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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1216031
審判番号 不服2006-20033  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-07 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 特願2002-286560「磁気メモリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日出願公開、特開2004-128015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月30日の出願であって、平成18年8月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成21年10月5日付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成21年12月7日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、
これらワード線とビット線との立体的交叉部間に、メモリ素子を構成する磁気抵抗素子が配置されて成り、
該磁気抵抗素子は、少なくとも1対の強磁性層が中間層を介して対向するように積層されて成り、該積層面に対して交叉する方向の通電によって磁気抵抗変化を得る構成による磁気抵抗効果素子であって、
前記中間層がトンネルバリア層であり、
少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、20≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、20≦d≦30を満たす範囲であり、
上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:1.2から1:3.5の範囲にあるパターン形状とされていることを特徴とする磁気メモリ装置。」

3.当審の拒絶理由
当審において平成21年10月5日付けで通知した拒絶の理由1の要点は、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2002-204004号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。

4.引用刊行物に記載された発明
(4-1)特開2002-204004号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1?図5、図8とともに、次の記載がある。

ア 発明の背景等
・「【0002】
【従来の技術】強磁性一重トンネル接合は、薄い絶縁体層を一対の強磁性層で挟持してなる構造を有している。それら強磁性層を電極として用いてバイアス電圧を印加すると、強磁性一重トンネル接合にはトンネル電流が流れる。
【0003】強磁性一重トンネル接合において、トンネル電流が流れる際のトンネル抵抗,すなわちトンネルコンダクタンス,は、一方の強磁性層の磁化方向と他方の強磁性層の磁化方向とがなす角度に依存して変化する。換言すれば、強磁性一重トンネル接合で得られる磁気抵抗効果(magnetoresistance effect)は、強磁性層間で磁化方向がなす角度に応じてトンネルコンダクタンスが変化することに基づいている。例えば、一方の強磁性層の磁化方向が膜面に平行な第1の方向であり且つ他方の強磁性層の磁化方向が第1の方向とは逆向きの第2の方向である場合には、トンネルコンダクタンスは最小となる。また、それら強磁性層の磁化方向がともに第1の方向である場合には、トンネルコンダクタンスは最大となる。
【0004】このような強磁性一重トンネル接合は、様々なデバイスへの応用が期待されている。例えば、一方の強磁性層を磁化方向が固定された磁化固着層とし且つ他方の強磁性層を外部磁場に応じて磁化方向が変化し得るフリー層とした強磁性一重トンネル接合については、固体磁気メモリ(或いは、磁気ランダムアクセスメモリ:MRAM)のメモリセルとして利用することが提案されており、このMRAMは、低記憶容量ながら既に試作されている。
【0005】MRAMは、基本的には不揮発性であり、高速の書き込み及び読み出しが可能であり、しかも、書き込み及び読み出しの繰り返しに対する耐疲労特性が高いなどの優れた特徴を有している。しかしながら、以下に説明するように、MRAMは、大容量化に伴ってメモリセルのサイズを縮小した場合に、フリー層の磁化方向を反転させるのに必要な磁場,所謂、反転磁場,が大きくなり、より大きな書き込み電流が必要となるという問題を有している。
【0006】フリー層の反転磁場は1/W(W:セルの幅)に比例している。また、この反転磁場は、フリー層の膜厚t及び飽和磁化M_(s)にも比例することが知られている。すなわち、フリー層の反転磁場はt・M_(s)/Wに比例している。なお、フリー層の反転磁場が1/Wに比例しているのは、フリー層の磁化方向を反転させてMRAMセルに記憶された情報を書き換えるためには、フリー層内部に生じる反磁場を上回る外部磁場を印加する必要があるが、この反磁場はセルの幅方向に生じる磁極によってもたらされるためである。
【0007】上記比例関係から明らかなように、メモリセルのサイズを縮小した場合に反転磁場が増大するのを回避するためには、例えば、フリー層の膜厚tを減少させればよい。しかしながら、膜厚tを薄くした場合、本来、連続膜であるべきフリー層は得られず、下地上に多数の微粒子を分散させた形態となる。そのような多数の微粒子が形成する薄膜は、強磁性体ではなく常磁性体となるため、磁気抵抗比が著しく減少することとなる。
【0008】また、メモリセルのサイズを縮小した場合に反転磁場が増大するのを回避するために飽和磁化M_(s)を減少させることもできる。しかしながら、飽和磁化M_(s)を減少させるためにフリー層を構成する材料に非磁性材料を添加した場合、往々にして、フェルミ面における伝導電子のスピン分極度も低下して磁気抵抗比の低下を招くこととなる。
【0009】すなわち、従来技術では、メモリセルのサイズを縮小した場合に、十分に高い磁気抵抗比を維持しつつフリー層の反転磁界の増大を防止することができなかった。なお、MRAMに関連して説明した問題は、強磁性一重トンネル接合を利用した磁気ヘッドにおいても同様に存在している。また、強磁性一重トンネル接合に関して上述した問題は、強磁性二重トンネル接合においても同様である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、サイズを縮小化した場合においても十分に高い磁気抵抗比を維持し且つ反転磁界の増大を防止し得る磁気抵抗効果素子,磁気メモリ,磁気ヘッド,及び磁気再生装置を提供することを目的とする。」

イ 実施例
・「【0018】図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を概略的に示す断面図である。図1に示す磁気抵抗効果素子1は、強磁性一重トンネル接合2aを有している。この強磁性一重トンネル接合2aは、一対の強磁性層3,4間に絶縁体などからなるトンネル障壁層6を介在させた構造を有している。この強磁性一重トンネル接合2aは、それら強磁性層3,4間をトンネル障壁層6を介してトンネル電流が流れるように構成されている。
【0019】強磁性層3のトンネル障壁層6と接する面の裏面には、反強磁性層8が配置されている。これにより、強磁性層3の磁化方向は、外部磁場を作用させても変化することはない。一方、強磁性層4の磁化方向は、基本的には、外部磁場に応じて自由に回転し得る。すなわち、図1に示す磁気抵抗効果素子1において、強磁性層3は磁化方向が固定された第1の強磁性層,所謂、磁化固着層,であり、強磁性層4は外部磁場に応じて磁化方向が変化し得る第2の強磁性層,所謂、フリー層,である。換言すれば、図1に示す磁気抵抗効果素子1は、強磁性層4の磁化方向を外部磁場によって反転または回転させて強磁性層3の磁化方向と強磁性層4の磁化方向とがなす角度を変化させるとトンネル抵抗或いはトンネル電流が変化するという磁気抵抗効果を利用するものである。
【0020】上述した強磁性一重トンネル接合2a及び反強磁性層8は、通常、基板10の一方の主面上に、各種薄膜を順次成膜することにより形成される。なお、図1の磁気抵抗効果素子1において、基板10と反強磁性層8との間には、拡散バリア層11及び配向制御層12が基板10側から順次積層されており、強磁性層4上には、保護層13及び配線層14が順次積層されている。また、参照番号15は絶縁層である。
【0021】図2は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を概略的に示す断面図である。図2に示す磁気抵抗効果素子1は、強磁性一重ンネル接合2aの代わりに強磁性二重トンネル接合2bを有しており且つ強磁性二重トンネル接合2bと保護層13との間にさらに反強磁性層9を有していること以外は図1に示す磁気抵抗効果素子1とほぼ同様の構造を有している。
【0022】図2に示す磁気抵抗効果素子1において、強磁性二重トンネル接合2bは、強磁性層3,4間にトンネル障壁層6を介在させ、強磁性層4,5間にトンネル障壁層7を介在させた構造を有している。この強磁性二重トンネル接合2bは、強磁性層3,4間及び強磁性層4,5間をトンネル障壁層6,7を介してトンネル電流が流れるように構成されている。
【0023】また、図2に示す磁気抵抗効果素子1において、強磁性層3に関して説明したのと同様に、強磁性層5も反強磁性層9の存在によって磁化方向が固定された磁化固着層である。図2に示す磁気抵抗効果素子1は、強磁性層4の磁化方向を外部磁場によって反転または回転させて強磁性層3,5の磁化方向と強磁性層4の磁化方向とがなす角度を変化させるとトンネル抵抗或いはトンネル電流が変化するという磁気抵抗効果を利用するものである。
【0024】さて、上述した第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1は、強磁性層4を以下に説明する材料で構成したことを特徴としている。すなわち、図1及び図2に示す磁気抵抗効果素子1において、強磁性層4の組成は、一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)または一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)で表される。なお、それら一般式において、YはB、Si、Zr、P、Mo、Al、及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。また、xは不等式0<x<100を満足する数値であり、好ましくは、不等式3<x<16を満足する数値である。
【0025】これら一般式に示す材料は、元素Yを含有していないこと以外は同様の組成を有する材料に比べて飽和磁化M_(s)が小さく、したがって、磁気抵抗効果素子1のサイズを縮小化した場合(或いは、強磁性層4の幅Wを狭めた場合)においても、反転磁界が過剰に大きくなることがない。また、強磁性層4の膜厚tを減少させた場合においても、元素Yを含有する上記材料によると結晶化が抑制されるため、強磁性層4を連続膜として形成することができる。すなわち、磁気抵抗効果素子1のサイズを縮小化した場合であっても、上記一般式に示す材料を用いることにより、式t・M_(s)/Wに比例する強磁性層4の反転磁界を十分に小さな値に維持することが可能となる。
【0026】図3は、本発明の第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1の強磁性層4の組成とその磁気抵抗変化率との関係の一例を示すグラフである。このグラフは、一般式(Co_(9)Fe)_(100-x)B_(x)に示す組成を有し且つ厚さが1nmの強磁性層4を用いた磁気抵抗効果素子1について得られたデータに基づいて描かれており、横軸は強磁性層4中のBの濃度に相当する上記一般式中のxを示し、縦軸は磁気抵抗変化率(%)を示している。
【0027】室温下での通常の成膜方法では、Bを含有しないCo_(9)Fe膜を連続膜として成膜可能な膜厚の下限はせいぜい1.5nm程度である。Co_(9)Fe膜が不連続膜として形成された場合、その不連続膜は数nm径の微粒子の集合体で構成される。これら微粒子のそれぞれは室温下における強磁性を失い、磁化方向が定まらなくなって、所謂、超常磁性となる。その結果、実用的な磁界強度の範囲内においては、磁気抵抗変化率は顕著に低下する。
【0028】それに対し、Co_(9)FeにBを添加すると、膜厚0.5nm程度までは連続膜を形成することができ、例えば、膜厚が1nmである場合には、図3に示すように、xを3乃至16とすることにより10%以上と十分に高い磁気抵抗変化率を得ることができ、xを5程度とすることにより20%以上もの磁気抵抗変化率を得ることができる。」
・「【0037】次に、第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1を用いた磁気メモリについて説明する。
【0038】図4は、本発明の第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1を用いた磁気メモリ(MRAM)を概略的に示す断面図である。また、図5は、図4に示すMRAMの等価回路図である。
【0039】図4に示すMRAM21はシリコン基板22を有している。このシリコン基板上にはゲート電極24が形成されており、シリコン基板22の表面領域には、このゲート電極24を挟むようにしてソース・ドレイン領域25,26が形成されている。これにより、MOSトランジスタ23が構成されている。なお、ゲート電極24は、読み出し用のワードライン(WL1)を構成している。また、ワードライン(WL1)24上には、絶縁膜27を介して書き込み用のワードライン(WL2)28が形成されている。
【0040】MOSトランジスタ23のドレイン領域26にはコンタクトメタル29の一端が接続されており、コンタクトメタル29の他端には下地層30が接続されている。この下地層30上のワードライン(WL2)28に対応する位置には強磁性トンネル接合素子(TMR)31が形成されており、さらに、TMR31上にはビットライン32が形成されている。
【0041】MRAM21のセルは、以上のようにして構成されている。なお、図4に示すTMR31及び下地層30は、例えば、図1及び図2に示す磁気抵抗効果素子1から、基板10、保護層13、配線層14、及び絶縁層15などを除いた構造に相当する。
【0042】上述したMOSトランジスタ23とTMR31とで構成されるメモリセルは、図5に示すように、アレイ状に配列されている。トランジスタ23のゲート電極である読み出し用のワードライン(WL1)24と、書き込み用のワードライン(WL2)28とは平行に配置されている。また、TMR31の上部に接続されたビットライン(BL)32は、ワードライン(WL1)24及びワードライン(WL2)28と直交するように配置されている。
【0043】このMRAM21は、第1及び第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子1を用いているので、メモリセルのサイズを縮小した場合においても、十分に高い磁気抵抗比を維持しつつフリー層の反転磁界の増大を防止することができる。すなわち、このMRAM21では、メモリセルのサイズを縮小した場合においても、十分に電流で情報の書き込みが可能である。」
・「【0053】その後、通常のフォトリソグラフィ技術とイオンミリング技術とを用いて、これら薄膜を幅Wが2?0.25μmであり且つ長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすることにより二重トンネル接合部を規定した。以上のようにして、図2に示す磁気抵抗効果素子1を得た。」
・「【0057】図8は、本発明の実施例及び比較例に係る磁気抵抗効果素子1の磁気抵抗比を示すグラフである。図中、横軸はトンネル接合部の幅Wの逆数1/W(μm^(-1))を示し、縦軸は強磁性層4の磁化方向を反転させるのに必要な磁場の強さH_(c)(Oe)を示している。また、図中、曲線61は本発明の実施例に係る磁気抵抗効果素子1について得られたデータを示し、曲線62は比較例に係る磁気抵抗効果素子1について得られたデータを示している。
【0058】図8に示すように、本発明の実施例に係る磁気抵抗効果素子1では、トンネル接合部の幅Wを0.25μm程度に小さくしても、強磁性層4の磁化方向を反転させるのに必要な磁場の強さH_(c)は40Oe以下と十分に小さい。しかも、磁場の強さH_(c)の幅Wに対する変化率は小さいので、さらなる微細化にも対応可能であることが分かる。
【0059】それに対し、比較例に係る磁気抵抗効果素子1では、トンネル接合部の幅Wを0.25μm程度とすると、強磁性層4の磁化方向を反転させるのに必要な磁場の強さH_(c)は100Oeを超え、実用上、強磁性層4の磁化方向を反転させるのが困難となった。
【0060】なお、元素YとしてBの代わりにSi、Zr、P、Mo、Al、及びNbを用いたこと以外は上述したのと同様の方法により実施例及び比較例に係る磁気抵抗効果素子1を作製し、それらの比較を行ったところ、元素YとしてBを用いた場合と同様の傾向が見られた。また、強磁性層4の材料として一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)で表される材料の代わりに一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)で表される材料を用いて同様の比較を行ったところ、上述したのと同様の傾向が見られた。」

ウ 発明の効果
・「【0061】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、外部磁場に応じて磁化方向が変化し得る強磁性層に、極めて薄い連続膜を形成可能であり且つ十分に高い磁気抵抗変化率を得ることが可能な所定の材料を使用する。そのため、サイズを縮小化した場合においても、十分に高い磁気抵抗比を維持し且つ反転磁界の増大を防止することができる。すなわち、本発明によると、サイズを縮小化した場合においても十分に高い磁気抵抗比を維持し且つ反転磁界の増大を防止し得る磁気抵抗効果素子、磁気メモリ、磁気ヘッド、及び磁気再生装置が提供される。」

(4-2)引用発明
上記ア?ウによれば、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。

「ビットライン(BL)32と前記ビットライン(BL)32と直交するように配置されたワードライン(WL2)28とを有し、
前記ワードライン(WL2)28に対応する位置には強磁性トンネル接合素子(TMR)31が形成されており、さらに、前記強磁性トンネル接合素子(TMR)31上には前記ビットライン32が形成されており、
前記強磁性トンネル接合素子(TMR)31は、強磁性一重トンネル接合からなり、前記強磁性一重トンネル接合2は、基板の一方の主面上に、各種薄膜を順次成膜することにより形成され、薄い絶縁体層を一対の強磁性層で挟持してなる構造を有しており、電流で情報の書き込みが可能である磁気抵抗効果素子であって、
前記薄い絶縁体層がトンネル障壁層であり、
前記一対の強磁性層のうちのフリー層である強磁性層4の組成は、一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)または一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)で表され、前記一般式において、YはB、Si、Zr、P、Mo、Al、及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは不等式0<x<100を満足する数値であり、好ましくは、不等式3<x<16を満足する数値であり、前記一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)については、Co_(9)FeにBを添加した組成を含み、
前記薄膜を幅Wが2?0.25μmであり且つ長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすることによりトンネル接合部を規定したことを特徴とする磁気メモリ(MRAM)。」

5.対比
(5-1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「ワードライン(WL2)28」、「ビットライン(BL)32」は、それぞれ、本願発明の「ワード線」、「ビット線」に対応し、また、引用発明の「前記ビットライン(BL)32」と「ワードライン(WL2)28」は、「直交するように配置され」ていることは、本願発明の「互いに立体的に交叉する」ことに対応するから、引用発明の「ビットライン(BL)32と前記ビットライン(BL)32と直交するように配置されたワードライン(WL2)28とを有」することは、本願発明の「互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有」することに相当する。

イ 引用発明の「強磁性トンネル接合素子(TMR)31」は、「磁気メモリ(MRAM)」用の素子であるから、本願発明の「メモリ素子を構成する磁気抵抗素子」に対応し、また、引用発明の「強磁性トンネル接合素子(TMR)31」が、「前記ワードライン(WL2)28に対応する位置に」「形成されており」、「前記強磁性トンネル接合素子(TMR)31上には前記ビットライン32が形成されて」いることは、本願発明の「ワード線とビット線との立体的交叉部間に、」「磁気抵抗素子が配置されて成」ることに対応するから、引用発明の「前記ワードライン(WL2)28に対応する位置には強磁性トンネル接合素子(TMR)31が形成されており、さらに、前記強磁性トンネル接合素子(TMR)31上には前記ビットライン32が形成されて」いることは、本願発明の「これらワード線とビット線との立体的交叉部間に、メモリ素子を構成する磁気抵抗素子が配置されて成」ることに相当する。

ウ 引用発明の「一対の強磁性層」、「薄い絶縁体層」、「各種薄膜を順次成膜すること」、「電流で情報の書き込みが可能である」ことは、それぞれ、本願発明の「1対の強磁性層」、「中間層」、「積層されて成」ること、「該積層面に対して交叉する方向の通電によって磁気抵抗変化を得る構成」に対応するから、引用発明の「前記強磁性トンネル接合素子(TMR)31は、強磁性一重トンネル接合からなり、前記強磁性一重トンネル接合2は、基板の一方の主面上に、各種薄膜を順次成膜することにより形成され、薄い絶縁体層を一対の強磁性層で挟持してなる構造を有しており、電流で情報の書き込みが可能である磁気抵抗効果素子」は、本願発明の「該磁気抵抗素子は、少なくとも1対の強磁性層が中間層を介して対向するように積層されて成り、該積層面に対して交叉する方向の通電によって磁気抵抗変化を得る構成による磁気抵抗効果素子」に相当する。

エ 引用発明の「トンネル障壁層」は、本願発明の「トンネルバリア層」に対応するから、引用発明の「前記薄い絶縁体層がトンネル障壁層であ」ることは、本願発明の「前記中間層がトンネルバリア層であ」ることに相当する。

オ 引用発明の「前記一対の強磁性層のうちのフリー層である強磁性層4」、「一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)」で「YはB」、「一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)」で「YはB」、「xは不等式0<x<100を満足する数値であ」ることの一部は、それぞれ、本願発明の「情報記録層を構成する上記強磁性層の一方」、「CoFeB」、「CoFeNiB」、「10≦z≦30を満たす範囲」又は「10≦d≦30を満たす範囲」に対応するから、引用発明の「前記一対の強磁性層のうちのフリー層である強磁性層4の組成は、一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)または一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)で表され、前記一般式において、YはB、Si、Zr、P、Mo、Al、及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは不等式0<x<100を満足する数値であり、好ましくは、不等式3<x<16を満足する数値であり、前記一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)については、Co_(9)FeにBを添加した組成を含」むことは、本願発明の「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、」「10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、」「10≦d≦30を満たす範囲であ」ることに相当する。
なお、本願発明の「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、10≦d≦30を満たす範囲」であることは、本願の請求項1の記載が、
(a)「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB」「を含有し、前記FeCoB」「の組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲」であることと、
(b)「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、」「CoFeNiBを含有し、前記」「FeCoNiBの組成は、」「Fe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、10≦d≦30を満たす範囲」であることのことの択一的なものとなっているから、上記(a)と(b)のいずれか一方が満足されれば足りる。

カ 引用発明の「幅W」、「長さL」、「長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすること」は、それぞれ、本願発明の「上記情報記録層の平面形状」の「短軸長」、「上記情報記録層の平面形状」の「長軸長」、「短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3」である「パターン形状とされていること」に対応するから、引用発明の「前記薄膜を幅Wが2?0.25μmであり且つ長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすることによりトンネル接合部を規定したこと」は、本願発明の「上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3」で「あるパターン形状とされていること」に相当する。

キ 引用発明の「磁気メモリ(MRAM)」は、本願発明の「磁気メモリ装置」に相当する。

(5-2)そうすると、本願発明と引用発明の一致点と一応の相違点は、次のとおりとなる。

(一致点)
「互いに立体的に交叉するワード線とビット線とを有し、
これらワード線とビット線との立体的交叉部間に、メモリ素子を構成する磁気抵抗素子が配置されて成り、
該磁気抵抗素子は、少なくとも1対の強磁性層が中間層を介して対向するように積層されて成り、該積層面に対して交叉する方向の通電によって磁気抵抗変化を得る構成による磁気抵抗効果素子であって、
前記中間層がトンネルバリア層であり、
少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、10≦d≦30を満たす範囲であり、
上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3であるパターン形状とされていることを特徴とする磁気メモリ装置。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明は、「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、10≦d≦30を満たす範囲」であるのに対して、引用発明は、本願発明の「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、」「10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、」「10≦d≦30を満たす範囲」に対応する、「前記一対の強磁性層のうちのフリー層である強磁性層4の組成は、一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)または一般式(CoFeNi)_(100-x)Y_(x)で表され、前記一般式において、YはB」「であり、xは不等式0<x<100を満足する数値であり、好ましくは、不等式3<x<16を満足する数値であり、前記一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)については、Co_(9)FeにBを添加した組成を含」むものであるが、引用発明が、本願発明の「Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85」「を満たす範囲」であること、「Fe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35」「を満たす範囲」のものであるかどうか、ただちには明らかでない点。
(相違点2)
本願発明は、「上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:1.2から1:3.5の範囲にあるパターン形状とされている」のに対して、引用発明は、「前記薄膜を幅Wが2?0.25μmであり且つ長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすることによりトンネル接合部を規定した」ものであり、本願発明の「上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3であるパターン形状とされている」こととは、一致しているものの、引用発明は、本願発明の「短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3」以外の点については、記載されていない点。

6.相違点についての検討
(6-1)相違点1について
ア 本願発明の「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB、あるいはCoFeNiBを含有し、前記FeCoBあるいはFeCoNiBの組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲であるか、あるいはFe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、10≦d≦30を満たす範囲」であることは、上記(2-2)、オのなお書きで述べたように、
(a)「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB」「を含有し、前記FeCoB」「の組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲」であることと、
(b)「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、」「CoFeNiBを含有し、前記」「FeCoNiBの組成は、」「Fe_(a)Co_(b)Ni_(c)B_(d)(組成式中、a?dは原子%を表す)において、5≦a≦45、35≦b≦85、0<c≦35、10≦d≦30を満たす範囲」であることのいずれか一方が満足されればよいから、上記(a)の場合について、検討することにする。

イ 引用発明は、「一般式(CoFe)_(100-x)Y_(x)」で「YはB」のときに、「xは不等式0<x<100を満足する数値であり」、また、「Co_(9)FeにBを添加した組成を含」むものであるから、引用発明において、例えば、x=20として計算すると、「(Co_(9)Fe)_(80)B_(20)」=「(Co_(72)Fe_(8)B_(20)」、x=30として計算すると、「(Co_(9)Fe)_(70)B_(30)」=「(Co_(63)Fe_(7)B_(15)」となり、本願発明の「少なくとも情報記録層を構成する上記強磁性層の一方が、CoFeB」「を含有し、前記FeCoB」「の組成は、Fe_(x)Co_(y)B_(z)(組成式中、x、y、zは、原子%を表す)において、5≦x≦45、35≦y≦85、10≦z≦30を満たす範囲」の数値範囲と重なっている。
なお、審判請求人は、「Bの含有量(z、d)を20原子%以上としたことにより、270℃でアニールしても、アモルファス状態を維持できる。」旨、主張しているが、このような効果については、本願明細書に記載がないし、Bの含有量のみで状態が決まるとも思われない。

ウ したがって、本願発明の構成として、択一的なものの中から、上記ア、(a)を選択した場合には、本願発明と引用発明とは、数値範囲が重なっているから、両者は、実質的に同一である。

(6-2)相違点2について
ア 引用発明の「前記薄膜を幅Wが2?0.25μmであり且つ長さLが幅Wの3倍となるようにパターニングすることによりトンネル接合部を規定した」ことは、本願発明の「上記情報記録層の平面形状が、短軸長:長軸長によるアスペクト比が、1:3であるパターン形状とされている」ことに相当し、本願発明と引用発明とは、短軸長:長軸長によるアスペクト比の数値が、重なっているから、実質的に同一である。(磁気抵抗効果素子の平面形状について、本願発明では、アスペクト比のみで規定されており、平面パターン形状などは特定されていない。)

イ また、引用刊行物の作用・効果である、例えば、段落【0061】に記載の「サイズを縮小化した場合においても、十分に高い磁気抵抗比を維持し且つ反転磁界の増大を防止することができる」ことは、本願の発明の詳細な説明の段落【0101】に作用・効果として記載の、「保持力すなわち反転磁界の増加を抑制」できることに相当する。

(6-3)したがって、本願発明と刊行物発明との間には実質的な相違はなく、本願発明は、引用刊行物に記載された発明であるから、特許法29条第1項第3号に該当する。

7.むすび
以上、検討したとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-12 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-23 
出願番号 特願2002-286560(P2002-286560)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 16- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二河本 充雄  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 近藤 幸浩
小野田 誠
発明の名称 磁気メモリ装置  
代理人 伊藤 仁恭  
代理人 角田 芳末  

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