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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1217376
審判番号 不服2008-3252  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-12 
確定日 2010-05-28 
事件の表示 特願2001-390014「ゴルフクラブヘッド及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 2日出願公開、特開2003-180885〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成13年12月21日の出願であって、平成14年11月18日付けで手続補正がなされ、平成19年2月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月19日付けで手続補正がなされ、同年7月23日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月25日付けで手続補正がなされたところ、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年2月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2 本願発明
本願の請求項1ないし7に記載された発明は、平成19年9月25日付け手続補正にて補正された請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「ソール部をなすソール壁部に、トウ側からヒール側を連ねるサイド壁部とホーゼル部とを設けかつクラウン部側のクラウン開口部と、前側のフェース開口部とを有するヘッド主部、
前記クラウン開口部に取り付けられることによりクラウン部を形成するクラウン部材、
及び前記フェース開口部に取り付けられるフェース部材を一体に溶着することにより内部に空所を形成し、
前記フェース部材は少なくともクラウン部側の縁部に、後方に曲がる折曲げ部を有し、
かつ前記クラウン部は、厚さが0.3?1.5mmであり、
しかもクラウン部の前縁の50%以上の長さに、前記折曲げ部の前記空所側の内面に向かって垂下する垂下片を介して前記折曲げ部の内面を受ける受片を有する鍵状部を形成するとともに、
この鍵状部は、前記垂下片と受片とがなすコーナ部に衝合させて前記折曲げ部の端部を位置決めし、
しかも前記フェース部材を前記鍵状部に支持させたとき、前記垂下片の前面と折曲げ部の後端面との間に溶接用の開先を形成することを特徴とするゴルフクラブヘッド。」


3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-317466号公報(以下「引用文献」という。)には、図示とともに以下の事項が記載されていると認められる。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はメタルウッド等の金属製ゴルフクラブヘッドに関し、フェース部及びこのフェース部からヘッド後方に向けて延出する延出部を一体的に形成することにより、打球時における溶接部の破損を回避するものである。」

(2)「【0010】ところで、ゴルフクラブヘッドにおいて、フェース面の肉厚は、強度を確保するために、2.5mm以上であることが必要である。一方、他の部分の肉厚は、ヘッドの大型化のために、約0.5乃至1.5mmとすることが好ましい。・・・(後略)」

(3)「【0018】本実施例に係るゴルフクラブヘッドは、フェース部2及びこのフェース部2からヘッド後方に延出する延出部3が一体になったフェース側部材1と、このフェース側部材1の後方に配置されるバック側部材4と、シャフトを固定するための円筒状のホーゼル部5とにより構成されている。」

(4)「【0021】次に、本実施例に係るゴルフクラブヘッドの製造方法について説明する。なお、素材としては、例えば圧延等により製造したTi合金及びFe系金属の板を使用する。
【0022】図3(a)乃至(c)は本実施例に係るゴルフクラブヘッドのフェース側部材の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0023】先ず、図3(a)に示すように、例えば板厚が3.2mmの板材をブランキング(打抜き加工)して、所定の形状の板材1aを得る。
【0024】次に、図3(b)に示すように、この板材1aを荒成形して、フェース部及び延出部3aを設け、中間材1bを得る。この中間材1bにおいては、図4(a)にその断面図を示すように、延出部3aの厚さは略均一になっている。
【0025】次いで、図3(c)及び図4(b)に示すように、中間材1bを鍛造加工して、延出部3を楔状に仕上げる。この場合に、延出部3の先端部の厚さは例えば0.8mmとする。これにより、フェース側部材1が完成する
【0026】図5(a)乃至(c)は、本実施例に係るゴルフクラブヘッドのバック側部材4の製造方法を工程順に示す斜視図である。
【0027】先ず、図5(a)に示すように、厚さが0.8mmの板材をブランキングして、所定の形状の板材4aを得る。
【0028】次に、図5(b)に示すように、この板材4aを荒成形し、中間材4bとする。次いで、この中間材4bに深絞り加工を施し、図5(c)に示す形状のバック側部材4を形成する。
【0029】このようにして形成したフェース側部材1及びバック側部材4を、図1に示すように組み合わせて溶接接合しヘッド本体を形成した後、このヘッド本体に円筒状のホーゼル部5を接合する。これにより、本実施例に係るゴルフクラブヘッドが完成する。
【0030】なお、上述の実施例においては、バック側部材が一体的に形成されている場合について説明したが、例えば図6に示すように、バック側部材がソール部6及びクラウン部7の2つの部材を接合して形成されたものであってもよい。この場合に、フェース部の肉厚を2.5乃至3.5mmとし、ソール部6の肉厚を0.6乃至2.5mmとし、クラウン部7の肉厚を0.4乃至2.0mmとすることが好ましい。これにより、重心位置の調整が容易になる。但し、この場合も、各接合部においては、2つの部材の厚さの差が1乃至1.3となるようにする。」

(5)上記記載(4)及び図6から、引用文献に記載された「ソール部6」は、底面をなすソール壁部にトウ側からヒール側を連ねるサイド壁部を設けたものであることが看取できる。

(6)引用文献の明細書ならびに図面全体を参酌しつつ、上記(1)ないし(5)を検討すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「フェース部2及びこのフェース部2からヘッド後方に延出する延出部3が一体になったフェース側部材1と、このフェース側部材1の後方に配置されるバック側部材4と、シャフトを固定するための円筒状のホーゼル部5とにより構成され、
前記フェース側部材1及び前記バック側部材4を組み合わせて溶接接合して、ヘッド本体を形成した後、このヘッド本体に円筒状のホーゼル部5を接合してなるゴルフクラブヘッドであって、
前記バック側部材4がソール部6及びクラウン部7の2つの部材を接合して形成されており、
前記クラウン部7の肉厚が0.4乃至2.0mmであり、
前記ソール部6が、底面をなすソール壁部にトウ側からヒール側を連ねるサイド壁部を設けてなるゴルフクラブヘッド。」


4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「延出部3」、「フェース側部材1」、「溶接接合」、「ソール部6」、「クラウン部7」、「肉厚」及び「底面」は、それぞれ、本願発明の「折曲げ部」、「フェース部材」、「一体に溶着」、「ヘッド主部」、「クラウン部材」、「厚さ」及び「ソール部」に相当する。

(2)引用発明の「ヘッド主部(ソール部6)」は、「底面をなすソール壁部にトウ側からヒール側を連ねるサイド壁部を設けてなる」ものであり、上側に「クラウン部7」を「接合」するための開口部を備え、前側に「フェース側部材1」を「溶接接合」するための開口部を備えている。
よって、引用発明の「ヘッド主部(ソール部6)」は、本願発明の「ソール部をなすソール壁部に、トウ側からヒール側を連ねるサイド壁部」「を設けかつクラウン部側のクラウン開口部と、前側のフェース開口部とを有する」との事項を備えている。

(3)引用発明の「クラウン部の肉厚が0.4乃至2.0mm」であることと、本願発明の「クラウン部は、厚さが0.3?1.5mm」であることとは、クラウン部の厚さが0.4?1.5mmのものを含む点で部分的に一致する。

(4)してみると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「ソール部をなすソール壁部に、トウ側からヒール側を連ねるサイド壁部を設けかつクラウン部側のクラウン開口部と、前側のフェース開口部とを有するヘッド構成部材、
前記クラウン開口部に取り付けられることによりクラウン部を形成するクラウン部材、
及び前記フェース開口部に取り付けられるフェース部材を一体に溶着することにより内部に空所を形成し、
前記フェース部材は少なくともクラウン部側の縁部に、後方に曲がる折曲げ部を有し、
かつ前記クラウン部は、厚さが0.4?1.5mmのものを含む、
ゴルフクラブヘッド。」

(5)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
ア 相違点1
本願発明は、「ヘッド主部」に「ホーゼル部」を設ける、との特定を有するのに対し、引用発明は、「ヘッド主部(ソール部6)」に「ホーゼル部」が設けられておらず、上記特定を有さない点。
イ 相違点2
本願発明の「クラウン部」は、厚さが「0.3?1.5mm」であるとの特定を有するのに対し、引用発明の「クラウン部」は、厚さが「0.4乃至2.0mm」であり、数値範囲が0.4?1.5mmで一部重複するものではあるものの、上記特定とは数値範囲が完全には一致しない点。
ウ 相違点3
本願発明は、「クラウン部の前縁の50%以上の長さに、折曲げ部の空所側の内面に向かって垂下する垂下片を介して前記折曲げ部の内面を受ける受片を有する鍵状部を形成するとともに、この鍵状部は、前記垂下片と受片とがなすコーナ部に衝合させて前記折曲げ部の端部を位置決め」するものであって、「フェース部材を前記鍵状部に支持させたとき、前記垂下片の前面と折曲げ部の後端面との間に溶接用の開先を形成する」との特定を有するのに対し、引用発明は、クラウン部にフェース部材(フェース側部材1)との溶接接合のための構造が設けられておらず、上記特定を有さない点。


5 判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
ソール部、サイド壁部及びホーゼル部を備えたヘッド構成部材により、ゴルフクラブヘッドを構成する技術は、特開2001-129130号公報(特に段落【0011】及び図3参照。「サイド部2B」及び「ヘッド本体部2」が、それぞれ、「サイド壁部」及び「ヘッド構成部材」に相当する。)、実願平3-66537号(実開平5-11969号)のCD-ROM(特に段落【0012】及び図3参照。「ソール面部1d」、「バック面部1c」及び「分割体4」が、それぞれ、「ソール部」、「サイド壁部」及び「ヘッド構成部材」に相当する。)等に記載されているように、本願の出願前に周知のもの(以下「周知技術1」という。)である。
したがって、引用発明の「ソール部6」を、上記周知技術1に基づいて、「ホーゼル部」を備えたものとすることにより、もって上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(2)相違点2について
引用文献の段落【0010】(上記「2(2)」参照。)には、「ゴルフクラブヘッドにおいて、フェース面の肉厚は、強度を確保するために、2.5mm以上であることが必要である。一方、他の部分の肉厚は、ヘッドの大型化のために、約0.5乃至1.5mmとすることが好ましい。」との記載があり、引用文献の段落【0030】(上記「2(4)」参照。)には「この場合に、フェース部の肉厚を2.5mm乃至3.5mmとし、ソール部の肉厚を0.6乃至2.5mmとし、クラウン部の肉厚を0.4乃至2.0mmとすることが好ましい。これにより、重心位置の調整が容易になる。」との記載がある。
これらの記載からみて、引用発明における「クラウン部」の肉厚は、ヘッドの大型化、強度、重心位置の調整に対応して適宜好適な値を選択できるものであり、「0.4乃至2.0mm」という数値範囲に臨界的な技術的意義はないことが、当業者ならば把握できるものである。
よって、引用発明における「クラウン部」の厚さを、ヘッドの大型化、強度、重心位置の調整に対応して、適宜好適な値とすることにより、相違点2に係る本願発明の「0.3?1.5mm」という数値範囲に含まれる値とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(3)相違点3について
ア 後方に延出された延出部を有するフェース部材と、前縁にゴルフクラブヘッドの内面に向かう垂下片と該垂下片に連続して前記フェース部材の前記延出部の内面を受ける突出片とよりなるカギ形に曲がった部分を有するクラウン部材とを、それぞれ溶接して接合してなるゴルフクラブヘッドであって、前記クラウン部材のカギ形に曲がった部分と前記フェース部材の前記延出部によって位置決めを行った状態で溶接することにより、クラウン部材とフェース部材との間の位置決めを容易にするとともにクラウン部材と前記フェース部材との間の接合強度を高めたゴルフクラブヘッドは、例えば特開平9-173509号公報(特に段落【0008】?【0010】、【0013】及び図3参照。「延出部6」、「フェース部1」、「突出部8」及び「クラウン部3」が、それぞれ、「延出部」、「フェース部材」、「カギ形に曲がった部分」及び「クラウン部材」に相当する。)、特開平4-292178号公報(特に段落【0023】?【0026】,図6?8及び図10参照。「延出部24」、「フェイス部21」、「嵌合突起26a」及び「クラウン部22a」が、それぞれ、「延出部」、「フェース部材」、「カギ形に曲がった部分」及び「クラウン部材」に相当する。)等に記載されているように、本願の出願前に周知のもの(以下「周知技術2」という。)である。
ここで、上記周知技術2において、クラウン部材に設けられたカギ形に曲がった部分はクラウン部材とフェース部材の位置決めを行うものであるから、クラウン部材のカギ形に曲がった部分を構成する垂下片と突出片がなすコーナーが、フェース部材の延出部の後端部に対して位置決めを行う機能を有することは、当業者に自明である。
イ また、溶接により複数の部材を接合する際に、接合する各部材の間に開先を設け、該開先において溶接を行う技術は、例えば、江藤祐春(外10名),「溶接講座 溶接の現場技術」,第1版第16刷,東京電機大学出版局,昭和61年5月20日,p.19?21等に示されているように広く知られている技術であり、本願の出願前に周知であったもの(以下「周知技術3」という。)である。
ウ 上記ア及びイから、引用発明におけるクラウン部7とフェース側部材1の溶接のための構成として、上記周知技術2及び上記周知技術3の構成をそれぞれ採用することにより、クラウン部7の前縁にゴルフクラブヘッドの内面に向かう垂下片と該垂下片に連続してフェース側部材1の延出部3の内面を受ける突出片とよりなるカギ形に曲がった部分を設け、このクラウン部7のカギ形に曲がった部分を構成する垂下片と突出片がなすコーナーにより前記フェース側部材1の前記延出部3の後端部を位置決めして溶接するものとするとともに、溶接箇所となるクラウン部7の垂下片とフェース側部材1の延出部3との間に、溶接用の開先を設けることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そして、このように、引用発明に上記周知技術2及び上記周知技術3を採用した場合において、クラウン部7の前縁に設けられる溶接接合のためのカギ形に曲がった部分をどの程度の長さとするかは、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
エ 上記アないしウのとおりであるから、上記相違点3に係る本願発明の構成は、当業者が、引用発明、上記周知技術2及び周知技術3から、容易に想到することができたものである。

(4)小括
上記のとおりであるから、本願発明は、当業者が、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて、容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も、引用発明の奏する効果及び周知技術1ないし3がそれぞれ奏する効果から当業者が予測することができた程度のものに過ぎない。


6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-25 
結審通知日 2010-03-30 
審決日 2010-04-13 
出願番号 特願2001-390014(P2001-390014)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 星野 浩一
上田 正樹
発明の名称 ゴルフクラブヘッド及びその製造方法  
代理人 住友 慎太郎  

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