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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1218792
審判番号 不服2008-30228  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-27 
確定日 2010-06-14 
事件の表示 特願2005- 59993「再生装置および再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日出願公開、特開2005-158260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件審判請求に係る特許願(以下、「本願」という。)は、平成8年10月29日に出願された特願平8-286387号の一部を平成17年3月4日に新たな特許出願としたものであって、本願の請求項1ないし3に係る各発明は、平成20年4月21日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】
複数の記録層から成る光ディスクを再生する再生装置において、
前記光ディスクの所定の記録層の所定のトラックよりデータを読み出す読出手段と、
前記読出手段による読み出し位置を前記記録層と平行に移動させる第1の駆動手段と、
前記読出手段による読み出し位置を、前記複数の記録層のうちの1つの記録層から他の記録層に移動させる第2の駆動手段と、
前記第1および第2の駆動手段を制御する制御手段と、
前記光ディスクの再生中において、次に読み出すアドレスが、現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあるか否かを判断する第1の判断手段と、
前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられているか否かを判断する第2の判断手段とを備え、
前記制御手段は、
前記第2の判断手段により、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていると判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転し、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていないと判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転せず、前記第2の判断手段の結果に応じてビット反転したアドレス、または、ビット反転しないアドレスを用いて移動トラック数を算出した後、前記第1の判断手段で前記次に読み出すアドレスが前記現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあると判断された場合には、前記第1の駆動手段に含まれる前記光ディスクを回転させるスピンドルモータのサーボ制御をラフサーボに設定、前記現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層に前記読出手段を移動、算出した前記移動トラック数だけ前記読出手段を移動、前記スピンドルモータのサーボ制御を再開、の順で制御し、
前記読出手段は、前記制御手段により制御された読出し位置から、データを読み出し再生する
ことを特徴とする再生装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例及びその記載
これに対して、拒絶査定の理由で引用された引用例は、特開平8-212561号公報(平成8年8月20日公開 以下、「引用例1」という)及び特開平3-219440号公報(平成3年9月26日公開、以下、「引用例2」という)であって、それぞれ、以下の記載がある。

(1)引用例1の記載
(1-1)
「【請求項1】 ディスク状のデータ記録媒体であって、
少なくとも第1および第2の記録層を有し、
データを記録する順序として、内周から外周に向かう第1の記録方向と、外周から内周に向かう第2の記録方向とが規定され、
上記第1の記録層の記録方向は、上記第1および第2の記録方向の一方とされ、
上記第2の記録層の記録方向は、上記第1および第2の記録方向の他方とされ、
各層のデータエリアはデータがセクタ構造を有するとともに、少なくとも各セクタには、上記第1および第2の記録層を識別するための層番号が書込まれていることを特徴とするデータ記録媒体。
(中略)
【請求項7】 少なくとも第1および第2の記録層を有し、 データを記録する順序として、内周から外周に向かう第1の記録方向と、外周から内周に向かう第2の記録方向とが規定され、 上記第1の記録層の記録方向は、上記第1および第2の記録方向の一方とされ、 上記第2の記録層の記録方向は、上記第1および第2の記録方向の他方とされ、 各層のデータエリアはデータがセクタ構造を有するとともに、少なくとも各セクタには、上記第1および第2の記録層を識別するための層番号が書込まれているディスク状データ記録媒体からデータを再生する手段を備えたことを特徴とする再生装置。」

(1-2)
「【0011】
【作用】この発明のデータ記録媒体は、記録トラックの構造によりアクセスが容易である。従って、この発明のデータ記録媒体を用いたこの発明の記録再生装置は、高速且つ簡単にアクセスができる。
【0012】
【実施例】以下、この発明の一実施例について説明する。この発明は、ディスクの厚み方向に複数の記録層が設けられる多層ディスクである。また、以下の記述では、ピックアップ側に最も近い記録層を最上層の記録層と称する。図1は、この発明による多層ディスクのエリアについて説明するため、ディスク1を上部から見た模式図である。2が内側ガードエリア(IGAと称する)、3がプログラムエリア、4が外側ガードエリア(OGAと称する)を示す。最上層の記録層L0の場合では、IGAがリードインエリア、OGAがリードアウトエリアとなり、次の層L1では、OGAがリードインエリア、IGAがリードアウトエリアとなる。
【0013】次に、各層の構造を図2により説明する。まず、この発明では、内周から外周に向かって渦巻き状の記録トラックを形成する場合と、これと逆に、外周から内周に向かって渦巻き状の記録トラックを形成する場合がある。 さらに、複数の層について、内周から外周、外周から内周に向かって記録する層が交互に存在する。さらに、一例として、偶数番号の層L0、L2、・・・は、内周から外周に、奇数番号の層L1、L3、・・・は、外周から内周に記録する。ここで、偶数・奇数とは、層Lに説明のために付与した参照番号を示し、最上部に位置する層は、1番目でありながら、偶数番号であるL0になる。
【0014】すなわち、図2Aは偶数番号の層のスパイラル状の記録トラックTeを示し、矢印に示すように、内周から外周に向かって記録する。これに対して、図2Bにおいて矢印で示すように、奇数番号の層の記録トラックToは、スパイラル状に、外周から内周に向かって記録する。この場合、最も上の層は必ず、0番の層L0と呼び、内周から外周に向かう方向に記録する。
【0015】これらはスパイラルの方向に基づいて分けると、層により、順スパイラル記録トラックTeと逆スパイラル記録トラックToとで記録トラック形成することを意味する。さらに、偶数番号の層L0、L2、・・・は、順スパイラル記録トラックTeに、奇数番号の層L1、L3、・・・は、逆スパイラル記録トラックToに記録するように、順スパイラル記録トラックTeの層と逆スパイラル記録トラックToの層を交互に重ねる。そして、最も上の層L0は、必ず、順スパイラル記録トラックTe(通常のCDと同じ方向)とする。 これは、デイスクのサイズを通常のCDと同じにした場合、誤って装着されたデイスクの種別を識別することを可能にするためである。
【0016】再び図1に戻って説明すると、ディスク上のプログラムエリアは、終端を大体合わせるようにする。すなわち、偶数番号の層の信号終了部と、奇数番号の層の信号開始部とがほぼディスクの同一半径上の位置になるようにする。例えば偶数番号の層の信号終了部と、奇数番号の層の信号開始部とが頗る近接した位置とされる。半径がほぼ一致すれば良いので、これらの終了部と開始部とが近接していなくても良い。より具体的には、ディスクに記録すべき全データ量を算出し、全データ量の半分で折り返し、すなわち次のより下の層に移行し、上層の内周と同じ半径地点で全データがが終了するようにする。このようにすることにより、繰り返し再生を容易にすると共に、さらに下の層へ移行する場合のアクセスの高速化を図る。従って図1に示すように、プログラムエリアは上から見ると、各層のものが一致する。」

(1-3)
「【0025】各層のデータは、セクタ(00?255)を単位として記録される。この際、1プログラムであることを考慮するれば、セクタアドレスを複数層に対して通し番号をつけることが容易である。例えば、図示しない2層目では、セクタアドレス(256?511)を使用し、3層目では、セクタアドレス(512?767)を使用する。さらに、層の選択を容易にするには、層番号を記述する必要がある。
【0026】そこで、図5Aに図示するように、層番号を各セクタのサブコードSCに記録しておく。層番号に加えて、好ましくは、内周から外周(またはその逆)、逆スパイラル等のカッティングの方向をサブコードSCに記述しておく。
【0027】また、サブコードとして記述する他に、図5Bに示すように、層番号とセクタアドレスを組み合わせたものを多層ディスクにおけるセクタアドレスとしても良い。すなわち、セクタアドレスの上位ビットとして層番号を付加する。このとき、最も上の層の層番号は必ず0とする。従って、最も上の層のセクタアドレスが(0000?0255)となる。他の層については、層番号の順序と層の物理的な順序とを一致させる。層番号がスキップされたり、順番が入れ代わることがないようにする。層間での移行を容易にするためである。」

(1-4)
「【0032】セクタアドレスについて説明すると、これは、24ビットの長さを有しており、以下の記述において、$は、16進数を表す。また、セクタアドレスは、24ビットの2を補数とするコードである。順スパイラル方向の層L0、L2、・・・では、ディスクの内側から外側へセクタアドレスが増加し、逆スパイラル方向の層L1、L3、・・・では、ディスクの外側から内側へセクタアドレスが増加する。順スパイラルの層では、最内周を$000000から記録し始めたとしたら、逆スパイラルでの層では、最内周でセクタアドレスが例えば$800000になるように記録する。ディスクの同一半径の位置では、層L0のセクタアドレスSAd0と、層L1のセクタアドレスSAd1とが次の関係を有する。
【0033】
SAd1=SAd0 XOR $7FFFFF
このように、同じ半径であれば、順スパイラル方向、逆スパイラル方向の何れの層のセクタアドレスも簡単な計算で変換できる。$7FFFFFで排他的論理和(XOR)をとればよいからである。
【0034】特にCLVディスクの場合、半径によっては、1トラック当りのセクタ数が異なる。従って、サーボ回路は、特定セクタをアクセスする場合、トラックジャンプ数を判断するために、ピックアップの現在位置(半径情報)を用いると効果的である。さらに、セクタアドレスからテーブル参照などの方法によって半径情報を得ることができる。この場合、順スパイラル方向、逆スパイラル方向で配慮なしにセクタアドレスを付けると、順スパイラル方向と逆スパイラル方向とで別々のテーブルを用意する必要が生じる。さらに、最外周でのセクタアドレスが規格等によって定められない場合は、参照テーブルでは結局算出できないので、1トラック当りのセクタ数の計算あるいは測定が必要となる。
【0035】この例では、上述のように、順スパイラル方向、逆スパイラル方向のどちらの層のセクタアドレスも簡単な計算で変換できるようなセクタ番号を付しているので、何れの層のセクタアドレスも簡単に半径情報へ変換することができる。それによって、必要とするテーブルの量を節減でき、また、高速なアクセスが可能となる。
【0036】図9は、上述のようにアドレスを規定した場合におけるディスクのレイアウトを示す。層L0のIGA(内側ガードエリア)の最終セクタのセクタアドレスが(-1)とされる。IG3-全セクタのトラック番号が65535とされる。IGA内の全セクタのアプリケーションコードが0とされる。
【0037】ディスクの全プログラムエリア内のセクタ数が等しくされる。プログラムエリア内の使用しないトラックは、空きトラックとして符号化される。層L0のプログラムエリアの最も内側(最初)のセクタが0(すなわち、$000000)とされる。層L1のプログラムエリアの最も内側(最後)のセクタアドレスが$7FFFFFとされる。この両者の間には、上述したような関係、すなわち、($7FFFFF=$00000 XOR $7FFFFF)がある。
【0038】図9は、2層ディスクの例であり、層L0のプログラムエリアが3トラックを有し、層L1のプログラムエリアが2トラックを有している。例えばトラック0、1、2、3がユーザーデータを含み、トラック4が空きトラックである。層L1の最初のトラックのトラック番号は、層L0の最大のトラック番号に+1した値とされる。
【0039】層L0のOGA(外側ガードエリア)の最初のセクタアドレスがプログラムエリアの最後のセクタアドレスに+1したものと等しくされる。OGAの全セクタのトラック番号が65534とされる。OGA内の全セクタのアプリケーションコードが0とされる。なお、単層ディスクの場合では、層L0のレイアウトが適用可能である。」

(1-5)
「【0060】次にこの発明による多層ディスクを記録再生する装置について説明する。この発明の多層ディスクでは、データの種類は問題とならない。しかしながら、説明上、データ量の多い、例えばMPEG(Moving Pictures Expert Group)規格により、動画像がディジタル化されたものを記録再生する場合に用いられる、装置の一例として、可変レート対応データ(符号化)復号化装置を図16に示す。
【0061】この図16において、光ディスク11に記録されているデータは、ピックアップ12により再生されるようになされている。このピックアップ12は、光ディスク11にレーザ光を照射し、その反射光から当該光ディスク11に記録されているデータを再生する。ピックアップ12で再生された信号は、復調回路13に送られる。この復調回路13は、ピックアップ11が出力した再生信号を復調し、セクタ検出回路14に出力する。
【0062】セクタ検出回路14は、供給されたデータから各セクタ毎に記録されているセクタデータを検出し、層分離回路29に供給する。層分離回路29は、セクタデータから、セクタアドレスと層番号とを分離する。セクタアドレスSAdは、リングバッファ制御回路16に供給され、セクタ検出回路14が後段のECC回路15にセクタ同期をとった状態でデータを出力する。さらに、セクタ検出回路14は、アドレスを検出することができなかったり、検出したアドレスが、例えば連続していなかったりした場合、リングバッファ制御回路16を介してセクタナンバ異常信号をトラックジャンプ判定回路28に出力する。また、層分離回路29は、層番号の不連続を検出することができなかったり、検出した層番号が例えば同一でなかったりした場合、リングバッファ制御回路16を介して層番号異常信号をトラックジャンプ判定回路28に出力する。」

(1-6)
「【0070】セクタ検出回路14の出力(セクタデータ)は、層分離回路29に供給され、層番号LNo.と、セクタアドレスSAdとに分離される。層番号とセクタアドレスとは、何れもリングバッファ制御回路16に供給される。なお、層分離回路29において、層番号(光ディスク11のセクタに記録された層番号)が正常に検出されなかった場合、トラックジャンプ判定回路28に層番号異常信号が出力される。リングバッファ制御回路16は、層分離回路19からの層番号LNo.とセクタアドレスSAdとを読み取り、そのアドレスに対応するリングバッファメモリ17上の書込みアドレス(書込みポインタ(WP))を指定する。
【0071】光ディスク11が初めてデータ復号化装置により再生される場合、光ディスク11が単層であるか、あるいは複数の層で構成されているか、またその場合には、何層であるかと言う情報は、サーボ回路にとって重要である。このため、光ディスク11が初めて再生される場合は、サブコードに記録されている、ディスク上の記録層数を、層分離回路19から図示せぬドライブ制御回路およびトラッキングサーボ回路27に与えることにより、より安定した再生が行なえる。
【0072】また、リングバッファ制御回路16は、後段の多重化データ分離回路18からのコードリクエスト信号に基づき、リングバッファメモリ17に書込まれたデータの読出しアドレス(読出しポインタ(RP))を指定し、その読出しポインタ(RP)からデータを読出し、読出されたデータを多重化データ分離回路18に供給する。」

(1-7)
「【0082】1層目の再生が終了すると、セクタアドレスSAdが所定のアドレス、例えば(255)に達する。その所定アドレスを検出したリングバッファ制御回路16は、フォーカスサーボ回路30とトラッキングサーボ回路27に対して、層切り換え信号SLを供給する。フォーカスサーボ回路30は、ピックアップ12の焦点を1層目から2層目に切り換える。その間、トラッキングサーボ回路27は、トラッキングサーボを一旦オフにし、焦点が2層目に切り換わった後、トラッキングサーボをオンにする。トラッキングサーボを一旦オフにするのは、焦点を1層目から2層目に移動させる間は、トラッキング誤差信号が得られないからである。
【0083】トラツキングが完了すると、セクタ検出回路14からは、2層目のセクタデータが出力され、層分離回路19によって、層番号Ln(n=1)とセクタアドレスSAd(=256)とが得られる。尚、記録データが上述したようにMPEG規格のビデオデータである場合、2層目の最初のピクチャは、所謂イントラ(Iピクチャ)とすることで、復号時間を最小とできる。」

(1-8)
「【0089】
【発明の効果】上述したように、この発明のデータ記録媒体は、多層の記録層の記録方向を交互に設定するので、層間の移行が高速且つ容易となり、迅速なアクセスが可能なものである。また、かかるデータ記録媒体に対する記録/再生装置は、層間の記録/再生の移行がスムーズになされ、高速のアクセスが可能である。」

以上の記載を、各図面を参照して整理すると、結局、引用例1には、以下のとおりの発明が記載されているものと認める。
「少なくとも第1の記録層および第2の記録層の複数の記録層を有する光ディスクを再生する再生装置であって、
前記光ディスクは、
第1の記録層および第2の記録層には、内周から外周に向かう第1の記録方向、即ち、順スパイラル方向の記録トラック、または、外周から内周に向かう第2の記録方向、即ち、逆スパイラル方向の記録トラックの、いずれか一方の記録トラックが形成され、
第1の記録層と第2の記録層とは、第1の記録層のデータ終端部と第2の記録層のデータ始端部とが略同一半径の円上に位置するように、交互に配置され、
各記録層のデータエリアに記録されるデータはセクタ構造を持ち、
各セクタには、層の選択を容易にし、記録層を識別するための層番号、記録層の層数、内周から外周(またはその逆)、逆スパイラル等のカッティング方向、トラック番号、セクタアドレスを記録し、
順スパイラル方向の記録トラックは、記録領域のセクタアドレスがディスクの内側から外側へ増加し、
逆スパイラル方向の記録トラックは、記録領域のセクタアドレスがディスクの外側から内側へ増加するように記録され、
順スパイラル方向の記録層の最内周でのセクタアドレスの最初のアドレスを24ビットの16進数で表して、$000000としたとき、逆スパイラル方向の記録層の最内周でのセクタアドレスの最後のアドレスを$7FFFFFとなるようにされ、
光ディスクの同一半径の位置では、順スパイラル方向の記録層のセクタアドレスをSAd0とし、逆スパイラル方向の記録層のセクタアドレスをSAd1としたとき、
SAd1=SAd0 XOR $7FFFFF
の変換式で表される関係を有し、
光ディスクの同じ半径位置であれば、順スパイラル方向、逆スパイラル方向の何れの層のセクタアドレスも簡単な計算で変換できるようにされ、
前記再生装置は、
少なくともピックアップ、トラッキングサーボ、フォーカスサーボ、セクタ検出回路、層分離回路、ECC回路、リングバッファ、リングバッファ制御回路、トラックジャンプ判定回路、多重データ分離回路を備え、
層分離回路はセクタデータから、層番号、セクタアドレス、カッティングの方向を検出し、
リングバッファ制御回路は、フォーカスサーボ回路とトラッキングサーボ回路に対して、層切り換え信号を供給し、フォーカスサーボ回路は、ピックアップの焦点を1層目から2層目に切り換え、その間、トラッキングサーボ回路は、トラッキングサーボを一旦オフにし、焦点が2層目に切り換わった後、トラッキングサーボをオンにし、トラツキングが完了すると、再生が開始され、セクタ検出回路から2層目のセクタデータが出力され、層分離回路によって、層番号とセクタアドレスとが得られるようにした、
再生装置。」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用例2の記載
(2-1)
「第1実施例
本発明の第1実施例を、第1図?第3図に基づいて、以下に説明する。
多層記録光ディスク1は、第1図に示すように、プラスチックから成るディスク基材2・2間に、第1記録層3及び第2記録層4と、紫外線硬化(UV)樹脂から成り上記両記録層3、4を分離するためのスペーサ5とが設けられているような構造である。
上記第1記録層3と第2記録層4とには、第2図に示すように、それぞれスパイラル状のトラック6a・・・とトラック6b・・・とが設けられており(第2図においては平行状態で示す)、上記トラック6a・・・は上記トラック6b・・・間に設けられる(即ち、一方のトラックが他方のトラックのトラックピッチPtの1/2だげずらして配置される)ような構造となっている。 また、上記トラック6a・・・とトラック6b・・・とは複数のセクタSに分割されており、各セクタSには、それぞれ識別部IDa ・IDbと、データを記録するデータフィールドDFとが設けられている。上記識別部IDa・IDbは、第3図に示すように、各識別部IDa・IDbのクロック引き込み用の同期部SYNCと、アドレス信号の始まりを示すアドレスマークAMと、トラックアドレスTAと、セクタアドレスSAと、記録層アドレスLAとを有している。」(第3頁右上欄第9行?同頁左下欄第15行)

(2-2)
「また、以上のように構成された多層記録光ディスク1に情報を記録、再生する場合には、先ず記録層アドレスLAを再生しながら所定の記録層3・4を検索する。次に、トラックアドレスTAを再生しながら所定のトラック6a・6bを検索した後、セクタアドレスSAを再生しながら所定のセクタSを検索する。このように3回の検索を行った後、目的のセクタアドレスSAのデータフィールドDFに情報を記録する。
ここで、記録層3・4が目的の記録層と異なる場合には、フォーカス制御を0FFして、光ビームの光点像の位置を変化させながら光ビームを多層記録光ディスク1に射出する。そうすると、各記録層3・4を通る毎に、フォーカス誤差信号のS字カーブが出現する。そして、上記S字カーブのゼロクロス点を検出して、目的とする記録層の回数だけゼロクロス点が検出された際(即ち、第2記録層4を基準として検索する場合には、第2記録層4が1回目のゼロクロス点となり、第1記録層3が2回目のゼロクロス点となる)に、フォーカスサーボをONし、識別部IDa、IDbを読み取って記録層の確認を行う。
また、トラックアドレスTAの確認は、現在のトラックアドレスTA_(1)の位置と、目的とするトラックアドレスTA_(2)の位置とを比較して、リニアモータで移送する。このような粗検索により、目的とするトラックアドレスTA_(2)、が確認された場合には、次のステップであるセクタSの確認を行う。
一方、目的とするトラックアドレスTA_(2)と異なっていれば、トラッキングアクチュエータで1本ずつトラックの検索(密検索)を行って、目的のトラックアドレスTA_(2)のトラックに確実にヘッドを移送させる。
更に、セクタアドレスSAの確認は、光ディスク1が回転して目的のセクタアドレスSAtとリードアドレスとを比較して、一致することで行う。
この後、目的のセクタアドレスSAのデータフィールドDFに情報を記録する。
尚、再生も上記と同様のステップにて行われる。」(第3頁右下欄第3行?第4頁右上欄第1行)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「少なくとも第1の記録層および第2の記録層の複数の記録層を有する光ディスク」は、本願発明の「複数の記録層から成る光ディスク」に相当する。したがって、両発明は、「複数の記録層から成る光ディスクを再生する再生装置」に関する点で一致する。
引用発明のピックアップは、光ディスクからデータを再生する手段であるから、本願発明の「光ディスクの所定の記録層の所定のトラックよりデータを読み出す読出手段」に相当する。
引用発明のトラッキングサーボは、リングバッファ制御回路に制御され、読出手段による読み出し位置を、記録層と平行に移動させる手段であるから、本願発明の「第1の駆動手段」に相当する。
引用発明のフォーカスサーボは、リングバッファ制御回路に制御され、読出手段による読み出し位置を、複数の記録層のうちの1つの記録層から他の記録層に移動させる手段であるから、本願発明の「第2の駆動手段」に相当する。
引用発明のリングバッファ制御回路は、「前記第1および第2の駆動手段を制御する」点において本願発明の「制御手段」と一致する。
引用発明のリングバッファ制御回路は、「1層目の再生が終了して、所定アドレスを検出したリングバッファ制御回路は、フォーカスサーボ回路とトラッキングサーボ回路に対して、層切り換え信号を供給する」ので、実質的に本願発明の「前記光ディスクの再生中において、次に読み出すアドレスが、現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあるか否かを判断する第1の判断手段」として機能していることが明らかである。
引用発明の層分離回路は「セクタデータから、層番号、セクタアドレス、カッティングの方向を検出」しているので、図16に「L No.」「SAd」が層分離回路からリングバッファ制御回路に出力されると同様に、カッティングの方向も層分離回路からリングバッファ制御回路に出力されてもよいことが自明であって、したがって、リングバッファ制御回路は、実質的に本願発明の、「前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられているか否かを判断する第2の判断手段」として機能する。
引用発明において、リングバッファ制御回路が「1層目の再生が終了して、所定アドレスを検出」するのは、本願発明において「第1の判断手段で前記次に読み出すアドレスが前記現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあると判断された場合」に相当する。当該場合に、引用発明において「フォーカスサーボ回路とトラッキングサーボ回路に対して、層切り換え信号を供給し、フォーカスサーボ回路は、ピックアップの焦点を1層目から2層目に切り換え」との制御を行うことは本願発明において「現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層に前記読出手段を移動」することに相当する。そして、引用発明において、「その間、トラッキングサーボ回路27は、トラッキングサーボを一旦オフにし、焦点が2層目に切り換わった後、トラッキングサーボをオンにし、トラツキングが完了すると、セクタ検出回路から2層目のセクタデータが出力され、層分離回路によって、層番号とセクタアドレスとが得られるようにした」点は、本願発明において「読出手段は、前記制御手段により制御された読出し位置から、データを読み出し再生する」ことに相当する。

結局、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
複数の記録層から成る光ディスクを再生する再生装置において、
前記光ディスクの所定の記録層の所定のトラックよりデータを読み出す読出手段と、
前記読出手段による読み出し位置を前記記録層と平行に移動させる第1の駆動手段と、
前記読出手段による読み出し位置を、前記複数の記録層のうちの1つの記録層から他の記録層に移動させる第2の駆動手段と、
前記第1および第2の駆動手段を制御する制御手段と、
前記光ディスクの再生中において、次に読み出すアドレスが、現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあるか否かを判断する第1の判断手段と、
前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられているか否かを判断する第2の判断手段とを備え、
前記制御手段は、
前記第1の判断手段で前記次に読み出すアドレスが前記現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層にあると判断された場合には、前記現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層に前記読出手段を移動し、
前記読出手段は、前記制御手段により制御された読出し位置から、データを読み出し再生する
ことを特徴とする再生装置。

[相違点]
本願発明が、現在の読み出し位置のある記録層とは異なる記録層に前記読出手段を移動の制御を行う前に、
「前記第2の判断手段により、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていると判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転し、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていないと判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転せず、前記第2の判断手段の結果に応じてビット反転したアドレス、または、ビット反転しないアドレスを用いて移動トラック数を算出」及び
「前記第1の駆動手段に含まれる前記光ディスクを回転させるスピンドルモータのサーボ制御をラフサーボに設定」がこの順で制御され、前記制御の後に、
「算出した前記移動トラック数だけ前記読出手段を移動」及び
「前記スピンドルモータのサーボ制御を再開」
の制御が特定されているのに対し、引用発明にはこのような制御とその順の特定がない点。


4.判断
トラックの移動は、記録層が単層、複数層、いずれの場合でも行われるから、引用発明においても、トラック移動の制御を含めることは当然のことにすぎず、記録層の移動とトラックの移動をともに行うからには、いずれを先に行うかで、二通りの制御があり得るが、引用例2には、記録層の移動を行った後にトラック移動を行う順が記載されており、引用発明において、引用例2に記載された制御順を取り入れることに格別の困難はない。
トラック移動を行う前提で、予め移動すべきトラック数を算出しておくことは、周知技術であり(例えば、特開平8-235768号公報、特開平8-235598号公報、特開平8-167153号公報)、引用発明においても移動を実行する前にトラック移動量を予め算出する手順を採用することは自然な選択であって当業者が適宜採用しうる手段にすぎない。
また、トラック移動量の算出に当たって、「アドレスをビット反転」する技術的意義は、オポジットパスでない記録層のアドレスに揃えて演算を行うための算術的処理にすぎず、一方の記録層のアドレスに揃えること自体は、トラック移動量の算出という観点からは当然であって、異なる記録層の異なるアドレスのルールをそのままで演算する(差分を取る)と、移動量が算出できないことが明らかである。オポジットパスでない記録層のアドレスに揃えるために「ビット反転」することは、引用発明においても、XORを取ることで基本的に同様のルールで、オポジットパスの記録層のアドレスが付与されている(層L1の最終アドレスが$7FFFFFに設定されているので同最終アドレスとのXORを取ることになっており、最上位より下の桁では明らかにビット反転している。層L1の最終アドレスが$FFFFFFと設定した場合には、全桁にわたって、単純なビット反転でオポジットパスの記録層のアドレスが得られることは自明である。)のであるから、引用発明においてもトラック移動量の算出に当たって、「アドレスをビット反転」することは当業者が当然採用しうる算術的処理にすぎない。現在のアドレスがオポジットパスでない場合には、ビット反転をする必要がないことも明らかである(ただし、この場合、目標アドレスをビット反転する必要があると認められるが、本願発明の特定事項ではない。)。
したがって、引用発明の記録媒体のアドレスを採用して、周知技術を参酌して予めトラック数を算出する場合に、
「第2の判断手段により、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていると判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転し、前記現在の読み出し位置のある記録層のアドレスが、前記光ディスクの外周側から内周側に向けて割り当てられていないと判断された場合、現在読み出しているアドレスをビット反転せず、前記第2の判断手段の結果に応じてビット反転したアドレス、または、ビット反転しないアドレスを用いて移動トラック数を算出」することは、当業者が容易に想到しうることである。そして、「算出後」に記録層を移動する制御を行い、記録層の移動が行われた後に、「算出した前記移動トラック数だけ前記読出手段を移動」する制御を行うことも当然の手順にすぎない。
更に、本願発明において、読み出し手段の記録層移動及びトラック移動の制御の前に、「光ディスクを回転させるスピンドルモータのサーボ制御をラフサーボに設定」すること、及び記録層移動及びトラック移動の制御の後、「スピンドルモータのサーボ制御を再開」の制御をしている点について検討すると、スピンドルモータの精密な制御は、再生動作中に光ディスクから読み出された同期信号等を用いて行われるもので、記録層移動及びトラック移動が行われている間は、光ディスクから読み出された同期信号等を利用できないから、スピンドルモータの精密な制御ができないことは当然の結果にすぎないもので、例えば、特開平6-76466号公報(平成6年3月18日公開、【0013】、【0016】、【0020】等参照)、特開平7-114769号公報(平成7年5月2日公開、【0006】、【0026】等参照)、特開平8-275579号公報(平成8年10月18日公開、【0028】等参照)等参照)等、スピンドルモータのサーボ制御を、再生信号が得られない間は、ラフサーボ制御に切換え、再生が可能となった後に、精密な制御を再開することは、周知技術であるから、引用発明においても、スピンドルモータのサーボを、記録層移動及びトラック移動時の前にラフサーボ制御へ切換え、記録層移動及びトラック移動時の後に精密な制御の再開の制御を行うことは、当業者が適宜採用し得ることである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、引用例1、引用例2に記載された発明及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-13 
結審通知日 2010-04-15 
審決日 2010-04-30 
出願番号 特願2005-59993(P2005-59993)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山澤 宏  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 酒井 伸芳
関谷 隆一
発明の名称 再生装置および再生方法  
代理人 稲本 義雄  

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