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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1219431
審判番号 不服2008-27220  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-24 
確定日 2010-07-01 
事件の表示 特願2003-151260「光増幅媒体ファイバの光励起方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月16日出願公開、特開2004-356318〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年5月28日に出願したものであって、平成20年3月31日付けで手続補正がなされたが同年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月24日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年11月21日付けで手続補正がなされたものである(以下、平成20年11月21日付けでなされた手続補正を「本件補正」という。)。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前(平成20年3月31日付け手続補正後のもの。)の
「希土類元素が添加されたコアと、該コアの外周上に設けられた内側クラッドと、該内側クラッドの外周上に形成された空孔層と、該空孔層の外周上に設けられた外側クラッドと、内側クラッドの外周と外側クラッドの内周とを連結する連結部とを有する石英系ガラスから構成された光増幅媒体ファイバの光励起方法であって、
光増幅媒体ファイバの外側クラッドの長手方向の一部をエッチングにより除去して内側クラッドが露出されてなる内側クラッド露出部を形成し、この内側クラッド露出部に露出された内側クラッドの外周に、励起光入射用光ファイバの端面を接合し、該励起光入射用光ファイバから励起光を光増幅媒体ファイバに入射することを特徴とする光増幅媒体ファイバの光励起方法。」

「希土類元素が添加されたコアと、該コアの外周上に設けられた内側クラッドと、該内側クラッドの外周上に光増幅媒体ファイバの長手方向に延在して形成された空孔からなる空孔層と、該空孔層の外周上に設けられた外側クラッドと、内側クラッドの外周と外側クラッドの内周とを連結する連結部とを有する石英系ガラスから構成された光増幅媒体ファイバの光励起方法であって、
光増幅媒体ファイバの外側クラッドの長手方向の一部をエッチングにより除去して内側クラッドが露出されてなる内側クラッド露出部を形成し、この内側クラッド露出部に露出された内側クラッドの外周に、励起光入射用光ファイバの光学軸に対して斜めに形成された端面を接合し、該励起光入射用光ファイバから励起光を光増幅媒体ファイバに斜めに入射することを特徴とする光増幅媒体ファイバの光励起方法。」
に補正する内容を含むものである。

イ 補正の目的
上記補正の内容は、補正前の請求項1の「内側クラッドの外周上に形成された空孔層」を「内側クラッドの外周上に光増幅媒体ファイバの長手方向に延在して形成された空孔からなる空孔層」と限定するとともに、同じく「励起光入射用光ファイバの端面」が光学軸に対して斜めに形成され、「励起光」が光増幅媒体ファイバに斜めに入射することを特定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

ウ 独立特許要件
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(ア)刊行物の記載
a 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第03/010578号(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(訳文をかっこ書で付した。)。

(a)「Figs. 1A and 1B are cross-sectional views of an optical fiber 100 of the invention. Optical fiber 100 has a core 110 (e. g. , a single mode core), a cladding 120, and an exterior layer 140 that surrounds and contacts cladding 120. Cladding 120 has sides 160a, 160b, 160c and 160d that form vertices 150a, 150b, 150c, and 150d. Vertices 150a-150d are fused to an inner surface 170 of layer 170. Optical fiber 100 additionally includes regions 130a, 130b, 130c, and 130d between portions of cladding 120 and layer 140.」(5頁10行?16行。)
(図1Aと1Bは、本発明の光ファイバ100の横断面図である。光ファイバ100はコア110(例えば、シングルモードコア)、クラッド120、及びクラッド120を取り巻き、接触している外側層140を有している。クラッド120は、頂点150a、150b、150c及び150dを構成する側面160a、160b、160c及び160dを有している。頂点150a-150dは層170(審決注、「層140」の誤記と認められる。)の内表面170に融着されている。光ファイバ100は、その上、クラッド120と層140の間に領域130a、130b、130c及び130dを含んでいる。)、

「In certain embodiments, core 110 includes a first material (e.g., a silica material, such as fused silica) and at least one dopant (e.g., at least one rare earth ion, such as erbium ions, ytterbium ions, neodymium ions, holmium ions, dysprosium ions, and/or thulium ions, and/or at least one transition metal ion). In some embodiments, core 110 is formed of fused silica doped with ytterbium ions.」(5頁19行?23行)
(ある実施例において、コア110は、第1の材料(例えば、溶融シリカのようなシリカ材料)と少なくとも1つのドーパント(例えば、エルビウムイオン、イッテルビウムイオン、ネオジウムイオン・・・のような、少なくとも1つの希土類イオン、及び/又は、ツリウムイオン、及び/又は、少なくとも1つの遷移金属イオン)を含む。いくつかの実施例において、コア110はイッテルビウムイオンをドープした溶融シリカで構成される。)

「Examples of materials from which cladding 120 can be formed include silica materials, such as fused silica materials.」(6頁10行?11行)
(クラッド120が形成される材料の例には、溶融シリカ材料のようなシリカ材料が含まれる。)、

「Cladding 120 has a substantially square cross-section, including four substantially flat (e.g., optically flat) sides 160a, 160b, 160c, and 160d. ・・・Adjacent sides 160a and 160b meet at vertex 150a, adjacent sides 160b and 160c meet at vertex 150b, adjacent sides 160c and 160d meet at vertex 150c, and adjacent sides 160d and 160a meet at vertex 150d. Vertices 150a, 150b, 150c, and 150d are fused to layer 140.」(6頁12行?18行)
(クラッド120は実質的に正方形の断面を有し、四つの実質的に平坦な側面160a、160b、160c及び160dを含んでいる。・・・隣接する側面160aと160bは頂点150aで接し、隣接する側面160bと160cは頂点150bで接し、隣接する側面160cと160dは頂点150cで接し、隣接する側面160dと160aは頂点150dで接する。頂点150a、150b、150c及び150dは層140に融着されている。)、

「Generally, the refractive index of layer 140 can vary as desired (e.g., the refractive index of layer 140 can be about the same as the refractive index of cladding 120, the refractive index of layer 140 can be greater than the refractive index of cladding 120, the refractive index of layer 140 can be less than the refractive index of cladding 120).Examples of materials from which layer 140 can be formed include silica materials, such as fused silica materials.」(6頁23行?28行)
(一般的に、層140の屈折率は要望により変えられる(例えば、層140の屈折率はクラッド120の屈折率とほぼ同じであっても良く、層140の屈折率はクラッド120の屈折率より大きくても良く、層140の屈折率はクラッド120の屈折率より小さくても良い)。層140が形成されうる材料の例は、溶融シリカ材料のようなシリカ材料を含む。)、

「Regions 130a, 130b, 130c, and 130d provide an optical interface at cladding sides 160a, 160b, 160c, and 160d so that, when regions 130a-130d have a lower index of refraction than cladding 120, regions 130a-130d can substantially confine pump energy inside cladding 120. In some embodiments, regions 130a-130d are substantially evacuated. In certain embodiments, regions 130a-130d contain a gas (e.g., air, nitrogen, argon), a liquid (e.g., one or more low refractive index oils) and/or a solid (e.g., one or more polymers).」(6頁30行?7頁3行)
(領域130a、130b、130c及び130dが、クラッド側面160a、160b、160c及び160dに光学的なインターフェースを提供することにより、領域130a-130dがクラッド120より低い屈折率を有するとき、領域130a-130dが実質的にクラッド120の内側に励起エネルギーを閉じ込めることができる。いくつかの実施例において、領域130a-130dは実質的に空にされている。ある実施例において、領域130a-130dはガス(例えば、空気、窒素、アルゴン)、液体(例えば、一つ又はそれ以上の低屈折率オイル)及び/又は、固体(例えば、一つ又はそれ以上のポリマー)を含む。)

また、FIG.1A及びFIG.1Bから、領域130a、130b、130c及び130dは、外側層140の内表面170とクラッド120の側面160a、160b、160c及び160dとの間にあって、ファイバ100の長手方向に延在して形成されていることがみてとれる。
なお、FIG.1A及びFIG.1Bは、次のとおりである。


(b)「Fig. 2 shows a fiber laser system 200 including fiber 100 and a pump source 220 (e.g., a laser, such as a semiconductor diode laser). Pump source 220 emits energy at wavelength λ_(p) and is configured so that this energy can be coupled into fiber 100 (e.g., by end-pumping or side-pumping). In addition to core 110, cladding 120, regions 130a-130d, and layer 140, fiber 100 includes reflectors 230,240 and 250 (e.g., Bragg gratings).」(8頁6?11行)
(図2は、ファイバ100と励起光源220(例えば、半導体ダイオードレーザのようなレーザ)を含むファイバレーザシステム200を示している。励起光源220は波長λpでエネルギーを放射し、このエネルギーがファイバ100に(例えば、端面励起または側面励起により)結合されるように配置される。コア110、クラッド120、領域130a-130d、層140に加えて、ファイバ100は、リフレクタ230、240、250(例えば、ブラッグ格子)を含む。)、

「During operation of system 200, pump energy at wavelength λ_(p) is emitted by source 220, coupled into fiber 100 and propagates in fiber 100. As the pump energy propagates along fiber 100, it is substantially confined within the volume of fiber 100 defined by cladding 120. A portion of the pump energy within cladding 120 intersects core 110, and a portion of the pump energy intersecting core 110 interacts with the active material in core 110 to form energy at wavelength λ_(out) (e.g., via electronic transitions in the active material contained in core 110, such as three-level lasing or four-level lasing).
λ_(out) is generally different from λ_(p). Examples of λ_(out) include about 1080 nanometers and about 1100 nanometers. Examples of λ_(p) include about 915 nanometers and about 975 nanometers.」(8頁19?29行)
(システム200の操作中、光源220によって放射された波長λpの励起エネルギーは、ファイバ100に結合され、ファイバ100中に広がる。励起光がファイバ100に沿って広がる時、それはクラッド120によって限定された範囲内に実質的に閉じ込められる。クラッド120内の励起エネルギーの一部はコア110と交わり、そのコア110と交わった励起エネルギーの一部はコア110の中の活性材料と作用して波長λout(・・・)のエネルギーを形成する。
λoutは一般的にλpとは異なる。λoutの例は約1080ナノメートル及び約1100ナノメートルを含む。λpの例は約915ナノメートル及び約975ナノメートルを含む。)

b 同じく米国特許第6,370,297号明細書(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある(訳文をかっこ書で付した。)。

「FIG. 1A illustrates an optical amplifier 10 , which uses an amplifying fiber 12 having a double cladding. The amplifying fiber 12 has a core 13 containing optically active dopants such as rare earth elements. The core 13 is enclosed in a first cladding 14 , and a second cladding 15 , e.g., a plastic layer. ・・・
The amplifying fiber 12 receives pumping light from a side-coupled pump fiber 16 . One end 17 of the pump fiber 16 makes a direct coupling to the first cladding 14 , and a second end 18 of the pump fiber 16 optically couples to a source of pump light.」(第2欄49行?64行)
(図1Aは、ダブルクラッドを有する増幅ファイバ12を用いる光増幅器10を描いている。前記増幅ファイバ12は希土類元素のような光活性ドーパントを含むコア13を有している。前記コア13は第1クラッド14と、例えば、合成樹脂層の第2クラッド15で囲われている。・・・
前記増幅ファイバ12は側面に結合された励起ファイバ16からの励起光を受け取る。前記励起ファイバ16の一端17は前記第1クラッド14に直接結合され、前記励起ファイバ16の他端18は励起光源に光学的に結合される。)、

「To improve the coupling between the pump fiber 16 and the first cladding 14 , the end 17 of the pump fiber 16 is angle polished to 70 degrees or more and fit snugly against the first cladding 14. In the joint region, the second cladding 15 is removed so that pump light enters directly from the pump fiber 16 into the first cladding 14.」(第3欄10行?15行)
(前記励起ファイバ16と第1クラッド14との間の結合を改善するために、励起ファイバ16の一端17は、第1クラッドに対してぴったり合うように70℃あるいはそれ以上の角度に研磨される。その接合領域において、第2クラッド15は、励起光が励起ファイバ16から第1クラッド14に直接入射するように除去されている。)、

「Referring again to FIG. 2B , the first cladding 14 has a cross section that is non-circularly symmetric with respect to the core 13 along the entire length of the amplifying fiber 12. The cross section is non-circularly symmetric due to the flat sides 38-41 on the outer surface 32 of the cladding 14. The flat sides 38-41 give the first cladding 14 a polygonal cross section, which reflects the ray 30 more randomly as the ray 30 propagates down the cladding 14 than the circularly symmetric surface 36 of FIG. 2C.」(第4欄13行?21行)。
(再度、図2Bを参照すると、第1クラッド14は、増幅ファイバ12の全長に沿ったコア13に関して非円形対称形の断面を有している。該非円形対称形の断面はクラッドの外表面32の平坦な側面38-41による。その平坦な側面38-41はクラッド14に多角形断面を与え、光線30がクラッド14の下流に拡散する時、図2Cの円形対称形の表面36よりももっとランダムに反射させる。)

また、FIG.1A及びFIG.2Bから、増幅ファイバ12の第2クラッド15の一部が除去されて露出された第1クラッド14の平坦な側面40に、励起ファイバ16の光軸に対して斜めにされた端面17が接合され、励起ファイバ16からの光線30が増幅ファイバ12に斜めに入射する様子がみてとれる。
なお、FIG.1A及びFIG.2Bは、次のとおりである。


(イ)引用発明
a 上記(ア)a(a)によれば、刊行物1には、「コア110、クラッド120、及びクラッド120を取り巻き、接触している外側層140を有している光ファイバ100であって、前記コア110には、例えば、溶融シリカのようなシリカ材料である第1の材料と、例えば少なくとも1つの希土類イオンである少なくとも1つのドーパントとを含み、前記クラッド120は実質的に正方形の断面を有し、頂点150a、150b、150c及び150dを構成する四つの実質的に平坦な側面160a、160b、160c及び160dを含み、隣接する各側面は、頂点150a、150b、150c及び150dで接し、各頂点150a、150b、150c及び150dは前記外側層140の内表面170に融着されており、前記外側層140の内表面170と前記クラッド120の各側面160a、160b、160c及び160dとの間には、実質的に空にされている領域130a、130b、130c及び130dが、光ファイバ100の長手方向に延在して形成され、前記クラッド120が形成される材料の例には、溶融シリカ材料のようなシリカ材料が含まれ、前記外側層140の屈折率は前記クラッド120の屈折率とほぼ同じであってよい、光ファイバ100。」が記載されているものと認められる。

b 上記(ア)a(b)によれば、刊行物1には、光源220によって放射された波長λpの励起光の励起エネルギーが上記aの光ファイバ100に端面励起または側面励起により結合され、励起光が光ファイバ100に沿って広がる時、クラッド120によって限定された範囲内に実質的に閉じ込められ、クラッド120内の励起エネルギーの一部はコア110と交わり、そのコア110と交わった励起エネルギーの一部はコア110の中の活性材料と作用して波長λoutのエネルギーを形成する光励起方法が記載されていると認められる。

c 以上によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「コア110、クラッド120、及びクラッド120を取り巻き、接触している外側層140を有している光ファイバ100の光励起方法であって、
該光ファイバ110は、前記コア110に、例えば、溶融シリカのようなシリカ材料である第1の材料と、例えば少なくとも1つの希土類イオンである少なくとも1つのドーパントとを含み、前記クラッド120が実質的に正方形の断面を有し、頂点150a、150b、150c及び150dを構成する四つの実質的に平坦な側面160a、160b、160c及び160dを含み、隣接する各側面が、頂点150a、150b、150c及び150dで接し、各頂点150a、150b、150c及び150dが前記外側層140の内表面170に融着されており、前記外側層140の内表面170と前記クラッド120の各側面160a、160b、160c及び160dとの間に、実質的に空にされている領域130a、130b、130c及び130dが、光ファイバ100の長手方向に延在して形成され、前記外側層140の屈折率は前記クラッド120の屈折率とほぼ同じであってよいものであり、前記クラッド120が形成される材料の例には、溶融シリカ材料のようなシリカ材料が含まれ、
光源220によって放射された波長λpの励起光の励起エネルギーが前記光ファイバ100に端面励起または側面励起により結合され、励起光が該光ファイバ100に沿って広がる時、前記クラッド120によって限定された範囲内に実質的に閉じ込められ、前記クラッド120内の励起エネルギーの一部は前記コア110と交わり、該コア110と交わった励起エネルギーの一部は該コア110の中の活性材料と作用して波長λoutのエネルギーを形成する光励起方法。」(以下「引用発明」という。)

(ウ)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「光ファイバ100」は、「コア110」に、「例えば少なくとも1つの希土類イオンである少なくとも1つのドーパントとを含」むものであるから、引用発明の「コア110」は、本願補正発明の「希土類元素が添加されたコア」に相当する。

b 引用発明の「クラッド120」は、本願補正発明の「該コアの外周上に設けられた内側クラッド」に相当する。

c 引用発明の「前記外側層140の内表面170と前記クラッド120の各側面160a、160b、160c及び160dとの間」に「光ファイバ100の長手方向に延在して形成」された「実質的に空にされている領域130a、130b、130c及び130d」は、本願補正発明の「該内側クラッドの外周上に光増幅媒体ファイバの長手方向に延在して形成された空孔からなる空孔層」に相当する。
また、引用発明の「外側層140」の屈折率は「前記クラッド120の屈折率とほぼ同じであってよいもの」であるから、引用発明の「外側層140」は、本願補正発明の「該空孔層の外周上に設けられた外側クラッド」に相当する。

d 引用発明は、「クラッド120」に含まれる「四つの実質的に平坦な側面160a、160b、160c及び160d」が接する「頂点150a、150b、150c及び150d」が「前記外側層140の内表面170に融着」されており、クラッド120の「頂点150a、150b、150c及び150d」が「前記外側層140の内表面170に融着」された部分は、本願補正発明の「内側クラッドの外周と外側クラッドの内周とを連結する連結部」に相当する。

e 引用発明の「光ファイバ110」は、「前記コア110に、例えば、溶融シリカのようなシリカ材料である第1の材料」を含み、「前記クラッド120が形成される材料の例には、溶融シリカ材料のようなシリカ材料が含まれ」るものであるところ、シリカ材料を含む光ファイバは、通常石英系ガラスから構成されるものであるから、引用発明の「光ファイバ110」は、「石英系ガラスから構成された」ものである点で、本願補正発明の「光増幅媒体ファイバ」と一致する。

f 引用発明の「光ファイバ110」は、本願補正発明の「光増幅媒体ファイバ」に相当し、引用発明の「光励起方法」は、「光増幅媒体ファイバの光励起方法」である点で、本願補正発明と一致する。

g 引用発明は、「光源220によって放射された波長λpの励起光の励起エネルギーが前記光ファイバ100に端面励起または側面励起により結合され」るものであるから、「励起光を光増幅媒体ファイバに入射する」点で、本願補正発明と一致する。

h 以上によれば、両者は、
「希土類元素が添加されたコアと、該コアの外周上に設けられた内側クラッドと、該内側クラッドの外周上に光増幅媒体ファイバの長手方向に延在して形成された空孔からなる空孔層と、該空孔層の外周上に設けられた外側クラッドと、内側クラッドの外周と外側クラッドの内周とを連結する連結部とを有する石英系ガラスから構成された光増幅媒体ファイバの光励起方法であって、
励起光を光増幅媒体ファイバに入射する光増幅媒体ファイバの光励起方法。」
である点で一致し、
「本願補正発明では、光増幅媒体ファイバの外側クラッドの長手方向の一部をエッチングにより除去して内側クラッドが露出されてなる内側クラッド露出部を形成し、この内側クラッド露出部に露出された内側クラッドの外周に、励起光入射用光ファイバの光学軸に対して斜めに形成された端面を接合し、該励起光入射用光ファイバから励起光を斜めに入射するのに対して、引用発明では、光源220によって放射された波長λpの励起光の励起エネルギーが前記光ファイバ100に端面励起または側面励起により結合される点。」(以下「相違点」という。)。
で相違するものと認められる。

(エ)判断
a 相違点について
(a)上記(ア)bによれば、刊行物2には、ダブルクラッドを有し、側面に結合された励起ファイバ16からの励起光を受け取る増幅ファイバ12を用いる光増幅器10において、励起光が励起ファイバ16から第1クラッド14に直接入射するように、第2クラッド15の一部を除去して露出した第1クラッド14の平坦な側面40に、第1クラッドに対してぴったり合うように70℃あるいはそれ以上の角度に研磨した励起ファイバ16の一端17を斜めに接合し、励起ファイバ16からの光線30が増幅ファイバ12に斜めに入射する技術が記載されているものと認められる。

(b)しかるところ、引用発明も、「光源220によって放射された波長λpの励起光の励起エネルギーが前記光ファイバ100に端面励起または側面励起により結合され」るものであるから、側面に結合された励起ファイバ16からの励起光を受け取る上記(a)の技術を適用し、これにより、光増幅媒体ファイバの外側クラッドの長手方向の一部を除去して内側クラッドが露出されてなる内側クラッド露出部を形成し、この内側クラッド露出部に露出された内側クラッドの外周に、励起光入射用光ファイバの光学軸に対して斜めに形成された端面を接合し、該励起光入射用光ファイバから励起光を斜めに入射するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、光ファイバの一部を除去する手法としてエッチングを用いることは、本願出願当時において周知の技術である(例えば、原査定において引用した特開昭60-238801号公報の8頁左下欄4行?8行及びFIG.6、同じく国際公開第02/075404号の10頁18行?23行を参照。)から、光増幅媒体ファイバの外側クラッドの長手方向の一部を除去する手法としてエッチングを採用することは、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。
したがって、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

b 請求人の主張について
なお、請求人は、審判請求の理由において、「本願発明によれば、内側クラッドを容易に露出させて励起光入射用光ファイバの端面を接合することができるとともに、空孔層により励起光が散乱されることなく、端面入射の場合に比べて、より高い結合効率で、空孔層の内側の内側クラッドに直接励起光を入射することができます。そして、斜めに入射した励起光が空孔層の内側において内側クラッド内を伝播している間に、コアに添加された希土類元素を励起させるので、内側クラッド露出部付近の希土類元素のみならず、励起光の減衰が著しくならないうちは、内側クラッド露出部から離れた希土類元素まで光励起することができる、という格別の効果を奏するものであります。(本願明細書の段落0003、0004、0028、0029、0033、0040参照)」と主張するが、これらの効果が、引用発明に刊行物2記載の技術を適用することにより当然奏される以上のものとまではいえず、請求人の上記主張をもって、本願補正発明において、引用発明及び刊行物2記載の技術から当業者が予測し得る域を超えるほどの格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

(オ)小括
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成20年3月31日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記2(2)アにおいて、補正前のものとして示したとおりのものである。

(2)判断
前記2(2)イのとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
しかるところ、前記2(2)ウで検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-23 
結審通知日 2010-05-06 
審決日 2010-05-18 
出願番号 特願2003-151260(P2003-151260)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉田 翠橿本 英吾  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 杉山 輝和
稲積 義登
発明の名称 光増幅媒体ファイバの光励起方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  

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