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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C |
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管理番号 | 1218033 |
審判番号 | 不服2008-30584 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-12-03 |
確定日 | 2010-06-10 |
事件の表示 | 特願2001-272855「アンモニア系冷媒用スクロール圧縮機及び冷凍装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 3日出願公開、特開2003-184775〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年9月10日の特許出願であって、平成20年10月27日付けで拒絶査定がなされ、同年12月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、平成21年1月5日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成21年1月5日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理 由] (1)補正後の本願の発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「耐圧力容器内に、旋回スクロールと固定スクロールを組み合わせたスクロール圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部とを備え、冷媒としてアンモニア系冷媒を使用するアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機において、 前記電動機部の巻線に弗素樹脂で被覆したアルミニウム電線を用いると共に、 前記圧縮機構部からの吐出冷媒ガスは前記電動機部を冷却した後、前記耐圧力容器外に供給される構成とし、 更に前記スクロール圧縮機の圧縮機構部の圧縮室に前記アンモニア系の液冷媒を供給する液インジェクション回路を備えた ことを特徴とするアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機。」と補正された。 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スクロール圧縮機」に関し、「圧縮機構部からの吐出冷媒ガスは電動機部を冷却した後、耐圧力容器外に供給される構成」と限定するものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭58-205059号公報(以下、「引用例1」という。)、同じく引用された特開2000-83339号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ図面と共に以下の事項が記載されている。 (2-1)引用例1 ・「本発明は空気調和機、特に高圧容器を有する圧縮機のモータ冷却に好適な液インジュクションの制御器を有するヒートポンプ式空気調和機に関するものである。」(第1頁右下欄第12行?同頁同欄第15行) ・「圧縮機1は第2図に示すようなスクロール形の圧縮機であり、密閉容器10内にスクロール形圧縮機構11とモータ12を有する。スクロール形圧縮機構11は旋回スクロール13と固定スクロール14、フレーム15、クランク軸16よりなる。」(第2頁左上欄第3行?同頁同欄第8行) ・「モータ12が回転するとクランク軸16のクランクと旋回機構13dにより旋回スクロール13と固定スクロール14が相対的に旋回運転を行い、鏡板13a,14aとラップ13b,14bにより形成される空間が中心に移動するに従ってその容積を減少し、吸入穴14cから吸入したガスを圧縮し、吐出穴14dから吐出する。吐出されたガスは密閉容器内の空間22、吐出ガス通路20を経てモータ12を冷却した後空間23を経て吐出管18より吐出される。このようにモータ12は吐出ガスで冷却されているため圧縮機の負荷が増えたり、吐出ガス温度が上昇すると冷却効果が少なくなり、モータが過熱焼損する。この焼損を防止する為には吐出ガス温度を下げる必要があり、この一方法として液冷媒を圧縮機の吸入ガスまたは圧縮過程にインジュクションする方法が考えられる。 この方法は例えば第3図に示すようにサイクルの液ライン9から電磁弁7を介して圧縮機1に液冷媒の一部をインジュクションにより供給するものである。」(第2頁右上欄第8行?同頁左下欄第7行) ・「第5図乃至第7図はこの液量調整器25を圧縮機1の内部に設けた例である。 この場合はサイクルの液部と圧縮機内部をインジュクション配管24で接続する。液量調整器25は第6図に示すように固定スクロールの鏡板14aに接して設置され、固定スクロールの鏡板14a、ラップ14b、旋回スクロールの鏡板13a、ラップ13bで形成される圧縮室26に開口する。液量調整器25は固定スクロールの鏡板14aの温度によりその開度を変化してインジュクション量を調整する。 さらに第7図に示すように液量調整器25をモータ12のコイルに接して設置して直接モータの温度により開度を変化させる方法もある。」(第3頁左上欄第9行?同頁右上欄第1行) これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「密閉容器10内に、旋回スクロール13と固定スクロール14を組み合わせたスクロール形圧縮機構11と、このスクロール形圧縮機構11を駆動するためのモータ12とを備え、液冷媒を使用する空気調和機に用いるスクロール形圧縮機において、 前記モータ12にコイルを用いると共に、 前記スクロール形圧縮機構11からの吐出ガスは前記モータ12を冷却した後、前記密閉容器10外に供給される構成とし、 更に前記スクロール形圧縮機のスクロール形圧縮機構11の圧縮室26に前記液冷媒を供給するインジュクション配管24を備えた 空気調和機に用いるスクロール形圧縮機。」 (2-2)引用例2 ・「【0002】 【従来の技術】フロンは人体に無害であるうえ、絶縁性に優れ、容易に分解しない安定した性質を有するという特質から、冷却装置の冷媒にフロン系物質が従来から使用されてきたが、フロンの使用は地球のオゾン層の破壊や地球温暖化の原因になるところから、使用が制限され、従来から用いられてきたアンモニアの使用が再び見直されている。 【0003】ところで、アンモニアは可燃性や有毒性があるうえ腐食性が強く、銅線や既存の有機絶縁材料はアンモニアに侵されて使用に耐えない。・・・」 ・「【0008】本発明の目的は、かかる従来の問題点を解決するためになされたものであって、回転機械と一体化した密封構造のハーメチック型回転装置を構成する回転電機であり、巻線に純度の高いアルミニウムを用い、かつ被覆材をアンモニアに対して化学的に安定な素材を用いることにより、長期に亘り連続運転可能な回転電機を提供することにある。 【0009】さらに、本発明の他の目的は、電気部品に対する絶縁材に化学的に安定な弗素樹脂を用いることにより、長期に亘り連続運転可能な回転電機を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】本発明はアンモニア用回転機械に結合される回転電機であり、前述の技術的課題を解決するために以下のように構成されている。すなわち、本発明のアンモニア用回転機械に結合される回転電機は、冷媒のアンモニアを圧縮または膨張させる回転機械と一体に結合され、かつ耐圧力密封ケーシングに収納されて気密構造としたハーメチック型回転装置を構成する回転電機において、前記回転電機の巻線が純度が99.6%以上のアルミニウム電線を弗素樹脂で直接被覆されたものであることを特徴とする(請求項1に記載の発明)。 【0011】なお、本発明において回転機械は前述のように圧縮機や膨張機の作用をするものであり、スクリュー形、ターボ形、ロータリ形、往復形など、適宜の構造のものを使用することができる。」 ・「【0033】本発明の前述の実施の形態によれば、回転電機であるモータは耐圧力密封ケーシング8に収容されて、回転機械である圧縮機1と接続されてハーメチック型圧縮機を構成するが、モータにはアンモニアが充満し大気に対して完全に遮断した状態で運転が行われる。その際、モータの巻線は弗素樹脂で被覆されているので、冷媒のアンモニアにより侵されたり、あるいはアンモニアを汚染することもなく、安定した連続運転が行われる。」 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)後者の「密閉容器10」は前者の「耐圧力容器」に相当し、以下同様に、 「旋回スクロール13」が「旋回スクロール」に相当し、 「固定スクロール14」が「固定スクロール」に、 「スクロール形圧縮機構11」が「スクロール圧縮機構部」、及び、「圧縮機構部」に相当し、 「モータ12」が「電動機部」に、 「スクロール形圧縮機」が「スクロール圧縮機」に、それぞれ相当し、 後者の「密閉容器10内に、旋回スクロール13と固定スクロール14を組み合わせたスクロール形圧縮機構11と、このスクロール形圧縮機構11を駆動するためのモータ12とを備え、液冷媒を使用する空気調和機に用いるスクロール形圧縮機」と 前者の「耐圧力容器内に、旋回スクロールと固定スクロールを組み合わせたスクロール圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部とを備え、冷媒としてアンモニア系冷媒を使用するアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機」とは、 「耐圧力容器内に、旋回スクロールと固定スクロールを組み合わせたスクロール圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部とを備え、冷媒として所定の冷媒を使用する所定の冷媒用スクロール圧縮機」なる概念で共通する。 (イ)後者の「モータ12にコイルを用いる」態様と 前者の「電動機部の巻線に弗素樹脂で被覆したアルミニウム電線を用いる」態様とは、 「電動機部の巻線に所定の電線を用いる」態様なる概念で共通する。 (ウ)後者の「吐出ガス」が前者の「吐出冷媒ガス」に相当する。 (エ)後者の「インジュクション配管24」が前者の「液インジェクション回路」に相当することから、 後者の「液冷媒を供給するインジュクション配管24」と 前者の「アンモニア系の液冷媒を供給する液インジェクション回路」とは、 「所定の液冷媒を供給する液インジェクション回路」なる概念で共通する。 (オ)後者の「空気調和機に用いるスクロール形圧縮機」と 前者の「アンモニア系冷媒用スクロール圧縮機」とは、 「所定の冷媒用スクロール圧縮機」なる概念で共通する。 したがって、両者は、 「耐圧力容器内に、旋回スクロールと固定スクロールを組み合わせたスクロール圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部とを備え、冷媒として所定の冷媒を使用する所定の冷媒用スクロール圧縮機において、 前記電動機部の巻線に所定の電線を用いると共に、 前記圧縮機構部からの吐出冷媒ガスは前記電動機部を冷却した後、前記耐圧力容器外に供給される構成とし、 更に前記スクロール圧縮機の圧縮機構部の圧縮室に前記所定の液冷媒を供給する液インジェクション回路を備えた 所定の冷媒用スクロール圧縮機。」 の点で一致し、以下の各点で相違している。 [相違点1] 冷媒用スクロール圧縮機に使用する所定の冷媒に関し、本願補正発明では「アンモニア系」冷媒を使用するのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。 [相違点2] 電動機部の巻線に用いる所定の電線に関し、本願補正発明では「弗素樹脂で被覆したアルミニウム」電線であるのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。 [相違点3] 液インジェクション回路が圧縮機構部の圧縮室に供給する所定の液冷媒に関し、本願補正発明では「アンモニア系の」液冷媒を供給するのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。 (4)判断 [相違点1ないし3]について 例えば、引用例2に示されているように、環境対策のためにアンモニア系冷媒を使用可能とするために、冷媒としてアンモニア系冷媒を使用するアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機(「冷媒のアンモニアを圧縮または膨張させる回転機械」が相当)において、電動機部の巻線に弗素樹脂で被覆したアルミニウム電線(「アルミニウム電線を弗素樹脂で直接被覆されたもの」が相当)を用いる点は、周知の技術にすぎない(必要があれば、他にも、特開平9-306247号公報の【0008】ないし【0010】を参照。)。 そうすると、環境対策のためにアンモニア系冷媒を使用可能とするために、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点1ないし3に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。 そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、及び、上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。 したがって、本願補正発明は、引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5)むすび 以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。 3.本願発明について 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年4月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。 「耐圧力容器内に、旋回スクロールと固定スクロールを組み合わせたスクロール圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動するための電動機部とを備え、冷媒としてアンモニア系冷媒を使用するアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機において、 前記電動機部の巻線に弗素樹脂で被覆したアルミニウム電線を用い、前記スクロール圧縮機の圧縮機構部の圧縮室に前記アンモニア系の液冷媒を供給する液インジェクション回路を備えた ことを特徴とするアンモニア系冷媒用スクロール圧縮機。」 (1)引用例 引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・検討 本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から「スクロール圧縮機」に関し、「圧縮機構部からの吐出冷媒ガスは電動機部を冷却した後、耐圧力容器外に供給される構成」という限定を省いたものに相当する。 したがって、本願発明を構成する事項の全てを含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-30 |
結審通知日 | 2010-04-06 |
審決日 | 2010-04-20 |
出願番号 | 特願2001-272855(P2001-272855) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04C)
P 1 8・ 575- Z (F04C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 笹木 俊男 |
特許庁審判長 |
仁木 浩 |
特許庁審判官 |
大河原 裕 小川 恭司 |
発明の名称 | アンモニア系冷媒用スクロール圧縮機及び冷凍装置 |
代理人 | 井上 学 |