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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服20089428 | 審決 | 特許 |
不服20055258 | 審決 | 特許 |
不服200414995 | 審決 | 特許 |
不服200627219 | 審決 | 特許 |
不服20051842 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1215260 |
審判番号 | 不服2006-27998 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-12-13 |
確定日 | 2010-04-19 |
事件の表示 | 特願2006-506378「AG013736を含んでなる剤形」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開、WO2004/087152、平成18年9月28日国内公表、特表2006-522087〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年3月17日(パリ条約による優先権主張、2003年4月3日、米国;2003年7月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年5月18日付け拒絶理由通知に対応して同年8月22日付けで意見書の提出とともに特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたが、同年9月11日付けで拒絶査定がなされ(謄本の送達は同年9月14日)、これに対し、同年12月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされたものである。 その後、平成20年7月30日付けで上申書が提出され、同年8月30日付けで審尋が行なわれ、これに対し、同年11月14日付けで回答書が提出された。 第2.平成18年12月13日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成18年12月13日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成18年12月13日付け手続補正(以下、この補正を「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正前の特許請求の範囲(平成18年8月22日付け手続補正書を参照。)、即ち、 「【請求項1】?【請求項7】(省略) 【請求項8】 ヒトにおいて異常な細胞増殖を治療するための剤形であって、 式1: の化合物、またはその医薬的に許容される塩を投与当たり30mg以下の量で含んでなる前記剤形。 【請求項9】?【請求項21】(省略)」 を、以下の補正後の特許請求の範囲(平成18年12月13日付け手続補正書を参照。)、即ち、 「【請求項1】 ヒトにおいて癌を治療するための剤形であって、 式1: の化合物、またはその医薬的に許容される塩を投与当たり1-10mgの量で含んでなり、1日につき1回または2回の投与頻度で投与される前記剤形。 【請求項2】?【請求項14】(省略)」 とするものである(変更部分には合議体が下線を付した。)。 2.補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1?7を削除するとともに、補正前の請求項8の番号を繰り上げて請求項1とし、以下の(1)及び(2)のように補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項を限定することを含むものである。 (1)補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項である「異常な細胞増殖」を、補正後の請求項1では「癌」とし、治療対象疾患を限定する。 (2)補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項である「投与当たり30mg以下の量で含んでなる」を、補正後の請求項1では、「投与当たり1-10mgの量で含んでなり、」として投与当たりの用量を限定するとともに、「1日につき1回または2回の投与頻度で投与される」として投与頻度を限定する。 そうすると、本件補正のうち、上記の補正前の請求項8を補正後の請求項1とする補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明、即ち、 「【請求項1】 ヒトにおいて癌を治療するための剤形であって、 式1: の化合物、またはその医薬的に許容される塩を投与当たり1-10mgの量で含んでなり、1日につき1回または2回の投与頻度で投与される前記剤形。」(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。 2.1.引用例の記載事項 2.1.1.引用例1の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、特表2003-503481号公報(平成15年1月28日公表;原査定における「引用文献1」;以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付した。) <摘記事項A> 「以下の記載で明らかになるであろう本発明の各種の目的は、プロテインキナーゼ活性を調節及び/又は阻害する、下記のインダゾール化合物、並びに、その医薬上許容されるプロドラッグ、医薬上の活性代謝産物及び医薬上許容される塩(上記化合物、プロドラッグ、代謝産物及び塩をまとめて「薬剤(agents)」と称する)の発見によって達成された。このような薬剤を含有する医薬組成物は、ガン、並びに、糖尿病性網膜症、新血管形成緑内障、リュウマチ性関節炎及び乾鮮等、望ましくない腫瘍起因性血管形成及び/又は細胞増殖に関連する疾患等、キナーゼ活性により介在される疾患の処置に有用である。さらに薬剤は、VEGF-R、FGF-R、CDK複合体、CHK1、LCK、TEK、FAK及びホスホリラーゼキナーゼに関連するキナーゼ活性を調節及び/又は阻害に関連する好適な性質を有する。 一般的な側面において、本発明は、式I: 式中: R^(1)は、置換若しくは不置換のアリール基又はヘテロアリール基、又は、式CH=CH-R^(3)若しくはCH=N-R^(3)の基(式中、R^(3)は、置換若しくは不置換のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基である)であり;そして R^(2)は、置換若しくは不置換のアリール基又はヘテロアリール基、又は、Y-X(式中、Yは、O、S、C=CH_(2)、C=O、S=O、SO_(2)、アルキリデン基、NH又はN-(C1-C_(8)アルキル)基であり、Xは、置換若しくは不置換のAr、ヘテロアリール基、NH-(アルキル)基、NH-(シクロアルキル)基、NH-(ヘテロシクロアルキル)基、NH(アリール)基、NH(ヘテロアリール基)、NH-(アルコキシル)基又はNH-(ジアルキルアミド)基であり、Arはアリールである)である; の化合物に関する。」(第20頁【0016】?第21頁【0018】) <摘記事項B> 「・・・・, から選択される本発明の化合物は、最も好ましい。」(第26頁【0030】?第29頁【0033】) <摘記事項C> 「腫瘍起因性血管形成は、新たな毛細血管を既存の血管から形成する機構である。・・・・。一方で、望ましくない腫瘍起因性血管形成は、網膜症、乾鮮、リュウマチ性関節炎、老化が関連する斑紋変性(AMD)及びガン(固体腫瘍)等のいくつかの疾患の顕著な特徴である。・・・・。腫瘍起因性血管形成プロセスに関与することが示されているプロテインキナーゼとして、成長因子受容体チロシンキナーゼ・ファミリーの3つのメンバー:VEGF-R2(KDR(キナーゼ挿入ドメイン受容体)及びFLK-1としても知られている血管内皮成長因子受容体2);FGF-R(繊維芽細胞成長因子受容体);及び、TEK(Tie-2としても知られている)が挙げられる。 内皮細胞中にのみ発現するVEGF-R2は、強力な血管内皮腫瘍起因性血管形成成長因子VEGFと結合して、その細胞内キナーゼ活性の活性化により、後のシグナル変換を媒介する。すなわち、シグナル変換を媒介できないVEGF-R2変異株で示されたように、VEGF-R2キナーゼ活性を直接阻害した結果、外因性VEGFの存在下でも腫瘍起因性血管形成は減少するであろうことが予想される(・・・・)。・・・・。 同様に、FGF-Rは、腫瘍起因性血管形成成長因子aFGF及びbFGFに結合して、後の細胞内シグナル伝達を介在する。最近、bFGF等の成長因子は一定のサイズに達した固体腫瘍中で腫瘍起因性血管形成を誘導する決定的な役割を果たしうることが示唆された。・・・・。 ・・・・ 上記発展の結果、VEGF-R2、FGF-R及び/又はTEKのキナーゼ活性を阻害する化合物の使用により、腫瘍起因性血管形成を処置することが提案された。例えば、WIPO国際公報No.WO97/34876は、ガン、糖尿病、乾鮮、リュウマチ、カポジ肉腫、血管腫、急性腎炎、慢性腎炎、関節炎、動脈再発挟搾症、自己免疫疾患、急性炎症、及び、網膜管増殖に関連する眼病等の異常腫瘍起因性血管形成並びに/又は管脈透過性増加に関連する疾患状態の処置に使用してよいVEGF-R2の阻害剤である一定のシノリン(cinnoline)誘導体を開示している。」(第12頁【0003】?第14頁【0006】) <摘記事項D> 「本発明の化合物は、その他の既知の治療剤と組み合わせて好適に使用されてよい。例えば、抗腫瘍性血管形成活性を有する式I、II、III又はIVの化合物は、タキソール、タキソテレ(taxotere)、ビンブラスチン、シスプラチン、ドキソルビシン、アドリアマイシン等の細胞毒性化学療法剤と共投与され、抗腫瘍効果を強化する。」(第30頁【0034】) <摘記事項E> 「本発明の活性剤は、以下の医薬組成物中に処方されてよい。本発明の医薬組成物は、有効な調整、調節又は阻害の量の式I、II、III又はIVの化合物、及び、不活性な医薬上許容できる担体又は賦形剤を含有する。ある医薬組成物の実施形態において、プロテインキナーゼ調整に関わる治療上の利点を付与する為に、本発明の薬剤を有効量付与する。「有効量」とは、プロテインキナーゼの効果が最小限調節される量を意味する。この組成物は、例えば非経口投与や経口投与等の投与形態に好適な単位投薬量型で調製される。発明の薬剤は、活性成分として治療上有効な量の薬剤(例えば式Iの化合物)と、従来の方法に従った好適な医薬基剤又は賦形剤とを組み合わせて調製される従来の投薬量型で投与される。この手法は、必要な調製に好適な成分を、攪拌、粉砕、及び、圧縮又は溶解することを伴ってよい。 ・・・・ 様々な医薬型が使用されうる。すなわち、固体基剤が使用される場合、調剤は、錠剤化して、粉末型若しくはペレット型、又は、トローチ型若しくはトローチ剤型で硬ゼラチンカプセル中に配置されてよい。固体基剤の量は変化してよいが、一般に約25mg?約1gであろう。液体基剤を使用する場合、調剤はシロップ型、エマルション型、軟ゼラチンカプセル型、アンプル又は容器中の滅菌注入溶液型若しくは懸濁液型、又は、非水溶性液体懸濁液型にされよう。」(第43頁【0056】?44頁【0057】) <摘記事項F> 「本発明の組成物で使用される薬剤の実際の投薬量は、使用される特定の複合体、処方される特定の組成物、投与形態、処置すべき特定の部位、ホスト及び疾患に従って変化するであることが好適である。所定の条件に対する最適な投薬量は、薬剤の実験データに鑑み従来の投薬量決定試験を使用して、当業者によって確かめられうる。経口投与の場合、一般に使用される例示的な1日の投薬量は、好適な間隔で繰り変えされる処置のクールで、約0.001?約1000mg/kg体重、好ましくは約0.001?約50mg/kg体重である。」(第44頁【0058】) <摘記事項G> 「実施例33(a):6-[2-(メチルカルバモイル)フェニルスルファニル]-3-E-[2-(ピリジン-2-イル)エテニル]インダゾール 実施例11に記載したのと同様の方法で、6-[2-(メチルカルバモイル)フェニルスルファニル]-3-E-[2-(ピリジン-2-イル)エテニル]-1-[2-(トリメチル-シラニル)-エトキシメチル]-1H-インダゾールから実施例33(a)を調製した。・・・・」(第251頁【0677】?第258頁【0690】) <摘記事項H> 「生物学試験;酵素アッセイVEGF、FGF、その他の等の成長因子による細胞増殖刺激は、その各受容体のチロシンキナーゼの自己リン酸化の誘導に依存する。従って、その成長因子により誘導される自己リン酸化を阻害するプロテインキナーゼインヒビターの能力は、ペプチド基質の阻害により測定されうる。化合物のプロテインキナーゼ阻害活性を測定するために、以下の構築物(construct)を考案した。 アッセイのためのVEGF-R2構築物:・・・・。 アッセイのためのFGF-R1構築物:・・・・。」(第430頁【1209】?第431頁【1211】) <摘記事項I> 「VEGF-R2アッセイ連結分光光度的(FLVK-P)アッセイ・・・・。リン酸化したVEGF-R2Δ50(以下の表ではFLVK-Pと示した)のアッセイ条件は、以下の通りであった:・・・・。リン酸化していないVEGF-R2Δ50(以下の表ではFLVKと示した)のアッセイ条件は、以下の通りであった:・・・・。アッセイは、5?40nMの酵素で開始した。Ki値は、様々な濃度の試験化合物存在下での酵素活性を測定することにより決定した。・・・・。 ・・・・ FGF-Rアッセイ分光光度的アッセイを、以下に示す濃度変更以外は、上記VEGF-R2で述べた様にして行なった:・・・・。」(第433頁【1217】?第434頁【1219】)) <摘記事項J> 「さまざまなアッセイを使用した化合物の試験結果を以下の表中にまとめた。他に表示しない限り、表記“%@”は言及した濃度での阻害%を示し、“*”値は1μM濃度での、“**”値は50nM濃度での化合物のKi(nM)又は阻害パーセントを表す。・・・・。 表1 ・・・・ ・・・・」(第442頁【1235】?第448頁【1241】、特に、第445頁) 2.1.2.引用例2の記載事項 同じく原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、Dana Hu-Lowe et al., "Pharmacological activities of AG013736, a small molecule inhibitor of VEGF/PDGR recptor tyrosine kinase", Proceedings of the American Association for Cancer Research, 2002, Vol.43, p.1082(原査定における「引用文献2」;以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(英文であるため、日本語訳で摘記し下線を付した)。 「AG013736は、強力な低分子のVEGF/PDGF受容体キナーゼ阻害剤であり、新規な抗血管新生剤として開発中である。in vitroにおいてAG013736はVEGFR-2のリン酸化及びVEGF刺激による内皮細胞の増殖と維持を阻害した。経口にて1日2回(PO,BID)の投与を行うと、AG013736は、マウスに皮下移植されたヒト大腸癌の成長を効率的に阻害したことをここに報告する。この抗腫瘍活性は、腫瘍の壊死の増加ととともに、微小血管密度の顕著な減少を伴うものであった。マウス・ルイス肺癌(Lewis lung carcinoma)モデルにおいて、AG013736のPO,BIDの投与は、用量依存的な増殖遅延をもたらした。LLC癌モデルにおけるED50に対応する最小有効量及びED90に対応する生物学的活性濃度を決定した。Cmax、Cmin、AUCと、薬物有効性との間の相関関係について考察することになろう。さらに、ヒト黒色腫(melanoma tumor)を同所移植した重症複合免疫不全(SCID)マウスにおいて、AG013736は、肺及びリンパ節への転移を顕著に抑制した。これらの前臨床データは、抗癌治療を向上させる新規なチロシンキナーゼ阻害剤の臨床試験をサポートする。」 2.2.引用例に記載された発明 引用例1には、一般式I(化学式は省略する)で表される化合物を含有する医薬組成物が、ガン等の望ましくない腫瘍起因性血管形成及び/又は細胞増殖に関連する疾患等の処置に有用であることが記載され(摘記事項A)、上記一般式Iの化合物は、細胞毒性化学療法剤と共投与されて抗腫瘍効果を強化することが記載され(摘記事項D)、上記一般式Iに包含されることが明らかな、次の構造式: で表される化合物が、最も好ましいとして列記された30個の化合物のうちの一つとして記載され(摘記事項B)、上記構造式の化合物を合成した製造例が「実施例33(a)」として具体的に記載されている(摘記事項G)。 また、引用例1には、腫瘍起因性血管形成プロセスにおいて、VEGF-R2(血管内皮成長因子受容体2)及びFGF-R(繊維芽細胞成長因子受容体)等のプロテインキナーゼが関与しており、これらの受容体のキナーゼ活性を阻害する化合物が、ガン等の異常な腫瘍起因性血管形成に関連する疾患の処置に使用され得ることが記載され(摘記事項C)、上記「実施例33(a)」の化合物がVEGF-R2及びFGF-R等に対する阻害活性を有することが、薬理試験データによって具体的に裏付けられている(摘記事項H?J)。 そして、引用例1には、前記一般式Iの化合物を含有する医薬組成物の実施形態において、経口投与等の投与形態に好適な単位投薬量型で調製され、錠剤等の医薬型が使用され得ることが記載されており(摘記事項E)、経口投与の場合には、一般に使用される例示的な1日の投薬量は、好適な間隔で繰り返される処置のクールで、好ましくは約0.001?約50mg/kg体重であることが記載されている(摘記事項F)。 以上によれば、引用例1には、 「次の構造式: で表される化合物を、1日の投薬量として約0.001?約50mg/kg体重の量で含有する、ガンの処置のための医薬組成物の医薬型。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 2.3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明における化合物は、その化学構造式からみて、本願補正発明における式1の化合物と同一のものであることは明らかであり、引用発明の医薬組成物の治療対象が、ヒトにおけるガン(即ち、癌)を含むものであることも明らかである。 また、本願補正発明は「剤形」に係るものであるが、本願明細書の【0038】?【0043】の記載によれば、該「剤形」は、錠剤等の医薬組成物の形態のことであると解されるから、引用発明における「医薬組成物の医薬型」は、本願補正発明における「剤形」相当する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、 「ヒトにおいて癌を治療するための剤形であって、式1(化学構造式は省略する)の化合物を含んでなる前記剤形。」 である点で一致しており、次の点で相違している。 <相違点> 本願補正発明では、「投与当たり1-10mgの量を含んでなり、1日につき1回または2回の投与頻度で投与される」として、投与当たりの用量の範囲と投与頻度が特定されているのに対し、引用発明では、「1日の投薬量として約0.001?約50mg/kg体重の量」として、体重1kg当たり1日当たりの投与量の範囲が示されており、投与頻度については特定されていない点。 2.4.判断 上記相違点について、以下検討する。 2.4.1.投与量・投与頻度の設定について 本願補正発明では、投与頻度に関しては「1日につき1回または2回」とされており、これには「1日につき1回」と「1日につき2回」という2つの場合が含まれるところ、以下の検討においては、これらのうちの「1日につき2回」とする場合の本願補正発明が、当業者にとって容易に想到し得たものであるかを検討することとする。 引用発明においては、体重1kg当たり1日当たりの投与量の範囲が示されているところ、成人の平均体重を60kgと仮定すると、引用発明の成人に対する1日当たりの投与量は「約0.060?約3000mg」となる。 一方、本件補正発明の投与量は、1日当たりの投与量に換算すると、その下限は、投与当たり1mgを1日1回、即ち1mgとなり、その上限は、投与当たり10mgを1日2回、即ち20mgとなり、その範囲は「1mg?20mg」となる。 この本件補正発明の1日当たりの投与量の範囲は、上記の引用発明の成人に対する1日当たりの投与量の範囲に完全に包含されるものであり、ヒトの体重を、例えば、30kg?100kgの範囲で変えて換算したとしても、本件補正発明の1日当たりの投与量の範囲は、引用発明の1日当たりの投与量の範囲に包含される。 そして、引用例1には、前記一般式Iの化合物を含有する医薬組成物の実施形態において、当該化合物はプロテインキナーゼ活性が最小限調節される量(有効量)付与されることが記載され(摘記事項E)、使用される薬剤の実際の投薬量は、使用される特定の複合体、処方される特定の組成物、投与形態、処置すべき特定の部位、ホスト及び疾患に従って変化することが好適であり、所定の条件に対する最適な投薬量は、薬剤の実験データに鑑み、従来の投薬量決定試験を行い、当業者により確かめられ得るものであることが記載されている(摘記事項F)。 また、引用例2には、前臨床試験の結果として、化合物「AG013736」(本願明細書【0005】の記載からみて、本願補正発明における式1の化合物に対応するものと認められる。)を、マウスに経口で1日に2回の頻度で投与したところ、優れた抗腫瘍活性が得られたことが記載されている(「第2.1.2」を参照)。 さらに、一般に、薬物の投与量については、確実に目的の作用が得られ、かつ毒性や副作用が生じない、最小限の投与量とすることが、本願の優先権主張の日前において技術常識であったと認められ(例えば、金戸洋外5名編「薬理学」(昭和61年4月15日)廣川書店の第17頁には、「治療の目的を達するためには、最小中毒量 minimum toxic dose のb(審決注:bは最小中毒量を示す)以下で、できるだけ少量でかつ確実有効量を与えねばならない。」と記載されている。)、動物実験等で既に有効性が確認された薬物については、臨床試験を行うことにより、当該薬物の適切な用量は適宜定められるものであったといえる。 以上のことを勘案すると、ヒトの癌を治療対象とする上記引用発明についても、通常の手法で薬量決定試験や実際の臨床試験を行い、引用例1に開示された1日の投与量の範囲内において、より適切な1日の投与量を検討し、動物実験で有効性が確認された引用例2に記載の1日2回の投与頻度をヒトに適用した場合の適切な投与当たりの用量を求め、臨床試験で生じた毒性や副作用等の症例も考慮し、その結果として、「投与当たり1-10mgの量を含んでなり、1日につき2回の投与頻度で投与される」という用量及び投与頻度を設定することは、当業者であれば特に困難を伴わずになし得ることである。 2.4.2.本願補正発明の効果について 本願明細書の【0087】?【0091】には、「実施例2」として、式1の化合物を固形腫瘍の患者に様々な用量で投与した試験について記載されており、最大耐薬量(MTD)を、本願補正発明の用量・投与頻度の範囲内である「絶食状態で5mg BID」と決定し、MTDより高い用量を投与した患者のうち、2名が致命的な喀血を起こしたこと等が記載されている。 しかしながら、前記のとおり、薬物の用量については、臨床試験で生じた毒性や副作用等の症例を考慮して設定されるものであるから、その過程において、一部用量範囲、特に高用量範囲で重篤な毒性や副作用が生じることが確認されたとしても、結果として、引用発明で特定された投与量の範囲内で用量が設定できたのであるから、その一部用量範囲において毒性や副作用が生じることがあるからといって、本願補正発明が進歩性を有するものであるとすることはできない。 また、本願明細書の【0091】には、式1の化合物を投与された患者の一部において腫瘍血管系応答の急激な減少等が確認されたこと等が記載されているが、これらは引用例1に記載の薬理試験データ及び引用例2に記載の動物実験の結果により示されている式1の化合物の抗腫瘍性血管形成活性等を、単にヒトにおいて臨床的に確認したものに過ぎない。 2.4.3.請求人の主張について 請求人は、平成19年2月13日付け手続補正(方式)により補正された審判請求書の請求の理由において、提出物件1?4を提示し、本願補正発明における用量・投与間隔は、引用例1及び2に記載の臨床前データから全く予測できず、多くのヒト臨床試験により初めて特定されるものであること、及び本願補正発明は投薬毒性を示さず多種多様な癌の治療に有効であることを主張している。 また、請求人は、審尋に対する平成20年11月14日付け回答書において、参考文献1?7を提示し、イヌを用いた試験データに基づいて標準的に計算された安全なヒトの式1の化合物の用量は30mg/BIDであったが、予想外の毒性を示し、5mg/BIDでは、制御不能又は回復不能な副作用は生じないこと、及び本願補正発明は多種多様な癌の治療に有効であることを主張している。 しかしながら、前記のとおり、式1の化合物について実際にヒト臨床試験を行い、その結果に基づいて、ヒトにおいて重篤な毒性や副作用が生じないような用法及び投与頻度を設定することは、引用例1及び2に接した当業者であれば容易になし得ることであるし、式1の化合物が多種多様な癌の治療に有効であることも、引用例1及び2に記載の試験結果により示されている式1の化合物の抗腫瘍活性等を、単にヒトにおいて臨床的に確認したものに過ぎない。 2.5.小括 したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.補正の却下の決定のむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、その余の補正事項について検討するまでもなく、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成18年12月13日付け手続補正は、上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成18年8月22日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項8に係る発明は、次のとおりである。 「【請求項8】 ヒトにおいて異常な細胞増殖を治療するための剤形であって、 式1: の化合物、またはその医薬的に許容される塩を投与当たり30mg以下の量で含んでなる前記剤形。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2、それらの記載事項、並びに、引用発明は、前記「第2.2.1」及び「第2.2.2」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、「第2.2」にて検討した本願補正発明とは、以下の関係を有するものとなっている。 (1)本願発明における治療対象疾患は、「異常な細胞増殖」であり、本願補正発明で特定された「癌」を含む、より上位の疾患となっている。 (2)本願発明における用量は、「投与当たり30mg以下の量」であり、本願補正発明で特定された「投与当たり1-10mgの量」を含む、より広 い範囲の用量となっており、また、本願発明は、本願補正発明で特定された「1日につき1回または2回の投与頻度で投与される」との投与間隔の限定が付されておらず、より広い用法を含むものとなっている。 (3)上記(1)及び(2)の点以外は、本願発明の発明を特定するための事項は、本願補正発明の発明を特定するための事項と全て共通している。 そうすると、本願発明と比較して、治療対象疾患が「癌」に限定され、用法・用量もより限定された本願補正発明が、前記「第2.2.」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それを包含する本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4.結語 以上のとおり、本願請求項8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないのであるから、請求項8以外の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-26 |
結審通知日 | 2009-11-27 |
審決日 | 2009-12-08 |
出願番号 | 特願2006-506378(P2006-506378) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K) P 1 8・ 56- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松波 由美子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
弘實 謙二 井上 典之 |
発明の名称 | AG013736を含んでなる剤形 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 泉谷 玲子 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 千葉 昭男 |