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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1216582
審判番号 不服2009-5367  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-12 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2008-152814「インバータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日出願公開、特開2008-263777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成3年9月11日に出願した特願平3-231467号の一部を平成13年12月18日に新たな特許出願とした特願2001-383876号の一部を平成15年2月10日に新たな特許出願とした特願2003-31836号の一部を平成16年4月16日に新たな特許出願とした特願2004-121717号の一部を平成18年8月28日に新たな特許出願とした特願2006-230331号の一部を平成19年1月29日に新たな特許出願とした特願2007-17466号の一部を平成20年6月11日に新たな特許出願としたものであって、平成21年2月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同年4月9日付で手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年4月9日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「1台のインバータ装置で2台のモートルを切替えて可変速駆動するインバータ装置において、
前記2台のモートルを可変速駆動する際には、前記2台のモートルは前記インバータ装置とそれぞれ接触器を介して稼動可能な状態とされて常時接続されており、
FB制御方式で前記モートルの一方のモートルを制御するFB制御手段およびSLV制御方式で前記モートルの他方のモートルを制御するSLV制御手段と、
前記各モートルに対し、前記各制御方式と当該制御方式で制御する場合のモートル定数をモード番号と関係させて記述したモード群を予め記憶する記憶手段と、
外付けされたシステム制御装置から入力された第1の外部信号により前記記憶手段に予め記憶された制御対象となるモートルおよび当該モートルを制御する制御方式ならびに当該制御方式に対応するモートル定数を1つのモードとして選択する選択手段とを具備し、
1つのモードとして前記モートルおよび制御方式を前記第1の外部信号により選択し、前記選択手段により選択されたモートルを、前記選択された制御方式に対応する制御手段および選択されたモートル定数を用いて外付けされたシステム制御装置から入力された第2の外部信号により順次運転動作させて当該モートルを可変速制御する
ことを特徴とするインバータ装置。」

2.引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-252199号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「2.特許請求の範囲
周波数指令に対応した出力周波数を設定すると共に、前記周波数指令に対して所定の交流電動機に対応した出力電圧を設定し、前記出力周波数並びに前記出力電圧によって前記所定の交流電動機を制御するようにしたインバータ装置において、前記出力電圧を設定する出力電圧設定手段を複数設け、該複数の出力電圧設定手段の一つを選択信号により選択するようにしたことを特徴とするインバータ装置。」(公報1頁左下欄4行?13行)

・「第4図は電圧指令発生器15が発生する電圧のパターンを示すグラフであり、出力周波数(F)が与えられると出力電圧(V)が決定されるようになっている。」(公報2頁右上欄5行?8行)

・「この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、1台のインバータ装置で、電気的特性の異なる複数の交流電動機に、それぞれ最適な出力電圧を選択信号により選択供給することができるインバータ装置を得ることを目的とする。
[課題を解決するための手段]
この発明に係るインバータ装置は、出力電圧を設定する出力電圧設定手段を複数設け、該複数の出力電圧設定手段の一つを選択信号により選択するようにしたものである。
[作用]
この発明におけるインバータ装置は、複数の出力電圧設定手段を備え、これを選択信号によって選択して使用するようにしたので、異なる交流電動機のような負荷の電気的特性に応じて最適な出力電圧を選択し供給することができる。
[発明の実施例]
以下、この発明の一実施例を図について説明する。第1図において、1は直流電源、2乃至7は直流電源1にブリッジ接続された6個のトランジスタ、8乃至13はトランジスタ2乃至7と逆並列接続された6個のダイオード、14a、14bは電気的特性の異なる交流電動機である。15a、15bは電圧指令発生器、16は図示しない周波数指令手段からの指令と電圧指令発生器15aまたは15bからの指令によりパルス信号を発生するPWM信号発生器、17はPWM信号発生器16からの信号を増幅してトランジスタ2乃至7のベースに印加するベースアンプ、18はインバータ部、19a、19bはコンタクタである。20a、20bは図示しない周波数指令手段からの指令信号を電圧指令発生器15aまたは15bのいずれかに選択接続するスイッチまたは接点であり、コンタクタ19a、19bに連動させてある。
例えば、交流電動機14aは通常の交流電動機であり、交流電動機14bは高抵抗の交流電動機であるとする。電圧指令発生器15aは第4図の実線で示すような通常の交流電動機14aに最適な低い出力電圧を発生させる電圧パターンが入力され記憶させてあり、電圧指令発生器15bは第4図の破線で示すような高抵抗の交流電動機14bに最適な高い出力電圧を発生させる電圧パターンが入力され記憶させてある。
このインバータ装置で普通の交流電動機14aに電力を供給しようとするときは、コンタクタ19aを閉路する。すると、接点20aが連動して閉路する。そこで、図示しない周波数指令手段からの周波数指令信号はPWM信号発生器16に入力されるとともに、電圧指令発生器15aの方に入力される。電圧指令発生器15aは、記憶している電圧パターンにより、通常の交流電動機14aに最適な低い出力電圧を発生させる電圧指令信号を出力しPWM信号発生器16に送る。PWM信号発生器16では、人力した前記周波数指令信号及び低い電圧の電圧指令信号により、それに対応する周期及びパルス幅のパルス信号を作成し、ベースアンプ17へ送る。ベースアンプ17はこの信号を増幅して交互周期的に6個のトランジスタ2乃至7のベースに送る。6個のトランジスタ2乃至7はこの信号によって駆動され、指令された周波数及び低い電圧の電力を通常の交流電動機14aに供給する。以上のようにして、通常の交流電動機14aは電圧指令発生器15aによって指令された通常の交流電動機に最適な低い電圧の電力を受け適正に運転される。
次に、このインバータ装置で高抵抗の交流電動機14bを運転しようとするときは、コンタクタ19bを閉路する。すると接点20bが連動して閉路する。そこで、前述と同様な周波数指令信号は電圧指令発生器15bの方に入力される。電圧指令発生器15bは高抵抗の交流電動機14bに最適な高い出力電圧を発生させる電圧指令信号を出力しPWM信号発生器16に送る。PWM信号発生器16では、前述と同様に指令に対応するパルス信号を作成し、ベースアンプ17へ送る。ベースアンプ17はこれを増幅して6個のトランジスタ2乃至7のベースに送りトランジスタを駆動する。これによって、指令された周波数及び高い電圧の電力が高抵抗の交流電動機14bに供給され、高抵抗の交流電動機14bは所望のトルクを発揮して適正に運転される。」(公報2頁右下欄1行?3頁右下欄2行)

・また、第1図には、インバータ装置と2台の交流電動機はそれぞれコンタクタ19a、19bを介して接続されている構成図が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「1台のインバータ装置で2台の交流電動機14a、14bを選択して周波数指令信号により駆動するインバータ装置において、
前記2台の交流電動機を周波数指令信号により駆動する際には、前記2台の交流電動機は前記インバータ装置とそれぞれコンタクタ19a、19bを介して接続されており、
出力周波数(F)が与えられると出力電圧(V)が決定されるようになっている電圧パターンにより、前記交流電動機の通常の交流電動機14aに最適な電圧指令信号を出力する電圧指令発生器15aおよび交流電動機の高抵抗の交流電動機14bに最適な電圧指令信号を発生する電圧指令発生器15bと、
前記各交流電動機に対し、前記電圧パターンを2つの電圧指令発生器に各々記憶させてある手段と、
コンタクタ19a、19bにより選択された交流電動機に最適な出力電圧を発生させる電圧パターンを記憶させてある電圧指令発生器を選択接続する接点20a、20bとを具備し、
前記交流電動機を前記コンタクタ19a、19bにより選択し、また、前記コンタクタ19a、19bに連動させてある前記接点20a、20bにより前記電圧指令発生器15a、15bを選択し、当該選択された電圧指令発生器に記憶している前記電圧パターンを用いて当該選択された交流電動機を運転させて、当該交流電動機を前記周波数指令信号により駆動する
インバータ装置。」

(2-2)引用例2
同じく引用された特開平2-32788号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「〔従来の技術〕
誘導電動機を可変速制御するインバータ装置の制御方法としてベクトル制御やv/f制御(電圧/周波数一定制御)がある。前者は一般にすベリ周波数制御方式が用いられる。この方式では例えば特開昭60-28786号公報に記載のように電動機に取付けた速度検出器からの検出値に応じて速度制御しその出力信号に基づいてすべり周波数の指令値を演算してそれと速度検出値を加算しインバータの出力周波数を制御している。また電動機電流のトルク成分i1qを検出して、これに応じて電流制御を行っている。このため高安定で高精度な速度、電流制御が行えるが、速度検出器並びに速度調節器(ASR)及び電流調節器(ACR)が必要で構成が複雑である。一方、v/f制御は、速度及び電流検出値によるフィードバック制御は行わず、速度指令に比例してインバータ出力周波数や出力電圧をオープンループで制御する方式であり、負荷に応じて速度が変動し高精度な制御は得られないが、構成は簡単である。
一方、誘導電動機を速度センサを用いずに高精度に速度制御する方法に関する第2の従来技術として、例えば、アイ・イー・イー・イー・トランザクション、インダストリー・アプリケーション、アイ・ニー・19.3(1983年)、第356頁?第362頁(IEEE、Transaction Industry Application、IA-19、No3(1983)PP356-362)に記載された技術が知られている。この従来技術による誘導電動機の速度制御方法は、電動機の一次電圧及び一次電流より、速度及びすべり周波数あるいはトルクを演算し、その演算結果を用いて制御を行う方法であり、速度センサを用いることなく、高精度の速度制御を行うことができる。」(公報4頁左上欄19行?左下欄12行)

・「第21図の実施例は制御定数の簡便な設定手段を備えた電動機の制御システムである。
第21図の制御システムにおいてはベクトル制御の電圧指令演算部において、電圧指令信号および位相指令信号演算する際、制御特性に影響を及ぼさない範囲で近似演算して、制御定数の設定項目を最少化したことについては先に述べた。これらの定数の設定に際しては、電動機容量と極数とに応じて電動機毎の電動機定数を予め制御装置に記憶しておく。そしてユーザが使用する際に電動機の銘板から上記容量と極数とを読み取りそれを制御装置に入力することにより、最適な制御定数を自動的に設定することができる。
すなわち、第21図の実施例制御定数を電動機の電気定数に応じて設定するための方法において、接続候補となる種々の電動機の少なくとも電動機容量と極数とをパラメータとして各電動機の制御定数を予め制御装置内に記憶し、実際に接続される電動機の電動機容量と極数とをユーザが制御装置に入力し当該電動機に対応する制御定数を前記記憶手段から呼び出し設定するようにした。
また、制御対象の電動機は、ベクトル制御に限る必要はなく、その他の制御法も併用可能である。その際の制御方法は、ベクトル制御法と他の制御法とを切換えるステップと、ベクトル制御法を選択したときに、接続候補となる種々の電動機の少なくとも電動機の容量と極数とをパラメータとして各電動機の制御定数を予め記憶手段に記憶しておき実際に接続される電動機の電動機容量と極数とをユーザが制御装置に入力し当該モータに対応する制御定数を記憶手段から呼び出し設定する手段による設定と他の設定手段による設定と、を切換えるステップとを設ければ、電動機の使用目的に応じて、最適の制御法と制御定数設定方式とを選択できる。」(公報17頁右上欄14行?右下欄8行)

・「以上の考察により、電動機の機種に応じて設定すべき定数は、r_(1)、I_(1d)、T_(2)の3種類のみで良いことが分かった。・・・したがって、電動機定数設定器88には、電動機出力容量P_(2)と極数Pとに対応させて、定数r_(1)、I_(1d)、T_(2)を予め記憶しておき、ユーザが使用する電動機の銘板から容量P2および極数Pを読み取り、電動機定数設定器88に入力したときに、この設定器88は前記設定数r_(1)、I_(1d)、T_(2)を各演算器に自動設定する。」(公報18頁右下欄1行?16行)

・「本発明のさらに他の実施例を第43図に示す。
本実施例は、ベクトル制御法と他の制御法、またベクトル制御時に制御定数自動設定と手動設定を、1台の汎用制御装置で選択できるようにしたものである。
第21図実施例において、トルク電流検出器4からの信号I_(1q)を零にすることで、ベクトル制御からV/f制御(電圧/周波数一定制御)に切換えられる。次に、ベクトル制御を選択した場合、使用する電動機定数に応じた制御定数を必要とする。その制御定数設定方式としては、制御対象となる電動機が規格化された汎用機種であれば、前記電動機定数設定器88による自動設定とし、専用機種の電動機のように規格外の電動機では電動機定数の設定値または測定値に基づいて制御定数を手動設定する。
このように、制御法と電動機の制御定数の設定方式とを選択する手段を備えた本実施例では、1種類の電動機制御装置で、多種類の電動機を多様に制御できることになる。」(公報19頁左上欄15行?右上欄14行)

(2-3)引用例3
同じく引用された特開平2-131396号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、複数モータの交互運転に対して、インバータ装置を1台で共用できる有効なインバータ装置を得ることを目的とする。」(公報2頁右上欄9行?12行)

・「第1図において、(1)は運転指令を発するPC、(4)はインバータの制御を行なうCPU、(5)はCPU(4)の出力を増幅する駆動回路、(6)はCPU(4)、駆動回路(5)、インタフェース装置(11)で構成されるインバータ、(8a)は第1のモータ、(8b)は第2のモータ、(10)はPC(1)から送られるデータ群、(11)はデータ群(10)をPC(1)より入力し、CPU(4)に出力するデータ交信用インタフェース(以下、インタフェースをI/Fと称す)装置、(12a)は第1のモータ運転用電磁接触器コイル、(12b)は第2のモータ運転用電磁接触器コイル、(13a)は電磁接触器(12a)のa接点、(13b)は電磁接触器(12b)のa接点である。
また、第2図は上記データ群(10)の詳細を表したもので、(21a)は第1のモータ用の加減速時間、保護動作設定値などの機能データ、(21b)は第2のモータ用の機能データ、(22a)は第1のモータ用の運転信号、(22b)は第2のモータ用の運転信号である。
次に動作について説明する。
PC(1)からデータ群(10)のうち第1のモータ(8a)の機能データ(21a)をI/F装置(11)で人力し、CPU(4)でインバータ(6)の機能データとして設定する。さらに、第1のモータ(8a)運転用の電磁接触器(12a)を励磁し、接点(13a)が閉路となって第1のモータ(8a)の運転準備が整う。
次に、PC(1)から第1のモータ運転信号(22a)を出力すると、I/F装置(11)を経由し、CPU(4)に起動信号として入力される。CPU(4)はすでに記憶されている第1のモータ(8a)用の機能データに従って演算した制御信号を出力し、駆動回路(5)で増幅してインバータ(6)の周波数出力を送出する。その結果、接点(13a)がすでに閉路となっているので、第1のモータ(8a)が所定の速度で運転される。
次に、PC(1)から第1の運転信号(22a)を遮断し、第2のモータ(8b)用の機能データ(21b)を出力すると、CPU(4)で第1の運転用電磁接触器(12a)を消磁し、接点(13a)が開路となって第1のモータ(8a)が切り離され、さらに第2のモータ用電磁接触器(12b)を励磁し、接点(13b)が閉路となって第2のモータ(8b)が接続されるとともに、第2のモータ用機能データ(21b)がインバータ(6)の機能データとして設定されて、第2のモータ(8b)の運転準備が整う。
次に、PC(1)から第2のモータ運転信号(22b)を出力すると、I/F装置(11)を経由し、CPU(4)で第2のモータ用機能データ(21b)に従った演算結果が駆動回路(5)で増幅され、インパータ(6)の周波数出力として、接点(13b)を経由して第2のモータ(8b)に印加され、その結果、第2のモータ(8b)は所定の速度で運転される。
この様に、PC(1)からデータ群(10)の指示に従って、機能データ、運転信号をモータに対応して切換えることによって、複数モータを1台のインバータで交互運転することが可能となる。」(公報2頁左下欄13行?3頁右上欄8行)

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
後者における「交流電動機14a、14b」が前者における「モートル」に相当し、以下同様に、
「選択して周波数指令信号により駆動する」態様が「切替えて可変速駆動する」態様に、
「コンタクタ19a、19b」が「接触器」に、それぞれ相当する。

また、本願発明における「稼働可能な状態とされて常時」接続される構成について、本願明細書には直接的な記載はないが、明細書の【0010】?【0013】を参酌すれば、2台のモートルとインバータ装置とが接触器を介して接続されていることを意味していると解されるから、後者の「接続されて」いる態様が前者の「稼動可能な状態とされて常時接続されて」いる態様に相当する。

次に、後者の「交流電動機の通常の交流電動機14aに最適な電圧指令信号を出力する電圧指令発生器15a」と前者の「モートルの一方のモートルを制御するFB制御手段」とは、「モートルの一方のモートルを制御する制御手段」との概念で共通し、後者の「交流電動機の高抵抗の交流電動機14bに最適な電圧指令信号を発生する電圧指令発生器15b」と前者の「モートルの他方のモートルを制御するSLV制御手段」とは、「モートルの他方のモートルを制御する制御手段」との概念で共通するから、結局、後者の「出力周波数(F)が与えられると出力電圧(V)が決定されるようになっている電圧パターンにより、交流電動機の通常の交流電動機14aに最適な電圧指令信号を出力する電圧指令発生器15aおよび交流電動機の高抵抗の交流電動機14bに最適な電圧指令信号を発生する電圧指令発生器15b」と前者の「FB制御方式でモートルの一方のモートルを制御するFB制御手段およびSLV制御方式で前記モートルの他方のモートルを制御するSLV制御手段」とは、「所定の制御方式でモートルの一方のモートルを制御する制御手段および前記モートルの他方のモートルを制御する制御手段」との概念で共通する。

さらに、引用発明における「出力周波数(F)が与えられると出力電圧(V)が決定されるようになっている電圧パターン」は、V/F特性ということができる。そして、本願明細書の段落【0009】(平成20年6月11日付け補正書において補正済み)には、「制御定数(例えば、FB信号、モートル定数、V/F特性、…)を…記憶する」と記載されているから、モートル定数、V/F特性はそれぞれ制御定数の一つといえる。
そうすると、引用発明の「電圧パターン」と本願発明の「モートル定数」とは「制御定数」との概念で共通するから、後者の「電圧パターンを2つの電圧指令発生器に各々記憶させてある手段」と前者の「各制御方式と当該制御方式で制御する場合のモートル定数をモード番号と関係させて記述したモード群を予め記憶する記憶手段」とは、「制御定数を予め記憶する記憶手段」との概念で共通する。

加えて、後者の「コンタクタ19a、19bにより選択された交流電動機に最適な出力電圧を発生させる電圧パターンを記憶させてある電圧指令発生器を選択接続する接点20a、20b」と前者の「外付けされたシステム制御装置から入力された第1の外部信号により記憶手段に予め記憶された制御対象となるモートルおよび当該モートルを制御する制御方式ならびに当該制御方式に対応するモートル定数を1つのモードとして選択する選択手段」とは、「記憶手段に予め記憶された制御対象となる各モートルの制御に必要な制御定数を選択する選択手段」との概念で共通し、
後者の「交流電動機をコンタクタ19a、19bにより選択し、また、前記コンタクタ19a、19bに連動させてある接点20a、20bにより電圧指令発生器15a、15bを選択し、当該選択された電圧指令発生器に記憶している電圧パターンを用いて当該選択された交流電動機を運転させて、当該交流電動機を周波数指令信号により駆動する」態様と前者の「1つのモードとしてモートルおよび制御方式を第1の外部信号により選択し、選択手段により選択されたモートルを、前記選択された制御方式に対応する制御手段および選択されたモートル定数を用いて外付けされたシステム制御装置から入力された第2の外部信号により順次運転動作させて当該モートルを可変速制御する」態様とは、「選択手段により選択された制御定数を用いて当該選択されたモートルを運転動作させて当該モートルを可変速制御する」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「1台のインバータ装置で2台のモートルを切替えて可変速駆動するインバータ装置において、
前記2台のモートルを可変速駆動する際には、前記2台のモートルは前記インバータ装置とそれぞれ接触器を介して稼動可能な状態とされて常時接続されており、
所定の制御方式で前記モートルの一方のモートルを制御する制御手段および前記モートルの他方のモートルを制御する制御手段と、
各モートルに対し、制御定数を予め記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に予め記憶された制御対象となる各モートルの制御に必要な制御定数を選択する選択手段とを具備し、
前記選択手段により選択された制御定数を用いて当該選択されたモートルを運転動作させて当該モートルを可変速制御する
インバータ装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
「所定の制御方式」で一方及び他方のモートルを制御する「制御手段」が、本願発明では「FB制御方式」で一方のモートルを制御する「FB」制御手段および「SLV制御方式」で他方のモートルを制御する「SLV」制御手段であるのに対し、引用発明ではいずれの制御手段も「出力周波数が与えられると出力電圧が決定されるようになっている電圧パターンにより」制御する制御手段である点。
[相違点2]
記憶手段に関し、本願発明では、「各制御方式と当該制御方式で制御する場合のモートル定数をモード番号と関係させて記述したモード群を記憶する」手段であるのに対し、引用発明では「電圧パターンを2つの電圧指令発生器に各々記憶させてある」手段である点。
[相違点3]
各モートルの制御に必要な制御定数を選択する選択手段に関し、本願発明では、「外付けされたシステム制御装置から入力された第1の外部信号により記憶手段に予め記憶された制御対象となるモートルおよび当該モートルを制御する制御方式ならびに当該制御方式に対応するモートル定数を1つのモードとして選択する選択手段」であるのに対し、引用発明では、「コンタクタ19a、19bにより選択された交流電動機に最適な出力電圧を発生させる電圧パターンを記憶させてある電圧指令発生器を選択接続する接点20a、20b」であって、どのような信号により選択するか明らかでない点。
[相違点4]
選択手段により選択されたモートルを可変速制御する態様に関し、本願発明では「1つのモードとしてモートルおよび制御方式を第1の外部信号により選択し、選択手段により選択されたモートルを、前記選択された制御方式に対応する制御手段および選択されたモートル定数を用いて外付けされたシステム制御装置から入力された第2の外部信号により順次運転動作させて当該モートルを可変速制御する」のに対し、引用発明では「交流電動機を前記コンタクタ19a、19bにより選択し、また、前記コンタクタ19a、19bに連動させてある接点20a、20bにより電圧指令発生器15a、15bを選択し、当該選択された電圧指令発生器に記憶している電圧パターンを用いて当該選択された交流電動機を運転させて、当該交流電動機を周波数指令信号により駆動する」点。

4.判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1、2について
インバータ装置の制御方式として、V/F制御、速度フィードバックを採用するベクトル制御(本願発明におけるFB制御方式)、及び速度フィードバックを採用しないセンサレスベクトル制御(本願発明におけるSLV制御方式)は、例えば引用例2の「従来の技術」の欄(公報4頁左上欄20行?左下欄12行等を参照)にも記載されるように、いずれも周知技術である。

また、引用例2には、1台のインバータ装置により、複数の電動機のそれぞれに対し、ベクトル制御等の複数の制御方式を選択して制御することが記載され、しかも、予め複数の電動機の制御定数(本願発明の「モートル定数」に相当)を記憶手段に記憶しておき、制御方式を選択すると共に、選択した制御方式に必要な選択した電動機に対応した制御定数を呼び出して設定することが記載されている(公報17頁左下欄15行?右下欄8行参照)のであるから、電動機の制御定数を記憶手段に記憶する際、電動機毎に制御方式と電動機に対応した制御定数とを関連付けて記憶することは、当業者が適宜採用し得る設計事項というべきである。
さらに、複数の情報を組にして記憶する際、これらの情報を識別するための番号や符号等を付して記憶することは慣用手段といえるから、電動機毎に制御方式と電動機の制御定数とを関連付けて識別用の符号とともに記憶すること、またその際に、識別用の符号を「モード番号」と称することは、任意に採用し得る事項に過ぎない。

そして、引用発明と引用例2に記載されたものとは、電動機を駆動するインバータ装置という共通の技術分野に属するものであるから、引用発明における一方及び他方のモートルを制御するインバータ装置内の2つの制御手段として、上記周知技術である「FB制御方式」の制御手段及び「SLV制御方式」の制御手段を採用すると共に、上記引用例2に記載された事項及び上記慣用手段を参酌することにより、上記相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点3、4について
例えば引用例3にも開示されているように、外付けされたシステム制御装置(引用例3の「プログラマブルコントローラ(1)」が相当、以下同様。)から入力された第1の外部信号(「機能データ(21a)」)により制御に必要な情報が選択され、外付けされたシステム制御装置から入力された第2の外部信号(「運転信号(22a)」)により運転動作させ、第1の外部信号及び第2の外部信号を順次入力することにより、複数台のモートルを順次運転動作させることは、周知の技術である。

そして、引用発明と引用例3に記載された事項とは、インバータ装置という共通の技術分野に属するものであるから、引用発明において、上記周知技術及び引用例2に記載された事項を参酌して相違点1及び2に係る本願発明の構成とすれば、モード番号と関連付けて記憶された制御方式やモートル定数をモード番号ごとに(モードとして)選択するよう構成することは、当業者が自然に採用する発想といえるところ、併せて上記周知の技術を参酌して、外付けされたシステム制御装置からの第1の外部信号によりモードを選択するよう構成すると共に、第2の外部信号により順次運転動作させることにより、相違点3、4に係る本願発明の構成とすることも、当業者が容易になし得るものというべきである。

そして、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、上記周知技術、引用例2に記載された事項及び上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知技術、引用例2に記載された事項及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-09 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2008-152814(P2008-152814)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 小川 恭司
田良島 潔
発明の名称 インバータ装置  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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