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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1215758
審判番号 不服2008-1848  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-24 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2003- 84723「電気鉄道車両用同期電動機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-297868〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成15年3月26日の出願であって,平成19年12月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年1月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出され,さらに,平成21年6月4日付けで当審における拒絶理由が通知され,これに対し,同年8月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年8月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載によれば,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「(a)隣合う磁石毎に磁極の方向が90°回転する配列の永久磁石からなる回転子と,
(b)該回転子に対向し,カバーに固定される固定子と,
(c)前記回転子の車軸と前記カバー間に軸受部を介して配置され,前記軸受部と前記固定子のカバー間を柔弾性支持する軽量弾性支持体とを備え,
(d)前記回転子と前記固定子間のギャップを3mm以上に可変とし,前記回転子が傾斜することを許容する構成とし,前記固定子は複層で界磁枠装架で,前記固定子の外層側に設けられる前記カバーは非磁性空芯コイル円筒カバーであり,該非磁性空芯コイル円筒カバー内に冷媒を封入し,前記カバーの外面に配置した空冷フィンにより冷却することでファンレスとなし,かつ駆動力を前記回転子の車軸に直接伝達する構成としたことを特徴とする電気鉄道車両用同期電動機。」

3.引用例
(3-1)引用例1
当審における拒絶の理由に引用された特開2001-178112号公報(以下「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【請求項1】(a)車輪の車軸に設けられる電機子を有する回転子と,(b)該電機子に対応して配置されるともに,台車に取り付けられる界磁用超電導磁石を有する固定子と,(c)前記固定子と前記車軸との間にベアリングと直列に設けられるバネとを具備し,(d)界磁と電機子との相対変位を積極的に許容することにより,軸バネ下の荷重を低減するようにしたことを特徴とする車両用超電導電動機。」

・「【0002】
【従来の技術】従来の電動機では,界磁と電機子の間の空隙は1?2mm程度と非常に小さいことが性能を確保するための条件であった。このため,両者はベアリングを介して相互に半径方向の相対位置がずれないように強固に固定されていた。
【0003】また,車両用の電動機は台車内に組み込むことが一般的であるが,多くの場合は電動機全体を車軸とは独立に台車に取り付け,車輪に対しては歯車を介して動力の伝達を行っていた。
【0004】これに対して,最近では永久磁石使用の電動機の性能が向上した背景から,界磁側である永久磁石を車軸に直接取り付けた歯車レス電動機が開発されている(特開平5-184014号公報参照)。
【0005】これは構造が簡単であると同時に歯車に伴う騒音が低減するという利点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記した従来の歯車レス電動機の場合には,非回転側である電機子と回転側の界磁とがベアリングを介して一体となるため,電動機全体が軸バネの下に位置することになる。このため,歯車レス電動機では,バネ下荷重が大きくなるといった問題があった。
【0007】一方,超電導コイルまたは超電導バルクは,常電導コイルでは得られない強力な磁場を発生することが可能になるという大きな特徴を有する。電動機の必要条件としては,電流を流す対象となる電機子周辺に必要な界磁の磁場が保証されることが必要である。
【0008】また,従来は,鉄心に頼って構成されていたため,鉄心と鉄心の隙間が大きくなると極端に電機子周辺の磁場が低下し,性能が得られないという問題があった。
【0009】本発明は,上記問題点を除去し,大きな空隙を界磁と電機子間に許容し,台車のバネ下荷重を大幅に低減することができ,レールに与える荷重変動の大きさを低減し,レールの損傷を少なくするとともに車両の乗り心地を改善することができる車両用超電導電動機を提供することを目的とする。」

・「【0014】図1は本発明の第1実施例を示す車両用超電導電動機の断面図である。
【0015】この図において,1は車軸,2は電機子3を有する回転子,4はベアリング,5はバネ,6は固定子,7は容器8内の液体窒素により冷却される界磁用超電導磁石としての界磁用超電導コイル,9は車軸1に固定される車輪,10はレールである。
【0016】このように,第1実施例の車両用超電導電動機によれば,車輪9の車軸1に設けられる電機子3を有する回転子2と,前記電機子3に対応して配置されるともに,台車(図示なし)に取り付けられる界磁用超電導磁石としての界磁用超電導コイル7を有する固定子6と,この固定子6と前記車軸1との間にベアリング4と直列に設けられるバネ5とを具備し,前記固定子6と前記回転軸1との相対変位を積極的に許容することにより,軸バネ下の荷重を低減するようにした。」

・「【0020】以上述べたように,本発明によれば,界磁用超電導磁石(超電導コイル又は超電導バルク)によって,鉄心に頼ることなく,もしくは最小限の鉄心の使用で強力な磁界を電機子の周辺に確保できることを利用するもので,従来では考えられなかった大きな空隙を界磁と電機子間に許容することができる。
【0021】これによって,界磁と電機子の一方を車軸に直接固定し,他方を軸バネ上の台車に固定しても電動機としての性能は十分に確保することが可能であり,台車のバネ下荷重を大幅に低減することができる。
【0022】このように台車のバネ下荷重を低減できることにより,レールに与える荷重変動の大きさを低減し,レールの損傷を少なくするとともに車両の乗り心地を改善することができる等あらゆる面で望ましい特性を有する。」

・図1には,固定子6が回転子2に対向する態様が示されている。

・図1には,ベアリング4と固定子6間を弾性支持するバネ5を備え,回転子2と固定子6の間のギャップを可変とした態様が示されている。

・図1には,駆動力を回転子2の車軸1に直接伝達する構成とした態様が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「(a)電機子3を有する回転子2と,
(b)該回転子2に対向し,界磁用超電導コイル7を有する固定子6と,
(c)前記回転子2の車軸1と前記固定子6間にベアリング4を介して配置され,前記ベアリング4と前記固定子6間を弾性支持するバネ5とを備え,
(d)前記回転子2と前記固定子6間のギャップを可変とし,前記固定子6と前記車軸1との相対変位を積極的に許容する構成とし,駆動力を前記回転子2の車軸1に直接伝達する構成とした,レールに与える荷重変動の大きさを低減し,レールの損傷を少なくするとともに車両の乗り心地を改善することができる車両用超電導電動機。」

(3-2)引用例2
当審における拒絶の理由に引用された特開平10-191585号公報(以下「引用例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】従来から,鉄などの高透磁率材からなるロータ本体に永久磁石を埋設したモータが知られている。図13は従来の永久磁石埋め込みモータを示す。この永久磁石埋め込みモータは高透磁率材の鉄心あるいは積層珪素鋼板で構成されたロータコアの内部に永久磁石を埋め込んでロータを構成している。図13に示すものは4極のモータであって,4本の永久磁石がN極,S極交互となるように,円周方向に配置されている。ステータに施された巻線群により,回転磁界が生じ,ステータティースからロータに磁束が入る。」

・「【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の永久磁石埋め込みモータにおいては,図14に示すように永久磁石両端部のロータ外周部と近接する部分において,磁束の漏れが生じ,この漏れ磁束による損失が問題となっていた。
【0008】本発明はこのような従来の課題を解決するものであり,ロータに埋め込む永久磁石にHalbach magnet array を適用することにより,従来と同量の永久磁石を用いて永久磁石が発生する磁束量を大きくしている。そして,永久磁石端部で生じる磁束の回り込み分をカバーするとともに,極中心に磁束を集中させ,同一電流で発生するマグネットトルクを最大限利用することで,高効率で高出力な永久磁石埋め込みモータを提供することを目的としている。」

・「【0010】ここで採用したHalbach manget arrayについて,図11を用いて説明する。(a)は,4極モータのロータを平面的に表したときの磁石配置である。通常はこのようにN極,S極が交互におかれている。磁束は1a,2a,・・・,1b,2b,・・・の様に流れる。(b)は(a)で表されているメイン磁石に対して垂直な方向に磁極を有する磁石である。これらの磁石を,同じ極性が対向するように配置する。磁束の流れは6a,7a,・・・,6b,7b,・・・の様になる。(a)の磁石と(b)の磁石を組み合わせたのが(c)の磁石である。このように,磁極が垂直の関係にある磁石を隣接することによって,2bと7b,3bと8b,4bと9bはそれぞれ強めあい,2aと7a,3aと8a,4aと9aはそれぞれ弱めあう。したがって(c)に示すように,片側の磁力が,通常の磁石配列をとる場合より強くなる。このように,任意の方向に対して磁力を強めることができる。」

(3-3)引用例3
当審における拒絶の理由に引用された特開平10-225060号公報(以下「引用例3」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0005】従来の空冷開放型車両用交流発電機で上記の高出力化を図ると,損失熱が増えるので冷却ファンを大きくする必要がある。しかしながら空冷では自ずから冷却効率に限界があり,かつファン騒音が増大する問題がある。そこで冷却効率を上げ,低騒音化を図るために液冷密閉型車両用交流発電機が注目されるようになった。」

・「【0011】本発明の第2の目的は,車両用発電機の固定子をも冷却しうる車両用発電機を提供することにある。
【0012】本発明の第3の目的は,エンジンを確実に冷却しつつ車両用発電機も冷却しうる車両用冷却装置及び車両用発電機を提供することにある。」

・「【0014】上記第2の目的は,ハウジングの壁内に第1の冷却液流路を設け,整流器及び電圧調整器を,ハウジング端部を覆うように設けられ回転子が固定されている回転軸の一端を支持する軸受を有する第1のブラケットの回転子と対向する面と反対の面に装着し,,このブラケットに第2の冷却流路を設けることにより達成される。
【0015】上記第3の目的の前者は,内部に冷却液を通流させる流路が形成された車両の駆動源となるエンジンと,このエンジンからの冷却液を通過させることにより通過した冷却液の温度を低下させるラジエータと,このラジエータからの冷却液を導入して構成部品を冷却する冷却液流路を有する車両用発電機と,この車両用発電機からの冷却液を前記エンジンの冷却液入口に帰還させる管路とを備えた車両用冷却装置において,前記車両用発電機の冷却液入口側と出口側とを接続する管路とを備えることにより達成される。」

・「【0017】
【発明の実施の形態】図1は本発明の車両用交流発電機の一実施例を示す縦断面図である。まず,車両用交流発電機の基本構成及び機能を図1を用いて説明する。
【0018】回転軸1には,車両のエンジンにより回転駆動されるプーリ2,回転子磁極鉄心3が固着されている。また,固定の励磁鉄心4は回転軸1の周りに回転軸1と同心となるように後ブラケット5に固着されている。励磁鉄心4の周りには励磁コイル6が巻装される。固定子鉄心7には固定子コイル8が巻装され略円筒形状の固定子を構成し,ハウジング9の内壁に回転軸1と同心となるように焼き嵌め等により固定される。
【0019】プーリ2側のブラケットである前ブラケット10には前軸受け11が,プーリ2と反対側のブラケットである後ブラケット5には後軸受け12が設けられ,回転軸1が回転可能な状態に軸支されている。
【0020】さらに,後ブラケット5の励磁鉄心4が取り付けられていない面には,ガスケット16を介して後ブラケットカバー15が取り付けられ,この後ブラケットカバー15には,後ブラケット5の背面となるように整流器13及び電圧調整器14が取り付けられている。
【0021】電圧調整器14から励磁コイル6に励磁電圧が供給されると,回転子磁極鉄心3が励磁される。エンジンからの駆動力がプーリ2を介して回転軸1に伝達されると,回転子磁極鉄心3が固定子コイル8と励磁コイル6との間で回転する。この回転によって,固定子コイル8を横切る磁束が変化するために,固定子コイル8に誘導起電力が発生する。発生した交流を整流器13により直流に変換して,図示しないバッテリを介して車両に存在する電気設備に供給する。車両の電気負荷の大きさに応じて電圧調整器14が励磁コイル6に供給される励磁電圧を調整して適切な発電量を保つ。」

・「【0022】次に,車両用発電機の冷却について説明する。励磁コイル6,固定子鉄心7,固定子コイル8,整流器13及び電圧調整器14は運転中それ自身の発熱があるので,各々その機能を維持するために一定温度以下に冷却する必要がある。そこで本実施の形態では,ハウジング9に冷却液流路17a,後ブラケット5に設けた冷却液流路17bと液室17c,また前ブラケット10に設けた冷却液流路17dとを直列に構成して冷却液を流す。冷却液の流れを分かり易く説明するために,図1の分解図に相当する図2を示す。図中,重力方向は下方である。
【0023】後ブラケット5に設けた冷却液入口18から流入した冷却液は,後ブラケット5に設けた冷却液流路17bによって円弧状に広がり,前ブラケット10方向に方向が転換される。その後ハウジング9に設けた円弧状の冷却液流路17aを駆動軸1に平行に前ブラケット10方向に流れ,前ブラケット10に設けられた冷却液流路17dに到達する。冷却液流路17dは,前ブラケット10に形成され冷却液流路17aの円弧中心角よりも大きい円弧中心角となっている。これは冷却液流路17aから流入してきた冷却液を再び異なる冷却液流路17aに戻すためで,ハウジング9に設けられた隣接する異なる冷却液流路17aは冷却液流路17dを介して接続されている。
【0024】冷却液流路17dによって折り返された冷却液は,異なる冷却液流路17aを通過して後ブラケット5に設けられた液室17cに流入する。液室17cの入口から流入した冷却液は,液室17c内で広がりながら軸受12方向に向かい,液室17cの入口の対面に位置する液室17cの出口から流出する。液室17cの入口及び出口を対向するように配置した理由は,例えば90゜の位置関係にあると,冷却液が淀む箇所ができてしまうことを防ぐためである。液室17cの出口にて折り返された冷却液は,前述と異なる冷却液流路17aを介して,前ブラケット10に設けられた異なる冷却液流路17dに至る。そして冷却液は冷却液流路17dで三度折り返され,ハウジング9の冷却液流路17a,後ブラケットに設けられた冷却液流路17bを経て,冷却液出口19より排出される。」

・「【0027】冷却液流路17aは図1に示すように,主に固定子鉄心7及び固定子コイル8の冷却を担い,また液室17cは整流器13,電圧調整器14,励磁コイル6及び後軸受け12の冷却を主に担う。また冷却液流路17dは冷却液の折り返しの他,前軸受け11の冷却も担う。さらに各々の発熱体の冷却性能を向上させるために,固定子(固定子鉄心7及び固定子コイル8)と,ハウジング9,前ブラケット10及び後ブラケット5間にワニスやシリコン等の良熱伝導材20を充填させる。同様に整流器13及び電圧調整器14と後ブラケットカバー15間に良熱伝導材21及び22を介して密着締結させる。
【0028】以上のような構成を採ることで,発熱体に当たる固定子(固定子鉄心7,固定子コイル8),整流器13及び電圧調整器14からハウジング9,前ブラケット5及び後ブラケット11へ効率良く放熱される。
【0029】また,車両用交流発電機内外への冷却液防液構造は,前述した後ブラケット5背後と後ブラケットカバー15間にガスケット16を,また前ブラケット10とハウジング9間,かつ後ブラケット5とハウジング9間に各々ガスケット23を介して締結することで構成する。
【0030】本実施の形態ではガスケットによる防液手段を示したが,防液機能を有しておれば,Oリングの使用や,シーリング材を各部品間に充填してもよい。また,リアカバー24は整流器13及び電圧調整器14を保護するためのものである。
【0031】以上本実施の形態によれば,発熱体に当たる固定子(固定子鉄心7,固定子コイル8)を冷却する流路(冷却液流路17a)と,整流器13と電圧調整器14を冷却する流路(冷却液流路17c)とが直列に接続されているので,両発熱主体を冷却する流路の必ず冷却液が流れ,両発熱主体を確実に冷却することができる。なお,冷却液流路17aと冷却液流路17cとが直列に接続されていればよいのであって,各流路内は剛性を保つためのリブ等を設けることにより流路が分割されても差し支えない。」

・「【0034】図5に他の実施の形態を示す。これはハウジング9に冷却液流路を設ける手段として,銅管等の冷却管をハウジングに巻き付ける方法である。すなわち,ハウジング9外周部に複数の溝を形成し,その溝に冷却管25を複数回巻き回し,溝と冷却管25とを金具26で固定し,かつ良熱伝導材27,例えばシリコンゴムや銀鑞等の手段でその隙間を充填する。そして巻き回した冷却管25の一端を冷却液出口19とし,さらに冷却管25のもう一端部28と液室17cの一端部29をゴム等による接続管30で接続する。冷却液は冷却液入口18から液室17cを通り,一端部29より一旦外部に出た後,接続管30→一端部28より冷却管25に入り,ハウジング9外周部を巡り除熱した後,冷却液出口19より排出する。この構成は上記図1?4の場合と比してガスケット数を3個から1個へ少なく出来る利点を有する。さらに,前述の実施の形態では,ハウジング9の壁内に冷却液流路17aを加工しなければならなかったが,本実施の形態では,ハウジング9の外表面に溝を設けるだけでよく加工が簡単になると云う効果がある。」

・「【0036】次に,自動車用機関の液冷却系統図を図6に示す。冷却液はエンジン駆動軸により駆動されエンジンと一体に設けられたウォーターポンプ31にてエンジン(機関)32に圧送され,エンジンを液冷する。冷却によって熱くなった冷却液は配管33を経てラジエータ34に導かれ,車両の走行風や冷却ファン(図示せず)によって冷却されてラジエータ34を出て,配管35,サーモスタット36を経て再びウォーターポンプ31に戻る。
【0037】ところで,エンジン32の過冷却を防ぐために,サーモスタット36の開閉によりラジエータ34への冷却液の流量をコントロールして,適温に保っている。つまり,冷却液温が極端に冷たい場合,例えば機関32の始動時において冷却液は,ラジエータ34を経由せずにサーモスタット36(閉状態)→ウォーターポンプ31→機関32→バイパス配管37→サーモスタット36を循環して適温(約80℃)まで早く上げるようにしている。
【0038】図6に示した従来の自動車用機関液冷却系統に本発明の車両用交流発電機を組み込んで,冷却液を流通させる例を図7に示す。前述の文献2には,ラジエータの出口と車両用交流発電機の冷却液入口,エンジンと冷却液出口19を接続して,冷却液を車両用交流発電機の冷却液流路に導入することが記載されている。
【0039】このような構成を採ることにより,従来の自動車用機関液冷却系統に小改造を加えるだけで実現出来,コストを抑えることができ,ラジエータ出口部の低い温度の冷却液を車両用交流発電機に導入できるので冷却効率が高く(ちなみに車両用交流発電機冷却後の温度上昇はエンジンのそれと比して十分低い(発熱量はエンジンの約1/30)ので,エンジンの冷却性能に及ぼす影響は小さい)という利点はあるものの,エンジンへと直列の配管で接続されているため,車両用交流発電機の冷却流路の圧損があるとエンジンへの冷却液の供給が少なくなりオーバーヒートを起こす可能性がある。この問題を解決する実施の形態を図7を用いて説明する。
【0040】ラジエータ34の出口とサーモスタット36(エンジン内部)を接続する配管35をから車両用交流発電機38の冷却液入口18へ分岐する配管35a及び冷却液出口19から配管35bを設け,この配管35bと配管35を接続して合流させる。すなわち,車両用交流発電機38をバイパスする流路を設けるものである。これにより,車両用交流発電機38に形成された流路による圧損分の流量を確保することができる。
【0041】しかし,バイパスのための配管35に多少の損失(流路抵抗)がないと,車両用交流発電機38に冷却液が流れ込まなくなるため,配管35aにバルブや絞り等の流量抵抗39a,主流となる配管35に流量調整抵抗39bを設ける。このような構成を採ることで,最小限の改造だけで機関液冷却系統の圧損の低下,すなわち冷却流量の低下を防ぎ,車両用交流発電機38及びエンジン32へ冷却に必要な冷却流量を分配できる。」

・図1及び図2の記載によると,円筒状のハウジング9が示されている。


4.対比
そこで,本願発明と引用発明とを,その機能・作用を考慮して対比する。

・後者の「電機子3を有する」態様と,前者の「隣合う磁石毎に磁極の方向が90°回転する配列の永久磁石からなる」態様とは,「回転力を得るための手段を有する」との概念で共通する。

・後者の「回転子2に対向し,界磁用超電導コイル7を有する固定子6」と,前者の「回転子に対向し,カバーに固定される固定子」とは,「回転子に対向する固定子」との概念で共通する。

・後者の「車軸1と固定子6間」と,前者の「車軸とカバー間」とは,「車軸と固定子側部材間」との概念で共通する。

・後者の「ベアリング4」は前者の「軸受部」に相当し,後者の「ベアリング4と固定子6間」と,前者の「軸受部と固定子のカバー間」とは,「軸受部と固定子側部材間」との概念で共通する。

・「弾性支持する」態様は「柔弾性支持する」態様に相当し,以下同様に,「バネ5」は「軽量弾性支持体」に,「固定子6と車軸1との相対変位を積極的に許容する構成」は「回転子が傾斜することを許容する構成」に,それぞれ相当している。

・後者の「レールに与える荷重変動の大きさを低減し,レールの損傷を少なくするとともに車両の乗り心地を改善することができる車両用超電導電動機」と,前者の「電気鉄道車両用同期電動機」とは,「電気鉄道車両用電動機」との概念で共通する。

したがって,両者は,
「(a)回転力を得るための手段を有する回転子と
(b)該回転子に対向する固定子と,
(c)前記回転子の車軸と前記固定子側部材間に軸受部を介して配置され,前記軸受部と前記固定子側部材間を柔弾性支持する軽量弾性支持体とを備え,
(d)前記回転子と前記固定子間のギャップを可変とし,前記回転子が傾斜することを許容する構成とし,かつ駆動力を前記回転子の車軸に直接伝達する構成とした電気鉄道車両用電動機。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
回転子が有する回転力を得るための手段が,本願発明では,「隣合う磁石毎に磁極の方向が90°回転する配列の永久磁石からなる」ものであるのに対し,引用発明では,「電機子」である点。

[相違点2]
本願発明では,固定子が「カバーに固定される」のに対し,引用発明では,そのような構成を有していない点。

[相違点3]
固定子側部材が,本願発明では,「カバー」であるのに対し,引用発明では,「固定子」そのものである点。

[相違点4]
回転子と固定子間のギャップに関し,本願発明では,「3mm以上に」可変とするのに対し,引用発明では,どの程度可変するのか特定されていない点。

[相違点5]
固定子に関し,本願発明では,「複層で界磁枠装架」であるのに対し,引用発明では,そのような特定はされていない点。

[相違点6]
本願発明では,「固定子の外層側に設けられるカバーは非磁性空芯コイル円筒カバーであり,該非磁性空芯コイル円筒カバー内に冷媒を封入し,前記カバーの外面に配置した空冷フィンにより冷却することでファンレスとなし」ているのに対して,引用発明では,そのような特定はされていない点。

[相違点7]
電気鉄道車両用電動機に関し,本願発明では,「同期」電動機であるのに対し,引用発明では,そのような特定はされていない点。


5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1及び相違点7について]
引用例2には,磁極が垂直の関係にある磁石を隣接して配列した永久磁石(本願発明の「隣合う磁石毎に磁極の方向が90°回転する配列の永久磁石」に相当。)を用いた回転子と,巻線群が施された固定子を備えた電動機が記載されており,これが,同期電動機であることは,その構造からみて明らかである。
そして,引用発明が,その目的である「大きな空隙を界磁と電機子間に許容すること」(引用例1の段落【0009】),すなわち,回転子と固定子のギャップを大きくすることを達成するために,強力な磁界を発生する界磁用超電導コイル7を採用しているところ,引用例2に記載された電動機も,隣合う磁石毎に磁極の方向が90°回転する配列の永久磁石が,強力な磁界を発生するものであるから,引用例2に記載された電動機の回転子及び固定子についての構造を,引用発明における回転子及び固定子についての構造に代えて採用することにより,上記相違点1及び上記相違点7に係る本願発明の構成のようにすることは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。

[相違点2,相違点3及び相違点6について]
本願発明における「固定子の外層側」については,本願の明細書及び図面の記載を参酌してもその定義は明確ではないところ,技術常識を考慮すると,固定子の外側を意味するものと解することができる。
また,本願発明における「非磁性空芯コイル円筒カバー」については,本願の明細書及び図面の記載を参酌してもその定義は明確ではないところ,技術常識を考慮すると,非磁性の空芯コイルを備えた円筒カバーを意味するものと解することができ,「非磁性空芯コイル円筒カバー内に冷媒を封入」することは,非磁性の空芯コイルを備えた円筒カバーの内部に冷媒を封入することを意味するものと解することができる。
そして,引用例3には,低騒音化が可能なファンレスによる冷却を行う回転機の構成として,固定子をカバー(「ハウジング9」が相当。)に固定し,軸受部(「前軸受け11」及び「後軸受け12」が相当。)と該カバーの間を支持体(「前ブラケット10」及び「後ブラケット5」が相当。)により支持すること(以下,「技術事項A」という。特に,段落【0017】?【0019】及び図1を参照。),固定子の外側に設けられるカバー(「ハウジング9」が相当。)が円筒状のカバーであり,該円筒状のカバー内部に冷媒(「冷却液」が相当。)を封入すること(以下,「技術事項B」という。特に,段落【0018】,段落【0022】?【0024】,段落【0027】?【0031】,段落【0036】?【0041】,図1,図2,図6及び図7を参照。),及び,固定子の外側に設けられるカバーに備えられた空芯コイル(「冷却管25」が相当。)に冷媒を封入すること(以下,「技術事項C」という。特に,段落【0034】,段落【0036】?【0041】及び図5?7を参照。)が記載されており,回転機として技術分野が共通する引用発明においても,低騒音化を図ることは当然に要求される課題であるから,当該課題の下に,上記引用例3に記載された技術事項A?Cを引用発明に適用し,技術事項Aにより,固定子がカバーに固定されるものとし,軽量弾性支持体が,回転子の車軸とカバー間に軸受部を介して配置され,前記軸受部と固定子のカバー間を柔弾性支持するように構成する(すなわち,固定子側部材をカバーとする)と共に,技術事項B及び技術事項Cにより,固定子の外側に設けられるカバーを,空芯コイルを備えた円筒カバーとし,該円筒カバーの内部に冷媒を封入するように構成することは,当業者が容易に着想し得ることと認められる。
また,空芯コイルを非磁性としたことについては,格別な技術的意義は認められないことから,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものというべきである。
さらに,固定子が固定されるカバーの外面に配置した空冷フィンにより冷却することは,本願の出願前に常套手段であり,これにより放熱効率が向上することは自明の効果であり,引用発明においても放熱効率を向上させることは当然に要求される課題であるから,当該課題の下に,上記常套手段を引用発明に適用するようなことは当業者が容易に着想し得ることと認められる。
上記常套手段は,例えば,特開昭57-62754号公報(特に,5頁左下欄4行?6頁右上欄12行,第6図及び第7図)及び実公昭53-26570号公報(特に,1頁1欄21行?同頁2欄35行及び図)に開示されている。
よって,引用発明に,上記引用例3に記載された技術事項A?C及び上記常套手段を適用することにより,上記相違点2,上記相違点3及び上記相違点6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものと認められる。

[相違点4について]
本願発明において,回転子と固定子のギャップを3mm以上に可変としたことについては,風損を低減することができるという効果が挙げられているが,回転子と固定子のギャップが大きくなれば風損が低減できることは当業者であれば予測できることであって,3mm以上という数値範囲において格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
また,3mm以上という数値限定についても,ギャップと風損との関係に影響する回転子や固定子の大きさ及び回転子の回転速度が特定されていないのであるから,臨界的意義を有するものとはいえない。
そうすると,回転子と固定子のギャップを3mm以上に可変としたことについては,当業者が適宜なし得る設計的事項といわざるを得ない。
よって,引用発明において,上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものと認められる。

[相違点5について]
本願発明における「固定子は複層で界磁枠装架で」との事項については,本願の明細書及び図面の記載を参酌してもその定義が明確ではないところ,技術常識を考慮すると,固定子は,複数の層の巻線を装着し,外枠であるカバーに固定されていることを意味するものと解することができる。
そして,固定子に複数の層の巻線を装着することは,電動機における慣用手段であるから,引用発明において,これを上記[相違点1及び相違点7について]の検討で挙げた引用例2に記載された技術事項と共に採用することは当業者が容易に着想し得ることである。
また,固定子が外枠であるカバーに固定されていることについては,上記相違点2に係る本願発明の構成と実質的に同じであり,上記[相違点2,相違点3及び相違点6について]の検討を踏まえると,引用発明に,引用例3に記載された技術事項Aを採用することにより,当業者が容易に着想し得ることである。
よって,引用発明において,上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到することができたものと認められる。

[請求人の主張について]
・請求人は,平成21年8月28日付け意見書において,「上記第1引用例は前記固定子と前記車軸との間にベアリングと直列に設けられるバネとを具備していますが,かかるバネでは,電動機内部に冷媒を封入すると冷媒は外部に漏れてしまうことになります。つまり,本願発明のように,電動機のカバー内に冷媒を封入することはできません。」との主張(以下,「請求人の主張1」という。)をする。
当該主張によると,本願発明における「カバー内」とは,回転子と固定子間のギャップを含む空間であるということになる。
しかしながら,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,「カバー内」について何ら説明をする記載がされていないと共に,カバー,軽量弾性支持体及び軸受部により閉空間を形成することについても記載がないことから,「カバー内」が回転子と固定子間のギャップを含む空間であることが当初明細書等に記載されているとはいえず,また,当該事項が当初明細書等の記載から自明であるともいえない。
そうすると,「カバー内」については,カバー自体の内部とも解釈できるのであり,請求人の主張1は失当であるといわざるを得ない。

・また,請求人は,平成21年8月28日付け意見書において,「第3引用例の冷却方式は,固定子周辺に設けられた冷却液流路を用いて電動機の局所を冷却する方式であり,本願発明のような電動機のカバー内に冷媒を封入し,前記固定子のカバーの外面に配置した空冷フィンにより冷却するものではありません。」との主張(以下,「請求人の主張2」という。)をする。
しかしながら,本願発明において,「カバー内に冷媒を封入する」ことについて,カバー内のみに冷媒を封入するものであるという限定的な解釈をすべき理由は見当たらない。
一方,引用例3には,回転機のハウジング9(本願発明の「カバー」に相当。)内に設けた冷却液流路17aは,回転機における他の冷却液流路17や,ラジエータ34及び配管35などにおける冷却液の流路と共に,冷却液(「冷媒」に相当。)を封入することが記載されているのであるから,「カバー内に冷媒を封入する」ことが示されているといえる。
また,固定子が固定されるカバーの外面に配置した空冷フィンにより冷却することは,本願の出願前に常套手段であり,これを引用発明に適用することが当業者にとって容易であることは[相違点2,相違点3及び相違点6について]の検討で述べたとおりである。
そうすると,請求人の主張2も失当であるといわざるを得ない。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果は,引用発明,引用例2に記載された技術事項,引用例3に記載された技術事項A?C,上記慣用手段及び上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術事項,引用例3に記載された技術事項A?C,上記慣用手段及び上記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術事項,引用例3に記載された技術事項A?C,上記慣用手段及び上記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-14 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-02-22 
出願番号 特願2003-84723(P2003-84723)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 広人  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 槙原 進
小川 恭司
発明の名称 電気鉄道車両用同期電動機  
代理人 清水 守  

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