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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1215364
審判番号 不服2008-11812  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2010-04-22 
事件の表示 特願2002- 48173「円筒形アルカリ電池」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 5日出願公開、特開2003-249232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成14年2月25日の出願であって、平成20年1月4日付けの拒絶理由通知書が送付され、同年3月7日付けで手続補正がされ、同年3月28日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、同年5月8日に審判請求がされるとともに、同年6月5日付けで手続補正がされたものであり、当審において平成21年8月26日付けで前置審査報告書に基づく審尋をしたところ、同年10月30日付けで回答書が提出されたものである。

第2 本件発明について

I.本件発明
本件発明は、平成20年6月5日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりである。

「正極作用物質および負極作用物質を内包した正極容器の開口部に、負極集電棒を溶接した負極端子、ガスケットおよび封口板が設置され、正極容器がカシメ加工されることで密封された円筒形アルカリ電池において、前記正極容器が、予め両面にニッケルメッキを施し、さらに熱処理加工でニッケルの拡散層を形成した鋼板で形成されており、その内面の表面粗さが十点平均粗さとしてガスケットと接する部分で1μm以下、正極作用物質と接する部分で2?5μmであって、前記正極作用物質と接する部分は絞り加工により薄くすることによって表面粗さが調整されていることを特徴とする円筒形アルカリ電池。」

II.原査定の理由の概要

原査定の本件に対する拒絶の理由は、本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1,2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

刊行物1:特開平09-161736号公報
刊行物2:特開平09-312150号公報

III.刊行物及びその記載事項
特開平09-161736号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)
「【請求項1】
プレめっき鋼板から成形された、かしめ部と主部からなる有底筒状の電池用缶であって、側壁主部の内面の表面粗さRaが0.10?1.9μmであり、かしめ部内面の表面粗さRaが1.0?0.01μmであることを特徴とする、電池用缶。」

(1b)
「【請求項2】
電池の内面側のめっき層の表層がNi、Ni-Fe合金、Ni-Sn合金、のいずれか一の層であり、中間層が存在しないか存在する場合はNi、Ni-Sn-Fe合金のいずれか一の層であり、下地層は存在しないか存在する場合はNi、またはNi-Fe合金の層であって、電池の外面側のめっき層の表層がNi、またはNi-Fe合金の層であり、下地層は存在しないか存在する場合はNi-Fe合金の層である、請求項1に記載された、電池用缶。」

(1c)
「【0003】
本発明は、保存後の短絡電流の低下を防止し、かしめ部からの漏液を防止し、正極合剤と缶との接触面積を大きくして接触抵抗を減少し、高性能、高安全性の端子を兼ねた電池用缶とその製造方法を提供する。」

(1d)
「【0005】
本発明における、缶の側面主部の内面の表面粗さRaは粗さが0.10μm以下では粗さが小さすぎ、正極合剤との接触抵抗の低減が不充分となるため電池性能が劣る。また1.9μm以上の大きな粗さでは板厚のくびれを伴いやすくピンホールの原因となる危険がある。
【0006】
かしめ部においては表面粗さRaは、かしめは縮み加工で表面が粗いと円周方向圧縮応力によるしわが発生し易いのでかしめ加工性とシール性から制限される。Raが1.0μm以上ではガスケットとの間に間隙が生じやすくなり電解液の漏液が発生する危険がある。0.01μm以下にすることは技術的に出来ない。」

(1e)
「【0007】
粗面の粗さを表すパラメーターとして、JIS B0601-1994 には次のように定義されている。
算術平均粗さ(Ra)
最大高さ(Ry)
十点平均粗さ(Rz)
凹凸の平均間隔(Sm)
局部山頂の平均間隔(S)
負荷長さ率(tp)
いずれも粗さ曲線から求められる数値であり粗さ曲線には、山、谷などが定義されている。ところで上述のパラメータの内、Sm、Sでは高さ方向の量が入らず、Ry、Rz、tpでは微小な凹凸である局部山、局部谷の存在が無視されるので本発明ではRaで粗さを表すことにした。なお、Raの測定は東京精密株式会社製、表面粗さ形状測定機 575A-3DFを用いた。」

(1f)
「【0012】
・・・かしめ部の厚みのバラツキが0.03mmを越えると、かしめ不良が生じやすいという問題が生じる。したがって底部の厚みのばらつきが0.05mm?0、側壁主部の厚みのばらつきが0.04mm?0、かしめ部の厚みのばらつきが0.03mm?0であることが好ましい。この範囲外では安定した性能が得られなくなる傾向があり好ましくない。」

(1g)
「【0019】
【発明の実施の形態】
発明の実施の態様を図面に基づき製造方法により説明する。はじめに説明のため図14に電池を示す。1は正極缶、2は正極合剤、3がセパレータ、4が集電体、5がガスケット、6が負極端子、7が負極活物質である。本発明は正極缶に関する。
【0020】
図1は、カップ8を絞り加工したところである。・・・図2?図5はいずれも順次再絞り加工した缶を示し、図5で缶体の径はd4となった。絞りと再絞りの繰り返しで径を小さくするとともに高さを増すが、側壁厚みが絞り作用で開口部程厚くなるのでこれを均一薄肉化するために6工程目でしごきを導入する。
【0021】
図6はしごき加工した缶体を示す。壁部の肉厚はt1となり、径d5はd4と同一であり縮径はない。・・・
【0022】
図7は側壁11を再絞り加工し側壁主部20を形成した缶であって径d6はしごき加工した缶の径d5より小さくなっている。側壁先端部近傍21は絞られていないので径はしごき加工した缶と同一である。再絞り比(d5/d6)は比較的小さく(1.04?1.20)し、かつダイラジアスを大きめにし、さらにクリアランスは側壁と同等(t1)にして均一化された側壁厚み(t1)を変化させないようにすることがよい。こうして出来た側壁主部は半径方向の絞り加工により、しごき工程直後と比較して表面粗さRaが大きくなる。Raが大きくなると加工油の洗浄が困難になり、残油が充填物に何らかの悪影響を与え、電池性能を低下させる可能性があるので極端に大きく出来ない。・・・
【0023】
図8は段差部22と側壁先端部近傍21を再絞りしかしめ部23を形成した缶体である。再絞り比は側壁主部より小さいので径d7はしごき加工した缶の径d5より小さいが、側面主部の径d6より大となっている。このように側壁のかしめ部再絞りは側壁主部を形成した後、8工程目に行う。この部分の径d7はd6よりわずかに大きいが、そのため再絞り比が主部より小さくなり粗さの変化は少なく、従って主部より滑らかである。この場合絞りしごきすればより滑らかなかしめ部が得られる。この再絞りでもしごきで均一になった厚みを崩さないことが重要である。このように径はd5>d7>d6となる。・・・」

(1h)
「【0027】
【実施例】
次に実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明する。
【0028】
実施例1
炭素0.03%、マンガン0.18%、リン0.012%、硫黄0.002%の冷延鋼板(厚み0.25mm)の両面にニッケルめっき(厚み2 μm )した後、熱処理して拡散させ、ニッケル-鉄合金層を形成させた材料を用いた。板の状態で水溶性の加工油(日本工作油製 G2700 NT)を塗り、直径51mmに打ち抜き、図1ないし図9の工程にピップ部形成を加えたプロセスで、主部内径13.4mm、かしめ部内径13.7mm、高さ50.3mm、側壁部厚み0.21mmの缶をプレス成形した。缶を40℃の湯で60秒間スプレー洗浄し、乾燥させ電池用缶を得た。この缶を正極缶として使い以下の手順で単3サイズのアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガンと黒鉛とを水酸化カリウムで混練し、加圧成形してペレット状にしたものを正極合剤とした。この正極合剤を缶内に挿入した後、セパレータを挿入し、亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極活物質をセパレータ内に入れた。かしめ部下部をネックイン加工後、集電体を溶接した負極端子、ガスケットを組み立てたものを挿着し、開口端をかしめて電池とした。電池を25℃で16時間放置した直後のものと60℃-湿度95%に4週間保存したものをそれぞれ30個、短絡電流値、内部抵抗(交流インピーダンス法)を測定した。測定結果の平均値(除 漏洩缶)を表3に示す。」

(1i)
「【0029】
【表3】



(1j)
「【図14】



IV.当審の判断

[1]刊行物1に記載された発明

刊行物1の摘示(1a)には、「プレめっき鋼板から成形された、かしめ部と主部からなる有底筒状の電池用缶であって、側壁主部の内面の表面粗さRaが0.10?1.9μmであり、かしめ部内面の表面粗さRaが1.0?0.01μmである」ものが記載されている。
そして、その実施例として、刊行物1の摘示(1h)には、「冷延鋼板(・・・)の両面にニッケルめっき(・・・)した後、熱処理して拡散させ、ニッケル-鉄合金層を形成させた材料を用い」、この材料を用いて、「図1ないし図9の工程にピップ部形成を加えたプロセスで、・・・プレス成形し・・・電池用缶を得」て、「この缶を正極缶として使い・・・単3サイズのアルカリマンガン電池を作成した」ことが記載されている。
この実施例に関して、刊行物1の摘示(1i)には、主部の表面粗さが、Raで0.14?1.82μm、かしめ部の表面粗さが、Raで0.08?0.92μmのものが記載されている。
さらに、刊行物1の摘示(1g)には、図1ないし図8の工程に関する説明として、図1でカップが絞り加工され、図2?図5で順次再絞り加工され、側壁厚みが絞り作用で開口部ほど厚くなるのでこれを均一薄肉化するために図6でしごき加工され、図7,図8で、しごき加工後の再絞り加工され、側壁主部、側壁先端部近傍の表面粗さを、側壁厚みを変化させることなく所定の粗さにすることが記載されている。
また、刊行物1の摘示(1g)の「図14に電池を示す。1は正極缶、2は正極合剤、3がセパレータ、4が集電体、5がガスケット、6が負極端子、7が負極活物質である」との記載及び摘示(1j)の【図14】における図示、さらに、摘示(1h)の「この缶を正極缶として使い以下の手順で単3サイズのアルカリマンガン電池を作成した。二酸化マンガンと黒鉛とを水酸化カリウムで混練し、加圧成形してペレット状にしたものを正極合剤とした。この正極合剤を缶内に挿入した後、セパレータを挿入し、亜鉛粒と酸化亜鉛を飽和させた水酸化カリウムからなる負極活物質をセパレータ内に入れた。かしめ部下部をネックイン加工後、集電体を溶接した負極端子、ガスケットを組み立てたものを挿着し、開口端をかしめて電池とした。」との記載から、刊行物1記載の電池は、「正極作用物質および負極作用物質を内包した正極容器の開口部に、負極集電棒を溶接した負極端子、ガスケットおよび封口板が設置され、正極容器がカシメ加工されることで密封された円筒形アルカリ電池」であることは明らかである。

以上の記載及び認定事項を、本件発明の記載振りに則り整理して記載すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

『正極作用物質および負極作用物質を内包した正極容器の開口部に、負極集電棒を溶接した負極端子、ガスケットおよび封口板が設置され、正極容器がカシメ加工されることで密封された円筒形アルカリ電池において、前記正極容器が、両面にニッケルめっきをした後、さらに熱処理して拡散させ、ニッケル-鉄合金層を形成させた冷延鋼板で形成されており、その内面の表面粗さが算術平均粗さとしてかしめ部内面で0.08?0.92μm、側壁主部の内面で0.14?1.82μmであって、前記側壁主部は絞り加工、再絞り加工、しごき加工により薄くするとともに、しごき加工後に行われる再絞り加工によって、側壁厚みを変化させることなく表面粗さが調整されていることを特徴とする円筒形アルカリ電池。』

[2]対比・判断
本件発明(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の『両面にニッケルめっきをした後、さらに熱処理して拡散させ、ニッケル-鉄合金層を形成させた」たことは、熱処理に先立ちニッケルめっきをしており、かつ、熱処理により拡散層として、「ニッケル-鉄合金層」を形成しているから、前者の「予め両面にニッケルメッキを施し、さらに熱処理加工でニッケルの拡散層を形成した」に相当する。
また、後者の『冷延鋼板』は、前者の「鋼板」に相当する。さらに、後者の『かしめ部内面』、『側壁主部の内面』は摘示(1f)及び【図14】、及び単3サイズのアルカリ電池の周知の構造から見てそれぞれ、前者の「ガスケットと接する部分」、「正極作用物質と接する部分」に相当することは明らかである。。
してみると、両者は、

「正極作用物質および負極作用物質を内包した正極容器の開口部に、負極集電棒を溶接した負極端子、ガスケットおよび封口板が設置され、正極容器がカシメ加工されることで密封された円筒形アルカリ電池において、前記正極容器が、予め両面にニッケルメッキを施し、さらに熱処理加工でニッケルの拡散層を形成した鋼板で形成されており、前記正極作用物質と接する部分は絞り加工により表面粗さが調整されていることを特徴とする円筒形アルカリ電池。」

で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1:本件発明では、表面粗さが「十点平均粗さ」として算出されるものであって、「ガスケットと接する部分で1μm以下、正極作用物質と接する部分で2?5μm」であるのに対し、刊行物1発明では、『算術平均粗さとして、かしめ部内面で0.08?0.92μm、側壁主部の内面で0.14?1.82μm』と特定されているものの、十点平均粗さによる表面粗さが不明である点。

相違点2:本件発明では、「正極作用物質と接する部分は絞り加工により薄くすることによって表面粗さが調整されている」のに対して、刊行物1発明においては、『側壁主部は絞り加工、再絞り加工、しごき加工により薄くするとともに、しごき加工後の再絞り加工によって、側壁厚みを変化させることなく表面粗さが調整されている』ものである点。

上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物1の摘示(1c)、(1d)にあるように、刊行物1発明は、かしめ部からの漏液を防止するために、かしめ部内面の表面粗さを小さくし、正極合剤と缶との接触面積を大きくして接触抵抗を減少させるために、側壁主部の内面の表面粗さを大きく調整するものであり、その表面粗さの指標として、刊行物1の摘示(1e)に記載の、「Sm、Sでは高さ方向の量が入らず、Ry、Rz、tpでは微小な凹凸である局部山、局部谷の存在が無視される」との理由から、Raを選択するものである。
ところで、刊行物1の摘示(1e)や刊行物2の【0026】、【図4】にもあるように、電池缶の表面粗さの算出法として、「十点平均粗さ(Rz)」、「算術平均粗さ(Ra)」は当該技術分野においてよく用いられる指標であり、Rzによっても、粗さの大小関係やその程度を特定することは可能である。また、本願明細書の記載及び電話による審尋への回答(平成22年2月9日回答、応対記録を参照)からみても、本件発明において、表面粗さの指標として、特にRzを採用した格別の技術的意義も認められない。
してみると、刊行物1発明において、「かしめ部からの漏液を防止し、正極合剤と缶との接触面積を大きくして接触抵抗を減少させる」との目的を達成するために、電池缶のかしめ部内面と側壁主部内面の表面粗さの指標としてRzを採用し、本件発明の「ガスケットと接する部分で1μm以下、正極作用物質と接する部分で2?5μm」との条件を満たすものとすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。

(2)相違点2について
刊行物1の摘示(1f)にあるように、刊行物1発明では、側壁主部やかしめ部の厚みのばらつきをおさえるとともに、電池缶のかしめ部内面と側壁主部内面の表面粗さを調整するために、絞り加工、再絞り加工、しごき加工、再絞り加工を組み合わせるて加工している。しかしながら、そもそも絞り加工の条件により、厚みを変化させつつ表面粗さを調整しうることは、板材加工技術上周知である(故に、刊行物1の摘示(1g)の【0022】には、再絞り加工において、厚みを変化させることなく表面粗さを調整するための条件に関する記載があるといえる)から、表面粗さの調整を多段の厚み調整後に行うか、厚み調整と同時に絞り加工によって行うかは、求められる厚みの均一性や表面粗さの精度とコストとの兼ね合いに応じて、当業者が適宜選択しなし得る程度のことにすぎない。

(3)小括
よって、本件発明2は、刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものである。

IV.まとめ
上記のとおり、本件発明は、刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-17 
結審通知日 2010-02-23 
審決日 2010-03-08 
出願番号 特願2002-48173(P2002-48173)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 吉水 純子
植前 充司
発明の名称 円筒形アルカリ電池  
代理人 鹿股 俊雄  

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