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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01P
管理番号 1218039
審判番号 不服2008-32676  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2000-225826「蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関および被熱供給体の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 6日出願公開、特開2002- 38947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年7月26日の出願であって、平成20年8月28日付けの拒絶理由通知に対して平成20年10月31日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成20年11月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年12月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けの手続補正書によって明細書について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成21年10月27日付けの書面による審尋がなされ、これに対し、平成21年12月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年12月25日付けの手続補正を却下する。
〔理 由〕
1.本件補正の内容
(1)平成20年12月25日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年10月31日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱媒体を循環させる循環通路と、熱を蓄える蓄熱手段と、該蓄熱手段の蓄えた熱を前記熱媒体を介して前記循環通路へ供給する熱供給手段と、前記熱供給手段が前記循環通路への熱供給を行う期間を制御する期間制御手段と
を備えた蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関において、
前記期間制御手段は、当該機関の始動に関連する特定のタイミング要素を認識し、
該認識したタイミング要素に基づいて、当該機関の始動に先立ち前記熱供給手段に前記循環通路への熱供給を行わせる期間を制御すると共に、当該期間が経過するまでは、当該機関の始動を禁止する
ことを特徴とする蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項2】当該内燃機関の運転が停止している期間中作動し、同機関が搭載される車両の盗難を防止する盗難防止手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記盗難防止手段の作動解除が開始されるタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項3】前記盗難防止手段の作動解除動作を、少なくとも前記熱供給手段による前記循環通路への熱供給が終了するまで継続させる
ことを特徴とする蓄熱装置を有する請求項2記載の車両搭載用内燃機関。
【請求項4】前記期間制御手段は、当該機関の搭載される車両の乗降用ドアが開扉されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項5】当該機関の搭載される車両の運転座席への着座を検知する着座検知手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記着座が検知されたタイミングを前記タイミング要素として認識する ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項6】当該機関の搭載される車両の運転座席に備えられたシートベルトの装着を検知するシートベルト装着検知手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記シートベルトの装着が検知されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項7】当該機関の搭載される車両のブレーキ動作を検出するブレーキ動作検出手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記ブレーキ動作が検出されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項8】当該機関の搭載される車両のクラッチ動作を検出するクラッチ動作検出手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記クラッチ動作が検出されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項9】当該機関の搭載される車両の乗降用ドアをロックするロック手段と、
前記ロックの解除を検知するロック解除検知手段と
をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記ロックの解除が検出されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項10】外部からの入力操作を通じて、前記期間制御手段に前記タイミング要素を認識させる外部入力手段を備える
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項11】前記外部入力手段は、当該機関が搭載される車両の遠隔から前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項12】前記外部入力手段は、音声を通じて前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項13】前記外部入力手段は、操作パネルをディスプレイ表示するディスプレイを備え、該操作パネルへのタッチ操作により前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項14】所定条件が成立すると被熱供給体に対する熱の供給がなされる被熱供給体の制御装置であって、
前記所定条件の成立を前記被熱供給体の始動に関連する特定の状態に基づいて決定し、当該被熱供給体の始動に関連する特定の状態に基づいて同被供給体への熱の供給期間を制御すると共に、当該供給期間が経過するまでは、前記被熱供給体の始動を禁止する
ことを特徴とする被熱供給体の制御装置。
【請求項15】前記被熱供給体は原動機である
ことを特徴とする請求項14記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項16】前記原動機は内燃機関を有してなる
ことを特徴とする請求項15記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項17】当該内燃機関の始動に先立ち熱の供給が開始される
ことを特徴とする請求項16記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項18】当該内燃機関の搭載される車両の盗難を防止する盗難防止手段を備え、前記特定の状態は盗難防止手段の作動状態である
ことを特徴とする請求項17記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項19】前記熱の供給は、熱を蓄熱する蓄熱手段によりなされる
ことを特徴とする請求項14?18のいずれかに記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項20】前記被熱供給体の始動に関連する特定の状態と前記被熱供給体の現在の環境とに基づき、前記供給期間を制御する
ことを特徴とする請求項14?19のいずれかに記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項21】前記期間制御手段は、前記タイミング要素と前記機関の現在の環境とに基づき、前記期間を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】熱媒体を循環させる循環通路と、熱を蓄える蓄熱手段と、該蓄熱手段の蓄えた熱を前記熱媒体を介して前記循環通路へ供給する熱供給手段と、前記熱供給手段が前記循環通路への熱供給を行う期間を制御する期間制御手段と
を備えた蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関において、
前記期間制御手段は、当該車両搭載用内燃機関の始動に関連する特定のタイミング要素を認識し、
該認識したタイミング要素に基づいて、当該車両搭載用内燃機関の始動に先立ち前記熱供給手段に前記循環通路への熱供給を行わせる期間を制御すると共に、当該期間が経過するまでは、当該車両搭載用内燃機関の始動を禁止する
ことを特徴とする蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項2】当該車両搭載用内燃機関の運転が停止している期間中作動し、同機関が搭載される車両の盗難を防止する盗難防止手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記盗難防止手段の作動解除が開始されるタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項3】前記盗難防止手段の作動解除動作を、少なくとも前記熱供給手段による前記循環通路への熱供給が終了するまで継続させる
ことを特徴とする蓄熱装置を有する請求項2記載の車両搭載用内燃機関。
【請求項4】前記期間制御手段は、当該車両搭載用機関の搭載される車両の乗降用ドアが開扉されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項5】当該車両搭載用機関の搭載される車両の運転座席への着座を検知する着座検知手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記着座が検知されたタイミングを前記タイミング要素として認識する ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項6】当該車両搭載用機関の搭載される車両の運転座席に備えられたシートベルトの装着を検知するシートベルト装着検知手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記シートベルトの装着が検知されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項7】当該車両搭載用機関の搭載される車両のブレーキ動作を検出するブレーキ動作検出手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記ブレーキ動作が検出されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項8】当該車両搭載用機関の搭載される車両のクラッチ動作を検出するクラッチ動作検出手段をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記クラッチ動作が検出されたタイミングを前記タイミング要素として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項9】当該車両搭載用機関の搭載される車両の乗降用ドアをロックするロック手段と、
前記ロックの解除を検知するロック解除検知手段と
をさらに備え、
前記期間制御手段は、前記ロックの解除が検出されたタイミングを前記タイミング要素
として認識する
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項10】外部からの入力操作を通じて、前記期間制御手段に前記タイミング要素を認識させる外部入力手段を備える
ことを特徴とする請求項1記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項11】前記外部入力手段は、当該車両搭載用機関が搭載される車両の遠隔から前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項12】前記外部入力手段は、音声を通じて前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項13】前記外部入力手段は、操作パネルをディスプレイ表示するディスプレイを備え、該操作パネルへのタッチ操作により前記入力操作を行わせる
ことを特徴とする請求項10記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。
【請求項14】所定条件が成立すると被熱供給体に対する熱の供給がなされる被熱供
給体の制御装置であって、
前記所定条件の成立を前記被熱供給体の始動に関連する特定の状態に基づいて決定し、
当該被熱供給体の始動に関連する特定の状態に基づいて同被供給体への熱の供給期間を制
御すると共に、当該供給期間が経過するまでは、前記被熱供給体の始動を禁止する
ことを特徴とする被熱供給体の制御装置。
【請求項15】前記被熱供給体は原動機である
ことを特徴とする請求項14記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項16】前記原動機は内燃機関を有してなる
ことを特徴とする請求項15記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項17】当該内燃機関の始動に先立ち熱の供給が開始される
ことを特徴とする請求項16記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項18】当該内燃機関の搭載される車両の盗難を防止する盗難防止手段を備え、前記特定の状態は盗難防止手段の作動状態である
ことを特徴とする請求項17記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項19】前記熱の供給は、熱を蓄熱する蓄熱手段によりなされる
ことを特徴とする請求項14?18のいずれかに記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項20】前記被熱供給体の始動に関連する特定の状態と前記被熱供給体の現在の環境とに基づき、前記供給期間の長さを制御する
ことを特徴とする請求項14?19のいずれかに記載の被熱供給体の制御装置。
【請求項21】前記期間制御手段は、前記タイミング要素と前記機関の現在の環境とに基づき、前記期間の長さを制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。」(なお、下線は補正箇所を明示するために請求人が付した。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲においては、本件補正前の特許請求の範囲における発明特定事項である「機関」に「車両搭載用内燃」あるいは「車両搭載用」を付加することで限定するもの、及び本件補正前の特許請求の範囲における発明特定事項である「期間を制御する」に、「長さ」を付加して「期間の長さを制御する」と限定するものを含むものであることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特表平10-508923号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

ア.「 本発明は、請求の範囲第1項の前提部分に規定された種類の蓄熱装置に関する。
自動車のエンジンのような、冷却した状態から始動する内燃エンジンの問題は、一般的に知られている。これらの問題は、エンジンを始動する前に、たとえば、電気式エンジンヒーターのような別個の熱源にエンジンを接続することにより、通常、解消される。エンジン冷却システムに連通可能な液体を絶縁容器内に貯蔵することにより、エンジンにより加熱された冷媒の熱含量を利用する装置も提案された。」(公報第3ページ第5行ないし同第10行)

イ.「エンジンブロック2の通路内の冷却水は、エンジン1が動いているときに、加熱される。エンジン冷媒ポンプ3は、冷媒をエンジン熱交換器4とエンジンブロック2とを循環させる他に、蓄熱装置6を通して冷媒を循環させる。
エンジンが動いているときに、可動プランジャ手段9は、端壁に当接している下端位置にあり(第3図参照)、これにともない、弁スライダ20は、弁開位置にある。エンジン冷媒ポンプ3は、貯蔵容器7と作動されていないポンプ10とを通して冷媒を循環させる。
貯蔵容器7に循環する冷媒は、最初に、容器の第1チャンバ内に入り、その後、弁スライダ20を介して第2チャンバ8′に導かれる。この後、冷媒は、ポンプ10を通過し、導管11を通って、エンジンブロック2に戻される。
貯蔵容器7の内壁は、エンジン1が動いている間、冷媒温度に等しい温度へ連続的に加熱される。
エンジン1が切られると、エンジンの冷媒ポンプ3が停止し、プランジャ手段9の一方の側の圧力増加も減少し、したがって、弁スライダ20が閉じる。
絶縁された貯蔵容器7内に貯蔵された高温冷媒と容器7の外側に配置されかつエンジン1が切られたことにより徐々に冷却された冷媒との間の熱交換を防止するために、可動プランジャ手段9は好適な状態で絶縁する。容器7内の高温冷媒と容器の外側で冷却された冷媒との間の熱交換の危険性を更に防止するために、蓄熱装置の閉塞手段17,17′も好適な状態で断熱する。
エンジンを再始動する前に、ポンプ10が、最初に作動され、これにより、冷却された冷媒は、エンジンから送出され、かつ、エンジンブロック2の他方の端部から貯蔵容器7の第2チャンバ8′内に、すなわち、その弁スライダ20が弁閉位置の可動プランジャ手段9に向けて搬送される。可動プランジャ手段は、冷媒流により及ぼされる力とプランジャ手段の一方の側の圧力の相対的増加との影響により、上方に移動され(第3図)、この結果、第1チャンバ8内に貯蔵された冷媒は、導管5を通ってエンジンブロック2の一方の端部に導かれ、冷却された冷媒は、エンジンブロック2から第2チャンバ8′内に導かれ、第2チャンバを徐々に充填する。
可動プランジャ手段9が貯蔵容器7の上端壁に接近すると、弁スライダ20の外方に突出する部分が、端壁に接触し、弁開位置となる。しかし、ポンプ10は、弁スライダのこの位置では停止せず、エンジンブロック2内の冷媒通路に接続された導管5内の高温の貯蔵された冷媒も全部排出されるまで、作動し続ける。この結果、エンジンブロックの冷媒は、貯蔵容器7内に貯蔵された加熱冷媒でほぼ置換され、この後、エンジンの始動準備が完了する。
エンジン1を始動するときに、エンジンポンプ3は、冷媒を、逆方向に、すなわち、貯蔵容器7の第1チャンバ8内に送出す。冷媒流は、可動プランジャ手段9を、端壁に接触する下端位置(第2図)に戻す。これにより、弁スライダ20は開き、冷媒は再び貯蔵容器7を通して循環することができる。
ポンプ10のモータは、公知の手段により、たとえば、貯蔵容器7内のプランジャ手段9の位置に応じて作動する端部位置スイッチと所定の時間が経過後にポンプ10を停止させる作用を果たす制御手段とにより、制御することができる。当然のこととして、たとえば、始動すべきエンジンが既に必要な運転温度にあるときに、上記装置が不必要に作動するのを防止するために、温度センサを好適な位置に設けることができる。検知手段により生成される全ての信号はマイクロプロセッサで調整されるのが好ましい。」(公報第6ページ第9行ないし第7ページ第24行)
(2)引用文献記載の事項
上記(1)ア.及びイ.並びに図面の記載から、以下の事項がわかる。

ウ. 冷媒を循環させる導管5,11と、熱を蓄える断熱貯蔵容器7と、該断熱貯蔵容器7の蓄えた熱を前記冷媒を介して前記導管5,11へ供給する冷媒ポンプ10と、前記冷媒ポンプ10が前記導管5,11への熱供給を行なうように制御し、冷媒ポンプ10を所定の時間経過後に停止させる制御手段とを備えた蓄熱装置6を有する自動車のエンジンであることがわかる。

エ.エンジンブロックの冷媒は、貯蔵容器7内に貯蔵された加熱冷媒でほぼ置換され、この後、エンジンの始動準備が完了することから、制御手段は自動車エンジンの始動に先立ち冷媒ポンプ10に導管5,11への熱供給を行わせる期間を制御していることがわかる。

(3)引用文献記載の発明
以上、上記(1)ア.及びイ.、(2)ウ.及びエ.並びに図面の記載から、引用文献には以下の発明が記載されているといえる。
「冷媒を循環させる導管5,11と、熱を蓄える断熱貯蔵容器7と、該断熱貯蔵容器7の蓄えた熱を前記冷媒を介して前記導管へ供給する冷媒ポンプ10と、前記冷媒ポンプ10が前記導管5,11への熱供給を行う期間を制御する制御手段と
を備えた蓄熱装置6を有する自動車のエンジンにおいて、
前記制御手段は、当該自動車エンジンの始動に先立ち前記冷媒ポンプ10に前記導管5,11への熱供給を行わせる期間を制御する
蓄熱装置6を有する自動車のエンジン。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

2.-2 対比
本願補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「冷媒」は、その機能及び構成からみて、本願補正発明における「熱媒体」に相当し、同様に、「導管5,11」は「循環通路」に、「貯蔵容器7」は「蓄熱手段」に、「冷媒ポンプ10」は「熱供給手段」に、「制御手段」は「期間制御手段」に、「蓄熱装置6」は「蓄熱装置」に、「自動車のエンジン」は「車両搭載用内燃機関」に各々相当することから、本願補正発明と引用文献記載の発明とは、
「熱媒体を循環させる循環通路と、熱を蓄える蓄熱手段と、該蓄熱手段の蓄えた熱を前記熱媒体を介して前記循環通路へ供給する熱供給手段と、前記熱供給手段が前記循環通路への熱供給を行う期間を制御する期間制御手段と
を備えた蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関において、
前記期間制御手段は、当該車両搭載用内燃機関の始動に先立ち前記熱供給手段に前記循環通路への熱供給を行わせる期間を制御する
蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関。」で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
「期間制御手段」に関して、本願補正発明においては、「車両搭載用内燃機関の始動に関連する特定のタイミング要素を認識し、該認識したタイミング要素に基づいて、当該車両搭載用内燃機関の始動に先立ち前記熱供給手段に前記循環通路への熱供給を行わせる期間を制御すると共に、当該期間が経過するまでは、当該車両搭載用内燃機関の始動を禁止する」のに対して、引用文献記載の発明においては、「車両搭載用内燃機関の始動に関連する特定のタイミング要素を認識し、該認識したタイミング要素に基づいて、当該車両搭載用内燃機関の始動に先立ち前記熱供給手段に前記循環通路への熱供給を行わせる期間を制御すると共に、当該期間が経過するまでは、当該車両搭載用内燃機関の始動を禁止する」かどうか不明な点(以下、「相違点」という。)。
2.-3 判断
相違点について検討する。
自動車エンジンの始動に関連する特定のタイミング要素を認識し、該認識したタイミング要素に基づいて、自動車エンジンの始動に先立ち熱供給を行う制御手段は、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-185676号公報で例示したように周知技術(以下、「周知技術1」という。)であり、また、熱を供給し暖機が終了するまでの期間、始動を禁止する制御手段も周知技術(例えば、特開平5-222925号公報、特開平6-123249号公報、特開平9-209818号公報参照、以下、「周知技術2」という。)であることから、期間制御手段として上記周知技術1及び周知技術2を考慮すれば、相違点に係る本願補正発明のように特定することに格別困難性はない。
しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

以上のように、本願補正発明は、引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

よって、本願補正発明は、引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年12月25日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成20年10月31日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.の〔理 由〕1.(1)の(a)の請求項1に記載したとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献記載の発明は、前記第2.の〔理 由〕2.-1に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の〔理 由〕1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の〔理 由〕2.-1ないし2.-4に記載したとおり、引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献記載の発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-09 
結審通知日 2010-04-13 
審決日 2010-04-28 
出願番号 特願2000-225826(P2000-225826)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01P)
P 1 8・ 575- Z (F01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 鈴木 貴雄
柳田 利夫
発明の名称 蓄熱装置を有する車両搭載用内燃機関および被熱供給体の制御装置  
代理人 宮下 文徳  
代理人 坂井 浩一郎  
代理人 遠山 勉  
代理人 関根 武彦  
代理人 川口 嘉之  
代理人 世良 和信  
代理人 和久田 純一  

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