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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20057354 審決 特許
不服20078614 審決 特許
不服20086549 審決 特許
不服20064086 審決 特許
不服20078928 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1216113
審判番号 不服2007-22790  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-20 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 平成 8年特許願第523001号「組換え型ヒトα-フェトプロテインおよびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月 1日国際公開、WO96/22787、平成10年12月22日国内公表、特表平10-513347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年1月24日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年1月24日 米国)とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成19年9月19日付手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「以下の組成物の製造における、組換え型ヒトα-フェトプロテインの使用:
(a)哺乳類における自己反応性免疫細胞増殖を阻害するための組成物;
(b)哺乳類における自己免疫疾患を処置するための組成物;
(c)哺乳類における新生組織を阻害するための組成物;
(d)腫瘍形成から哺乳動物を保護するための組成物;
(e)哺乳類から得られた生物学的サンプル中の新生組織を診断するための組成物;
(f)インビボにおいて哺乳類中の新生組織を検出若しくは画像化するための組成物;
(g)哺乳類における骨髄毒性を阻害するための組成物;
(h)哺乳類における骨髄細胞増殖抑制を阻害するための組成物;
(i)哺乳類における骨髄細胞増殖を促進するための組成物;
(j)哺乳類における骨髄細胞移植拒絶を予防するための組成物;または
(k)細胞培養のための組成物。」
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された本願優先日前の1990年1月10日に頒布された刊行物である特開平2-5866号公報(以下、「引用例1」という。)には、
(i)「hAFPの生化学的性質としてはビリルビン、脂肪酸、ステロイドホルモン等との結合能を有していること、免疫抑制作用を有することが知られており、胎児の保護とホルモン調節を行い、母体からの拒絶反応抑制をつかさどっていることなどが考えられている(「Biological Activities of Alpha-Fetoprotein,Vol.1」ed.by G.J.Mlzejevski,H.I.Jacobson,CRC Press,1987)。」(第3頁左下欄下から第4行?同頁右下欄第5行)、
(ii)「以上の結果、hAFPドメインIにビリルビンやエストラジオールとの結合部位が存在することが判明した。このことは、ビリルビン、エストラジオールの結合に関してはhAFPドメインIがhAFPの代用となりうることを示しており、hAFPの持つ免疫抑制活性が、ドメインIにも存在する可能性がある。」(第15頁右上欄第1行?第7行)、
と記載されている。
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特表平8-511677号公報に対応する国際公開パンフレットであって、本願優先日前の1994年5月11日に頒布された刊行物である国際公開第94/10199号(以下、「引用例2」という。)には、
(iii)「好適な実施例において、原核生物細胞はE.coliである。より好適な実施例において、発現制御要素は、E.coli TrpプロモーターとE.coli Tacプロモーターを含む。
関連する側面において本発明は、ヒトアルファ-フェトプロテインの発現を指令することのできる発現制御要素に作動的に結合しているヒトアルファ-フェトプロテインをコードする組換えDNA分子を含む、形質転換された原核生物細胞の提供と、その形質転換細胞にヒトアルファ-フェトプロテインを発現させることにより生産された、実質的に純粋なヒトアルファ-フェトプロテインを特徴とする。
関連する側面において本発明は、上述のように生産された実質的に純粋なヒトアルファ-フェトプロテインを含む治療用組成物を特徴とする。」(第2頁第23行?第3頁第3行)、と記載されている。そして、第15頁第20行?第26行には、大腸菌で発現させた組換えヒトAFPは不溶性であったため、再可溶化して復元させると安定で部分精製された単量体AFPの形で回収でき、さらに精製すると単量体AFPが得られることが記載されている。
なお、原審の審査官は引用文献2として、本願優先日後であって本願出願日前に頒布された公表公報を示しているが、これに対し、平成18年12月13日付意見書及び平成19年10月30日付審判請求書の手続補正書で、審判請求人はその発行日が本願優先日前でないことについて争っていない。そして、国際公開のパンフレットとそれに対応して日本国で発行される公表公報は原文と翻訳文の関係にあって、内容が同じものであることは、通常の特許実務者にとっては常識であり、両者は、その頒布日及び言語以外は実質的に同一の刊行物であると認められる。とすれば、審判請求人は引用文献2に基づく拒絶の理由について反論する機会は十分与えられていたのであるから、請求人は本審決における引用文献2と同一内容の引用例2に基づく拒絶の理由に対して、意見書、補正書を提出する機会が既に与えられていたというべきであり、改めて引用例2に基づく拒絶の理由を通知しなければ、請求人の防御権行使の機会を奪い、その権利保護に欠けることになるというわけではない。以上のことから、原査定の進歩性欠如の拒絶の理由は引用文献2に基づくものではあるが、それは、引用文献2と内容が同じであることが明らかな引用例2(本願優先日前に頒布された国際公開パンフレット)に基づく理由と同一の理由であると認められる。
3.対比・判断
本願請求項1には、「以下の組成物の製造における、組換え型ヒトα-フェトプロテインの使用:(a)…;(b)…;(c)…;(d)…;(e)…;(f)…;(g)…;(h)…;(i)…;(j)…;または(k)細胞培養のための組成物。」のように記載されていることから、請求項1に記載された発明は、(a)?(k)の組成物を択一的に選択して用いるものであるから、上記(a)?(f)のいずれかの組成物の製造における組換え型ヒトα-フェトプロテインの使用方法に係る発明に進歩性がなければ、請求項1に記載された発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そこで以下、(a)?(f)のうち、(a)または(b)の組成物の製造における組換え型ヒトα-フェトプロテイン(以下、α-フェトプロテインを「AFP」という。)の使用方法に係る発明(以下、それぞれ「本願発明a」、「本願発明b」という。)と引用例に記載された事項とを比較する。
(1)本願発明bについて
本願発明bは、上記(b)の記載からみて、哺乳類における自己免疫疾患を処置するための組成物の製造における組換え型ヒトAFPの使用方法に係るものであり、疾患を処置するための組成物とは治療用組成物に他ならない。
そこで、本願発明bと引用例2に記載された事項を比較すると、上記引用例2記載事項(iii)にあるE.coliで発現されたヒトAFPとは、本願発明bの組換え型ヒトAFPに相当し、両者は、組換え型ヒトAFPを含む治療用組成物に関連するものである点で一致するが、前者では、自己免疫疾患を処置するものであるのに対して、後者には、自己免疫疾患を処置することは記載されていない点で相違する。
しかしながら、上記引用例1記載事項(i)及び(ii)にあるようにヒトAFPの活性として免疫抑制活性は、本願優先日前既に広く知られてた周知の技術的事項であり、また、免疫抑制活性を有する物質を自己免疫疾患の処置に用いることも同じく周知(必要ならば「免疫学辞典」株式会社東京化学同人発行、第1版第1刷1993年11月15日発行、第511頁?第512頁「免疫抑制」の項参照。)であったから、そのような周知の免疫抑制活性を有する引用例2に記載の単離精製された組換え型ヒトAFPを治療用組成物に用いる際に、自己免疫疾患の処置に用いようとすることは当業者であれば極めて容易に想到し得たことである。
そして、本願明細書には、代表的な自己免疫疾患である多発性硬化症、リウマチ様関節炎、重症筋無力症、インシュリン依存性糖尿病、全身性エリテマトーデスの解説、動物実験の方法、及びヒトへの投与方法等の一般的事項が記載されているにとどまり、上記疾患のいずれかに対してその治療効果があったことを具体的に裏付ける記載はないから、本願発明bにおいて奏される効果は、引用例1及び2の記載及び上記周知事項から予測できない程の格別なものではない。
したがって、本願発明bは、引用例1及び2に記載された事項及び上記周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願発明aについて
本願発明aは、上記(a)の記載からみて、哺乳類における自己反応性免疫細胞増殖を阻害するためのの組成物の製造における組換え型ヒトAFPの使用方法に係るものである。
そこで、本願発明aと引用例2に記載された事項を比較すると、両者は、組換え型ヒトAFPを含む組成物に関連するものである点で一致するが、前者では、自己反応性免疫細胞増殖を阻害するためのものであるのに対して、後者には、自己反応性免疫細胞増殖を阻害するためのものであることは記載されていない点で相違する。
ところで、上記(1)で述べたとおり、ヒトAFPの免疫抑制活性は、本願優先日前既に広く知られた周知の技術的事項であり、その免疫抑制活性とは、上記引用例1記載事項(i)に記載の参照文献等にもあるように、ヒトAFP及びマウスAFPがin vitroでヒト及び/又はマウスT細胞(免疫細胞)の増殖を抑制した実験結果に基づくものであることは周知であった(必要であれば、The Journal of Experimental Medicine(1975)Vol.141,p.440-452, Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1976)Vol.73,No.8,p.2857-2861, Nature(1977)Vol.267,p.257-259, Oncodevelopmental Biology and Medicine(1982)Vol.3,p.135-150《以下、最後の文献を「参考文献」という。》等参照。)。
このような本願優先日前の技術水準の下、T細胞増殖抑制という周知のヒトAPF活性に関して、上記引用例2に記載の組換え型ヒトAFPを用いて、T細胞のうち自己反応性T細胞の増殖抑制について確認しようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。その際、AMLR(自己混合リンパ球反応)の実験方法が本願出願前既に周知(上記参考文献の特に第136頁下から第9行?下から第5行参照)の方法であったことから、当業者であればAMLRの抑制活性も、何ら困難なく確認し得たことである。
そして、本願発明aにおいて奏せられる効果も、組換え型ヒトAFPがin vitroにおいてヒト自己混合リンパ球反応を抑制したことにすぎず、上記引用例1及び2の記載及び周知の技術的事項から予測し得ないほどの格別なものではない。
したがって、本願発明aは、引用例1及び2に記載された事項及び上記周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、前置報告書で示した文献である参考文献には、ヒトAFPがヒトAMLRを阻害したことが記載されており、天然由来のそのヒトAFPに代え、上記引用例2に記載の組換え型ヒトAFPを用いることは、当業者であれば極めて容易になし得たことであるといえることを付言する。
(3)小括
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2の記載及び上記周知事項から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-26 
結審通知日 2009-11-30 
審決日 2009-12-11 
出願番号 特願平8-523001
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 耕一郎千葉 直紀  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 上條 肇
鵜飼 健
発明の名称 組換え型ヒトα-フェトプロテインおよびその利用  
代理人 清水 初志  
代理人 新見 浩一  

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