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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1215170
審判番号 不服2008-25397  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-02 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 特願2002-291829「電動パワーステアリング装置の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日出願公開、特開2004-129421〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年10月4日の出願であって、平成20年8月26日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年10月23日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年10月23日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助力指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を具備し、前記第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が異常であるか否かを検出するに際し、前記第2の制御部の操舵補助力指令値に対して、前記第1の制御部の操舵補助力指令値が過大アシストで所定時間1を経過したときにモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断し、又は前記第1の制御部の操舵補助力指令値が逆アシストで前記所定時間1を経過したときに前記モータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断し、或いは前記第1の制御部の操舵補助力指令値が過小アシストで所定時間2を経過したときに前記モータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断することを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。」
と補正された。

(2)補正事項の検討
(2-1)新規事項の追加について
上記補正事項により、補正後の請求項1に係る発明は、「第1の制御部の操舵補助力指令値が過大アシストで所定時間1を経過したときにモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断し、又は前記第1の制御部の操舵補助力指令値が逆アシストで前記所定時間1を経過したときに前記モータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断」する事項を含むものとなった。

すなわち、補正後の請求項1に係る発明は、過大アシストと逆アシストの両方とも、「所定時間1」を経過したときに、モータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断するものである。
一方、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)には、次のように記載されている。

・「【0030】
上記ステップS10において過大アシストであると判定された場合には、所定時間(T1)が経過する前(ステップS20)は経過時間計数用カウンタのカウントアップをし(ステップS21)、上記ステップS1にリターンする。上記動作を繰り返し、所定時間(T1)が経過した時に(ステップS20)、モータ駆動禁止信号Mp及びリレーON/OFF信号RS2を出力してモータ200の駆動を停止する(ステップS26)。
【0031】
上記ステップS10で過大アシストではないと判定された場合には、逆アシストであるか否か、つまり
Irm-Irs < -Ierr2 …(2)
であるか否かを判定する(ステップS11)。そして、逆アシストである場合には、所定時間(T2)が経過する前(ステップS22)は経過時間計数用カウンタのカウントアップをし(ステップS23)、上記ステップS1にリターンする。上記動作を繰り返し、所定時間(T2)が経過した時に(ステップS22)、モータ駆動禁止信号Mp及びリレーON/OFF信号RS2を出力してモータ200の駆動を停止する(ステップS26)。」

上記記載によれば、過大アシストと判定された場合には「所定時間(T1)」が経過した時に、逆アシストと判定された場合には「所定時間(T2)」が経過した時に、モータ駆動禁止信号Mp及びリレーON/OFF信号RS2を出力している。

しかし、「所定時間(T1)」と「所定時間(T2)」とを「同じ」所定時間とすることは、当初明細書等には記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明の事項であるともいえない。

したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2-2)本件補正の目的について
本件補正前の特許請求の範囲である、平成20年7月30日付手続補正書の特許請求の範囲の独立項は、請求項1と請求項3であり、次に示すとおりであった。
「【請求項1】ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助力指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を具備し、前記第1の制御部及び第2の制御部はシリアル通信で相互に暴走監視を行うと共に、前記第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が正常か否かを判断し、異常が検出された場合にモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断することを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
【請求項3】ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助力指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を具備し、前記第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が異常であるか否かを検出するに際し、前記第2の制御部の操舵補助力指令値に対して、前記第1の制御部の操舵補助力指令値が過大アシスト側又は逆アシスト側に指示された場合には、車両挙動が小さくなるように前記異常検出のためのしきい値である検出時間及び検出レベルを小さく設定することを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。」

補正後の請求項1は、補正前の請求項1を補正対象とした場合と、補正前の請求項3を補正対象とした場合とが考えられる。

そこで、まず、補正前の請求項1を補正対象としたとして、補正前の請求項1と補正後の請求項1とを比較すると、上記補正事項は少なくとも補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1の制御部及び第2の制御部はシリアル通信で相互に暴走監視を行う」事項を削除するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

次に、補正前の請求項3を補正対象としたとして、補正前の請求項3と補正後の請求項1とを比較すると、上記補正事項は少なくとも補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「車両挙動が小さくなるように異常検出のためのしきい値である検出時間及び検出レベルを小さく設定すること」を削除するものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、却下を免れない。

3.本願の発明について
(1)本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年7月30日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助力指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を具備し、前記第1の制御部及び第2の制御部はシリアル通信で相互に暴走監視を行うと共に、前記第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が正常か否かを判断し、異常が検出された場合にモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断することを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-310743号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与する車両用操舵制御装置に関し、特に電動パワーステアリング制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、車載エンジン制御系では、フェールセーフ性を高めるために、メインマイクロコンピュータ(以下、メインCPUという。)とサブマイクロコンピュータ(以下、サブCPUという。)とを用いて、両CPU出力を比較し、2つのCPU出力の差が生じたときに、演算処理制御系がフェールであるとする技術が知られている。このフェールセーフ技術の応用として、電動パワーステアリング制御装置においても、電動パワーステアリング制御装置のメインCPUでの監視方法としてサブCPUにより、メインCPUの制御周期と同期してメインCPUと同一の演算を行い、メインCPUの演算結果と比較することによりメインCPUの異常を判定する方法も行われている。」

・「【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明を電動パワーステアリング制御装置に具体化した一実施形態を図1?図4に従って説明する。
【0021】図1は、電動パワーステアリング制御装置の概略を示す。ステアリングホイール1に連結したステアリングシャフト2には、トーションバー3が設けられている。このトーションバー3には、トルクセンサ4が装着されている。そして、ステアリングシャフト2が回転してトーションバー3に力が加わると、加わった力に応じてトーションバー3が捩れ、その捩れ、即ちステアリングホイール1にかかる回動トルクTをトルクセンサ4が検出している。前記回動トルクTはステアリングシャフト2の操舵方向(右回転方向又は左回転方向)に応じて正又は負の符号が付与された電圧VT信号として出力されている。
【0022】又、ステアリングシャフト2には減速機5が固着されている。この減速機5には電動モータ(以下、モータという)6の回転軸に取着したギア7が噛合されている。更に、減速機5にはピニオンシャフト8が固着されている。ピニオンシャフト8の先端には、ピニオン9が固着されるとともに、このピニオン9はラック10と噛合している。ラック10の両端には、タイロッド12が固設されており、そのタイロッド12の先端部にはナックル13が回動可能に連結されている。このナックル13には、前輪14が固着されている。又、ナックル13の一端は、クロスメンバ15に回動可能に連結されている。
【0023】従って、モータ6が回転すると、その回転数は減速機5によって減少されてピニオンシャフト8に伝達され、ピニオン及びラック機構11を介してラック10に伝達される。そして、ラック10は、タイロッド12を介してナックル13に設けられた前輪14の向きを変更して車両の進行方向を変えることができる。
【0024】前輪14には、車速センサ16が設けられ、車速Vに応じたパルス信号を出力している。
(制御装置の電気的構成)次に図2はこの電動パワーステアリング装置の制御装置の電気的構成を示す。
【0025】トルクセンサ4(操舵トルク検出手段に相当)は、ステアリングホイール1の回動トルクTに相対する電圧VT信号をコントローラ21に出力している。車速センサ16は、その時の車速Vを前輪14の回転数に相対する周期のパルス信号Pとしてコントローラ21に出力する。コントローラ21は、メインCPU22、サブCPU23からなる。
【0026】前記メインCPU22は、各種制御プログラムを格納しているROM、作業用メモリとなるRAMを備えており、機能的には、第1目標モータ駆動電流算出部24と、モータ制御部25、及び異常検出部26(異常検出手段に相当)とを有する。なお、図2においてメインCPU22及びサブCPU23内に示されている、第1目標モータ駆動電流算出部24、モータ制御部25、異常検出部26、第2目標モータ駆動電流算出部27、目標電流比較部28及び符号判定部29の各ブロックは各CPU内部においてプログラムで実行される機能を示すものであり、ハードウエアとして示すものではない。
【0027】前記第1目標モータ駆動電流算出部24は、トルクセンサ4で検出された電圧VT信号、及び車速センサ16からのパルス信号に基づいて回動トルクT及び車速Vを算出し、さらに、回動トルクTと車速センサ16で検出された車速Vに基づいて第1モータ駆動トルク指令値としての目標駆動電流(目標電流値)を算出する。前記目標電流値は、モータ6の駆動方向(正転方向又は逆転方向)を表すために正又は負の符号が付与されている。なお、本実施形態では、モータ6が正転すると、前輪14が右旋回し、逆転すると前輪14が左旋回するようにされている。
【0028】モータ電流検出部30は、モータ6のモータ電流を検出し、フィードバック制御を行うモータ制御部25にその検出値を入力する。モータ制御部25は第1目標モータ駆動電流算出部24にて算出した目標電流値とモータ電流検出部30が検出したモータに流れているモータ電流値とを比較し、その差に基づいてモータ電流制御値を算出する。
【0029】そして、モータ制御部25は、そのモータ電流制御値に基づいて決定されるデューティ比のPWM信号を発生させるとともに、モータ電流制御値の符号に基づいてモータ6の回転方向を決定する回転方向信号を出力する公知のPWM回路(図示しない)を備えている。
【0030】モータ駆動回路35は4個の電界効果型トランジスタを備えた公知のHブリッジ回路(図示しない)を備えており、前記モータ制御部25から出力されたデューティ比のPWM信号と、回転方向信号とに基づいて前記各トランジスタをオンオフ制御することにより、モータ6を正転又は逆転駆動し、操舵力にアシストトルクを付与する。
【0031】異常検出部26は、サブCPU23の目標電流比較部28及び符号判定部29から異常通知信号を入力すると、モータ制御部25に駆動停止信号を入力して、同モータ制御部25の機能を停止する。
【0032】サブCPU23は、各種制御プログラムを格納しているROM、作業用メモリとなるRAMを備えており、第2目標モータ駆動電流算出部27と、目標電流比較部28(第2比較手段に相当)、及び符号判定部29(第1比較手段に相当)とを機能的に有している。
【0033】第2目標モータ駆動電流算出部27は、トルクセンサ4で検出された電圧VT信号、及び車速センサ16からのパルス信号に基づいて回動トルクT及び車速Vを算出し、さらに、回動トルクTと車速Vに基づいて第2モータ駆動トルク指令値としての目標駆動電流(目標電流値)を算出し、その算出結果である目標電流値を目標電流比較部28に入力する。目標電流比較部28はメインCPU22からの信号線による内部通信で第1目標モータ駆動電流算出部24からメインCPU22側の目標電流値を得るとともに、第2目標モータ駆動電流算出部27からサブCPU23側の目標電流値を得る。そして、目標電流比較部28は両目標電流値を比較し、両目標電流値が互いに一致していない場合、メインCPU22での目標電流値の算出に異常があると判定して異常通知信号をメインCPU22の異常検出部26に入力する。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ステアリングシャフトにかかる回動トルクに基づいて算出された目標電流値と、モータ電流検出部で検出したモータ電流とから算出したモータ電流制御値に基づいて操舵力にアシストトルクを付与する電動パワーステアリング制御装置において、モータ制御部を有するメインCPU及びサブCPUを具備し、前記サブCPUが有している目標電流比較部は前記メインCPUからの信号線による内部通信でメインCPU側の目標電流値を得ると共に、前記サブCPUで算出された目標電流値と、前記メインCPUで算出された目標電流値が互いに一致していない場合、前記メインCPUでの目標電流値の算出に異常があると判定し、目標電流比較部からの異常通知信号が異常検出部に入力されるとモータ制御部の機能を停止する電動パワーステアリング制御装置。」

(3)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「ステアリングシャフトにかかる回動トルク」が前者における「ステアリングシャフトに発生する操舵トルク」に相当し、以下同様に、
「算出された」態様が「演算された」態様に、
「目標電流値」が「操舵補助力指令値」に、
「モータ電流検出部で検出したモータ電流」が「モータの電流検出値」に、
「算出した」態様が「演算した」態様に、
「モータ電流制御値」が「電流指令値」に、
「操舵力にアシストトルクを付与する」態様が「ステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている」態様に、
「電動パワーステアリング制御装置」が「電動パワーステアリング装置の制御装置」に、
「モータ制御部を有するメインCPU」が「モータを制御する第1の制御部」に、
「サブCPU」が「第2の制御部」に、それぞれ相当する。

また、後者の「サブCPUが有している目標電流比較部はメインCPUからの信号線による内部通信でメインCPU側の目標電流値を得る」態様と前者の「第1の制御部及び第2の制御部はシリアル通信で相互に暴走監視を行う」態様とは、「第1の制御部及び第2の制御部は通信を行う」との概念で共通する。

さらに、後者の「サブCPUで算出された目標電流値と、メインCPUで算出された目標電流値が互いに一致していない場合、前記メインCPUでの目標電流値の算出に異常があると判定」する態様が前者の「第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が正常か否かを判断」する態様に相当し、同様に、
「目標電流比較部からの異常通知信号が異常検出部に入力されるとモータ制御部の機能を停止する」態様が「異常が検出された場合にモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断する」態様に相当する。

したがって、両者は、
「ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基づいて演算された操舵補助力指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基づいてステアリング機構に操舵補助力を与えるようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、前記モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を具備し、第1の制御部及び第2の制御部は通信を行うと共に、前記第2の制御部で演算された操舵補助力指令値と、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値との差に基づいて、前記第1の制御部で演算された操舵補助力指令値が正常か否かを判断し、異常が検出された場合にモータ駆動信号及びリレーの少なくとも一方を遮断する電動パワーステアリング装置の制御装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
第1の制御部及び第2の制御部が通信を行う態様に関し、本願発明では「シリアル通信で相互に暴走監視を行う」ものであるのに対し、引用発明ではそのようなことを行っていない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
電動パワーステアリング装置の安全性を向上させるために、モータを制御する第1の制御部及び第2の制御部を設け、第1の制御部及び第2の制御部はシリアル通信で相互に暴走監視を行うことは、周知技術であり、例えば拒絶査定時に周知例として挙げられている特開平2001-18819号公報(「【請求項7】ステアリングシャフトに発生する操舵トルクに基いて演算された操舵補助指令値と、モータの電流検出値とから演算した電流指令値に基いてステアリング機構に操舵補助力を与える前記モータを制御するようになっている電動パワーステアリング装置の制御装置において、少なくともトルク信号、車速信号、前記モータ電流検出値、モータ端子電圧をそれぞれ入力する第一の制御部及び第二の制御部を具備して前記モータを制御すると共に、前記第一の制御部と前記第二の制御部の間をシリアル通信で接続し、相互に所定の通信コマンドを送受信することで、相手の制御部が暴走しないかを監視するようにしたことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。」なる記載、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによる操舵補助力を付与するようにした電動パワーステアリング装置の制御装置に関し、特にメイン及びサブの2つの制御部(CPU又はMCU:Micro Controller Unit)を具備し、一方でモータ制御を行い、他方で駆動系の異常を監視するようにして制御性や安全性を向上した電動パワーステアリング装置の制御装置に関する。」なる記載参照)等にも開示されている。

引用発明は、引用例の【0002】に記載されているように、電動パワーステアリング制御装置のフェールセーフ性を高めることを前提とした発明であり、電動パワーステアリング装置の安全性向上を課題としているといえるから、当該共通の課題の下に、引用発明に上記周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(5)むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-09 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-01 
出願番号 特願2002-291829(P2002-291829)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H02P)
P 1 8・ 561- Z (H02P)
P 1 8・ 121- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武市 匡絋牧 初梶本 直樹  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 小川 恭司
槙原 進
発明の名称 電動パワーステアリング装置の制御装置  
代理人 安形 雄三  

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