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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1216926
審判番号 不服2004-21574  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-18 
確定日 2010-05-19 
事件の表示 平成10年特許願第540046号「エリトロポエチン及び鉄調製物を含む医薬的組み合わせ調製物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月24日国際公開、WO98/41226、平成12年10月24日国内公表、特表2000-514092〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年3月18日を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年11月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で用いるための、500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療のための医薬的組合せ調製物を製造するための2000U EPO未満のエリトロポエチン調製物及び1?30mgの鉄イオン(III )と等量の生理的に適合する鉄調製物の使用であって、前記組合せ調製物は鉄治療のコレクション期のみならずメンテナンス期においても量的変更無しに使用されるものであること、および週当りの投与量が5?30 mgの鉄(III )および7,000?15,000 UのEPOであることを特徴とする使用。」(以下、「本願発明」という。)

2.当審における拒絶理由
一方、当審における、平成19年8月21日付けで通知した拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
という理由を含み、以下の点を指摘している。

医薬用途発明である本願発明の医薬としての有用性が薬理データあるいはそれと同視すべき記載により裏付けられているとは認められず、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

3.当審の判断
本願発明は、「鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で用いるための、500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療のための医薬的組合せ調製物を製造するための2000U EPO未満のエリトロポエチン調製物及び1?30mgの鉄イオン(III )と等量の生理的に適合する鉄調製物の使用であって、前記組合せ調製物は鉄治療のコレクション期のみならずメンテナンス期においても量的変更無しに使用されるものであること、および週当りの投与量が5?30 mgの鉄(III )および7,000?15,000 UのEPOであることを特徴とする使用。」であって、特定の医薬的組み合わせ調製物を製造するための、エリトロポエチン調製物と鉄調製物の使用に係る発明であるところ、その製造のための使用方法自体に技術的特徴はなく、実質的には、「使用」形式で記載した医薬用途発明であるものと認められる。
すなわち、本願発明は、医薬的組合せ調製物が「2000UEPO未満のエリトロポエチン調製物及び1?30mg鉄イオン(III)と等量の生理的に適合する鉄調製物」(有効成分)からなり、該医薬的組合せ調製物は、週当たりの投与量が5?30mgの鉄(III)および7,000?15,000UのEPOであって、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で用い、該組合せ調製物は鉄治療のコレクション期のみならずメンテナンス期においても量的変更無しに使用され、「500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療」を医薬用途とする発明である。

ところで、特許法第36条第6項第1号の規定によれば、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなければならないところ、医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分の物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるというためには、発明の詳細な説明において、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより、その用途の有用性が裏付けられている必要があり、発明の詳細な説明にそれがなされていないならば、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるといわなければならない。

請求人は、審判請求書の補正書(理由補充書)で、本願発明の特徴は以下の通りであると主張している。
従来技術では、鉄の不足を伴う貧血治療における鉄剤の使用方法としては、鉄の蓄積が正常値になるまで比較的多量の鉄が投与され(コレクション期)、それに続いてEPOの投与により造血が刺激される(メンテナンス期)。通常、コレクション期のすぐ後のメンテナンス期には必要に応じて低投与量の鉄が投与されるが、この間、EPOの投与量は、常に調整されなければならなかった。
本願発明は、血液透析の治療又は貧血病の患者の治療のために、エリトロポエチンを2000U EPO未満という所定の低投与量に設定し、鉄イオン(III )の投与量を1?30mgという所定の低投与量に設定すれば、コレクション期およびメンテナンス期を通じて(即ち、全投与期間に亘って)、エリトロポエチンと鉄イオン(III )の投与量及び比率を変更することなく、しかも、1週間当りの鉄(III )が5?30mg、EPOが7,000?15.000 Uという低投与量で投与すれば、正常な血液状態を維持することが出来、従来技術における高投与量による毒性という副作用も防ぐことが出来ることを見出したことに基づくものである。

請求人も上記のとおり主張するように、本願明細書の記載によれば、本願発明は、「2000UEPO未満のエリトロポエチン調製物及び1?30mg鉄イオン(III)と等量の生理的に適合する鉄調製物」(有効成分)からなる医薬的組合せ調製物が、週当たりの投与量が5?30mgの鉄(III)および7,000?15,000UのEPOとなるように投与することにより、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で量的変更無しに使用でき、「500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療」を行うことができるとの新たな属性を見いだし、この発見に基づいてなされた医薬用途発明に関するものと認められるから、本願発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるというためには、発明の詳細な説明において、本願発明の医薬的組合せ調製物が、週当たりの投与量が5?30mgの鉄(III)および7,000?15,000UのEPOとなるように投与することにより、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で量的変更無しに使用でき、「500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療」に有用であることが当業者が認識できるように記載したものでなくてはならない。
ところで、一般に,物質の物質名や化学構造だけから,その医薬としての有用性を予測することは困難であり、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をすることにより,その医薬としての有用性が裏付けられている必要がある。
本願においても、請求項1に記載された医薬的組合せ調製物を構成する成分の名称及び有効成分量、上記投与条件からだけでは、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で量的変更無しに使用でき、上記治療に有用であることが予測できないものであるから、薬理データまたはそれと同視すべき程度の記載により、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で量的変更無しに使用でき、上記治療に有用であることが裏付けられている必要がある。

そこで、本願明細書の発明の詳細な説明において、本願発明の医薬として有用性が、薬理データまたはそれと同視すべき程度の記載により裏付けられているかどうかについて検討する。
本願明細書には、エリトロポエチン調製物及び鉄調製物については、種々説明がなされているが、本願発明の医薬的組合せ調製物が、週当たりの投与量が5?30mgの鉄(III)および7,000?15,000UのEPOとなるように投与することにより、鉄治療におけるコレクション期及びメンテナンス期で量的変更無しに使用でき、「500μg/L未満の正常なフェリチン値を達成するまでの血液透析の治療又は貧血症の治療」に有用であるかどうかについては、「驚くことに、この異なる投与量は、本発明による組合せ調製物を用いる場合、もはや必要でない。エリトロポエチン調製物及び鉄調製物の量は、メンテナンス期とコレクション期との間を区別する必要がない本発明による組合せ調製物に最適に適合される。これは、鉄調製物の最適な投与量に関してもはや混乱の可能性がないので、患者を治療することにおいて安全性を増加させる。」(明細書第10頁第22行?第11頁第1行)と記載され、臨床的研究として「 患者を、5?30mgの週当りの投与量の鉄(III)複合体及び全部で7,000?15,000Uの週当りの投与量のEPO調製物で処理する。両方の調製物を、各々の場合、同じ日に投与する。患者の鉄の状態を、診断パラメータトランスフェリン、トランスフェリン飽和度、CRP,GOT/GPT及びγ-GTにより測定する。フェリチン値が500μg/L未満の正常な範囲内であるなら、患者は最適に制御される。」(明細書第20頁第9?15行)との投与量や鉄の状態の測定方法等の一般的な記載はあるものの、具体的な臨床試験例やその結果については何も示されていない。また、理論的な説明も記載されていない。
したがって、本願明細書に、本願発明の医薬用途の有用性が薬理データあるいはそれと同視すべき記載により裏付けられているとは、認められない。
なお、審判請求人は、審判請求書の補正書(理由補充書)において、臨床試験データを提出しているが、出願後に提出された臨床試験データによって、出願当初の明細書の記載不備が解消されるものではない。しかも、提出された臨床試験データは、血液透析患者、貧血症患者それぞれ1名についてのデータでしかない上に、投与期間がコレクション期及びメンテナンス期にわたっているのか不明であり、本願発明の有用性を裏づけるに足るデーターとはいえない。

4.むすび
したがって、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-15 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願平10-540046
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 弘實 謙二
星野 紹英
発明の名称 エリトロポエチン及び鉄調製物を含む医薬的組み合わせ調製物  
代理人 樋口 外治  
代理人 福本 積  
代理人 西山 雅也  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  

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