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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1216168
審判番号 不服2007-12817  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2010-05-07 
事件の表示 特願2000-320324「射出成形機」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月8日出願公開、特開2002-127217〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年10月20日の特許出願であって、平成16年8月11日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月24日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成16年10月15日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「金型の温度制御を行う金型温調機を少なくとも1台備えると共に、成形条件設定用のマン-マシンインタフェースを備えた射出成形機において、
前記マン-マシンインタフェースと前記金型温調機とを通信ケーブルを介して接続することにより、成形条件の変更に際し、温度監視値の上限値及び下限値を含む金型温調条件も含めた成形条件の設定及び変更を前記マン-マシンインタフェースにて行うことができるようにしたことを特徴とする射出成形機。」

第2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成16年8月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の内容は以下のとおりである。
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<理由1、2>
・請求項 1
・引用文献等 1
・備考:
引用文献1には、射出成形機用制御装置内及び金型温調器用制御装置内の各CPUとバスで接続された各通信用インターフェースを通信経路を介して連結し、前記両制御装置間に互換性をもたせる射出成形機の制御回路が記載され、金型温調機の温度を設定したい場合は、キーボードによって所定のデータを設定すると、その結果はCRTに表示されると共に、射出成形機の制御装置内のCPUの働きによっり通信用インターフェースから通信ケーブルを経て金型温調機の制御装置へと送信されることについても記載されている(実用新案登録請求の範囲、第7頁第12行?第9頁第3行、第1図参照)。
<理由2>
・請求項 2、3
・引用文献等 1、2
・備考:
射出成形機の制御装置が、成形条件等を保存する記憶部を備え、必要に応じ保存された各条件を呼び出し可能とすることは引用文献2にも記載されるように周知である。
引 用 文 献 等 一 覧
1.実願昭61-33002号(実開昭62-144617号)のマイクロフィルム
2.特開平5-69464号公報」

第3.合議体の判断
1.引用文献の記載事項
平成16年8月11日付け拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭61-33002号(実開昭62-144617号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「射出成形機用制御装置内及び金型温調器用制御装置内の各CPUとバスで接続された各通信用インターフェースを通信経路を介して連結し、前記両制御装置間に互換性をもたせることを特徴とする射出成形機の制御回路。」(実用新案登録請求の範囲)

イ.「この第2図から分かるとおり、従来システムでは射出成形機用制御装置1と金型温調器用制御装置21は制御信号系上は全く独立したものとなっている。
・・・
そして、射出成形機の温度制御部は型締や射出の制御部と一体化されて信号の接受を行なっており、CRTやLCDなどのディスプレイとキーボード9を設置しているため、射出成形機に於いて異常が発生した場合には該ディスプレイ異常内容を表示すると共に、必要に応じ射出成形機の運転を停止させるなり、ブザーなどのアナンシェータを作動させることが出来る。また、予め各種データを格納したメモリから再設定し又は逆に該メモリに格納したり、シリンダなどの温度制御対象部からの計測温度データを検出しCRTに表示することが出来る。
しかるに、金型温調器の制御装置21と射出成形機用制御装置1とは前述の如く信号系統的に独立しているので、金型温度設定は射出成形機の温調部とは別場所で別個に行なわなければならないものであった。」(2頁13行?3頁16行)

ウ.「(実施例)
以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図に本考案の実施例である制御装置の概念図を示す。
1は射出成形機の制御装置でCPU2とバスで接続された通信用インターフェース5を有し、他にCRTコントローラ3、キーボード用入力インターフェース4・・・等から構成される。
CRTコントローラ3はCRT8に接続され、キーボード用入力インターフェース4はキーボード9に接続される。CRT8には射出成形機の温調、型締、射出の設定値や現在値の他適宜異常内容を表示すると共に、金型温調器の温調や異常内容をも表示出来る。
・・・
射出成形機の制御装置1と金型温調器の制御装置11は各々の通信用インターフェース5を経て、通信経路である例えば、通信ケーブル10等で相互に接続される。
いま、ここで金型温調器の温度を設定したい場合は、キーボード9によって所定のデータを設定すると、その結果はCRT8に表示されると共に、・・・通信用インターフェース5から通信ケーブル10を経て金型温調器の制御装置11へと送信される。・・・
次に、金型温調器の制御装置11には温度検出器6aで検出された金型温度が・・・通信ケーブル10を経由し最終的に射出成形機側のCRT8に表示される。
いま、図示していない金型温調器の異常検出器、例えば金型温調器の冷媒が漏洩し所定量以下の量になると、冷媒レベル検知器が作動し、金型温調器の制御装置11に入力されて上述した温度の実測値と同様のルートを経てCRT8に異常内容が表示される。」(6頁7行?8頁16行)

エ.「

」(第1図:本考案の実施例を示す制御回路の概念図)

オ.「

」(第2図:従来の射出成形機及び金型温調器における各制御装置の関係を示す概念図)

2.引用文献に記載された発明の認定
摘示ア、ウ及びエの記載からみて、引用文献には、
「金型の温度制御を行う金型温調器を1台備えると共に、射出成形機用の制御装置に接続したCRT及びキーボードを備えた射出成形機において、前記射出成形機用の制御装置と前記金型温調器用の制御装置とを通信ケーブルを介して接続することにより、金型温調器の温度を含む金型温調条件も含めた成形条件の設定を前記CRT及びキーボードにて行うことができるようにした射出成形機。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比、判断
3-1.本願発明と引用発明との対比
引用発明の「金型温調器」及び「CRT及びキーボード」は、それぞれ、本願発明の「金型温調機」及び「マン-マシンインタフェース」に相当することは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「金型の温度制御を行う金型温調機を1台備えると共に、マン-マシンインタフェースを備えた射出成形機において、前記マン-マシンインタフェースと前記金型温調機とを通信ケーブルを介して接続することにより、金型温調条件も含めた成形条件の設定を前記マン-マシンインタフェースにて行うことができるようにした射出成形機」である点で一致し、次の相違点1乃至3で相違する。

相違点1:金型温調条件として、本願発明では、温度監視値の上限値及び下限値を含むのに対し、引用発明では金型温調機の温度は含まれるものの、
温度監視値の上限値及び下限値が含まれることが明らかでない点。
相違点2:マン-マシンインタフェースが、本願発明では、成形条件設定用であるのに対し、引用発明ではこれが明らかでない点。
相違点3:マン-マシンインタフェースと金型温調機との通信ケーブルを介した接続が、本願発明では、マン-マシンインタフェースと金型温調機とを通信ケーブルを介して接続するのに対し、引用発明では、マン-マシンインタフェースが接続している射出成形機用の制御装置と金型温調機用の制御装置とを通信ケーブルを介して接続する点。
相違点4:マン-マシンインタフェースにて行うことができる成形条件の設定が、本願発明では、成形条件の変更に際する成形条件の設定及び変更であるのに対し、引用発明では、成形条件の設定である点。

3-2.相違点1についての判断
引用文献に明記された金型温調条件は、摘示ウに「金型温調器の温度を設定したい場合は、キーボード9によって所定のデータを設定する」と記載されているように、「金型温調器の温度」だけである。
しかしながら、引用発明は、摘示イ及びオに示された従来例と摘示ウ及びエに示された実施例とを比較すれば明らかなように、射出成形機用制御装置のマン-マシンインタフェースにおいて金型温調機の金型温調条件の設定及び変更を行えるようにするものであって、このマン-マシンインタフェースで設定及び変更される金型温調条件としては、引用文献に明記された「金型温調器の温度」だけでなく、従来の金型温調器で一般に設定及び変更される各種の金型温調条件も含まれると解するのが妥当である。
そして、一般に金型温調器において、金型温度を設定し監視する場合には、金型温度に対応する金型温調器の温度、許容最低温度・許容最高温度などを設定し監視することは通常行われることであると認められ、この認定は本願明細書の段落【0004】の記載、特開昭62-227615号公報の特許請求の範囲の記載及び特開昭63-295229号公報の4頁右下欄8行?5頁左上欄13行の記載などからみても妥当なものである。
したがって、引用発明における、金型温調条件として、金型温調機の温度
とともに、温度監視値の上限値及び下限値を採用することは、当業者にとって困難性があるとは認められず、また、これにより、本願発明に格段の効果が生じるものとは認められない。

3-3.相違点2についての判断
引用文献には、CRT及びキーボード(本願発明の「マン-マシンインタフェース」に相当)について、「CRTコントローラ3はCRT8に接続され、キーボード用入力インターフェース4はキーボード9に接続される。CRT8には射出成形機の温調、型締、射出の設定値や現在値の他適宜異常内容を表示すると共に、金型温調器の温調や異常内容をも表示出来る。」と記載されている(摘示ウ)ように、CRTには各種成形条件の設定値、現在値が表示されるようになっており、また、キーボードはキーボード用入力インターフェースに接続され成形条件を設定できるようになっている。
このように、引用発明におけるマン-マシンインタフェースは、CRTに表示された各種成形条件の設定値、現在値を見て、キーボードによってこれらの成形条件を設定できるものであるので、成形条件設定用のものであるといえる。
したがって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

3-4.相違点3についての判断
本願明細書の段落【0012】及び図1には、「金型温調機のコントローラ」(引用発明の「金型温調器用の制御装置」に相当)と「射出成形機を制御するためのコントローラ」(引用発明の「射出成形機用の制御装置」に相当)とを通信ケーブルで直接接続し、この「射出成形機を制御するためのコントローラ」と「マン-マシンインタフェース」は本来接続しているため、結果として、「マン-マシンインタフェース」と「金型温調機」が接続する旨が記載されている。
このように、本願発明の「マン-マシンインタフェースと金型温調機とを通信ケーブルを介して接続すること」には、「マン-マシンインタフェース」が接続している「射出成形機を制御するためのコントローラ」(引用発明の「射出成形機用の制御装置」に相当)と、「金型温調機のコントローラ」(引用発明の「金型温調器用の制御装置」に相当)とを通信ケーブルを介して接続する態様が含まれいるので、マン-マシンインタフェースと金型温調機との接続については、本願発明と引用発明との間に差異はない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

3-5.相違点4についての判断
引用発明のマン-マシンインタフェースにおいては、「3-3.相違点2についての判断」の項で述べたように、各種成形条件が設定できるものであるが、引用文献には、成形条件の変更に際して成形条件の設定及び変更を行うことまでは明記されていない。
しかしながら、射出成形においては、成形する樹脂材料、成形品などを変更する場合には、それに適した成形条件に変更するために、成形条件の設定及び変更を行うことは当然のことである。
よって、引用発明における、マン-マシンインタフェースにて行うことができる成形条件の設定には、成形条件の変更に際して成形条件の設定及び変更を行うことも、当然のこととして含まれていると認められる。
したがって、相違点4は、実質的な相違点とはいえない。

3-6.審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の平成19年7月24日付けの手続補正書において、以下のような主張を行っている。
主張1:引用文献1には、キーボード9の機能としては、第7頁第17行?第8頁第4行に金型温調器の温度を設定することが記載されているだけであり、本願発明のように「マン-マシンインタフェースにて成形条件の設定及び変更をも行うこと」の記載は一切ない。
主張2:本願発明は「成形条件設定用のマン-マシンインタフェースを備えた射出成形機」に関するものであるが、引用文献1に記載の「CRT8」、「キーボード9」は、第1図、第2図より、射出成形機本体とは分離した単なるPC(パーソナルコンピュータ)であって、射出成形機に備えられたものではなく、また、キーボード9からは射出成形機の成形条件を設定入力
することはできない。

まず、上記主張1について検討する。
上記「3-3.相違点2についての判断」の項に記載したように、引用発明におけるマン-マシンインタフェースでは、CRTに表示された成形条件の設定値、現在値を見て、キーボードによって成形条件を設定できるものであるので、金型温調器の温度設定以外の成形条件の設定及び変更ができるものであるといえる。
したがって、上記審判請求人の主張1は採用できない。

次に、上記主張2について検討する。
本願発明のマン-マシンインタフェースは「射出成形機に備えられている」ものであるが、本願明細書の段落【0010】及び図1の記載からみて、「射出成形機を制御するためのコントローラ」に「ディスプレイ、タッチキー等を持つマンーマシンインターフェース」が接続されたものも包含されている。
一方、摘示ウ及びエに記載されているように、引用文献のCRT及びキーボード(本願発明の「マン-マシンインタフェース」に相当)は、本願発明と同じように、「射出成形機用の制御装置」に接続されているものである。また、上記「3-3.相違点2についての判断」の項に記載したように、CRTに表示された成形条件の設定値、現在値を見て、キーボードによって成形条件を設定できるものであることから、マン-マシンインタフェースに相当するCRT及びキーボードは、射出成形機の近傍に配置されると解するのが妥当である。
したがって、引用発明のマン-マシンインタフェースは、射出成形機に接続され、その近傍に配置されるものであるから、射出成形機に備えられているものとみることができるので、マン-マシンインタフェースと射出成形機との位置関係については、本願発明と引用発明との間に差異はない。
また、引用発明のキーボードから射出成形機の成形条件を設定入力できると解されることは、上記主張1の検討において記載したとおりである。
よって、上記審判請求人の主張2は採用できない。

以上のとおりであるので、審判請求人の主張1及び2は採用できない。

3-6.まとめ
よって、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-04 
結審通知日 2010-03-10 
審決日 2010-03-24 
出願番号 特願2000-320324(P2000-320324)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上坊寺 宏枝  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 松浦 新司
前田 孝泰
発明の名称 射出成形機  
代理人 池田 憲保  
代理人 佐々木 敬  
代理人 福田 修一  

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