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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1215753
審判番号 不服2007-29830  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-01 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2003-26510号「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月19日出願公開、特開2004-55513号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年7月23日に出願した特願2002-213636号の一部を平成15年2月3日に新たな出願としたものであって、平成19年9月21日付けで拒絶査定がなされ(同年10月2日発送)、これに対し、同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年11月26日付けで手続補正がなされた。そして、当審において平成21年12月4日付けの補正の却下の決定により平成19年11月26日付け手続補正は却下され、同日付けで拒絶の理由が通知され(同年12月8日発送)、これに対して、平成22年2月1日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものである。

「コネクタハウジングには、端子金具を挿入可能なキャビティが設けられ、このキャビティ内には、挿入される端子金具に係止可能なランスが設けられているものにおいて、
前記キャビティの前端部のうち前記ランスとの対向面には、キャビティ内に挿入される前記端子金具をランス側へ押し出して同ランス側に変位させるための張出部が設けられ、この張出部はこれより後方の壁面から連続して形成され、同後方の壁面の高さ位置から徐々にランス側へ向けてテーパー状に張り出し、かつその張り出し幅が前記対向面の全幅に亘るようにして設けられており、
前記端子金具のうち前記ランスに対向する外壁は、その内側に位置する天井壁の外側に重ね合わされることによって形成されるとともに、前記外壁には、前記ランスが進入するのを許容する切欠部が形成され、かつ、この切欠部における前側の切断端縁には叩き出しにより係止突部が外側へ突出して形成されることで、前記ランスが前記切欠部内に進入したときに前記ランスは前記係止突部と前記切欠部における前側の切断端縁に係止可能であることを特徴とするコネクタ。」

3.引用例の記載事項
当審の拒絶の理由に示された、本願の原出願の出願前に頒布された特開2002-190342号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1-ア)「本実施形態のコネクタは、コネクタハウジング10と端子金具20とを備えて構成される。以下の説明において、前後方向については図1における左側を前側とし、上下方向については図1を基準とする。コネクタハウジング10は合成樹脂材料からなり、その内部には前後方向に長いキャビティ11が形成されている。このキャビティ11内には、その後端の端子挿入口12から端子金具20が挿入される。キャビティ11内には、その下面壁26に概ね沿うように端子金具20の挿入方向(以下、端子挿入方向という)と同じ方向である前方へ片持ち状に延出する形態の樹脂ランス13が形成されている。」(段落【0010】)

(1-イ)「端子金具20は、その略前半部分に角筒状の箱部21を形成するとともに、略後半部分に電線圧着部22を形成したものである。箱部21は、上面壁23の左右両側縁から一対の側壁24,25を下向きに延出させ、一方の側壁24の下端縁から下面壁26(本発明の構成要件である壁部)を水平内向きに延出させるとともに、他方の側壁25の下端縁から補強壁27を水平内向きに延出させて上面壁26の内面(上面)に重ね合わせた形態とされている。
かかる下面壁26には、その前後方向におけるほぼ中央部分を切除した形態の切欠部28が形成されている。切欠部28は、図5に示すように、下面壁26の全幅領域に亘って形成されており、したがって、この切欠部28においては補強壁27が露出した状態となっている。この切欠部28の前側の切欠面29は、左右方向、即ち端子挿入方向に対して直交する方向へ直線状に延びている。また、下面壁26における前側部分には、その略後半部分における幅方向中央部を打ち出し加工することにより、抜止め突起30が下方(外側)へ突出するように形成されている。抜止め突起30は、下面壁26に連なるとともに下面壁26から後方に延び且つ後方に向かって突出寸法が増大する稜線31を有している。また、抜止め突起30の後端の係止面32は、切欠部28の前側の切欠面29に対して面一状に連続しているとともに、補強壁27の下面から端子挿入方向に対して直交する方向に突出している。」(段落【0012】?【0013】)

(1-ウ)「そして、端子金具20が正規挿入位置に到達すると、図8に実線で示すように樹脂ランス13の延出端13Aがテーパ面34の後端に達し、そのテーパ面34から外れることになる。テーパ面34から外れた延出端13Aは、樹脂ランス13の弾性復元力により斜め上後方(端子金具20の挿入方向に対して斜めの方向)へ復帰変位し、図8に鎖線で示す自由状態に復帰する。このとき、延出端13Aは抜止め突起30から後方へ変位する。
この状態では、樹脂ランス13の前端面13Cが抜止め突起30の係止面32及び切欠面29に対して後方から対向するため、端子金具20が後方へ変位しても、その樹脂ランス13に係止面32及び切欠面29が係止することによって端子金具20のそれ以上の後方への変位が規制され、もって、端子金具20が抜止め状態に保持される。」(段落【0017】?【0018】)

上記記載事項について検討すると、記載(1-ア)及び図1によれば、「コネクタハウジング10には、端子金具20を挿入可能なキャビティ11が設けられ、このキャビティ11内には、挿入される端子金具20に係止可能な樹脂ランス13が設けられているコネクタ。」が示されているといえる。

また、記載(1-イ)、(1-ウ)及び図2?8によれば、「端子金具20のうち樹脂ランス13に対向する下面壁26は、その内側に位置する補強壁27の外側に重ね合わされることによって形成されるとともに、前記下面壁26には、前記樹脂ランス13が進入するのを許容する切欠部28が形成され、かつ、この切欠部28における前側の切欠面29には打ち出し加工により抜止め突起30が外側へ突出して形成されることで、前記樹脂ランス13が前記切欠部28内に進入したときに前記樹脂ランス13は前記抜止め突起30と前記切欠部28における前側の切欠面29に係止可能であること。」が示されているといえる。

したがって、上記記載(1-ア)?(1-ウ)の記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。

「コネクタハウジング10には、端子金具20を挿入可能なキャビティ11が設けられ、このキャビティ11内には、挿入される端子金具20に係止可能な樹脂ランス13が設けられているものにおいて、
前記端子金具20のうち前記樹脂ランス13に対向する下面壁26は、その内側に位置する補強壁27の外側に重ね合わされることによって形成されるとともに、前記下面壁26には、前記樹脂ランス13が進入するのを許容する切欠部28が形成され、かつ、この切欠部28における前側の切欠面29には打ち出し加工により抜止め突起30が外側へ突出して形成されることで、前記樹脂ランス13が前記切欠部28内に進入したときに前記樹脂ランス13は前記抜止め突起30と前記切欠部28における前側の切欠面29に係止可能であるコネクタ。」

同じく当審の拒絶の理由に示された、本願の原出願の出願前に頒布された特開2000-58180号公報(以下「引用例2」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(2-ア)「このコネクタ1(図4)は、合成樹脂製のコネクタハウジング2と、コネクタハウジング2の前部において端子収容室3を画成する合成樹脂製のフロントホルダ4と、端子収容室3に後方から挿入される雌型の端子5と、コネクタハウジング2の下方から端子収容室3と直交して挿入される合成樹脂製の端子係止用のスペーサ6とで構成される。」(段落【0008】)

(2-イ)「各隔壁14_(1),14_(2)の前方には、斜め前方上向きの先端側の係止部16aを有する可撓性の係止ランス16_(1),16_(2)が延長形成されている。」(段落【0011】)

(2-ウ)「コネクタハウジング2の上壁7は、スペーサ6の上側の傾斜状の隔壁10_(1)に対向する同じ傾斜角度の傾斜面7aと、コネクタハウジング2の前側の隔壁14_(1)及び係止ランス16_(1)の水平部16bに対向する水平面7bと、係止ランス16_(1)の係止部16aに対向する上向きの傾斜面7cとを有している。傾斜面7cは前方の水平面7dに続き、水平面7dはコネクタハウジング2の前部開口18に続いている。」(段落【0013】)

(2-エ)「フロントホルダ4は、端子収容室3の前部を画成する四つの隔壁22_(1)?22_(4)を高さ方向に並列に有している。最上部の隔壁22_(1)はコネクタハウジング2の上壁7の水平面7dに接して位置し、最下部の隔壁22_(4)はコネクタハウジング2の下壁8の薄肉部8aに沿って位置する。中間の二つの隔壁22_(2),22_(3)はコネクタハウジング2の後部隔壁9_(1),9_(2)と同じ高さに位置する。上側の三つの隔壁22_(1)?22_(3)は先端下部に、端子5(図3)に対するテーパガイド面(テーパガイド)22aを有している。」(段落【0015】)

(2-オ)「図4の如くコネクタハウジング2の端子収容室3内に端子5が挿入される。図4においては一つの端子収容室3に一つの端子5を挿入する状態を便宜状三つの端子収容室3において経時的に示している。
端子5は先ず上段の端子収容室3における如くスペーサ6の傾斜状の隔壁10_(1)とコネクタハウジング2の上壁7の傾斜面7aに沿ってやや斜め上向きに挿入される。さらに、中段の端子収容室3に示す如く係止ランス16_(2),16_(2)に沿って斜め上向きの状態で進み、上側の係止ランス16_(1)の撓みスペース内に端子が進入する。そして端子5の先端上部がフロントホルダ4の隔壁22_(2)の下向きのテーパガイド面22aに突き当たる。これにより、端子5が押し下げられ、係止ランス16_(2)が図1のL_(1)寸法分だけ下向きに撓んで、下段の端子収容室3に示す如く端子5の先端部がフロントホルダ4の隔壁22_(3),22_(4)内に案内され、端子5が正規位置にスムーズ且つ確実に挿入される。」(段落【0020】?【0021】)

(2-カ)「また、フロントホルダ4は樹脂成形を容易化させるために用いたものであり、フロントホルダ4を用いず、コネクタハウジング2にフロントホルダ4と同様の前端壁23と、テーパガイド面22aを有する隔壁22_(1)?22_(4)を一体に形成することも可能である。」(段落【0028】)

上記記載事項について検討すると、記載(2-ア)、(2-イ)及び図4によれば、「コネクタハウジング2には、端子5を挿入可能な端子収容室3が設けられ、この端子収容室3内には、挿入される端子5に係止可能な係止ランス16_(1)が設けられているコネクタ1。」が示されているといえる。

また、記載(2-ウ)?(2-オ)及び図4によれば、「端子収容室3の前端部のうち係止ランス16_(1)との対向面には、端子収容室3内に挿入される端子5を係止ランス16_(1)側へ押し出して同係止ランス16_(1)側に変位させるための隔壁22_(1)が設けられ、後方の傾斜面7cの高さ位置から徐々に係止ランス16_(1)側へ向けてテーパー状に張り出したこと」が示されているといえる。

また、記載(2-カ)によれば、コネクタハウジング2に隔壁22_(1)を一体に形成することが可能であるので、「隔壁22_(1)はこれより後方の傾斜面7cから連続して形成されること」が示されているといえる。

したがって、上記記載(2-ア)?(2-カ)の記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、「コネクタハウジング2には、端子5を挿入可能な端子収容室3が設けられ、この端子収容室3内には、挿入される端子5に係止可能な係止ランス16_(1)が設けられているものにおいて、
前記端子収容室3の前端部のうち前記係止ランス16_(1)との対向面には、端子収容室3内に挿入される前記端子5を係止ランス16_(1)側へ押し出して同係止ランス16_(1)側に変位させるための隔壁22_(1)が設けられ、この隔壁22_(1)はこれより後方の傾斜面7cから連続して形成され、同後方の傾斜面7cの高さ位置から徐々に係止ランス16_(1)側へ向けてテーパー状に張り出して設けられたコネクタ1。」が記載されているといえる。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「コネクタハウジング10」は、本願発明の「コネクタハウジング」に相当し、以下同様に、「端子金具20」は「端子金具」に、「キャビティ11」は「キャビティ」に、「樹脂ランス13」は「ランス」に、「下面壁26」は「外壁」に、「補強壁27」は「天井壁」に、「切欠部28」は「切欠部」に、「切欠面29」は「切断端縁」に、「打ち出し加工」は「叩き出し」に、「抜止め突起30」は「係止突部」に、それぞれ相当する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「コネクタハウジングには、端子金具を挿入可能なキャビティが設けられ、このキャビティ内には、挿入される端子金具に係止可能なランスが設けられているものにおいて、
前記端子金具のうち前記ランスに対向する外壁は、その内側に位置する天井壁の外側に重ね合わされることによって形成されるとともに、前記外壁には、前記ランスが進入するのを許容する切欠部が形成され、かつ、この切欠部における前側の切断端縁には叩き出しにより係止突部が外側へ突出して形成されることで、前記ランスが前記切欠部内に進入したときに前記ランスは前記係止突部と前記切欠部における前側の切断端縁に係止可能であるコネクタ。」

そして、両者は次の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、キャビティの前端部のうちランスとの対向面には、キャビティ内に挿入される端子金具をランス側へ押し出して同ランス側に変位させるための張出部が設けられ、この張出部はこれより後方の壁面から連続して形成され、同後方の壁面の高さ位置から徐々にランス側へ向けてテーパー状に張り出し、かつその張り出し幅が前記対向面の全幅に亘るようにして設けられているのに対して、引用発明では、該張出部が設けられていない点。

5.判断
上記相違点について検討する。

本願発明と引用例2に記載された技術事項とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用例2に記載された技術事項の「コネクタハウジング2」は、本願発明の「コネクタハウジング」に相当し、以下同様に、「端子5」は「端子金具」に、「端子収容室3」は「キャビティ」に、「係止ランス16_(1)」は「ランス」に、「隔壁22_(1)」は「張出部」に、「傾斜面7c」は「壁面」に、「コネクタ1」は「コネクタ」に、それぞれ相当する。

したがって、引用例2には、「コネクタハウジングには、端子金具を挿入可能なキャビティが設けられ、このキャビティ内には、挿入される端子金具に係止可能なランスが設けられているものにおいて、
前記キャビティの前端部のうち前記ランスとの対向面には、キャビティ内に挿入される前記端子金具をランス側へ押し出して同ランス側に変位させるための張出部が設けられ、この張出部はこれより後方の壁面から連続して形成され、同後方の壁面の高さ位置から徐々にランス側へ向けてテーパー状に張り出したコネクタ。」が記載されていると言い換えることができる。

引用発明と引用例2に記載された技術事項とは、共に、「コネクタハウジングには、端子金具を挿入可能なキャビティが設けられ、このキャビティ内には、挿入される端子金具に係止可能なランスが設けられているコネクタ。」という点で技術分野が共通しているが、当該分野において端子金具とランスとの係止代を確保することは従来周知の課題である。

そして、引用例2に記載された技術事項におけるコネクタ1では、隔壁22_(1)によって端子5を押し下げることによって、該係止代を確保している。

ところで、引用例2に記載された技術事項におけるコネクタ1の隔壁22_(1)の張り出し幅は明確ではないものの、該張り出し幅が大きいほど端子金具は確実に押し下げられるので、係止代の確保は確実になる。そのため、張出部の張り出し幅は最大、すなわち、対向面の全幅に亘るようにして設けることが望ましいといえる。

したがって、本願発明は、引用発明において、上記従来周知の課題を解決するために、引用例2に記載された技術事項を適用し、キャビティの前端部のうちランスとの対向面には、キャビティ内に挿入される端子金具をランス側へ押し出して同ランス側に変位させるための張出部が設けられ、この張出部はこれより後方の壁面から連続して形成され、同後方の壁面の高さ位置から徐々にランス側へ向けてテーパー状に張り出し、かつその張り出し幅が前記対向面の全幅に亘るようにして設けられるようにすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び引用例2に記載された技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-25 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願2003-26510(P2003-26510)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 康孝  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 清水 富夫
稲垣 浩司
発明の名称 コネクタ  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  

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