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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A63B 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A63B |
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管理番号 | 1217739 |
審判番号 | 不服2007-35511 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-12-29 |
確定日 | 2010-06-02 |
事件の表示 | 特願2004- 1472「飛行性能が改善されたゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月29日出願公開、特開2004-209258〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年(2004年)1月6日(パリ条約による優先権主張 平成15年1月6日 米国)の出願(特願2004-1472号)であって、平成19年9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。 なお、平成19年12月29日付けの手続補正は、請求項の削除及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、適正な補正である。 第2 原査定における拒絶理由 原査定(平成19年9月25日付けの拒絶査定)は、「この出願については、平成19年4月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」としたものである。 そして、平成19年4月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由の内、特に、理由1及び理由2は次のとおりである。 「理由1 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願請求項1-5、7-8、13-21には、「スピンレートが・・のとき」と記載されている。しかしながら、以下の3つの理由、 (a)スピンレートの単位が不明である。 (b)本願の発明の詳細な説明(段落【0030】-【0031】)には、スピンレートがSR=ω(D/2)/Dと表されているが、これはω/2と同義なのか。また、そうであるならば、ωを2で割る意義が不明である。 (c)SR=ω(D/2)/Dの式と、「スピンレートは、ボールの回転表面速度をボール速度で割ったもの」という記載と整合性がとれていないように見受けられる。 のために、スピンレートが何を示しているのかを特定することができない。 (2)本願請求項1-4、13-16には、「空力係数」と記載されているが、これが何を示しているのかを特定することができない。また、発明の詳細な説明に記載の、「空体力係数」、「空体係数」との関係が不明である。 (3)本願請求項1-8、13-21の記載から、各請求項に記載の特性を有する具体的な物を想定できない。 (4)本願請求項1-9、11-21、23には、数値の前に「約」と記載されているが、「約」が示す範囲の程度が不明確である。 よって、請求項1-23に係る発明は明確でない。」 「理由2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 本願請求項1-8、13-21に記載される条件を満たすゴルフボールは、発明の詳細な説明を参照すると、第2プロトタイプのゴルフボールに限られると認められるが、発明の詳細な説明には、第2プロトタイプのゴルフボールが具体的にどのようなものであるのか(他のプロトタイプと何が違うのか)については、「総合ディンプル容積は番号の順で小さくなる」(段落【0075】)との記載しか言及がなく、他の記載を参酌しても、当業者が第2プロトタイプのゴルフボールを作製することができるとは認められない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8、13-21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 第3 審判請求人の主張 これに対して、平成19年12月29日付けで提出され、平成20年3月1日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人(出願人)は次の主張している。 「(1) 理由1について 理由1については、今般の補正により、「スピンレート」は「ゴルフボールの回転表面速度をゴルフボールの速度で割ったもの」(第0030段落)であることを明瞭にし、また、「空力係数」については第0029段落の定義をそのまま請求項に含ませ、また、「空体力係数」、「空体係数」については「空力係数」という用語に統一いたしました。また特許請求の範囲中の数値の前の「約」は削除いたしました。 したがって、拒絶の理由1は解消したものと考えます。 (2) 理由2について 本件発明の特徴は、打ち出されたゴルフボールの軌道中、上昇期の空力係数(揚力係数、抗力係数)と下降期の空力係数とを対比させて所望のものにすることにより、飛距離が最適化されたボールを実現するものであり、具体的には、レイノルズ数が180000でスピンレートが0.110のとき(上昇期)の空力係数の、レイノルズ数が70000でスピンレートが0.188のとき(下降期)の空力係数に対する比が0.780以下に選定するものです。 当業者は、ゴルフボールのディンプル数、パターン数、ディンプルの大きさ、ディンプルの容量(ボール容量に対する費)、ディンプルのカバー率、ボールの大きさ等を選定して上述の特性を満たすゴルフボールを適宜に製造できます(第0088段落)。 したがって、発明の詳細な説明は特許法第36条第4項に違背しないと考えます。」 第4 当審の判断 1 理由1について (1)審判請求人の審判請求書における「(1) 理由1について」の主張は、その内容からして、明らかに、理由1の(1)(2)(4)に対処するための補正の内容を示したものであり、理由1の(3)に対しては、何らの主張(反論)をするものではない。 そこで、平成19年12月29日(審判請求時)付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、単に「請求項1に係る発明」という。)について、理由1の(3)が解消されているかについて、検討する。 (2)請求項1に係る発明 請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「外側表面を具備するゴルフボールであって、当該外側表面が複数のディンプルを有し、かつ、レノルズ数が180000でスピンレートが0.110のときの空力係数の、レノルズ数が70000でスピンレートが0.188のときの空力係数に対する比が0.780以下である、 ただし、スピンレートはゴルフボールの回転表面速度をゴルフボールの速度で割ったものであり、 空力係数(C_(MAG)で表す)は、揚力係数(C_(L)で表す)の平方および抗力係数(C_(D)で表す)の平方の和の平方根(C_(MAG)=(C_(L)^(2)+C_(D)^(2))^(1/2))であり、揚力係数C_(L)および抗力係数C_(D)は、ρを空気密度、Aをゴルフボールの投影面積、Dをゴルフボールの直径、Vをゴルフボールの速度としたときに、揚力ベクトル(F_(L)で表す)および抗力ベクトル(F_(D)で表す)をそれぞれF_(L)=0.5C_(L)ρAV^(2)、およびF_(D)=0.5C_(D)ρAV^(2)とする無次元係数である、 ことを特徴とするゴルフボール。」 (3)判断 請求項1に係る発明は、外側表面が複数のディンプルを有するゴルフボールであることを除けば、「レノルズ数が180000でスピンレートが0.110のときの空力係数の、レノルズ数が70000でスピンレートが0.188のときの空力係数に対する比」(以下、単に「空力係数の比」という。)の数値範囲を示すことによって発明を特定したものといえる。 そして、技術常識を参酌しても、空力係数の比の数値範囲の特定によって、ゴルフボールのディンプルに関する構造(形態、大きさ、数、配列など)やその他の構造を特定することができるものということはできないから、上記請求項の記載からは、その特性(空力係数の比の数値範囲)を有する具体的な物を想定することはできない。 一方で、発明の詳細な説明を参酌すると、【0041】?【0045】段落、【0072】段落の【表4】、【0075】段落、及び、【0087】段落の【表13】から、【表4】に示される第2プロトタイプのゴルフボールが、請求項1の記載によって特定された上記の特性(空力係数の比の数値範囲)を満たすものであることは認められるものの、発明の詳細な説明には、空力係数の比と、ゴルフボールのディンプルに関する構造(形態、大きさ、数、配列など)やその他の構造との関係が何も示されていないため、ゴルフボールがどのような構造であれば、請求項1によって特定される特性(空力係数の比の数値範囲)を備えるのかを知ることはできない。したがって、発明の詳細な説明を参酌しても、請求項1の記載によって特定された上記の特性(空力係数の比の数値範囲)を満たすために必要な具体的な物の構造を想定することはできない。 さらに、発明の詳細な説明の【0075】段落の記載から、第1?第5プロトタイプは、いずれも実施例1に従うものであるから、【表4】の「ディンプルおよびディンプルパターン」を有するものであり第1?第5プロトタイプの区別がつかないこと、第1?第5プロトタイプの各プロトタイプにおけるディンプルのプロフィールについては何らの記載もないこと、また、【表4】におけるディンプルタイプA,C,F,Gについては、ディンプル当たりの容積が一定値ではなく範囲を有するものであることにかんがみれば、第2プロトタイプのゴルフボールについて、第1,3,4,5のプロトタイプのゴルフボールと明確に区別して特定することができないから、発明の詳細な説明を参酌しても、請求項1の記載によって特定された上記の特性(空力係数の比の数値範囲)を満たすために必要な具体的な物の構造を想定することはできない。 以上のとおり、請求項1に係る発明は、請求項に記載の特性を有する具体的な物を想定できないから、明確でない。よって、本願は、特許法第36条第6項第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 2 理由2について 発明の詳細な説明には、空力係数の比と、ゴルフボールのディンプルに関する構造(形態、大きさ、数、配列など)やその他の構造との関係が何も示されていないため、ゴルフボールがどのような構造であれば、請求項1によって特定される特性(空力係数の比の数値範囲)を備えるのかを知ることはできない。なお、発明の詳細な説明における【0041】?【0045】段落、【0072】段落の【表4】、【0075】段落、及び、【0087】段落の【表13】から、【表4】に示される第2プロトタイプのゴルフボールが、請求項1の記載によって特定された上記の特性(空力係数の比の数値範囲)を満たすものであることは認められるが、この1例の記載をもって、発明の詳細な説明が、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されているということはできない。 さらに、発明の詳細な説明の【0075】段落の記載から、第1?第5プロトタイプは、いずれも実施例1に従うものであるから、【表4】の「ディンプルおよびディンプルパターン」を有するものであり第1?第5プロトタイプの区別がつかないこと、第1?第5プロトタイプの各プロトタイプにおけるディンプルのプロフィールについては何らの記載もないこと、また、【表4】におけるディンプルタイプA,C,F,Gについては、ディンプル当たりの容積が一定値ではなく範囲を有するものであることにかんがみれば、第2プロトタイプのゴルフボールについても、第1,3,4,5のプロトタイプのゴルフボールと明確に区別して特定することができないから、発明の詳細な説明によっては、第2のプロトタイプのゴルフボールを作成することができない。 この点についての、請求人の「ゴルフボールのディンプル数、パターン数、ディンプルの大きさ、ディンプルの容量(ボール容量に対する費)、ディンプルのカバー率、ボールの大きさ等を選定して上述の特性を満たすゴルフボールを適宜に製造できます(第0088段落)。」という主張は、上述の(請求項1の)特性を満たすためには、「ゴルフボールのディンプル数、パターン数、ディンプルの大きさ、ディンプルの容量(ボール容量に対する比)、ディンプルのカバー率、ボールの大きさ等」の選定のための試行錯誤が必要であることを述べたものであり、この試行錯誤によって実施が可能であるとしても、それによって、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。 以上のとおり、発明の詳細な説明が、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。よって、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反し、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反し特許を受けることができない。また、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反し特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-16 |
結審通知日 | 2009-12-22 |
審決日 | 2010-01-15 |
出願番号 | 特願2004-1472(P2004-1472) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A63B)
P 1 8・ 536- Z (A63B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 今関 雅子 |
発明の名称 | 飛行性能が改善されたゴルフボール |
代理人 | 宮田 正昭 |
代理人 | 澤田 俊夫 |
代理人 | 山田 英治 |