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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1217359
審判番号 不服2007-35422  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2010-05-26 
事件の表示 特願2001-286601「インクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月18日出願公開、特開2002-172766〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成13年9月20日の出願(優先権主張平成12年9月29日)であって、平成19年11月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年1月8日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について審尋がなされたところ、審判請求人から平成21年11月2日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成20年1月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年1月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 印字媒体とインクジェットヘッドとを相対移動させて、インクジェットヘッドで印字媒体に印字を行うインクジェットプリンタにおいて、
主走査方向に前記インクジェットヘッドを移動することで印字を行うシリアルプリンタであって、
印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1≦B1≦C1≦20μmとなる様に設定したことを特徴とするインクジェットプリンタ。」
から
「 印字媒体とインクジェットヘッドとを相対移動させて、インクジェットヘッドで印字媒体に印字を行うインクジェットプリンタにおいて、
主走査方向に前記インクジェットヘッドを移動することで印字を行うシリアルプリンタであって、
印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1<B1<C1≦20μmとなる様に設定したことを特徴とするインクジェットプリンタ。」
に補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさ」に関する式「0<A1≦B1≦C1≦20μm」から、「A1=B1=C1」の場合等を除外して、「0<A1<B1<C1≦20μm」と限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
(1)刊行物に記載された発明
(刊行物1について)
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-34398号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。)

(1-a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷装置およびその方法に関し、詳しくは印刷ヘッドを駆動して印刷媒体の一方向に並ぶドット列たるラスタを形成し、印刷媒体をこの印刷ヘッドに対してラスタを形成するごとにラスタに交差する一方向に相対的に移動する副走査を行なって、画像を印刷する印刷装置およびその方法に関する。
【0002】本明細書において、印刷媒体の一方向に並ぶドット列たるラスタとは、副走査方向の移動を伴うことなくドット形成要素の少なくとも一つにより形成されるドット列を意味する。このドット列の方向を主走査方向、これに交差する方向を副走査方向と呼ぶ。
【0003】
【従来の技術】上記のような印刷装置、特にインクジェットプリンタは、印刷ヘッドに設けられたドット形成要素、つまりノズルから印刷媒体に対してインクを吐出し、印刷媒体の表面にインクによるドットを形成することで印刷を行なう構成としている。この種のインクジェットプリンタとして、印刷ヘッドが印刷媒体(印刷用紙)の紙面上をラスタ状に走査する方式のものがある。
【0004】この方式のインクジェットプリンタでは、印刷ヘッドとして、複数のノズルを副走査方向に所定のピッチで配列して構成されるノズルアレイを備えた形式のものが知られている。この場合、印刷ヘッドは、通常は、1回の主走査(パス)の際に上記複数のノズルによって複数本のラインを同時に印刷する。
【0005】ところで、上記のような印刷ヘッドを備えたインクジェットプリンタの場合、個々のノズルの特性のバラツキ、あるいは複数のノズル間の配列ピッチのばらつきなどが原因でいわゆるバンディングが生じ、印刷媒体上に印刷された画像の画質低下が生じる、という不都合がある。
【0006】このような画質低下を防止するため、従来より、定ピッチ副走査による印刷技術が知られている。このような印刷技術は、インターレース印刷とも呼ばれている。定ピッチ副走査印刷では、印刷ヘッドのノズルアレイとして、印刷解像度のドットに対応するドットピッチの整数倍で複数のノズルを副走査方向に沿って配列して構成したものを用いる。」

(1-b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このような高品位な印刷を行なう場合、定ピッチ副走査印刷を用いたとしても、紙送り誤差(搬送誤差)の累積などによってバンディングが発生することがあるという問題があった。例えば、上記の定ピッチ副走査印刷において、副走査方向に連続する2ドットの上側のドットが特定のパスにおいて選択されたノズル群の最後のノズルにより印刷され、また下側のドットがノズル群の最初のノズルにより印刷される場合があり得る。こうした場合には、これらのドットを形成する各パス間は時間的に非連続なパスとなっており、両ドット間における紙送りの累積誤差が大きく、バンディングが発生し易くなる。
【0011】また、最近のインクジェットプリンタでは、高品位な印刷を目的として、上記の定ピッチ副走査印刷において、先行するパスにおいて印刷されたドットに後続のパスにおいてドットを一部重ねて印刷するオーバラップ印刷を行なう手法も採用されている。この場合、先行パスのドットの印刷と後続パスのドットの印刷との間の時間差が大きい場合、後続パスのドットが印刷される前に先行パスのドットのインクが乾いてしまうことから、2つのドットの繋がりが悪くなり、他のオーバラップ部分と比べて印刷の濃度差が生じ、これがバンディングとなってしまうという問題があった。
【0012】以上、印刷ヘッドが主走査方向に移動しながらドットを形成するインクジェットプリンタを例に挙げて、画質低下の問題について説明したが、こうした問題は、インクジェットプリンタに限るものではなく、ドットの集合として画像を形成するプリンタでありば、熱転写プリンタなど、他のタイプの印刷装置においても同様に生じる。また、主走査方向への印刷ヘッドの移動を要しないタイプの印刷装置でも、副走査方向の移動を行なっていれば、生じる課題である。
【0013】本発明は、副走査方向に配列されたドット形成要素を備えた印刷装置であってドットの集合として画像を形成する印刷装置の上記の課題を解決し、バンディングによる画質低下がなく、高品位な印刷を行なうことができる印刷装置を提供することを目的とする。」

上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)

「印刷ヘッドを駆動して印刷媒体の一方向に並ぶドット列たるラスタを形成し、印刷媒体をこの印刷ヘッドに対してラスタを形成するごとにラスタに交差する一方向に相対的に移動する副走査を行なって、画像を印刷する印刷装置であって、
印刷ヘッドに設けられたドット形成要素から印刷媒体に対してインクを吐出し、印刷媒体の表面にインクによるドットを形成することで印刷を行なうものであり、
個々のノズルの特性のバラツキ、あるいは複数のノズル間の配列ピッチのばらつきなどが原因で生じるバンディングを防止した、印刷装置としてのインクジェットプリンタ。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。
まず、刊行物1発明における
「印刷ヘッド」、
「印刷媒体」、
「画像を印刷する」及び「印刷を行なう」、
「印刷ヘッドを駆動して印刷媒体の一方向に並ぶドット列たるラスタを形成し、印刷媒体をこの印刷ヘッドに対してラスタを形成するごとにラスタに交差する一方向に相対的に移動する副走査を行なって、画像を印刷する印刷装置であって、印刷ヘッドに設けられたドット形成要素から印刷媒体に対してインクを吐出し、印刷媒体の表面にインクによるドットを形成することで印刷を行なう(印刷装置としての)インクジェットプリンタ」は、それぞれ、
本願補正発明における
「インクジェットヘッド」、
「印字媒体」、
「印字を行う」、
「印字媒体とインクジェットヘッドとを相対移動させて、インクジェットヘッドで印字媒体に印字を行うインクジェットプリンタ」及び「主走査方向に前記インクジェットヘッドを移動することで印字を行うシリアルプリンタ」
に相当する。
そして、本願補正発明の「印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1<B1<C1≦20μmとなる様に設定した」構成は、すなわち、「バンディングによる画質低下を防止」するためのものであるから、刊行物1発明における「個々のノズルの特性のバラツキ、あるいは複数のノズル間の配列ピッチのばらつきなどが原因で生じるバンディングを防止した」構成と、本願補正発明の該構成とは、「バンディングによる画質低下を防止した」構成で共通する。

したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「 印字媒体とインクジェットヘッドとを相対移動させて、インクジェットヘッドで印字媒体に印字を行うインクジェットプリンタにおいて、
主走査方向に前記インクジェットヘッドを移動することで印字を行うシリアルプリンタであって、
バンディングによる画質低下を防止した、インクジェットプリンタ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]:「バンディングによる画質低下を防止した」構成に関して、
本願補正発明においては、「印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1<B1<C1≦20μmとなる様に設定した」のに対し、
刊行物1発明においては、そのような特定がない点。

(3)判断
(相違点について)
上記相違点について検討する。
まず、インクジェットプリンタにおいて、バンディングによる画質低下を防止するためには、バンディングの原因である、個々のノズルの特性のバラツキ、あるいは複数のノズル間の配列ピッチのばらつきを所定範囲に収めることは、当業者が当然検討すべき自明の技術的事項である。
また、個々のノズルの特性のバラツキ、あるいは複数のノズル間の配列ピッチのばらつきを所定範囲に収めることによって、ドットの着弾精度が所定範囲内に収まることも明らかな事項である。
そして、ばらつきをなくして、精度を限りなく上げることは、技術的に困難であり、かつ、コストの面からも好ましくないから、印刷結果として問題のない許容範囲を設定することは、当業者が製品の開発及び製造において通常行っている周知の技術であって、その許容範囲を実験等によって設定することも、当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性はないというべきである。
さらに、「0<A1<B1<C1≦20μm」とした点に関しては、そもそも、A1は、平均値の理想値からのずれであるから、B1やC1の許容最大値よりも小さくなることは当然のことであり、また、これらの許容値の大きさは、ドット径や、ドットピッチによっても変わってくることが推測されるが、本願補正発明においては、ドット径や、ドットピッチは何ら特定されておらず、この数値範囲には、例えば、「A1(18μm)<B1(19μm)<C1(20μm)」のように、明らかに印字結果に問題があると予想されるものも包含されるから、「0<A1<B1<C1≦20μm」との限定には、格別の技術的意義は見出せない。
したがって、刊行物1発明において、「バンディングによる画質低下を防止した」構成として、「印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1<B1<C1≦20μmとなる様に設定した」構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(本願補正発明が奏する効果について)
そして、上記相違点によって、本願補正発明が奏する「全ての機械的精度を同じように高精度にすることなく、バンディングを効果的に目立ちにくくすることができる」との効果は、刊行物1に記載された事項及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年1月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成19年8月31日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 印字媒体とインクジェットヘッドとを相対移動させて、インクジェットヘッドで印字媒体に印字を行うインクジェットプリンタにおいて、
主走査方向に前記インクジェットヘッドを移動することで印字を行うシリアルプリンタであって、
印字媒体の移動方向を副走査方向とし、これに対して垂直方向を主走査方向とした場合、ドットの着弾精度を決める要因である、A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさを0<A1≦B1≦C1≦20μmとなる様に設定したことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

2.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.2.(1-a)?(1-b)で示したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.2.で検討した本願補正発明から、「A1:副走査方向送り量の平均値の、ドット列全長から求める副走査方向送り量の理想値からのずれ、B1:同じ色のドット間の副走査方向位置ずれの最大値、C1:同じ色のドット間の主走査方向位置ずれの最大値、の許容値の大きさ」に関する式「0<A1≦B1≦C1≦20μm」から、「A1=B1=C1」の場合等を削除したものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
なお、請求人は、当審からの審尋への回答書において、補正の用意がある旨記載しているが、仮に補正されたとしても、進歩性を有するものとも認められないので、特許法が補正の時期的制限を設けていることの趣旨に鑑みて、補正の機会を設けることとはしない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-18 
結審通知日 2010-03-30 
審決日 2010-04-12 
出願番号 特願2001-286601(P2001-286601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 木村 史郎
一宮 誠
発明の名称 インクジェットプリンタ  
代理人 森 泰比古  

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