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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1216694
審判番号 無効2009-800213  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-06 
確定日 2010-05-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4252103号発明「真空処理方法及び真空処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4252103号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 9年 3月19日 原出願(特願平9-66097号)
平成13年12月18日 分割出願(特願2001-384743号)
平成16年 2月13日 分割出願(特願2004-36974号)
平成16年 5月24日 分割出願(特願2004-153482号)
平成20年 1月22日 本件出願(特願2008-11462号)
(特許法第44条)
平成21年 1月30日 設定登録(特許第4252103号)
平成21年10月 6日 無効審判請求
平成22年 1月25日 答弁書
平成22年 3月 1日 請求人・口頭審理陳述要領書
平成22年 3月 8日 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成22年 3月15日 口頭審理

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下「本件発明1ないし2」という。)は、以下のとおりである。
なお、請求項1のA、B、C等の分説は、被請求人の口頭審理陳述要領書によるものとした(口頭審理調書の「両当事者 1」)。

「【請求項1】
A.ウェハを真空処理する複数のプロセス処理装置と、
B.該プロセス処理装置にウェハを搬入出する真空搬送手段と、
C.前記各プロセス処理装置へウェハを搬入出するためのロードロック室及びアンロードロック室と、
D.ウェハを収納できる複数のカセットを載置し得るカセット載置手段と、
E.該カセット載置手段上の任意のカセット内からウェハを抜き取れるように構成された搬送手段と、
F.前記任意のカセット内のウェハを前記搬送手段及び前記ロードロック室並びに前記真空搬送手段を介して各プロセス処理装置に搬入し、前記各プロセス処理装置で真空処理された処理済ウェハを搬出するための搬送制御を行う制御手段とで構成された真空処理装置において、
G.1つのカセットを使用し、該カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室及び前記真空搬送手段を介して前記複数のプロセス処理装置へ順次搬送し、搬送したウェハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理、
H.及び少なくとも2つのカセットを使用し、各カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室及び前記真空搬送手段を介して各カセット毎にそれぞれ異なるプロセス処理装置へ搬送し、搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに
I.並列処理を施した後のウェハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻すことを特徴とする真空処理装置。

【請求項2】
カセット載置手段に載置される任意のカセット内からウェハを抜き取り、ロードロック室及びアンロードロック室を経由して複数のプロセス処理装置に搬入出し、ウェハの真空処理を行う真空処理方法において、
1つのカセットを使用し、前記カセットに収納されたウェハを搬送手段、ロードロック室及び真空搬送手段を介して前記複数のプロセス処理装置へ順次搬送し、搬送したウェハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理、及び少なくとも2つのカセットを使用し、各カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室及び前記真空搬送手段を介して各カセット毎にそれぞれ異なるプロセス処理装置へ搬送し、搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに並列処理を施した後のウェハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻すことを特徴とする真空処理方法。」

第3.請求人の主張
1.主張の要点
請求人は、以下の理由により、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とするとの審決を求めている。
本件発明1ないし2は、甲第1ないし4号証によって容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平5-226453号公報
甲第2号証:特開平5-55148号公報
甲第3号証:特開平7-183282号公報
甲第4号証:特開平5-74739号公報

3.主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
なお、原文の丸囲み数字は「丸1」のように置き換えた。行数は、空行を含まない。

ア.請求書第22ページ下から6?3行
「(イ)本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証または甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証または甲第2号証には、本件請求項1に係る特許発明の構成要件の大部分が開示されている。」

イ.請求書第23ページ下から2行?第24ページ第21行
「(a-1)本件請求項1に係る特許発明の特徴部分G3の「搬送したウェハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理」を行うように、真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することは、甲第1号証の明細書の[0010]の一部である、
「オペレータが真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することで、装置内での真空処理室の配置に関係なく自在に処理シーケンスを設定できる」
という記載に基づけば、問題なく行える。
さらに、甲第1号証の明細書の[0011]には、
「また、上記で述べた搬送処理順序情報を処理工程毎に作成し、かつ、2つ以上の処理工程分の情報を記憶できる構成とし、各処理工程の搬送処理順序情報に登録してあるウエハの搬送又は、プロセス処理条件が成立した方の処理を実行させることにより、複数の同じ又は、異なる処理工程を真空処理装置内で同時に実行させることができる。」
と記載されている。この記載中には、
「複数の同じ又は、異なる処理工程を真空処理装置内で同時に実行させることができる。」
とあり、この記載から、「複数の同じ処理工程を真空処理装置内で同時に実行させることができる」ということが読み取れる。そのため、オペレータが、特徴部分G3の「搬送したウェハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理」を行うべく、真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することは、これらの記載から問題なく行える。」

ウ.請求書第27ページ下から6行?第29ページ第7行
「(c-1)上述の特徴部分H3中の「搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」については、かかる処理を行うように、真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することは、甲第1号証の明細書の[0010]に記載されているように、
「オペレータが真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することで、装置内での真空処理室の配置に関係なく自在に処理シーケンスを設定できる」
ことに鑑みると、自在な処理シーケンスの設定の1つに過ぎないから、当業者であれば、甲第1号証に基づいて容易に想到することができる、と思料する。
加えて、甲第1号証の明細書の[0008]には、
「真空処理装置内で異なる順次処理工程を行なう場合(処理室1と処理室2と処理室3と処理室4とが異なる処理の場合)、図7のものは、真空処理装置に試料を1枚搬入して処理し、真空処理装置から搬出された後、他方の処理工程の試料を搬入して処理するか、又は、一方の処理工程を先に終了させ、そのあとで、他方の処理工程を行なうことしかできず、試料の処理効率は低い。図8のものは、異なる順次処理工程を同時に処理することができる。よって、試料の処理効率は高い。」
という、上述の特徴部分H3中の「搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」に対応する記載も存在している。
加えて、甲第1号証の明細書の[0015]には、
「処理順序の1例としては、下記の2つの順次処理工程を1つの真空処理装置内で同時に行なう。i)ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6ii)ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6」
という記載が存在すると共に、甲第1号証の明細書の[0017]には、
「第1工程として試料をロードロック室5から真空処理室1に搬送し、真空処理室1でプロセスレシピNO.3の処理をした後、真空処理室2に試料を搬送し、真空処理室2でプロセスレシピNo.8の処理をした後、アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行ない、第2工程として試料をロードロック室5から真空処理室4に搬送し、真空処理室4でプロセスレシピNo.7の処理をした後、真空処理室3に試料を搬送し、真空処理室3でプロセスレシピNo.2の処理をした後、アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行なう場合の設定例を表1に示す。」
という記載が存在しており、さらには、甲第1号証の明細書の[0018]には、設定例としての表1が示されている。これらには、本件請求項1に係る特許発明の特徴部分H3中の「搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」に対応する部分が、明確に開示されていると言える。」

エ.口頭審理陳述要領書第8ページ第14行?第9ページ第19行
「(チ)よって、上述の(ト)の記載からすると、甲第1号証には、ウエハに対する処理に関して、真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と、真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し、工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理が開示されている。
(リ)ここで、上述の甲第1号証の明細書の[0007]?[0009]、[0017]の記載を参酌すると、甲第1号証も、「第1工程」と「第2工程」とで並列処理を行う点で、甲第2号証と共通する。そのため、甲第2号証に開示された具体的な構成を甲第1号証に適用することは、当業者にとって普通に期待できることである。
(ヌ)また、上述の(ハ)で述べたように、甲第2号証に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の具体的な構成に関しては、カセット11aから取出した半導体ウエハのいずれをも、処理チャンバ50aに搬送し、当該処理チャンバ50aで処理を施した処理済の半導体ウエハを再び(もとの)カセット11aに戻し、カセット11bから取出した半導体ウエハのいずれをも、処理チャンバ50bに搬送し、当該処理チャンバ50bで処理を施した処理済の半導体ウエハを再び(もとの)カセット11bに戻すものが開示されている。
(ル)よって、甲第1号証において、甲第2号証に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の上記構成を採用した場合には、「少なくとも2個のカセットを使用し、各カセット毎に収納されたウエハを他の搬送装置、ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し」という事項を導き出せる。
(ヲ)ここで、甲第1号証の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」の場合に、甲第2号証に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用すると、各々の工程に各々の「大気カセット」が対応付けられることになるから、結局、「ウエハに対して」「大気カセット」「ごとに異なるプロセスレシピ」を適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」となる。
換言すれば、「2つのカセットを使用し搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理(2カセット2レシピ並列処理)とすること」が、甲第1号証と甲第2号証の組み合わせによって導き出されたことになり、構成要件Hが推考されたことになる。」

オ.調書における請求人の主張
「2 事前連絡メモ「相違点1」は、甲第1号証に甲第2号証を適用する場合、同一のカセット内のウェハ毎にレシピを異ならせるのは不自然である。
3 管理をカセット毎に行うことは、技術常識である。」

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その主張の概要は、以下のとおりである。

ア.答弁書第9ページ第2?10行
「甲1発明は、上記ウ.iに記載したように、そもそもカセット数とレシピ数との関連については、何ら考慮されていないものである。
請求人は審判請求書第11頁2行目以降において、甲1発明は共通レシピの並列処理するのであるから、そのような場合は、カセットが1つで十分であることは従来から周知であるとして、甲1発明は構成要件G(つまり1カセット1レシピ)を有していると主張しているが、1レシピ並列処理であったとしても必ずしも1カセットとは限らないのであるから、例え1カセット1レシピ並列処理が周知であったとしても、甲1発明がそのような構成を有していると認定することはできない。つまり、甲1発明は構成要件Gを具備しない。」

イ.答弁書第10ページ第14?末行
「丸1 先ず、構成要件Hについては、甲2発明は、上記ウiiに記載したように、いわば2カセット連続処理、あるいは2カセット1レシピ並列処理をするものであって、2カセット2レシピ並列処理をするものでないし、それを示唆する構成もない。たしかに、甲2発明では、複数のカセットを備えているが、2レシピ並列処理について何ら記載はないし、それを示唆する記載もないのであるから、2カセット2レシピ並列処理を有しているとすることはできない。しかも、いずれかの処理を選択的に施すことについても記載がない。つまり甲2発明は構成要件Hを有していない。
次に甲3発明は1つのカセットを使用することを前提とする発明であり、モード選択については記載があるものの、請求人も認めるように、構成要件Hを有していない。
さらに、甲4発明も、上記ウivに記載したように、1レシピ並列処理あるいは同一連続処理であって、しかも、いずれかの処理を選択的に施すことについても記載がない。つまり甲4発明は、請求人も認めるように、構成要件Hを有していない。」

ウ.答弁書第12ページ第24?34行
「このように、甲1発明と甲2発明とでは、ウエハの搬送方式に共通性がなく、搬送されたウエハに処理室で施す処理に一部共通性があるのみである。さらに甲1、甲2発明のいずれにも各カセットに収納されたウエハに異なるレシピを適用して異なる処理を並列に施す処理(2カセット2レシピ並列処理)は見あたらない。
したがって、このようにウエハの搬送方式に共通性がなく、搬送されたウエハに処理室で施す処理に一部共通性があるのみである甲1、甲2発明の技術を組み合わせて、2つのカセットを使用し搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理(2カセット2レシピ並列処理)とすること、つまり構成要件Hが推考されるということは当業者に容易ではない。」

エ.口頭審理陳述要領書第5ページ第4?15行
「これに対して、本件特許発明1では、各カセット毎にそれぞれ異なるプロセス処理装置へ搬送し、搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施し、更に処理後のウェハをもとのカセットに戻すため、運転モードに切り替えは不要となる。このためプロセス処理装置を連続運転することが可能となり、装置の稼働率を向上させることができる。
また、本件特許発明1の多品種少ロット生産(2カセット2レシピ並列処理)においては、カセット毎にそれぞれ異なる処理が施され、かつ、各カセット内の全てのウェハは同一の処理が施された状態とすることができるため、他工程の処理装置のカセット単位処理に整合させることが可能となり、生産ラインのTAT(turn around time)あるいはリードタイム向上に寄与できる。このような作用効果は、甲1?4発明からは予測することができない顕著な作用効果である。」

オ.口頭審理陳述要領書第6ページ第23?31行
「これに対し、甲第1号証に記載の発明は、平成22年2月15日の「事前連絡メモ」にもあるようにカセットを複数とすることを考慮していないから、複数のレシピを設定することができるように構成したとしても、1つのカセット内に複数のレシピで処理されたウェハが収納されることとなり、カセット毎の異なる処理が不可能となる。したがって、処理プロセス全体の利便性向上と稼働効率向上を両立させることはできない。また、上記のように、カセット毎の製造情報を同一にすることができないから、プロセス処理装置の異常によりウェハの製造結果に異常が生じた場合における原因追跡あるいは異常ウェハの回収処理を行うことは容易でない。」

カ.調書における被請求人の主張
「2 甲第1号証に甲第2号証を適用する場合、同一のカセットに交互に異なるレシピのウェハを戻すこともありうる。
3 何れの証拠にも、カセット毎に共通のレシピを適用するという思想は無い。
4 1カセット1レシピと2カセット2レシピとを組み合わせることにより格別な効果がある。」

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1ないし2は、上記第2.のとおりと認められる。

2.刊行物記載の発明
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下が記載されている。

ア.段落0008?0011
「【0008】1)真空処理装置内で同じ順次処理工程を行なう場合(処理室1と処理室4、及び処理室2と処理室3とが同じ処理の場合)、図7のものは、2枚目のウエハは、1枚目のウエハが処理室1で処理終了し、処理室2に搬入された後に、処理室1に搬入され処理されるに対し、図8のものは、2枚目のウエハは、1枚目のウエハが処理室1に搬入された後、処理室2に搬入され処理されるため、図8での処理は、図7での処理の約2倍の処理効率を持つ。
2)真空処理装置内で異なる順次処理工程を行なう場合(処理室1と処理室2と処理室3と処理室4とが異なる処理の場合)、図7のものは、真空処理装置に試料を1枚搬入して処理し、真空処理装置から搬出された後、他方の処理工程の試料を搬入して処理するか、又は、一方の処理工程を先に終了させ、そのあとで、他方の処理工程を行なうことしかできず、試料の処理効率は低い。図8のものは、異なる順次処理工程を同時に処理することができる。よって、試料の処理効率は高い。
3)1つ以上の処理室を異なる試料上で共用する処理の場合は、上記2)と同様である。
以上のように、上記従来技術は試料の種々の順次処理工程を効率良く処理することについて対応できていなかった。
【0009】本発明は、3つ以上の処理室を搬送室に接続した真空処理装置において、少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する同じ又は、異なる処理工程を2工程以上同時に実行することで、工程間のウエハの移動時間を短縮し、試料の処理効率を向上することができる真空処理装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の種々の順次処理工程を同時に1台の真空処理装置で処理するために、真空処理室の排気,搬送,プロセス処理の制御を単独で実行しうる制御手段を真空処理室毎に持たせ、オペレータが真空処理室の処理順序とそれぞれの真空処理室のプロセス処理データとを設定することで装置内での真空処理室の配置に関係なく自在に処理シーケンスを設定できることとし、前記で設定した真空処理室の処理順序のデータを用いて、装置内で搬送処理実行可能な搬送処理順序情報として処理工程毎に作成し、2つ以上の処理工程を記憶できる構成とし、かつ、各真空処理室の状態を示す情報を作成し、これらの情報を用いて実行条件が成立する搬送処理、及びプロセス処理の処理状態を認識して、随時実行させてゆくようにしたものである。
【0011】
【作用】真空処理室の処理順序と、それぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを設定できることで、装置内での真空処理室の配置や、装置内にある搬送ステーションといった試料搬送に必要なステーションの有無、位置をオペレータが知らなくても試料の処理内容に合わせて処理シーケンスを自在にオペレータが設定できる。また、上記で述べた処理順序とそれぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを用いて、装置内で搬送処理実行可能な搬送処理順序情報を作成する。これは、或る真空処理室で処理終了した試料の次に搬送すべき真空処理室を関連付けたものである。これによりオペレータが設定した処理順序に応じて、その装置内で試料が搬送できる経路に分解でき、搬送の始点と終点に対応付けることができ、装置内で自在に搬送できる。また、上記で述べた搬送処理順序情報を処理工程毎に作成し、かつ、2つ以上の処理工程分の情報を記憶できる構成とし、各処理工程の搬送処理順序情報に登録してあるウエハの搬送又は、プロセス処理条件が成立した方の処理を実行させることにより、複数の同じ又は、異なる処理工程を真空処理装置内で同時に実行させることができる。・・・。」

イ.段落0013?0015
「【0013】図1で、1、2、3、4は真空処理室、5はロードロック室、6はアンロードロック室、10は搬送室である。ロードロック室5、6は試料を大気中から真空処理雰囲気にもってゆき、また、真空処理雰囲気から大気にもってゆくものであり、ウエハ(図示しない)を大気搬送装置(図示しない)と真空処理装置とで受渡しを行なうものである。ロードロック室5,6、真空処理室1,2,3,4及び搬送室10には、各々独立した排気装置11,16,12,13,14,15,17が設けられており、搬送室10と真空処理室1,2,3,4との間は、ゲートバルブ8で仕切られ、搬送装置9-1,9-2で試料が搬送される。また、ロードロック室5,6には、ゲートバルブ7が設けられ大気と連通することができ、(図示しない)大気カセット(図示しない)から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれる。
【0014】・・・。真空処理室1内での処理としては、例えば試料台32に搬送装置9-1により試料が載せられると・・・エッチング処理される。真空処理室1で処理が終了した試料は、例えば真空処理室2に搬送され、真空処理室2で引続きエッチング処理される。尚、真空処理室2、3、4でのエッチング処理プロセスは、真空処理室1でのエッチング処理プロセスと同じであっても、異なっていても良い。又、搬送室10の排気制御、搬送装置9-1,9-2によるウエハの搬送制御を行なう搬送制御装置19及び、真空処理室へのウエハの搬入搬出、排気制御、プロセス制御を行なうプロセス制御装置20-1,20-2,20-3,20-4が、それぞれの真空処理室に対して設けられる。
【0015】処理順序の1例としては、下記の2つの順次処理工程を1つの真空処理装置内で同時に行なう。i)ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6ii)ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6図2は、図1に示した装置を制御するため制御ブロック図を示したものである。本実施例では、搬送順序とそれぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを設定し、そのデータを用いて装置内で搬送処理実行可能な搬送処理順序情報を作成する入力制御部 300と、入力制御部 300で作成した搬送処理順序情報と真空処理室状態情報とを参照し、搬送処理あるいはプロセス処理を実行する搬送制御部 400と、真空処理室2,3及び4の排気,搬送,プロセス処理の制御を単独で実行しうる制御手段を有した処理室制御部 500で構成され、各制御部300,400,500は通信手段 308と405及び408と501を介して接続されている。」

ウ.段落0029?0030
「【0029】図3は、搬送制御部400で行う処理フロ-において、第1工程の処理フロ-(ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6)を示す。第2工程の処理フロ-(ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6)は第1工程の処理フロ-と同様であり、処理条件の先に成立した方の工程の処理フロ-が実行される。
【0030】搬送処理解析手段303は、処理デ-タ格納手段302にある処理デ-タ(表1)を読む込み(100)、装置内にある搬送ステ-ションの位置も考慮し、実際に搬送できる経路に展開した搬送処理順序情報を搬送処理順序情報格納手段304に格納する(110)。表1に示した搬送処理を基に作成した搬送処理順序情報の一例を表2,3に示す。搬送先に該当する処理室の欄が’1’で示されている。以下、搬送処理実行手段403が処理を実行する。・・・。」

ここで、上記イ.の段落0013には「大気カセット(図示しない)から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれる」と記載されていることから、カセットを載置しうるカセット載置手段があることは、明らかである。

これら事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「A.ウェハを真空処理する複数の真空処理室1?4と、
B.該各真空処理室にウェハを搬入出する搬送装置9-1,9-2と、
C.前記各真空処理室へウェハを搬入出するためのロードロック室5及びアンロードロック室6と、
D.ウェハを収納できるカセットを載置し得るカセット載置手段と、
E.該カセット載置手段上のカセット内からウェハを抜き取れるように構成された搬送手段と、
F.前記カセット内のウェハを前記搬送手段及び前記ロードロック室5並びに前記搬送装置9-1,9-2を介して各真空処理室に搬入し、前記各真空処理室で真空処理された処理済ウェハを搬出するための搬送制御を行うシーケンス制御による搬送制御部400(制御手段)とで構成された真空処理装置において、
G.該カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室5及び前記搬送装置9-1,9-2を介して前記複数の真空処理室1?4へ順次搬送し、搬送したウェハに同じ処理データを適用して同じ処理を施す同時処理、
H.及びカセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室5及び前記搬送装置9-1,9-2を介してそれぞれ異なるプロセス処理装置へ搬送し、搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なる処理データを適用して異なる処理を施す同時処理の何れかを選択的に施すとともに
I.同時処理を施した後のウェハをアンロードロック室6を介してカセットに戻す、
真空処理装置。」

なお、甲1発明については、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の「両当事者 2」)。

(2)甲第2号証
ア.段落0001
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば半導体装置を製造するための減圧エピタキシャル気相成長やエッチングのような大気と異なる圧力および/または雰囲気下で半導体ウェハ等の被処理材を処理する方法およびその装置に係り、特にその処理を枚葉で効果的に行うようにしたマルチチャンバ型枚葉処理方法およびその装置に関する。」

イ.段落0006
「【0006】また、マルチチャンバ型枚葉処理装置は、各処理チャンバで同一の処理を並行して行うものと、一連の製造プロセスに従った異なる処理を連続して行うものとがあるが、いずれもより的確な処理を能率的に行うようにしている点で共通している。」

ウ.段落0022
「【0022】前記カセットステーション10には、処理チャンバ50a,50bの数に対応した数、即ち図示では2個の内部に複数の半導体ウェハ(被処理材)Wを多段に収容するカセット11a,11bを移動不能に設置するカセット設置部が設けられているとともに、ウェハセンタリング機構を備えた回転位置合せ装置12が備えられている。・・・」

エ.段落0048?0051
「【0048】次に、上記枚葉処理装置による処理方法の一例を図7および図8を参照して説明する。ここに、図7は、カセットステーション10(なお、同図以下においてCSと略称す)上に設置されたカセット11aまたは11bから半導体ウェハWを取出して、回転位置合せ装置12(同じくOF)、出入口ポート20(同じくI/O)、プラットフォーム30(同じくPF)を順次通過させて一方の処理チャンバ50aまたは50b(同じく、R1またはR2)に搬送し、ここで処理を施した後、処理済の半導体ウェハWを再びカセット11aまたは11b内に戻すウェハ処理シーケンスを示す・・・。
【0049】・・・。
【0050】ここでは、1つの半導体ウェハW1 の処理を中心に、各半導体ウェハWに対する処理の手順を説明する。なお、この半導体ウェハW1 は、カセット11aから取出されて処理チャンバ50a(R1)で処置された後、再びカセット11aに収容されるものとする。
【0051】先ず、カセットステーション10(CS)に設置された一方のカセット11a内に収容されていた半導体ウェハW1 を外部ロボット13により取出して、・・・」

オ.段落0058
「・・・。処理済の半導体ウェハW1 をカセットステーション10のカセット11a内に収容して、この半導体ウェハW1に対する処理を終了する。」

これら事項を、図面を参照し、技術常識を勘案しつつ、整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認める。
「カセットステーション10にカセット11a,11bを設置するカセット設置部が設けられ、カセット11aから取出した半導体ウェハのいずれをも、処理チャンバ50aに搬送し、処理チャンバ50aで処理を施した処理済の半導体ウェハをもとのカセット11aに戻し、カセット11bから取出した半導体ウェハのいずれをも、処理チャンバ50bに搬送し、処理チャンバ50bで処理を施した処理済の半導体ウェハをもとのカセット11bに戻すものであるマルチチャンバ型枚葉処理装置。」

(3)甲第3号証
段落0010、0026、0090等の記載から、本件発明1でいうところの「1カセット1レシピ並列処理」と「2カセット1レシピ並列処理」とを選択的に行うものに相当するものが記載されている。

(4)甲第4号証
段落0018等の記載から、本件発明1でいうところの「1カセット1レシピ並列処理」を行うものに相当するものが記載されている。

3.本件発明1との対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「真空処理室1?4」は本件発明1の「プロセス処理装置」に、同様に、「搬送装置9-1,9-2」は「真空搬送手段」に、「搬送制御部400」は「制御手段」に、「同じ処理データを適用して同じ処理を施す」は「共通のレシピを適用して共通の処理を施す」に、「同時処理」は「並列処理」に、「異なる処理データを適用して異なる処理を施す」は「異なるレシピを適用して異なる処理を施す」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「A.ウェハを真空処理する複数のプロセス処理装置と、
B.該プロセス処理装置にウェハを搬入出する真空搬送手段と、
C.前記各プロセス処理装置へウェハを搬入出するためのロードロック室及びアンロードロック室と、
D.ウェハを収納できるカセットを載置し得るカセット載置手段と、
E.該カセット載置手段上のカセット内からウェハを抜き取れるように構成された搬送手段と、
F.前記カセット内のウェハを前記搬送手段及び前記ロードロック室並びに前記真空搬送手段を介して各プロセス処理装置に搬入し、前記各プロセス処理装置で真空処理された処理済ウェハを搬出するための搬送制御を行う制御手段とで構成された真空処理装置において、
G.カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室及び前記真空搬送手段を介して前記複数のプロセス処理装置へ順次搬送し、搬送したウェハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理、
H.及び、カセットに収納されたウェハを前記搬送手段、ロードロック室及び前記真空搬送手段を介して異なるプロセス処理装置へ搬送し、搬送したウェハにプロセス処理装置毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに
I.並列処理を施した後のウェハをアンロードロック室を介してカセットに戻す
真空処理装置。」

そして、以下の点で相違する。
本件発明1は、カセット載置手段が「複数のカセット」を載置し得るものであり、搬送手段が「任意の」カセット内からウェハを抜き取れるように構成されており、共通の処理を施す並列処理においては「1つのカセットを使用」し、異なる処理を施す並列処理においては「少なくとも2つのカセットを使用」し、「各カセット毎に」異なるプロセス処理装置へ搬送し、処理後のウェハを「もとの」カセットに戻すものであるが、甲1発明は、カセットの数、処理との関係が不明である点。

4.本件発明1についての判断
相違点について検討する。
甲1発明は、上記のとおり、「プロセス処理装置毎に異なる処理データを適用して異なる処理を施す」同時処理、いわば「2レシピ並列処理」と、「同じ処理データを適用して同じ処理を施す」同時処理、いわば「1レシピ並列処理」を選択的に施すものである。
甲1発明は、そのためのカセットの数、ウェハの処理経路については、明らかでないところ、甲1発明の実施に際しては、カセットの数、ウェハの処理経路について、具体化する必要がある。
甲1発明と同一技術分野のものである甲2事項は、上記2.(2)のとおり、「カセット設置部」に「カセット11a,11b」を設置するものであるから、カセットの数は「2つ」であり、それぞれのカセットから取り出したウェハを、処理後にもとのカセットに戻すものである。
ところで、上記具体化の際には、品質の担保の観点から、製品の履歴を保存しておく生産管理が広く行われているところ、生産管理においては、個々の製品を単位とするもの、生産ロット等複数の製品を単位とするもの、いずれも周知であり、適宜選択されている。
甲2事項における「処理後にもとのカセットに戻す」ことは、生産管理上、「カセット」という単位での管理を行い、管理上の利便性を維持するためのものであることは明らかである。
「カセット」という単位での管理を行い、管理上の利便性を維持するという思想を踏まえると、甲2事項を、甲1発明に適用するにあたり、「異なる処理を施す2レシピ並列処理」においては、同一カセット内に異なる処理がされたウェハが混在することは望ましくない。
甲2事項はカセット数が「2つ」であり、甲1発明はレシピが「2つ」であり、同数であるから、同一カセット内に異なる処理がされたウェハが混在することのないよう、カセットとレシピを対応づけることに、困難性は認められない。
すなわち、カセット載置手段を「複数のカセット」を載置し得るものとし、「任意の」カセット内からウェハを抜き取り、「カセット毎に」、いずれかの真空処理室へ搬送し、処理後のウェハを「もとの」カセットに戻すことで、同一カセット内のウェハは同じレシピで処理されたものとする相違点に
係るものとすることに、困難性は認められない。

被請求人は、「甲第1号証に甲第2号証を適用する場合、同一のカセットに交互に異なるレシピのウェハを戻すこともありうる」(上記第4のカ)などと主張する。
しかし、上記のとおり、複数の製品を単位として管理するという周知技術を踏まえると、同一カセット内に異なる処理がされたウェハが混在することは望ましくないことから、被請求人の主張は採用できない。

したがって、本件発明1は、甲第1ないし2号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本件発明2についての判断
本件発明2は、本件発明1と、カテゴリーが異なるにすぎない。
よって、本件発明1と同様の理由により、甲第1ないし2号証に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、この点は、両当事者間に争いはない(口頭審理調書の「両当事者 4」)。

第6.むすび
以上、本件発明1ないし2は、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2010-03-30 
出願番号 特願2008-11462(P2008-11462)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡澤 洋田村 嘉章大嶋 洋一植村 森平  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 菅澤 洋二
佐々木 一浩
登録日 2009-01-30 
登録番号 特許第4252103号(P4252103)
発明の名称 真空処理方法及び真空処理装置  
代理人 石塚 利博  
代理人 佐藤 英二郎  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
代理人 佐藤 英二郎  
代理人 石塚 利博  
代理人 飯島 大輔  
代理人 飯島 大輔  

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