• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20073466 審決 特許
不服20051667 審決 特許
不服20082356 審決 特許
無効2007800236 審決 特許
不服200626455 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1216998
審判番号 不服2006-10726  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-25 
確定日 2010-05-24 
事件の表示 特願2003-353705「抗血小板剤スクリーニング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月22日出願公開、特開2004-121254〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年10月31日(優先日,平成12年11月1日,平成13年1月11日)に出願した特願2002-539389号の一部を分割して,平成15年10月14日に新たな特許出願としたものである。そして,その請求項1に係る発明は,平成17年2月25日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】(A)(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド,(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列の1?10個のアミノ酸が欠失,置換,及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を有し,しかも,ADPと結合し,Giに共役することにより,アデニル酸シクラーゼの活性を抑制する活性を有するポリペプチド,又は(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が95%以上であるアミノ酸配列を有し,しかも,ADPと結合し,Giに共役することにより,アデニル酸シクラーゼの活性を抑制する活性を有するポリペプチド,前記ポリペプチドを含む細胞膜画分,あるいは前記ポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換され,前記ポリペプチドを発現している形質転換細胞と,試験化合物とを,ADP受容体P2T_(AC)標識リガンド存在下で,接触させる工程,及び
前記ポリペプチド,細胞膜画分,又は形質転換細胞への標識リガンドの結合量の変化を分析する工程
を含む,試験化合物がADP受容体P2T_(AC)リガンドであるか否かを検出する方法,
(B)C末端のアミノ酸配列が,配列番号11で表されるアミノ酸配列であり,しかも,ホスホリパーゼC活性促進性Gタンパク質のホスホリパーゼC活性促進活性を有する部分ポリペプチドとGiの受容体共役活性を有する部分ポリペプチドとのキメラであるGタンパク質キメラを共発現している前記形質転換細胞と,試験化合物とを接触させる工程,及び
前記形質転換細胞内におけるCa2+濃度の変化を分析する工程
を含む,試験化合物がADP受容体P2T_(AC)アンタゴニスト又はアゴニストであるか否かを検出する方法,又は
(C)前記形質転換細胞と試験化合物とを,血小板ADP受容体P2T_(AC)のアゴニストの共存下において,接触させる工程,及び
前記形質転換細胞内におけるcAMP濃度の変化を分析する工程
を含む,試験化合物がADP受容体P2T_(AC)アンタゴニスト又はアゴニストであるか否かを検出する方法
のいずれか1つの方法,あるいは,これらを組み合わせることによる,ADP受容体P2T_(AC)リガンド,アンタゴニスト,又はアゴニストであるか否かを検出する工程,及び
製剤化工程
を含む,抗血小板用医薬組成物の製造方法。」


2.原査定の理由

原査定の拒絶の理由となった,平成16年12月20日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶理由5の概要は,次のとおりである。

理由5:この出願は,請求項5に係る発明について,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

これに対し,平成17年2月25日付け手続補正書によって,出願時の請求項1?4が削除されたところ,本願発明は,上記拒絶理由の対象とされた補正前の請求項5に係る発明に該当するものである。


3.理由5についての判断

(1)本願の発明の詳細な説明における本願発明に関する記載

本願発明に係る「抗血小板用医薬組成物の製造方法」に関連して,本願の発明の詳細な説明には,概略,以下の(a)?(g)の事項が記載されている(下線は,合議体による。)。

(a)「【0012】本発明者は,前記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果,P2T_(AC)受容体をコードする核酸(具体的にはHORK3遺伝子)を単離することに成功し,塩基配列及び推定アミノ酸配列を決定した。次に,前記受容体をコードする核酸を含むベクター,及び前記ベクターを含む宿主細胞を順次作成し,前記宿主細胞を用いてP2T_(AC)受容体を発現させることにより,新規な組換えP2T_(AC)受容体の生産を可能にし,前記受容体がADP受容体P2T_(AC)活性を有することから,前記受容体及び前記受容体を発現する細胞が抗血小板剤スクリーニングツールとなることを確認した。また,前記受容体又は前記受容体を発現する細胞を用い,試験化合物がADP受容体P2T_(AC)リガンド,アンタゴニスト,又はアゴニストであるか否かを検出する方法,及び前記検出方法を用いた抗血小板剤のスクリーニング方法を確立した。更に,抗血小板作用を示す物質として知られている化合物(具体的には,2MeSAMP又はAR-C69931MX)が,前記検出方法にて前記受容体のアンタゴニスト活性を示すことを確認し,前記受容体のアンタゴニストが確かに抗血小板剤として有用であることを示した。そして,前記検出工程を含む,抗血小板用医薬組成物の製造方法を確立し,本発明を完成させた。」

(b)「【0015】血小板ADP受容体P2T_(AC)活性を阻害する物質は,抗血小板作用を示し,血栓性弊害の治療を可能とする。
従って,本発明の抗血小板剤スクリーニングツールによれば,抗血小板剤として有用な血小板ADP受容体P2T_(AC)アンタゴニストをスクリーニング及び評価することができる。
本発明のアンタゴニスト若しくはアゴニスト検出方法を用い,又は本発明のリガンド検出方法とアンタゴニスト若しくはアゴニスト検出方法とを組み合わせて用いることにより,血小板ADP受容体P2T_(AC)アンタゴニストを選択し,抗血小板剤として有用な物質をスクリーニングすることができる。 次いで,前記スクリーニング方法で選択された物質を有効成分とし,担体,賦形剤,及び/又はその他の添加剤を用いて製剤化することにより,抗血小板用医薬組成物を製造することができる。・・・
本発明のリガンド,アンタゴニスト又はアゴニスト検出方法を用いて,試験化合物が血小板ADP受容体P2T_(AC)リガンド,アンタゴニスト,又はアゴニストであるか否かを検出し,次いで,前記アンタゴニスト又はリガンドを製剤化することにより,抗血小板用医薬組成物を製造することができる。」

(c)「【0064】本発明の抗血小板剤スクリーニングツールを用いてスクリーニングにかけることのできる試験化合物としては,特に限定されるものではないが,例えば,ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む),・・・などもスクリーニングの試験化合物として用いることができる。」

(d)「【0065】本発明のスクリーニング方法は,検出方法により,以下の4つに大別されるが,いずれかの方法を用いて,あるいは,これらを組み合わせて,ADP受容体P2T_(AC)に対するリガンド,アンタゴニスト,又はアゴニストであるか否かを検出し,試験化合物の中からアンタゴニストを選択することによって,抗血小板剤として有用な物質をスクリーニングすることができる。」

(e)「【0083】(4)抗血小板用医薬組成物の製造
本発明には,前記2)?4)記載のスクリーニング方法により,あるいは,1)?4)記載のスクリーニング方法を組み合わせることにより選択されるADP受容体P2T_(AC)アンタゴニストである物質(例えば,化合物,ペプチド,抗体,又は抗体断片)を有効成分とする抗血小板剤が包含される。」

(f)「【0119】実施例6:HORK3タンパク質発現C6-15細胞と2MeSADPとの結合実験
実施例5で作製したHORK3タンパク質発現C6-15細胞を回収及び洗浄した後,・・・
【0122】・・・以上,実施例2?6の結果より,HORK3タンパク質は,血小板に発現しているGi共役型のADP受容体であることから,これまで存在が示唆されていた血小板のADP受容体P2T_(AC)の実体であると考えられる。」

(g)「【0123】実施例7:ヒト血小板凝集阻害活性の確認
健常人(成人,男子)より1/10容クエン酸ナトリウムにて採血を行ない,De Marcoらの方法(J.Clin.Invest.,77,1272-1277,1986)に従い,多血小板血漿(PRP)を調製した。PRPは,自動血球計数器(MEK6258;日本光電)を用いて,3×10^(8)/mLに調製して使用した。凝集惹起剤であるADPは,MCメディカル社の製品を使用した。実施例5でHORK3タンパク質アンタゴニスト活性を示すことを確認した2MeSAMP又はAR-C69931MXを使用し,前記化合物を溶解する溶媒としては,生理食塩水を用いた。・・・両薬剤ともに,ADP惹起血小板凝集を濃度依存的に阻害し,その阻害強度は,惹起剤であるADPの濃度に依存していた。 本実施例より,HORK3タンパク質アンタゴニストが抗血小板作用を示すことが明確である。」

(2)本願発明に対応する発明の詳細な説明の記載に係る実施可能要件の判断

次に,以上のような本願明細書の発明の詳細な説明の記載が,本願発明を当業者が実施できる程度のものであるか否かについて検討する。

本願発明は,請求項1に記載された(A)?(C)のいずれか1つの検出方法,あるいは,これらを組み合わせることによる,ADP受容体P2T_(AC)リガンド,アンタゴニスト,又はアゴニストであるか否かを検出する工程,及び,製剤化工程を含む,抗血小板用医薬組成物の製造方法であって,上記(b)?(e)のとおり,当該製造方法において,製剤化工程を行うには,当該製剤化工程に先立って,当該(A)?(C)のいずれか1つの検出方法,又は,それらの組み合わせによるスクリーニングでもって,公知のものに限ってみても,種々の化合物,ペプチド等の,広範かつ無数に近い試験化合物の中より,抗血小板剤として有用なものを化合物自体として特定して把握する必要がある。

そして,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,上記(a),(f)及び(g)のとおり,請求項1に記載された(A)?(C)のいずれか1つの検出方法,又は,それらの組み合わせにより,HORK3タンパク質,すなわち,血小板のADP受容体P2T_(AC)のアンタゴニストであることから,抗血小板剤として有用な物質として,共にアデノシンリン酸化合物誘導体である,2MeSAMP,及び,AR-C69931MXの2つが具体的に記載されているものの,これら以外については,「ADP受容体P2T_(AC)アンタゴニストである物質(例えば,化合物,ペプチド,抗体,又は抗体断片)」という以外は記載されておらず,かつ,それがどのようなものか出願時に当業者に推認できたものとも認められないので,抗血小板用医薬組成物の製造方法である本願発明の実施にあたり,無数の化合物を製造,スクリーニングして確認するという当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めるものである。

請求人は,この点につき,審判請求書の請求の理由を補正する平成18年8月10日付け補正書において,市販化合物を用いた実験結果を表1として示し,有効成分の化学構造があらかじめ分からなくても,試験化合物として市販の化合物等の公知化合物を用いることもでき,本願発明で特定している検出工程を経ることにより,当業者に過度の負担を強いることなく,構造的にも非類似の有効成分が入手できると主張しているが,上記のとおり,抗血小板用医薬組成物の製造方法である本願発明の実施にあたってその把握が必要とされる,発明の詳細な説明には何ら記載されておらず,かつ,出願時に当業者に推認できたものとも認められない,上記補正書における上記表1に示されるような化合物自体を,広範かつ無数に近い試験化合物の中よりスクリーニングして確認するという行為自体が,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を求めるものであるし,上記表1に示される化合物もごく限られた範囲のものにすぎないから,請求人の上記主張は,受け入れられない。

なお,請求人は,審判請求書の請求の理由を補正する上記補正書において,全ての製造する物の構造を認識していない状況でスクリーニングを行うステップを含む製造方法も多数特許されており,特許が認められたいくつかの事案における明細書の記載に照らせば,本件出願も,本願発明を当業者が実施することができる程度に,明細書の発明の詳細な説明は,明確かつ十分に記載されていると主張しているが,出願が実施可能要件を満たすか否かの判断は,個別具体的に行われるものであり,請求人の挙げた特許例の事実関係は,本願とは異なるものであるため,本願の実施可能要件を満たすか否かの判断を左右するものではない。

してみると,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


4.むすび

以上のとおりであるから,本件出願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので,拒絶すべきものである。


よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-22 
結審通知日 2009-04-28 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願2003-353705(P2003-353705)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 豊  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 森井 隆信
齊藤 真由美
発明の名称 抗血小板剤スクリーニング方法  
代理人 山口 健次郎  
代理人 濱井 康丞  
代理人 森田 憲一  
代理人 森田 拓  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 鈴木 ▲頼▼子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ