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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1215857
審判番号 不服2009-3641  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-19 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2002-119051「トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 6日出願公開、特開2003-316065〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年4月22日の出願であって、平成21年1月8日付で拒絶査定がなされたものであり、これに対して同年2月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月19日付で手続補正がされたものである。
さらに、平成21年10月5日付で審尋がなされたところ、審判請求人から同年12月3日付で回答書が提出されたものである。

2.平成21年3月19日付手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成21年3月19日付手続補正を却下する。

【理由】
2-1.補正の内容
平成21年3月19日付手続補正(以下、「本件補正)」という。)は、平成19年5月7日付手続補正書により補正された明細書(以下、「本件補正前明細書」という。)を、更に補正するものであって、次の補正事項を含むものである。
本件補正前明細書の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する、水系媒体中で製造されるトナー粒子を有するトナーであり、該離型剤は、5乃至45mgKOH/gの水酸基価を有する炭化水素ワックスであって、該着色剤が磁性酸化鉄であることを特徴とするトナー。」



「【請求項1】 少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する、水系媒体中で製造されるトナー粒子を有するトナーであって、
該離型剤は、硼酸、無水硼酸、メタ硼酸からなる群から選ばれる1以上の化合物の存在下において、パラフィンワックスを酸素含有ガスで処理したアルコール変性ワックスであり、該離型剤の水酸基価は5乃至45mgKOH/gであり、
該着色剤が磁性酸化鉄であることを特徴とするトナー。」

とする補正(下線は、補正箇所。当審にて付与。)。

2-2.補正の目的
本件補正は、請求項1記載の「離型剤」について、「5乃至45mgKOH/gの水酸基価を有する炭化水素ワックス」から「硼酸、無水硼酸、メタ硼酸からなる群から選ばれる1以上の化合物の存在下において、パラフィンワックスを酸素含有ガスで処理したアルコール変性ワックスであり、該離型剤の水酸基価は5乃至45mgKOH/g」に限定補正するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-3.引用例の記載
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2001-343781号公報(原査定の引用例6。以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(以降、下線は当審にて付与したもの。)

(1a)「【請求項1】 結着樹脂、着色剤および炭化水素系ワックスを少なくとも含有するトナーであり、前記ワックスは水酸基価(H_(V))が5?150mgKOH/gであり、エステル価(E_(V))が1?50mgKOH/gであり、その関係が
H_(V)>E_(V)
であることを特徴とするトナー。
【請求項2】 前記ワックスの酸価(A_(V))が1?30mgKOH/gであり、水酸基価(H_(V))との関係が
H_(V)>A_(V)
であることを特徴とする請求項1に記載のトナー。
【請求項3】 前記ワックスの融点が76?130℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】 前記ワックスが、脂肪族炭化水素系ワックスをアルコール転化して得られたワックスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のトナー。」

(1b)「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の問題点を解消したトナーを提供することにある。
【0016】本発明の目的は、低温定着性と耐オフセット性を向上し、良好な定着性能を示すトナーを提供することにある。
【0017】本発明の目的は、長期間の使用においても、定着部材へのトナー付着を生じず、初期と同様な優れた画像特性を持つトナーを提供することにある。
【0018】更に本発明の目的は、高速なプロセススピードにおいてもトナーの低温定着性と高耐久性を両立するトナーを提供することにある。
【0019】本発明の目的は、長期の保存性に優れたトナーを提供することにある。」

(1c)「【0023】本発明で用いられるワックスは、分子中に適度な水酸基を有していることにより、ワックスが結着樹脂中に微粒子状に分散できるので、適度な可塑効果が得られ、定着性が向上する。更に、微粒子状に分散していることにより、トナー加熱時にワックスがトナー表面に迅速に染み出し易くなり、トナーの耐オフセット性が向上する。ワックスの水酸基価が5mgKOH/g未満だと、ワックスが十分に微分散せず、トナーの定着性と耐オフセット性が不十分となる。また、ワックスの水酸基価が150mgKOH/gより大きいと、ワックスの可塑効果が大きくなりすぎ、トナーの耐ブロッキング性が低下する。」

(1d)「【0035】本発明におけるワックスは、脂肪族炭化水素系ワックスをアルコール転化して所望の特性を有するワックスを得ることが、ワックスの酸基,水酸基,エステル基の転化率をコントロールしやすいという点で好ましい。
【0036】脂肪族炭化水素系ワックスとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量(Mn)がポリエチレン換算で100?3000、好ましくは200?2000、より好ましくは250?1000の範囲にある飽和または不飽和の脂肪族炭化水素が好ましく用いられる。」

(1e)「【0040】脂肪族炭化水素ワックスとしては、例えば、(A)エチレン重合法または石油系炭化水素の熱分解によるオレフィン化法で得られる二重結合を1個以上有する高級脂肪族不飽和炭化水素、(B)石油留分から得られるn-パラフィン混合物、(C)エチレン重合法により得られるポリエチレンワックス、(D)フィッシャートロプシュ合成法により得られる高級脂肪族炭化水素の1種または2種以上、などが好ましく用いられる。
【0041】本発明におけるワックスの製造例としては、例えば、脂肪族炭化水素系ワックスを、ホウ酸および無水ホウ酸の存在下で、分子状酸素含有ガスで液相酸化することにより得られる。触媒としてはホウ酸と無水ホウ酸の混合物を使用することができる。ホウ酸と無水ホウ酸との混合比(ホウ酸/無水ホウ酸)はモル比で1?2、好ましくは1.2?1.7の範囲が好ましい。無水ホウ酸の割合が前記範囲より少ないと、ホウ酸の過剰分が凝集現象を引き起し好ましくない。また無水ホウ酸の割合が前記範囲より多いと、反応後無水ホウ酸に由来する粉末物質が回収され、また過剰の無水ホウ酸は反応に寄与せず経済的な面からも好ましくない。
【0042】使用されるホウ酸と無水ホウ酸の添加量は、その混合物をホウ酸量に換算して、原料の脂肪族炭化水素1モルに対して0.001?10モル、とくに0.1?1モルが好ましい。
【0043】反応系に吹き込む分子状酸素含有ガスとしては酸素、空気、またはそれらを不活性ガスで希釈した広範囲ものが使用可能であるが、酸素濃度が1?30体積%であるのが好ましく、より好ましくは3?20体積%である。
【0044】液相酸化反応は通常溶媒を使用せず、原料の脂肪族炭化水素の溶融状態下で行なわれる。反応温度は120?280℃、好ましくは150?250℃である。反応時間は1?15時間が好ましい。
【0045】ホウ酸と無水ホウ酸は予め混合して、反応系に添加するのが望ましい。ホウ酸のみを単独で添加すると、ホウ酸の脱水反応などが起り好ましくない。またホウ酸と無水ホウ酸の混合溶媒の添加温度は100?180℃がよく、好ましくは110?160℃であり、100℃より低い場合には系内に残存する水分などに起因して、無水ホウ酸の触媒能が低下するので好ましくない。
【0046】反応終了後反応混合物に水を加え、生成したワックスのホウ酸エステルを加水分解・精製して、所望のワックスが得られる。」

(1f)「【0115】本発明のトナーは磁性材料をトナー粒子中に含有させ磁性トナーとしても使用しうる。この場合、磁性材料は着色剤の役割をかねることもできる。磁性トナーに使用される磁性材料としては、マグネタイト、ヘマタイト、フェライトの如き酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属或いはこれらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属との合金及びその混合物が挙げられる。」

(1g)「【0138】本発明に係るトナーを作製するには、上述したようなトナー構成材料をボールミルその他の混合機により十分混合した後、熱ロール,ニーダー,エクストルーダーの如き熱混練機を用いてよく混練し、冷却固化後、機械的な粉砕・分級によってトナーを得る方法が好ましく、他には、結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法、あるいはコア材,シェル材から成るいわゆるマイクロカプセルトナーにおいてコア材あるいはシェル材、あるいはこれらの両方に所定の材料を含有させる方法、結着樹脂溶液中に構成材料を分散した後、噴霧乾燥によりトナーを得る方法等が応用出来る。さらに必要に応じ所望の添加剤をヘンシェルミキサー等の混合機により十分混合し、本発明に係るトナーを製造することができる。」

(1h)「【0140】
【実施例】以上本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下実施例にもとづいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、これによって本発明の実施の態様がなんら限定されるものではない。実施例中の部数は質量部である。
【0141】<ワックスの合成例>
(ワックス合成例1)原料物質としてフィッシャートロプシュワックス(数平均分子量720)1000gをガラス製の円筒反応器に入れ、窒素ガスを少量(3リットル/分)吹き込みながら、140℃まで昇温した。ホウ酸/無水ホウ酸=1.4(モル比)の混合触媒23.76g(0.33モル)を加えた後、空気(21リットル/分)と窒素(18リットル/分)を吹き込みながら、180℃で2.5時間反応を行った。反応終了後反応混合物に等量の温水(95℃)を加え、反応混合物を加水分解してワックス1を得た。ワックス1の水酸基価は49.0mgKOH/g、エステル価は11.8mgKOH/g、酸価は7.1mgKOH/g、融点は90℃、針入度は6、粘度は13mPa・s、軟化点は93℃であった。ワックス1の合成条件及び物性を表1に示す。」

(1i)「【0145】(ワックス合成例5)原料物質としてパラフィンワックス(数平均分子量380)1000gを用い、ホウ酸/無水ホウ酸混合触媒の添加量と反応時間をかえた以外はワックス合成例1と同様にしてワックス5を得た。ワックス5の合成条件及び物性を表1に示す。」

(1j)「【0147】(ワックス合成例7)原料物質としてパラフィンワックス(数平均分子量469)1000gを用い、ホウ酸/無水ホウ酸混合触媒の添加量と反応時間をかえた以外はワックス合成例1と同様にしてワックス7を得た。ワックス7の合成条件及び物性を表1に示す。
【0148】(ワックス合成例8)原料物質としてパラフィンワックス(数平均分子量322)1000gを用い、ホウ酸/無水ホウ酸混合触媒の添加量と反応時間をかえた以外はワックス合成例1と同様にしてワックス8を得た。ワックス8の合成条件及び物性を表1に示す。」

(1k)「【0151】
【表1】

【0152】
[実施例1]
スチレン-ブチルアクリレート共重合体 100部
磁性酸化鉄 100部
モノアゾ鉄錯体 2部
ワックス1 14部
【0153】上記混合物を、130℃に加熱された二軸エクストルーダーで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物をジェットミルで微粉砕し、得られた微粉砕粉を固定壁型風力分級機で分級して分級粉を生成した。さらに、得られた分級粉を、コアンダ効果を利用した多分割分級装置(日鉄鉱業社製エルボジェット分級機)で超微粉及び粗粉を同時に厳密に分級除去して重量平均粒径(D4)6.8μmの負帯電性磁性トナーを得た。
【0154】この磁性トナー100質量部と疎水性シリカ微粉体1.2質量部とをヘンシェルミキサーで混合して現像剤1を調製した。
【0155】[実施例2?7、比較例1?3]用いるワックスをワックス2?10にかえた以外は実施例1と同様にして現像剤2?10を得た。」

(1l)「【0171】
【表2】

【0172】
【発明の効果】本発明によれば、低温定着性及び耐高温オフセット性を高度に満足し、耐ブロッキング性に優れ、定着部材へのトナー付着を起こさず、高い現像性を維持するトナーを提供することができる。」

上記の記載事項から、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

「結着樹脂、磁性酸化鉄およびワックスを含有する粉砕法により製造されたトナーであり、前記ワックスはパラフィンワックスをホウ酸および無水ホウ酸の存在下で、分子状酸素含有ガスで液相酸化することによりアルコール転化して得られる水酸基価(H_(V))が40.4mgKOH/gのものであるトナー」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2001-343783号公報(原査定の引用例2。以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】 結着樹脂、離型剤及び磁性体を少なくとも含有する磁性トナー粒子の表面に無機微粉末を有する磁性トナーにおいて、
前記磁性トナーは、平均円形度が0.970以上であり、重量平均粒径(D4)が3?10μmであり、
前記磁性トナー粒子は、前記磁性体として磁性酸化鉄を含有しており、
前記磁性トナーは、磁場79.6kA/m(1000エルステッド)における磁化の強さが10?50Am^(2)/kg(emu/g)であり、
前記磁性体は、ヘキサン溶液中での分散状態において、分散後5分経過した後の500nmにおける吸光度をa-5、分散後30分経過した後の500nmにおける吸光度をa-30とした時、a-5、a-30が下式(1)を満たすことを特徴とする磁性トナー。
【数1】
0.8<a-30/a-5 式(1)」

(2b)「【請求項6】 前記磁性体は、水系媒体中でカップリング剤により表面処理されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の磁性トナー。」

(2c)「【請求項20】 前記磁性トナー粒子は、一部又は全体が懸濁重合法によって製造されていることを特徴とする請求項1?19のいずれか一項に記載の磁性トナー。」

(2d)「【0023】この懸濁重合法では、水のごとき極性の大なる分散媒中で単量体組成物の液滴を生成せしめるため、単量体組成物に含まれる極性基を有する成分は水相との界面である表層部に存在しやすく、非極性の成分は表層部に存在しないという、いわゆるコア/シェル構造を形成することができる。即ち、重合法によるトナーは、一般に極性の低い離型剤成分の内包化により、低温定着性、耐高温オフセット性をトナー内部に維持したままトナー表面でのワックスの影響は完全に抑制されるという理想的なトナー設計を可能とする。しかしながら、この重合トナー中に磁性体と離型剤を同時に含有せしめることにより、その流動性及び帯電特性は著しく低下する。これは、一つには磁性体粒子は一般的に親水性であるためにトナー表面に存在しやすいためであり、もう一つには、比重差あるいは磁気凝集によりトナー粒子内部で磁性体粒子が偏って存在しやすく、それと相まって離型剤も偏在しやすいためである。極端な場合、トナー粒子の片側半分に磁性体が、残り片方に離型剤が分かれて存在することもありうる。また、磁性体がトナー粒子の中心部に偏在すれば、離型剤は粒子の外側に追いやられトナー表面に露出してしまい、前述したように流動性の低下や高温下での画像特性及び耐久性の悪化につながる。さらには低温定着の目的で低融点の離型剤を用いていれば、耐ブロッキング性、即ち放置時のトナー凝集性も悪化する。
【0024】この問題を解決し、重合法トナーの長所を発揮させるためには、磁性体の有する表面特性の改質及び有機物との馴染みという物性の改良の2点が重要となる。」

(2e)「【0081】そこで本発明者等が磁性トナーの物性及び材料について種々の検討を行った結果、ヘキサン溶液中での分散状態が良好な磁性体を含有し、表面に実質的に磁性体が露出しておらず、平均円形度が0.970以上である磁性トナーは、トナー内部での磁性体及び離型剤の分散状態が非常に均一であり、その結果、耐ブロッキング性に優れ、高転写性、良好なカブリ特性、そして優れた現像性を有することを見出した。さらに、トナー表面に露出した離型剤の影響を受けて現像性の低下や転写残トナーの増加あるいは耐久性が低下しやすい高温下においても、現像性が良好であり、高い画像濃度での高画質画像を長期的に得ることが可能であった。さらにはこのタイプの磁性トナーを用いることにより、環境的に好ましい接触帯電方法、更にはクリーナレス画像形成方法においても高画質画像の長期的維持が達成できることが判明し、本発明の画像形成方法を完成するに至った。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2002-108004号公報(原査定の引用例3。以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】 少なくとも結着樹脂,酸化鉄及び硫黄原子を有する重合体を含有する磁性トナー粒子と、該磁性トナー粒子に混合されている無機微粉体を有する磁性トナーにおいて、
i)該磁性トナーの重量平均粒径(D4)が3?10μmであり、
ii)該磁性トナーの平均円形度が、0.970以上であり、
iii)該磁性トナーの磁場79.6kA/m(1000エルステッド)における磁化の強さが10?50Am2/kg(emu/g)であることを特徴とする磁性トナー。」

(3b)「【請求項24】 該酸化鉄が、水系媒体中で、カップリング剤により表面処理されたものであることを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載の磁性トナー。」

(3c)「【0012】そのため、円形度の高いトナーを得るためには懸濁重合法によるトナーが適している。しかしながら、懸濁重合により磁性トナーを製造する際には、トナー中に磁性体を含有するため、その流動性及び帯電特性は著しく低下する。これは、磁性粒子は一般的に親水性であるためにトナー表面に存在しやすいためであり、この問題を解決するためには磁性体の有する表面特性の改質が重要となる。
【0013】重合トナー中の磁性体分散性向上のための表面改質に関しては、数多く提案されている。例えば、特開昭59-200254号公報、特開昭59-200256号公報、特開昭59-200257号公報、特開昭59-224102号公報等に磁性体の各種シランカップリング剤処理技術が提案されており、特開昭63-250660号公報、特開平10-239897号公報では、ケイ素元素含有磁性粒子をシランカップリング剤で処理する技術が開示されている。」

(3d)「【0107】
そこで、上述の諸問題を解決するため、本発明においては、トナー粒子を重合法により製造することが好ましい。トナーの重合法としては、直接重合法、懸濁重合法、乳化重合法、乳化会合重合法、シード重合法等が挙げられるが、これらの中では、粒径と粒子形状のバランスのとりやすさという点で、特に懸濁重合法により製造することが好ましい。この懸濁重合法においては重合性単量体および着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解または分散せしめて単量体組成物とした後、この単量体組成物を分散安定剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行わせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この懸濁重合法で得られるトナー(以後重合トナー)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、平均円形度が0.970以上、特にモード円形度が0.99以上という物性要件を満たすトナーが得られやすく、さらにこういったトナーは帯電量の分布も比較的均一となるため高い転写性を有している。
【0108】さらに、懸濁重合して得られた微粒子に再度、重合性単量体と重合開始剤を添加して表面層を設けるコア・シェル構造も必要に応じて設計することが可能である。」

(4)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平8-234487号公報(原査定の引用例4。以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(4a)「【0092】炭素数23乃至102の長鎖アルキル基が導入されたポリエステル樹脂(III)を樹脂成分が有すると、低温定着性、離型性に優れ、さらにポリオレフィンワックスの如き長鎖アルキル化合物を含有しても樹脂成分中での分散不良が生じにくく、クリーニング不良も発生しにくい。さらに、トナー製造時に生じる分級微粉をトナーの製造に再利用してもトナーの現像性及び定着性は低下しにくい。これは、(a)変性されたポリエステル樹脂(III)がポリエステル樹脂(I)及び(II)との相溶性が良好であること、(b)変性ポリエステル樹脂(III)が荷電制御剤及び、磁性体の如き着色剤の分散を均一にすること、(c)トナー製造時の微粉再利用は通常溶融混練時に微粉と他の材料との混合を行うが、変性ポリエステル樹脂(III)が均一に分散した状態では混練時における分子鎖切断はほとんど起こらないことによるものと考えられる。」

(4b)「【0096】さらに、ポリエステル樹脂を式(1’)で示される長鎖アルキルアルコールにて変性することにより、帯電過剰となる性質を抑制することが可能であり、安定した帯電性が得られる。」

(5)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平9-319137号公報(原査定の引用例5。以下「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。

(5a)「【0049】アルコール系ワックスを用いると、磁性酸化鉄粒子表面が効率良く被覆されるのみならず、結着樹脂との親和性が高いことから分散性が向上し、アルコール系ワックスを用いた磁性トナーは各部材を汚染することなく、良好な現像特性や定着特性を有するので、本発明に適している。」

2-4.対比
引用例1発明の「ワックスはパラフィンワックスをホウ酸および無水ホウ酸の存在下で、分子状酸素含有ガスで液相酸化することによりアルコール転化して得られる水酸基価(H_(V))が40.4mgKOH/gのもの」は,本願補正発明の「離型剤は、硼酸、無水硼酸、メタ硼酸からなる群から選ばれる1以上の化合物の存在下において、パラフィンワックスを酸素含有ガスで処理したアルコール変性ワックスであり、該離型剤の水酸基価は5乃至45mgKOH/g」に相当する。
したがって、両者は、
「少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該離型剤は、硼酸、無水硼酸、メタ硼酸からなる群から選ばれる1以上の化合物の存在下において、パラフィンワックスを酸素含有ガスで処理したアルコール変性ワックスであり、該離型剤の水酸基価は5乃至45mgKOH/gであり、
該着色剤が磁性酸化鉄であることを特徴とするトナー。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明の「トナー」が「水系媒体中で製造されるトナー粒子」を有するのに対して、引用例1発明では「粉砕法により製造された」トナーである点。

2-5.検討
(相違点1について)
引用例1には、「結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法」「が応用出来る」と記載されている(上記1f参照)。してみると、上記相違点1に係る構成を採用することに、格別の困難性はない。

これに対して請求人は平成21年3月19日付手続補正書で、
『第5刊行物に記載されているワックスは末端にしかヒドロキシル基が無いため、1分子あたりのヒドロキシル基が少なく、本願発明の規定する水酸基価の範囲を満たさないと考えられます。従って、本願発明のようにワックスの分子鎖全体で磁性酸化鉄を取り込むように配位することができず、本願発明ほど磁性酸化鉄の分散性を発揮することができません。従って、第5刊行物に記載されているワックスを水系媒体中で製造される磁性トナーに適用したとしても、本願発明の効果を得ることはできません。このことは、ワックスの水酸基価が5未満である本願明細書中の比較例3(水酸基価が4mgKOH/g)が、カブリや転写効率等で他の実施例よりも劣っていることからも裏付けられています(本願明細書〔0171〕、〔0172〕等参照)。同様に、第4刊行物に記載されているワックス(長鎖アルキルアルコール)も1級アルコールであり、水系媒体中で製造される磁性トナーに適用したとしても、本願発明の効果を得ることはできません。』
と主張する。
しかしながら、上記引用例4,5において1分子あたりのヒドロキシル基が少なくとも、多少とも磁性酸化鉄の分散性に寄与することが明らかである以上、上記主張は採用できない。

また、平成21年12月3日付回答書で
『しかしながら、引用文献1及び6に記載のトナーは、上記したように、粉砕トナーであり、溶融混練時に樹脂中においてワックス及び磁性酸化鉄を分散させるものです。一方で、本願発明に記載のトナーは、水系媒体中で重合によりトナー粒子を製造する際にワックス及び磁性酸化鉄を分散させるものであり、引用文献1及び6と本願発明とではワックス及び磁性酸化鉄の置かれる状況が全く異なります。
このことは、粉砕トナーである引用文献4及び5に記載のトナーについても同様であり、引用文献4及び5に記載の着色剤(磁性酸化鉄)の分散性の効果は、必ずしも引用文献1及び6に記載のワックスを水系媒体中でトナー粒子が製造されるトナーへ適用するための動機付けにはなりません。
本願発明で規定されるワックスは、水系媒体中でトナー粒子を重合する際に、ワックスの分子鎖全体で磁性酸化鉄を取り込んで該磁性酸化鉄を良好に分散させる作用を有しますが、係る作用については、引用文献1,4,5,6のいずれにも記載がありません。
従って、引用文献1及び6に記載のワックスを、粉砕トナーから、水系媒体中で重合によりトナー粒子が製造されるトナーへと適用することは設計的事項の範囲内であるという上記認定は不当なものです。』
と主張する。
しかしながら、上述のとおり、引用例1には「結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法」「が応用出来る」とも記載されている(上記1f参照)。また、懸濁重合法において親水性である磁性酸化鉄の表面特性の改質によって分散性を改善しなければならないことは、従来周知である(上記引用例2及び引用例3、2a?3d参照)上、引用例1発明のワックスは「分子中に適度な水酸基を有していることにより、ワックスが結着樹脂中に微粒子状に分散できる」(上記1c参照)のであり、アルコールワックスや長鎖アルキルアルコールの水酸基が磁性体の分散性に寄与することが従来周知である(上記引用例4及び引用例5,4a?5a参照)から、製造されるトナーにおいて、磁性酸化鉄を含むトナーの各成分の分散性に寄与することは明らかである。
以上のことから、上記主張は採用できない。

(相違点1に係る効果について)
本願発明の詳細な説明で説明されている水酸基価35のアルコール変性パラフィンを用いている比較例4(下記表1参照)は、引用例1発明に対応するものであって、溶融混練・粉砕分級によって得られたトナーである点でのみ、実施例1?7と異なっている。

そこで、本願発明の詳細な説明に記載された表2において、アルコール変性パラフィンを用いた比較例4と実施例1?7とを比較する。


表2を参照すると、平均円形度、モード円形度とも実施例1?7に比べて劣っている比較例4の、転写効率(%)は、実施例1?7と比べて少々劣っている。他方、水酸基価が本願補正発明に規定される範囲に外れていると異なるアルコール変性パラフィンワックスを用いる比較例2.3の、転写効率(%)は、実施例1?7とを比較すると、比較例4よりもさらに大きく劣っている。
してみると、転写効率に対して、水酸基価は大きな差異をもたらすが、平均円形度やモード円形度はそれほど大きな差異をもたらさないといえる。なお、表2の他の指標では、比較例2.3と比較例4との間に大きな差は見られない。
ここで、トナー粒子が「水系媒体中で製造されるトナー粒子」と「粉砕法により製造された」こととの違いが、平均変形度やモード円形度の違いをもたらすといえるから、「水系媒体中で製造されるトナー粒子」の本願発明と「粉砕法により製造された」引用例1発明との間に一応の差異があるとしても、格別のものとまではいえない。

2-6.まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例1発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-7.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明について
3-1.本願の請求項1に係る発明
平成21年3月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成19年5月7日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】 少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する、水系媒体中で製造されるトナー粒子を有するトナーであり、該離型剤は、5乃至45mgKOH/gの水酸基価を有する炭化水素ワックスであって、該着色剤が磁性酸化鉄であることを特徴とするトナー。」

3-2.引用例の記載
(1)引用例6
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2002-55477号公報(原査定の引用例1。以下「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。(以降、下線は当審にて付与したもの。)

(6a)「【請求項1】 結着樹脂、着色剤および炭化水素系ワックスを少なくとも含有するトナーであり、前記ワックスは水酸基価(H_(V))が5?150mgKOH/gであり、エステル価(E_(V))が1?50mgKOH/gであり、その関係が
H_(V)>E_(V)
であり、
前記トナーのテトラハイドロフラン可溶成分が、ゲル透過クロマトグラフィにより測定される分子量分布において、分子量3,000?50,000の領域に少なくとも一つピークを有し、分子量100,000?10,000,000の領域に少なくとも一つピーク又はショルダーを有することを特徴とするトナー。」

(6b)「【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述の問題点を解消したトナーを提供することにある。
【0016】本発明の目的は、低温定着性と耐オフセット性を向上し、良好な定着性能を示すトナーを提供することにある。
【0017】本発明の目的は、長期間の使用においても、定着部材へのトナー付着を生じず、初期と同様な優れた画像特性を持つトナーを提供することにある。
【0018】更に本発明の目的は、トナー粒子中にワックスが均一に分散し、長期間の使用においても、初期と同様な優れた画像特性を持つトナーを提供することにある。
【0019】更に本発明の目的は、高速なプロセススピードにおいてもトナーの低温定着性と高耐久性を両立するトナーを提供することにある。
【0020】本発明の目的は、長期の保存性に優れたトナーを提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するためにトナーの組成について鋭意研究を重ねた結果、(1)水酸基価(HV)が5?150mgKOH/gであり、エステル価(EV)が1?50mgKOH/gであり、その関係が
H_(V)>E_(V)
である炭化水素系ワックスをトナーに用い、且つ、(2)トナーが、テトラハイドロフラン可溶成分のゲル透過クロマトグラフィにより測定される分子量分布において、分子量3,000?50,000の領域に少なくとも一つピークを有し、分子量100,000?10,000,000の領域に少なくとも一つピーク又はショルダーを有することとすることにより、低温領域から高温領域までの幅広い温度領域での良好な定着性を示し、且つ、長期に亘るトナーの帯電安定性やトナーの混合時の帯電均一性を維持しつつ、高温高湿,低温低湿環境下においても良好な現像性を示すトナーが得られることを見いだした。
【0022】すなわち、本発明は、結着樹脂、着色剤および炭化水素系ワックスを少なくとも含有するトナーであって、前記ワックスは水酸基価(HV)が5?150mgKOH/gであり、エステル価(EV)が1?50mgKOH/gであり、その関係が
H_(V)>E_(V)
であり、前記トナーのテトラハイドロフラン可溶成分が、ゲル透過クロマトグラフィにより測定される分子量分布において、分子量3,000?50,000の領域に少なくとも一つピークを有し、分子量100,000?10,000,000の領域に少なくとも一つピーク又はショルダーを有することを特徴とするトナーに関する。
【0023】
【発明の実施の形態】本発明者らは鋭意検討の結果、水酸基価(H_(V))が5?150mgKOH/g(好ましくは10?100mgKOH/g、より好ましくは20?90mgKOH/g)であり、エステル価(EV)が1?50mgKOH/g(好ましくは1?30mgKOH/g、より好ましくは1?20mgKOH/g、特に好ましくは1?15mgKOH/g)である炭化水素系ワックスをトナーに用い、且つ、前記トナーのテトラハイドロフラン(THF)可溶成分のゲル透過クロマトグラフィ(GPC)により測定される分子量分布において、分子量3,000?50,000の領域に少なくとも一つピークを有し、分子量100,000?10,000,000の領域に少なくとも一つピーク又はショルダーを有することにより、低温領域から高温領域までの幅広い温度領域での良好な定着性能を示し、高温高湿,低温低湿環境下においても長期の使用に亘って良好な現像性を示すトナーが得られることを見いだした。」

(6c)「【0048】脂肪族炭化水素ワックスとしては、例えば、(A)エチレン重合法または石油系炭化水素の熱分解によるオレフィン化法で得られる二重結合を1個以上有する高級脂肪族不飽和炭化水素、(B)石油留分から得られるn-パラフィン混合物、(C)エチレン重合法により得られるポリエチレンワックス、(D)フィッシャートロプシュ合成法により得られる高級脂肪族炭化水素の1種または2種以上、などが好ましく用いられる。」

(6d)「【0128】本発明のトナーは磁性材料をトナー粒子中に含有させ磁性トナーとして使用しうる。この場合、磁性材料は着色剤の役割をかねることもできる。磁性トナーに使用される磁性材料としては、マグネタイト、ヘマタイト、フェライトの如き酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属或いはこれらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属との合金及びその混合物が挙げられる。」

(6e)「【0151】本発明に係るトナーを作製するには、上述したようなトナー構成材料をボールミルその他の混合機により十分混合した後、熱ロール,ニーダー,エクストルーダーの如き熱混練機を用いてよく混練し、冷却固化後、機械的な粉砕・分級によってトナーを得る方法が好ましく、他には、結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法、あるいはコア材,シェル材から成るいわゆるマイクロカプセルトナーにおいてコア材あるいはシェル材、あるいはこれらの両方に所定の材料を含有させる方法、結着樹脂溶液中に構成材料を分散した後、噴霧乾燥によりトナーを得る方法等が応用出来る。さらに必要に応じ所望の添加剤をヘンシェルミキサーの如き混合機により十分混合し、本発明に係るトナーを製造することができる。」

(6f)「【0153】
【実施例】以上本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下実施例にもとづいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、これによって本発明の実施の態様がなんら限定されるものではない。実施例中の部数は質量部である。
【0154】ワックスの合成例
ワックス合成例1
原料物質としてフィッシャートロプシュワックス〔数平均分子量(Mn)718,平均炭素数50.5〕1000gをガラス製の円筒反応器に入れ、窒素ガスを少量(3リットル/分)吹き込みながら、140℃まで昇温した。ホウ酸/無水ホウ酸=1.45(モル比)の混合触媒26.3g(0.41モル)を加えた後、空気(21リットル/分)と窒素(16リットル/分)を吹き込みながら、180℃で2.5時間反応を行った。反応終了後反応混合物に等量の温水(95℃)を加え、反応混合物を加水分解後、静置して上層に分離したワックスを分取し、分取したワックスを水洗いしてワックス1を得た。ワックス1の水酸基価は59.1mgKOH/g、エステル価は14.2mgKOH/g、酸価は8.3mgKOH/g、融点は91℃、針入度は6、粘度は12.7mPa・s、軟化点は93℃、Mnは616であった。ワックス1の合成条件及び物性を表1に示す。
【0155】ワックス合成例2
原料物質としてポリエチレンワックス(Mn=1450)1000gを用い、ホウ酸/無水ホウ酸混合触媒の添加量と反応時間をかえた以外はワックス合成例1と同様にしてワックス2(Mn=1230)を得た。ワックス2の合成条件及び物性を表1に示す。」

(6g)「【0162】ワックス合成例9
触媒をメタホウ酸17.17g(0.39モル)とし、反応時間を1.5時間にした以外はワックス合成例1と同様にしてワックス9(Mn=535)を得た。ワックス9の合成条件及び物性を表1に示す。
【0163】ワックス合成例10
原料物質としてポリエチレンワックス(Mn=1126)1000gを用い、ホウ酸/無水ホウ酸混合触媒の添加量と反応時間をかえた以外はワックス合成例1と同様にしてワックス10(Mn=907)を得た。ワックス10の合成条件及び物性を表1に示す。」

(6h)「【0165】
【表1】


(6i)「【0175】
実施例1
結着樹脂1 100部
磁性酸化鉄 100部
モノアゾ鉄錯体 2部
ワックス1 4部
上記混合物を、130℃に加熱された二軸エクストルーダーで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物をジェットミルで微粉砕し、得られた微粉砕粉を固定壁型風力分級機で分級して分級粉を生成した。さらに、得られた分級粉を、コアンダ効果を利用した多分割分級装置(日鉄鉱業社製エルボジェット分級機)で超微粉及び粗粉を同時に厳密に分級除去して重量平均粒径(D4)6.8μmの負帯電性磁性トナーを得た。
【0176】この磁性トナー100質量部と疎水性シリカ微粉体1.2質量部とをヘンシェルミキサーで混合して現像剤1を調製した。
【0177】実施例2?13、比較例1?3、5及び参考例
用いるワックスをワックス2?12に、あるいは結着樹脂を結着樹脂2?6及び重合体L5にかえた以外は実施例1と同様にして、表4に示す現像剤2?16、18及び20を得た。
【0178】比較例4
用いるワックスをワックス12(ポリグリセリン部分エステル化物;融点66℃,針入度12、Mn=381)にかえた以外は実施例1と同様にして、表4に示す現像剤17を得た。」

(6j)「【0191】
【表5】

【0192】
【発明の効果】上述の如く本発明によれば、低温定着性及び耐高温オフセット性を高度に満足し、且つ、高温高湿,低温低湿のような厳しい環境下においても高い現像性を維持し、耐ブロッキング性に優れ、定着部材へのトナー付着を起こさないトナーを提供することができる。」

上記の記載事項から、引用例6には、以下の発明(以下「引用例6発明」という。)が記載されている。

「結着樹脂、磁性酸化鉄および炭化水素系ワックスを含有するトナーであり、前記炭化水素系ワックスは水酸基価(H_(V))が5?150mgKOH/g(好ましくは10?100mgKOH/g、より好ましくは20?90mgKOH/g)の炭化水素系ワックスであるトナー」

(2)引用例2?5
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2001-343783号公報、特開2002-108004号公報、特開平8-234487号公報、特開平9-319137号公報(それぞれは、原査定の引用例2?5。それぞれを、以下「引用例2」?「引用例5」という。)には、2-3.(2)?(5)において摘示した事項が記載されている。

3-3.対比
引用例6発明の「炭化水素系ワックス」は「離型剤」であるから、本願発明の「離型剤」が「炭化水素ワックス」であることに相当する。
したがって、両者は、
「少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有するトナー粒子を有するトナーであり、該離型剤が特定の範囲の水酸基価を有する炭化水素ワックスであって、該着色剤が磁性酸化鉄であることを特徴とするトナー。」で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1’)
本願発明の「トナー」が「水系媒体中で製造されるトナー粒子」を有するのに対して、引用例6発明では「粉砕法により製造された」トナーである点。

(相違点2)
本願発明の「炭化水素ワックス」が「5乃至45mgKOH/gの水酸基価を有する」のに対して、引用例6発明が「水酸基価(H_(V))が5?150mgKOH/g(好ましくは10?100mgKOH/g、より好ましくは20?90mgKOH/g)」である点。

3-4.検討
(相違点1’について)
引用例6には、「結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法」「が応用出来る」と記載されている(上記6e参照)。してみると、上記相違点1’に係る構成を採用することに、格別の困難性はない。

これに対して請求人は平成21年3月19日付手続補正書で、
『第5刊行物に記載されているワックスは末端にしかヒドロキシル基が無いため、1分子あたりのヒドロキシル基が少なく、本願発明の規定する水酸基価の範囲を満たさないと考えられます。従って、本願発明のようにワックスの分子鎖全体で磁性酸化鉄を取り込むように配位することができず、本願発明ほど磁性酸化鉄の分散性を発揮することができません。従って、第5刊行物に記載されているワックスを水系媒体中で製造される磁性トナーに適用したとしても、本願発明の効果を得ることはできません。このことは、ワックスの水酸基価が5未満である本願明細書中の比較例3(水酸基価が4mgKOH/g)が、カブリや転写効率等で他の実施例よりも劣っていることからも裏付けられています(本願明細書〔0171〕、〔0172〕等参照)。同様に、第4刊行物に記載されているワックス(長鎖アルキルアルコール)も1級アルコールであり、水系媒体中で製造される磁性トナーに適用したとしても、本願発明の効果を得ることはできません。』
と主張する。
しかしながら、上記引用例4,5において1分子あたりのヒドロキシル基が少なくとも、多少とも磁性酸化鉄の分散性に寄与することが明らかである以上、上記主張は採用できない。

また、平成21年12月3日付回答書で
『しかしながら、引用文献1及び6に記載のトナーは、上記したように、粉砕トナーであり、溶融混練時に樹脂中においてワックス及び磁性酸化鉄を分散させるものです。一方で、本願発明に記載のトナーは、水系媒体中で重合によりトナー粒子を製造する際にワックス及び磁性酸化鉄を分散させるものであり、引用文献1及び6と本願発明とではワックス及び磁性酸化鉄の置かれる状況が全く異なります。
このことは、粉砕トナーである引用文献4及び5に記載のトナーについても同様であり、引用文献4及び5に記載の着色剤(磁性酸化鉄)の分散性の効果は、必ずしも引用文献1及び6に記載のワックスを水系媒体中でトナー粒子が製造されるトナーへ適用するための動機付けにはなりません。
本願発明で規定されるワックスは、水系媒体中でトナー粒子を重合する際に、ワックスの分子鎖全体で磁性酸化鉄を取り込んで該磁性酸化鉄を良好に分散させる作用を有しますが、係る作用については、引用文献1,4,5,6のいずれにも記載がありません。
従って、引用文献1及び6に記載のワックスを、粉砕トナーから、水系媒体中で重合によりトナー粒子が製造されるトナーへと適用することは設計的事項の範囲内であるという上記認定は不当なものです。』
と主張する。
しかしながら、上述のとおり、引用例6には、「結着樹脂を構成すべき単量体に所定の材料を混合して乳化懸濁液とした後に、重合させてトナーを得る重合トナー製造法」「が応用出来る」と記載されている(上記6e参照)。また、懸濁重合法において親水性である磁性酸化鉄の表面特性の改質によって分散性を改善しなければならないことは、従来周知である(上記引用例2及び引用例3、2-3の2a?3d参照)上、アルコールワックスや長鎖アルキルアルコールの水酸基が磁性体の分散性に寄与することが従来周知である(上記引用例4及び引用例5、2-3の4a?5a参照)から、製造されるトナーにおいて、磁性酸化鉄を含むトナーの各成分の分散性に寄与することは明らかである。
以上のことから、上記主張は採用できない。

(相違点1’に係る効果について)
本願発明の詳細な説明で説明されている水酸基価35のアルコール変性パラフィンを用いている比較例4は、引用例6発明に対応するものであって、溶融混練・粉砕分級によって得られたトナーである点でのみ、実施例1?7と異なっている。そこで、効果について検討すると、2-5で述べたとおりである。

(相違点2について)
引用例6発明の目的は、トナー中にワックスを均一に分散することで初期と同様な優れた画像特性を持たせることであり、本願発明の、長時間の使用においても画像濃度が高く、カブリの発生が抑制され画像再現性に優れたトナーを提供するという目的と共通している。そして、引用例6発明において、トナーの水酸基価はワックスの均一性を考慮して当業者が適宜設計し得た事項である。また、引用例6発明において、実施例に用いたワックス2,9,10,12の場合、水酸基価は本願発明の「5乃至45mgKOH/gの水酸基価」を満足するものである。
以上のことから、上記相違点2に係る構成を採用することに、格別の困難性はない。

(相違点2に係る効果について)
引用例6発明において、実施例に用いたワックス2,9,10,12の場合、水酸基価は本願発明の「5乃至45mgKOH/gの水酸基価」を満足するものであるから、当然、本願発明と同様の効果を奏することは明らかである。したがって、本願発明と引用例6発明との間に、相違点2に関する格別の効果の差異は認められない。

3-5.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例6発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-6.むすび
よって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-25 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-18 
出願番号 特願2002-119051(P2002-119051)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江口 州志  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 伊藤 裕美
中田 とし子
発明の名称 トナー  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 山口 芳広  

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