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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01K
管理番号 1220070
審判番号 無効2009-800203  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-18 
確定日 2010-06-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3143576号発明「釣り用具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第3143576号(請求項の数[1]、以下、「本件特許」という。)は、平成7年3月22日に特許出願された特願平7-62474号に係るものであって、その請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)について、平成12年12月22日に特許の設定登録がなされた。

これに対して、平成21年9月18日に、本件特許発明に係る特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2009-800203号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の平成21年12月14日付けで訂正請求書及び審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成22年2月19日に請求人より、同年4月6日に被請求人より、それぞれ、口頭審理陳述要領書が提出され、同年4月6日に口頭審理が行われたものである。


第2.訂正の請求について

1.訂正の請求の内容

被請求人の平成21年12月14日付けの訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めるものであり、その内容は以下のとおりである。

訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を
「所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されていることを特徴とする釣り用具。」
から
「所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射することを特徴とする釣り用具。」
と訂正する。

訂正事項2
本件特許明細書の段落【0009】の
「【課題を解決するための手段】本発明は、所定形状に成形された部材本体と、前記部材本体上に形成され、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されていることを特徴とする釣り用具を提供する。」
の記載を
「【課題を解決するための手段】本発明は、所定形状に成形され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射することを特徴とする釣り用具を提供する。」
と訂正する。

訂正事項3
本件特許明細書の段落【0011】の
「本発明の釣り用具における装飾層は、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で粒子が分散されるように形成する。ここで、特定の密度とは、光輝性を充分に発揮できる程度の密度のことを意味する。したがって、この特定の密度は、下地の色や装飾層の色により異なり、適宜設定する必要がある。また、粒子は、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で装飾層中に分散させて配置する。このような配置にすることにより、粒子における光の乱反射を防止し、光輝性を充分に発揮させることができる。」
の記載を
「本発明の釣り用具における装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で粒子が分散されるように形成する。ここで、特定の密度とは、光輝性を充分に発揮できる程度の密度のことを意味する。したがって、この特定の密度は、下地の色や装飾層の色により異なり、適宜設定する必要がある。また、粒子は、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で装飾層中に分散させて配置する。このような配置にすることにより、粒子における光の乱反射を防止し、光輝性を充分に発揮させることができる。」
と訂正する。

訂正事項4
本件特許明細書の段落【0014】の
「【作用】本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子が全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている装飾層を具備することを特徴としている。」
の記載を
「【作用】本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子がほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている装飾層を具備することを特徴としている。」
と訂正する。

訂正事項5
本件特許明細書の段落【0015】の
「装飾層中の粒子が特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されているので、装飾層に入射した光は規則性を有して特定方向に反射する。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成することができる。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、装飾層が全面にわたってムラなく光輝性を発揮する。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、全面にわたって光輝性を効率よく発揮させることができる。」
の記載を
「装飾層中の粒子がほぼ同一平面上に、特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されているので、装飾層に入射した光は規則性を有して特定方向に反射する。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成することができる。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、装飾層が全面にわたってムラなく光輝性を発揮する。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、全面にわたって光輝性を効率よく発揮させることができる。」
と訂正する。

訂正事項6
本件特許明細書の段落【0032】の
「【発明の効果】以上説明した如く本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子が全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されるように形成された樹脂製の装飾層を具備するので、優れた光輝性による良好な外観を有し、しかも優れた強度および耐久性を発揮するものである。」
の記載を
「【発明の効果】以上説明した如く本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子がほぼ同一平面上に全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されるように形成された樹脂製の装飾層を具備するので、優れた光輝性による良好な外観を有し、しかも優れた強度および耐久性を発揮するものである。」
と訂正する。

2.訂正の適否

訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された発明特定事項である「粒子が・・・分散されている」について、「ほぼ同一平面上に、」との限定を付加する訂正事項を含む。当該訂正事項は、訂正前の請求項1に係る発明における、粒子の分散状態を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正事項は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、訂正事項1は、「装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射する」という記載を付加する訂正事項を含む。当該訂正事項は、訂正前の請求項1に記載された発明特定事項である「光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態」を光の反射方向を用いて説明したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

訂正事項2ないし6について
訂正事項2ないし6は、訂正事項1により請求項1の記載が訂正されたのに伴って、本件特許明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、当該訂正事項は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

3.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、結論のとおり訂正を認める。

第3.本件特許明細書の記載

上記のとおり本件訂正が認められたため、本件特許明細書には、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、以下の記載がある。

(イ)「【請求項1】所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射することを特徴とする釣り用具。」

(ロ)「【0011】「本発明の釣り用具における装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で粒子が分散されるように形成する。ここで、特定の密度とは、光輝性を充分に発揮できる程度の密度のことを意味する。したがって、この特定の密度は、下地の色や装飾層の色により異なり、適宜設定する必要がある。また、粒子は、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で装飾層中に分散させて配置する。このような配置にすることにより、粒子における光の乱反射を防止し、光輝性を充分に発揮させることができる。」

(ハ)「【0015】装飾層中の粒子がほぼ同一平面上に、特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されているので、装飾層に入射した光は規則性を有して特定方向に反射する。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成することができる。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、装飾層が全面にわたってムラなく光輝性を発揮する。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、全面にわたって光輝性を効率よく発揮させることができる。」

(ニ)「【0022】・・・粒子13の厚さは2μm以下であることが好ましい。これは、粒子13の厚さが2μmを超えると装飾層中に配置する際に凹凸ができ易く、光輝性が低下するからである。・・・」

(ホ)「【0025】上記のようにして装飾層14を形成する場合、装飾層14の表面は平滑であることが好ましい。このようにすることにより、装飾層14において鏡面状の光反射を均一に実現することができる。」

(ヘ)「【0027】上記構成を有する装飾層14は、光輝性を有する粒子13が下面近傍に特定の密度で均一に配置されている。この状態を図2および図3に示す。図2は装飾層14を上方から撮影した顕微鏡写真であり、図3は本発明にかかる装飾層を有するリールの断面を撮影した顕微鏡写真である。図2および図3から分かるように、粒子13のレベルで多少の凹凸はあるものの、ほぼ同一平面上に全面にわたって粒子13が一定の密度で均一に配置されている。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られるような光輝性を示す。」

第4.当事者の主張

1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要

請求人は、平成21年9月18日付けの審判請求書及び平成22年2月19日付けの口頭審理陳述要領書において、甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、次の無効理由1及び2を主張した。

無効理由1:本件特許明細書の特許請求の範囲の「特定の密度」とはどのような密度か、「均一に」とはどの程度均一なのか、また、「光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態」は、どの程度の反射の状態で乱反射としているのか不明である。また、発明の詳細な説明においても、それらの構成を実施できるように記載されていない。したがって、本件明細書は特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反しているから、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

無効理由2:本件特許発明も甲第1号証に記載の発明も、ともに、光輝性の美的外観を向上させるという点で一致しており、本件特許発明は甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

甲第1号証:特開平3-219822号公報

甲第2号証:塗装工学(第16巻第1号)第21?26頁「アルミニウム・ペーストことはじめ」(1981年1月30日、日本塗装技術協会発行)

甲第3号証:昭和電工株式会社、昭和アルミパウダー株式会社のパンフレット「アルミニウム ペースト」(92年5月発行)

甲第4号証:特開平2-245072号公報

甲第5号証:特開昭64-11170号公報

2.被請求人の主張

これに対して、被請求人は、平成21年12月14日付けの審判事件答弁書及び平成22年4月6日付けの口頭審理陳述要領書において、乙第1ないし3号証及び検乙第1ないし2号証を提示し、以下のとおり主張している。
無効理由1に対して
「特定の密度」とは、本件特許明細書の段落【0011】に記載されているように、光輝性を十分に発揮できる程度の密度を意味する。「均一に」も、「光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態」も、ともに光輝性を十分に発揮させるための要件であり、これらの要件を備えることにより、本件特許明細書の段落【0015】に記載されているように、「金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成する」という効果を発揮する。したがって、本件明細書は、特許法第36条第4項及び第6項の規定を満たしている。

無効理由2に対して
本件特許発明は、装飾層中の粒子が特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散させることにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観模様を形成するのに対して、甲第1号証の発明は、外部からの光が透明保護層を通過して、透明樹脂層内に進行し、光反射用粒子に衝突反射して、より深みあるいは立体感の充分にある外観を得るようにしたものである。したがって、甲第1号証の発明の目的を達成するために、甲第2?5号証に記載の発明を適用したとしても、得られた塗膜は「より深みあるいは立体感のある外観」であるから、甲第1号証から出発して、本件特許の特徴である「金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観」に到達することは困難である。
また、甲第1?5号証には、本件特許発明の構成要件である「粒子がほぼ同一平面上に特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている」という事項は開示されていない。
したがって、本件特許発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとした請求人の主張は失当である。

乙第1号証:検乙第1号証の「金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観」を有する該当箇所を矢示した写真

乙第2号証:検乙第2号証の「深みあるいは立体感のある外観」を有する該当箇所を矢示した写真

乙第3号証:甲第3号証の2頁目のカラーコピー

検乙第1号証:金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有する被請求人の製品(スピニングリール)

検乙第2号証:甲第1号証に係る被請求人の製品(釣竿)


第5.無効理由についての当審の判断

1.無効理由1について
本件特許発明は、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成し、かつ、装飾層が全面にわたってムラなく光輝性を発揮するように、本件特許明細書の請求項1に記載の構成を備えたものである(上記摘記事項(イ)及び(ハ)参照)。
そうであれば、本件特許発明における光輝性とは「金属を鏡面状に研磨したときに得られる」程度の光輝性を示すものであり、当該記載における「ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射する」という事項が、そのような光輝性を実現するために、装飾層で反射した光が乱反射することなく、鏡の表面のように光を反射する必要があることは明らかである。
してみると、本件特許明細書の請求項1の記載において、「特定の密度」、「均一に」及び「光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態」とは、いずれも、本件特許発明が鏡の表面のように光を反射する程度の「密度」、「均一さ」及び「凹凸のなさ」を示す表現であるといえる。そして、通常は、鏡を見ればそれが鏡であると認識できることから、本件特許発明に係るものと、そうでないものとは、鏡のような表面を有するか否かによって明確に区別できる。そうであるから、これらの記載が不明確ということはできない。
また、本件特許明細書には、本件特許発明の具体的実施例が記載されており(段落【0019】?【0021】参照)、上記各摘記事項とともに、その構成を容易に実施できる程度に記載されているというべきである。
したがって、無効理由1によっては、本件特許を無効とすることはできない。

2.無効理由2について

(1)甲第1?5号証の記載事項

(a)甲第1号証の記載事項

本件の特許出願前に頒布された甲第1号証には、次の事項が記載されている。

(a1)「本発明は、釣竿,ゴルフクラブ,ラケット,その他種々の部材の表層部構造に係わり、特に、部材の美的外観を向上することのできる部材の表層部構造およびその製造方法に関する。」(1頁右下欄6?9行)
(a2)「しかしながら、このような従来の釣竿では、粒子あるいは塗膜の表面のみしか外観できないため、深みあるいは立体感のない美的外観になるという問題があった。
そして、従来から、深みあるいは立体感のある外観が要望されているが、薄肉の被覆層で深みあるいは立体感のある外観を得ることは、非常に困難であり、被覆層の肉厚が増大し、重量が増大するという問題があった。
本発明はかかる従来の問題を解決するためになされたもので、深みあるいは立体感の充分にある外観を容易に得ることのできる部材の表層部構造およびその製造方法を提供することを目的とする。」(2頁左上欄2?14行)
(a3)「請求項1の表層部構造は、部材本体に、光反射用粒子を混在させた透光性を有する透明樹脂層を形成し、この透明樹脂層の外側に、透光性を有する透明保護層を形成してなるものである。」(2頁左上欄16?19行)
(a4)「以下、本発明の詳細を図面に示す実施例について説明する。
第1図は第2図の管状体の表層部構造の詳細を示しており、第2図は本発明の表層部構造の一実施例を備えた、例えば、釣竿,ゴルフシャフト等の管状体を示している。」(2頁右下欄2?7行)
(a5)「しかして、この実施例では、第1図に示すように、部材本体11には、光反射用粒子13を混在させた透光性を有する透明樹脂層15が形成されている。
そして、この透明樹脂層15の外側には、透光性を有する透明保護層17が形成されている。
第3図は、透明樹脂層15に混在される光反射用粒子13の詳細を示すもので、この光反射用粒子13は、透光性を有する内核19と、この内核19の外側に形成された光反射率の大きい材料からなる外殻21とから形成されている。
なお、この光反射用粒子13の外径は、例えば、50?500ミクロンメートルとされており、内核19は、透光性を有するガラス,樹脂等により形成されている。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄10行)
(a6)「この後、研磨された部材本体11の表面に、光反射率の大きい光反射用粒子13を混在させた透明塗料が塗布され、透明樹脂層15が形成される。
ここで、透明塗料は、例えば、光反射用粒子13を体積比で30%混入し、例えば、ウレタンからなる主剤に、例えば、イソシアネートからなる硬化剤を2対1の割合で混合したものが使用される。
また、透明塗料の塗布は、例えば、ガン吹き(スプレー)塗装により行なわれ、例えば、光反射用粒子13の粒径が50?100ミクロンメートルのガラスフレークの時には、シンナーにより40%に希釈した状態で行なわれる。
なお、ガン吹きは、光反射用粒子13を均等に分散させるのに最適であるが、刷毛塗りあるいは扱き塗装等を用いても良い。
・・・
そして、この後、研磨された透明樹脂層15の外側に、エポキシ、ウレタン等の塗料が塗布され透明保護層17が形成される。
しかして、以上のように構成された表層部構造では、部材本体11に、光反射用粒子13を混在させた透光性を有する透明樹脂層15を形成し、この透明樹脂層15の外側に、透光性を有する透明保護層17を形成したので、外部からの光りは、透明保護層17を通過して、透明樹脂層15内に進行し、光反射用粒子13に衝突反射して、透明保護層17を通って人間の目の網膜に達するため、深みあるいは立体感の充分にある外観を容易に得ることが可能になり、デザイン効果の優れた商品を容易に提供することができる。
また、透明樹脂層15を透明保護層17で覆ったので、透明樹脂層15の色調変化,脹れ等を確実に防止することが可能になり、さらに、透明樹脂層15が比較的薄肉であり、光反射用粒子13が透明樹脂層15に一体形成されるため、部材本体11の剛性,強度等に悪影響を与えることもない。」(3頁右上欄9行?右下欄11行)
(a7)「また、以上のように構成された部材の表層部構造では、光反射用粒子13を、透光性を有する内核19と、この内核19の外側に形成され光を反射するための外殻21とから構成したので、透明樹脂層15の表面を研磨等すると,表面に位置する光反射用粒子13の表面側部分が削り取られ、透明保護層17からの光りは、第1図の矢符Aに示したように、光反射用粒子13の内核19に進行し、外殻21の内周面でも反射することになるため、透明樹脂層15が薄肉であっても、より深みあるいは立体感のある外観を得ることが可能になる。」(3頁右下欄12行?4頁左上欄3行)
(a8)「以上述べたように、請求項1の表層部構造では、部材本体に、光反射用粒子を混在させた透光性を有する透明樹脂層を形成し、この透明樹脂層の外側に、透光性を有する透明保護層を形成したので、外部からの光りは、透明保護層を通過して、透明樹脂層内に進行し、光反射用粒子に衝突反射して、透明保護層を通って人間の目の網膜に達するため、深みあるいは立体感の充分にある外観を容易に得ることが可能となる。」(4頁左下欄16行?右下欄5行)

上記甲第1号証の記載事項及び添付図面に記載された事項並びに当業者の技術常識を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「所定形状の部材本体(11)と、研磨された部材本体上に形成され外径が50?500ミクロンメートルの光反射用粒子(13)を混在させた透光性を有する透明樹脂層(15)とを具備し、外部からの光りは、透明樹脂層内に進行し、光反射用粒子に衝突反射して、透明保護層を通って人間の目の網膜に達する釣り用具。」(以下、これを「甲1発明」という。)

(b)甲第2号証の記載事項

本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

(b1)「アルミニウム・ペースト中のアルミニウム粒子の形状,大きさ,厚み
アルミニウム・ペースト中のアルミニウム粒子は,一般顔料と異なり,粒子形状が鱗片であり,また比較的,粒子径が大きい特徴がある。・・・その厚みは0.1μmとか,1.3μmとかになる。乾式法で作られるアルミニウム粉の厚みは,・・・非常に薄くまで延ばされている。粒子の大きさは用途によって決まるが,メタリック塗料用としては,フルイ残分44μm,0.1%以下である。」(24頁右欄14行?25頁左欄20行)
(b2)「アルミニウム・ペーストの種類
アルミニウム・ペーストは,・・・性質面からは,キシロール中でリーフィングするかどうかによって,リーフィング・タイプと,ノンリーフィング・タイプとに分けられる(表1)。
さらに,粒子の大きさによって,3つないし5つに,それぞれ分けられる。」(25頁左欄21行?28行)
(b3)「リーフィング・タイプ・アルミニウム・ペースト
・・・
リーフィング・タイプ・アルミニウム・ペーストは,アルミニウム粒子表面に,ステアリン酸が吸着しているので,適当なペイント・ビヒクルに混合した時,アルミニウム粒子自体の比重が2.5であるにもかかわらず,ビヒクル中に浮上し,その表面に平行配列する,いわゆる,リーフィング現象を有する特徴がある。」(25頁右欄6行?12行)
(b4)「リーフィング・タイプ・アルミニウム・ペーストは,被塗物の保護、光の反射、美観の目的で構造物,船舶,車輌,印刷などに使用されている。」(26頁左欄5?8行)

上記甲第2号証の摘記事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「粒子形状が鱗片で、粒子の大きさはフルイ残分44μm,0.1%以下で、その厚みは0.1μm?1.3μmである、メタリック塗料用リーフィング・タイプ・アルミニウム・ペースト」(以下、これを「甲2発明」という。)

(c)甲第3号証の記載事項

本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(c1)「■アルミペーストの特長
・・・その形状は非常に薄い鱗片状となっており、少量で非常に遮蔽力が高く、また攪拌混合だけで容易に塗料系に分散させることができます。」
(c2)「■その2/光/熱の反射」として、塗膜の断面図とともに、リーフィングでは塗膜の厚み全体にアルミニウム粒子が分散され、表面に入射した光熱が表面のアルミニウム粒子により規則性を有して特定方向に反射するようすが記載されている。(下図参照)


(d)甲第4号証の記載事項

本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

(d1)「(1)厚み0.5?1.5μ、平均粒径10?45μのアルミ箔、ブロンズ箔、錫箔、金箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル箔、銅箔およびこれらの合金箔、プラスチックで被覆した金属箔、箔状フタロシアニンブルーからなる群より選ばれるリン片状金属顔料と、太さ0.05?0.1μ、長さ1?5μの針状酸化チタンとを1対0.05?12の重量比で含むことを特徴とする塗料組成物。
・・・」(特許請求の範囲)

(e)甲第5号証の記載事項

本件の特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

(e1)「(1)厚み0.5?1.5μ、平均粒径10?45μのアルミ箔、ブロンズ箔、錫箔、金箔、銀箔、チタン金属箔、ステンレススチール箔、ニッケル箔、銅箔およびこれらの合金箔、プラスチックで被覆した金属箔、箔状フタロシアニンブルーからなる群より選ばれるリン片状金属顔料と、粒径5?400mμの超微粒子を1対0.05?12の重量比で含むことを特徴とする塗料組成物。
・・・」(特許請求の範囲)

(2)甲1発明との対比
上記のとおり、本件訂正が認められ、かつ、無効理由1には理由がないことから、本件特許発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認める(上記「第3.(イ)」参照)。
本件特許発明と、甲1発明とを対比すると、甲1発明の「研磨された部材本体」、「透明樹脂層」及び「透明樹脂層内に進行する外部からの光」は、それぞれ、本件特許発明の「平滑面を有する部材本体」、「装飾層」及び「装飾層に入射した光」に相当する。また、甲1発明の「光反射用粒子」と本件特許発明の「箔状の粒子」とは、ともに「光を反射する粒子」である点で共通する。さらに、甲1発明の「透明樹脂層」と本件特許発明の「装飾層」とは、ともに「光を反射する粒子を含む層」である点で共通する。

してみれば、両者は、
「所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され光を反射する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、装飾層に入射した光が反射する釣り用具。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:光を反射する粒子が、本件特許発明では、大きさが30μm以下で厚さが2μm以下の箔状の粒子であるのに対して、甲1発明では、外径が50?500ミクロンメートルの光反射用粒子であり、また、装飾層の構造が、本件特許発明では、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射するのに対して、甲1発明では、光反射用粒子が装飾層内に混在されているものの、その具体的構成は明らかでない点。

(3)相違点についての判断

上記相違点について検討する。
光を反射する表層部構造として、箔状の粒子を装飾層内に配置させ、装飾層に入射した光を規則性を有して特定方向に反射する表層部構造は、甲2発明に見られるとおり、公知のものである。
ところで、本件特許発明において相違点にかかる粒子を、同じく相違点にかかる構造で装飾層内に配置させるのは、「金属を鏡面状に研磨したときに得られる」程度の光輝性を示し、装飾層で反射した光が乱反射することなく、鏡の表面のように光を反射するようにするため(上記「第5.1.」参照)である。
これに対して、甲1発明は「深みあるいは立体感の充分にある外観を容易に得ることのできる部材の表層部構造」を実現するために上記相違点に係る構成を採用したものである。
してみると、たとえ甲2発明が公知であったとしても、当業者が、その発明を、実現しようとする具体的到達点の異なる甲1発明に適用しようとする合理的な理由はない。仮に適用したとしても、甲1?2発明は「ほぼ同一平面上に、・・・粒子が分散され」という本件特許発明の相違点に係る構成を有しないことから、本件特許発明が甲第1及び2号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
また、甲第3?5号証にも、本件特許発明のような「金属を鏡面状に研磨したときに得られる」程度の光輝性を示し、装飾層で反射した光が乱反射することなく、鏡の表面のように光を反射するようにするための、相違点に係る構成が記載若しくは示唆されているとは認められない。
なお、請求人は本件特許発明も甲1発明も、ともに、光輝性を有する美的外観を向上させるという点で一致する旨主張しているが、上記のとおり、本件特許発明と甲第1?5号証に記載のものとでは、光輝性の有する技術的意味が異なるものであるから、請求人の当該主張は採用できない。

(4)まとめ

そうすると、本件特許発明は、甲1及び2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第6.むすび

以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を、特許法第29条第2項の規定に違反するとすることができないから、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当せず、また、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を、特許法第36条第4項及び6項に規定する要件を満たしていないとすることができないから、同法第123条第1項第4号の規定に該当せず、無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。


よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
釣り用具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射することを特徴とする釣り用具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、リール、釣り竿等の釣り用具に関する。
【0002】
【従来の技術】従来よりリール、釣り竿等の釣り用具に光輝性を発揮する層を設けて美的外観を向上させている。例えば、特開平3-219822号公報には、光反射用粒子を混在させた透明樹脂層を設けてなる釣り竿が開示されている。この釣り竿は、図5に示すように、所望形状に成形された部材本体51上に光反射用粒子52を含む透明樹脂層53が形成されており、さらに透明樹脂層53上に透明保護層54が形成されてなるものである。
【0003】このような構成を有する釣り竿においては、光反射用粒子52が透明樹脂層53中にほぼ均一に分散されているので、透明樹脂層53の深さに関係なく内部からも光の反射が起こり、深みのある、すなわち立体感のある外観を得ることができる。
【0004】また、釣り竿の部材本体の外側に金箔、銀箔等の金属箔を貼着して光輝性を発揮させることも行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公報において開示されている釣り竿の場合、透明樹脂層53中に光反射用粒子52がほぼ均一に分散されているので、乱反射が起こり光の反射方向が一定でなくなる。
【0006】また、透明樹脂層53中の深さ方向においてもほぼ均一に分散されているので、透明樹脂層53の下方、すなわち部材本体51に近い領域に位置する光反射用粒子まで到達した光は、そこで反射しても、より上方に位置する粒子に遮られたりする。このため、透明樹脂層53の下方の光反射用粒子まで光が達する領域では、入射量よりも出射量が少なくなる可能性がある。したがって、上記公報において開示されている釣り竿の場合、場所により光の反射にバラツキが生じる。その結果、釣り竿全体としてくすんだ感じの外観となり、消費者の購買意欲を喚起するような所望の光輝性を得ることができない。
【0007】一方、釣り竿の部材本体の外側に金属箔を貼着する場合、釣り竿に外部から応力が加わったり、曲げ変形により歪みが生じると、金属箔に亀裂が発生して金属箔が部材本体から剥離したり、金属箔が波打ったりしてしまう。その結果、金属箔に亀裂が発生した部分では光の反射が少なくなり、釣り竿全体として光の反射にバラツキが生じる。この場合にも、消費者の購買意欲を喚起するような所望の光輝性を得ることができない。
【0008】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、優れた光輝性による良好な外観を有し、しかも強度および耐久性に優れた釣り用具を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、所定形状に形成され、平滑面を有する部材本体と、前記部材本体上に形成され、厚みが2μm以下の薄い金属箔状の、光輝性を有する粒子を含む樹脂からなる装飾層とを具備し、前記装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で前記粒子が分散されて、装飾層に入射した光が規則性を有して特定方向に反射することを特徴とする釣り用具を提供する。
【0010】本発明の釣り用具の対象となるものとしては、リール、釣り竿、玉網、ルアー等を挙げることができる。
【0011】本発明の釣り用具における装飾層は、ほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で粒子が分散されるように形成する。ここで、特定の密度とは、光輝性を充分に発揮できる程度の密度のことを意味する。したがって、この特定の密度は、下地の色や装飾層の色により異なり、適宜設定する必要がある。また、粒子は、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で装飾層中に分散させて配置する。このような配置にすることにより、粒子における光の乱反射を防止し、光輝性を充分に発揮させることができる。
【0012】本発明において、装飾層中に分散される粒子は、特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されていれば、装飾層中のいずれの領域に配置されていてもよい。すなわち、装飾層中に分散される粒子は、装飾層における部材本体に近い領域に配置されていてもよく、装飾層における中央領域に配置されていてもよく、装飾層における上層部領域に配置されていてもよい。装飾層を形成する上では、装飾層中に分散される粒子を部材本体に近い領域に配置することが好ましい。
【0013】本発明において、部材本体と装飾層との密着性を向上させるために、両者の間に下地層を設けることが好ましい。また、耐久性向上のために、装飾層上に保護層を形成することが好ましい。なお、下地層および保護層は、単層であってもよいし、複数層であってもよい。
【0014】
【作用】本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子がほぼ同一平面上に、全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている装飾層を具備することを特徴としている。
【0015】装飾層中の粒子がほぼ同一平面上に、特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されているので、装飾層に入射した光は規則性を有して特定方向に反射する。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られる光輝性を有した外観を形成することができる。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、装飾層が全面にわたってムラなく光輝性を発揮する。また、装飾層全面にわたって均一な密度で粒子が分散されているので、全面にわたって光輝性を効率よく発揮させることができる。
【0016】さらに、粒子は、装飾層を構成する合成樹脂により一体的に固定されるので、釣り用具に外部から応力が加わったり、曲げ変形により歪みが生じても、実質的に粒子には応力や歪みは加わらない。このため、装飾層の剥離や装飾層の亀裂の発生を防止することができ、強度や耐久性が向上する。
【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照して具体的に説明する。
【0018】(実施例1)図1は本発明の釣り用具であるリールの一実施例を示す断面図である。図中11は部材本体を示す。部材本体11上には、下地層12が形成されている。下地層12上には、下面近傍(部材本体側)に比較的高密度に密集して全面にわたって均一に配置された光輝性を有する粒子13を含む装飾層14が形成されている。さらに、装飾層14上には、保護層15が形成されている。なお、図1において、装飾層14中の粒子13は、多少の凹凸を有して配置されているが、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている。
【0019】部材本体11を構成する材料としては、合成樹脂、繊維強化プラスチック、金属、またはセラミック等を用いることができる。部材本体11上に直接装飾層14を形成する場合には、装飾層14を良好に形成することができるように、部材本体11の表面をほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。部材本体11の表面を平滑に仕上げる方法としては、バレル研磨、バフ仕上げ等を挙げることができる。
【0020】下地層12は、塗装、メッキ等の方法で形成することができる。また、下地層12の材料は、部材本体11および装飾層14を構成する合成樹脂との密着性を考慮して選択する必要がある。例えば、下地層12を塗装で形成する場合、エポキシ系やウレタン系の塗料等を用いることができる。下地層12の厚さは、5?30μmであることが好ましい。これは、下地層12の厚さが5μm未満であると部材本体11の凹凸に下地層12が追従して下地層12の表面が平滑にならず、下地層12の厚さが30μmを超えると釣り用具全体の重量が増加するからである。なお、下地層12の表面は、装飾層14を良好に形成することができるように、ほぼ鏡面状の平滑に仕上げることが好ましい。
【0021】光輝性13を有する粒子としては、金、銀、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、銅、錫、クロム、コバルト、黄銅、鉄、ステンレス、ニッケル、亜鉛等からなる薄い箔状のものを用いることが好ましい。この薄い箔状の粒子は、テフロンやシリコーン樹脂等からなるフィルム状の支持基板上に上記金属を蒸着またはスパッタリングして金属層を形成し、その後金属層を支持基板から剥離して粉砕することにより作製することができる。
【0022】この場合、粒子13の大きさは好ましくは30μm以下、さらに好ましくは5?20μmである。これは、粒子13の大きさが30μmを超えると配置された粒子の境界が目立つようになったり、光の反射方向が一定しなくなり、均質な光輝性が発揮できないからである。また、粒子13の厚さは2μm以下であることが好ましい。これは、粒子13の厚さが2μmを超えると装飾層中に配置する際に凹凸ができ易く、光輝性が低下するからである。さらに、粒子13の厚さは0.03?1.0μmであることが特に好ましい。これは、粒子13の厚さが0.03?1.0μmの範囲内であれば粒子13を光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散させて配置することができ、良好に光を反射させることができ、実用的である。なお、粒子13の厚さは、支持基板上に形成する金属層の厚さを調節することにより制御が可能である。
【0023】装飾層14の材料としては、前記粒子13を安定に保持することができるエポキシ系、ウレタン系等であって光の隠蔽性が小さい合成樹脂を用いることができる。また、装飾層14の厚さは2μm以上であればよいが、20μm以下であることが好ましい。これは、装飾層14の厚さが2μm未満であると厚さ2μmの粒子を用いた場合に粒子が露出してしまうからである。
【0024】部材本体11または下地層12上に装飾層14を形成する方法としては、粒子13を特定の密度で均一に合成樹脂に混合して塗料を作製し、その塗料を部材本体に塗布した後、乾燥・硬化させる方法、部材本体11または下地層12に合成樹脂を塗布して半硬化の状態としておき、前記粒子13をその上に光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で配置し、その後合成樹脂を完全硬化させる方法等が挙げられる。後者の方法においては、粒子13を光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で配置した後に再び合成樹脂を塗布した後に硬化させてもよい。前記粒子13を配置する場合、あらかじめ前記粒子13に接着被膜を形成することもできる。なお、半硬化および完全硬化は、合成樹脂の硬化温度や硬化時間等の硬化条件を調節することにより制御することができる。
【0025】上記のようにして装飾層14を形成する場合、装飾層14の表面は平滑であることが好ましい。このようにすることにより、装飾層14において鏡面状の光反射を均一に実現することができる。
【0026】保護層15は、塗装等の方法で形成することができる。また、保護層15の材料は、装飾層14を構成する合成樹脂との密着性を考慮して選択する必要があり、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等であって光の隠蔽性の小さい合成樹脂等を用いることができる。
【0027】上記構成を有する装飾層14は、光輝性を有する粒子13が下面近傍に特定の密度で均一に配置されている。この状態を図2および図3に示す。図2は装飾層14を上方から撮影した顕微鏡写真であり、図3は本発明にかかる装飾層を有するリールの断面を撮影した顕微鏡写真である。図2および図3から分かるように、粒子13のレベルで多少の凹凸はあるものの、ほぼ同一平面上に全面にわたって粒子13が一定の密度で均一に配置されている。これにより、金属を鏡面状に研磨したときに得られるような光輝性を示す。
【0028】本実施例では、装飾層14の下面近傍においてほぼ同一平面上に粒子13が特定の密度で均一に配置されているが、装飾層14の厚さ方向における中央領域や上面近傍(保護層側)にほぼ同一平面上に粒子13を特定の密度で均一に配置してもよい。
【0029】(実施例2)図4は本発明の釣り用具であるリールの他の実施例を示す断面図である。図4において図1と同じ部分については、図1と同一符号を付して説明は省略する。図4は、装飾層14の下面近傍に比較的低密度(疎)で全面にわたって均一に配置された粒子13について示している。なお、図4において、装飾層14中の粒子13は、多少の凹凸を有して配置されているが、光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されている。
【0030】このように比較的低密度で配置された粒子の場合には、装飾層14に入射した光は、粒子13と下地層12の両方で反射され、それぞれの反射光が干渉し、光輝性のある種々の色を出す。例えば、下地が黒の場合には、Crメッキのような光輝色になり、下地が黄色い場合には、Auメッキのような光輝色になり、下地が白い場合には、AgメッキやNiメッキのような光輝色となる。
【0031】本実施例では、粒子13と下地層12の両方の反射光の干渉を利用して種々の光輝性のある色を出しているが、下地層の色を特定し、装飾層14を構成する合成樹脂を着色しておき、粒子13と合成樹脂の両方の反射光の干渉を利用して種々の光輝性のある色を出してもよい。
【0032】
【発明の効果】以上説明した如く本発明の釣り用具は、光輝性を有する粒子がほぼ同一平面上に全面にわたって特定の密度で均一に、かつ光の乱反射を起こす凹凸を有しない状態で分散されるように形成された樹脂製の装飾層を具備するので、優れた光輝性による良好な外観を有し、しかも優れた強度および耐久性を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の釣り用具の構成の一実施例を示す断面図。
【図2】本発明の釣り用具の装飾層を示す顕微鏡写真。
【図3】本発明の釣り用具の装飾層を示す顕微鏡写真。
【図4】本発明の釣り用具の構成の他の実施例を示す断面図。
【図5】従来の釣り用具の構成を示す断面図。
【符号の説明】
11…部材本体、12…下地層、13…光輝性を有する粒子、14…装飾層、15…保護層。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-04-27 
出願番号 特願平7-62474
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A01K)
P 1 113・ 537- YA (A01K)
P 1 113・ 536- YA (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋月 美紀子  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 山本 忠博
山口 由木
登録日 2000-12-22 
登録番号 特許第3143576号(P3143576)
発明の名称 釣り用具  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 金子 早苗  
代理人 河野 直樹  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 金子 早苗  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中村 誠  
代理人 堀内 美保子  
代理人 小林 茂雄  
代理人 河野 哲  

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