法シリカ」とは、ともに、シリカ微粒子として周知のものであるから、「湿式法シリカ」に代えて「気相法シリカ」を用いることは、先願明細書に記載されているに等しい事項である。
したがって、『単に課題解決のための具体化手段における微差(実質同一)ということもできない』との主張には首肯できない。

以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

6.まとめ
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一である。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。


第4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-15 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-01 
出願番号 特願2004-47898(P2004-47898)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B41M)
P 1 8・ 161- WZ (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 伏見 隆夫
伊藤 裕美
発明の名称 無機微粒子分散液及びその製造方法、並びに画像記録材料  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 西元 勝一  
代理人 中島 淳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ