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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1220206
審判番号 不服2008-5481  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-06 
確定日 2010-07-12 
事件の表示 特願2002- 27000「液晶駆動装置及び液晶駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-228340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年2月4日の出願であって、平成20年1月30日付けで平成19年11月2日付け手続補正に対して補正却下の決定をすると共に、同日付け(送達日:平成20年2月5日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月4日付けで手続補正がなされ、当審から平成21年6月3日付けで審尋し、これに対して平成21年7月13日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成20年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年4月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正の内容は、特許請求の範囲の請求項1の記載を補正前の、
「 【請求項1】
1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス形の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では対応する走査線を一括リセットした後に順次走査線毎に表示データを書込む駆動手段を備えることを特徴とする液晶駆動装置。」を
補正後の、
「 【請求項1】
1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段を備えることを特徴とする液晶駆動装置。」
に補正する補正事項を含むものである。

そこで、本件補正の目的について検討する。
・本件補正により、「アクティブマトリックス形」の誤記を、アクティブマトリックス型と訂正したから、この補正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
・駆動手段が表示データを書込むことについて、「前記複数の各期間では対応する走査線を一括リセットした後に順次走査線毎に表示データを書込む」ことを、「前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む」と限定された。したがって、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、同第3号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、上記補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,請求項1に記載されたとおりの以下のものである。
「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段を備えることを特徴とする液晶駆動装置。」

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-237606号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「液晶表示装置の駆動方法と、それを用いた液晶表示装置」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶表示装置の駆動方法及び液晶表示装置に関する。」

<記載事項2>
「【0002】
【従来の技術】高性能液晶ディスプレイの主流は、現在、ネマチック液晶を用いるTN(ツイステッドネマチック)モード又はIPS(イン・プレーン・スイッチング)モードのTFT(薄膜トランジスタ)方式アクティブマトリクス液晶表示装置である。(略)」
「【0003】一方、液晶表示装置で更なる高精細化を目指すため、液晶表示装置の照明光であるバックライトを赤・緑・青と時間的に切り替えるフィールドシーケンシャルカラー液晶表示装置が検討されている。この方式では、カラーフィルタを空間的に配置する必要がないため、従来の3倍の高精細化が可能である。フィールドシーケンシャル液晶表示装置では、1フィールドの1/3の時間で1色を表示する必要があるので、表示に使用できる時間は約5ms程度となる。従って、液晶自身には、5msよりも短い応答時間が求められる。(略)
【0004】アクティブマトリクス液晶表示素子で、実際に液晶部に電圧および電荷が書き込まれる時間は、各走査線の選択時間(書込み時間)のみである。この時間は、1000本のラインを有し1フィールド時間で書き込む液晶表示装置の場合には、16.7μs(マイクロ秒)であり、フィールドシーケンシャル駆動を行う場合には約5μsである。(略)
【0008】上記問題を解決する方法として、新規データ書き込みの前に所定の液晶状態に揃えるリセット電圧を印加するリセットパルス法が、しばしば用いられる。このリセットパルス法によれば、新規データの書込み時には必ず所定の状態となっているため、書き込んだ信号電圧と得られる透過率との間に1対1の対応が見られる。(略)」
【0009】リセット電圧の別の印加方法として、一定の画像信号に対して正及び負のデータ信号電圧を生成し、正(負)電圧を印加した後に負(正)電圧を印加し、その後にリセット電圧を印加する方法も用いられている。(略)」

<記載事項3>
「【0016】上記に鑑み、本発明の目的は、高速応答の液晶表示装置でリセットパルスを用いても、面内輝度のばらつきやフリッカが少く、高コントラスト及び高輝度が得られる液晶表示装置の駆動方法を提供することである。
【0017】本発明の他の目的は、上記駆動方法を用いた、高速応答で輝度の面内ばらつきやフリッカが少なく、高コントラストで高輝度な液晶表示装置を提供することである。」

<記載事項4>
「【0023】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照し本発明の実施形態例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
(略)
【0043】図10(a)は、本発明の第8の実施形態例を示すタイムチャートである。本実施形態例ではフィールドシーケンシャル表示を行うことを前提としており、図1(a)のタイムチャートに加え、縦軸の一つとして光源のパネルに入射する輝度が示されている。光源は、この図では、赤・緑・青の順で走査される。なお、この順番は、データ信号の入れ替えと対応して、任意に入れ替えることが可能である。光源は、走査線のリセット期間中はパネル側に入射せず、且つ、この期間は、他の色に切り替える期間となる。走査に関しては、図17のデータ信号電圧を使用した時の走査タイミングと同様であるが、フィールドシーケンシャル表示であるため、1フレーム中に3回のリセット期間103が存在する。各色の走査中は、2回の書込み期間101が設けられ、正負のデータ信号を符号毎に各書込み期間に分配して印加する。2回の書込みの後に、リセット期間103が設けらる(当審注:「設けられる」の誤記と認められる)。この2回の書込み及び1回のリセットから成る組が各色に同期して3回繰り返される。これらの光源及び走査線の走査の結果、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能である。従来の図14の駆動方法を3回繰り返すことによりフィールドシーケンシャル表示を行う場合に比べて、リセット期間の回数が半分のため、輝度の高い表示が可能である。なお、観察されるパネル面内輝度分布は、図15(b)と同様に画面下部が暗い表示となる。」

<記載事項5>
「【0050】以下、本発明の上記実施形態例を実際に適用した液晶表示装置の具体的構成例を各実施例として示す。
(略)
【0053】第2の実施例:TFT基板及びカラーフィルタ基板は第1の実施例と同様に作製した。(略)このようにして作製した液晶パネルに、駆動用のドライバを取り付け液晶表示装置とした。
【0054】(略)
【0055】第3の実施例:液晶パネルの構成は第2の実施例と同じとした。この液晶パネルに、駆動用のドライバ、及び、高速なスイッチングが可能なバックライトを使用してフィールドシーケンシャル液晶表示装置とした。」

引用刊行物1の記載事項1ないし記載事項5から、引用刊行物1には、以下の各事項が記載されており、また、その記載事項から以下の各事項を読み取ることができる。

【フィールドシーケンシャル液晶表示装置について】
記載事項5から、フィールドシーケンシャル液晶表示装置は、液晶パネルと、高速なスイッチングが可能なバックライトと、駆動用のドライバを備える点。
そして、記載事項2の【0002】に、「【従来の技術】高性能液晶ディスプレイの主流は、現在、ネマチック液晶を用いるTN(ツイステッドネマチック)モード又はIPS(イン・プレーン・スイッチング)モードのTFT(薄膜トランジスタ)方式アクティブマトリクス液晶表示装置である。」と記載されているから、上記液晶パネルは、TFT方式の液晶パネルであることは明らかである。また、駆動用のドライバは、上記液晶パネルを駆動することも明らかである。
したがって、引用刊行物1には、フィールドシーケンシャル液晶表示装置が、TFT方式の液晶パネルと、高速なスイッチングが可能なバックライトと、上記液晶パネルを駆動するドライバを備える点が記載されている。

【TFT方式の液晶パネルについて】
記載事項4から、光源輝度と走査線毎のタイムチャートである図10(a)(【図面の簡単な説明】の【図10】の「(a)は第8の実施形態例の光源輝度と走査線毎のタイムチャート」と説明されている。)は、フィールドシーケンシャル液晶表示装置のTFT方式の液晶パネルにおけるものである。

そして、図10(a)を説明する記載事項4の「1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能である。」との記載から、カラー表示を行うことが可能である1フレームを読み取ることができる。
また、上記記載事項4の「走査に関しては、・・・1フレーム中に3回のリセット期間103が存在する。」との記載から、上記図10(a)に図示された上記タイムチャートは、1フレームについてのタイムチャートであることは明らかである。
してみると、上記図10(a)の記載から以下の2点を読み取ることができる。

・図10(a)に記載された2つのタイムチャートのうち、上側のタイムチャートの記載からみて、光源が、1フレームの期間において、赤、緑、青の順に点灯していることから、1フレームが赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)に分割されている点。

・図10(a)の下側のタイムチャートと、上記上側のタイムチャートとを付き合わせてみると、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、赤のデータ信号の書込みと表示、緑のデータ信号の書込みと表示、青のデータ信号の書込みと表示が順次行われている点。

次に、記載事項4の「フィールドシーケンシャル表示であるため、1フレーム中に3回のリセット期間103が存在する。各色の走査中は、2回の書込み期間101が設けられ、正負のデータ信号を符号毎に各書込み期間に分配して印加する。2回の書込みの後に、リセット期間103が設けらる(当審注:「設けられる」の誤記と認められる)。この2回の書込み及び1回のリセットから成る組が各色に同期して3回繰り返される。」なる記載と上記図10(a)の記載から、以下の点を読み取ることができる。
赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われる点。

また、記載事項4に、「【0043】(略)これらの光源及び走査線の走査の結果、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能である。(略)」と記載されている。

3 以上1及び2から、カラー表示を行うことが可能である1フレームを、赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)に分割し、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行うTFT方式の液晶パネルを読み取ることができる。

【高速なスイッチングが可能なバックライトについて】
上記記載事項4の「図1(a)のタイムチャートに加え、縦軸の一つとして光源のパネルに入射する輝度が示されている。光源は、この図では、赤・緑・青の順で走査される。」との記載における「パネル」及び「光源は」、フィールドシーケンシャル液晶表示装置が備える、「TFT方式の液晶パネル」及び「高速なスイッチングが可能なバックライト」であることは明らかである。
そして、図10(a)の上記下側のタイムチャートと、上記上側のタイムチャートとの付き合わせてみると、例えば、赤色の光が、「赤のサブフィールド」の期間に、赤の表示データが表示されている時に光源が液晶パネルを順次照射する点を読み取ることができる。
してみると、赤、緑、青の光を、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、赤の表示データ、緑の表示データ、青の表示データのそれぞれが表示されている時に、TFT方式の液晶パネルに順次照射する高速なスイッチングが可能なバックライトを読み取ることができる。

【液晶パネルを駆動するドライバについて】
液晶パネルを駆動するドライバは、フィールドシーケンシャル液晶表示装置が備えるものであり、フィールドシーケンシャル表示を行うため、上記図10(a)に示される第8の実施形態による駆動方法に用いられることは明らかである。

そして、上記ドライバが以下の駆動を行っていることを読み取ることができる。

・図10(a)の上記下側のタイムチャートから、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線を順次選択している点、及び走査線毎に表示データを順次書込む点。
・記載事項3の「【0016】上記に鑑み、本発明の目的は、高速応答の液晶表示装置でリセットパルスを用いても、面内輝度のばらつきやフリッカが少く、高コントラスト及び高輝度が得られる液晶表示装置の駆動方法を提供することである。」との記載、及び図10(a)の上記下側のタイムチャートから、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する点。
・図10(a)の上記下側のタイムチャートから、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する前に、走査線毎に表示データを順次書込む点。

したがって、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線を順次選択し、且つ前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する前に、走査線毎に表示データを順次書込む点を読み取ることができる。

よって、引用刊行物1の上記記載事項1ないし5及び図面から、引用刊行物1には次のとおりの発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「カラー表示を行うことが可能である1フレームを、赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)に分割し、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、前記赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行うTFT方式の液晶パネルと、
前記赤、緑、青の光を、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、前記赤の表示データ、緑の表示データ、青の表示データのそれぞれが表示されている時に、前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する高速なスイッチングが可能なバックライトと、
前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、前記全走査線を順次選択し、且つ前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する前に、走査線毎に表示データを順次書き込む液晶パネルを駆動するドライバを備えるフィールドシーケンシャル液晶表示装置。」

イ 平成21年6月3日付け審尋において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-184034号公報(以下「刊行物A」という。)
上記刊行物Aには、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置およびその制御方法に関し、特に、画像の表示を良好に行うための技術に関する。」
「【0013】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、表示データ(白)とリセットデータ(黒)とを交互にライン順次書き込みすることは、フリッカーを発生させる原因になっていた。特に、液晶セルCの表示速度が遅い場合、あるいは、走査の周期(リフレッシュレート)が長い場合に、フリッカーは大きくなる。」
「【0216】(略)図62は、制御回路18の動作を示している。
【0217】(略)
【0218】(略)そして、ゲート信号Gn(BL)に同期して黒データ(DOUT)が書き込まれ、書き込むゲート信号Gn(DT)に同期して表示データ(DOUT)が書き込まれる。(略)」
「【0227】(略)
(液晶表示装置の制御方法の第17の実施形態)図67は、液晶パネルAの動作を示している。この液晶表示装置の主要部の構成は、図60と同一である。
【0228】この実施形態は、請求項32ないし請求項34に対応している。制御回路18は、黒データを1フレーム期間中に複数回書き込む。すなわち、黒データの書き込みが補完されている。このため、黒データを確実に書き込むことができる。(略)これに限定されず、制御を簡略化し、基本ゲート信号GOUTをそのままゲート信号Gn(DT)として使用してもよい。この場合、黒データが画素電極に書き込まれた後、表示データが上書きされるが、表示品質に問題はない。」

そして、段落【0227】?【0228】で引用している図67には、黒データ、すなわちリセットデータを表す「B」のパルスが間隔をあけて3つ連続して画素電極に書き込むことが記載されている。
なお、上記刊行物Aに記載された技術における、「黒データ、即ちリセットデータを間隔を空けて連続して画素電極に書き込」むことは、本願補正発明でいう、走査線に対応する画素に、リセット信号を、時間を空けて連続して供給することに相当する。

これらの記載によれば、上記刊行物Aに示されるように、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置において、リセット信号を確実に書き込むために、時間を空けて連続して供給することは、従来周知の技術である。

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを比較する。

【TFT方式の液晶パネルについて】
・引用発明1の「カラー表示を行うことが可能である1フレーム」は、本願補正発明の「1つのカラー画像を表示するための1フレーム」に相当する。
・引用発明1の「赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)」は、本願補正発明の「前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールド」に相当する。
・引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎」は、本願補正発明の「これらの複数のサブフィールド毎」に相当する。
・引用発明1の「前記赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて」は、本願補正発明の「前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて」に相当する。
・引用発明1の「1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行う」ことは、本願補正発明の「前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行われる」に相当する。
また、引用発明1の「TFT方式の液晶パネル」は、本願補正発明の「アクティブマトリックス型の液晶表示素子」に相当する。

したがって、引用発明1の「カラー表示を行うことが可能である1フレームを、赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)に分割し、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、前記赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行うTFT方式の液晶パネル」は、本願補正発明の「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子」に相当する。

【高速なスイッチングが可能なバックライトについて】
・引用発明1の「前記赤、緑、青の光」、「『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』」、「表示データのそれぞれが表示されている時に、前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する」は、本願補正発明の「前記複数の色の光」、「複数のサブフィールド」、「書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射する」に、それぞれ相当する。

したがって、引用発明1の「前記赤、緑、青の光を、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、前記赤の表示データ、緑の表示データ、青の表示データのそれぞれが表示されている時に、前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する高速なスイッチングが可能なバックライト」は、本願補正発明の「前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライト」に相当する。

【液晶パネルを駆動するドライバについて】
(ア)
・引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎」は、本願補正発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎」に相当する。
・引用発明1の「前記全走査線を順次選択し」と本願補正発明の「全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」とは、前記全走査線を順次選択させの点で共通する。
したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線を順次選択し」と本願補正発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」とは、前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線を順次選択させの点で共通する。

(イ)
・引用発明1の「リセットパルス」、「全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する」は、本願補正発明の「リセット信号」、「一括リセットした」に相当する。
・引用発明1において、表示データを書込む時は、「リセットパルスを印加する前」であり、一方、本願補正発明において、「表示データを書込む」時は、「一括リセットした後」であるから、引用発明1の「表示データを順次書込む」時と本願補正発明の「順次表示データを書込む」時とは、一括リセットする時点とは異なる時点である点で共通する。
・引用発明1において、液晶パネルを駆動するドライバが、「全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する」と、その結果、走査線に対応する画素にリセットパルスを供給することは明らかである。
・引用発明1の「リセットパルスを印加する」と本願補正発明の「2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給する」とは、リセット信号を供給する点で共通する。
・引用発明1の「ドライバ」が、「走査線毎に表示データを順次書込む」と、その結果、本願補正発明と同じく、走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込むことは明らかである。

したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する前に、走査線毎に表示データを順次書き込む」と本願補正発明の「前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む」とは、走査線に対応する画素に、リセット信号を供給することによって一括リセットする時点とは異なる時点で、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む点で共通する。

(ウ)引用発明1の「液晶パネルを駆動するドライバ」は、本願補正発明の「駆動手段」に相当する。

(エ)【液晶パネルを駆動するドライバについて】のまとめ
したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、前記全走査線を順次選択し、且つ前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線に対して同時期にリセット電圧を印加する前に、走査線毎に表示データを順次書込む液晶パネルを駆動するドライバ」と本願補正発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段」とは、前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、前記全走査線を順次選択させ、且つ走査線に対応する画素に、リセット信号を供給することによって一括リセットする時点とは異なる時点で、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段の点で共通する。

【フィールドシーケンシャル液晶表示装置について】
・引用発明1の対象である「フィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、液晶パネルを駆動するドライバを備え、液晶駆動装置とも表現できるから、本願補正発明の対象である「液晶駆動装置」に相当する。

【本願補正発明と引用発明1との一致点、相違点】
よって、本願補正発明と引用発明1の両者は、
「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、前記全走査線を順次選択させ、且つ走査線に対応する画素に、リセット信号を供給することによって一括リセットする時点と異なる時点で、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段を備える液晶駆動装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
駆動手段が複数の色に対応する複数のサブフィールド毎に、全走査線を順次選択することに関し、本願補正発明では、複数の色に対応する複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させているのに対して、引用発明1では、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線を順次選択しているに留まる点。
(相違点2)
駆動手段が走査線に対応する画素に、リセット信号を供給することに関し、本願補正発明では、「前記複数の各期間」すなわち全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給するのに対して、引用発明1では、全走査線に対して同時期にリセットパルスを印加する点。
(相違点3)
駆動手段が走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む時点が、本願補正発明では、一括リセットした後であるのに対して、引用発明1では、同時期にリセット電圧を印加する前である点。

(4)判断

ア 相違点1について
(ア)引用発明1における「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、インターレース駆動を行う動機付けについて

a 引用刊行物1に記載の従来の技術
引用刊行物1には、【従来の技術】の項に、
「【0008】上記問題を解決する方法として、新規データ書き込みの前に所定の液晶状態に揃えるリセット電圧を印加するリセットパルス法が、しばしば用いられる。(略)」、
「【0009】リセット電圧の別の印加方法として、一定の画像信号に対して正及び負のデータ信号電圧を生成し、正(負)電圧を印加した後に負(正)電圧を印加し、その後にリセット電圧を印加する方法も用いられている。(略)」、
「【0015】(略)リセット期間が走査期間に影響を与える問題を解決するための手段として、インターレース駆動とリセットとを組み合わせる手法が、例えば、特開平4-186217号公報に記載されている。この方法では、インターレースモードでFLC(強誘電性液晶)パネルを駆動し、非表示期間にある走査線をリセットする。これにより、リセット期間による走査期間の減少は防がれる。また、隣り合うラインのリセットの周期がずれるため、平均化によりフリッカが減少するものと考えられる。(略)」、
「【0017】本発明の他の目的は、上記駆動方法を用いた、高速応答で輝度の面内ばらつきやフリッカが少なく、高コントラストで高輝度な液晶表示装置を提供することである。」と記載されている。

引用刊行物1のこれらの記載によれば、液晶表示装置の駆動に当たって、インターレース駆動とリセットとを組み合わせ、液晶表示装置のフリッカを減少させることは従来から知られていた。

ところで、引用発明1の「フィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線に対して同時期にリセットパルスを印加するドライバを備えているから、従来技術のインターレース駆動と組み合わされる「リセットパルス法」を採用しているといえる。

b 引用刊行物1に記載された引用発明1の目的、効果
引用刊行物1には、「【0017】本発明の他の目的は、上記駆動方法を用いた、高速応答で輝度の面内ばらつきやフリッカが少なく、高コントラストで高輝度な液晶表示装置を提供することである。」と記載されている。
また、引用刊行物1には、引用発明1の効果について、
「【0043】従来の図14の駆動方法を3回繰り返すことによりフィールドシーケンシャル表示を行う場合に比べて、リセット期間の回数が半分のため、輝度の高い表示が可能である。なお、観察されるパネル面内輝度分布は、図15(b)と同様に画面下部が暗い表示となる。」と記載されている。
これらの記載によれば、引用発明1においても、フリッカが少ないことが期待されていることは明らかである。

c 上記動機付けのまとめ
a及びbで述べたことから、引用刊行物1の記載を当業者がみれば、引用発明1における「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、インターレース駆動を行う動機付けがあるといえる。

(イ)インターレース駆動の走査
インターレース駆動とは、画像の走査駆動方法の一種で、1つのフィールド内で全ての走査線を上から順に走査する順次走査する方法である順次走査と並ぶ画像の走査方法の一種で、「あるフィールドでは走査線を何本かおきに飛び越して走査し、次のフィールドでは残りの走査線を走査するという様にして、複数のフィールドをかけて全ての走査線を走査する方法。」であり(「フラットパネルディスプレイ大辞典」、内田龍男外1名監修、株式会社 工業調査会、2001年12月25日発行、810?812ページ)当業者の技術常識といえる。
してみると、インターレース駆動の上記走査方法を踏まえると、引用発明1において、「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、インターレース駆動を行う場合、本願補正発明でいう「複数の色に対応する複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させている」ことは、当然に実施される事項に過ぎない。

(ウ) 小括
上記(ア)及び(イ)で述べたことから、引用発明1のフィールドシーケンシャル液晶表示装置のフリッカを少なくするため、引用発明1の「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」に対しても、引用刊行物1に記載された、本願補正発明でいう、「全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」ることは、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

イ 相違点2について
(ア)リセット信号を供給する期間
インターレース駆動に関して、本願補正発明の「全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」ることは、「相違点1について」で検討済みであり、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のうち、リセット信号を供給する期間が、「前記複数の各期間では」という発明特定事項、すなわち、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の各期間との限定は、インターレース駆動に付随する事項に過ぎず、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

(イ)2つのリセット信号
引用刊行物1には、引用発明1において、全走査線に対して同時期のリセット期間に印加するリセットパルスについて、該リセットパルスの形態が如何なるものか具体的に説明されていない。
しかしながら、「2(2)イ」の項で述べたとおり、刊行物Aに示されるように、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置において、リセット信号を確実に書き込むために、時間を空けて連続して供給することは、従来周知の技術である。
そうすると、引用発明1においても、駆動手段が全走査線に対して同時期のリセット期間に印加するリセットパルスについて、リセットパルスによるリセットが確実に行われることは当然期待される事項である。
したがって、リセットを確実に行うために、引用発明1の駆動手段が複数回、例えば、本願補正発明のように2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することは、従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項といえる。

(ウ)小括
以上のことから、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

ウ 相違点3について
引用刊行物1の記載事項2には、「【0008】上記問題を解決する方法として、新規データ書き込みの前に所定の液晶状態に揃えるリセット電圧を印加するリセットパルス法が、しばしば用いられる。」との記載や、「【0009】リセット電圧の別の印加方法として、一定の画像信号に対して正及び負のデータ信号電圧を生成し、正(負)電圧を印加した後に負(正)電圧を印加し、その後にリセット電圧を印加する方法も用いられている。」との記載がある。
これらの記載によれば、データを書き込む時点は、リセット電圧を印加した後の場合やリセット電圧を印加する前の場合があることは従来から知られていたといえる。

引用発明1では、駆動手段が走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む時点が、リセット電圧を印加する前であるが、その印加時点をリセット電圧を印加した後に変更することは、必要に応じて適宜行う設計事項といえる。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、格別なものではない。

そして、本願補正発明の奏する効果は、引用刊行物1の記載から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明、従来周知の技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明、従来周知の技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成19年11月2日付け手続補正は、平成20年1月30日付け補正の却下の決定により却下されている。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年6月18日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて,以下のとおりのものである。
「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では対応する走査線を一括リセットした後に順次走査線毎に表示データを書込む駆動手段を備えることを特徴とする液晶駆動装置。」
なお、請求項1に記載された「アクティブマトリックス形」は、アクティブマトリックス型の誤記と認め、請求項1に係る発明を請求項1の記載に基づいて認定した。

第4 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1、及びその記載事項は、前記「第2 2(2)ア」の項に記載したとおりである。

第5 対比
本願発明と引用発明1とを比較する。

【TFT方式の液晶パネルについて】
・引用発明1の「カラー表示を行うことが可能である1フレーム」は、本願発明の「1つのカラー画像を表示するための1フレーム」に相当する。
・引用発明1の「赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)」は、本願発明の「前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールド」に相当する。
・引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎」は、本願発明の「これらの複数のサブフィールド毎」に相当する。
・引用発明1の「前記赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて」は、本願発明の「前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて」に相当する。
・引用発明1の「1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行う」ことは、本願発明の「前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行われる」に相当する。
また、引用発明1の「TFT方式の液晶パネル」は、本願発明の「アクティブマトリックス型の液晶表示素子」に相当する。

したがって、引用発明1の「カラー表示を行うことが可能である1フレームを、赤、緑、青に対応する3つのサブフィールド(以下、それぞれ「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」という。)に分割し、前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、前記赤、緑、青の各色の表示データについて、それぞれ、正のデータ信号の印加による第1回目の書込み、その表示、負のデータ信号の印加による第2回目の書込み、その表示が順次行われて、1フレーム中に各色の情報が表示され1画素単位でカラー表示を行うことが可能であるフィールドシーケンシャル表示を行うTFT方式の液晶パネル」は、本願発明の「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子」に相当する。

【高速なスイッチングが可能なバックライトについて】
・引用発明1の「前記赤、緑、青の光」、「『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』」、「表示データのそれぞれが表示されている時に、前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する」は、本願発明の「前記複数の色の光」、「複数のサブフィールド」、「書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射する」に、それぞれ相当する。

したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、前記赤の表示データ、緑の表示データ、青の表示データのそれぞれが表示されている時に、前記TFT方式の液晶パネルに順次照射する高速なスイッチングが可能なバックライト」は、本願発明の「前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライト」に相当する。

【液晶パネルを駆動するドライバについて】
(ア)
・引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎」は、本願発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎」に相当する。
・引用発明1の「前記全走査線を順次選択し」と本願発明の「全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」とは、前記全走査線を順次選択させの点で共通する。
したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線を順次選択し」と本願発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」とは、前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線を順次選択させの点で共通する。

(イ)
・引用発明1の「リセットパルス」、「全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する」は、本願発明の「リセット信号」、「一括リセットした」に相当する。
・引用発明1において、表示データを書込む時は、「リセットパルスを印加する前」であり、一方、本願発明において、「表示データを書込む」時は、「一括リセットした後」であるから、引用発明1の「表示データを順次書込む」時と本願発明の「順次表示データを書込む」時とは、一括リセットする時点とは異なる時点である点で共通する。
・引用発明1の「走査線毎に表示データを順次書込む」は、本願発明の「順次走査線毎に表示データを書込む」に相当する。

したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線に対して同時期のリセット期間にリセットパルスを印加する前に、走査線毎に表示データを順次書込む」と本願発明の「前記複数の各期間では対応する走査線を一括リセットした後に順次走査線毎に表示データを書込む」とは、対応する走査線を一括リセットする時点とは異なる時点で、順次走査線毎に表示データを書込む点で共通する。

(ウ)引用発明1の「液晶パネルを駆動するドライバ」は、本願発明の「駆動手段」に相当する。

(エ)【液晶パネルを駆動するドライバについて】のまとめ
したがって、引用発明1の「前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、前記全走査線を順次選択し、且つ前記『赤のサブフィールド』、『緑のサブフィールド』、『青のサブフィールド』毎に、全走査線に対して同時期にリセット電圧を印加する前に、走査線毎に表示データを順次書込む液晶パネルを駆動するドライバ」と本願発明の「前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ、且つ前記複数の各期間では選択された走査線に対応する画素に、2つのリセット信号を、時間を空けて連続して供給することによって一括リセットした後、前記走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む駆動手段」とは、前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、前記全走査線を順次選択させ、且つ対応する走査線を一括リセットする時点とは異なる時点で、順次走査線毎に表示データを書込む点で共通する。

【フィールドシーケンシャル液晶表示装置について】
・引用発明1の対象である「フィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、液晶パネルを駆動するドライバを備え、液晶駆動装置とも表現できるから、本願発明の対象である「液晶駆動装置」に相当する。

【本願発明と引用発明1との一致点、相違点】
よって、本願発明と引用発明1の両者は、
「1つのカラー画像を表示するための1フレームを、前記カラー画像を表示するための複数の色に対応する複数のサブフィールドに分割し、これらの複数のサブフィールド毎に、前記複数の色のうちの1つの色に対応する表示データの書込みと表示とを順次行なわせて、前記複数のサブフィールド毎の複数色の表示の合成により1つのカラー画像を表示するフィールドシーケンシャル駆動が行なわれるアクティブマトリックス型の液晶表示素子と、
前記複数の色の光を、前記複数の色の表示データの前記複数のサブフィールドへの書き込みにそれぞれ同期させて、前記液晶表示素子に向けて順次出射するバックライトと、
前記複数の色にそれぞれ対応する複数の色の表示データを書込む前記複数のサブフィールド毎に、前記全走査線を順次選択させ、且つ対応する走査線を一括リセットする時点とは異なる時点で、順次走査線毎に表示データを書込む駆動手段を備える液晶駆動装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点A)
駆動手段が複数の色に対応する複数のサブフィールド毎に、全走査線を順次選択することに関し、本願発明では、複数の色に対応する複数のサブフィールド毎に、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させているのに対して、引用発明1では、前記「赤のサブフィールド」、「緑のサブフィールド」、「青のサブフィールド」毎に、全走査線を順次選択しているに留まる点。
(相違点B)
走査線を一括リセットすることに関して、本願発明では、前記複数の各期間では、すなわち、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の各期間では対応する走査線を一括リセットしているのに対して、引用発明1では、全走査線に対して同時期にリセットパルスを印加しており、そのように限定されていない点。
(相違点C)
駆動手段が順次走査線毎に表示データを書込む時点が、本願発明では、一括リセットした後であるのに対して、引用発明1では、同時期にリセット電圧を印加する前である点。

第6 判断
1 相違点Aについて
相違点Aは、相違点1と同一であるから、相違点Aに係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

2 相違点Bについて
インターレース駆動に関して「全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の期間に分割して、これらの複数の期間に前記全走査線を順次選択させ」ることは、「相違点Aについて」すなわち「相違点1について」で検討済みであり、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、相違点Bに係る本願発明の発明特定事項のうち、リセット信号を供給する期間に関して「前記複数の各期間では」という発明特定事項、すなわち、全走査線のうちの所定本数ずつ飛越して走査する複数の各期間との限定は、インターレース駆動に付随する限定に過ぎず、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点Bに係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

3 相違点Cについて
引用刊行物1の記載事項2には、「【0008】上記問題を解決する方法として、新規データ書き込みの前に所定の液晶状態に揃えるリセット電圧を印加するリセットパルス法が、しばしば用いられる。」との記載や、「【0009】リセット電圧の別の印加方法として、一定の画像信号に対して正及び負のデータ信号電圧を生成し、正(負)電圧を印加した後に負(正)電圧を印加し、その後にリセット電圧を印加する方法も用いられている。」との記載がある。
これらの記載によれば、データを書き込む時点は、リセット電圧を印加した後の場合やリセット電圧を印加する前の場合があることは従来から知られていたといえる。

引用発明1では、駆動手段が走査線毎に対応する画素に順次表示データを書込む時点が、リセット電圧を印加する前であるが、その印加時点をリセット電圧を印加した後に変更することは、必要に応じて適宜行う設計事項といえる。
したがって、相違点Cに係る本願発明の発明特定事項は、格別なものではない。

そして、本願発明の奏する効果は、引用刊行物1の記載から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-05-12 
出願番号 特願2002-27000(P2002-27000)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福村 拓  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 山川 雅也
濱本 禎広
発明の名称 液晶駆動装置及び液晶駆動方法  

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