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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1218043
審判番号 不服2009-3723  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-19 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2004-172659「帯電ローラ及びそれを備えた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-352158〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年6月10日付けの出願であって、平成20年9月11日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年11月14日付けで手続補正書が提出されたが、平成21年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月19日付けで審判請求がなされるとともに、同年3月23日付けで手続補正書が提出され、その後、当審における審尋に対して、同年12月1日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成21年3月23日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年3月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】
シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層と、該弾性層の外周面に形成された少なくとも一層の電子線硬化型樹脂を含む樹脂被覆層とを備えた帯電ローラにおいて、
前記樹脂被覆層が更に非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物を含み、該樹脂被覆層が非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物と、電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物とを含む塗工液を前記弾性層の外周面に塗布した後、電子線照射により前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物を硬化させてなり、
前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物が(メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマーであることを特徴とする帯電ローラ。」

(補正後)
「【請求項1】
シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層と、該弾性層の外周面に形成された少なくとも一層の電子線により硬化された電子線硬化型樹脂を含む樹脂被覆層とを備えた帯電ローラにおいて、
前記樹脂被覆層が更に非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物を含み、該樹脂被覆層が非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物と、電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物とを含む塗工液を前記弾性層の外周面に塗布した後、電子線照射により前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物を硬化させてなり、
前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物が(メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマーであることを特徴とする帯電ローラ。」

この補正事項は、補正前の「電子線硬化型樹脂」を「電子線により硬化された電子線硬化型樹脂」とする限定がなされている。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当すると認める。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶に理由に引用された、本願出願前に頒布された、特開平8-254876号公報(原査定の引用文献4。以下、「刊行物1」という。)、特開2002-214883号公報(原査定の引用文献5。以下、「刊行物2」という。)、特開2002-214876号公報(原査定の引用文献6。以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被帯電体面に当接させ、かつ電圧を印加して被帯電体の帯電を行う接触帯電部材において、該帯電部材が給電電極層上に弾性層及び表面層を有し、該表面層が、電子線により架橋された架橋重合体を有することを特徴とする接触帯電部材。
【請求項2】 表面層が架橋重合体で形成されたシームレスチューブである請求項1記載の接触帯電部材。
【請求項3】 表面層が弾性層上に塗布された架橋可能な重合体に電子線を照射して形成された層である請求項1記載の接触帯電部材。」

(1b)「【0007】ローラ型帯電器の帯電ローラは回転自由に軸受保持されて被帯電体面に所定の圧力で圧接され、被帯電体面の移動に伴い従動回転する。
【0008】上記帯電ローラは通常、中心に設けた芯金と、該芯金の周囲にローラ状に設けた導電性の弾性層と、さらにその外周に設けた表面層からなる多層構造体である。 上記各層のうち、芯金はローラの形状を維持するための剛体であると共に、給電電極層としての役割を有している。
【0009】上記弾性層は通常、体積固有抵抗が10^(4 )?10^(9) Ω・cmの導電体であり、弾性変形することにより被帯電体面との均一な接触を確保する役割をも有しているため、通常ゴム硬度(JIS A)70度以下の柔軟性を有する加硫ゴムが使用される。
【0010】上記表面層は被帯電体の帯電均一性を向上させ、被帯電体表面のピンホールなどに起因するリークの発生を防止すると共に、トナー粒子や紙粉などの固着防止、さらには弾性層の硬度を低下させるために用いられるオイルや可塑剤などの軟化剤のブリード防止などの役割も有している。表面層の体積固有抵抗は10^(5) ?10^(13)Ω・cmであり、従来、導電性塗料を塗布することにより形成されていた。
【0011】また、帯電部材は、使用される条件から、機械的強度、耐摩耗性、耐オゾン性、耐熱耐寒性などに優れ、低吸湿性であり、柔軟性に富み、耐クリープ性があり、圧縮永久ひずみが低くかつ易加工性であるなど、表面層用材料として当然具備すべき条件を全て満足する材料により形成されることが必要である。
【0012】上述の諸条件が満たされていない材料を用いると、帯電ローラは使用中に劣化するか、または使用環境の変化に適応できず、画像欠陥を生ずることになる。」

(1c)「【0017】上記シームレスチューブを用いた場合、前記した弾性層表面の大きな気泡による表面層の凹みは生成せず、平滑性に優れた帯電ローラが得られる。しかしながら、表面層は上述のように種々の役割を担っており、上述したような機械的強度、耐摩耗性、耐オゾン性、耐熱耐寒性などに優れている必要がある。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、このような物性に優れた接触帯電部材を提供することにある。」

(1d)「【0024】
【発明の実施の形態】本発明において用いられる弾性層は導電性ゴム組成物からなり、主要成分として弾性体及び導電性付与剤を含有する。
【0025】弾性体としてはシリコーンゴム、エチレン-プロピレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴム、アクリルゴム、エチレン-アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、改質ニトリルゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム、塩素化ポリエチレンなどのゴム、及びスチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、イソプレン系、1,2-ブタジエン系、塩化ビニル系、アミド系、アイオノマー系などの各種熱可塑性エラストマーなどを適宜用いることができる。
【0026】弾性層を導電化するための導電性付与剤としては公知の素材が使用でき、例えば、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素微粒子、ニッケル、銀、アルミニウム、銅などの金属微粒子、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、シリカなどを主成分とし、これに原子価の異なる不純物イオンをドーピングした導電性金属酸化物微粒子、炭素繊維などの導電性繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、炭素ウイスカ、チタン酸カリウムウイスカの表面を金属酸化物や炭素などにより導電化処理した導電性チタン酸カリウムウイスカなどの導電性ウイスカ及びポリアニリン、ポリピロールなどの導電性重合体微粒子などが挙げられる。
【0027】上記導電性付与剤を含有する弾性層は通常、給電電極層としての芯金の周囲に隣接して形成され、ローラの形状を有している。以下、芯金及び弾性層を一括してローラ体と呼ぶ。
【0028】弾性層を形成する方法は特に限定されるものではなく、射出成形法、押出成形法及び圧縮成形法など、ゴムの成形に通常採用される成形法が適用できる。芯金と弾性層を一体化する方法としては、インサート成形法により芯金の周囲に直接弾性層を形成することもできるし、また、厚肉チューブ状の弾性層を成形し、これを芯金に外嵌することもできる。
【0029】弾性層の硬度を低下させるために、上記導電性ゴム組成物はオイルや可塑剤などの軟化剤を含有することもできる。さらに、硬度を低下させる別の手段としてゴム発泡体とすることもできる。
【0030】本発明において、弾性層の表面は巨視的に見て平滑であることが重要であり、成形により十分な平滑性が得られない場合、例えばゴム発泡体を用いる場合、または圧縮成形法などの採用によりバリが生ずる場合などには、研磨などの2次加工による平滑化処理が必要になる。
【0031】さらに、弾性層は通常、被帯電体に圧接して使用されるため、圧縮永久歪が小さいことが望ましく、従って、加硫ゴムまたはゴム架橋体とすることが望ましい。
【0032】弾性層の厚さは、通常2?5mmであり、その体積抵抗値は10^(2 )?10^(9) Ω・cm、好ましくは10^(4) ?10^(8 )Ω・cmである。

(1e)【0033】本発明の接触帯電部材の表面層の形成に用いられる重合体としては、前記弾性体に用いられた各種のゴム及び各種熱可塑性エラストマーなどが好適であり、さらに各種のプラスチック、例えば、ポリエチレン、各種エチレン系共重合体、ポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体、ポリブテン、ポリ4-メチルペンテン-1などのポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、その他の共重合ナイロンなどのポリアミド;PET、PBT(ポリブチレンテレフタレート)などの飽和ポリエステル;ポリカーボネート;ポリスチレン、HIPS(ハイインパクト ポリスチレン)、ABS、AES(アクリロニトリル EPDM スチレン)、AAS(アクリロニトリル アクリレート スチレン)などのスチレン系樹脂;アクリル樹脂;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシドまたはそのポリスチレン変性体;ポリイミド樹脂;ポリアリレート;フッ化ビニリデン単独重合体及び共重合体なども使用できる。さらに、上記ゴム、熱可塑性エラストマー及びプラスチックから選ばれた2種以上の重合体からなるポリマーアロイまたはポリマーブレンドも使用できる。
【0034】表面層はこのような架橋可能な重合体を弾性層表面に塗布後、電子線を照射して架橋反応を生じさせて形成することができる。
【0035】(略)
【0036】重合体は単に上記各種成形法により成形しただけでは表面層の役割や表面層用材料として当然具備すべき条件を十分に満足することができない。そこで、電子線架橋させて架橋重合体とする。架橋させる方法としては、重合体の種類に応じて硫黄、有機過酸化物、アミン類などの架橋剤をあらかじめ添加しておき、加熱下で架橋反応を生じさせる化学的架橋があるが、架橋剤または架橋剤の分解生成物が被帯電体に移行し、被帯電体を劣化させる場合もあり、被帯電体のクリーニング処理に注意を払ったり、また、被帯電体について、架橋剤などが付着しても劣化を生じにくい材料設計をすることが必要である。これに対して、電子線架橋法は架橋剤またはその分解生成物の移行による被帯電体の汚染の恐れがなく、さらに、高温処理の必要がない点で化学的架橋法より優れており、また、安全性の点でγ線架橋法より優れている。
【0037】上記架橋法により得られた架橋重合体は、非架橋重合体と比較して、耐摩耗性、耐熱性、耐クリープ性などが改善され、表面層用材料として当然具備すべき条件をすべて満足することができる素材となることが期待される。
【0038】電子線架橋法に用いる電子線照射装置の代表的な構成は図2に示される。直流電源20からケーブル21を通じて加速管22に電力が供給される。高温の金属フィラメントから放出された熱電子は加速管22内で150?1000kVの加速電圧のもとで加速され、スポット状の電子ビームとなる。スキャナ23において電子ビームは高周波磁界が加えられて走査され、チタン箔などの金属箔で形成されているウインドウ24から放出される。架橋されるチューブや塗膜はこのウインドウの真下に置かれて電子線照射される。
【0039】チューブの製造工程における電子線照射のタイミングは種々選択することができる。具体的には、成膜後、外嵌処理前であってもよく、また、外嵌後であってもよい。さらにコーティング法により被膜を形成して表面層とする場合には、通常、被膜を乾燥させた後の照射が好ましい。
【0040】なお、電子線照射法においては、対象となる重合体の種類に応じて、架橋助剤をあらかじめ重合体に混合しておくと、架橋剤の物性が向上する。
【0041】架橋助剤としては、通常トリアリルイソシアヌレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルシアヌレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、トリメトキシエトキシビニルシランなどの多官能性モノマーが使用される。
【0042】照射線量としては、通常5?50Mrad(1Mradは物質1g当り約2.4カロリーの熱量を与えたことに相当する)が好適であり、重合体の種類、架橋助剤の有無、加速電圧などに応じて適当なレベルが選択される。
【0043】?【0050】(略)
【0051】次に、各重合体についてさらに詳しく説明する。
【0052】ポリエチレンは通常、エチレンの単独重合体であり、結晶化度の違いにより低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンに分けられる。その他に特殊グレードとして酢酸ビニル、メチルメタアクリレートやアクリル酸などのアクリルモノマー、無水マレイン酸、塩化ビニル、ビニルシランなどの各種の極性モノマーとの共重合体が使用されている。さらに、近年1-ブテンなどのα-オレフィンとの共重合体(直鎖状低密度ポリエチレン)も使用されるようになった。本発明においては、上記各種単独重合体及び共重合体がポリエチレンに包含されるものとする。
【0053】ポリエチレンは多くの優れた性質を有しているが、耐熱性が悪く、未架橋のまま帯電ローラの表面層用重合体として用いた場合、クリープなどによる変形が起き、表面平滑性が失われる。
【0054】架橋ポリエチレンには前記導電性付与剤以外に、安定剤、滑剤、各種の絶縁性充填剤などを必要に応じて添加することができる。
【0055】ナイロン12及びナイロン11はいずれもポリアミドの一種であり、通常、ナイロン12はω-ラウロラクタムまたは12-アミノドデカン酸の、ナイロン11は11-アミノウンデカン酸の重縮合により製造される。
【0056】上記2種のポリアミドは、ナイロン6またはナイロン66などの汎用ポリアミドと比較して分子構造が著しく異なり、柔軟性、耐摩耗性、低温特性などが優れており、吸湿性が低いなど帯電ローラの表面層として好適な特性を備えている。上記ナイロン12及びナイロン11には前記導電性付与剤以外に、安定剤や各種の絶縁性充填剤などを必要に応じて添加することができる。
【0057】電子線照射を行なう場合、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル系化合物をあらかじめ混合しておくことにより、空気中での電子線照射により効果的に架橋させることができる。
【0058】エチレン-アクリルゴムは1975年にデュポン社が世界で初めて市販した比較的新しいゴムであり、広い意味でアクリルゴムの一種と見なすこともできるが、分子構造的には通常のアクリルゴムとの違いは大きい。その結果、物性的にも著しい特徴を有するものとなっている。
【0059】上記エチレン-アクリルゴムの主成分はエチレンとアクリル酸メチルの二元共重合体であり、通常はある種のアミン類との架橋反応性を与えるために、カルボキシル化合物を第三モノマーとして結合させた三元共重合体として市販されている。エチレン-アクリルゴムは上記二元共重合体と三元共重合体のいずれであってもよい。
【0060】上記エチレン-アクリルゴムは(1)耐熱性が良好で耐油性とのバランスが良い。(2)低温特性がアクリルゴムより優れている。(3)耐候性及び耐オゾン性が良いなどの特徴を有しているが、機械的強度が大きく、圧縮永久ひずみが小さく、耐屈曲性が良いなどの点でも優れている。
【0061】上記エチレン-アクリルゴムの充填剤としては通常カーボンブラック、煙霧状コロイダル無水シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタンなどが使用されるが、その他の無機及び有機系充填剤の添加も可能である。
【0062】老化防止剤としては、通常ジフェニルアミン系及びフェノール系酸化防止剤が使用される。
【0063】塩素化ポリエチレンはポリエチレンを原料とし、これを塩素化することによって製造される熱可塑性ポリマーである。塩素化ポリエチレンは耐オゾン性、柔軟性、耐熱性などに富む。
【0064】塩素化ポリエチレンには前記導電性付与剤以外に、安定剤や各種の絶縁性充填剤を添加することができる。安定剤としては通常使用される有機スズ化合物、エポキシ化合物、鉛系化合物、金属石けん類及び金属酸化物などが好適である。
【0065】エピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴムはエピクロルヒドリンとエチレンオキシドをほぼなどモル共重合したものであり、耐熱性、耐寒性及び耐オゾン性を兼備した特殊合成ゴムである。なお、本発明のエピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴムには、架橋用モノマーとして少量のアリルグリシジルエーテルなどをさらに加えた三元共重合体も含まれる。
【0066】上記共重合体及び三元共重合体は、エピクロルヒドリン単独重合体の欠点である低温特性の悪さが著しく改善されている。
【0067】上記エピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴムには前記導電性付与剤以外に、加硫剤、老化防止剤、各種の絶縁性充填剤、加工助剤などを必要に応じて添加することができる。」

(1f)「【0076】2はこの感光体1面に接して感光体面を所定の極性、電位に一様に一次帯電処理するローラタイプの帯電部材である。帯電部材2は芯金2cと、その外周に形成した弾性層2bと、さらにその外周に形成した表面層2aからなり、芯金2cの両端部を不図示の軸受部材に回転自由に軸受させてドラム型の感光体1に並行に配置してバネなどの不図示の押圧手段で感光体1面に対して所定の押圧力をもって圧接され、感光体1の回転駆動に伴い従動回転する。」

(1g)「【0127】(実施例6)実施例1で得られたローラ体の外表面に、アルコール可溶性ナイロンをビヒクルとする導電性塗料をコーティングすることにより被膜を形成し、これに電子線を照射して可溶性ナイロンを架橋させることにより表面層2aを形成した。
【0128】さらに具体的に述べると、アルコール可溶性ナイロン(東レ社製、商品名:CM8000)100部をメタノール/水混合溶媒に溶解し、固形分濃度を20重量%とした。次に、上記溶媒に導電性付与剤(東海カーボン社製、商品名:カーボンブラック#4500)3部、架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)2部をそれぞれ添加してペイントシェーカーにより混合分散させることにより導電性塗料を得た。
【0129】上記塗料中に、実施例1で得られたローラ体を浸漬し、引き上げ、乾燥することによりローラ体外体面に被膜を形成した。
【0130】次に、上記被膜形成ローラ体に実施例1で用いた電子線照射装置により10Mradの電子線を照射した。なお、照射は一方向から、該ローラ体の向きを変えて、3回にわたって実施し、円周方向に均一な線量が照射されるようにした。
【0131】上記方法により、コーティング法により形成し、電子線により架橋された表面層2aを有する帯電ローラを完成させた。
【0132】上記帯電ローラの耐久試験結果を表10に示す。
【0133】(略)
【0134】(比較例5)導電性塗料に架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)を添加せず、かつ、電子線を照射しなかったこと以外は、実施例6と同様にして帯電ローラを完成させた。
【0135】上記帯電ローラの耐久試験結果を表11に示す。
【0136】(略)」

これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「芯金と、芯金の外周に形成した弾性層と、弾性層の外周に形成された電子線により架橋された架橋重合体を有する表面層とを備えた帯電ローラにおいて、
表面層は、電子線により架橋可能なアクリル樹脂などの重合体、及び、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレートなどの多官能性モノマーからなる架橋助剤、の溶媒溶液を、弾性層表面に塗布後、電子線を照射して架橋反応を生じさせて形成した、
帯電ローラ。」

(2)刊行物2
(2a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この帯電接触方式では、上記の樹脂が長期間感光体に当接することにより、上記感光体との間で密着が生じ、そのため、上記塗膜層の一部が剥離して感光体表面が汚染されてしまう場合がある。更には、粘着性の強さによっては、感光体との間の摩擦により、トナー融着や感光体削れが起こり、画像不良が発生してしまう場合があるため、帯電部材に用いられる塗膜には、粘着性が小さいことが求められている。そこで、最近では、上記塗膜層の最表面にフッ素系樹脂を塗布して帯電部材の粘着性を小さくする試みが行われているが、上記手法だけでは画像の高品質化に十分に対応することが困難であった。
【0004】本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、複写機、プリンター等において良好な画質を得ることのできる、感光体と密着しにくく、かつ、摩擦の小さい帯電部材と、上記帯電部材を用いた帯電装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、帯電部材を、弾性層と、分子量が30000以下の非反応性のシリコーンオイルを含有したフッ素樹脂から成る表面層とから構成することにより、上記目的を達成できることを見いだし、本発明に到ったものである。すなわち、請求項1に記載の発明は、被帯電体に当接させ、この被帯電体との間に電圧を印可して上記被帯電体を帯電させる帯電部材を、弾性層と、この弾性層の外側に形成された、少なくとも1層の塗膜層とから構成するとともに、上記塗膜層を、フッ素樹脂を含む樹脂層から形成し、かつ、分子量が30000以下の非反応性シリコーンオイルを、上記フッ素樹脂100重量部に対して0.05?30重量部含有させたことを特徴とするもので、これにより、被帯電体との密着性を低減するとともに、被帯電体との間の摩擦を小さくして、塗膜層の剥離やトナー融着あるいは感光体削れなどによる被帯電体表面の劣化を防止することが可能となる。」

(2b)「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の帯電部材は、接触帯電方式に用いられるものであるから、被帯電体に接触するものであれば、特にその形状が限定されるものではないが、例えば、ロール状,プレート状,ブロック状などの各種形状のものが適用可能であり、通常は、ロール状が好ましい。ロール状の場合には、これらの内側に金属あるいはプラスチック製のシャフトを設けてもよい。また、本発明が提供する帯電部材の構造は、弾性層と少なくとも1層の塗膜層とから成り、弾性層としては弾性体が、塗膜層としては樹脂層が用いられる。ロール状の帯電部材としては、例えば、図1(a),(b)に示すように、金属あるいはプラスチック製のシャフト21と、このシャフト21の外周に形成された弾性層22と、上記弾性層22の表面に形成された、導電剤を添加した樹脂から構成される塗膜層23とから成る帯電ローラ20を例示することができる。上記塗膜層23は、例えば、図2に示すように、帯電ローラ20の表面を構成する表面層23Aと、この表面層23Aと上記弾性層22との間に形成された中間層23Bとから成る2層としてもよいし、3層以上の層から構成してもよい。」

(2c)「【0015】上記塗膜最表面層に添加するシリコーンオイルとしては、30000以下の分子量、好ましくは1000?20000の分子量から成る非反応性のものであればよく、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどがある。これらシリコーンオイルは、非極性という性質上、表面側に占有率が高くなるため、塗膜層において、表面側に密度が高く、内側に密度が低いという傾斜構造をとる。その結果、塗膜層の表面の密着性・摩擦力を低下させることができる。更に、この外添剤とシリカ粒子を組み合わせることにより、接触面積が低下して密着性がより改良される場合もある。この表面層には、上記の場合と同様の導電剤、好ましくはカーボン添加することにより、所望の導電性を付与することができる。なお、この表面層の厚みは、特に限定されないが、30μm以下、特に、3?20μmとすることが好ましく、30μmを越えると、硬くなって、塗膜層の柔軟性が損なわれてしまう。また、上記シリコーンオイルは、フッ素樹脂100重量部に対して、0.05?30重量部添加することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0018】また、塗膜層の形成方法としては、特に制限されるものではないが、これらの各層を形成する各成分を含む塗料を調整し、この塗料をディッピング法あるいはスプレー法により塗布する方法が好ましく用いられる。」

(2d)「【0021】<実施例>以下に、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
[実施例1]導電性のウレタンフォームから成る弾性層の表面に、厚さ100μmの塗膜層Aを形成し、更にその上に、厚さ10μmの塗膜層Bを形成し、帯電ローラを作製した。塗膜層Aは、水系アクリル樹脂にカーボンを添加した塗料を塗布して形成し、体積抵抗率を5×10^(7)Ω・cmに調整した。塗膜層Bは、フッ素樹脂LF200(旭硝子KK)をMEK/トルエン混合溶媒に溶かし、カーボン、イソシアネート硬化剤を加えた後、アルキル変性シリコーンオイルSH230(東レダウコーニング社製)を、フッ素樹脂100重量部に対して1重量部添加したものとした。上記ローラの表面粗さはJIS十点平均粗さRzで、0.7μmであった。このローラを、温度22℃/湿度50%RHの条件で、上述したセルロース100%,30g/m^(3),70メッシュの布を用いて摩擦試験を行ったところ、摩擦係数は0.3であった。また、上記ローラをプリンターカートリッジに装着し、温度40℃/湿度95%RHにて2週間放置したところ、OPCとの密着は見られなかった。また、上記カートリッジを用いて画像を作成したところ、良好な画像が得られた。更に、連続6000枚画像出しをしても、画像の劣化は見られなかった。」

(3)刊行物3
(3a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この帯電接触方式では、帯電部材が長期間感光体に当接することにより、上記感光体との間で密着が生じ、そのため、上記塗膜層の一部が剥離して感光体表面が汚染されてしまう場合がある。更には、上記樹脂の粘着性の強さによっては、感光体との間の摩擦により、トナー融着や感光体削れが起こり、画像不良が発生してしまう場合があるため、帯電部材に用いられる塗膜には、粘着性が小さいことが求められている。
【0004】本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、複写機、プリンター等において良好な画質を得ることのできる、感光体と密着しにくく、かつ、摩擦の小さい帯電部材と、上記帯電部材を用いた帯電装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、帯電部材を、弾性層と、非反応性のシリコーンオイルを含有したウレタン変性アクリル樹脂からなる表面層とから構成することにより、上記目的を達成できることを見いだし、本発明に到ったものである。すなわち、請求項1に記載の発明は、被帯電体に当接させ、この被帯電体との間に電圧を印可して上記被帯電体を帯電させる帯電部材を、弾性層と、この弾性層の外側に形成された、少なくとも1層の塗膜層とから構成するとともに、上記塗膜層を、上記塗膜層を、アクリル樹脂成分が5?80重量%含有されたウレタン変性アクリル樹脂を含む樹脂層から形成し、かつ、分子量が30000以下の非反応性シリコーンオイルを、上記ウレタン変性アクリル樹脂100重量部に対して0.05?30重量部含有させたことを特徴とするもので、これにより、被帯電体との密着性を低減するとともに、被帯電体との間の摩擦を小さくして、塗膜層の剥離やトナー融着あるいは感光体削れなどによる被帯電体表面の劣化を防止することが可能となる。」

(3b)「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の帯電部材は、接触帯電方式に用いられるものであるから、被帯電体に接触するものであれば、特にその形状が限定されるものではないが、例えば、ロール状,プレート状,ブロック状などの各種形状のものが適用可能であり、通常は、ロール状が好ましい。ロール状の場合には、これらの内側に金属あるいはプラスチック製のシャフトを設けてもよい。また、本発明が提供する帯電部材の構造は、弾性層と少なくとも1層の塗膜層とから成り、弾性層としては弾性体が、塗膜層としては樹脂層が用いられる。ロール状の帯電部材としては、例えば、図1(a),(b)に示すように、金属あるいはプラスチック製のシャフト21と、このシャフト21の外周に形成された弾性層22と、上記弾性層22の表面に形成された、導電剤を添加した樹脂から構成される塗膜層23とから成る帯電ローラ20を例示することができる。上記塗膜層23は、例えば、図2に示すように、帯電ローラ20の表面を構成する表面層23Aと、この表面層23Aと上記弾性層22との間に形成された中間層23Bとから成る2層としてもよいし、3層以上の層から構成してもよい。」

(3c)「【0012】また、塗膜層としては、1層以上の導電材を添加した樹脂層から構成される。本発明の樹脂層において、最表層で用いられるウレタン変性アクリル樹脂は、帯電特性、帯電環境安定性に優れたものであり、更に、製造上帯電性能のばらつきがないといった特性をもつことは、すでに特開平7-311493号公報、特開平8-211696号公報に紹介されている。また、ウレタンポリマーにシリコーン鎖を含ませることによりトナー融着を防ぐといった方法も紹介されているが、この方法は、樹脂の設計・製造・制御が難しいために、シリコーンが顕著に表面性改質に影響を与えず、したがって、密着性・摩擦がある程度大きいままであった。
【0013】そこで本発明においては、シリコーンが顕著に表面性改質に効果を発揮できるような非反応性シリコーンオイルをウレタン変性アクリル樹脂に含有させることにより、その密着性・摩擦を低減させることに成功した。ウレタン変性アクリル樹脂に添加するシリコーンオイルとしては、30000以下の分子量、好ましくは1000?20000の分子量から成る非反応性のものであればよく、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどがある。これらシリコーンオイルは、非極性という性質上、表面側に占有率が高くなるため、塗膜層において、表面側に密度が高く、内側に密度が低いという傾斜構造をとる。その結果、塗膜層の表面の密着性・摩擦力を低下させることができる。更に、この外添剤とシリカ粒子を組み合わせることにより、接触面積が低下して密着性がより改良される場合もある。この表面層には、上記の場合と同様の導電剤、好ましくはカーボン添加することにより、所望の導電性を付与することができる。なお、この表面層の厚みは、特に限定されないが、30μm以下、特に、3?20μmとすることが好ましく、30μmを越えると、硬くなって、塗膜層の柔軟性が損なわれてしまう。また、上記シリコーンオイルは、ウレタン変性アクリル樹脂100重量部に対して0.05?30重量部含有させることが好ましい。
【0014】?【0015】(略)
【0016】また、塗膜層の形成方法としては、特に制限されるものではないが、これらの各層を形成する各成分を含む塗料を調整し、この塗料をディッピング法あるいはスプレー法により塗布する方法が好ましく用いられる」

(3d)「【0019】<実施例>以下に、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
[実施例1]導電性のウレタンフォームから成る弾性層の表面に、厚さ100μmの塗膜層Aを形成し、更にその上に、厚さ10μmの塗膜層Bを形成し、帯電ローラを作製した。塗膜層Aは、水系アクリル樹脂にカーボンを添加した塗料を塗布して形成し、体積抵抗率を5×10^(7)Ω・cmに調整した。塗膜層Bは、ウレタン変性アクリル樹脂EAU65B(アジア工業社製)をMEK溶媒に溶かし、イソシアネート硬化剤を加えた後、アルキル変性シリコーンオイルSH230(東レダウコーニング社製)を、ウレタン変性アクリル樹脂100重量部に対して3重量部添加したものとした。上記ローラの表面粗さはJIS十点平均粗さRzで、0.7μmであった。このローラを、温度22℃/湿度50%RHの条件で、上述したセルロース100%,30g/m^(3),70メッシュの布を用いて摩擦試験を行ったところ、摩擦係数は0.5であった。また、上記ローラをプリンターカートリッジに装着し、温度40℃/湿度95%RHにて2週間放置したところ、OPCとの密着は見られなかった。また、上記カートリッジを用いて画像を作成したところ、良好な画像が得られた。更に、連続6000枚画像出しをしても、画像の劣化は見られなかった。」

3.対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「芯金」は、本願補正発明の「シャフト」に相当する。
刊行物1記載の発明の「電子線により架橋された」は、本願補正発明の「電子線により硬化された」に実質的に相当する。
刊行物1記載の発明の「電子線により架橋された架橋重合体」は、電子線により架橋可能なアクリル樹脂などの重合体であるから、本願補正発明の「電子線により硬化された電子線硬化型樹脂」に相当する。
刊行物1記載の発明の「表面層」は、本願補正発明の「樹脂被覆層」に相当する。
刊行物1記載の発明の「表面層は、電子線により架橋可能なアクリル樹脂などの重合体、及び、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレートなどの多官能性モノマーからなる架橋助剤、の溶媒溶液を、弾性層表面に塗布後、電子線を照射して架橋反応を生じさせて形成した」と、
本願補正発明の「前記樹脂被覆層が更に非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物を含み、該樹脂被覆層が非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物と、電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物とを含む塗工液を前記弾性層の外周面に塗布した後、電子線照射により前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物を硬化させてなり、前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物が(メタ)アクリレートモノマー及び/又はオリゴマーである」とは、
「前記樹脂被覆層は、電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物を含む樹脂被覆層形成用塗工液を、前記弾性層の外周面に塗布した後、電子線照射により電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物を硬化させて形成してなり、前記電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物が(メタ)アクリレートモノマーである」点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
『シャフトと、該シャフトの外周に形成された弾性層と、該弾性層の外周面に形成された少なくとも一層の電子線により硬化された電子線硬化型樹脂を含む樹脂被覆層とを備えた帯電ローラにおいて、
前記樹脂被覆層は、「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」を含む樹脂被覆層形成用塗工液を、前記弾性層の外周面に塗布した後、電子線照射により「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」を硬化させて形成してなり、
前記「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」は、(メタ)アクリレートモノマーである、
帯電ローラ。』

[相違点1]
本願補正発明は、樹脂被覆層形成用塗工液が、「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」と「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」とを含み、それにより、樹脂被覆層が「電子線により硬化された電子線硬化型樹脂」及び「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」を含むのに対し、
刊行物1記載の発明は、樹脂被覆層形成用塗工液が、「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」を含むが、「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」を含まない点。

そこで、相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物2、刊行物3には、いずれも、感光体と密着しにくく、かつ、摩擦の小さい帯電部材(帯電ローラ)を得るために、フッ素樹脂又はウレタン変性アクリル樹脂と非反応性シリコーンオイルを含む塗料を弾性層の外周に塗布して塗膜層(表面層)を形成する技術が記載されており、これにより、「シリコーンオイルは、非極性という性質上、表面側に占有率が高くなるため、塗膜層において、表面側に密度が高く、内側に密度が低いという傾斜構造をとる。その結果、塗膜層の表面の密着性・摩擦力を低下させることができる。」というものである。
ここで、刊行物2,3で使用される、非反応性シリコーンオイルは、「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」の一種ということができる。
なお、刊行物2,3以外にも、帯電ローラの被覆層(表面層)の離型性を上げるために、被覆層に少量のシリコーンオイルを含有させるという技術は、よく知られている。例えば、特開2003-316123号公報、特開平4-7567号公報、特開2000-315003号公報を参照。
そして、刊行物1記載の発明においても、感光体と密着しにくく、かつ、摩擦の小さい帯電部材(帯電ローラ)であることが望ましいから、刊行物2,3に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明において、刊行物2,3の、帯電ローラの表面層に非反応性シリコーンオイルを含有させる技術を適用して、本願補正発明のごとく、『樹脂被覆層形成用塗工液が、「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」と「電子線により重合可能な炭素原子間二重結合を有し且つケイ素を含まない樹脂及び/又は化合物」とを含み、それにより、樹脂被覆層が「電子線により硬化された電子線硬化型樹脂」及び「非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物」を含む』ものとなすことは、容易に想到し得ることである。

請求人は、回答書で、「引用文献1(当審注:本審決の「刊行物1」のこと。)は、表面平滑性、耐久性、耐環境性等に優れた接触帯電部材の提供を目的とし、接触帯電部材の表面層に電子線により架橋された架橋重合体を含ませることで、該目的を達成しております。そして、引用文献1は、段落[0036]において、「重合体は単に各種成形方法により成形しただけでは表面層の役割や表面層用材料として当然具備すべき条件を十分に満足することができない。そこで、電子線架橋させて架橋重合体とする」ことを教示しております。即ち、引用文献1を読んだ当業者は、引用文献1の[0036]の記載から、非電子線架橋性(硬化型)の樹脂や化合物を使用する場合には、表面層の役割や表面層用材料として当然具備すべき条件を十分に満足することができなくなることを予想するはずであり、引用文献1には、当業者が非電子線硬化型の樹脂や化合物を使用する上での阻害要因が存在するといえます。
一方、引用文献2及び3(当審注:本審決の「刊行物2」「刊行物3」のこと。)は、非反応性シリコーンオイルの使用を教示し、該シリコーンオイルは、非反応性であるため、電子線で架橋させることができません。従って、引用文献1と引用文献2及び3を読んだ当業者は、引用文献1の課題を解決するために、引用文献2及び3に記載の非反応性シリコーンオイルの使用が適当ではないと考えるはずであり、引用文献1に記載の帯電ローラにおいて、樹脂層に引用文献2及び引用文献3の記載の非反応性シリコーンオイルを添加することは容易であるとする審査官の認定は、後知恵に過ぎません。
以上のように、引用文献1には、当業者が非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物を使用する上での阻害要因が存在し、また、引用文献1と引用文献2及び3とは、組み合わせることができないため、当業者といえども、引用文献1?3からは、樹脂被覆層に電子線硬化型樹脂(特徴事項(B))と非電子線硬化型のケイ素含有樹脂及び/又は化合物(特徴事項(C))とを併用するという本願請求項1に係る発明の構成を容易に想到することができません。」と主張している。

しかし、刊行物1は、表面層が「電子線により架橋された架橋重合体」を有するとしているに留まり、表面層が付加的に他の物質を含有(添加)することを排除していない。そして、例えば、刊行物1の【0051】?【0072】には、電子線により架橋される各重合体について詳細が説明されているところ、当該重合体に添加される物質がいくつもあげられている。そうすると、刊行物1に接した当業者が、『刊行物1の技術は、表面層に「電子線により架橋された架橋重合体」を用いることであって、電子線により架橋されない他の物質を含有させる発想をする余地がない』とまで、限定的に考えることはないものである。
また、一般に、電子線硬化性樹脂に離型性向上等の目的で少量のシリコーンオイルを含有させる技術が良く知られており(例えば、特開平11-348185号公報、特開2004-137439号公報、特開2001-150603号公報[【0022】]、特開2000-103015号公報を参照)電子線硬化性樹脂とシリコーンオイル(少量)を併用することが、技術的な不具合をもたらすこと(例えば、シリコーンオイルが少量であっても、その存在が電子線硬化性樹脂の電子線硬化を大きく妨げるなど)は特にないというべきである。
したがって、刊行物1記載の発明において、「電子線により架橋された架橋重合体」に、表面層の密着性・摩擦力を低下させるために少量のシリコーンオイルを含有させることを、当業者が考えることは十分に可能である。

また、刊行物1記載の発明には、(メタ)アクリレートのオリゴマーについて規定はないが、(メタ)アクリレートの「オリゴマー」のものを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(効果について)
また、本願補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1?3の記載事項から当業者であれば予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(まとめ)
よって、本願補正発明は、刊行物1?3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明1
平成21年3月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成20年11月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2 1.(補正前)」に記載されたとおりである。

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された下記引用文献4?6の記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。
・引用文献4(上記の刊行物1):特開平8-254876号公報
・引用文献5(同刊行物2):特開2002-214883号公報
・引用文献6(同刊行物3):特開2002-214876号公報

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明から、電子線硬化型樹脂について「電子線により硬化された」という限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1?3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1?3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-12 
結審通知日 2010-04-13 
審決日 2010-04-27 
出願番号 特願2004-172659(P2004-172659)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河内 悠  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
一宮 誠
発明の名称 帯電ローラ及びそれを備えた画像形成装置  
代理人 来間 清志  
代理人 冨田 和幸  
代理人 澤田 達也  
代理人 杉村 憲司  

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