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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1220268
審判番号 不服2008-8322  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-03 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2002-365334「印刷色管理方法、印刷色管理装置およびそれを適用した印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月15日出願公開、特開2004-195739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成14年12月17日の出願であって、平成19年11月15日付け(発送日:同年11月20日)の拒絶理由通知に対して、平成20年1月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年2月26日付け(発送日:同年3月4日)で、拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成20年4月3日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年4月30日付けで、審判請求書及び明細書についての手続補正がなされ、当審において、平成21年12月24日付け(発送日:平成22年1月5日)で審判審尋をかけたところ、平成22年2月22日付けで回答書が提出されている。

第2 平成20年4月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成20年4月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
平成20年4月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(以下、「本件補正発明」という。)。
「OKシートと判断された印刷物を対象にして色管理データ測定部が測定した濃度値および測色値からなる色管理データを、用紙種類、インキの種類、前記印刷物における絵柄面積率、および前記印刷物の印刷品目を含む印刷条件毎に蓄積した色管理データに基づいて、印刷機のインキの量を制御し、前記印刷物の色を管理する印刷色管理装置において、
前記色管理データを、前記印刷物の印刷条件毎に蓄積する色管理データ格納部と、
前記印刷物の印刷条件を入力する印刷条件データ入力部と、
前記色管理データ格納部に蓄積された前記色管理データと、前記印刷条件データ入力部から入力された印刷条件とに基づいて、前記印刷機が該印刷物を印刷するときに目標値とする色管理データを設定する色管理データ設定部と、
前記印刷機によって印刷された印刷物の前記色管理データを測定する色管理データ測定部と、
前記色管理データ測定部によって測定された色管理データが、前記目標値とする色管理データと一致するように前記印刷機を制御する制御量を演算し、演算した制御量に基づいて前記印刷機を制御する印刷機制御部とを備え、
前記色管理データ格納部は、前記インキの量の微調整が完了したOKシートの色管理データを蓄積する印刷色管理装置。」
(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)

本件補正は、補正前の「印刷物の特性を特徴付ける色管理データ」について、該「色管理データ」が、「OKシートと判断された印刷物を対象にして色管理データ測定部が測定した濃度値および測色値からなる色管理データを、用紙種類、インキの種類、前記印刷物における絵柄面積率、および前記印刷物の印刷品目を含む印刷条件毎に蓄積した色管理データ」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
又、「色管理格納手段」、「色管理データ設定手段」、「色管理データ測定手段」、「印刷機制御手段」の各「手段」を、それぞれ「色管理格納部」等、各「部」と補正した点は、発明の詳細な説明(段落番号【0036】以降の【発明の実施の形態】参照)、及び、図面(図1参照)の記載と統一するためであり、誤記の訂正に該当する。
そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下、検討する。

2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明
(1)本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-268394号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
なお、以下、下線は審決において付すものである。
ア.【特許請求の範囲】
「【請求項1】 基準となる印刷物の絵柄面積率と色彩値とインキ供給量との関係を記憶するデータベースと、
使用する色分解版の絵柄面積率に基づいて前記データベースを検索し、インキ供給量と色彩値とを読み出し、該インキ供給量で印刷を行う手段と、
印刷機に取付けられ、走行中の印刷物の色彩値を測定する手段と、
測定した色彩値とデータベースから読み出した色彩値との差に応じてインキ供給量を補正する手段とを具備することを特徴とする刷出し支援システム。
【請求項2】 …(略)…
【請求項3】 …(略)…
【請求項4】 …(略)…
【請求項5】 前記測定手段は定期的に印刷物の色彩値を測定し、
前記補正手段は定期的にインキ供給量を補正することを特徴とする請求項1に記載の刷出し支援システム。」
イ.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は同一の絵柄が繰り返し印刷される印刷物の絵柄の色調を監視し、所望の色調に合わせることができ、特に印刷開始時(刷出し時)に色調を迅速に安定させるのに役立つ刷出し支援システムに関する。」
ウ.段落【0008】
「【発明が解決しようとする課題】このように従来の印刷作業においては、色調のずれを目視で判断でき、適切なインキ供給量を決めることができる熟練作業者の確保、熟練度の維持・向上に多大の経費と時間が必要となっていた。また、色調ずれがある場合、色調ずれを検出するのは仕上がり物の抜き取り検査によるので、不良印刷物が発生してからインキ量の調整を行うまでに時間がかかり、その間に大量の色不良印刷物が発生する欠点があった。本発明の目的は、簡単な構成で刷出し時の色調を迅速に安定化させることができる刷出し支援システムを提供することである。」
エ.段落【0010】
「【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明による印刷色調測定装置の第1の実施形態を説明する。本発明は、従来、熟練作業者の経験と勘に頼って求めていた最適なインキ供給量を数値化して客観的に求めることができるようにしたものである。具体的には、印刷色調は色分解版の絵柄面積率の組み合わせ、及び各色のインキ供給量により決まるので、両者と色再現値との関係を示すデータベースを構築し、刷出し時に、色分解版の絵柄面積率に基づいて該データベースから目標とする色再現値、インキ供給量を求め、このインキ供給量により刷出しを行う。そして、印刷物の色再現値をインラインで測定し、目標値とずれている場合は、インキ供給量を補正する。」
オ.段落【0012】
「最終段の印刷ユニット6dから出た印刷物は図示していない乾燥部、冷却部、折り機30へと導かれ、最終印刷物とされる。この最終段の印刷ユニット6dと折り機30との間の印刷物の走行路に分光測色ヘッド22が設けられる。分光測色ヘッド22は非接触で印刷面の分光反射率を測定する。ただし、分光測色ヘッド22と印刷物の表面との間隔が大きいと、外乱光の影響を受けるので、正確な分光波形が得られないため、遮光等の配慮を行うことが望ましい。」
カ.段落【0015】
「図2に示すように、色調管理装置28には絵柄毎のインキキーゾーンZ1?Zn毎の分光反射率が取り込まれる。…(略)…。測定パルス毎の測定値は単独で持っており、必要な領域部分の測定値を積算して所望領域の反射率を求める。こうして、基準サンプルの絵柄の各インキキーゾーン毎の分光反射率(分光波形)が基準波形として色調管理装置28に入力される。」
キ.段落【0019】1?15行
「分光測色ヘッド22の出力は測定データ処理部26を経て色調管理装置28に供給される。測定データ処理部26は分光測色ヘッド22の出力信号から反射率を算出する。色調管理装置28は通常のパーソナルコンピュータ等からなり、測定データ処理部6で処理された反射率からLab色度、および各インキに対する濃度を算出し、算出結果を表示する表示部も有する。色調管理装置28は分光反射率波形に等色関数を乗算して色彩値を求める。色を数値で表わす表色系としては以下に示すように種々のものがある。国際照明委員会(CIE)が規定したL^(*)a^(*)b^(*)表色系(CIELAB系とも称する)、L^(*)C^(*)h表色系、ハンターLab表色系、XYZ(Yxy)表色系等がある。どの表色系を用いてもよいが、CIELab系が人間の見た目と良く合うし、最もポピュラーであるので、ここではこれを使用する。」
ク.段落【0020】
「色調管理装置28にはY、M、C、Kの絵柄面積率(%)とキー開度(角度)、色彩値(L^(*)a^(*)b^(*))との関係を示す色調管理データベース34も接続され、色調管理装置28はこのデータベースを参照して絵柄面積率からインキ供給量(インキキー開度信号)を求める。なお、図示していないが、インキキー開度信号はインキキーへ送られ、キー開度が自動的に制御される。」
ケ.段落【0021】
「次に、図3のフローチャートを参照して、第1実施形態の動作を説明する。先ず、ステップS2にて、色分解版のインキキーゾーン毎に絵柄面積率を入力する。ステップS4にて、インキキーゾーン毎にデータベース34を検索し、入力した絵柄面積率から目標とする色彩値とインキキー開度を求める。色彩値は目標値として管理装置28内のレジスタにセットされ、キー開度はキー開度信号として各インキキーにセットされる。その後、ステップS6に示すように、刷出しが開始される。印刷が開始されると、ロータリエンコーダ24から印刷物の走行に同期するローラの所定回転毎にパルスが発生する。ロータリエンコーダ24の出力パルスに応じて分光測色ヘッド22は測定を行う(ステップS8)。ロータリエンコーダ24の出力に応じたタイミングで分光測色ヘッド22を周期的に一定期間作動させることにより、色調管理装置28には絵柄毎のインキキーゾーン毎の分光反射率が取り込まれる。色調管理装置28は分光反射率から色彩値L^(*),a^(*),b^(*)を求める。ステップS10で、この測定した色彩値と目標色彩値との差(L^(*)a^(*)b^(*)色差ΔE^(*)ab)を次のように求め、この差が所定の閾値以下である(両者が一致している)か否か判定する。」
コ.段落【0022】4?11行
「一致していない場合は、ステップS12でこの差に応じたY、M、C、Kの各色の印刷ユニットのインキキー開度信号を補正する。このため、色調管理装置28は色彩値の差とY、M、C、Kのインキ量との対応関係を予め記憶したテーブルを具備している。両者が一致していると判断されて場合は、ステップS14で刷出しOKと判断し、そのまま、印刷を続行する。」
サ.段落【0023】1?4行
「そして、刷出し後も適宜枚数の印刷毎にステップS8に戻り、色彩値を測定し、色調の変動を監視し、変動があった場合は、同様にしてインキ供給量を補正するので、迅速にインキ量の調整が行える。」
シ.段落【0025】
「本発明は上述した実施形態に限定されず種々変形して実施可能である。データベースは面積率に基づいて作成したが、インキの種類、温度、湿度等の印刷環境等毎も考慮して作成してもよい。さらに、インキ供給量はインキキー開度のみならず、インキ元ローラの回転数をも制御する、あるいはインキ元ローラの回転数のみを制御して調整してもよい。」

上記記載事項等からみて、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載発明」という。)が開示されていると認められる。
「基準となる印刷物の絵柄面積率と色彩値とインキ供給量との関係を記憶するデータベースと、
使用する色分解版の絵柄面積率を入力し、入力した絵柄面積率に基づいて前記データベースを検索し、入力した絵柄面積率から、目標とする色彩値とインキ供給量とを読み出し、読み出した色彩値を目標値として管理装置内のレジスタにセットすると共に、該インキ供給量で印刷を行う手段と、
印刷機に取付けられ、走行中の印刷物の色彩値を測定する手段と、
測定した色彩値と、データベースから読み出し、目標値としてレジスタにセットした色彩値との差に応じてインキ供給量を補正する手段と
を具備する刷出し支援システム。」

3.対比
本件補正発明と引用文献記載発明とを対比する。
(1)引用文献記載発明の「基準となる印刷物」は、印刷に際し、基準とするものであるから、オペレータによる色チェック等が行われることは自明であり、本件補正発明の「OKシートと判断された印刷物」に相当することは明らかである。
(2)引用文献記載発明の「データベース」は、データの蓄積形態が若干相違するものであるが、本件補正発明の「色管理データ格納部」に相当する。
なお、具体的な蓄積形態は相違点として後述する。
(3)引用文献記載発明は、絵柄面積率を入力して、データベースを検索する(上記ケ参照)ものであり、該「絵柄面積率」は、データベースの検索条件であると同時に印刷条件でもあるから、引用文献記載発明も、印刷条件を入力する「印刷条件データ入力部」を有していることは明らかである。
又、引用文献には、データベースに記憶される印刷条件として「絵柄面積率」だけではなく、「インキの種類」も含まれることが記載されている(上記シ参照)。
(4)引用文献記載発明の「色彩値」は、L^(*)a^(*)b^(*)表色系(CIELAB系とも称する)のL^(*)値、a^(*)値、b^(*)値として求められるもの(上記キ、ク参照)であるところ、本件補正発明の「測色値」に関して、本願明細書の段落【0041】3?5行には「測色値としては、CIELABを用い、CIELABのL成分、a成分、b成分毎に値を定義している。」と記載されており、その表記はともかくとして、測色値、色彩値は何れも、CIELAB系で定義されるものであるから、本件補正発明の「測色値」と引用文献記載発明の「色彩値」とは、同義である。
(5)引用文献記載発明においては、分光測色ヘッドにより、印刷面の分光反射率を測定し(上記オ参照)、分光測色ヘッドの出力は、測定データ処理部を経て色調管理装置に供給され、色調管理装置は、供給された反射率から、Lab色度、および、各インキに対する濃度を算出しており(上記キ参照)、この色調管理装置がLab色度および濃度を算出することを根拠に、引用文献記載発明は「色彩値を測定する手段を具備する」と特定されていることは明らかであるから、引用文献記載発明の「色彩値を測定する手段」は、色彩値だけではなく濃度値も測定するもの、換言すれば、本件補正発明の「色管理データ測定部」と同様に「色管理データ」を測定していると言える。
即ち、引用文献記載発明の「色彩値を測定する手段」は、本件補正発明の「色管理データ測定部」に相当する。
但し、データベースを構築するに際し、濃度値が、印刷条件(絵柄面積率)毎に蓄積されるか否かは定かではないので、この点は、上記(2)と同様に、相違点として後述する。
(6)引用文献記載発明の「色調管理装置」は、通常のパーソナルコンピュータからなり(上記キ参照)、次の処理を行うものである。
a.データベースを検索し、入力した絵柄面積率から、目標とする色彩値を読み出し、読み出した色彩値を目標値として管理装置内のレジスタにセットする(上記ケ参照)。
b.測定した色彩値と、目標値としてレジスタにセットされた色彩値との差に応じてインキ供給量を補正し(上記ケ、コ参照)、印刷を行う。
これらの処理からみて、引用文献記載発明の「色調管理装置」は、本件補正発明に係る「色管理データ設定部」(処理a参照)、「印刷機制御部」(処理b参照)を有していると言える。
(7)引用文献記載発明の「刷出し支援システム」は、インキ供給量を制御する、即ち、印刷時の色を管理していることは明らかであるから、「印刷色管理装置」と言い換えることができる。

以上の認定によれば、本願発明と引用文献記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。
《一致点》
蓄積した色管理データに基づいて、印刷機のインキの量を制御し、前記印刷物の色を管理する印刷色管理装置において、
前記色管理データを、前記印刷物の印刷条件毎に蓄積する色管理データ格納部と、
前記印刷物の印刷条件を入力する印刷条件データ入力部と、
前記色管理データ格納部に蓄積された前記色管理データと、前記印刷条件データ入力部から入力された印刷条件とに基づいて、前記印刷機が該印刷物を印刷するときに目標値とする色管理データを設定する色管理データ設定部と、
前記印刷機によって印刷された印刷物の前記色管理データを測定する色管理データ測定部と、
前記色管理データ測定部によって測定された色管理データが、前記目標値とする色管理データと一致するように前記印刷機を制御する制御量を演算し、演算した制御量に基づいて前記印刷機を制御する印刷機制御部と、
を備える印刷色管理装置。
《相違点1》
蓄積する色管理データが、本件補正発明では、「OKシートと判断された印刷物を対象にして色管理データ測定部が測定した濃度値および測色値からなる色管理データを、用紙種類、インキの種類、前記印刷物における絵柄面積率、および前記印刷物の印刷品目を含む印刷条件毎に蓄積した色管理データ」であるのに対して、引用文献記載発明では、基準となる印刷物の絵柄面積率と色彩値とインキ供給量である点。
《相違点2》
本件補正発明では、色管理データ格納部に「インキの量の微調整が完了したOKシートの色管理データを蓄積する」のに対して、引用文献記載発明では、微調整が完了したOKシートの色管理データを蓄積するか否か、定かでない点。

4.判断
(1)相違点1について
本願図面の図2には、色管理データ格納部に蓄積される色管理データの一例として、色管理データと印刷条件とを対応させた「データテーブル」が記載されており、具体的に、色管理データとして「濃度値、測色値」が、印刷条件として「用紙種類、インキの種類、絵柄面積率、印刷品目」が例示されている。
即ち、本件補正により付加された、上記相違点1に係る「濃度値、測色値」及び「用紙種類、インキの種類、絵柄面積率、印刷品目」は、本願図面の図2のようなデータテーブルの形態で、色管理データとして蓄積されているものである。
他方、引用文献記載発明は、絵柄面積率と色彩値(測色値)とインキ量とを関係付けて(例えば、データテーブルの形態で)データベースに記憶するものであるから、結局、相違点1は、印刷条件、色管理データの具体的な項目が相違していることに帰結する。

そこで、まず印刷条件について、検討する。
引用文献記載発明は、印刷条件として、絵柄面積率に加え、インキの種類も含むものであり(上記シ参照)、又、例えば、特開2002-301807号公報(段落【0012】、図2参照)等に記載されるように、印刷条件として、インキ種、紙質等は、当該技術分野における周知の技術事項であるから、印刷条件に、絵柄面積率だけでなく、インキの種類、紙質も含むようにすることに何ら困難性は認められない。
さらに、印刷品目(商品名)について言えば、雑誌毎に、用紙の種類、インキの種類等が決められて印刷されていることは自明であり、雑誌名(商品名)によっても印刷条件等が特定できることは、当該技術分野における技術常識であるから、印刷品目を印刷条件に含むようにすることに、格別の困難性は認められない。

次に、(色管理測定部が測定する)色管理データについて、検討する。
上記3.(5)に記載したとおり、引用文献記載発明の「色彩値を測定する手段」は、「色彩値(測色値)」だけでなく「濃度値」も算出(測定)しており、又、該算出結果は、表示部に表示可能である(上記キ参照)ことを勘案すると、これら算出結果は、引用文献記載発明の「色調管理装置」(パーソナルコンピュータ)のバッファ等に記憶されることは明らかである。
即ち、引用文献記載発明は、色彩値を測定する手段により測定した「色彩値、濃度値」を数値データとして記憶しているものと解される。
そして、「色彩値、濃度値」を数値データとして記憶している以上、該データを、データベースに包含させることは、当業者にとって、格別困難なこととも認められない。

以上のとおり、上記例示した印刷条件の具体的項目は何れも、格別の困難性なく選択可能なものであり、又、測定手段が測定する「色管理データ」についても上記のとおりであるから、それら項目を互いに関係付けて、データテーブルとして蓄積することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

(2)相違点2について
引用文献記載発明は、刷出し後も、定期的に色彩値を測定するもの(上記サ参照)であり、この定期的な測定は、インキ量が適正量に補正された後も、換言すれば、微調整が完了したOKシートについても、実行されることは明らかであるところ、その測定結果を、データベースに蓄積するか否か、引用文献には記載がない。
しかしながら、目標とする色調が得られたら、その色と光学的濃度を、基準値として記憶手段(データベース)に記憶させることは、例えば、特開2002-225231号公報(段落【0049】参照)、特開2001-47605号公報(段落【0030】?【0031】参照)等に記載されるように、当該技術分野における周知の技術事項であるから、引用文献記載発明においても、微調整が完了したOKシートの測定結果を、データベースに蓄積するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。
したがって、本件補正発明は、引用文献記載発明、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年1月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「印刷物の特性を特徴付ける色管理データに基づいて、印刷機のインキの量を制御し、前記印刷物の色を管理する印刷色管理装置において、
前記色管理データを、前記印刷物の印刷条件毎に蓄積する色管理データ格納手段と、
前記印刷物の印刷条件を入力する印刷条件データ入力部と、
前記色管理データ格納手段に蓄積された前記色管理データと、前記印刷条件データ入力部から入力された印刷条件とに基づいて、前記印刷機が該印刷物を印刷するときに目標値とする色管理データを設定する色管理データ設定手段と、
前記印刷機によって印刷された印刷物の前記色管理データを測定する色管理データ測定手段と、
前記色管理データ測定手段によって測定された色管理データが、前記目標値とする色管理データと一致するように前記印刷機を制御する制御量を演算し、演算した制御量に基づいて前記印刷機を制御する印刷機制御手段とを備え、
前記色管理データ格納手段は、前記インキの量の微調整が完了したOKシートの色管理データを蓄積する印刷色管理装置。」

2.引用刊行物及びその記載事項と発明
原審における拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項と発明は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」において検討した、色管理データ格納部に蓄積される「色管理データ」に係る限定事項(相違点1に係る特定事項)を省いたものである。
そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、更に、他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 4.」に記載したとおり、引用文献記載発明、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-12 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-05-31 
出願番号 特願2002-365334(P2002-365334)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41F)
P 1 8・ 121- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 藏田 敦之
鈴木 秀幹
発明の名称 印刷色管理方法、印刷色管理装置およびそれを適用した印刷機  
代理人 河井 将次  
代理人 山下 元  
代理人 白根 俊郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 橋本 良郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 峰 隆司  
代理人 村松 貞男  
代理人 風間 鉄也  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 竹内 将訓  
代理人 野河 信久  
代理人 中村 誠  
代理人 砂川 克  
代理人 佐藤 立志  
代理人 市原 卓三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 勝村 紘  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  

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