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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1220185
審判番号 不服2007-21032  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-30 
確定日 2010-07-16 
事件の表示 特願2003-353892「ゴルフボールの飛翔軌跡及び飛行を測定するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日出願公開、特開2004- 41775〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I 手続の経緯
本願は、パリ条約に基づく優先権主張を伴って平成11年9月8日(優先日、平成10年9月18日、米国)に出願された特願2000-571394号の一部を新たな特許出願として、平成15年10月14日に適法に出願された、いわゆる分割出願であって、平成18年9月11日付け拒絶理由通知によって拒絶理由が通知され、それに対して平成19年3月19日付けで意見書の提出ならびに手続補正がなされたものの、同年4月25日付けで拒絶査定がなされた。本件は、前記査定を不服として、平成19年7月30日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、同日付けで手続補正がなされている。

II 平成19年7月30日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年7月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、その補正は、請求項1について、補正前(平成19年3月19日付け手続補正によって補正。以下、同じ。)に
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
周囲の条件を含む現場指定データを入力する段階と、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と前記周囲の条件から前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成ることを特徴とする方法。」とあったものを
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
周囲の条件及び前記対象物の特性を含む現場指定データを入力する段階と、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と前記現場指定データから前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成り、
前記周囲の条件は、温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む、ことを特徴とする方法。」(下線は補正箇所を示す。)と補正するとともに、補正前の請求項2,5,19,20を削除するものであり、前記請求項1に係る補正は、補正前の「周囲の条件を含む現場指定データを入力する段階」、「前記計算された打ち出し条件と前記周囲の条件から前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階」ならびに「周囲の条件」について、「周囲の条件及び前記対象物の特性を含む現場指定データを入力する段階」、「前記計算された打ち出し条件と前記現場指定データから前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階」ならびに「前記周囲の条件は、温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む」と限定するものであるので、本件補正のうち請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かを、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)について以下に検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は、次のとおりのものである。
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
周囲の条件及び前記対象物の特性を含む現場指定データを入力する段階と、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と前記現場指定データから前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成り、
前記周囲の条件は、温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む、
ことを特徴とする方法。」

3 引用文献
(3-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-278169号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項41】 視野を通る物体の飛行の初期の部分をモニターする装置であって、
前記物体が飛行の初期の部分において通る前記視野に焦点を合わせた感光パネルを備えたカメラユニット、
前記物体が前記視野を通過する間に少なくとも2回その物体を照明する手段、前記物体上に設けられた3個以上の照明可能なマーカーであって、そのマーカーから反射された光が前記感光パネル上で結像するように前記物体上に配されるとともに、その物体上での位置が正確に決められているマーカー、および前記感光パネル上の像を処理して、物体の飛行の初期の部分の飛行状態を判定するコンピュータ手段、
からなることを特徴とする装置。」
(1b)「【請求項46】 前記物体の予想される飛行を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項41記載の装置。」
(1c)「【0074】以下図7を参照して本発明のさらに他の実施の形態を説明する。この実施の形態は校正装置30を必要としない以外は図5に示す実施の形態とほぼ同じである。すなわち本実施の形態においてはボール8”上のドットないしマーカーの位置が予め正確に決められている。言い換えれば予め正確に校正されている。そのドットないしマーカーは「Scotchlite」等の反射性の材料をボール8”の表面に付着させて形成するのが望ましい。
【0075】本実施の形態の装置3”はカメラユニット4”、コンピュータ5”、音響センサー6”、ティーアップされたゴルフボール8’および飛行表示ユニット60を備えている。カメラユニット4”は単一のカメラ18”を備えており、そのカメラ18”は受光用開口18a”、シャッター(図示せず)と図4に示したのと同様な感光性シリコンパネル18p”を備えている。このカメラ18”としてはCCDカメラ(754x244ピクセル)を使用するのが望ましいが、テレビ用のカメラも使用することができる。
【0076】カメラ18”に隣接して2個のフラッシュランプ21”、22”が配される。フラッシュランプ21”、22”は発散角が小さくなるようにカメラ18”にできる限り近く配され、これによってカメラ18”がマーカーA?Fからの光をより多く受光することができ、またマーカーA?Fからの光とボール表面の他の部分からの光や他の背景光とをより明確に区別することができる。
【0077】後述の写真式に基づいて、ボールの速度成分、スピン量成分等の打出し条件がコンピュータ5”に転送される。このような打出し条件に加えて、コンピュータ5”にはボール8”の飛行特性に関する情報が予めプログラムされている。一旦初期飛行データが測定され、分析されると、それから得られるボールの飛びがスクリーン60に映し出される。このスクリーン60はCRTであるのが望ましい。またそのボールの映像には様々なゴルフコースの背景を加えて、プレーの実感が得られるようにしてもよい。」
(1d)「【0086】カメラ18”から約25インチの距離にあるゴルフボール8”を打つと、ボール8”は図2に示すように(但し、本実施の形態では反射領域20a?20fの替わりにマーカーA?Fが用いられている)3次元視野35内を飛行する。この際、音響センサー6”が打球音を検出し、カメラ18”のシャッターを視野35内の光に対して開く信号を出力する。100マイクロ秒後、フラッシュランプ22”が発光してボール8”上の6個のマーカーA?Fを照明する。800マイクロ秒後に、他のフラッシュランプ21”が発光して、視野35内の初期の飛行経路に沿って約3?5インチ離れた位置の6個のマーカーA?Fを照明する。フラッシュライトの持続時間は1万分の1秒から2、3百万分の1秒である。外光の影響を小さくするためにカメラの受光用開口は極めて小さくされている。
【0087】その2位置のゴルフボール8”のマーカーA?Fで反射された光は図4に示すようにカメラ18”の感光パネル18p”の対応する領域25a?25f、25g?25lに達する。
【0088】ゴルフボール8”の寸法、ディンプルのパターン、重量分布等に基づくボールの飛行特性、カメラの作動間隔が既知であるので、これらと上述の共線変換式ないし写真測量式を使用してコンピュータ5”の演算回路は各撮影時における各マーカーA?Fの位置Xc,Yc,Zcを共通の座標系内で計算する。
【0089】マーカーA?Fの間に剛体(ボール8”)の制約条件があれば上記の写真測量式は最少3つのマーカーについて解けばよい。この剛体制限は非線形性あるいは非ユニーク性を加える。しかしながら、この非ユニーク性は本実施の形態のように方程式を解く因果律を与える余分のマーカーを使用することによって克服できる。
【0090】その位置情報と上述の既知のデータから、コンピュータ5”の演算回路は打球直後のボールの速度とスピンを3次元的に計算する。ボールの初速とスピン、さらにボール8”の空力特性(既知)が与えられれば、演算回路はボールの飛行経路と着地点を正確に予想することができる。
【0091】半径0.84インチのゴルフボール8”の3次元モニターはボール上の各マーカーA?Fの位置Xc,Yc,Zcをそのマーカーの質量中心の位置Tx,Ty,Tzと角度A,E,T の方向行列で表すことによって達成することができる。カメラ18”での各マーカー(j=1,2,…6)の位置Xc(j),Yc(j),Zc(j) は次の行列座標変換で与えられる。
【0092】
【数19】

【0093】但しθ(i),φ(i) はゴルフボール8”上のマーカーA?Fの球極座標であり、方向行列は次式で表される。
【0094】
【数20】

【0095】方向行列Mは固定されたカメラ18”の基準座標系にゴルフボール8”上の座標を結びつける3次元方向変換を与える。列ベクトル( 0.84sinθ(j)cosφ(j), 0.84sinθ(i)sinφ(j), 0.84cosφ(j))はゴルフボール8”に固定された座標系内のj番目のマーカーの位置を与える。マーカーA?Fの配列としては中心( 0°,0°)に1個、その周囲のθ(j) が37°、φ(j) が 0°、72°、 144°、 216°、 288°の位置に残りの5個を配するのが最適である。θが50°よりあまり大きいと、装置が最適に構成されていたとしても、フックやスライスがひどい場合にはボール上の6個のドットをとらえることができなくなる。
【0096】6個のマーカーjに対するカメラ座標U (j) 、V (j) が与えられたとき、解くべき方程式は次の通りである。j=1,6
【0097】
【数21】

【0098】上記式において、 X_(B) (j), Y_(B) (j), Z_(B) (j) はj番目のマーカーのボール座標上の位置を表すデカルト座標(上記実施の形態の球極座標)である。
【0099】得られる12の方程式をボールの最初の位置AのTx,Ty,Tzおよび方向角A,E,T について解く。同様な12の方程式をボールの次の位置Bに対しても解く。その12の方程式は1次ではないので、テイラーの定理の線形化を反復適用して解く。一般に、それらの方程式は8度の反復適用で、6個の未知のパラメータに対する解に収束する。
【0100】座標系の3本の軸方向のボールの速度成分は次の式で計算される。
【0101】
【数22】

【0102】ΔT はフラッシュランプの発光間隔である。
【0103】方向行列MT (A,E,T,t )とM(A',E',T', t+ΔT)を乗じて、得られる相対方向行列の非正方要素をならすことによってスピン成分が得られる。
【0104】
【数23】

【0105】時間増分ΔT 間の2個のボールの回転ベクトルの角度θは次の式で与えられる。
【0106】
【数24】

【0107】スピン量の3つの直交成分Wx,Wy,Wzは次の式で与えられる。
【0108】
【数25】

【0109】12個のゴルフボール(Tour:商標)を統計的に測定したところ中央のマーカーと周囲の5個のマーカーの間には 36.49±0.37°のばらつきがある。以下の表VIはそのばらつきに対する誤差の偏差についてのコンピュータシミュレーションの結果を示す。
【0110】
【表6】



ここで、上記(1c),(1d)に記載されている「ボール」が、(1a),(1b)に記載されている「物体」に相当することは明らかであるので、上記(1a)ないし(1d)の記載事項からして、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「視野を通る物体の飛行の初期の部分をモニターする装置を用い、前記物体の予想される飛行を表示する表示手段を備える装置において、
前記物体が飛行の初期の部分において通る前記視野に焦点を合わせた感光パネルを備えたカメラユニットを用い、前記物体が前記視野を通過する間に少なくとも2回その物体を照明して前記物体上に設けられた位置が正確に決められている3個以上の照明可能なマーカーから反射された光を前記感光パネル上で結像させ、
前記感光パネル上の像を処理し、その物体の位置および方向角について解くことにより、その物体の速度成分、スピン量成分等の打出し条件を計算して前記物体の飛行の初期の部分の飛行状態を分析し、
前記打出し条件に加え、予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報に基づいて、前記物体の予想される飛行を表示する方法。」

(3-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭52-54539号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「 本発明は、ゴルフアーを特定のゴルフボール、打撃スイング或いはゴルフクラブ設計とマツチさせる方法に関するものである。…(中略)…
本出願人は、ゴルフボールの空気力学的性質(デインプルの形態及びデインプルの配列双方に関して)及び構造に加えて、ゴルフボールが空気中に突入する打出条件がボールが最終的にどの位遠くまで飛ぶかということと大いに関係することを見出した。本出願人は更に、これらのボール打出条件がゴルフアー毎に変り従つて一組の打出条件を使用して特定の構造及び特定の空気力学的性質を持つゴルフボールが最大限に飛んでも、異つたボール打出条件を持つ別のゴルフアーに対してはゴルフボールは最大限の飛程を得るには異つた空気力学的性質を持たねばならないことを見出した。」(第2頁左下欄第3行?同右下欄第4行)
(2b)「測定されるべきこの一組の打出条件としては、打出角度、ボールスピン速度及びボールの初期速度が含まれる。」(第2頁右下欄第18?20行)
(2c)「 ひとたび特定のゴルフアーのボール打出条件が知られたなら、そのゴルフアーを特定のゴルフ構造及び空気力学的形態、特定のスイング或いは特定のクラブヘツド設計とマツチさせるのにそれらデータが使用されうる。後者2つの特徴と関連して、後述するように光源24がきわめて有益であることが理解されよう。
しかし、ここでゴルフボールの構造及び空気力学的性質に関して考えると、ゴルフボールはそれら空気力学的性質、それらの構造及びボール打出条件に依存して様々な飛程を示すことが既に知られている。…(中略)…
本発明の一様相として、様々な打出条件に応じてのボール飛程を示す図表が様々なゴルフボールに対して準備されている。このようなゴルフボールの図表の2つの例が第3及び4図に示されている。…(中略)…
各図表において、縦座標はゴルフボールのスピン速度でありそして横座標はゴルフボールの打出角である。実施に当つて、一連のこれらの図表が様々な初期速度で作製される。図示される特定の図表において、初期速度は200ft/秒である。
第3及び4図の図表並びに他のゴルフボールに対してまた他の初期速度に対して…(中略)…も同様の図表を作ることは機械的にか或いは解析技法を使用してかいずれかにより為されうる。後者の方法においては、与えられた空気力学的表面に対する抗力係数及び揚力係数が風洞を使用して測定されそして後これら測定された空気力学的性質を利用して回転中のボールに対する運動方程式を解くコンピユータプログラムが書かれる。これにより、与えられる打出条件組に対するボール弾道対時間の関係が計算され、それからボール飛程が計算されそして図表上にプロツトされうる。」(第5頁左上欄第11行?同左下欄第16行)
(3-3)引用例3
原査定の時に提示された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-275425号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(3a)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、狭いスペースで競技用のクラブ及びボールを使用して打球し、この打球を所定検出面においてX座標とY座標とを検出し、その検出データをコンピュータに入力し、打球速度、高さ(仰角)、左右角、飛距離等データーを出力し、ゴルフクラブのスイング診断をしようとするものである。」
(3b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来、ゴルフクラブ打球計測装置において、最も困難なことは、打球されたボールからどの様な手段でデータを検出するかにかかっている。特に、ビデオカメラで、通過するボールを測定しただけでは、正確な飛びの軌跡を決定することができない。
【0005】そこでこの発明装置では、打球を、その飛球方向の前後の検出面においてX座標とY座標とを検出し、これをコンピュータに入力し、打球の3次元ベクトル量、すなわち、大きさ、方向、速度を検出し、これらのデータを基に、ゴルフクラブのスイング診断に必要なデータを表示し、プレーヤーのスイングを認識し、改善その他に寄与しようとするものである。」
(3c)「【0010】次に、ゴルフクラブから打球されたボールの到達距離、到達地点は、算出された打出し角度と初速に加え、X座標の検出データを加えて演算を行うことによって、到達距離が得られ、ディスプレーに表示することができる。この場合、重力、空気抵抗、風向、風力等の因子を導入して演算を行うことによってゲームバリエーションを演出することも可能である。その結果到達地点の決定は巾を持ち、単純に到達距離からだけの選定ではなく興味あるものになる。」
(3-4)引用例4
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平1-148285号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(4a)「2.特許請求の範囲
クラブの振り抜け速度を検出するクラブ速度検出手段と、
ボールの静止状態の画像情報とクラブによりショット後の所定時間経過後の画像情報とを検出する画像情報検出手段と、
前記クラブ速度検出手段からの検出信号によりボールのX方向速度を算出するX方向速度算出手段と、
前記画像情報検出手段からの検出信号によりボールのY方向とZ方向の速度を算出するY/Z方向速度算出手段と、
前記画像情報検出手段からの検出信号によりボールの回転状態を算出する回転状態算出手段と、
前記X方向速度算出手段とY/Z方向速度算出手段及び回転状態算出手段からの算出値に基づいてボールの飛行方向及び距離を予測する手段と、を有することを特徴とするゴルフ練習装置。」(第1頁左下欄第4行?同右下欄第1行)
(4b)「 なお軌道をブラウン管に表示するのみでなく、算出の各段階を表示すれば、練習者にとってより有効である。第6図(a)乃至(c)はこの算出の各段階の一例を図示したものである。(a)図は打撃後のボールのX方向速度及びYZ方向速度並びに回転方向及び回転速度を示し、(b)図は3次元位置変化(X,Y,Z方向速度ベクトル)即ち、軌道と飛行距離を示し、(c)図は風速、雨、コース芝目の状態等のパラメータを飛行方向距離予測手段6にパラメータ設定手段7から挿入して更に算出を行ないその軌道と、具体的なゴルフコースの風景をシュミレーションし映像表現したものである。」(第4頁右下欄第1?13行)

4 本件補正発明と先願発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「物体」が、本件補正発明の「対象物」に相当することは明らかであり、また、引用発明の「飛行の初期の部分をモニターする装置」では、当該装置を用いて「感光パネル上の像を処理し、その物体の位置および方向角について解くことにより、その物体の速度成分、スピン量成分等の打出し条件を計算して前記物体の飛行の初期の部分の飛行状態を分析し、」「前記物体の予想される飛行を表示」しているといえるので、引用発明の「視野を通る物体の飛行の初期の部分をモニターする装置を用い、前記物体の予想される飛行を表示する」ことは、本件補正発明の「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する」ことに相当する。
また、引用発明の、「前記物体が飛行の初期の部分において通る前記視野に焦点を合わせた感光パネルを備えたカメラユニットを用い、前記物体が前記視野を通過する間に少なくとも2回その物体を照明して前記物体上に設けられた位置が正確に決められている3個以上の照明可能なマーカーから反射された光を前記感光パネル上で結像させ」ること、ならびに「前記感光パネル上の像を処理し、その物体の位置および方向角について解くことにより、その物体の速度成分、スピン量成分等の打出し条件を計算して前記物体の飛行の初期の部分の飛行状態を分析」することが、本件補正発明の「前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る」、ならびに「前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求め」、「前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する」に相当するプロセスであることも明らかである。
さらに、引用発明の「前記打出し条件」「に基づいて、前記物体の予想される飛行を表示する」ためには、物体の飛行軌跡が計算されている必要があることは明らかであるので、引用発明の「前記打出し条件」「に基づいて、前記物体の予想される飛行を表示する」ことは、本件補正発明の「前記計算された打ち出し条件」「から前記対象物の飛翔軌跡を計算」し、「前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階」に相当するといえる。
そして、引用例1の前記(1d)の段落【0088】の記載事項からして、引用発明の「前記物体の飛行特性に関する情報」は、「ゴルフボール8”の寸法、ディンプルのパターン、重量分布等に基づくボールの飛行特性」を意味するものといえることから、本件補正発明の「前記対象物の特性」に含まれる情報であるといえる。また、引用発明において、当該情報は「予めプログラムされている」ことからして、本件補正発明の「前記対象物の特性を含む」「データを入力する」ことと、データを用意している点で共通する。

以上の相当関係を踏まえると、両者は、
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
前記対象物の特性に関するデータを用意し、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と前記対象物の特性データから前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成る方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
データに関して、
本件補正発明は、「対象物の特性」以外に、「温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む」「周囲の条件」を含む「現場指定データ」が「入力」されるのに対し、
引用発明では、「予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報」を具備しているにすぎず、「温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む」「周囲の条件」を含まないとともに、「入力」することについて記載されていない点。
〈相違点2〉
対象物の飛翔軌跡の計算を行うに際し、
本件補正発明は、「計算された打ち出し条件と前記現場指定データ(周囲の条件及び前記対象物の特性を含む)」から対象物の飛翔軌跡を計算するのに対し、
引用発明は、「前記打出し条件に加え、予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報に基づいて」物体の予想される飛行が計算される点。

5 相違点の検討・判断
上記相違点1,2は、対象物の飛翔軌跡の計算を行うに際し、如何なるデータを用いて計算するかという点で互いに関連する事項であるので、まとめて検討する。
引用発明の主たる用途は、ゴルフボールの飛行経路を判定するというものであって、ゴルフボールの飛行経路を判定する装置を開発する当業者にとって、ゴルフボールの飛行経路や飛行距離は、気象条件、気圧等の環境要因やゴルフボールを打撃する位置における芝の状態によって変化することは周知の事項である。そして、引用発明と同様なゴルフボールの飛行経路や飛行距離を測定する装置において、ゴルフボールの構造及び空気力学的性質、重力,空気抵抗,風向,風力等の因子、風速,雨,コース芝目の状態等のパラメータを、前記測定を行う際に考慮し得るよう構成することは、上記引用例2ないし4に記載されている(前記(2a)ないし(4b)参照)ように周知の技術的事項である。
してみると、引用発明において、前記環境要因や芝の状態に応じた飛翔軌跡の計算を行い得るよう、対象物の特性に加えて、「温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む」「周囲の条件」を考慮できるようにするとともに、様々なゴルフボールの構造及び空気力学的性質についても考慮できるようにするため、それらを含む「現場指定データ」を「入力」するよう構成すること、ならびに、対象物の飛翔軌跡を計算する際に、それら入力された「現場指定データ」を、計算された打ち出し条件に付加して計算するよう構成し、上記相違点1,2に係る構成を得ることは、引用発明ならびに周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
なお、引用例3に記載されている「重力,空気抵抗」(前記(3c)参照)は、標高に関連して変化すること、引用例4に記載されている「コース芝目の状態」(前記(4b)参照)は、ゴルフボールの飛行軌道を求めるために考慮していることからして、打撃位置を含むフェアウエイ上の芝の状態を意味していることは明らかであるので、「芝生のタイプ」や「標高」を飛翔軌跡の計算にあたって考慮することは周知の技術的事項であるといえる。したがって、審判請求書における請求人の主張((3)(ハ)(ii))は採用できない。

よって、本件補正発明は引用発明ならびに周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

6 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III 本願発明について
1 本願発明
平成19年7月30日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年3月19日付け手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
周囲の条件を含む現場指定データを入力する段階と、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と前記周囲の条件から前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成ることを特徴とする方法。」

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、及び原査定の時に提示された、本願の優先日前に頒布された刊行物の記載事項、ならびに引用発明は、前記II[理由]3の(3-1)ないし(3-3)に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記II[理由]1で検討したとおり、本件補正発明の「現場指定データ」に関する限定的事項である「周囲の条件及び前記対象物の特性を含む現場指定データ」を単に「周囲の条件を含む現場指定データ」とするとともに、「周囲の条件」に関する限定的事項である、「前記周囲の条件は、温度、湿度、風速、風向、芝生のタイプ又は標高を含む」との事項を削除したものに相当する。
そうすると、前記II[理由]4で検討した相当関係、ならびに、引用発明の「前記物体の飛行特性に関する情報」と、本願発明の「周囲の条件を含む現場指定データ」とは、いずれも「データ」である点で共通する点を参酌すると、引用発明と本願発明とは、
「対象物が所定視野内を移動している間に打ち出しモニターシステムにより測定される飛行特性に基づいて前記対象物の飛翔軌跡を計算する方法において、
データを用意し、
前記対象物が前記所定視野内にある間に、その画像を少なくとも2枚、異なる2つの時期に撮る段階と、
前記画像から前記所定視野内の前記対象物の位置と方位を求める段階と、
前記対象物の位置と方位から前記対象物の打ち出し条件を計算する段階と、
前記計算された打ち出し条件と上記用意したデータから前記対象物の飛翔軌跡を計算する段階と、
前記対象物の飛翔軌跡を表示する段階とから成る方法。」の点で一致し、
以下の点で相違するといえる。
〈相違点1’〉
データに関して、
本願発明は、「周囲の条件を含む現場指定データ」が「入力」されるのに対し、
引用発明では、「予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報」を具備しているにすぎず、「入力」することについて記載されていない点。
〈相違点2’〉
対象物の飛翔軌跡の計算を行うに際し、
本願発明は、「計算された打ち出し条件と前記周囲の条件」から対象物の飛翔軌跡を計算するのに対し、
引用発明は、「前記打出し条件に加え、予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報に基づいて」物体の予想される飛行が計算される点。

4 相違点の検討・判断
上記相違点1’,2’は、対象物の飛翔軌跡の計算を行うに際し、如何なるデータを用いて計算するかという点で互いに関連する事項であるので、まとめて検討する。
引用発明の主たる用途は、ゴルフボールの飛行経路を判定するというものであって、ゴルフボールの飛行経路を判定する装置を開発する当業者にとって、ゴルフボールの飛行経路や飛行距離は、ゴルフボールの構造及び空気力学的性質と同様に、気象条件、気圧等の環境要因によって変化することは周知の事項である。そして、引用発明と同様なゴルフボールの飛行経路や飛行距離を測定する装置において、ゴルフボールの構造及び空気力学的性質、重力,空気抵抗,風向,風力等の因子等を、前記測定を行う際に考慮し得るよう構成することは、上記引用例2,3に記載されている(前記(2a)ないし(3c)参照)ように周知の技術的事項である。
してみると、引用発明において、前記環境要因に応じた飛翔軌跡の計算を行い得るよう、予めプログラムされている前記物体の飛行特性に関する情報に代えて、「周囲の条件を含む現場指定データ」を考慮できるよう、前記「周囲の条件を含む現場指定データ」を「入力」するよう構成すること、ならびに、対象物の飛翔軌跡を計算する際に、前記の「入力」された「周囲の条件を含む現場指定データ」を、計算された打ち出し条件に付加して計算するよう構成し、上記相違点1’,2’に係る構成を得ることは、引用発明ならびに周知の技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得る事項である。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-01 
結審通知日 2010-02-10 
審決日 2010-03-03 
出願番号 特願2003-353892(P2003-353892)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 小松 徹三
今関 雅子
発明の名称 ゴルフボールの飛翔軌跡及び飛行を測定するための方法  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  

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