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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1218628
審判番号 不服2008-1939  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-24 
確定日 2010-06-17 
事件の表示 特願2001-554008「基板乾燥方法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月26日国際公開、WO01/53766〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は、平成12年1月17日を国際出願日とする出願であって、その後の経緯は以下のとおりである。

平成19年 1月26日 拒絶理由通知
平成19年 3月23日 意見書
平成19年 7月24日 拒絶理由通知
平成19年 9月21日 意見書・手続補正書
平成19年12月20日 拒絶査定
平成20年 1月24日 本件審判請求

2 本願発明
本件出願の請求項1ないし18に係る発明は、平成19年9月21日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項4(請求項1を引用するもの)に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】 処理槽内に基板を収容し、かつ処理槽内における洗浄液の液面を基板に対して相対的に下降させながら処理槽内に乾燥用流体を供給することにより基板の表面を乾燥させるに当たって、
洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が広がるように、乾燥用流体の処理槽内への導入に方向性を持たせるとともに、乾燥用流体の導入初速を設定して乾燥用流体を液の状態で処理槽内に導入し、ノズルを用いて乾燥用流体の液滴を形成して洗浄液面上に供給することを特徴とする基板乾燥方法。
【請求項4】 洗浄液の処理槽からの排出に伴って、基板の支承位置を変化させる請求項1または請求項2に記載の基板乾燥方法。」

3 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-176796号公報(以下「刊行物1」という。)、特開平10-335299号公報(以下「刊行物2」という。)、及び特開平11-345798号公報(以下「刊行物3」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1
ア 段落【0022】?【0025】
「【0022】図1は、本発明の第1実施例における乾燥装置を水洗装置に組み込んだ装置10の正面断面図である。この装置10は、水洗いを行う洗浄槽11(例えば石英ガラスでなる)と、この洗浄槽11の上部を覆う上蓋12(例えば石英ガラスでなる)とを有し、洗浄槽11と上蓋12とにより処理室Jを形成している。なお、図1に示される装置10は、図示しないが、その全体が大気圧に保持できるように、かつ、IPAが洗浄槽11から漏れた場合には、これを排気して外部には漏れ出ないような構造となっている。洗浄槽11は、上部11aaがギザギザ状になっている内槽11aと、内槽11aの外周を覆うように設けられている外槽11bから成る。この外槽11bは、図1に示すように排水管13を有し、内槽11aの上部11aaから流れる水を受け止め、排水管13へと流している。また、内槽11aの底部の中央には、給水及び排水を行なう水管14が配設されている。
【0023】更に、内槽11aの内部には、多数の孔16aを有した整流板16が、水平に配設されており、この上面の中央には、保持具載置部材17が配設されている。この保持具載置部材17は、内側に溝17aaが形成されたブロック形状の2つの部材17aから構成されている。なお、保持具載置部材17の溝17aaは、その2つの側部53の下端部を嵌合して、保持具18を載置するものである。この保持具18は、例えば合成樹脂でなり、2つの側部53と、これらを結合させている薄板部18bとから構成されている。側部53は、その上端部に水平方向に突出した突出部53aが設けられ、その下部は内側に傾斜しており、この傾斜部分に、ウェーハWを保持するための孔53bが設けられている。更に、側部53には、ウェーハWを孔53bに保持させるためのガイド溝53cが設けられている。なお、本実施例の保持具18は、ウェーハWが25枚収納されている。
【0024】一方、上蓋12は、その下面が開口した箱形状をして、洗浄槽11の外槽11bを遊嵌するように、洗浄槽11の上方に配設されている。そして、その中央には搬送管21が貫通している。この搬送管21の端部21aは、処理室Jに配設されており、ここにはノズル22が設けられている。このノズル22は、外周に電灯の傘のような形状をした拡散防止板23が設けられている。この拡散防止板23は、ノズル22から後述する混合流体が処理室Jに流出するときに、ウェーハWが配設される内槽11aへと集中的に供給されるように、すなわち、ノズル22の側方に、混合流体が飛散しないようにしている。
【0025】更に、搬送管21は、上蓋12から上方に延びた後、水平方向に延びており、図1の右方においてバルブ24が配設されている。搬送管21は、このバルブ24の下流側(搬送管21内は、後述するように、搬送ガスが矢印Fの方向に供給されるので)に、下流側に向かうにつれて縮径された部分21bを有している。更に、搬送管21の部分21bの下流側の位置Qに噴霧管25が接続されている。この噴霧管25は、開口率を可変とする調整バルブ26を有し、搬送管21の下方に配設されている容器29と連通している。そして、この噴霧管25の端部25aは、容器29に収容されているIPA溶液28に没入されている。なお、容器29の空間Kは、吸気管27を介して外部と接続し、IPA溶液28が搬送管21に供給されて量が減少しても、容器29の内部が負圧とならない構造になっている。」

イ 段落【0026】?【0029】
「【0026】本実施例の乾燥装置が組み込まれた装置10は、以上のようにして構成されるが、次に、その作用について、説明する。
【0027】まず、公知のように、有機溶媒や酸などの洗浄液によって、ウェーハWを洗浄する。そして、図1に示すように、ウェーハWを収納した保持具18を、洗浄槽11の内槽11aの中央に配設する。すなわち保持具18の側部53の下端部を、保持具載置部材17の溝17aaに係合させる。
【0028】そして、公知のオーバーフロー方式によってウェーハWの水洗いが行われる。すなわち、水管14から水(これは通常、超純水である)が供給され、整流板16の孔16aを介して、内槽11aに水が満たされた後、内槽11aの上部11aaから水が、外槽11bへと均一に流される。更に、水が供給され続け、内槽11a内の上に向かう水の流れによって、ウェーハWが(保持具13、洗浄槽20に付着しているダストも)水洗いされる。なお、このとき外槽11bに流れた水は、排水管13を介して排水される。そして、充分にウェーハWが水洗いされると、水の供給が停止される。すなわち、ウェーハWは水V中に浸漬された状態となり、水洗いが終了する。次に、バルブ24が開けられ、例えば図示しない送圧ポンプにより、搬送管21中を、搬送ガス(例えばN_(2) )が矢印Fの方向へと流される。そして、搬送ガスは、部分21bを通過すると、速度が速くなるが、その搬送管を流れる搬送ガスの流速により、搬送管21中には負圧が発生する。このときには、調整バルブ26は、所定の開口率に調整されている。そのため、噴霧管25を介して、容器29内のIPA溶液28が、霧状で、かつ所定の量で、重力に抗して搬送管21に吸い上げられる。
【0029】そして、搬送管21に吸い込まれた霧状のIPA溶液は、搬送管21を流れる搬送ガスと混合され、混合流体となって、搬送ガスの流れにより端部21aへと搬送される。そして遂には、ノズル22の孔22aから、処理室J内に流出される。このとき、ノズル22の外周には、拡散防止板23が設けられているので、混合ガスは、ウェーハWが配設された内槽11aの内部へと点線で示すように供給される。処理室Jに供給された混合流体のうち霧状のIPAは、水Vよりも比重が軽いので、その一部は液面の上に堆積し、膜tを作るが、水Vと膜tとの境界面(これはHとして示している)では、IPAが水Vの中に拡散する。次に、水管14から水Vを排水し、膜tを下降させて、いわゆる公知のマランゴニ現象によって、ウェーハWを上方から乾燥する。なお、水管14から水Vと膜tとが排出された後には、上蓋12を洗浄槽11の上方から取り除き、乾燥したウェーハWを収納している保持具13を取り出す。」

上記ア及びイに摘示した事項を、技術常識を勘案しつつ本願発明に照らして整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「洗浄槽11の内槽11a内にウェーハWを収容し、かつ内槽11a内における水Vの液面をウェーハWに対して相対的に下降させながら内槽11a内にIPA溶液を供給することによりウェーハWの表面を乾燥させるに当たって、
ノズル22及びノズル22に設けられた拡散防止板23により、霧状のIPA溶液をウェーハWが配置される内槽11aへ集中的に導入し、搬送ガスの流速により搬送管21中に負圧を発生させて霧状のIPA溶液を形成して水面上に供給するウェーハ乾燥方法。」

(2)刊行物2
ア 段落【0018】
「【0018】ガス供給管19は、図4に示されている霧化室45に連通しているが、この霧化室45は、IPA供給装置40のノズル部材42の外周部に取り付けられたカバー43によって形成されている。この霧化室45は、更に、N_(2) ガスが供給される搬送管44(これは、流速を大きくするために、霧化室45の入口で径を細くしている)に連通しているおり、更に、この霧化室45の下方には、ガス供給管19に運ばれずに残ったIPAを容器41へと戻すための孔43aが設けられている。なお、この孔43aは、霧化室45から容器41への流れは許容し、容器41から霧化室45への流れは遮断する逆止弁46を設けられたバイパス47に接続されている。また、霧化室45の内部には、ノズル部材42の先端が突出している。ノズル部材42は、液状のイソプロピルアルコールIが封入されている容器41に螺合しており、その内孔42aは容器41に設けられた管41aの内孔に整合している。また、容器41には、送気管48が設けられ、この送気管48から供給される不活性ガス(例えばN_(2) ガス)の圧力によって、イソプロピルアルコールIをノズル部材42の先端から噴霧している。また、容器41内は、リリーフ弁50を有した排気管49が接続されている。なお、このリリーフ弁50は、容器41内の圧力が、ある一定値以上になったときに、開弁し、その圧力を逃がすものである。」

イ 段落【0022】?【0027】
「【0022】水洗いの動作が終了すると、次に、モータ33が稼動され、密閉槽30が降下される。これは、排気バルブ18を開けて、密閉槽30の内部空間31から空気を排出しながら行う。そして、密閉槽30は、図1に示すように、密閉槽30が、ウェーハWを収納したカセット13をほとんど覆うまで降下されると、排気バルブ18を閉じる。すると、密閉槽30の内部空間31は、水封された空間となる。なお、図1で一点鎖線で示される線は、このときの密閉槽30内の水面H’を示しており、これは密閉槽30の外周の水面H”と同じ高さである。
【0023】次に、図4に示すように、排気管48から、すなわち矢印Cの方向に、例えばN_(2) などの不活性ガスを、例えば0.5kg/cm^(2) の圧力で流し、容器41の内圧を高くする。この圧力によって、イソプロピルアルコールIは管41aの内孔及びノズル部材42の内孔42aを通って、霧化室45にミスト状となって噴出される。同時に、搬送管44から、すなわち矢印Dの方向に、N_(2 )ガスが、例えば0.1m/s以上の速度で供給される。供給されたN_(2 )ガスは、霧化室45にあるIPAのミストMを混合して、ガス供給管19へと流れる。なお、霧化室45でミスト状となったIPAが搬送管44からのN_(2 )ガスによって搬送されずに、霧化室45の下方に溜ったIPAは、逆止弁46を開け、バイパス47を介して、容器41内へと戻される。
【0024】すなわち、IPAのミストMを含有したN_(2) ガスが、図1で示すように、ガス供給管19から密閉槽30の内部空間31に供給される。供給されたガスの圧力により、密閉槽30にある水Vは下方へと押圧され、すなわち、その内部空間31の水面H’は、徐々に下がる。なお、供給されたIPAのミストMは、水Vよりも比重が軽いので、その一部は液面H’の上に堆積し、膜tを作るが、水Vと膜tとの境界面(これは水面H’と同じレベルとして示されている)では、IPAが水Vの中に拡散する。従って、従来の技術で上述したように、マランゴニ現象によって、その膜tの液面の降下とともに、ウェーハWは上方から乾燥される。なお、このとき、液面が低下したために、内槽21にある水は、矢印Eで示すように外槽22へと流れ、排水管23を介して排水される。そして、図6に示されるように、ガスの圧力によって低下した膜tの液面taが、ウェーハWの下端部を下回ると、図2の送気管48のN_(2 )ガスの供給を停止し、密閉槽30へのガスの供給を停止させる。すなわち、これにてウェーハWの乾燥が終了する。
【0025】乾燥が終了すると、管15に接続されている排水管26を介して、洗浄槽20の内槽21にある水Vを排水する。このときには、密閉槽30に供給されたIPAは、可溶性であるため、すべて密閉槽30の水Vに溶ける。従って、洗浄槽20の内槽21の水Vを排水することで、密閉槽30に供給されたIPAはすべて排出される。そして、密閉槽30にある水がほとんどすべて排水された後、モータ33を、密閉槽30を降下させた時とは逆方向に回転させて、密閉槽30を上昇させる。そして、乾燥したウェーハWを収納したカセット13を取り出す。
【0026】本実施例では、水封された空間である内部空間31において、ウェーハWを乾燥させたので、乾燥に用いたIPAが外部に漏れるということがない。また、乾燥するために供給されたIPAは、水封として使用された水Vに溶け、水Vと一緒に洗浄槽20から排出される。従って、乾燥に供給されたIPAを気体として排出するための排気設備が不要となる。また、乾燥が行われる内部空間31は、ウェーハWが収納されたカセット13を覆うだけの容積でよいので、この中に供給されるIPAの量を少なくすることもできる。
【0027】また、本実施例では、水封している水の液面を低下させながら、ミスト状のIPAをその水の表面に拡散しているので、すなわちマランゴニ現象によって、ウェーハを乾燥しているので、マランゴニ現象を用いた乾燥で得られる効果が本実施例でも得られる。また、マランゴニ現象を用いたので、密閉槽30の内部空間31には、ガス状でなくミスト状のIPAを供給してもよく、例えば管の継ぎ目などからIPAが漏れるという恐れも一層なくなる。また、IPAがガスでないため、密閉槽30の液面低下の速さは、ミスト状のIPAを搬送するN_(2) ガスによる内部空間31の圧力上昇により制御することができる。なお、ミスト状のIPAをN_(2 )ガスによって搬送させたので、このN_(2 )ガスがウェーハWに残留するということはなく、かつIPAの使用量を低下させることができる。」

上記ア及びイで摘示した事項をふまえると、刊行物2には、次の事項が記載されているものと認められる。

「ウェーハWの表面を乾燥させるに当たって、ミスト状のIPAを水面上に供給するために、ノズル部材42を用いてミスト状のIPAを形成すること。」

(3)刊行物3
ア 【請求項2】
「【請求項2】 洗浄槽(1)(7)内に被洗浄体(6)を収容した状態で洗浄槽(1)(7)内に洗浄液を置換するための有機溶剤を供給することにより被洗浄体(6)を乾燥する方法であって、被洗浄体(6)の第1の所定位置を支承した状態で被洗浄体(6)を乾燥した後、被洗浄体(6)の第1の所定位置と異なる第2の所定位置を支承した状態で被洗浄体を乾燥することを特徴とする被洗浄体処理方法。」

イ 段落【0006】?【0008】
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の構成の装置を採用した場合には、洗浄液、または有機溶剤を洗浄槽に供給している間、半導体ウエハが支承部材により支承され続けているとともに、半導体ウエハの支承位置が一定であるから、半導体ウエハが支承部材により支承されている部分、およびその近傍箇所において洗浄液、有機溶剤、または不活性ガスが流れにくくなり(洗浄液、有機溶剤または不活性ガスが流れない部分もある)、洗浄、または乾燥の工程中の液体の置換に時間がかかり、上記の部分における洗浄、または乾燥のための所要時間が長くなるだけでなく、洗浄むら、または乾燥むらが発生し、しかも、洗浄液、または有機溶剤の消費量が多くなってしまう。
【0007】特に、同時処理可能な半導体ウエハの枚数を多くし、支承される半導体ウエハどうしの間隔を小さくする場合には、上記の不都合が顕著になってしまう。
【0008】
【発明の目的】この発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、洗浄、または乾燥のための所要時間を短縮できるとともに、洗浄むら、または乾燥むらの発生を大幅に抑制することができる被洗浄体処理方法およびその装置を提供することを目的としている。」

ウ 段落【0023】?【0025】
「【0023】次いで、図1の被洗浄体処理装置を例にとって被洗浄体処理方法の一実施態様を説明する。図5は被洗浄体処理方法の一実施態様を説明するフローチャートである。ステップSP1において、第2支承部材4により被洗浄体としての半導体ウエハ6を支承した状態で昇降軸3を下降させることにより、半導体ウエハ6を洗浄槽1内に投入し、ステップSP2において、洗浄槽1内に第1の洗浄液を供給して半導体ウエハ6を洗浄し、ステップSP3において、洗浄槽1内への第1の洗浄液の供給を行いつつ、昇降軸3をさらに下降させて半導体ウエハ6を第1支承部材2により支承させ、ステップSP4において、洗浄槽1内にリンス液を供給して第1の洗浄液を排出することにより半導体ウエハ6のリンスを行い、ステップSP5において、洗浄槽1内へのリンス液の供給を行いつつ、昇降軸3を上昇させて半導体ウエハ6を第2支承部材4により支承させ、ステップSP6において、洗浄槽1内に第2の洗浄液を供給してリンス液を排出することにより半導体ウエハ6を洗浄し、ステップSP7において、洗浄槽1内への第2の洗浄液の供給を行いつつ、昇降軸3を下降させて半導体ウエハ6を第1支承部材2により支承させ、ステップSP8において、洗浄槽1内にリンス液を供給して第2の洗浄液を排出することにより半導体ウエハ6のリンスを行い、ステップSP9において、洗浄槽1内へのリンス液の供給を行いつつ、昇降軸3を上昇させて半導体ウエハ6を第2支承部材4により支承させ、ステップSP10において、洗浄槽1からリンス液を排出して有機溶剤を供給することにより半導体ウエハ6上のリンス液と有機溶剤との置換を行い、不活性ガスで有機溶剤を蒸発させ、ステップSP11において、洗浄槽1内への不活性ガスの供給を行いつつ、昇降軸3を下降させて半導体ウエハ6を第1支承部材2により支承させ、最後に、ステップSP12において、昇降軸3を十分に上昇させて半導体ウエハ6を洗浄槽1から取出し、そのまま一連の処理を終了する。
【0024】図5のフローチャートから明らかなように、第1の洗浄液を供給して半導体ウエハ6を洗浄している間、および第2の洗浄液を供給して半導体ウエハ6を洗浄している間に、第1支承部材2による半導体ウエハ6の支承および第2支承部材4による半導体ウエハ6の支承を選択的に行うのであるから、支承部材による半導体ウエハ6の支承位置が変化し、この結果、半導体ウエハ6の全範囲を短時間で確実に洗浄することができ、洗浄むらの発生を大幅に抑制することができる。そして、各洗浄液の消費量を大幅に減少させることができる。
【0025】また、有機溶剤を供給し、リンス液と置換した後に不活性ガスを供給して半導体ウエハ6を乾燥している間にも、第1支承部材2による半導体ウエハ6の支承および第2支承部材4による半導体ウエハ6の支承を選択的に行うのであるから、支承部材による半導体ウエハ6の支承位置が変化し、この結果、半導体ウエハ6の全範囲を短時間で確実に乾燥することができ、乾燥むらの発生を大幅に抑制することができる。そして、不活性ガスの消費量を大幅に減少させることができる。」

エ 段落【0027】?【0028】
「【0027】図6は被洗浄体処理方法の他の実施態様を説明するフローチャートである。ステップSP1において、第2支承部材4により被洗浄体としての半導体ウエハ6を支承した状態で昇降軸3を下降させることにより、半導体ウエハ6を洗浄槽1内に投入し、ステップSP2において、洗浄槽1内にリンス液を供給して半導体ウエハ6をリンスし、ステップSP3において、洗浄槽1内にリンス液を供給しつつ、昇降軸3をさらに下降させて半導体ウエハ6を第1支承部材2により支承させ、ステップSP4において、洗浄槽1内への乾燥用の有機溶剤蒸気の供給を開始し、ステップSP5において、洗浄槽1からのリンス液の排出を開始し、リンス液面に対する半導体ウエハ6の相対位置を上側に移動させることにより半導体ウエハ6上のリンス液と有機溶剤の置換を行い、ステップSP6において不活性ガスを洗浄槽1内に供給し、ウエハ6上の有機溶剤を蒸発乾燥させ、ステップSP7において(図示せず)、半導体ウエハ6の相対的移動を行わせつつ、昇降軸3を上昇させて半導体ウエハ6を第2支承部材4により支承させ、半導体ウエハ6の乾燥が終了した後に、ステップSP8において、昇降軸3を十分に上昇させて半導体ウエハ6を洗浄槽1から取出し、そのまま一連の処理を終了する。
【0028】この実施態様の場合にも、リンス中、乾燥中において、第1支承部材2による半導体ウエハ6の支承および第2支承部材4による半導体ウエハ6の支承を選択的に行うのであるから、支承部材による半導体ウエハ6の支承位置が変化し、この結果、半導体ウエハ6の全範囲を短時間で確実にリンスし、乾燥することができ、乾燥むらの発生を大幅に抑制することができる。そして、リンス液、有機溶剤の消費量を大幅に減少させることができる。もちろん、第1支承部材2による半導体ウエハ6の支承および第2支承部材4による半導体ウエハ6の支承の順序を逆転させても同様の作用を達成することができる。また、リンス工程を省略することもできる。」

上記アないしエで摘示した事項をふまえると、刊行物3には、次の事項が記載されているものと認められる。

「洗浄槽内に半導体ウエハを収容し、洗浄槽内に洗浄液を置換するための有機溶剤を供給することにより半導体ウエハを乾燥するに当たって、半導体ウエハの乾燥中に、支承部材による半導体ウエハの支承位置を変化させること。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「洗浄槽11の内槽11a」は、本願発明の「処理槽」に相当する。
以下同様に、「ウェーハW」は「基板」に、「水V」は「洗浄液」に、「IPA溶液」は「乾燥用流体」に、「ウェーハ乾燥」は「基板乾燥」に、それぞれ相当する。
引用発明の「ノズル22及びノズル22に設けられた拡散防止板23により、霧状のIPA溶液をウェーハWが配置される内槽11aへ集中的に導入」する点は、拡散防止版23によりノズル22の側方に霧状のIPA溶液と搬送ガスの混合流体が飛散しないこと(刊行物1の段落【0024】、上記3の(1)ア)、及び霧状のIPA溶液はIPA自体は気体ではなく液の状態であることをふまえると、「乾燥用流体の処理槽内への導入に方向性を持たせるとともに、乾燥用流体を液の状態で処理槽内に導入」するという限りにおいて、本願発明の「洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が広がるように、乾燥用流体の処理槽内への導入に方向性を持たせるとともに、乾燥用流体の導入初速を設定して乾燥用流体を液の状態で処理槽内に導入」点と共通する。
引用発明の「霧状のIPA溶液を形成」する点は、霧状のIPA溶液はIPA自体が液滴であることをふまえると、本願発明の「乾燥用流体の液滴を形成」する点に相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

<一致点>
「処理槽内に基板を収容し、かつ処理槽内における洗浄液の液面を基板に対して相対的に下降させながら処理槽内に乾燥用流体を供給することにより基板の表面を乾燥させるに当たって、
乾燥用流体の処理槽内への導入に方向性を持たせるとともに、乾燥用流体を液の状態で処理槽内に導入し、乾燥用流体の液滴を形成して洗浄液面上に供給する基板乾燥方法。」の点。

<相違点1>
乾燥用流体の処理槽内への導入に方向性を持たせるとともに、乾燥用流体を液の状態で処理槽内に導入し、乾燥用流体の液滴を形成して洗浄液面上に供給する点につき、
本願発明は、洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が広がるようにするためであり、導入初速を設定しており、液滴をノズルを用いて形成しているのに対し、
引用発明は、乾燥用流体である霧状のIPA溶液を内槽11aへ集中的に導入するためであり、導入初速について言及がなく、液滴を搬送ガスの流速により搬送管21中に負圧を発生させて形成している点。

<相違点2>
本願発明では、洗浄液の処理槽からの排出に伴って、基板の支承位置を変化させるのに対し、引用発明では、基板の支承位置を変化させていない点。

5 相違点についての検討
(1)相違点1について
引用発明は、乾燥用流体である霧状のIPA溶液を内槽11aへ集中的に導入しているところ、洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が拡がらなければ、乾燥用流体による基板の乾燥がなされない部分、あるいは不十分となる部分が生ずることは明らかである。そうすると、引用発明において、乾燥用流体により洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が拡がるようにすること、及びそのために適宜の導入初速を設定することは、当業者が当然に配慮すべき設計事項というべきものである。
次に、刊行物2には、上記3の(2)に示したとおり、「ウェーハWの表面を乾燥させるに当たって、ミスト状のIPAを水面上に供給するために、ノズル部材42を用いてミスト状のIPAを形成すること。」が記載されている。
ここで、刊行物2に記載された事項の「ウェーハW」、及び「水」は、それぞれ、本願発明の「基板」、及び「洗浄液」と言い換えることができる。また、刊行物2に記載された事項の「ミスト状のIPA」は、IPA自体は液滴であることをふまえると、本願発明の「乾燥用流体」、あるいは、「乾燥用流体の液滴」と言い換えることができる。さらに、刊行物2に記載された事項の「ノズル部材42」は、それを用いてミスト状のIPA、すなわち乾燥用流体の液滴が形成され水面上に供給されるから、本願発明の「ノズル」と言い換えることができる。
そうすると、刊行物2に記載された事項は、「基板の表面を乾燥させるに当たって、乾燥用流体の液滴を洗浄液面上に供給するために、ノズルを用いて乾燥用流体の液滴を形成すること。」と言い換えることができる。
引用発明と刊行物2に記載された事項とは、ともに、霧状のIPAを洗浄液面上に供給して基板の表面を乾燥させる点で共通するから、引用発明において液滴である霧状のIPA溶液を形成するのに、刊行物2に記載された事項を適用してノズルを用いることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明において、洗浄液の液面における基板の全幅にわたって乾燥用流体が広がるようにすること、そのために導入初速を設定すること、及び液滴をノズルを用いて形成することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
刊行物3には、上記3の(3)に示したとおり、「洗浄槽内に半導体ウエハを収容し、洗浄槽内に洗浄液を置換するための有機溶剤を供給することにより半導体ウエハを乾燥するに当たって、半導体ウエハの乾燥中に、支承部材による半導体ウエハの支承位置を変化させること。」が記載されている。
刊行物3に記載された事項の「洗浄槽」は、本願発明の「処理槽」と言い換えることができる。以下同様に、「半導体ウエハ」は「基板」と、「有機溶剤」は「乾燥用流体」と、「支承部材による半導体ウエハの支承位置を変化させる」は、「基板の支承位置を変化させる」と、それぞれ言い換えることができる。
そうすると、刊行物3に記載された事項は、「処理槽内に基板を収容し、処理槽内に洗浄液を置換するための乾燥用流体を供給することにより基板を乾燥するに当たって、基板の乾燥中に、基板の支承位置を変化させること。」と言い換えることができる。
ここで、刊行物3には、乾燥中に半導体ウエハの支承位置が一定であることの弊害、すなわち、「半導体ウエハが支承部材により支承されている部分、およびその近傍箇所において洗浄液、有機溶剤、または不活性ガスが流れにくくなり(洗浄液、有機溶剤または不活性ガスが流れない部分もある)、洗浄、または乾燥の工程中の液体の置換に時間がかかり、上記の部分における洗浄、または乾燥のための所要時間が長くなるだけでなく、洗浄むら、または乾燥むらが発生」すること(段落【0006】、上記3の(3)ア参照)が記載されているところ、このような弊害が引用発明によるウェーハの乾燥においても生ずることは明らかである。
してみると、引用発明における乾燥中に刊行物3に記載された事項を適用し、基板の支承位置を変化させることは当業者が容易になし得たことである。また、このとき、引用発明におけるウェーハの乾燥は、処理槽である内槽11aからの洗浄液の排出中に行われるから、処理液の処理槽からの排出に伴って、基板の支承位置を変化させることとなるのは明らかである。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果についてみても、引用発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された事項から当業者が十分に予測できる範囲内のものであって、顕著なものとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件出願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-24 
結審通知日 2010-03-30 
審決日 2010-04-30 
出願番号 特願2001-554008(P2001-554008)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 佐野 遵
鈴木 敏史
発明の名称 基板乾燥方法およびその装置  
代理人 有田 貴弘  
代理人 津川 友士  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 福市 朋弘  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 福市 朋弘  

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