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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02H
管理番号 1215774
審判番号 不服2008-8949  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2004-354436「電動工具の保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月22日出願公開、特開2006-166601〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年12月7日の出願であって、平成20年3月7日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成20年3月11日)、これに対し、平成20年4月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、平成20年5月12日付で手続補正がなされたものである。


2.平成20年5月12日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年5月12日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「スイッチが投入された時に工具駆動用のモータへの電流供給が開始されると共に、過負荷時の部品の発熱等に伴い高温保護処理手段によりモータへの給電量を抑制するようにした電動工具の保護装置であって、前記高温保護処理手段は、工具使用時の発熱部分の温度を検出する温度検出素子と、モータへの給電量を制御するスイッチング素子と、前記スイッチの操作に連動する可変抵抗器と、可変抵抗器の検出値の変化に応じて前記スイッチング素子を制御することでモータの単位時間当たりの回転数を制御する制御部とを備え、前記スイッチング素子は電源とモータとの間に直列に接続され、スイッチング素子を制御してモータへの給電を抑制する制御部に前記可変抵抗器を設け、前記温度検出素子は、温度に対して抵抗値が変化して所定温度まではほぼ平坦な抵抗値の変化を示し且つ所定の温度付近で指数関数的に急激に抵抗値が変化する特性を示す素子からなり、この温度検出素子を前記可変抵抗器に直列に接続することで温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし、前記スイッチング素子の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にネジ締め用の固定部分を有する前記温度検出素子を重ねた状態で、前記温度検出素子の固定部分を前記放熱板に対してネジ止めしたことを特徴とする電動工具の保護装置。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スイッチング素子」について「前記スイッチング素子は電源とモータとの間に直列に接続され」との限定を付加し、「可変抵抗器」について「スイッチング素子を制御してモータへの給電を抑制する制御部に前記可変抵抗器を設け」との限定を付加し、同じく「温度検出素子を可変抵抗器に直列に接続」する回路構成について「温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-178193号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

1-a「本発明は、例えば電気ドライバ、電気ドリル、電気のこぎり、等のように直流モータによって駆動される電動工具等に好適に実施できるものであって、特に、直流モータにトランジスタ等の半導体スイッチング素子を接続するとともに、半導体スイッチング素子をスイッチング制御して直流モータに流れる電流を可変制御する直流モータ制御回路に関する。」(第1頁右下欄第1?8行)

1-b「そこで、本発明においては、電動工具のコストアップとか大形化を招くといった欠点のある過電流制限器ではなく、簡単な回路手段を付加するのみで、半導体スイッチング素子の異常発熱を検知したときは、該スイッチング素子をオフ側にスイッチング制御して、これによって直流モータの回転数を落とし込んで半導体スイッチング素子の異常発熱を抑制できるようにすることを目的とする。」(第2頁左上欄第15行?右上欄第2行)

1-c「以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
第1図は、電動工具の直流モータ制御回路の回路図である。第1図において、Eは電動工具内蔵の電池電源、Mは一端が電源スイッチSWを介して電源Eの正極端子に接続された直流モータ、TR2は電源Eの負極端子と直流モータMの他端との間にドレインD-ソースSが接続された半導体スイッチング素子である
VRは、直流モータMの回転数を設定するための電圧設定器であって、操作レバーの操作に連動して摺動子MTが抵抗基板RB上を摺動し、その摺動子MTの摺動位置で直流モータMの設定回転数に対応した設定電圧値を出力する。
TOは、三角波電圧を発生出力する三角波発振器、AP1は非反転入力部(+)に三角波電圧を入力し、反転入力部(-)に設定電圧を入力するとともに、両電圧の大小を比較し、その比較出力をスイッチング素子TR2のゲートに出力する第1の比較器、TR1は第1の比較器AP1とスイッチング素子TR2との間に介在するバッファトランジスタである。
上記構成においては、操作レバーの操作ストローク(引き量)に対応した電圧設定器VRの設定電圧と、三角波発振器TOの三角波電圧とを比較器AP1で比較し、その比較出力が有するデューティーでスイッチング素子TR2をオンオフ駆動し、これによって、直流モータMを回転制御する。
このような構成に加えて、本実施例は、検知手段MS1と、制御手段MS2とを具備したことに特徴を有している。検知手段MS1は、半導体スイッチング素子の発熱温度を検知するものであって、そのため、直列接続された抵抗R3およびR4と、直列接続された抵抗R1および正特性サーミスタR2と、抵抗R3とR4との接続部に反転入力部(-)が、抵抗R1と正特性サーミスタR2との接続部に非反転入力部(+)がそれぞれ接続された第2の比較器AP2とから構成されている。そして、正特性サーミスタR2は、スイッチング素子TR2の発熱温度を検知できる位置に配備され、その発熱温度に対応した抵抗値に変化する。第2の比較器AP2は、各入力部(-,+)での電圧を比較し、抵抗R3とR4との接続部での基準電圧を、抵抗R1と正特性サーミスタR2との接続部での検知電圧が越えたときに、ハイレベルの比較出力を出力する。制御手段MS2は、制御トランジスタTR3で構成されており、スイッチング素子TR2の発熱温度が、上昇して所定の発熱温度になったときの検知手段MS1の比較器AP2からのハイレベルの比較出力に応答してオンし、これによってスイッチング素子TR2を強制的にオフ側にスイッチングさせて直流モータMの回転動作を停止させる。」(第2頁左下欄第10行?第3頁右上欄第2行)

1-d「スイッチング素子TR2のドレイン端子14が挿入される回路基板7の穴9の周囲には、正特性サーミスタ17(R2)が設けられており、正特性サーミスタ17は、その穴9の周囲の配線パターン18に半田で接続されており、この接続によって、ドレイン端子14と正特性サーミスタ17とが電気的に接続されている。
このようにして、回路基板7は、スイッチング素子12(TR2)に対して、防塵カバー11を介して取り付けられているとともに、そのドレイン端子14は正特性サーミスタ17に接続されていることから、該スイッチング素子12(TR2)の放熱温度は正特性サーミスタ17で容易に確実に検知されることとなる。」(第3頁左下欄第17行?右下欄第10行)

上記1-cの記載及び第1図に基づけば、直流モータMは電源スイッチSWを介して電池電源Eの正極端子に接続されているから、電源スイッチSWが投入された時に工具駆動用の直流モータMへの電流供給が開始されるものと認められ、また、半導体スイッチング素子TR2が電池電源Eと直流モータMとの間に直列に接続されており、また、可変抵抗器からなる電圧設定器VR、三角波発振器TO、第1の比較器AP1、バッファトランジスタTR1等からなる半導体スイッチング素子TR2を制御するための制御部、及び、正特性サーミスタR2と固定抵抗R1を直列に接続することで正特性サーミスタR2をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路が示されており、また、正特性サーミスタR2は、スイッチング素子TR2の発熱温度を検知できる位置に配備されることから判断して、スイッチング素子TR2の使用時、即ち工具使用時に、正特性サーミスタR2はスイッチング素子TR2の発熱温度を検出しているものと認められる。
上記1-c、1-dの記載及び第2図に基づけば、半導体スイッチング素子TR2の発熱温度を検出できるように、半導体スイッチング素子TR2に正特性サーミスタ17(R2)を近接して固定した構造が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「電源スイッチSWが投入された時に工具駆動用の直流モータMへの電流供給が開始されると共に、半導体スイッチング素子TR2の異常発熱に伴い直流モータ制御回路により直流モータMへの電流を抑制するようにした電動工具の異常発熱抑制装置であって、前記直流モータ制御回路は、工具使用時の半導体スイッチング素子TR2の発熱温度を検知する正特性サーミスタR2と、直流モータMへの電流を制御する半導体スイッチング素子TR2と、操作レバーの操作に連動する可変抵抗器からなる電圧設定器VRと、可変抵抗器からなる電圧設定器VRの設定電圧値の変化に応じて前記半導体スイッチング素子TR2を制御することで直流モータMの回転数を制御する制御部とを備え、前記半導体スイッチング素子TR2は電池電源Eと直流モータMとの間に直列に接続され、半導体スイッチング素子TR2を制御して直流モータMへの電流を抑制する制御部に前記可変抵抗器からなる電圧設定器VRを設け、前記正特性サーミスタR2は、発熱温度に対応した抵抗値に変化する特性を示す素子であり、正特性サーミスタR2を固定抵抗R1に直列に接続することで正特性サーミスタR2をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし、前記半導体スイッチング素子TR2に前記正特性サーミスタR2を近接して固定した電動工具の異常発熱抑制装置。」
との発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-88603号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

2-a「本発明は電気車用制御装置に関し、特に電気車用制御装置におけるアクセル操作量検出回路の改良に関するものである。」(第1頁右下欄第15?17行)

2-b「また、チヨツパ回路自体が温度上昇した場合にはデユーテイ・サイクルを平常より落して発熱を防止する等の対策が必要である」(第2頁左上欄第10?13行)

2-c「第1図は本発明の原理を示す電気結線図である。図において1は電圧源、2はチヨツパ回路(図示していない)と熱的に結合されてチヨツパ回路の温度を検出する、例えば正特性サーミスタ(以下単に「サーミスタ」と呼ぶ)のような感温素子、3はアクセル(図示していない)の操作に連動して可動端子Cが移動する可変抵抗器(以下「アクセル抵抗」と呼ぶ)でありサーミスタ2とともに第1分圧回路を構成している。4および5は夫々第1および第2の抵抗器で両者で第2分圧回路を構成している。Aはサーミスタ2とアクセル(注:「アクリル」は誤記)抵抗3とで構成される第1分圧回路の接続点、Bは抵抗器4と5とで構成される第2分圧回路の分圧点、6はA、B点間に挿入された抵抗器、7は比較器、7aは比較器7の出力端子である。
上記構成においてアクセル抵抗3の可動端子Cはアクセル操作量に応じて移動しアクセルを全開にするとA点と同電位になる。・・・
このように構成すると、チヨツパ回路の温度が平常状態にあるときは・・・アクセルが全開位置まで操作されると確実に比較器7は高レベルの出力信号を発生する。
次にチヨツパ回路が過度に発熱したときは、サーミスタ2の抵抗値は急激に増大する。・・・すなわち、アクセルを全開しても比較器7の出力信号は低レベルのままで変化しない。」(第2頁右上欄第5行?右下欄第4行)

2-d「第2図に於いて1は第1図で説明した電圧源に相当するもので限流抵抗23とツエナダイオード24とで構成され、ツエナダイオード24の端子間に電圧源としての特にチョッパ回路13に熱結合している正特性サーミスタ、10は第1図で説明した原理図と同じ構成のアクセル全開検出回路で各素子は第1図と同じ参照番号を用いている。11は電圧源1に電力を供給するバッテリのような直流電源、12は電気車の走行駆動用モータ、13は公知のサイリスタチョッパ回路、14は信号線14aでチョッパ回路13をオンさせるオン信号を供給し、一方信号線14bでチョッパ回路をオフさせるオフ信号を供給する公知の制御回路である。・・・17は起動スイッチとして機能するもので特に、アクセル(図示していない)を踏み込むとオンするアクセルスイッチ」(第2頁右下欄第12行?第3頁左上欄第11行)

2-e「そして制御回路14はOPアンプ22の出力電圧に比例したデユーテイ・サイクルでオン信号、オフ信号をチョッパ回路13に供給する。すなわちアクセルを全開にするとOPアンプ22の出力電圧が最大になりチョッパ回路13は最大デユーテイ・サイクルで動作するようになっている。」(第3頁左上欄第15行?右上欄第1行)

2-f「アクセルを踏み込むとアクセルスイッチ17がオンして各回路に電力が供給される」(第3頁右上欄第4?5行)

2-g「次にチョッパ回路13の温度が上昇して80℃を越えるとサーミスタ2の抵抗値は急激に増大する。これによりA点の電位は前述のようにB点の電位よりも低くなる。A点の電位が下がると同じアクセル操作量でもチョッパ回路13の温度が低いときに比べて可動端子Cの電位が下がるのでOPアンプ22の出力電圧はそれに応じて下がりチョッパ回路13のデューテイ・サイクルを低めにし、チョッパ回路13の発熱を防ぐ。」(第3頁左下欄第5?13行)

上記記載及び第2図に基づけば、チョッパ回路は直流電源と走行駆動用モータとの間に直列に接続されており、また、正特性サーミスタと、アクセルの操作量に応じた可変抵抗器と、モータへの給電量を制御するチョッパ回路と、可変抵抗器の検出値の変化に応じてチョッパ回路を制御することでモータの回転数を制御する制御部とでチョッパ回路の過熱防止回路を構成しているものと認められる。
上記2-c、2-dの記載及び第1、2図に基づけば、正特性サーミスタを可変抵抗器に直列に接続することで正特性サーミスタをモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造が示されている。

上記記載事項からみて、引用例2には、
「アクセルを踏み込んでアクセルスイッチが投入された時に走行駆動用モータへの電流供給が開始されると共に、過度のチョッパ回路の発熱に伴い正特性サーミスタにより走行駆動用モータへの給電量を抑制するようにした電気車の制御装置であって、前記チョッパ回路の過熱防止回路は、電気車使用時のチョッパ回路の温度を検出する正特性サーミスタと、走行駆動用モータへの給電量を制御するチョッパ回路と、アクセルの操作に連動する可変抵抗器と、可変抵抗器の検出値の変化に応じて前記チョッパ回路を制御することで走行駆動用モータの回転数を制御する制御部とを備え、前記チョッパ回路は直流電源走行駆動用とモータとの間に直列に接続され、チョッパ回路を制御して走行駆動用モータへの給電を抑制する制御部に前記可変抵抗器を設け、前記正特性サーミスタを前記可変抵抗器に直列に接続することで正特性サーミスタを走行駆動用モータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし、前記チョッパ回路の温度を検出するように正特性サーミスタと熱的に結合された電気車の制御装置」
との発明(以下、「引用例2発明」という)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平2-87239号(実開平4-45938号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

3-a「従来より、トランジスタの過熱を検知するために、温度検知用サーミスタ部品が用いられている。このような温度検知用サーミスタ部品の使用例を、第2図に断面図で示す。トランジスタ1には、ビス2a,2bにより放熱板3a,3bが固定されている。放熱板3a,3bによりトランジスタの過熱を防止するためである。また、トランジスタ1の過熱を検知するために、ビス2b側には、温度検知用サーミスタ部品4が固定されている。温度検知用サーミスタ部品4は、金属端子5と該金属端子5に固着されたサーミスタ素子6とを有する。」(明細書第2頁第3?13行)

上記記載及び第2図に基づけば、発熱体であるトランジスタの板状部分の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にビス止め用の固定部分である温度検知用サーミスタ部品の金属端子を重ねた状態で、温度検知用サーミスタ部品の固定部分である金属端子を放熱板に対してビス止めした固定構造が示されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭61-182215号(実開昭63-87888号)のマイクロフィルム(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

4-a「従来、半導体素子等の電子部品を安全な温度範囲内で使用できるようにするため、第5図に示すように電子部品(1)を放熱板(2)に取り付けて用いることがよく行われている。」(明細書第1頁第15?18行)

4-b「第6図に示すものは、電子部品(1)の前面(3)に接着剤(5)を用いて感熱素子(4)を固着したものであり」(明細書第2頁第11?12行)

上記記載及び第5図に基づけば、電子部品(1)の一面側に放熱板(2)を重ねた構成が示され、また、上記記載及び第6図に基づけば、電子部品(1)の他面側に感熱素子(4)を重ねて固着した構成が示されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、その機能をも考慮すると、引用例1発明の「電源スイッチSW」、「直流モータM」、「直流モータ制御回路」、「電流」、「発熱温度」、「半導体スイッチング素子TR2」、「検知」、「正特性サーミスタR2」、「可変抵抗器からなる電圧設定器VR」、「設定電圧値」、「電池電源E」、「異常発熱抑制装置」は、各々本願補正発明の「スイッチ」、「モータ」、「高温保護処理手段」、「給電量」又は「給電」、「温度」、「スイッチング素子」、「検出」、「温度検出素子」、「可変抵抗器」、「検出値」、「電源」、「保護装置」に相当する。
引用例1発明の「半導体スイッチング素子TR2の異常発熱」は、直流モータの過負荷時に発生するから、本願補正発明の「過負荷時の部品の発熱等」に相当し、したがって、引用例1発明の「半導体スイッチング素子TR2」は、本願補正発明の「発熱部分」にも相当する。また、引用例1発明の「直流モータMの回転数を制御する」は、本願補正発明の「モータの単位時間当たりの回転数を制御する」に相当する。また、引用例1発明の正特性サーミスタの素子としての特性の「発熱温度に対応した抵抗値に変化する特性を示す素子」は、「温度に対して抵抗値が変化して所定温度まではほぼ平坦な抵抗値の変化を示し且つ所定の温度付近で指数関数的に急激に抵抗値が変化する特性を示す素子」と言うことができる。
したがって、両者は、
「スイッチが投入された時に工具駆動用のモータへの電流供給が開始されると共に、過負荷時の部品の発熱等に伴い高温保護処理手段によりモータへの給電量を抑制するようにした電動工具の保護装置であって、前記高温保護処理手段は、工具使用時の発熱部分の温度を検出する温度検出素子と、モータへの給電量を制御するスイッチング素子と、可変抵抗器と、可変抵抗器の検出値の変化に応じて前記スイッチング素子を制御することでモータの単位時間当たりの回転数を制御する制御部とを備え、前記スイッチング素子は電源とモータとの間に直列に接続され、スイッチング素子を制御してモータへの給電を抑制する制御部に前記可変抵抗器を設け、前記温度検出素子は、温度に対して抵抗値が変化して所定温度まではほぼ平坦な抵抗値の変化を示し且つ所定の温度付近で指数関数的に急激に抵抗値が変化する特性を示す素子からなり、温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とした電動工具の保護装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明が、可変抵抗器はスイッチの操作に連動するのに対し、引用例1発明は、可変抵抗器は操作レバーの操作に連動している点。
[相違点2]
本願補正発明が、温度検出素子を可変抵抗器に直列に接続することで、温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造としているのに対し、引用例1発明は、温度検出素子を固定抵抗に直列に接続することで、温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし、可変抵抗器とは直列に接続はされていない点。
[相違点3]
本願補正発明が、スイッチング素子の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にネジ締め用の固定部分を有する温度検出素子を重ねた状態で、前記温度検出素子の固定部分を前記放熱板に対してネジ止めしているのに対し、引用例1発明は、スイッチング素子に温度検出素子を近接して固定している点。

(4)判断
[相違点1]について
本件補正後の請求項1において、「スイッチが投入された時に工具駆動用のモータへの電流供給が開始される」、「スイッチの操作に連動する可変抵抗器」と記載があり、また図1にはスイッチSWが記載されており、当該スイッチSWは単なる接点を表しているから、これらを考慮すると、スイッチの構成は本件補正後の請求項1からは明確に判断はできない。
しかし、当初明細書には、
「さらに本体ハウジング11内のモータ1の下に、スイッチユニット20が配置されており、トリガーハンドル50の引き具合に連動して図1に示す接点S1、S2を開閉させるものであり、トリガーハンドル50を引いたときは、接点S1が導通して、制御部3に電源を供給し、トリガーハンドル50を戻した時は接点S1が非導通になり、接点S2が導通してモータ1の短絡回路が形成され、ブレーキを動作させる。」(【0015】)、
「可変抵抗器VRは、トリガーハンドル50に連動するスライド式或いは回転式のボリュームからなる。可変抵抗器VRは、トリガーハンドル50に連動して低抗値が変化するものであり、このときのボリューム抵抗と抵抗R1と正特性サーミスタTとの分圧比から、トリガーハンドル50の引き代に応じた比較波C2の出力電圧が決定される。つまり、使用者のトリガーハンドル50の操作に連動して可変抵抗器VRの検出値が変化し、その可変抵抗器VRの検出値に応じて、スイッチング素子2を制御することで回転制御が行なわれる。」(【0021】)
と記載されており、これらの記載に基づけば、「スイッチの操作に連動する可変抵抗器」とは、トリガーハンドルを引くとスイッチが動作して接点が導通し、且つ、トリガーハンドルの操作量に応じて可変抵抗器の抵抗値が変化する構成をいうものと認められる。
しかし、電動工具において、操作レバーの操作によって、スイッチと可変抵抗器の両者を動作させることは、例えば特開平11-18485号公報(【0006】参照)、特開2002-154073号公報(【0015】参照)等にもみられるように周知技術である。
そうすると、引用例1発明において、操作レバーの操作によって、可変抵抗器の抵抗値を変えるのみならず、スイッチによる電源の導通切断をも行うこと、換言すれば、可変抵抗器をスイッチ操作に連動させることは、上記周知技術を考慮すれば当業者が適宜選択し得る程度のことと認められる。

[相違点2]について
電気回路の分野において、2つの機能の回路を、併せて1つの回路とすることは、回路の設置面積・効率等を考慮して当業者が適宜選択し得るものであり、この様な回路の簡略化は、電気回路において当然に要求されるべき課題であり、また、引用例2発明のように、温度検出素子(「正特性サーミスタ」が相当)を、スイッチング素子(「チョッパ回路」が相当)を制御してモータ(「走行駆動用モータ」が相当)への給電を抑制する制御部の可変抵抗器に直列に接続することで、温度検出素子をモータ電流(「走行駆動用モータ電流」が相当)が流れる経路には挿入しない回路構造は、モータの制御回路において周知技術である。
そして、引用例1発明と引用例2発明は、「温度検出素子と、スイッチング素子を制御してモータへの給電を抑制する制御部に可変抵抗器を設けて、直流モータを制御する直流モータ制御回路」との技術分野で共通する。
そうすると、引用例1発明において、回路の簡略化は当然に要求されるべき課題といえ、引用例1発明と技術分野が共通する上記周知技術を採用して[相違点2]に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。

[相違点3]について
引用例1発明は、スイッチング素子と温度検出素子である正特性サーミスタを近接して固定しており、より正確な温度検出のためには両者を接触させることが有効なのは自明であり、また、一般に発熱体の固定に放熱板を用いることは慣用手段である。又、引用例3には、発熱体であるトランジスタの板状部分の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にビス止め用の固定部分である温度検知用サーミスタ部品の金属端子を重ねた状態で、温度検知用サーミスタ部品の固定部分である金属端子を放熱板に対してビス止めした固定構造が示されているから、引用例1発明においても、スイッチング素子と正特性サーミスタを近接して固定する場合に、慣用手段である放熱板を用い、引用例3記載のもののような固定構造を採用して、スイッチング素子の板状部分の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にビス止め用の固定部分を重ねた状態で、固定部分を放熱板に対してビス止めすることは当業者が容易に考えられるものと認められ、その際、引用例4記載のもののように、スイッチング素子の一面側に放熱板を重ね、他面側に正特性サーミスタのような感熱素子を重ねることは、当業者が適宜なし得る程度のことと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1発明、引用例2発明、引用例3、4に記載されたもの、周知技術及び慣用手段から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2発明、引用例3、4に記載されたもの、周知技術及び慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年1月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「スイッチが投入された時に工具駆動用のモータへの電流供給が開始されると共に、過負荷時の部品の発熱等に伴い高温保護処理手段によりモータへの給電量を抑制するようにした電動工具の保護装置であって、前記高温保護処理手段は、工具使用時の発熱部分の温度を検出する温度検出素子と、モータへの給電量を制御するスイッチング素子と、前記スイッチの操作に連動する可変抵抗器と、可変抵抗器の検出値の変化に応じて前記スイッチング素子を制御することでモータの単位時間当たりの回転数を制御する制御部とを備え、前記温度検出素子は、温度に対して抵抗値が変化して所定温度まではほぼ平坦な抵抗値の変化を示し且つ所定の温度付近で指数関数的に急激に抵抗値が変化する特性を示す素子からなり、この温度検出素子を前記可変抵抗器に直列に接続し、前記スイッチング素子の一面側に放熱板を重ねると共に他面側にネジ締め用の固定部分を有する前記温度検出素子を重ねた状態で、前記温度検出素子の固定部分を前記放熱板に対してネジ止めしたことを特徴とする電動工具の保護装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「スイッチング素子」の限定事項である「前記スイッチング素子は電源とモータとの間に直列に接続され」との構成を省き、「可変抵抗器」の限定事項である「スイッチング素子を制御してモータへの給電を抑制する制御部に前記可変抵抗器を設け」との構成を省き、「温度検出素子を可変抵抗器に直列に接続」する回路構成の限定事項である「温度検出素子をモータ電流が流れる経路には挿入しない回路構造とし」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1発明、引用例2発明、引用例3、4に記載されたもの、周知技術及び慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1発明、引用例2発明、引用例3、4に記載されたもの、周知技術及び慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、引用例2発明、引用例3、4に記載されたもの、周知技術及び慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-25 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願2004-354436(P2004-354436)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02H)
P 1 8・ 121- Z (H02H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 晃  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 大河原 裕
小川 恭司
発明の名称 電動工具の保護装置  
代理人 森 厚夫  
代理人 西川 惠清  

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