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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1219463
審判番号 不服2007-15570  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-04 
確定日 2010-06-08 
事件の表示 平成9年特許願第523137号「フッ素化された化合物の製造」拒絶査定不服審判事件〔平成9年7月3日国際公開、WO97/23440、平成12年2月22日国内公表、特表2000-502106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年12月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年12月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、 以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年10月11日付け 拒絶理由通知書
平成19年1月17日 意見書・手続補正書
平成19年2月28日付け 拒絶査定
平成19年6月4日 審判請求書・手続補正書
平成19年6月14日 手続補正書(審判請求書)・手続補正書
平成19年8月6日付け 前置報告書
平成20年9月29日付け 審尋
平成21年1月21日 回答書
平成21年7月29日付け 審尋・補正の却下の決定
(平成19年6月14日付け手続補正書)

なお、平成21年7月29日付けで審尋を通知し、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もなかった。

第2 本願発明について
この出願の発明は、平成10年6月19日、平成19年1月17日及び平成19年6月4日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の【請求項1】に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 本質的にテトラグリム及び1,2-ジメトキシエタン又は塩化メチレン又はそれらの混合物から成る溶媒混合物中で-60℃?0℃の温度でペンタフルオロフェノールのアルカリ金属塩とヘキサフルオロプロピレンオキシドを接触させて、式 C_(6)F_(5)OCF(CF_(3))CF_(2)OM(I)、式中Mは該アルカリ金属である、の化合物を製造することを含んで成る方法であって、
但しこの方法に加えられた該ヘキサフルオロプロピレンオキシドの総モル量は、この方法において存在するペンタフルオロフェノールの該アルカリ金属塩のモル量の1.0?1.25倍であるものとする、
上記の方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由は、請求項に記載の発明において、一般式(I)の化合物の製造を特定するものである。しかしながら、本願明細書の記載を踏まえても、斯かる化合物を具体的に単離し構造を特定したものとは認めることができないから、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

第4 当審の判断
1 本願発明
本願発明は、「本質的にテトラグリム及び1,2-ジメトキシエタン又は塩化メチレン又はそれらの混合物から成る溶媒混合物中で-60℃?0℃の温度でペンタフルオロフェノールのアルカリ金属塩とヘキサフルオロプロピレンオキシドを接触させて、式 C_(6)F_(5)OCF(CF_(3))CF_(2)OM(I)、式中Mは該アルカリ金属である、の化合物を製造することを含んで成る方法であって、
但しこの方法に加えられた該ヘキサフルオロプロピレンオキシドの総モル量は、この方法において存在するペンタフルオロフェノールの該アルカリ金属塩のモル量の1.0?1.25倍であるものとする、
上記の方法。」である。

2 本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
A「特定されたプロセス条件下にペンタフルオロフェノキシド塩をヘキサフルオロプロピレンオキシドと反応させることによりペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテル(pentafluorophenoxy substituted perfluoroethers)を製造するための改良された方法が本発明において記載される。モノマーの製造のための中間体として有用な得られる生成物はしばしば改良された収率で得られ、及び/又はオゾン破壊溶媒(ozone depleting solvents)の使用は大幅に減少又は回避される。」(1頁3行?10行)

B「発明の要約
本発明は、本質的にテトラグリム及び1,2-ジメトキシエタン又は塩化メチレン又はそれらの混合物から成る溶媒混合物中で約-60℃?約0℃の温度でペンタフルオロフェノールのアルカリ金属塩とヘキサフルオロプロピレンオキシドを接触させて、式 C_(6)F_(5)OCF(CF_(3))CF_(2)OM(I)、式中Mは該アルカリ金属である、の化合物を製造することを含んで成り、
但しこの方法に加えられた該ヘキサフルオロプロピレンオキシドの総モル量はこの方法において存在するペンタフルオロフェノールの該アルカリ金属塩のモル量の約1.25倍以下であるものとする、
ペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテルの第1の製造方法に関する。」(2頁7行?18行)

C「第1の方法の最初の生成物は、アシル置換ペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテルのフッ化カリウム塩(I)である。このカリウム塩は、転換を達成するのに十分な時間の期間にわたり約20℃?約150℃、好ましくは約25℃?約100℃の温度で典型的には減圧下に加熱することによりアシルフルオリド(本発明の第2の方法の出発物質である)に転換することができる。この時間の期間は、大抵は反応の規模(溶媒混合物の第2の化合物を除去するのに必要な時間を含めて)に依存して、典型的には1時間?1日である。アシルフルオリド(III)は、蒸留により単離することができる。溶媒混合物中に使用された化合物が所望の生成物とは実質的に異なる沸点を有するならば、蒸留はより容易である。」(5頁末行?6頁10行)

D「実施例1
オーバーヘッド撹拌器、熱電対、窒素配管に取り付けられた組み合わせ(combination)HFPO添加口(addition port)及びドライアイスコンデンサー、及び固体添加口(反応容器中に延びている接合されたガラス管)を備えた約1000mLの樹脂がま(resin kettle)を乾燥させ、次いで乾燥テトラグリム(200mL)、グリム(1,2-ジメトキシメタン)(22mL)及びC_(6)F_(5)OK(40.09g、180ミリモル)を加えた。固体が添加されると温度を約30℃に増加させた。次いで混合物を-35℃に冷却した。HFPO(13.9g、83.7ミリモル)をマスフローコントローラー(mass flow controller)を使用して加え、そして、反応混合物の温度を-35°?-40℃に維持した。混合物を段階的に(約0.5時間)-10℃に加温し、そしてGC分析のためにサンプリングし、GC分析は、(面積%):1/1COF=86%、1/2COF=5%、1/1C_(6)F_(5)エステル=8%、1/2C_(6)F_(5)エステル=1%の官能当量(functional equivalents)を示した。
別の33gのHFPO(199ミリモル)を、温度を約-15℃に維持しながら、撹拌された混合物に加えた。添加が完了すると、混合物を0℃に加温しそしてGCにより分析した。これは、(面積%):1/1COF=13%、1/2COF=58%、1/3COF=19%、1/4COF=5%、1/1C_(6)F_(5)エステル=<1%、1/2C_(6)F_(5)エステル=5%の官能当量を示した。‥フルオロカーボン及びテトラグリムは主として(しかし完全にではなく)別々の層にあり、それ故この部分は再蒸留されて97.4ミリモルに相当する1/2アダクト48.3gを与えた。添加したC_(6)F_(5)OKを基準として、これは97.4/180=54%収率であり、これは粗製反応混合物のGC分析により推定された予想値に極めて近い。」(8頁18行?9頁末行)

E「実施例2
オーバーヘッド撹拌器、熱電対、窒素配管に取り付けられた組み合わせHFPO添加口及びドライアイスコンデンサー、及び固体添加口(反応容器中に延びている接合されたガラス管)を備えた約1000mLの樹脂がまを乾燥させ、次いで乾燥テトラグリム(200mL)、グリム(22mL)及びC_(6)F_(5)OK(40.04g、180ミリモル)を加えた。次いで混合物を-35℃に冷却した。HFPO(33.0g、199ミリモル)をマスフローコントローラーを使用して加え、そして反応混合物の温度を-31℃?-35℃に維持した。-35℃で20分の後、混合物を段階的に(約0.5時間)-10℃に加温し、そしてGC分析のためのサンプリングした。GC分析は、(面積%):1/1COF=89.5%、1/2COF=7.6%、1/1C_(6)F_(5)エステル=2.9%、1/2C_(6)F_(5)エステル=検出されない、の官能当量を示した。
FC-75(108g)を反応器に加え、そして混合物を10℃に加温した。別の33gのHFPO(199ミリモル)を、温度を約10℃に維持しながら、撹拌された混合物に加えた。添加が完了すると、混合物を室温に加温した。頂部層及び底部層のGC分析を別々に行った。頂部層は、(相対的面積%):1/1COF=15%、1/2COF=66%、1/3COF=18%、1/4COF=1%、1/1C_(6)F_(5)エステル=<1%、の官能当量を示した。‥底部層は、(相対的面積%):1/1COF=1%、1/2COF=39%、1/3COF=43%、1/4COF=15%、1/5COF=2%、のファンクショナル・イクイバレントを示した。全体の組成を決定するために、低沸点物質を13Paで集め、そしてヘッド温度がテトラグリムの温度に達した後、短い時間にわたり蒸留を続けた。得られる底部層のGC分析は、(相対的面積%):1/1COF=12%、1/2COF=61%、1/3COF=23%、1/4COF=4%、を示した。少量のみの1/1及び1/2アダクトが頂部層に存在しており、そしてこれを頂部層とともに排出した後最終蒸留に進んだ。これにより1/2アダクト44.5gを得た。‥」(10頁1行?11頁10行)

F「実施例3
オーバーヘッド撹拌器、熱電対、窒素配管に取り付けられた組み合わせHFPO添加口及びドライアイスコンデンサー、及び固体添加口(反応容器中に延びている接合されたガラス管)を備えた約1000mLの樹脂がまを乾燥させ、次いで乾燥テトラグリム(225mL)、グリム(25mL)及びC_(6)F_(5)OK(40.04g、180ミリモル)を加えた。次いで混合物を-35℃に冷却した。HFPO(33.0g、199ミリモル)をマスフローコントローラーを使用して加え、そして反応混合物の温度を-31℃?-35℃に維持した。-35℃で20分の後、混合物を段階的に(約0.6時間)-10℃に加温し、そしてGC分析のためにサンプリングした。GC分析は、(面積%):1/1COF=89.7%、1/2COF=7.5%、1/1C_(6)F_(5)エステル=2.8%、1/2C_(6)F_(5)エステル=検出されない、の官能当量を示した。
FC-75(100mL)を反応器に加え、そして混合物を35℃に加温した。別の33gのHFPO(199ミリモル)を、温度を約35℃に維持しながら、撹拌された混合物に加えた。添加が完了すると、混合物を40分間撹拌し、次いで室温に冷却させた。頂部層及び底部層のGC分析を別々に行った。次いで全体の揮発性部分をテトラグリムの沸点まで集めた。得られる移動させられた物質(transferred material)を0℃に冷却すると2つの層が得られ、そして少ない頂部層は非常に少量の生成物のみを含んでいた。底部層は、(相対的面積%):1/1COF=6%、1/2COF=69%、1/3COF=24%、1/4COF=2%、を示した。少量のみの1/1及び1/2アダクトが頂部層に存在しており、そしてこれを頂部層とともに排出した後最終蒸留に進んだ。
これは、4.6gの1/1アダクト及び56.0gの1/2アダクトの蒸留収率を与えた。これは126.8ミリモル/180ミリモル=70.4%の全体収率に相当した。」(11頁11行?12頁14行)

G「実施例6
冷却浴中に配置された3リットルの多数口(multiport)丸底フラスコは、空気駆動式(air-driven)オーバーヘッド撹拌器、熱源(thermal well)、Y字管により窒素配管に接続されたドライアイスコンデンサー及びガス入口管(フラスコの下方半分に達する)、及びHFPOシリンダーを備えていた。フラスコに222グラム(1モル)のカリウムペンタフルオロフェノキシド、テトラグリム1200ml及びジクロロメタン120mlを加えた。それを激しく撹拌し、そして窒素雰囲気を形成した。
コンデンサーにアセトン及びドライアイスを満たした。上記浴は、浴温度が-40℃を示すまで少しずつ加えられたアセトン及びドライアイスで満たされ、浴温度は-40℃にHFPO添加期間中維持された。フラスコの内容物を-32℃に冷却し、HFPOを約6グラム/分の定常状態で供給し、内部温度を-27℃?-32℃の範囲に維持した。温度が-27℃以上に上昇したならば、HFPOの添加の速度を減少させた。HFPOの穏やかな還流がドライアイスコンデンサーで見られた。HFPO183グラム[1.10モル、10%過剰]が加えられたとき、HFPOシリンダーを閉じそして反応の条件を追加の30分間維持した。冷却浴を空にし、反応混合物を、撹拌を維持しながら3時間の間+10℃に暖まらせた。反応のサンプルをGCにより分析し、そして1:1アダクト82%、2:1アダクト8%及び酸フルオリドとフェノキシドのエステル6%の混合物であることが見いだされた。他の不純物は総計4%に達した。
反応を蒸発フラスコに移し、低沸点ジクロロメタンを100mmHg及び40?45℃の浴温度で回転蒸発器において除去した。次いで、内容物をプロパク^(R)(Pro-pak^(R))316ステンレス鋼製(0.24×0.24インチ)パッキング[Aldrich Chemical Co.,]を充填された30インチ×1インチカラムを備えた2リットルの蒸留器(distilling still)に移した。35mmHgで蒸留を行った。25°?55℃の温度範囲の低沸点物(low boilers)を最初に集めた後、生成物の主バルク(main bulk)は55°?68℃の温度範囲で安定して(steadily)留出した。それを集めそして重量を測定した。重量は238グラム[C_(6)F_(5)OKを基準として72%収率]であり、そして>97%1:1アダクトであることが見いだされた。更なる蒸留により、1:1アダクト[42%]及び2:1アダクト[57%]の混合物15グラムが得られた。」(20頁4行?21頁15行)

H「実施例7
条件は実施例6と同じであった。唯一の変更は溶媒の比であった。この実験では、溶媒はテトラグリム1000mlとジクロロメタン300mlの混合物であった。蒸留前の生成物のGC分析は1:1アダクト85%、2:1アダクト7%及び残りのエステル及び他の未同定不純物を示した。蒸留された収率は248グラム[C_(6)F_(5)OKを基準として75%収率]であり、そして96%の純度であった。」(21頁16行?22行)

I「実施例8
量は実施例6の量と同一であった。反応を-27℃?-21℃の温度範囲で行った。収率は232グラム[70%収率]であり、そして純度は96%であった。」(21頁23行?22頁2行)

J「実施例9
実施例8と同一であるが、反応温度は-20℃?-14℃の範囲にあった。収率は188グラム[57%]であった。主要な不純物は総計38%に達するエステルであった。」(22頁3行?6行)

K「実施例10
この実験は、実施例6に述べた条件下に20ガロンのかまで行った。
下記の量の薬品及び溶媒を使用した。
C_(6)F_(5)OK 33.31モル=7405グラム
HFPO[15%過剰] 38.3モル =6357グラム
テトラグリム =40リットル
ジクロロメタン =4リットル
HFPOとの反応の後、粗製生成物を下記のとおり処理した。大きな[22リットル]回転蒸発器で45℃の浴温度及び200mmHgの真空で、蒸留と同じ速度で蒸発フラスコに粗製生成物を連続的に供給して、粗製生成物からのジクロロメタンを蒸留した。ポットがもはや追加の量[約12リットル]を保持することができなくなったとき、真空を100mmHgに減少させ、そして溶媒がそれ以上受け器に集まってこなくなるまで維持した。フラスコを貯蔵容器へと空にし、そして第2バッチを同じ手順(routine)に付した。すべての粗製生成物が上記操作に付されたとき、それを12リットルの蒸留器にバッチにおいて移し、1:1アダクトを30mmHgの真空で蒸留した。蒸留された生成物のバルクは7145グラム[65%]の重量であった。それは2:1アダクト3%を伴って95%の純度を有していた。」(22頁7行?23頁1行)

これらの記載によれば、本願発明は、ペンタフルオロフェノキシド塩をヘキサフルオロプロピレンオキシドと反応させることによりペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテル(pentafluorophenoxy substituted perfluoroethers)を製造するための改良された方法であり、モノマーの製造のための中間体として有用な得られる生成物はしばしば改良された収率で得られ、及び/又はオゾン破壊溶媒(ozone depleting solvents)の使用は大幅に減少又は回避される方法であるといえる(摘記A)。
具体的には、「テトラグリム及び1,2-ジメトキシエタン又は塩化メチレン又はそれらの混合物から成る溶媒混合物中で約-60℃?約0℃の温度でペンタフルオロフェノールのアルカリ金属塩とヘキサフルオロプロピレンオキシドを接触させて、式 C_(6)F_(5)OCF(CF_(3))CF_(2)OM(I)、式中Mは該アルカリ金属である、の化合物を製造することを含んで成り、
但しこの方法に加えられた該ヘキサフルオロプロピレンオキシドの総モル量はこの方法において存在するペンタフルオロフェノールの該アルカリ金属塩のモル量の1.25倍以下であるものとする、
ペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテルの…製造方法」が記載されている(摘記B)。
以下に、各実施例について検討してみる。
実施例1は、テトラグリムとグリムの溶媒混合物中で、-35℃?-40℃の温度で、C_(6)F_(5)OKとHFPOを接触させて得られる混合物を-10℃に加温し、GC分析したところ、(面積%):1/1COF=86%、1/2COF=5%、1/1C_(6)F_(5)エステル=8%、1/2C_(6)F_(5)エステル=1%の官能当量(functional equivalents)を示したことが記載されている(摘記D)。ここで、平成21年1月21日に提出された回答書によれば、「1/1COF」は式(III)で表される化合物であるから、実施例1において、式(III)で表される化合物は得られていることが記載されているといえるが、式(I)で表される化合物が得られている旨の記載はない。そして、他に、1/2COF、1/1C_(6)F_(5)エステル及び1/2C_(6)F_(5)エステルが得られていることが記載されているが、いずれも、式(I)で表される化合物ではないので、実施例1において、式(I)で表される化合物が得られていることは記載されていない。
実施例2は、テトラグリムとグリムの溶媒混合物中で、-31℃?-35℃の温度で、C_(6)F_(5)OKとHFPOを接触させて得られる混合物を-10℃に加温し、GC分析したところ、(面積%):1/1COF=89.5%、1/2COF=7.6%、1/1C_(6)F_(5)エステル=2.9%、1/2C_(6)F_(5)エステル=検出されない、の官能当量(functional equivalents)を示したことが記載されている(摘記E)。しかし、実施例2においても、式(III)で表される化合物は得られていることが記載されているが、式(I)で表される化合物が得られていることは記載されていない。
実施例3は、テトラグリムとグリムの溶媒混合物中で、-31℃?-35℃の温度で、C_(6)F_(5)OKとHFPOを接触させて得られる混合物を-10℃に加温し、GC分析したところ、(面積%):1/1COF=89.7%、1/2COF=7.5%、1/1C_(6)F_(5)エステル=2.8%、1/2C_(6)F_(5)エステル=検出されない、の官能当量(functional equivalents)を示したことが記載されている(摘記F)。しかし、実施例3においても、式(III)で表される化合物は得られていることが記載されているが、式(I)で表される化合物が得られていることは記載されていない。
実施例6は、テトラグリムとジクロロメタンの溶媒混合物中で、-27℃?-32℃の温度で、カリウムペンタフルオロフェノキシドとHFPOを接触させて得られる混合物を10℃に暖まらせて、GC分析したところ、1:1アダクト82%、2:1アダクト8%及び酸フルオリドとフェノキシドのエステル6%の混合物であることが見いだされたことが記載されている(摘記G)。しかし、実施例6においても、式(III)で表される化合物は得られていることが記載されているが、式(I)で表される化合物が得られていることは記載されていない。
実施例7?10は、実施例6の条件を変化させたものであるが(摘記H?K)、式(III)で表される化合物は得られていることが記載されているものの、式(I)で表される化合物が得られていることは記載されていない。
そうしてみると、実施例においては、式(III)で表される化合物を製造する方法は記載されているとはいえても、式(I)で表される化合物を製造する方法が記載されているとはいえない。また、本願明細書のその他の記載をみても、式(I)で表される化合物が得られたものとは認められない。

3 請求人の主張
請求人は、平成21年1月21日提出の回答書において、式(I)で表わされるような型のアルコキシドを、式(III)で表わされるような型のアシルフルオリドに転化することは周知技術であることを主張しており(回答書4.2(b)に対しての項)、以下のように述べている。
「本願発明では、加熱という温度条件を変えることで、平衡式の左から右への転位反応を行わせ、式(III)の化合物を生成します。
CF_(3)-CF_(3)-CF_(2)O^(-) <---> CF_(3)-CF_(2)-COF+F^(-)
本願の実施例3には、式(I)の化合物と式(III)の化合物の両方が反応容器内で、平衡関係で存在していることを示しています。
式(I)の化合物 <---> 式(III)の化合物+F^(-) 」
一方、本願明細書には、「第1の方法の最初の生成物は、アシル置換ペンタフルオロフェノキシ置換パーフルオロエーテルのフッ化カリウム塩(I)である。このカリウム塩は、転換を達成するのに十分な時間の期間にわたり約20℃?約150℃、好ましくは約25℃?約100℃の温度で典型的には減圧下に加熱することによりアシルフルオリド(本発明の第2の方法の出発物質である)に転換することができる。この時間の期間は、大抵は反応の規模(溶媒混合物の第2の化合物を除去するのに必要な時間を含めて)に依存して、典型的には1時間?1日である。」ことが記載されている(摘記C)。
ここで、請求人が提出した周知技術を示すための参考文献、例えば、米国特許第3660315号明細書には、該米国特許明細書に記載された化合物において、アルコキシドをアシルフルオリドへ転化する際の加熱温度は105℃?155℃が好ましいことが記載されているものの、本願発明の式(I)で表される化合物を式(III)で表される化合物へ転化する際の加熱温度が約20℃?約150℃、好ましくは約25℃?約100℃であることが周知であることを示すものではない。
さらに、請求人の主張及び本願明細書の上記記載(摘記C)をかんがみると、式(I)で表される化合物が式(III)で表される化合物に転化するためには、約20℃?約150℃、好ましくは約25℃?約100℃の温度で十分な時間加熱することが必要であるといえるが、実施例においては、GC分析において、どの程度の温度でどの程度の時間加熱しているのか明らかではないものの、常識的に判断すれば、「1時間?1日」(摘記C)もの時間をかけているとは認めがたい。
この点について、請求人は、平成19年1月17日に提出した意見書において、「(4)‥実施例3において、一般式(I)の化合物を一般式(III)の化合物に転化させるには、35℃での過熱で十分であることが示されております。それ故、本願明細書の記載から、一般式(I)の化合物が容易に転化し得ることは明らかであります。本願明細書では、GC分析が用いられております。GCの温度は特に特定はされていなくとも、少なくとも35℃である範囲の温度であることは技術常識から明らかであります。上述したように、そのような温度では、分析過程において一般式(I)の化合物が一般式(III)の化合物に転化することが予想されます。それ故、一般式(III)の化合物の同定が、冷たい反応混合物中における一般式(I)の化合物の存在を示す十分な証拠であると言えます。」と述べているが、そもそも、一般式(I)で表される化合物を一般式(III)で表される化合物に転化させるには、35℃での加熱で十分であることが、実施例3のどこに記載されているのか不明である。仮に、実施例3の「FC-75(100mL)を反応器に加え、そして混合物を35℃に加温した。別の33gのHFPO(199ミリモル)を、温度を約35℃に維持しながら、撹拌された混合物に加えた。添加が完了すると、混合物を40分間撹拌し、次いで室温に冷却させた。頂部層及び底部層のGC分析を別々に行った。次いで全体の揮発性部分をテトラグリムの沸点まで集めた。得られる移動させられた物質(transferred material)を0℃に冷却すると2つの層が得られ、そして少ない頂部層は非常に少量の生成物のみを含んでいた。底部層は、(相対的面積%):1/1COF=6%、1/2COF=69%、1/3COF=24%、1/4COF=2%、を示した。少量のみの1/1及び1/2アダクトが頂部層に存在しており、そしてこれを頂部層とともに排出した後最終蒸留に進んだ。
これは、4.6gの1/1アダクト及び56.0gの1/2アダクトの蒸留収率を与えた。これは126.8ミリモル/180ミリモル=70.4%の全体収率に相当した。」との記載(摘記F)に基づく主張であるとすれば、FC-75を反応器に加えて反応混合物を35℃に加温するより前の段階のGC分析、すなわち、-10℃に加温した後に行ったGC分析においても、1/1COFが得られていることからみれば、一般式(I)で表される化合物を一般式(III)で表される化合物に転化させるには、-10℃での加熱で十分であることになるが、これは「約20℃?…1日である。」(摘記C)の記載と矛盾する。よって、請求人の主張は採用できるものではない。

4 まとめ
してみれば、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであるから、本願の請求項1に記載した特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しないから、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-22 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-18 
出願番号 特願平9-523137
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07C)
P 1 8・ 571- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
坂崎 恵美子
発明の名称 フッ素化された化合物の製造  
代理人 高木 千嘉  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  

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