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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1219571
審判番号 不服2008-20385  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-08 
確定日 2010-07-09 
事件の表示 特願2005- 48254「検査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月 7日出願公開、特開2006-234527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年2月24日の特許出願であって、平成20年7月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年8月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年8月22日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年8月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月22日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「【請求項1】
食品や農作物の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法であって、上記検査対象物を磨砕し有機溶媒を用いて農薬成分を抽出する前処理(A)と、
その後に、上記検査対象物に残留する可能性のある多種類の農薬に対して農薬と疑われるものがある陽性反応を示すか否かにつき判断するためのガスクロマトグラフ質量分析法にて定性分析を行って、陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合は残留する農薬の種類を特定する第1工程(B)と、
その後、陽性反応を示す種類の農薬のみについて農薬残留量を定量分析し、農薬が検出されるか否か判断して、農薬が検出されなかった場合は、検査を終了し、農薬が検出された場合は該農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する第2工程(C)とを、有し、 さらに、上記第1工程(B)に於ける上記ガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析に使用する質量スペクトルから成る農薬データは、残留農薬基準が設定されている全ての農薬及びそれぞれの農薬の異性体についてのデータを備えていることを特徴とする検査方法。」(下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「検査対象物」の種類について、「等」を削除し「食品や農作物」と限定し、「第1工程(B)」の「陽性反応」について、「農薬と疑われるものがある」ものであることを限定し、「定性分析」について、陽性反応を示すか否かにつき「判断するための」ものであることを限定し、「残留する農薬の種類を特定する」ことについて、「陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合」に行うことを限定し、「第2工程(C)」の「農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する」ことについて、「農薬が検出されるか否か判断して、農薬が検出されなかった場合は、検査を終了し、農薬が検出された場合」に行うものであることを限定し、さらに、「ガロマトグラフ質量分析法」について、「上記第1工程(B)に於ける上記ガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析に使用する質量スペクトルから成る農薬データは、残留農薬基準が設定されている全ての農薬及びそれぞれの農薬の異性体についてのデータを備えている」との限定を付加する補正であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされてる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされてる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物1及び2、本願出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項がそれぞれ記載されている。下線は、当審で付加した。

(1)刊行物1:坂田 守久,「固相マイクロ抽出法と固相ディスク法を併用した夾雑物を多く含む試料水(池水,工場排水)の迅速農薬分析」,和歌山市衛生研究所報,2000年発行,第12号,p.55-61 の記載事項
(1a)「ゴルフ場等の農薬分析において、比較的清澄な試料においては固相抽出等の前処理過程は短時間で可能であるが、夾雑物の多い試料については、処理速度が速いとされているディスク型固相抽出法によっても長時間の処理を必要とする。今回は夾雑物が多く前処理の難しい試料について最初にディスク型固相抽出法で簡易な前処理を行い、その後固相マイクロ抽出しガスクロマトグラフ質量分析装置(以下「GC-MS」という。)で測定するという二段式の前処理を行うことによって農薬分析の迅速化を図った。その結果、1μg/Lまでの定性分析が可能であった。夾雑物が多く処理の難しい実試料においても短時間でほぼ良好な結果を得ることができた。」第55頁8行?14行)
(1b)「1.分析対象試料
市内の池水及び工場排水を使用した。
2.試薬及び器具
・農薬混合標準溶液(林純薬工業)
・・・
3.装置及び測定条件
ガスクロマトグラフ:ヒューレットパッカードHP6890
質量分析計:日本電子,JIMS-AMII
・・・
4.分析方法
本法ではサンプルをあらかじめ固相抽出ディスクで前処理を行い,得られた溶出液を水に転溶し,その後SPMEファイバーにより抽出,測定を行う方法とした。」(第55頁右欄下から2行?第56頁左欄下から7行)
(1c)「5.添加回収試験
固相抽出ディスク法とSPME法を組み合わせて測定を行った。試料100mLには1μg/Lとなるように標準農薬を添加した。実試料については非常に処理が難しい工場排水、池水を選択した。池水は、有機物の腐敗物と思われるコロイド状のものや浮遊物質が多く、固相抽出ディスクでは、100mLの処理が限界であった。表3に示すとおり精製水については変動係数11.2?32.5%で回収率は75.0?99.1%であった。しかし実試料では標準試料に比べベンシクロン、アトラジンが検出されず、池水では変動係数1.1?79.5%、回収率19.2?148.9%であり定量分析は難しい。共存物質が大きく影響しているようである。工場排水に関しては変動係数2.1?35.7%、回収率は37.8?153.5%であり、平均すると変動係数が標準試料より良いくらいであるが、回収率は悪く農薬の種類のよって差が激しい。」第59頁右欄1行?第60頁右欄4行)
(1d)表3には、工場排水及び池水について、標準農薬を1μg/Lの濃度に調製し測定をおこなった結果として、36種類中29種類の農薬についてのCV値と回収率のデータが示されてる。(第60頁表3)
(1e)「おわりに
固相抽出ディスク法とSPME法の優れた点を組合せることにより測定試料からの悪影響を極力なくし、共存するマトリックスが複雑なサンプルを迅速にまた29種類の農薬を1μg/Lまで短時間で定性分析出来ることがわかった。しかし、操作方法等によるばらつきが、回収率の再現性に影響を与えやすく定量分析を行うのが難しいうえ、分析可能な農薬類もSPMEファイバーの種類により限られているため、多種類の農薬について安定したデータを得るのにはさらに検討が必要である。しかし、前処理が不可能と思われる試料についても対応でき、低濃度(1μg/L)まで定性分析が可能である。また非常に時間のかかるサンプルを定量分析する前のスクリーニング試験として使用すれば、迅速に分析出来るため非常に有用であると思われる。また、GC-MS分析において検出感度を上げるのは容易でないが、今回の前処理濃縮過程での二段階処理という特徴を利用することにより、共存するマトリックスの影響が比較的少ない試料中の極微量成分分析(pptレベル)に十分対応が可能である。」(第61頁4行?25行)

(2)刊行物2:特開2004-170392号公報の記載事項
(2a)「【背景技術】
【0002】
有機リン系農薬やカルバメート系農薬は、有機塩素系の農薬等と比較して、自然界で分解され易いため、殺虫剤、殺菌剤、除草剤として古くから広く使用されている。しかしながら、これらの中でも有機リン系殺虫剤やカルバメート系殺虫剤とその代謝生成物は、コリンエステラーゼ活性阻害を引き起こす典型的な酵素毒であり、動物体内に蓄積されると神経系を著しく害するため、食品危険度管理又は環境汚染管理的な見地から、安全性確保のため、これら農薬の検査を行う機会が近年増加している。
【0003】
従来、上記殺虫剤等の検出には、ガスクロマトグラフやガスクロマトグラフ質量分析計等の精密分析装置を用いて行っている。しかしながら、このような分析装置を用いた検出方法は、サンプル中に含まれている成分を網羅的に、精度良く検出できるものの、測定装置が高価であり、測定操作が煩雑で熟練を要し、時間がかかる。また、測定毎に機器校正のため農薬を使用せざるを得ない等の問題もある。」
(2b)「【0017】
図1は本発明による農薬測定を実施するための検査対象となる農作物から前記被検農薬成分を抽出・精製し、測定溶液とするまでの工程を示すフロー図である。ステップ1は農作物からの該被検農薬成分の抽出速度、抽出効率を高めるための農作物の粉砕、又は磨砕を行う第一工程であり、ステップ2は農作物中の該被検農薬成分をメタノール等の有機溶媒中に溶解、抽出するために振とうを行う第二工程であり、ステップ3は該有機溶媒層に残余する大夾雑物を除去するためのろ過を行う第三工程であり、ステップ4は第三工程後の該有機溶媒層に混入する該被検農薬成分以外の農作物抽出成分を固層吸着させ、極力、該被検農薬成分のみを該有機溶媒層に回収するため固液分離を行う第四工程である。該固液分離方法は、ケイ酸マグネシウム(商品名:フロリジル)等を充填剤に用いた順層カラムクロマトグラフィーで行うとよい。ステップ5は第四工程で回収される流出液中からロータリーエバポレータ等を用いて農作物の抽出成分を乾固物として回収する第五工程であり、ステップ6は第五工程で回収された乾固物を理想溶液に溶解する第六工程である。以上の方法により、検査対象となる農作物から被検農薬成分を抽出した測定溶液が調製されることになる。なお、この例では、測定溶液1ml中当たり、帰属農作物の抽出成分0.1gが含まれることになる。」

(3)刊行物3:特開2000-241390号公報の記載事項
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、従来の質量分析法では識別のできなかった異性体等の物質についても、荷電逆転質量分析法を使用することにより、その識別が可能となる特徴を有する。質量分析法は、多くの分析法の中で物質を構成する分子の質量を決定できると同時にその物質の微量分析ができる点に最大の特徴がある。」
(3b)「【0010】本発明は、異性体等の物質をイオン化するイオン源で正イオンを生成させ、生成した正イオンを電場又は磁場を使用する質量分析法を用いて質量分析し、その際に質量分離された正イオンを、例えば、アルカリ金属蒸気ターゲットで満たされた衝突室に入射し、この衝突室内で電荷逆転させて負イオンを生成させ、生成した負イオンを衝突室から取り出し、衝突室から出た負イオンの質量スペクトルを測定して物質の特定及び定量を行うものである。」
(3c)「【0024】
【実施例1】(オルト、メタ、パラのジクロロベンゼンの異性体識別)オルト、メタ、パラのジクロロベンゼンは、電子衝撃イオン化法や衝突誘起解離では同じスペクトルを与え、それらの異性体の識別は不可能である。本発明の電荷逆転質量分析法では異性体による明確な相違が見いだされる。
・・・
【0027】これに比べ、図3と図5の電荷逆転スペクトルでは、CsとKのいずれのターゲットでもオルト、メタ、パラのジクロロベンゼンの相違が一見して明確である。このように、電荷逆転スペクトルでは、電子衝撃スペクトル、CIDスペクトルでは違いがほとんど検出されない異性体についても、明確な識別が可能である。
【0028】オルト、メタ、パラのジクロロベンゼンは、ベンゼン環の塩素原子の置換位置のよる異性体である。オルト、メタ、パラのジクロロベンゼンについての電荷逆転質量スペクトルにおける明確な相違は、ダイオキシン等の異性体についての質量分析法による、微量での分析と定量の可能性を示している。」

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に、上記(1a)(1b)(1c))から、刊行物1には、
「池水及び工場排水に複数種類の農薬の混合標準溶液を添加した試料水中の農薬分析方法であって、
上記試料水をディスク型固相抽出法と固相マイクロ抽出法の二段階で農薬成分を抽出する前処理工程と、
前処理した試料水をガスクロマトグラフ質量分析法により測定して農薬の定性分析を行う工程と、を有する農薬分析方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「池水及び工場排水に複数種類の農薬の混合標準溶液を添加した試料水」と、本願補正発明の「食品や農作物の検査対象物」とは、検査対象物である点で共通している。
(イ)刊行物1発明の「試料水をディスク型固相抽出法と固相マイクロ抽出法の二段階で前処理して農薬成分を抽出する前処理工程」と、本願補正発明の「上記検査対象物を磨砕し有機溶媒を用いて農薬成分を抽出する前処理(A)」とは、検査対象物を前処理して農薬を成分を抽出する前処理である点で共通している。
(ウ)刊行物1発明の「前処理した試料水をガスクロマトグラフ質量分析法により測定して農薬の定性分析を行う工程」は、定性分析であることから、複数種類の農薬の種類を特定しているといえ、本願補正発明の「その後に、上記検査対象物に残留する可能性のある多種類の農薬に対して農薬と疑われるものがある陽性反応を示すか否かにつき判断するためのガスクロマトグラフ質量分析法にて定性分析を行って、陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合は残留する農薬の種類を特定する第1工程(B)」とは、検査対象物中の多種類の農薬に対してガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析を行って、農薬の種類を特定する第1工程である点で共通している。
(エ)刊行物1発明の「試料水中の農薬分析方法」と、本願補正発明の「食品や農作物の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法」とは、検査対象物中の農薬の分析方法である点で共通している。

したがって、両者の間には以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
検査対象物中の農薬の分析方法であって、
上記検査対象物を前処理して農薬成分を抽出する前処理と、
その後、検査対象物中の多種類の農薬に対してガスクロマトグラフ質量分析法よる定性分析を行って、農薬の種類を特定する第1工程と、
を有する検査対象物中の農薬の分析方法である点。

(相違点1)
検査対象物及び前処理が、本願補正発明では、食品や農作物であり、検査対象物を磨砕し有機溶媒を用いて農薬成分を抽出する前処理を行うのに対して、刊行物1発明では、池水及び工場排水に複数種類の農薬の混合標準溶液を添加した試料水であり、ディスク型固相抽出法と固相マイクロ抽出法の二段階で農薬成分を抽出する前処理工程を行う点。

(相違点2)
第1工程のガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析が、本願補正発明では、検査対象物に残留する可能性のある多種類の農薬に対して農薬と疑われるものがある陽性反応を示すか否かにつき判断するためのものであって、陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合は残留する農薬の種類を特定するものであり、ガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析に使用する質量スペクトルから成る農薬データは、残留農薬基準が設定されている全ての農薬及びそれぞれの農薬の異性体についてのデータを備えているのに対し、刊行物1発明では、複数種類の農薬の混合標準溶液が添加された試料水中の農薬を定性分析するものであり、ガスクロマトグラフ質量分析法で使用するスペクトルデータについて規定していない点。

(相違点3)
本願補正発明は、陽性反応を示す種類の農薬のみについて農薬残留量を定量分析するものであり、農薬が検出されるか否か判断して、農薬が検出されなかった場合は、検査を終了し、農薬が検出された場合は該農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する第2工程を備え、食品や農作物の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法であるのに対し、刊行物1発明は、農薬を定量分析する工程を有さず、農薬分析方法であるものの、食品や農作物の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法ではない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
農作物中の残留農薬の検出のためにガスクロマトグラフ質量分析計を用いることは、刊行物2の従来技術(上記(2a))、特開2004-275023号公報(【0018】)、特開平9-107992号公報の従来技術(【0002】)にも記載されるとおり、本願出願前の周知技術である。さらに、農作物中の農薬を測定する場合、農作物には農薬以外の多種類の成分が大量に含有されていることから、農作物を摩砕し有機溶媒で農薬成分を抽出するといった前処理が必要なことも、刊行物2(上記(2b))、特開平8-170941号公報の従来技術(【0004】)にも記載されるとおり、本願出願前の周知技術であり、このように農作物は、刊行物1発明の工場排水及び池水と同様に多種類の夾雑物質を含有しており、前処理なしでは、ガスクロマトグラフ質量分析方法で分析できるものではないから、刊行物1発明において、検査対象物を、多数の夾雑物を含有した工場排水及び池水に代えて、残留農薬の検出が必要である食品や農作物とし、上記のとおり、農作物に適合した周知の前処理方法である、農作物を摩砕し有機溶媒で農薬成分を抽出する前処理方法を適用することは、当業者が容易になし得たものといえる。

(相違点2について)
刊行物1には、表3に、29種類の農薬について定性分析ができ、分析ができない農薬もあることが示されているから、刊行物1発明では、添加した複数種類の農薬に対してガスクロマトグラフ質量分析法で定性分析が行われ、陽性反応を示すか否かにつき判断して、陽性の場合は存在する農薬の種類を特定しているといえる。そして、陰性の場合は検査をそれ以上する必要がないことは、定性分析である以上当然のことである。
そうすると、刊行物1発明の検査対象物を食品や農作物にした際に、第1工程を、上記検査対象物に残留する可能性のある多種類の農薬に対して農薬と疑われるものがある陽性反応を示すか否かにつき判断するためのガスクロマトグラフ質量分析法にて定性分析を行って、陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合は残留する農薬の種類を特定する第1工程(B)とすることに何ら困難性はない。
そして、農薬等を質量分析方法で定性分析する際に、データベース中の標準スペクトルデータと、試料を測定したスペクトルデータとを比較して成分の特定を行うことは、例えば、特開2001-249114号公報(【0006】)、特開2004-251830号公報(【0003】【0004】)、特開平9-231938号公報(【0003】)にも記載されるように、本願出願前の常套手段であり、予め備えておく標準スペクトルデータは、検出対象とされる物質に対応したものでなければならないことは、物質の特定をするという質量分析方法による定性分析の目的から、当然のことである。
さらに、刊行物3には、質量分析で、異性体を特定することができること、異性体ごとに異なるスペクトルデータが得られることが記載されていることから、検出対象物質の異性体のスペクトルデータを標準スペクトルデータとして用い、未知試料中の異性体の特定が可能であるといえる。
そうすると、刊行物1発明の検査対象物を食品や農作物とした場合、検出対象物質が、残留農薬基準が設定されている全ての農薬となるから、そのスペクトルデータとその異性体についてのスペクトルデータを予めデータベース等に備えておき、これを農薬の特定に用いることに、格別の困難性を要するとはいえいない。

(相違点3について)
安全性の確保のために食品や農作物について、残留農薬の特定、つまり定性だけでなく、残留農薬を定量し、残留農薬の濃度が許容値以下か否かを判定する必要があることは、特開2002-62265号公報(【0001】)、特開平8-170941号公報(【001】)に記載されるとおり、本願出願前の技術常識である。
そして、刊行物1(上記(1e))には、共存するマトリックスが複雑なサンプルを迅速に、多種類の農薬を1μg/Lまで短時間で定性分析が可能であること、また非常に時間のかかるサンプルを定量分析する前のスクリーニング試験として使用すれば、迅速に分析できるため非常に有用であることが記載されており、上記(相違点1について)で検討したように、刊行物1発明の検査対象物を食品や農作物とした場合でも、検査対象物の前処理を必要とし、多種類の農薬を分析する点で共通する刊行物1発明の定性分析工程をスクリーニング試験として、定性分析で検出された農薬のみについて農薬量の定量分析を行い、残留農薬の濃度が許容値以下か否かを判定する工程、つまり、農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する工程を設け、食品や農作物の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法とすることることは、当業者が容易になし得たものといえる。さらに、本願補正発明は、定量分析で農薬が検出されるか否か判断して、農薬が検出されなかった場合は、検査を終了し、農薬が検出された場合に上記判断をおこなうことを規定しているが、刊行物1発明で、上記のとおり定量工程を設けた場合、このようなことは当然行うことである。

(本願補正発明の効果について)
そして、本願補正発明の、残留農薬の定量分析を合理的で効率的に、迅速かつ高精度に行うことができ、安全性の検査の労力、時間及び費用が削減できるという効果は、刊行物1ないし3の記載事項及び周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえいない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むずび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされてる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年8月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。
なお、平成20年3月19日付けの手続補正は平成20年7月4日付けで補正却下された。

「【請求項1】
食品や農作物等の検査対象物に残留する農薬の量を測定して安全をみる検査方法であって、上記検査対象物を磨砕し有機溶媒を用いて農薬成分を抽出する前処理(A)と、その後に、上記検査対象物に残留する可能性のある多種類の農薬に対して陽性反応を示すか否かにつきガスクロマトグラフ質量分析法にて定性分析を行って、残留する農薬の種類を特定する第1工程(B)と、その後、陽性反応を示す種類の農薬のみについて農薬残留量を定量分析し、該農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する第2工程(C)とを、有することを特徴とする検査方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物1及び2の記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 1」において検討した本願補正発明について、「検査対象物」の種類について、「等」を付加し「食品や農作物等」とし拡張し、「第1工程(B)」の「陽性反応」について、「農薬と疑われるものがある」との限定を省き、「定性分析」について、陽性反応を示すか否かにつき「判断するための」ものであるとの限定を省き、「残留する農薬の種類を特定する」ことについて、「陰性の場合は検査を終了し、陽性の場合」に行うとの限定を省き、「第2工程(C)」の「農薬残留量が安全基準値以内にあるか否かを判断する」ことについて、「農薬が検出されるか否か判断して、農薬が検出されなかった場合は、検査を終了し、農薬が検出された場合」に行うものであるとの限定を省き、「ガロマトグラフ質量分析法」について、「上記第1工程(B)に於ける上記ガスクロマトグラフ質量分析法による定性分析に使用する質量スペクトルから成る農薬データは、残留農薬基準が設定されている全ての農薬及びそれぞれの農薬の異性体についてのデータを備えている」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明は、上記のとおり、質量スペクトルからなる農薬及びその異性体のデータを備える限定を省いたものであるから、前記「第2 3」に記載したこの点を含む相違点2についての判断で用いた刊行物3を使用するまでもなく、本願発明は同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-27 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-25 
出願番号 特願2005-48254(P2005-48254)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 隆一朗  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 竹中 靖典
郡山 順
発明の名称 検査方法  
代理人 中谷 武嗣  

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